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20世紀末に金融のグ

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はじめに

新興国の台頭と言うとき、その根底にある最も重要な要素は、高い経済成長や貿易額の 伸びで表わされる経済力の増大である。また、世界経済を見渡して、20世紀と21世紀を分 ける最大の変化は、新興国の勢力の伸張と先進国の勢力の後退である。そして、この潮流 を決定的にしたのが、2007年夏に顕在化したサブプライム危機とそれに続く

2008

9

月の リーマン・ショックである。これを契機として、2008年

11

月にワシントンで、金融・世界 経済に関する20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)が開催された。それに先立ち、G20の 財務大臣・中央銀行総裁会議は1999年から開催されていたが、これは

20世紀末に金融のグ

ローバル化が進展したのを受けて新興国で通貨・金融危機が相次いだため、その防止策と 対処策について先進国と新興国が協議するために設けられたものである。

したがって、G20の成立を振り返るにあたっては、まず、金融のグローバル化や新興国の 台頭という世界経済の構造変化の流れを追う必要がある。そのうえで、G20という政府間の フォーラムの展開過程を検討するためには、各国がどのように国益を追求しているのかを 見極めることが肝要である。本来、市場経済においては、経済活動は市場に任せておけば よい。しかし、いったん通貨・金融危機が起こってしまうと、金融システムを支えるため、

財政をはじめとした政府の介入が必要になる。そうした際に、国際収支危機に陥った国に 対する国際的な支援で中心的な役割を果たす国際機関が、国際通貨基金(IMF)である。新 興国と言ってもその経済構造はさまざまであり、それを反映して国益や経済外交戦略もさ まざまである。ただし、世界経済の運営において発言権を強化したいという一点では、利 害が一致している。それを端的に示すのがIMFにおける発言権の強化である。そこで、以 下では、世界経済の構造変化のなかで、どのようにしてG20が生まれ展開してきたのか、そ の成果と限界、そして展望を、先進国と新興国の協調と対立の視点から検討していきたい。

1

世界経済の構造変化とG20の誕生

1) 市場経済と金融のグローバル化

1989年のベルリンの壁崩壊に続いて、1991年にソ連が崩壊すると、それまで市場経済の

外にいた旧ソ連と東欧の多くの労働力が市場経済に参加することとなった。また、ソ連崩 壊の原因は、政治の自由化と経済の混乱にあるとみた中国は、1989年

6

月の天安門事件によ

(2)

る国際的孤立のあと、政治の引き締めを図るとともに、国家主導の計画的・漸進的な市場 経済化にいっそう熱心に取り組むようになった。新興国における金融の自由化・国際化は、

先進国から新興国への資本移動の急増と、金融のグローバル化をもたらした。内外からの 旺盛な投資によって、1990年代に急成長したタイでは、信用ブームが起こりバブルが膨張 した。そして、1997年にバブルが崩壊すると、資本が流入から流出に一転した。この通貨 危機は、投資家の群衆行動によって、インドネシア、韓国など東アジア一帯に波及した。

さらに、1998年には、ロシアが債務危機に陥り、その余波はブラジルなどラテンアメリカ にも及んだ(1)

2

G2020ヵ国・地域財務大臣・中央銀行総裁会議)の成立

G20はアジア通貨危機の経験を踏まえ、新興国を含めて国際金融システムについて議論す

るフォーラムとして、1999年に創設された(第1図参照)。創設に先立ち、G7(日、米、英、

独、仏、イタリア、カナダ)の財務大臣代理レベル(G7D、Dは代理を表わすDeputyの頭文字)

で、どの国を参加国とするか議論された。わが国は、その際、アジア太平洋地域の国がな るべく多く参加できるよう働きかけた。その結果、アジア通貨危機の影響を受けた韓国、

インドネシアや中国、インドといった多くの国が参加することになった。その他のメンバ ー国をみると、米国やカナダが推したブラジル、メキシコ、アルゼンチンは、当時、ラテ ンアメリカでの債務危機の常連であり、トルコも債務危機を何度か経験した国である。サ ウジアラビアは中東産油国の代表、南アフリカはアフリカ代表の位置づけである(2)。なお、

G20の設立以前の 1998

年の

4

月と10月に米国の提案で

G22

(3)が開催された(4)。その後、G20 にタイを加えたグループになりかけたが、通貨危機の最中で対応に追われていたタイが辞 退して現在の19ヵ国になった(5)。G20の発足にあたっては、カナダも大きな役割を果たし た(6)

G7が 1986

年に創設されて以来、2000年代初頭まで、G7の国内総生産(GDP)は全世界の

第 1 図 G20と他の政府間フォーラムの関係

サウジアラビア トルコ 欧州連合(EU)議長国

韓国 インドネシア オーストラリア

中国 ブラジル

日  米  英  独  仏  イタリア  カナダ ロシア

インド 南アフリカ メキシコ

アルゼンチン

G7の相対的な存在感が小さくなるにしたがって、また、1997―98年のアジア通貨危機が起こ り、特にアジアの新興国が世界経済に大きな影響をもたらすことが広く認識され、G7も新興 国と対話をしなければならないということで、対話のシステムを模索。

1999年9月には、まだG-Xと言われていた。日本はアジアの国をできるだけこのフォーラムに 入れるよう働きかけ。

1999年12月、ベルリンで第1回会合が開催された。当時の宮澤喜一大蔵大臣は欠席。

(注)

 筆者作成。

(出所)

1.

2.

3.

G20

BRICS

G8

G7

(3)

GDPの 70%

近い圧倒的なシェアを占めてきた(第

2

図参照)。この時期には、国際金融上の問 題は、実質的に

G7

で決定することができた。ところが、世紀が変わる頃から、そのシェア は急落し、2011年にはついに

48.4%と 50%を切る水準にまで低下した。それと反比例するか

のように、新興国のシェアが上がってきたわけだが、2008年に世界金融危機が起こるまで、

G20では、淡々と年 1

回、大臣レベルで集まって、世界経済と国際金融の問題について議論

するにとどまっていた。

3

G20

サミット(金融・世界経済に関する首脳会議)の誕生

このように、リーマン・ショックが2008年

9月に起こるまでは、G20は目立たない存在だ

った。

IMF

を中心とした国際通貨危機対応の仕組みについて、新興国は不満を抱いていたが、

国際金融アーキテクチャーの議論(国際通貨危機の防止や危機への対処能力の向上に関する制 度の議論)はG7や金融安定フォーラム(FSF: Financial Stability Forum)など先進国中心に議論 が行なわれていた。アジア通貨危機に対するIMFの対応に不満を抱いた東アジアでは、米 国抜きの地域金融協力が芽生えた。2000年

5

月、タイのチェンマイで開催されたASEANプ ラス3(東南アジア諸国連合+日中韓)の財務大臣会議で合意された通貨スワップ協定である チェンマイ・イニシアティブである(7)

