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1 統治原理をめぐる選挙 初のアフリカ系 ... - 日本国際問題研究所

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統治原理をめぐる選挙

初のアフリカ系アメリカ人の大統領が選出され、全米が「チェンジ」というスローガン に沸いた

2008

年の大統領選挙と比較すると、2012年の選挙は徹底的に盛り上がりに欠ける というのが、選挙戦が実質的に始まった

2011年暮れあたりの時点での評価だった。当然、

再選を目指すバラク・オバマ大統領は2008年の新鮮さを欠き、共和党候補として選出され たミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事は、大統領候補としてどこかぎこちなく、

いまひとつ人々の気持ちをつかめずにいた。さらに2008年にオバマ候補が掲げた「チェン ジ」の約束は実現されていないという感覚が蔓延し、事実、経済も若干回復基調に乗って はいたものの、8%前後の失業率はオバマ大統領から輝きを奪い去っていた。一方で、2010 年の中間選挙ではティーパーティー旋風が吹き荒れ、共和党は「オバマ的なるもの」に対 して強烈な「ノー」のメッセージを突きつけたものの、2012年にはむしろその「過剰さ」

が認識され、ティーパーティー運動が共和党を全体として活気づけているのか、それとも ある偏狭な地点に拘束してしまっているのか、どちらかと言えば後者ではないかとの見方 が優勢になっていた。こうして、2012年大統領選挙は盛り上がりに欠ける、何かを選択す るというよりかは、何かを退けるタイプの選挙になるかと思われた。

しかし、9月に入って本選挙が始まる頃になると、たしかに「政治的祭典」としての盛り 上がりに欠けはするものの、2012年の選択はまったく異なった

2

つの「世界観

(worldview)

」 の間の選択であり、場合によっては2008年の選択よりも重要な意味をもつ選択になるので はないかとの予感が浸透していった。もちろん、大統領選挙が行なわれるたびに、その年 の選挙が歴史的な意味をもつとやや大げさに両陣営によって強調されるのは繰り返しみら れる現象であり、今回の選挙でもそのような傾向がまったくなかったわけではない。また メディアも、選挙を巨大なメディア・イベントとして、その対立と接戦ぶりを煽るのもお 決まりの構図である。しかし、選挙が近づき、人々が選択の意味についてより真剣に考え るようになるにつれ、今回の選挙の歴史的性格がおぼろげながら輪郭をみせるようになっ ていった。人々がそれを予感していたひとつの兆候として、10月

3日に行なわれた第 1

回目 の討論会の視聴者数が7000万にも達し、これはあれだけ盛り上がりをみせた

2008

年の最初 の討論会を

1800万近くも上回っていた。それが平日の晩に放送されたため視聴者数が上が

ったであるとか、人々がだれに投票するか決められずにいたとかの注釈をつけることは可

(2)

能だが、それでもあれだけ注目された2008年をはるかに上回ったことは大きな驚きであっ た(1)

後知恵との指摘は免れないだろうが、振り返ってみるとたしかに2008年の大統領選挙の

「歴史的な性格」については、若干留保付きで考えなければいけないかもしれない。2008年 にアメリカが歴史的な選択をしたことは間違いないだろう。なんと言っても、初のアフリ カ系アメリカ人の大統領が誕生したことの意味は大きい。2008年は、アメリカ史の年表に、

アメリカの子供たちが必ず覚えなければならない年として刻まれたのは疑いない。しかし、

あれから4年以上が経ち、冷静になってみると、2008年の選挙の背景には、大きな「コンセ ンサス(合意)」があったような気がしてならない。それは「ブッシュ政権の8年間を乗り越 える」というコンセンサスだ。その意味で言うと、「チェンジ」というスローガンそれ自体 はオバマ陣営のものだったが、実は共和党のジョン・マケイン候補も「チェンジ候補

(change candidate)」だったということが言えるのではないか(2)。つまり、アメリカは「人種」

という次元ではたしかに大きな選択をしたが、それが選挙の勝敗のうえで決定的なファク ターだったという証拠はなく、むしろ感覚的には両党とも共通の基盤の上に立ち、「オバマ」

か「マケイン」かという選択はどちらが「『チェンジ』の担い手」としてよりふさわしいか という、「キャラクター」の次元の選択をしたのではないか(3)

