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11事件後の対テロ戦争による政権打倒を経て新国家建設が試みられ

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Academic year: 2024

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要旨

冷戦終焉後から

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世紀の初頭にかけて世界各地でまき起こった大規模な政治 変動によって広い意味での国家建設の波が急激に広がった。そこでは連邦解体や 分離独立による新国家の誕生や民主化や市場経済への体制移行による国造りもあ ったが、9・

11事件後の対テロ戦争による政権打倒を経て新国家建設が試みられ

たアフガニスタンや、イラクでは混乱が続いている。ロシアのウクライナ侵略の 呼び水も、親ロ地域での新「国家」の建設だった。国家建設は高度に政治的なプ ロセスだが、権力者の強欲や外部主体の恣意や国際テロ組織の浸透など絶え間な い試練によって真っ先にかき消されがちなのは民意であり、その人々の歴史や精 神や夢である。国家建設のなかに人々が主権者としての能力を発揮できるよう、

人づくりの強化を組み込むことが重要である。国造りにあたって、現地のオーナ ーシップを重視し、人づくりまで強調する支援は日本が最も得意な分野であり、

人々が実質的に参画できる機会を切り拓くことが望ましい。誰がために国家は建 設されるのか、その問いを忘れてはならない。

ジョン・レノンが作詞作曲した名曲『イマジン』では国境のない世界が描かれてい る。そのメッセージは明快で、私たちの世界が国家によって分割され、ひとたび戦争 ともなれば国家の名の下に人々が敵味方に分かれ、多くの尊い命が奪われる理不尽さ を悲嘆した平和活動家としての彼の魂の叫びになっている。だが、国家がなければ、

あるいは世界が一つの国家であったならば平和が保たれると考えるのはきわめてナイ ーブな期待だと言わざるをえない。なぜなら、国家とは機能的には行政の単位であっ て、たとえ国家という枠組みや名称をもたずとも、共同体(コミュニティー)に暮ら す住民たちに必要なサービスを提供するための仕組みは、規模の大小を問わず必要に 迫られ、形成されることになるからである。また、国家は国際秩序の構成主体として も重要な役割がある。グローバル化が進み、国際政治学者のスティーブン・クラスナ ーがいみじくもかつて「組織的な偽善」と呼んだように、国家が絶対視する主権には いま、至るところで綻びが生じている。だが、そうであればなおのこと、国家が国家 として機能していることは、国際秩序の安定要因の一つとして大きな意味をもつ。あ

国際問題 No. 706(2022年4月)

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◎ 巻 頭 エ ッ セ イ ◎

Hoshino Toshiya

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る国家において権力の移行や空白が生じ、「次なる国家」建設のあり方が、当該国の 当事者たちはもとより、国際社会全体の関心事項になる理由が、ここにある。

広い意味での「次なる国家」建設の波は、冷戦終焉後から21世紀の初頭にかけて 世界各地でまき起こった大規模な政治変動によって急激に広がった。そこには当然、

過去のくびきから解放された明るい動きもあったことは事実である。その一方、特定 の地域の国造りをめぐる混乱の反動から世界全体に不安定化のうねりをもたらしたケ ースもあった。過去

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年ほどに見られた国家建設にかかわるこれらの波を大きく3つ にくくってみるならば、新規独立によるもの、体制移行に伴うもの、そして主に対テ ロ戦争にかかわるものが際立っている。なお、以上に加えてもう一つ、新たな国家建 設を試みた近年の特異な動きとして、文字通り「イスラム国」と称する組織が現行の 国境を無視し、暴力的な過激主義によって領域支配を広げ、世界各地に「カリフ国 家」を打ち立てようとした企てを取り上げることもできるだろう。

第一の国家の新規独立に基づく国家建設は、冷戦終焉以後この方の国連加盟国数の 急増によく表れている。旧ソ連と旧ユーゴという連邦国家の解体によって新たに独立 した国々のケースもあれば、21世紀最初の加盟国となった東ティモールや直近で

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番目に加盟した南スーダンに見られるように、激しい紛争を潜り抜けて独立を手にし た人々の国造りのケースがこれである。

第二の体制移行に伴う新たな国家建設には、冷戦後、社会主義から市場経済に転換 した中東欧諸国の経験や、「アラブの春」と呼ばれ、2011年、チュニジアでのジャス ミン革命を皮切りに北アフリカから中東地域に至る多くの国々に波及した反体制運動 や政権打倒を受けての次なる体制造りの事例が含まれる。もっとも、リビアやイエメ ンやシリアでは、政治変動が新生国家の建設には容易につながらず、むしろ内戦とな って長年にわたる混乱が続いている。また、2022年

2月、ロシアは、旧ソ連崩壊後に

欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に接近したウクライナに本格的な軍事 侵攻を行ったが、その呼び水になったのは、東部の親ロ地域での新「国家」の建設で あった。ウクライナはロシアとのはざまで繰り返し危機を経験しているが、一国の体 制変更が、とりわけ大国間の利害が交錯する地政学的な十字路に存在する国の場合、

局地的な対立のみならず、より広範な分断へとエスカレートするリスクをはらむこと を、私たちはいま目の当たりにしている。

第三の動きだが、2001年の9・11米同時多発テロ事件で衝撃を受けた米国は有志国 とともに「テロとの戦い」に着手した。その結果、テロの首謀者を匿ったアフガニス タンのタリバン政権が即座に打倒され、2003年のイラク戦争では大量破壊兵器の保有 を疑われたイラクのサダム・フセイン大統領が放逐された。両国においては「次なる 国家」の建設が、国連の関与に加え、諸外国の大規模な軍事的なプレゼンスを伴いな がら進められた。だが、そのプロセスの混迷は、事件から