しかし、同時に、先進国のほうでも、世界経済の運営について新興国の協力を得ること を目的として、G8(G7+ロシア)サミットに中国、インド、ブラジルやアフリカなどの新 興国の首脳をゲストとして招待するようになった。まず、2003年にフランスのエビアンで 開いた

G8

サミットでは、議長国フランスが中国、インド、ブラジル、南アフリカなど新興 国・途上国12ヵ国の首脳を招待した。そして英国が議長国になった

2005

年のグレンイーグ ルズでのG8サミットでは、中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカの新興

5

ヵ国 を招待した。2006年のロシア・サンクトペテルブルクでも新興

5

ヵ国を加えた対話を続け、

2007

年のドイツ・ハイリゲンダムG8ではこの先進国と新興国の首脳対話を「ハイリゲンダ ム・プロセス」と名付けて2年間継続することで合意した。サルコジ = フランス大統領は

75

70

65

60

55

50

45

(%)

第 2 図 全世界GDPに占めるG7のGDPの割合の低下(1973―2010年)

 IMF世界経済見通しを基に筆者作成。

(出所)

197374 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 9192939495969798 9920000102030405060708 09 10(年)

第1回G20財務大臣・中央銀行総裁会議(1999年)

第1回G20サミット(2008年)

第1回G7財務大臣・中央銀行総裁会議(1986年)

(4)

2008年の年頭記者会見で、このハイリゲンダム・プロセスを衣替えして正式に「G13サミッ

ト」にするよう訴えた。また、英国首相のブラウンは、上記の新興5ヵ国にアラブ代表の

1

ヵ国(サウジアラビアかエジプト)を加えてG14とし、地域のバランスに配慮するよう提唱 した。また、さらに広い枠組みとしてG20とすることも考えていた(8)

2008年 7月の北海道洞爺湖サミットでは、サルコジ大統領が持論の G13創設論を主張する

とブラウン首相など欧州勢はサルコジを支持する一方、米大統領のジョージ・ブッシュや 議長国・日本の福田康夫首相は慎重論を唱えた。民主主義など価値を共有する国の会合が 重要であり、多くの国が参加するようになると、突っ込んだ議論ができなくなるという理 由からである。結局、このときには日米の反対で

G8の拡大は見送られたが、9

15

日に、

米大手証券リーマン・ブラザーズが破綻すると状況は大きく変化した。2007年夏のサブプ ライム危機以降、米英のアングロサクソンが主導する金融資本主義に対して批判を強めて いたサルコジは、9月

23日、国際連合の一般演説で、金融規制を強化するために、金融サミ

ットの開催を主張する。また、ブラウンは、9月

25日、国連総会のためニューヨークに滞在

していた各国首脳を緊急に招いて極秘の会合を開いた。出席者は欧州委員会委員長のバロ ーゾ、スペイン首相サパテロ、オーストラリア首相ラッドなどだったが、G20の

2008年の

議長国であるブラジル大統領のルラを招いて、各国の協調行動の舞台としてG20がふさわし いという考えを伝え、ルラも賛同した。

このように欧州首脳はブッシュ大統領に金融サミットの開催を求めたが、ブッシュは国

第 3 図 G20サミット(第1回―第7回)

危機対応

中長期的な 着実な成長

対外不均衡 問題

 筆者作成。

(出所)

第1回首脳会合(2008年11月14―15日 ワシントン)

金融危機の最中での開催。金融規制・監督の見直しを含む危機再発防止 のための行動計画を策定。

第2回首脳会合(2009年4月1―2日 ロンドン)

行動計画の具体化の議論が進展。

IMF等国際金融機関の利用可能な資金の拡充に合意。

第3回首脳会合(2009年9月24―25日 ピッツバーグ)

金融規制・監督についての大枠が決定。短期的な「危機対応」から、「中 長期的な着実な成長」に軸を移す。

G20をG7に代わる国際経済協力に関する第1のフォーラムとして指定。

第4回首脳会合(2010年6月26―27日 トロント)

ギリシャ危機を踏まえ、財政健全化の共通のコミットメントについて合意。

先進国は2013年までに財政赤字を少なくとも半減させ、2016年までに政 府債務の対GDP比を安定化または低下させる財政計画にコミット。日本 は「日本の状況を認識し、成長戦略とともに最近発表された日本政府の 財政健全化計画を歓迎する」という例外的取り扱い。

第5回首脳会合(2010年11月11―12日 ソウル)

米中を中心とする対外不均衡を念頭に、G20各国の「対外不均衡問題」へ の取り組みのための共通の枠組みに合意。

第6回首脳会合(2011年11月3―4日 カンヌ)

中期的な成長のためのコミットメントであるカンヌ・アクションプラン の策定に加え、足元の欧州債務危機について議論。

第7回首脳会合(2012年6月18―19日 ロスカボス)

短期的なリスクへの対処と中期的な成長のためのコミットメントである ロスカボス・アクションプランの策定に加え、欧州債務危機について議論。

総額4500億ドル以上のIMF資金基盤強化に合意。

危機対応

(5)

内対応に追われ、サミットの開催にはなお慎重であった。10月に入って金融システム対策 がまとまり、それを説明する記者会見で、ようやくポールソン米財務長官は、2008年

10月

10日のG7

会合の後に、G20の特別会合も開く方向で調整していると述べた。その後さらに、

サルコジやブラウンがサミット会合を開くようブッシュに強く働きかけたことから、英米 などの主張するG20で首脳会合を開くことになった(9)。欧州の首脳が

G8

に中国、ブラジル、

インドなどの新興国を加えることを強く主張した背景には、世界の成長センターの取り込 みにおいて、アジアに位置する日本や、西半球の太平洋国家である米国、カナダに後れを とらないようにしようとしたものと思われる。

4

G20

サミットの性格

第1表にみるように、G20は世界の人口の6割以上、名目

GDPの 8

割弱を占めており、世 界経済において大きなシェアを占めている。G20サミットは第

3

図にみるようにこれまで7

第 1 表 G20参加国の世界経済に占める割合(2011年)

日  本 128 1.9% 365 5,867 8.4% 45,870 4,444 5.6% 34,748

米  国 312 4.5% 9,147 15,076 21.6% 48,328 15076 19.1% 48,328

英  国 63 0.9% 242 2,431 3.5% 38,812 2288 2.9% 36,522

ド イ ツ 82 1.2% 349 3,607 5.2% 44,111 3,114 3.9% 38,077

フランス 63 0.9% 548 2,778 4.0% 44,007 2,214 2.8% 35,068

イタリア 61 0.9% 294 2,199 3.2% 36,267 1,847 2.3% 30,464

カ ナ ダ 34 0.5% 9,094 1,739 2.5% 50,497 1,395 1.8% 40,520 G7(上記)合計 742 10.8% 20,038 33,697 48.4% 30,378 38.5%