これと比較すると2012年の選挙は、国の「統治原理(governing principle)」そのものをめぐ る選択ではなかったか。そのことを漠然と予感したアメリカ国民は、そのような意識をも ってこの選挙に臨んだのではないか。そうだとすると、この選挙の結果がアメリカにとっ てどのような「意味」をもつかを的確に把握することの重要性が浮かび上がってくる。と もすると2012年の大統領選挙の結果は現職のオバマ大統領が再選したため、「継続」、「大き な変化はなし」という文脈で捉えられがちである。たしかに具体的な政策レベルでは、そ のようなことが言えるかもしれない。また個別の投票グループの投票行動からこの選挙の 結果を説明することもできよう。とりわけ今後ますます影響力を増大させていくであろう ヒスパニック票の動向、そしてそれが大きく民主党のほうに傾斜したことの含意はきわめ て大きい(4)。しかし、中長期的視点に立つならば、この選挙によってアメリカ政治が統治原 理のレベルでどのような変容を遂げたのかを見定めることも重要である。2012年の選挙は、

後から振り返って、「あの時が政治的分水嶺だったのか」という評価が成立しうる可能性の ある選挙である。本稿はそのような前提に立ち、2012年大統領選挙の「意味」について考 えてみる。

2

はたして「再編(realignment)」はあったのか

選挙の直前、ジェームス・

W・シーザー

(バージニア大教授、フーバー研究所シニア・フェ ロー)は、保守系のオピニオン誌『ウィークリー・スタンダード』において、2012年の選挙 の結果について

4

つのシナリオを提示している(5)。まずはオバマが、ロムニーに3%近くの 差をつけて勝ち、民主党が下院で12議席以上を奪い返し、上院では数議席を失いつつも、

多数派を維持する「証明(vindication)」というシナリオだ。経済状況がきわめて厳しい最中

(3)

で行なわれた選挙であったことを考えると、これは現職であるオバマ大統領の圧勝にかぎ りなく近いケースであり、オバマ政権が4年かけて手がけたことが正しかったことが「証明 される」という構図だ。次に、オバマがロムニーに辛うじて勝ち(選挙人獲得数では勝るも、

一般投票では負けるなどのケース)、民主党が下院では数議席しか獲得できず、上院では多数 派を失うという「辛勝(hanging on)」というケースだ。この

2

つのケースはオバマ再選のシ ナリオである。3番目に、ロムニーが

2%

程度の差をつけてオバマに勝ち、下院では民主党 の攻勢を

10

議席以下に抑え、上院では過半数をわずかに下回るという構図で、これをシー ザーは「反転(reversal)」と呼んでいる。そして最後に、ロムニーが3%以上の差をつけて勝 利、下院では共和党が議席数をほぼ減らさず多数派を維持し、上院でも辛うじてではある が多数派になる「大変革(game change)」という構図を示している。「辛勝」と「反転」の場 合は、世界観レベルの変化が作用したという解釈は成立しないだろう。厳しい経済状況の なか、どちらがより効果的に支持基盤を動員することができたかという「選挙テクニック」

の次元で説明可能な勝利ということになる。しかし、「大変革」になると、オバマ的な「世 界観」の頓挫という評価を下すことができるかもしれない。つまり、「証明」と「大変革」

というシナリオの場合は、「意味」の次元で大きな変動が起きたことを示唆するというのが シーザーの議論だ。

シーザーは、この

4

つのシナリオを選挙の

1

週間ほど前に提示したが、そのとき、彼は

「大変革」を最も実現する可能性の高いシナリオとして挙げていた。しかし、現実に起きた ことは周知のとおり「証明」に近い結果だった。ここでは彼の予測がはずれたことに焦点 を当てるのではなく、彼がそれぞれのシナリオに付与している「意味」に注目してみたい。

選挙の「意味」は、得票数や支持率に基づいて数量的に定義できるものではなく(数量化で きるのは「結果」である)、政治的に構成された「物語」として捉える必要がある。その「物 語」は、これまでの道のり、行なった選択の意味、これからの道筋を国民に対して説得力 をもって提示するものでなければならない。言うまでもなく、すべての選挙がこのような

「物語」を生み出すとは限らないだろう。レーガン大統領が再選を果たした1984年の大統領 選挙は、その後の保守主義の躍進を決定づけたという点においてかなりはっきりとした物 語を生み出したが、ゴア副大統領とジョージ・

W

・ブッシュ = テキサス州知事が競った

2000年の大統領選挙はその「結果」を説明することはできても、大きな物語をみつけるこ

とはできない。また、そのときは「物語」が成立したと感じられても振り返ってみると、

どうもそうではなかったということもある。「恒久的共和党多数派体制(permanent Republican

majority)