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年近くが経った2021年

巻頭エッセイ誰がために国家は建設されるのか

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月のカブールにおけるタリバン政権復活に凝縮されていると言えるのではないだろ うか。この年、バイデン米大統領は前年の大統領選挙戦で公約した米史上で最長とな るアフガニスタン戦争の終結と米軍完全撤退を一方的に推し進めると、タリバンは急 速に勢力を盛り返し、さらに、電光石火のごとくに首都に進軍していった。この過程 で、国際社会の公的認証の下に成立していた正統政府の大統領は国外に逃亡し、つい には国土の全体を武力で掌握したタリバンは、再び政権の座に返り咲くことになっ た。イスラム主義に基づく原理的な国造りの再開に人々は震撼し、大量の難民・避難 民の流出や食糧難をはじめとする人道危機が悪化していった。

もとより、今日に至るアフガニスタンの国家建設や平和構築は、9・11事件後の対 テロ戦争によるものばかりではない。現代史に限っても、冷戦期の

1979年、旧ソ連の

アフガニスタン侵攻による親共産主義政権の樹立や、1989年の旧ソ連撤退後の国内統 治をめぐる闘争、特に

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年のムジャヘディーン勢力による政権奪取やさらなる内 戦、そして、イスラム原理主義を唱えるタリバンの台頭など、一連の流れのなかでの 指導者たちの対立や大国の介入、さらには国際テロ組織の浸透と、絶え間のない試練 のなかで脈々と続けられてきたプロセスまでをも含めて振り返る必要がある。

言うまでもなく国家建設は、高度に政治的なプロセスである。しかし、誰がために 国家は建設されるのか。現地のステークホルダーがオーナーシップをもって国造りを 進めるというとき、人々の切実な声は取り込まれているのだろうか。その国の立地の 戦略的ないし地政学的な意味合いが高ければ高いほどに外部勢力は目ざとく介入のチ ャンスを狙い、逆に、ある国の統治主体が破綻し、幅広い支援が求められても、目ぼ しい見返りがないならば国際社会の出足は鈍い。高度な自治や分離独立の要求となる と、当該国家の主権や権益や領土一体性の核心に直結する問題として悲惨な抗争と弾 圧につながることも多い。いずれにしても、強権的な体制や権力者の強欲や外部主体 の恣意によって真っ先にかき消されがちなのは、民意であり、その背景にある人々の 歴史や精神や夢である。

もちろん、その民意は一つではない。しかし、これまでの国家建設の数々の失敗例 から何らかの教訓を導き出そうとするならば、声高な政治指導者の権力への執着や大 国や周囲の有力国の思惑ばかりに目を奪われない透徹した視座をもつことと、多様な 声の存在を知り、対話と聴取の機会をおろそかにしないことである。国際社会から忘 れ去られた人々がいて、その土地がテロ集団や麻薬組織の温床になるようなこともあ ってはならない。また、人々が主権者としての能力を発揮できるように、人づくりの 手立て、それも最も脆弱とされる人々の能力を強化していく手立てをも組み込むこと が国造りの要諦とされなければならない。

現地の真のオーナーシップを重視し、国造りとともに人づくりにまで目配りを忘れ ない支援は、日本が最も得意とする分野であり、そのこだわりを持ち続けること、そ

巻頭エッセイ誰がために国家は建設されるのか

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して現地の人々の実質的な参画の下に国家建設が進められるような機会を切り拓くこ とで力を尽くすことが望ましい。新たな国家のビジョンや戦略や実施手順が描かれ、

国際社会がその支援にコミットする「コンパクト」(協約)を幅広いバランスとコン センサスに基づいて策定できるよう、忍耐強く和平仲介に取り組むこともこれからの 日本外交がさらに深掘りをしていくべき分野と考える。

『誰がために鐘は鳴る』は、文豪アーネスト・ヘミングウェーがスペイン内戦をテ ーマにファシスト国家と戦う若き英国人義勇兵の悲恋と犠牲を描いた作品だが、題名

17世紀の詩人ジョン・ダンの作品に由来する。

「なんぴとも一島嶼にてはあらず」

で始まる詩である(大久保康雄訳)。それは、欧州にあって「人はみな大陸(くが)の 一塊(ひとくれ)」といい、誰もが互いにつながっていることを説いている。「ゆえに 問うなかれ、誰(た)がために鐘は鳴るやと」と詩人は諫め、鐘は自身のために鳴ら されるもするのだと説く。とはいえ、私たちはどうしても自分本位になりすぎ、他者 の痛みには無関心になりがちだ。「共生」の難しさはそうした人間の身勝手さの表れ でもある。それは国家建設の過程でも見え隠れする。だが、人間には想像する力があ る。

ジョン・レノンが、一握りの権力者による独りよがりの国家を否定するのであれ ば、それは正しい。なぜなら、国家を造るのであれば、それはその地にゆかりをもつ

「みんな」のためのものでなければならず、力ずくの占有や分割などではなく、共に 持続可能な未来を分かち合うための装置であることがしばしば忘れられがちだからで ある。国家、すなわち主権の適正な共有まで「イマジン」できるのか。「次なる国家」

の建設にかかわるとき、私たちが試されるのは、そこである。

巻頭エッセイ誰がために国家は建設されるのか

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ほしの・としや 大阪大学教授 [email protected]

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