オーストラリア 22 0.3% 7,682 1,487 2.1% 66,371 915 1.2% 40,847

韓  国 50 0.7% 97 1,116 1.6% 22,424 1,554 2.0% 31,220

G20先進国(上記9ヵ国)合計 815 11.9% 27,817 36,300 52.1% 32,847 41.6%

中  国 1,347 19.6% 9,327 7,298 10.5% 5,417 11,300 14.3% 8,387

ブラジル 195 2.8% 8,459 2,493 3.6% 12,789 2,294 2.9% 11,769

ロ シ ア 142 2.1% 16,377 1,850 2.7% 12,993 2,383 3.0% 16,736 イ ン ド 1,207 17.6% 3,287 1,827 2.6% 1,514 4421 5.6% 3,663

BRICs(上記)合計 2,892 42.2% 37,450 13,468 19.3% 20,398 25.9%

インドネシア 241 3.5% 1,812 846 1.2% 3,512 1,125 1.4% 4,666 ト ル コ 75 1.1% 770 774 1.1% 10,363 1,075 1.4% 14,393 アルゼンチン 41 0.6% 2,737 445 0.6% 10,959 716 0.9% 17,660

メキシコ 114 1.7% 1,944 1,154 1.7% 10,146 1,667 2.1% 14,653

サウジアラビア 28 0.4% 2,000 597 0.9% 21,197 688 0.9% 24,412 南アフリカ 51 0.7% 1,214 409 0.6% 8,078 555 0.7% 10,970

G20新興市場国(上記10ヵ国)合計 3,440 50.2% 47,927 17,693 25.4% 26,224 33.2%

G20参加国(上記19ヵ国)合計 4,255 62.0% 75,744 53,993 77.5% 59,071 74.9%

EU 501 7.3% 4,181 17,611 25.3% 35,185 15,853 20.1% 31,673

(参考)ユーロ圏 330 4.8% 2,552 13,119 18.8% 39,736 11,258 14.3% 34,100

世界 6,858 69,660 10,157 78,897 11,504

国  名

人 口 面積 GDP(名目) GDP(PPP)

(1000km2

(100万人) (10億ドル) 対世界 (10億ドル) 対世界 1人当たり

(ドル)

1人当たり 対世界 (ドル)

(出所) 人口、名目GDP、GDP(PPP)はIMF World Economic Outlook 2012年10月、面積はWorld dataBank、1人当たりGDP(名 目)、1人当たりGDP(PPP)および各国の対世界シェアについては上記のデータに基づき筆者が計算。EU、ユーロ圏の人口、

面積、GDP(名目)、GDP(PPP)についてはメンバー国のデータを基に筆者が算出。

100% 100% 100%

(6)

回開催されているが、2008年

11月にワシントンで開催された第 1回サミットの正式名称は、

「金融市場と世界経済に関する首脳会合」(Summit on Financial Markets and the World Economy)で ある。この名称が端的に表わすように、G20サミットの主要テーマは国際金融問題である。

また、G20サミットは政府間の非公式なフォーラムであるのに対して、IMFは国際金融問題 を所掌する法的な根拠(IMF協定)を有する国際機関である。非公式なフォーラムである

G20サミットの活動の有効性は、首脳の政治的意思に大きく左右される。金融危機の最中に

ワシントンで開かれた第

1

回首脳会合や2009年

4

月にロンドンで開催された第

2回首脳会合

では、首脳の間で危機感が共有されていたため、サミットが有効に機能した。

その後、米国のピッツバーグで開催された第

3回の首脳会合では、G20が国際経済協力に

関する第

1

のフォーラムとなった。この頃から、「中長期的な着実な成長」に議論の焦点が 移ってきた。これは、参加国が相互に、各国のマクロ経済政策や構造改革をチェックする 経済監視(サーベイランス)を行なうということである。IMFは、国際通貨制度の安定性を 維持するためにIMF協定に基づいてサーベイランスを行なう国際機関であるので、G20サミ ットの要請に応じて、G20におけるサーベイランスに必要な技術的基礎を提供している。そ して、2010年

11

月にソウルで開催された第

5

回首脳会合では対外不均衡問題をめぐって米 中の対立が深刻となった。さらに、2011年の議長国フランスは、ドル一極体制の見直しに 意欲を燃やしていたが、ユーロ債務危機の深刻化を受けて、その対応に追われた。

2 G20

サミットの成果

1) 世界恐慌の回避

米国発の世界金融危機は、経済のグローバル化が進展し、世界経済の相互依存が高まっ たなかで起こった。危機の大きな要因は、米国や欧州における信用バブルの崩壊である。

新興国による安価な財の供給と潤沢な資金の提供(米国債の購入によって米国の経常赤字を低 利でファイナンス)もあって、世界的に物価が安定するなか、先進国の緩和的な金融政策に よって世界的に金利が低下した。そして、世界経済は借入比率(レバレッジ)の上昇によっ て好景気を謳歌していた。こうしたなか、米国で金融引き締めが始まり、住宅価格が頭打 ちから低下に向かうと、信用力の低い債務者への住宅ローン(サブプライムローン)の債務 不履行が急増した。その影響はまず、米国から大西洋を隔てた欧州において2007年夏に顕 在化した。フランスでパリバ・ショック(フランス最大手の

BNPパリバ銀行が、傘下のヘッジ

ファンドで投資分の解約を一時停止)、そして英国でノーザン・ロック銀行の取り付けが起こ ったのである。そして、2008年

3

月には、全米第

5位の投資銀行ベア・スターンズが経営に

行き詰まったが、その際には、当局の斡旋と支援を受けて、JPモルガン・チェース銀行が 救済合併した。しかし、同年9月に再び、全米第

4

位の投資銀行リーマン・ブラザーズの経 営が行き詰まった際には、当局は救済銀行を斡旋するための支援を見送り、同銀行を破綻 するに任せた。これによって、世界の金融市場は凍りつき、貿易にも急ブレーキがかかり、

輸出に依存するアジアなどの新興国も打撃を受けた。こうしたなか、1930年代のように各 国が保護主義や通貨切り下げ競争に走ると、世界恐慌に陥るのではないかという危機感が

(7)

先進国、新興国を問わず高まり、国際的に協調行動をとる機運が高まった。

2) 金融規制・監督の見直し 

金融市場に走った激震は当局の予想を超えていた。この混乱に直面して、欧米の政府と 中央銀行は、思い切った金融システム対策に乗り出した。それは中央銀行による緊急の貸 し出しや住宅担保証券など信用リスクのある民間債務の買い入れ、政府による預金保険の 拡充や、銀行間取引の政府保証、さらに、公的資金による銀行の資本増強といった対策で あった。こうした金融・財政措置は、金融機関の救済のために、政府の信用力を使う措置 であり、損失が生じた場合、税金が使われることになる。そのため、こうした措置をとる からには、金融危機の再発を防止するため、金融規制・監督を強化することが必要になっ た。今回の世界金融危機が起こるまでは、金融規制・監督の国際標準の設定は、金融業が 発達していた先進国の独壇場であった。