」が確立したと評された

2004年の大統領選挙などはその典型例だろう。

では、2012年の選挙はどうだったか。2012年の選挙は、オバマ的な統治原理とレーガン 以来、常に優位にあった保守的な統治原理が、2010年の中間選挙の「意味」をめぐってぶ つかり合った選挙だったと言える。2010年の中間選挙は、冒頭でも述べたとおり、共和党 が若干強引ではあったが、ティーパーティー的な世界観の下で大同団結し、オバマ的な統 治原理を全否定し、大勝利をおさめた選挙だった。では、2010年に退けられたかのように みえたオバマ的な統治原理とは何だったのか。2009年

3月、オバマ大統領の歴史的勝利から

(4)

4ヵ月後に「アメリカ進歩センター

(Center for American Progress)」が『アメリカにおける政治 的イデオロギー状況の現在―

2009年:政治的価値と信念に関する研究』という報告書を

発表している(6)。アメリカ進歩センターは、保守系のアドボカシータンク〔研究そのものよ りも政治的効果を狙った活動に重点をおくシンクタンク〕として名高い「ヘリテージ財団

(Heritage Foundation)」に倣って

2003年に設立された民主党版のアドボカシータンクである

(7)

『政治的イデオロギー状況の現在』報告書は、アメリカのイデオロギー的地平に関し、

1980

年代のレーガン時代以降、およそ

30

年にわたって続いてきた「保守の時代」が終焉を 迎え、新たに「プログレッシブの時代」に移行しつつあると結論づけている。いわばオバ マ政権の誕生は、そのような現象の表象にすぎず、オバマの勝利以上に重要な構造的な変 化が底流で起きている、というのが同報告書の認識だった。それは、「徹底した小さな政府」、

「規制緩和」、「減税」、「伝統的な価値」、「強いアメリカ」という言葉で構成される保守的な 統治原理の否定であり、クリントン元大統領が2012年夏の民主党全国大会における演説で、

共和党の考え方としてカリカチュア化した「自分のことは自分で対処しろ〔という発想〕

(you’re-on-your-own philosophy)」と対置された「みんなでどうにか乗り切っていこう〔という 発想〕(we’re-all-in-this-together philosophy)」をアメリカが選択したということだった。それは、

政府の役割を積極的に認めていこうという考え方であり、そのための負担(増税)も受け入 れ、変わっていくアメリカ(新しい人種構成、ジェンダーの多様化、価値観の多元化)に向き 合っていこうという態度だった。その論理的延長にあるのが、7870億ドルの景気刺激対策、

「オバマケア(医療保険制度改革)」や同性婚支持、そして(富裕層に限ったものではあったに せよ)増税の必要性を訴えたことなどであった。当然、オバマ政権2期目の課題になるであ ろう、不法移民対策や銃規制もこのような考え方の延長線上に位置づけられる取り組みに なるだろう。

2012年の大統領選挙において若干変則的だったのは、外交安全保障問題に関して民主党

が劣勢に立っていなかったことである。1968年と

1972

年の大統領選挙において民主党がベ トナム戦争の評価をめぐって反戦の方向に舵を切って以来、同党は外交安全保障問題に関 しては、「及び腰の党」というイメージが定着してしまっていた。しかし、オバマ政権は民 主党が苦手としていた軍とも良好な関係を構築し、また「対テロ戦争」についても、その 表現そのものは退けつつも、実質的に「対テロ戦争」としか呼びようのない作戦を特殊部 隊や無人航空機を用いてジョージ・W・ブッシュ前政権以上に積極的に展開していたため、

共和党はオバマ政権の対外政策に切り込む糸口を最後までつかめなかった。基本的には対 話を志向するオバマ外交を「(アメリカの弱さを前提とした)譲歩外交」と批判しつつも、具 体的な政策レベルでは明確な対立軸を最後まで構成できなかった。そのため、外交安全保 障は今回の選挙ではほぼ争点にはならず、国内的な統治原理をめぐる選択になったことが 今回の選挙のひとつの特徴だった。

こうした状況のなか、両党は2008年に続いて強い風が吹いた

2010

年の中間選挙をそれぞ れどのように位置づけようとしたのだろうか。民主党のほうは、2006年の中間選挙と

2008

年の大統領選挙における勝利は、たしかにジョージ・W・ブッシュ政権の「失政」に対す

(5)

る反動という要素が強く作用したにせよ、ブッシュ政権が直面した数々の問題はブッシュ 政権に固有のものではなく、米保守主義が掲げた原理の論理的帰結とみなし、2つの勝利を より構造的なものとして捉えた。状況をこのように認識すると、2010年の敗北は一時的な 後退ということになる。ティーパーティー運動は、オバマがプログレッシビズムの方向に 大きく舵を切ったことに対するいわば条件反射的な抵抗であって、その抵抗に持続性はな いというのが民主党の見方であった。これに対し、共和党のほうは、2010年をアメリカの

