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14 世紀ルッカの裁判記録簿の作成をめぐって

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14 世紀ルッカの裁判記録簿の作成をめぐって

徳橋 曜

中谷報告によれば、中世のルッカでは非常に充実した裁判記録簿(atti giudiziali)

の集積が見られた。その重要性は何よりも、確定した事実としての特権証書、その特 権の記録たるlibri iurium、あるいは都市条令に対して、現在進行形の実務記録として 作成されたという点である。

我々は概して史料の内容を「情報源」として扱う。裁判記録簿にしても、その史料 的価値はまず訴訟の経緯を知ることができるという点にある。記録は同時並行で行わ れており、ある程度の余白を残しながら記録が行われ、余白がなくなった場合には別 の場所に記述が飛んで、その場所が分かるように印がつけられているという点からも、

リアルタイムの記録と考えて間違いない。訴訟当事者の提出した訴状とその訴状に法 廷の公証人が追記したもの、あるいは当事者が提出したと思われる、短い主張の記さ れた紙片も、記録簿にそのまま挿入されている。最も生々しい訴訟の過程を垣間見る ことができるのである。

しかし、今回の中谷報告の関心は記録が作成された理由・文化的背景にある。「材料」

としての史料を利用するのみならず、史料の在り方から社会や文化を読み解こうとい う姿勢は、まさに現在、最も注視されている研究分野の一つに合致する。こうした裁 判記録簿の生成について、イタリアの研究では、ポデスタや都市の指導層の政治的イ ニシアティブが重視され、都市の政策の一部として、ローマ法に従った手続きの記録 が義務づけられたと説明される。一方、ドイツの研究では、行政が複雑化したために、

職務遂行上の実践的必要から作成されるようになったと考えられるらしい。いずれに しても、裁判記録簿が何のために作成・保存されたか、様々な理由が考えられ、中谷 報告はそうした観点での研究に貢献するものだろうと思う。

報告ではルッカとボローニャを中心に、イタリア外にも視野を広げつつ、法廷にお ける公証人の記録実務の検証や、記録簿作成の背景の推測が論じられた。多面的な観 点から論じてもらった分、焦点が絞りにくく、実を言えばコメントのしにくい報告だ ったのであるが、これから進められるべき研究分野である以上、まず広い視野と多面 的思考が重要であることは確かである。

報告の中で特に興味深かった点、あるいは疑問点としては、以下が挙げられよう。

まず刑事訴訟の記録と民事訴訟の記録の性格の相違は、興味深くまた重要な点であ ると思う。刑事訴訟記録は訴訟の結果である判決を詳述するが、訴訟手続きについて は省略されている。これに対して、民事訴訟の記録はむしろ訴訟の過程に関心が向け られ、判決について書かれてはいても、最終的な結果には関心が薄い。これについて 報告では、刑事訴訟については書記を担当する公証人に対してコムーネから年棒が支 払われるのに対して、民事訴訟では当事者の負担する手数料が書記の収入となること を挙げつつ、民事の裁判記録が残された背景には、裁判当事者の利益と意思が大きく 反映していた可能性が指摘された。この点については、今後のより実証的な追究が待 たれる(たとえば、民事訴訟の記録簿の作成について、法廷の公証人が当事者から手

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数料を取ってこれを行った可能性について、史料的に確認はできないとのことであっ た)が、刑事と民事で裁判記録の関心が異なる点は、報告者による説明を含めて比較 的容易に理解できよう。即ち、刑事訴訟においては、当事者は公権力と被疑者である から、公権力の関心が裁判の過程に向かず、裁判の結果としての判決にのみ向くのは 当然であろう。刑事事件の被疑者の権利の保護というような意識のない時代である。

それに対して、民事訴訟においては、原告・被告共に裁判の過程が、再審の訴えなど に備えて、重要な関心事となろう。

ただ、最終的な判決には関心が向けられないという点については、必ずしも納得で きる説明が見出せない。質疑応答の際には報告者に対して、民事訴訟において勝訴し た側が最終的な判決の文書を手元に持っていた可能性も指摘された。いずれにしても、

誰の意思が裁判記録簿作成の背景に強く影響したのか、報告後の質疑応答でも議論が 出たように、訴訟当事者の利益に応じたのか、訴訟の実務を担当する公証人の側の利 益(訴訟のマニュアルないし控えを作っておく)から発したものなのか、という観点 からの検討が重要であると思う。

この点は、次に論じられた記録の保存の問題とも関わってくる。ルッカでは裁判記 録簿の文書庫への引き渡しが義務づけられていた。報告で指摘されたように、その背 後には公的な記録を都市当局が集中管理しようとする意図があったと考えてよかろう。

ボローニャの事例はさらに意図が明白である。刑事訴訟記録の文書庫への引き渡しが 義務化される一方、民事訴訟の記録簿については、司法命令や判決などを記した Liber

memorialisの引き渡しのみで、訴訟の過程を記した記録簿の引き渡しはない。つまり

裁判の過程ではなく、判決・裁判の結果を保護しようという意図が顕著であり、それ は即ち公権力としての都市当局による公的秩序の掌握という意識によるものであろう。

イタリアの都市の多くで刑事訴訟の記録が残っていても、民事訴訟の記録が必ずしも 残っていないのは、そのためもあるのではなかろうか。文書の保管に関わる目録の作 成も、こうした公的秩序意識の延長にあると思われる。勿論、どのような意図で目録 が作られるに至ったのか、ルッカであれボローニャであれ、その正確な意図は、推測 はできても判然としないが、裁判記録簿の目録が法廷ごとに作られるようになってい くというルッカの史実からも、刑事訴訟に関しては公権力としての都市政府の意識が 背景と考えてよかろう。

さて、中谷報告で取り上げられた最も根本的な問題は、民事訴訟の記録簿の作成と 利用の目的である。記録簿からの複写はルッカでもボローニャでも一般的で、裁判の 現場での記録簿から転写した文書の提出が確認されることから、報告者の指摘するよ うに、法廷での証拠や主張の根拠となる正確な記録を残し、必要に応じてそこから写 しを作成することが用途の一つであったことは間違いない。但し、その背景として訴 訟手続きの厳格さに対する意識の高さ、正確な訴訟手続きに基づく判決を有意と認識 する法文化の存在を指摘するためには、さらなる検証が必要である。

また、裁判記録簿と言っても、その書式や内容には地域的な多様性があり、ルッカ の事例に基づいた推論が、必ずしも他都市にも該当するわけではない。各都市の訴訟 文化の中での公証人の位置づけの違いが影響しているのかとも考えられるが、刑事裁 判の記録簿は形式が共通しているという。通説的な理解に従えば、公証人制度とその

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文化は公証術ars notariaeという共通性の上に成り立つものであり、それ故、民事訴 訟の記録簿の書式に必ずしも共通性が見出されないことが興味深い。質疑応答でも議 論したように、これはポデスタの随員の公証人が作成するか、ポデスタが赴いた地元 の公証人が作成するかという観点で説明できるものではない。

これから解明されるべき点が多数存在する重要な問題である。中谷氏には、裁判記 録簿を史料として利用しつつ、その史料そのものの存在を問い直す追究も是非、続け ていってもらいたい。

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