20世紀末に新興国で通貨・金融危機が起こった際には、金融規制・監督が遅れた新興国

のレベルを向上させることに重点がおかれた。そのため、一国の金融規制・監督の不備が 他国に影響を与える問題への対処策を議論するため、1999年に先進国をメンバーとして金 融安定フォーラム(FSF)が創設された。しかし、今回は、先進国発で金融危機が起こった ため、2009年

3

月にメンバーを

G20

参加国に拡大して、金融安定理事会(FSB: Financial

Stability Board)

となり、G20サミットに金融規制改革の検討状況を報告するようになった(10)

3) 財政政策の協調

金融システムのメルトダウンを防ぐために緊急措置がとられると、次には、世界的な需 要の低迷に対する対策が必要になった。そこで

2008

11

月、ブラジルのサンパウロで開催 されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議は、経済の安定化のために、財政政策を活用するこ との重要性を強調した(11)。変動相場制を採用し、資本移動を自由化している国では、金融を 緩和すると為替レートが低下し国際競争力が高まる。したがって、世界的な不況の下では、

放っておいても各国は競って金融緩和を実施する。しかし、財政刺激策については、意図 的に各国が足並みをそろえる必要がある。財政刺激による需要拡大効果の一部は輸入とし て海外に流出するため、自国では財政赤字を拡大させることなく、他国の財政刺激策にた だ乗りするインセンティブが働くためである。引き続いて同

11

月にワシントンで開催され たG20サミットでは拡張的な財政金融政策の発動で各国の足並みがそろった。

中国では

11

月に、4兆元(約

56兆円、GDP

比約13%)の投資を実施すると発表した。2007 年に中国の経常収支は対

GDP

10.1%

の大幅黒字であったのに対し、米国の経常収支は

5.1%の大幅赤字であった。バブルの崩壊によって米国の過剰消費が縮小することが必至で

あったため、輸出の急減による経済成長の低下を懸念した中国が内需を振興するため積極 的な財政刺激策をとったのである。

4

IMF

等国際金融機関の資金の拡充

世界的な金融収縮の影響を受けて、中・東欧など、それまで欧州をはじめとした先進国 からの大規模な資本流入によって高成長を遂げていた諸国が通貨危機に襲われた。IMFは、

2008年 11

月にはウクライナ、ハンガリー、アイスランド、また、同年

12

月にはラトビア、

(8)

ベラルーシ、セルビア向けに立て続けに資金支援プログラムを決定した。さらに、2009年3 月に、危機予防にも役立つ新たな融資制度として、フレキシブル・クレジット・ラインを 創設したが、これを受けて、メキシコが約470億ドル、ポーランドが約

205億ドル、コロン

ビアが約105億ドルのクレジットライン(信用枠)の設定をIMFから受けた(12)

そこで、IMFの利用可能資金が底をついてきたため、2009年

4

月のG20ロンドン・サミッ トで、

IMF

の利用可能な資金の拡充に合意した。わが国はそれに先立って、ワシントン・サ ミットにおいて

1000億ドルの資金貢献を表明し、各国がそれに続いた。IMF

への資金貢献 は従来、先進国が担ってきたが、今回は新興国の側からも、5月にロシアが

100

億ドル、6月

に中国が

500億ドル、ブラジルが 100億ドル、それぞれ債券購入という方法で資金貢献する

との表明があった(13)。ロンドン・サミットでは、新興国および途上国も挑戦に直面している とし、8500億ドルの追加的資金を国際金融機関を通じて利用可能とすることに合意した(14)

3 G20

サミットの限界

1) 米中対立

2009年 4月のロンドン・サミットの後、世界経済は、新興国の景気回復に牽引されるかた

ちでいったん回復した。これを受けて早くも2009年

9月に米国のピッツバーグで開催された G20サミットでは、異例の財政金融緩和策からの脱却の方策が議論された。いわば、危機モ

ードから平時モードへの転換である。その約2ヵ月後、北京で米中首脳会談が行なわれた。

当時、米国と台頭する中国の首脳会談を「G2」となぞらえる声も高まっていた。しかし、

帰国したオバマには米中首脳会談は失敗という批判の声が待っていた。懸案の人民元切り 上げなど経済面では成果が上がらない一方で、共同声明で「米中両国が相互の核心的利益 を尊重する」という文言が問題となった。核心的利益とは、中国にとって台湾やチベット を意味し、この「尊重」に同意したということで米保守派からは「オバマ政権は中国に融 和的すぎる」という批判の声が上がったのだ。

それに追い討ちをかけたのが2009年

12

月にコペンハーゲンで開かれた地球温暖化対策を めぐる第15回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP15)だった。各国首脳による共同声 明案の焦点は、温室効果ガス排出量削減について先進国の数値目標を盛り込むかどうかだ った。この目標は先進国間では合意済みだったのだが、「いかなる目標も拒否する」として 中国が難色を示した。メルケル = ドイツ首相、ラッド首相、カルデロン = メキシコ大統領な ど各国首脳が中国に同意を促したが、中国側は最後まで同意を拒んだ。特に欧米が問題に したのは、緊急首脳会合に中国首相の温家宝は姿をみせず、事務方の交渉担当者がかたく なに「ゼロ回答」を続けたことだった(15)。これによって米中の

2大国の協調による「G2」に

対する期待が急速にしぼむとともに、G20サミットに対する期待値も低下した(16)

2) 対外不均衡問題

2010

10月、韓国の慶州で開催された G20

財務大臣・中央銀行総裁会議では、対外不均 衡の是正のために、経常収支に数値目標を設定することが議論された。これは、もともと 中国人民銀行が会議で配布した資料のなかで、経常収支の対GDP比の将来見通しが

4%

とな

(9)

っていたためである。米国が求める人民元切り上げには、中国は強く反対しているので、

為替レート自体を話題にしていたのでは妥協の余地がない。そこで経常収支に話題を変え ようとしたのである。そして、翌月のG20ソウル・サミットでは経常収支目標について合意 されるのではないかと期待された。ただ、経常収支は民間の意思決定によって決まる部分 が多く、これは政府が左右できるものではないので、数値目標ではなく指標とすることが 合意された。しかし、こうした修正にもかかわらず、中国は経常収支という言葉自体を使 うことに難色を示したため、経常収支という言葉の代わりに、実質的に経常収支を意味す る「貿易収支、投資所得および対外移転のネットフローから構成される対外バランス」と いう表現になった(17)。その後、中国の経常収支の対

GDP

比は、2010年の4%から、2011年に は2.8%に縮小している。この実績をみると中国は必要以上に自説にこだわりすぎたことに なる。

経済指標を使って経済動向を監視し、対外不均衡の縮小均衡を図るのは、1986年の東京 サミットで合意されたG7の「多角的サーベイランス」を受け継ぐものである。サーベイラ ンスは、経済の発展段階が同じで、市場メカニズムの重視など価値観を共有している先進 国の間では機能したが、中国の強硬な交渉態度により、新興国を含んだG20ではうまく機能 しないことが露呈した。中国との政策協調に期待していた米国はG20の実効性に対して懐疑 的となった。