「ハートランド」からの根源的な抵抗であり、本来的な地点に回帰しようとする強力な抵抗 運動が作用した結果とみなした。たしかにティーパーティー運動はケオティック(無秩序)

であったかもしれないが、共和党はその動きに振り回されつつも、その根源性を疑うこと はなかった。ティーパーティー運動は、単なる衝動に動機づけられた突発的な抵抗運動で はなく、アメリカ史の底流に流れる「中央集権的なるものを忌避する感覚」が具現化した ものであり、そのような認識に立てば、2008年のほうこそが逸脱であり、2010年にアメリ カは本来進むべき道に回帰したという認識である(8)

今回の選挙において、多くの共和党系の論客たちが、数多くのデータがオバマの再選を 示唆していたにもかかわらず、最後までロムニーが勝利すると主張し続けたのは、単に政 治的な意図があっての発言ではなく、このような認識に支えられた信念があったからでは ないか。典型的な認知的不協和の事例である。カール・ローブ〔ブッシュ前大統領の側近〕

やディック・モリス〔ビル・クリントンの選挙参謀だったが民主党に厳しい政治評論家〕はまだ しも、いつもは慎重なジョージ・F・ウィル〔『ワシントン・ポスト』紙の保守系コラムニスト〕

までもが選挙直前まで選挙人獲得数で321対217のロムニーの勝利を予測していた。マイケ ル・バロン〔保守系政治アナリスト〕も

315対 223という数字をはじきだしていた

(9)。結果が

332対 206でオバマの勝利であったことを思えば、政治アナリストとしては信用失墜という

ところだろうが、それほど自分たちの物語を強く信じていたのだろう。選挙当日のフォク スニュースの選挙特番で戸惑うローブの姿はみていて気の毒なほどだった。

本節冒頭で言及した4つのシナリオに話を戻すと、もし仮に選挙の結果が「証明」だとす ると、この2つの物語の対決に完全に決着がつくばかりでなく、アメリカにおいて政治その ものの認識を変えてしまうような大きな変化(intellectual transformation)が起きる可能性をシ ーザーは指摘していた。しかし、シーザーも他の多くの保守派の論客同様、「大変革」の可 能性を信じていたことはすでに指摘したとおりである。「大変革」のもとでは、アメリカの 新しい一章はオバマ政権の誕生とともに始まったのではなく、2010年に始まったという解 釈が成立することになる。しかし、現実には、「証明」が実際に起きたことと最も近かった。

若手の保守派論客の旗手であるラメッシュ・ポヌールー〔保守系オピニオン誌『ナショナル・

レビュー』のシニア・エディター〕は、多くの保守派が陥っていた認知的不協和の状態からい ち早く抜け出し、選挙が終わって即座に、例外的だったのは2008年ではなく、2010年のほ うであるという現実を保守派は直視しなければならない、と忠告した(10)

今回の選挙が、このように「大きな選挙」であると

9

月の時点で主張していたのが、「政 治的保守主義者(political conservative)」を自称する在米英国人の論客、アンドリュー・サリ

(6)

ヴァンだ。サリヴァンは、「米保守主義運動」が「保守主義」から逸脱しつつあることに警 告を発し続けてきた論客だ(11)。サリヴァンは

2008年の大統領選挙においてもオバマを支持

したが、もしオバマが再選を果たせば、オバマは民主党のレーガンになる可能性があると 指摘していた(12)。それは、レーガンという政治家個人が保守革命の先陣を切ったという意 味においてではなく、彼が保守主義の躍進を可能にした政治的地平を切り開いた「触媒

(enabler)」であったという意味においてである。オバマが新しいプログレッシビズムとの関 係で、同じような役割を担うというのがサリヴァンの主張だった。

もちろん誰もがサリヴァンのように、この選挙が「大きな物語」を生み出したと考えて いるわけではない。保守派の論客の多くは、この選挙が「現状維持選挙(status quo election)」 であったと評価している。つまり、ホワイトハウスにおいても、上院においても、下院に おいても、権力の移行がなかったという現実の動きに即した評価である。ウィルは、選挙 直後に自らのコラムにおいて、政治に最終決着はないと強調しつつ、「新しい物語」の到来 をはっきりと拒絶している(13)。民主党系のブルッキングス研究所の、ウィリアム・A・ガル ストン〔クリントン政権における内政担当のシニア・アドバイザー〕も、この選挙が新しい

「プログレッシブ・コンセンサス」を生み出したという言説に対しては懐疑的だ。ガルスト ンは、オバマ陣営の緻密に計算された選挙戦略を高く評価しつつも、むしろそれは分極化 をさらに加速させ、共和党のなかで保守派が依然として「スーパー・マジョリティー」で あることを踏まえれば、共和党が即座に変わることは期待できず、二極分化という政治構 造が今後もしばらくは続くだろうというやや悲観的な評価である。ガルストンは、民主党 が今回の勝利の意味を過剰に読み込まないほうが賢明だとあえて忠告している(14)

サリヴァンは、オバマの勝利が右に急旋回する共和党を穏健な保守党の方向に否応なし に引き戻す効果を有し、それが最終的には共和党にとってもいいことだとさえ述べている。

レーガン・レガシーが1970年代に左旋回した民主党をやがて穏健な進歩主義の党に変容さ せたように、オバマ・レガシーが共和党に対して同じような効果をもたらすだろうという 評価だ。しかし、民主党が変わるために要した時間を考えるならば、共和党がすぐに変わ ることを期待するのはやはり楽観的にすぎるかもしれない。事実、このサリヴァンの主張 に賛同する保守派は決して多くはないが、ポヌールーのような若手の保守派の論客のなか から共和党再建に向けた興味深い議論が出てきているのは、特筆すべきだろう。次にこの 動きをみていきたい。

3

共和党再建に向けた動き

これまで保守主義運動の台頭を支えてきた活動家や論客たちは、その台頭の道のりを

「ロング・マーチ」としてしばしば語ってきた。それは、次のようなかたちで展開する―

「1950年代にウィリアム・バックリー・ジュニア〔『ナショナル・レビュー』誌を創刊した保守 派の論客〕が荒野で叫び、バリー・ゴールドウォーター〔1964年の大統領選挙でジョンソン大 統領に大敗北を喫した保守派の共和党大統領候補〕が道筋を示し、レーガンが約束の地に運動 を導いていった」(15)。「1964年の選挙の結果は16年後の

1980

年〔レーガンが当選した年〕に結

(7)

実した」というのは、ウィルお気に入りの決め台詞である。今回の選挙の結果を受けて、

実は一部の民主党の論客たちも似たようなことを言い始めている。それは2012年の結果を、

1972

年のマクガヴァン・キャンペーンが想定した連合が結実した帰結とみなす視点である。

40年もの開きがある 2つの現象の間に連続性を見出すのは若干飛躍しすぎとの印象も否めな

いが、その中核には先に新しいプログレッシビズムを構成する要素として指摘した、政府 の役割を積極的に認めていこうという態度、そのための負担(増税)も受け入れ、変わって いくアメリカ(新しい人種構成、ジェンダーの多様化、価値観の多元化)に向き合っていこう という姿勢が共通して認められることもまた事実である。また、クリントン夫妻をはじめ として、今日、民主党を支える多くの人たちの政治的原体験がマクガヴァン・キャンペー ンであったことを思えば、この「民主党版ロング・マーチ」をあながち「つくり話」とし て一蹴してしまうことはできないかもしれない。とかく民主党は、雑多な単一争点グルー プの集合体として語られることが多く、とにかく一貫したベクトルを欠いた政党とみなさ れがちだったが、いつのまにか世界観の次元では多くを共有する党に変容しつつあるとの 見方もある(16)

対する共和党は、中絶や同性婚などのソーシャル・イシューに徹底的にこだわる宗教右 派、徹底して政府の極小化を求めるリバタリアン派(ティーパーティー運動はここに定置でき るだろう)、あくまで強いアメリカにこだわるネオコン(ネオコンサーバティブ)派など、い つのまにか大きな物語を共有する政党というよりかは、単一争点に拘束される政党に変容 しつつある。このことが顕著に現われたのが、各候補が右旋回を競い合った共和党予備選 挙だった。昨年の予備選挙は、とにかくいまの共和党にはチェックリストの項目が多すぎ るということを浮き彫りにしたプロセスだった。

仮に前節で考察した世界観レベルでの変容が実際に起きていて、さらに共和党自体が政 党としての一体性を失いつつあるとすると、共和党はかなり深刻な状況に直面していると いうことになる。予備選挙で保守派に振り回され、本選挙で十分中道旋回できずに敗退す るという構図は、大統領選挙のみならず、議会選挙レベルでも多発したのが今回の選挙の 特徴だ。選挙直後の言説は、勝敗に過剰反応している傾向が強いので、距離感をもって分 析しなければならないが、一方で日常的な政治的言説空間にはおさまりきらないような率 直な発言があることも事実である。こうした言説のなかでとりわけ興味を引くのはレーガ ン時代を必ずしも直接体験していない新しい世代の保守派の論客たちの発言である。新世 代の保守派が状況をいかに深刻に捉えているかを際立たせるためにも、まずは典型的な保 守派の反応をみてみよう。