3) 通貨戦争

2010

年夏に米国の連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が、量的緩和の第

2

(QE2)を示唆すると、長期金利が低下しドル安となった。これによって、新興国への資本 移動が増加し、新興国通貨に上昇圧力がかかった。特に、為替制度が柔軟であるブラジル の通貨レアルの上昇は顕著であったので、ブラジルのマンテガ財務相は通貨戦争と呼んで

FRB

のQE2を非難した。一方、新興国のなかでも中国など東アジアでは、為替介入によっ て自国通貨の上昇を抑えている国が多かった。ブラジルはこれらの国に対しても競争力が 低下するので、新興国同士の間でも貿易摩擦を生じさせることになった。

4) 議論の拡散

2010

11

月のソウル・サミットは、新先進国である韓国が国家の総力を挙げて準備 したものだった。政府開発援助(ODA)の被援助国から援助国に転じた国として、経済開発 論を議題に取り上げ、独自の経験を紹介した。2012年はメキシコ、2013年はロシア、2014 年はオーストラリアが議長国となっており、2015年にはトルコが議長国となる見込みであ る。これらの国は、G7が第

1

の経済フォーラムであった時期には、議論に参加できなかっ た国々である。こうした諸国はG20の活動に熱心であり、独自性を発揮しようとする。そこ で、毎年、議長国が代わるたびに、アジェンダが拡大する傾向にある。そのため、先進国 の間からは、本来のテーマである金融と経済に議論を再び集中させるべきであるという声 が出ている。

また、メンバー国が多すぎるため、踏み込んだ議論を行なうことが難しいという問題に 直面している。そこで、先進国と新興国のうち、主要国だけでステアリンググループを作

(10)

って、そこでまず議論することが考えられる。しかし、このように

G20のなかに、コアグル

ープを作ることに対しては、そこから外れる国から反対が出ると思われる。すでにみたよ うに、非主要国は、G20というグルーピングに強い魅力を感じているのである。

それでは、G20とは別に、G4や新G5といった少人数会合を新たに作ることは可能であろ うか。G4とは、日、米、ユーロ圏、中国であり、新

G5は、それに英国を加えたものである。

G4

は、経済規模の大きさを基準にしたグルーピングであり、経常収支不均衡を議論するの に適している。新G5は、国際通貨をもつ国同士が為替政策協調を行なうのに適している。

現在、米ドル、ユーロ、円、英ポンドが

IMFの特別引出権

(SDR)の構成通貨となっている が、将来、人民元が市場で自由に取引される国際通貨になり、SDRの構成通貨に加わった 際には、かつてのG5(日、米、独、英、仏)のように、必要に応じて為替政策について協議 するためのグループになりうる。

これらの実現可能性は、やはり中国の動向にかかっている。すでにみたように、中国は 国内的な配慮から自国の経済政策を修正することには、きわめて冷淡である。同じ理由か ら、人民元が国際通貨となるまでには、相当長い時間がかかると思われる。さらに、中国 の政治構造は特殊であり、中央銀行が独立していないだけでなく、財務大臣の権限も弱い ので、副首相クラスをメンバーにしないと政策協調が機能しないという問題もある。中国 にとって、G20サミットは、世界の主要国の首脳が一堂に会して協調姿勢を演出する政治シ ョーとして意味があるのであり、経常収支不均衡の是正など自国の負担を伴う実質的な議 論はひたすら避けている節がある(18)

4 G20

サミットの展望

1) 長期的趨勢

第2表にみられるように、先進国では

2009

年にマイナス

3.5%に成長率が落ち込んだが、中

国は9.2%と高い成長を維持した。中国は

2010年に日本を抜いて名目 GDPで世界第 2位の経済

大国になった。今後も、先進国に比べて、高い経済成長と人民元の為替レートの上昇の相乗 効果で、その経済規模は先進国を大きく上回るペースで拡大する見込みである。これは、第

1表にみるように、1

人当たりGDPでみると、中国は

2011

年時点で、まだ5417ドル、インド は1514ドルと低位にとどまるため、先進国から進んだ技術や経営方法を取り入れて生産性を 上昇させ豊かになる余地が依然大きいことを意味する。ただし、経済成長は他の要因にも左 右される。途上国のなかでも経済離陸に成功した国とそうでない国があるが、教育に投資を している国の成長が目覚ましい。また、人口動態によっても差が出る。中国では比較的早く 人口の高齢化が進み、生産年齢人口が低下に向かうのに対し、インドでは今後長期にわたっ て、生産年齢人口の増加が予測される。

したがって、英『エコノミスト』誌が2050年といった長期予測を行なうと、現在の先進国 は、米国を除いてみな経済規模の上位から姿を消し、インドや中国をはじめとする新興国が 軒並み上位を占めることになる。もちろん、中進国の罠(先進国の技術水準に近づくにつれて、

先進国から技術を取り入れるだけでは、それ以上成長することが困難になること)があるので、現

(11)

在の新興国の1人当たり所得がみな先進国の水準に達するとみるのは楽観的にすぎるであろ う。しかし、人口予測のほうは長期のものでもかなり信頼できる。したがって、長期的には、

新興国の経済規模のシェアがさらに拡大して、先進国のそれを凌駕していくのは、ほぼ間違 いない(19)

中国では貧富の格差や社会保障の不備など多くの問題を国内に抱えており、それが、国際 協調の障害となっていることはすでにみたとおりである。投資に偏重した経済構造も変えて いかなければならない。しかし、先進国のほうも、高齢化による財政の悪化や成長率の低下 といった深刻な問題を抱えている。今回の世界金融危機で先進国の政府債務対GDP比は大き く増加したのに対し、新興国の政府債務対GDP比は、むしろ低下した。今後、これが両者の 対応力の差となって表われる。先進国では成長力を高めるための構造改革と社会保障支出の 合理化が急務である。その点、構造改革を断行したドイツの強さが際立っている。現在、ド イツは欧州債務問題の対応に追われているが、欧州という経済圏を確保しているドイツのほ うが、日本よりも有利な位置にある。

2

BRICS

内の相違

2008年 11月 7日、G20議長のマンテガ財務相は、ブラジル、ロシア、インド、中国の財務

相会議を開催した。その後、2009年

6月には、ロシアで BRICs

サミットが開催され、2011年

4

月に中国で開催された第

3

回の首脳会議では、南アフリカを加えて、BRICS(20)となった。

しかし、この5ヵ国は経済構造が大きく異なっている。ロシアは石油や天然ガスの輸出に大 きく依存しているが、インドと中国はこれらの純輸入国である。また、中国は為替介入に よって為替レートをコントロールしているのに対し、ブラジルやインドは為替レートを比 較的自由に変動させており、中国との間に貿易摩擦を抱えている。