これまで運動を支えてきた活動家や論客たちの発言は、いくつかの類型に分けることが できる。ムーブメント・コンサーバティブ〔妥協を一切忌避するグラスルーツの保守派の活動 家の意〕やティーパーティー系の活動家たちの多くは、ロムニーが真性の保守派ではなかっ たことを共和党の敗北の原因として総括している。彼らは、負けたのは共和党であって、

保守主義運動ではないという認識を共有している。ゆえに共和党が復活するには、ぶれる ことなく保守主義を貫くべきだというのが彼らの立場だ(17)。ティーパーティー系の上院議

(8)

員として第112議会(2011年

1

月―2013年1月)を騒がせたジム・デミントを新たに所長とし て迎えたヘリテージ財団はこの立場に立っていると言えよう。前所長のエデウィン・

J

・フ ルナーは、オバマはいかなるマンデートも勝ちとっておらず、保守主義運動は「第一原理

(first principles)」から一切離れるべきではないと主張している(18)。これはやや極端な見解の ようにも思われようが、活動家のなかでは意外とこの立場をとる人が多い。

次にロムニー候補自身も含めて、ロムニー・キャンペーンに敗北の原因を求める立場が あろう。本選挙が本格化する前に、ロムニーを「庶民感覚とは隔絶したハゲタカ」という イメージで塗りたくったオバマ・キャンペーンの先制攻撃にほぼまったく反撃せず、それ を補強してしまうような失言を繰り返したロムニーに敗因を求めるのは、いわば今回の敗 北をタクティカルなミスの連続とみなす立場である。この立場は、「もっといい候補さえい れば」という解決策を提示することになるだろう。しかし、敗因として最も説得力があり、

事実、多くの共和党の指導者たちによって言及されるのは、共和党がアメリカにおける人 口動態の変化に対応できなかったという説明である。ヒスパニック票が今回の選挙ではじ めて全体の

10%に達し、その 7割強がオバマを支持したことは間違いなくロムニーが敗退し

た主要な原因である(19)。しかし、その多くはこのような変化を党にとって深刻な問題として 引き受けつつも、不法移民対策について単に強制退去というような方法で対処するのでは なく、より包括的な解決策を提示しさえすれば(それさえも共和党の基本姿勢からすると容易 ではないが)、乗り越えられる問題として定置されている。これは、ヒスパニック系の多く がカソリックであり、文化的には保守的な価値観を内面化しており、マイノリティーでは あっても共和党と親和性が高いという認識に依拠している。

これがおおよその類型だ。共和党は依然として下院で多数派を維持し、州レベルでも共 和党知事、共和党多数派州議会の数で優位に立っているため、今回の敗北に意気消沈する 必要はなく、復活の基盤は十分に整っているという楽観主義さえうかがえる。現に、『ワシ ントン・ポスト』紙の保守系コラムニスト、チャールズ・クラウトハマーは、共和党が直 面している問題は「タクティカル」なものであって、「フィロソフィカル」なものでは決し てない(ゆえに大きな軌道修正は必要ない)と言い切っている(20)

しかし、繰り返しになるが、仮に前節で考察した世界観レベルでの変容が実際に起きて いて、さらに共和党自体が政党としての一体性を失いつつあるとすると、これらの解決策 は根本的な方向性を見誤っていると言えるのではないか。若手の保守派の論客であるロ ス・ダウサット〔『ニューヨーク・タイムズ』の保守系コラムニスト〕は、選挙翌日のブログエ ントリでロムニーの候補としての弱さを指摘しつつも、ロムニーが敗北したのは最終的に はロムニー自身のせいではなく、新しく出現しつつあるアメリカに対応することを共和党 が拒み続け、あたかも1980年と

1984

年のメッセージが有効であると振る舞い続けたことに 原因があったと述べている。彼は、「オバマ再編(Obama Realignment)」という件名がつけら れたこのブログエントリを、「〔オバマの再選をもって〕レーガンの時代は公式に終わった。

いまあるのはオバマ・マジョリティーという多数派のみである」と締めくくっている(21)。先 に言及したポヌールーも、問題はロムニーではなくて、党のほうであったと指摘し、今回

(9)

有権者は

2

つの統治原理を示され、明らかにオバマの統治原理を選択したと評価している。

ポヌールーは、イデオロギー的にはアメリカは肥大化した政府には依然として不信感を抱 き、信仰心を尊重し、家族的な価値観を重視する「中道右派の国家(center-right country)」で あり続けるだろうとしつつも、現在、アメリカが直面する問題に対する具体的な解決策を もった中道右派政党は不在だと結論づけている。ダウサットは1979年生まれ、ポヌールー は1974年生まれで、2人はともにレーガン時代を政治的にはリアルタイムで体験していない 世代である。この2人の発言が示唆しているのは、共和党は自らの成功体験から抜け出て、