第 2 表 世界経済の見通し

世  界 5.4 2.8−0.6 5.1 3.8 3.3 3.6

先 進 国 2.8 0.1−3.5 3.0 1.6 1.3 1.5 5.5 5.8 8.0 8.3 7.9 8.0 8.1 先進7ヵ国 2.3 −0.4−3.8 2.8 1.4 1.4 1.5 5.5 5.9 8.0 8.2 7.7 7.5 7.5  日  本 2.2 −1.0−5.5 4.5−0.8 2.2 1.2 3.8 4.0 5.1 5.0 4.6 4.5 4.4  米  国 1.9 −0.3−3.1 2.4 1.8 2.2 2.1 4.6 5.8 9.3 9.6 9.0 8.2 8.1  ユーロ圏 3.0 0.4−4.4 2.0 1.4−0.4 0.2 7.6 7.7 9.6 10.1 10.2 11.2 11.5  ド イ ツ 3.4 0.8−5.1 4.0 3.1 0.9 0.9 8.8 7.6 7.7 7.1 6.0 5.2 5.3  フランス 2.3 −0.1−3.1 1.7 1.7 0.1 0.4 8.4 7.8 9.5 9.7 9.6 10.1 10.5  イタリア 1.7 −1.2−5.5 1.8 0.4−2.3−0.7 6.1 6.8 7.8 8.4 8.4 10.6 11.1  英  国 3.6 −1.0−4.0 1.8 0.8−0.4 1.1 5.4 5.6 7.5 7.9 8.0 8.1 8.1  カ ナ ダ 2.2 0.7−2.8 3.2 2.4 1.9 2.0 6.1 6.2 8.3 8.0 7.5 7.3 7.3 新興国・途上国 8.7 6.1 2.7 7.4 6.2 5.3 5.6

 中  国 14.2 9.6 9.2 10.4 9.2 7.8 8.2 4.0 4.2 4.3 4.1 4.1 4.1 4.1  イ ン ド 10.0 6.9 5.9 10.1 6.8 4.9 6.0

 ブラジル 6.1 5.2−0.3 7.5 2.7 1.5 4.0 9.3 7.9 8.1 6.7 6.0 6.0 6.5  ロ シ ア 8.5 5.2−7.8 4.3 4.3 3.7 3.8 6.1 6.4 8.4 7.5 6.5 6.0 6.0

−0.8−1.1−0.2 0.0−0.2−0.4−0.3

−1.2−1.3−0.6−0.8−1.1−1.3−1.2

4.9 3.3 2.9 3.7 2.0 1.6 2.3

−5.1−4.7−2.7−3.0−3.1−3.1−3.1

0.4−0.7 0.1 0.4 0.4 1.1 1.3 7.4 6.2 5.9 6.0 5.7 5.4 4.7

−1.0−1.7−1.3−1.6−1.9−1.7−1.7

−1.2−2.9−2.1−3.6−3.3−1.5−1.4

−2.3−1.0−1.3−2.5−1.9−3.3−2.7

0.8 0.3−3.0−3.1−2.8−3.4−3.7 4.0 3.5 1.6 1.5 1.9 1.3 1.1 10.1 9.1 5.2 4.0 2.8 2.3 2.5

−0.7−2.5−2.0−3.2−3.4−3.8−3.3

0.1−1.7−1.5−2.2−2.1−2.6−2.8 5.9 6.2 4.0 4.7 5.3 5.2 3.8

(年)2007 08 09 10 11 12 13 実質GDP成長率(%)

(出所) IMF世界経済見通し(2012年10月9日公表版)。

2007 08 09 10 11 12 13

失業率(%)

2007 08 09 10 11 12 13

経常収支(対GDP比、%)

n/a n/a n/a

n/a n/a n/a n/a

n/a n/a n/a

n/a n/a n/a n/a

n/a n/a n/a

n/a n/a n/a n/a

n/a n/a n/a

n/a n/a n/a n/a

(12)

したがって、BRICSが一体として追求するアジェンダというのは今のところ、明らかにな っていない。貿易や投資、さらに戦略的な提携関係は、先進国対新興国という線引きより も複雑である。たとえば、日本や米国はインドと民主主義という価値を共有している。今 後、長期にわたって高い成長が見込めるインドは、日本の

ODA

や民間の直接投資の重点対 象地域となっている。G20においても、インフラ投資などのテーマで、わが国はインドネシ アをはじめとする他の新興国とも連携を深めていくことができる(21)

3) 国際金融システム改革

第2次世界大戦後、国際通貨制度は、金(ゴールド)と一定比率で結びついた米ドルに対 して、各国が一定の交換比率(平価)を定め、その平価を守るために、為替市場に介入する 義務を負う固定相場制であった。さらに、貿易不均衡が一時的な要因による場合は、IMFが 融資を行ない、恒久的であれば、IMFが為替レートの切り下げを勧告するというルールが定 められていた。これはブレトン・ウッズ体制と呼ばれたが、1971年のニクソン・ショック で米国が、米ドルと金との交換停止を一方的に宣言したことから崩壊した(22)。その後、各 国はIMFからサーベイランスを受けるという条件で、いかなる為替制度も採択してよいこ ととされた(23)。しかし、サーベイランスには

2つの限界がある。不均衡是正に必要な為替レ

ート調整に関して、経済学は厳密な数値を提供することはできないため、主観的な判断が 必要とされることと、国際協力の枠組みを通したサーベイランスは、主権国家の意思決定 にさほど影響力をもたないと思われることである。

IMFはサーベイランスを実施するにあたり、政治判断を必要とする問題を避けてきた。為

替相場政策はIMFサーベイランスの核心であるが、高度な政治判断を必要とする課題でも ある。IMFが中国人民元政策に十分な注意を払っていないという米国の批判を受け、IMFは

2007年、

「理事会決定」を

30年ぶりに改定し、付随する指針

(operational guidance)によって、

スタッフが4条協議(24)において為替の水準が適切かどうか明示的に評価することを義務付 けた。ところが中国は理事会決定の議決を棄権し、これが米国によって自国に向けられた ものとして、その後

2

年間、4条協議を拒否した。また、中国が拒否したことにより、マレ ーシアなど数ヵ国も同様な態度をとった。このエピソードは中国が経済超大国としてのプ レゼンスを高め、先進国によって決められた手続きを黙って受け入れる意思がないことを 表明する象徴的出来事でもあった(25)

IMF

における発言権は出資額(クォータ、割当額)に比例する。IMFから受けられる融資 額の上限もクォータによって決まる。現在、新興国では、その経済力の増大に見合ったク ォータの引き上げを強く求めている。クォータの見直しは第4図のクォータ計算式を参考に して議論されるが、クォータ・シェア計算式では

50%

の比重で、世界全体に占める各加盟

国の

GDPのシェアを勘案することになっている。第 1

表にみるように、新興国では先進国に

比べ物価が低いため、購買力平価(PPP)で評価した

GDP

は名目

GDPを上回っている

(26)。 現在、新興国のクォータの順位は、中国が

6

位、ロシアが

10

位、インドが

11

位、ブラジ ルが14位にとどまっているが、2010年12月に総務会で決議されたものの未発効の第14次ク ォータ見直しでは、中国が

3位、インドが 8

位、ロシアが9位、ブラジルが

10

位に、順位を

(13)

上げることになっている。すでに各国の批准は進んでおり、あとは、米国が批准すれば発 効する。だが、米国の批准には議会の承認を得る必要があるので、「財政の崖」などの懸案 を処理したあとになるだろう。見直し後の米国のシェアは

16.50%であり、重要事項の決定

を阻止できる15%のシェアをわずかながら上回っている。今回の新興国のシェア見直しの 結果、シェアが低下したのは、これまで過大なシェアとなってきた欧州諸国が多い。しか し、今後クォータの見直しを続けていくと、遠からず、米国の計算クォータが15%を切る ことになるだろう。その際、欧米がシェアの見直しに消極的になると思われる。しかし、

新興国のシェアの上昇を認めないと新興国がIMFから距離をおくようになると懸念される。

なお、見直し後、日本のシェアは単独2位の6.14%であるが、3位の中国の

6.07%とは僅差で

あり、次の見直しでは逆転は必至と思われる。

今回の見直しでもすでに、計算クォータ・シェアにより忠実に見直せば、中国のシェア は単独

2

位に上昇するはずであったが、中国が現段階で2位になることをためらったと言わ れている。シェアの見直しはゼロサムであるので、中国は本来、自分に回るはずのシェア の上昇分を他の新興国に回すことで、恩を売ることができる(27)。しかし、中国が2位になる のをためらった一番大きな理由は、IMFの出資比率が

2

位になるとそれなりの責任を伴うか らである。2位になると今のように為替市場に頻繁に介入して、人民元の上昇を抑えること が難しくなる。また、国内にまだ多くの貧困層を抱えているので、国際機関に資金を拠出 するよりも国内の開発に資金を回すべきだという政治的配慮もあるだろう。

ドルは1971年にブレトン・ウッズ体制が崩壊したあとも、市場で選択された基軸通貨と して君臨してきた。しかし、2008年

11

月、ワシントンで開催されるG20サミットを前にサ ルコジ大統領は「ドルはもはや基軸通貨ではない」と言い放った。2009年

3

月には、中国人 民銀行の周小川総裁が、「国際通貨制度改革に関する考察」という論文のなかで、ドルの代 わりにIMFの

SDR

を準備通貨にすべきと表明し、世界の注目を浴びた(28)。国際通貨をドル だけに頼ると、米国が放漫財政や過度の金融緩和によってインフレになった場合、ドルの 価値が下落し世界的にインフレになってしまうという問題の指摘である。そのため、複数 の国際通貨の並立が望ましいという主張であり、人民元をSDRの構成通貨にするという狙 いがある。ロシアもドルの一極体制に批判的であり、ルーブルを国際通貨にしたいと考え

第 4 図 クォータ計算式

 4変数については、世界全体に占める各加盟国の数値のシェアを計算式に代入して 算出。kは、総和を100%とするための定数。

(注)

 筆者作成。

(出所)

クォータ計算式は、簡素かつ透明性のあるものにするとの観点から、2008年4月に 合意された増資にあたり、以下の式に改定された。

計算クォータ・シェア

  =k(0.5×GDP+0.3×開放性+0.15×可変性+0.05×外貨準備)0.95

  (1)G D P:市場レート60%、PPP(購買力平価)40%で加重平均   (2)開 放 性:経常支払額と経常受取額の合計の平均値

  (3)可 変 性:経常受取額と純資本フローの変動   (4)外貨準備:近時12ヵ月の平均値

(14)

ている。こうした背景のなか、2011年3月にG20の金融担当相や中央銀行総裁が参加する国 際通貨体制に関するハイレベルセミナーが、中国の南京市で開催された。ガイトナー財務 長官が「SDRの構成通貨に関する変更を支持する」と述べた一方、「為替相場の弾力性、中 央銀行の独立性、資本の自由な移動が条件だ」といっそうの改革を求めた。サルコジ大統 領も「人民元は国際通貨になるべきだ」とした(29)。しかし、ガイトナーのこの3条件は中国 として受け入れられるものではない。これ以後、中国はSDRの見直しに言及しなくなった。

SDRについて、日本の政策当局者は、SDR

も活用の仕方をさらに検討していく余地はある

が、SDRの本質は通貨というよりは当局間で外貨準備を相互に融通する、コンディショナ リティーのないクレジットラインの性格にとどまっているとも言えると指摘している(30)

国際金融アーキテクチャーの担い手のうち、IMFはマルチラテラリズム(多国間主義)、

G20は政府間主義を体現しているが、ユーロ圏やチェンマイ・イニシアティブは地域主義で

ある。2010年

11

月の

G20

ソウル・サミットでは、グローバルな枠組みと地域の枠組みの協 調を謳っている(31)。地域主義においては先進国と新興国が地域内で協調しているが、ユーロ 圏に比べて東アジアにおいては新興国の構成メンバーが多い。

4) 当面のアジェンダ

最後に、直近のG20ロスカボス・サミットの首脳宣言とアクションプランのなかから、新 興国と先進国の協調の例を拾ってみよう。まず首脳宣言は、貿易では、保護主義の抑止に 強くコミットし、新たな保護主義的措置を設けないとのコミットメントを

2014年まで延長

した。次に国際金融アーキテクチャーの強化については、IMFの利用可能資金を増加させる とのコミットメントの進展を歓迎した。これは、欧州債務問題への

IMF

の対応力を強化す るため、わが国が2012年4月に600億ドルの資金貢献を表明したのに続いて非ユーロ圏の各 国も貢献をコミットし、ロスカボス・サミットにおいて資金基盤強化の金額が4500億ドル を上回ることになったものである。また、新興国・途上国の消費者や中小企業が金融サー ビスを受けられるよう、世界銀行グループや二国間援助ドナーが協力することを奨励し、

新興国・途上国に対するインフラ投資への支援が必要であると強調した。さらに、グリー ン成長(環境保護と経済成長の両立)に

G20として焦点をおき続けることにコミットした

(32)。 次にアクションプランでは、まず、ユーロ圏のメンバー国は、ユーロ圏の一体性および 安定性を守り、国家と銀行の間のフィードバックを断ち切るためにすべての必要な措置を とるとした。次に、仮に経済状況が大幅に悪化した場合、アルゼンチン、オーストラリア、

ブラジル、カナダ、中国、ドイツ、韓国、ロシア、米国は、内需を支えるためのさらなる 措置を実施する用意があると表明した。さらに、中長期的な成長のための基盤の強化のた め、米国および日本は、政府債務対GDP比の着実な減少につながる行動にコミットした(33)