新しく出現しつつあるアメリカに適合的な保守主義のメッセージを構築しなければ、かな り険しい道のりが続くだろうということである。共和党は、活力の源泉としての「小さな 政府」、「規制緩和」、「市場経済」、「競争原理」というメッセージを重視しすぎたあまり、

年々厳しい状況に直面する中産階級にその声が届かず、富裕層を優遇する党というイメー ジに自らを追い込んでいってしまったと言える。

選挙後の共和党内の議論で気になるのは、党内穏健派があまり会話に参加していないこ とである。おそらくフォードの時代以降、穏健派が党の活動の責任を任されたことはなく、

また近年は党そのものがかなり右傾化したことによって、穏健派は党内で居場所を失って しまった。穏健派は定義上、運動論を構築しにくいが、民主党再建のプロセスがいわば民 主党内において党内穏健派の影響力が増大していったプロセスと重なるように、共和党が 二大政党制の一翼を担う活力ある政党として復活していくためには、党内穏健派が共和党 再建に向けた動きのなかで積極的な役割を担っていく必要があるだろう。

4

今後の展望

オバマ政権2期目が発足したばかりだが、気の早いメディアはすでに

2016年を視野に入れ

ている(22)。民主党のほうは、仮にヒラリー・クリントンが手を挙げれば、瞬時にして筆頭候 補になるだろう。クリントンは、その知名度、人的ネットワーク、資金力のどれをとって も申し分なく、ぎりぎりまで決断を引き延ばすことができる。いずれにせよ民主党の候補 は基本的にオバマ大統領が切り開いた政治的地平を視野におさめ、選挙活動を展開するこ とになろう。他方、共和党は完全な混戦模様が予想される。現時点で名前が挙がっている ありうべき候補としては、穏健な保守派からティーパーティー運動に近い人物、さらに宗 教右派の支持をとりつけられそうな人物など、党としての方向性がまったくみえてこない のが現状だ。現時点ではそれもやむをえないだろう。

2014年に行なわれる中間選挙では、今回の敗北で逆に勢いづいた保守派がそれなりの攻

勢をしかけるかもしれない。

2

期目の中間選挙は当然大統領の党にとって厳しい戦いとなる。

もし、共和党が、保守派が主導権を握るかたちで善戦するとなると、共和党にとっては厄 介なことになる。というのも2008年と2012年は「真性保守」ではない候補(マケイン、ロム ニー)で選挙に臨んだ結果敗退し、2010年と

2014年は「真性保守」の立場を掲げて戦って

勝ったという構図になるからだ。そうすると

2016年も、共和党予備選挙において、大統領

のポストを視野におさめる候補たちが右旋回を競い合うような状況が再現してしまうかも

(10)

しれない。共和党の保守派は長い年月をかけて権力のインフラを構築してきた。本稿でも 複数回言及したヘリテージ財団はその典型である。それは依然として共和党内では強力な 影響力を保持し続けている。そのインフラは共和党が権力の階段を昇っていくにあたって、

不可欠な役割を果たし続けてきた。しかし、いまやその同じインフラが、共和党が変わろ うとすることを妨げているという一面がある。仮に

2016年に共和党が変われないとすると、

共和党が再生するには2020年まで待たなければならないことになる。「恒久的民主党多数派 体制」などという言葉を安易に用いるべきではないが、その間、民主党は「オバマ再編」

の基礎をさらに固めていくことになろう。

本稿は、2012年に生じた変化の幅を最大限に見積もったうえでの分析を行なった。現実 には、共和党はクリス・クリスティー = ニュージャージー州知事やジェブ・ブッシュ元フロ リダ州知事などをリーダーとして選出し、2016年に善戦するかもしれない。2人は十分に魅 力的な候補になりうる。しかし、本稿で提起した状況に対する解答をなんらかのかたちで 提示しない限り、問題を先送りすることになるだけであろう。共和党のソウル・サーチン グはまだ始まったばかりである。

1 Brian Stelter, “Presidential Debate Draws Over 70 Million Viewers,” New York Times, October 5, 2012, p.

A12.

2) 中山俊宏「世界が動く―2012年各国選挙展望(3)『歴史的転換点』におけるアメリカの選択」

『フォーサイト』ウェブマガジン(http://www.fsight.jp)、2012年14日掲載(http://www.fsight.jp/

11089)

3 Pew Research Center, “Inside Obama’s Sweeping Victory,” November 5, 2008(http://www.pewresearch.org/

2008/11/05/inside-obamas-sweeping-victory/ accessed on January 3, 2013).