さらに、2012年

11

月にメキシコシティで開催された

G20

財務大臣・中央銀行総裁会議で は、最近の世界経済の減速傾向に鑑み、財政に十分余裕がある国は、経済状況が悪化した 場合には、必要に応じ短期的に需要を支える用意があるとした。これは、サミットのアク ションプランを踏まえ、ブラジル、中国、ロシアなどの新興国とドイツ、米国などの先進 国がともに協調することを示したものである。また、中国の人民元や韓国のウォンを念頭

(15)

に、より市場で決定される為替レートシステムと為替の柔軟性にいっそう迅速に移行し、

為替レートの継続したファンダメンタルズからの乖離を避けるというコミットメントを再 確認した。さらに、最近の円高が日本経済に悪影響を与えているというわが国の主張を反 映して、為替レートの無秩序な動きは経済および金融の安定に対して悪影響を与えること を再確認するという文言が声明に明記された(34)

先進国と新興国が多数メンバーになっている

G20では調整に骨が折れ、ときに激しく対立

する場面もあるものの、経済の相互依存が高まるなか、世界経済に対して共同して責任を 負っていることを自覚し、相互に理解を深め、最大限の協調を実現するために努力を続け ていくことが重要である。

1

) 中林伸一『G20の経済学―国際協調と日本の成長戦略』、中公新書、2012年、25ページ。

2

) 同前、53―55ページ。

3

G20から EU

とトルコを除き、香港、タイ、マレーシア、ポーランドを加えたグループ。

4

) 当時まだ、IMFの一般借入取極(GAB)への参加国で構成する

G10(G7+ベルギー、オランダ、

スウェーデンの

10ヵ国に、スイスが遅れて参加)が、国際金融システムの制度改善について検討

を続けていた。しかし、米国のガイトナー国際担当財務次官補は、アジア通貨危機などの発生を 踏まえ、欧州の先進国ばかりの

G10で、新興国発の通貨危機について検討することは難しいと考え

たと伝えられている。

5

) それにEUを加えて、20ヵ国・地域となっている。

6

) イアン・ブレマー(北沢格訳)「Gゼロ」後の世界―主導国なき時代の勝者はだれか』(日本 経済新聞出版社、2012年、13―14ページ)によれば、1993―2002年までカナダの財務相、2003

2006

年までカナダの首相を務めたポール・マーティンは、彼が

G20を提唱した理由は、グローバ

ル・ガバナンスを夢見たというよりは、カナダにとってベストな選択肢を求めた結果、つまり先 進国だけのグループである

G7が時代遅れになるのに見切りをつけ、有力な新興国を加えた新しい

フォーラムの立ち上げに主導権を握ることで、有力な友人たちを獲得できるはずだと信じていた と語っている。

7

) 小林正宏・中林伸一『通貨で読み解く世界経済―ドル、ユーロ、人民元、そして円』、中公新 書、2010年、135―147ページ参照。

8

) 藤井彰夫『G20―先進国・新興国のパワーゲーム』、日本経済新聞出版社、2011年、31―32 ージ。

9

) 同前、37―48、52―67ページ。

(10) 中林伸一、前掲書、173―174ページ。

(11)「20ヵ国財務大臣・中央総裁会議コミュニケのポイント」2008年11月8―

9日、ブラジル・サン

パウロ(http://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g20/g20_201109.htm)

(12) 岡村健司編『国際金融危機と

IMF』

、大蔵財務協会、2009年、18―19ページ。

(13) 同前、183―186ページ。

(14)「ロンドン・サミット首脳声明(骨子)(http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_aso/fwe_09/communique_

k.html)

(15) 藤井彰夫、前掲書、120―122ページ。

(16) 米中の協調と対立のシナリオについては、イアン・ブレマー、前掲書、参照。

(17) 中林伸一、前掲書、41―45ページ。

(18)

G4、新 G5、人民元の国際化や中国の政治構造の特殊性については、同前、58

―64ページ。

(16)

(19) 英『エコノミスト』編集部(東江一紀・峯村利哉訳)『2050年の世界―英「エコノミスト」誌 は予測する』、文藝春秋、2012年、236―261ページ参照。

(20)

BRICs

の最後の

sが複数形を表わす小文字の sから、南アフリカの頭文字を表わす大文字の Sに変

わった。

(21)「インド首相、中国けん制 日本と連携」『日本経済新聞』2012年11月15日。

(22) ニクソン・ショック後の

IMFの機能とその変遷については、浅川雅嗣「国家財政破綻への対応

―国際金融における実例を基に」『フィナンシャル・レビュー』第103号(2011年)、101―107 ージ参照。

(23) 高木信二「国際通貨制度の将来―新興国の台頭とマルチラテラリズム」、岩田一政・浦田秀次 郎編『新興国からの挑戦―揺らぐ世界経済システム』、日本経済新聞出版社、2011年、55ページ。

(24)

IMF

協定第

4

条に基づき、毎年1回、審査対象国の当局と政策協議を行ない、その結果について 理事会に報告し議論を行なうもの。

(25) 高木信二、前掲論文、58―60ページ。

(26) たとえば、中国のGDPの世界シェアは、名目では10.5%だが、PPPでは

14.3%に増大する。さら

に物価の低いインドの場合には、名目の

2.6%

から、PPPの5.6%へと大きく増大する。現在、計算 式では

GDP

のシェアを名目60%、PPP40%の比率で加重平均することとしている。PPPを勘案する ことになったのは、新興国の主張を反映したものであり、新興国ではこの比率をさらに高めるよ う求めている。

(27) これにより、中国は

IMFにおいてその地位を高める際に、新興国への正当なシェアの配分という

流れに乗って、新興国グループのリーダーとしての地位を強めることができる。

(28) 小林正宏・中林伸一、前掲書、4ページ。

(29)「人民元の国際化へ規制緩和促す声相次ぐ―

G20

セミナー」、日本経済新聞電子版(2011年3

31

日)

(30) 中尾武彦「グローバル金融危機への国際的対応―

G20金融サミット等における議論と今後のマ

クロ政策及び金融規制のあり方」『フィナンシャル・レビュー』第

101

号(2010年)、48ページ。

(31) ギリシャ危機など欧州債務問題においては、EU、欧州中央銀行(ECB)とIMFのトロイカで危 機対応が進められているが、2011

5月にシンガポールで AMRO(ASEAN

+3 Macroeconomic

Research Office)が活動を開始した東アジアにおいても、地域金融取極(RFAs)と IMFの協調を強

化するための対話が進められている。「ソウル・サミット文書(仮訳)」のパラ24、25参照(http://

www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/g20/seoul2010/document.html)

(32)「G20ロスカボス・サミット首脳宣言」(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/g20/loscabos2012/declaration_

j.html)

(33)「ロスカボス成長と雇用のアクションプラン(仮訳)(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/g20/loscabos

2012/action_plan_j.html)

(34)「20ヵ国財務大臣・中央銀行総裁会議声明(仮訳)」2012年

11月4―5

日、於:メキシコ・メキシ コシティ(http://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g20/g20_241106.htm)

なかばやし・しんいち IMF国際経済コンサルタント

snakabayashi@imf.org

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