4) 予想以上のスピードで変わっていくアメリカに民主党が対応している様子については、Ronald Brownstein, “Future Shock,” National Journal, November 10, 2012, pp. 32–36を参照。

5 James W. Ceaser, “The Day After: Four scenarios for the next four years,” Weekly Standard, November 5, 2012, pp. 29–32.

6 John Halpin and Karl Agne, State of American Political Ideology, 2009: A National Study of Political Values and Beliefs, Washington DC: Center for American Progress, 2009(http://www.americanprogress.org/wp-con- tent/uploads/issues/2009/03/pdf/political_ideology.pdf accessed on January 8, 2013).

7) アメリカ進歩センター設立の経緯については、Matt Bai, “Notion Building,” New York Times Magazine, October 12, 2003, pp. 82–87を参照。

8) ティーパーティー運動については、久保文明編『ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主 義の変容』(NTT出版、2012年)や中山俊宏「共和党とティーパーティー運動―米保守主義をめ ぐる新しい動向」『国際問題』599号(2011年3月)、17―24ページなどを参照。

9 Brad Plumer, “Pundit accountability: The official 2012 election prediction thread,” weblog entry, WONKBLOG

(Washington Post Blog), November 5, 2012(http://www.washingtonpost.com/blogs/wonkblog/wp/2012/11/05/

pundit-accountability-the-official-2012-election-prediction-thread/ accessed on January 12, 2013).

(10) Ramesh Ponnuru, “The Party’s Problem,” National Review, December 3, 2012, pp. 18–22.

(11) Andrew Sullivan, Conservative Soul: Fundamentalism, Freedom, and the Future of the Right, New York:

Harper Perennial, 2006.

(12) Andrew Sullivan, “Welcome Back to the White House, Mr. President,” Newsweek, October 8, 2012, p. 32.

(11)

(13) George F. Will, “The Status Quo Prevails,” Washington Post, November 8, 2012, p. A19が挙げられる。

(14) William A. Galston, “The 2012 Election: What Happened, What Changed, What it Means,” Washington DC:

Brookings Institution, 2013(http://www.brookings.edu/research/papers/2013/01/04-presidential-election-galston accessed on January 8, 2013).

(15) 中山俊宏「アメリカにおける保守主義再考―ジョージ・W・ブッシュ政権後の保守主義運動」 五十嵐武士・久保文明編『アメリカ現代政治の構図―イデオロギー対立とそのゆくえ』、東京大 学出版会、2009年、46―50ページ。

(16) Ruy Teixeira and John Halpin, “The Return of Obama Coalition,” Center for American Progress, November 8, 2002(http://www.americanprogress.org/issues/progressive-movement/news/2012/11/08/44348/the-return-of- the-obama-coalition/ accessed on January 12, 2013); John B. Judis, “Is this it? The Ecstasy and Agonies of a Permanent Democratic Majority,” New Republic, December 6, 2012, pp. 12-14.

(17) Richard A. Viguerie, “The Battle To Takeover The GOP Begins Today,” ConservativeHQ.com, November 7, 2012(http://www.conservativehq.com/article/10743-battle-takeover-gop-begins-today accessed on January 13, 2013); Matt Kibbe, “The tea party was not an Election Day loser,” Politico.com, November 14, 2012(http://

www.politico.com/news/stories/1112/83798.html accessed on January 13, 2013).

(18) Edwin Feulner, “President Obama Did Not Win Any Sort of Mandate,” Pennlive.com, November 9, 2012

(http://www.heritage.org/research/commentary/2012/11/president-obama-did-not-win-any-sort-of-mandate accessed on January 15, 2013).

(19) Mark Hugo Lopez and Paul Taylor, “Latino Voters in the 2012 Election,” Pew Research Hispanic Center, November 7, 2012(http://www.pewhispanic.org/2012/11/07/latino-voters-in-the-2012-election/ accessed on January 13, 2013).

(20) Charles Krauthammer, “A New Strategy for the GOP,” Washington Post, January 18, 2013, p. A21.

(21) Ross Douthat, “The Obama Realignment,” weblog entry, Campaign Stop(New York Times Blog), November 7, 2012(http://campaignstops.blogs.nytimes.com/2012/11/07/douthat-the-obama-realignment/ accessed on January 14, 2013).

(22) Jim Vandehei and Mike Allen, “Republicans, 2016: In full swing,” Politico.com, November 21, 2012(http://

www.politico.com/news/stories/1112/84110.html accessed on January 15, 2013).

なかやま・としひろ 青山学院大学教授 toshinak@mac.com

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