学校推薦型選抜(公募制)/ 2021
基礎学力テスト (家政学部 ライフスタイル学科・こどもの生活学科)
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次の文章を読み、後の問いに答えよ。私たちはだれでも生活しています。日常的に衣食住をきりもりし、通学したり通勤したりあるいは商 売をやったり、じつにいろいろのことをやって生活しているのです。こういった個人の生活が組みあわさっ て日本を形成し、世界を形成しているのです。そして逆に世界のなかで、日本のなかで私たち個人の生活 があるわけです。ですから、私たちの生活はどんなにA私的に見えるものでも、それが社会的な問題に、
たとえば核問題に好むと好まざるとにかかわらずつながっています。どんな音楽が、どんな料理が、どん な人が好きかということでさえ、じつは社会的に形成されているのです。
もし自分の生活にまったくa埋没しているならば、そこになんの疑問も生じません。しかしそんな人 はいるはずがないと私は思います。たとえそれがかすかな違和感という形をとっていたとしても、 ア は必ず生ずるはずです。それは問題意識の芽です。こういう芽は生活のいたるところに、おそらくあるは ずです。しかしそれは芽でしかありません。そこに葉がでて茎くきがでて花が咲くにはいろいろな条件が必要 です。しかしいずれは花になるはずの芽は人間だったらだれでも持っているにちがいない、そう私はbカ クシンしています。しかしその芽を育てることがはたしてできるか、そこにその人の生活の質が現われて いるのではないでしょうか。
だれでも持っている問題意識の芽は、また知・情・意という意識の三つの側面のつながりの芽です。
問題意識の芽を育てることのできない人は、知・情・意のつながりの芽も育てることはできません。つま り人間として自分を育てることができないのだ、と私は思います。生活のなかで疑問の形で生じてきた問 題意識をするどいものにするためには、知・情・意のつながりをするどく強いものにしなくてはなりませ ん。そのための環はやはり知の側面、理性の側面ではないでしょうか。
Bこのことを考えてみるために対話、討論を例にとってみましょう。
対話といってもごく日常的な対話は別として、通常は対話がおこなわれることによって対話の当事者 たちの認識がたとえ最終的に意見は一致しなくともしだいに高まってゆくはずです。しかもとくに青年に おいては対話のなかで人格の高まりがおこなわれるものです。そして対話の鍵となるのが、問題であり、
問題意識なのではないでしょうか。 イ 最近の青年たちのなかでは真剣な対話が見かけられなくなっ ているそうです。「友人はたくさんいるが、真面目な話ができる相手がいない」という発言を聞く一方で、
「まじめ」な話をすると逆にひやかされたり、「ひとに自分の考えを押しつけるな」と答える青年も多いと いう話を聞きます。
これはやはりC問題意識の問題なのではないでしょうか。問題意識が欠如しているときは、どんな話 をしても興味をもてないし、対話をつづけようとする意志を生ずるわけはありません。そうすると対話を していながら実は対話はなりたたず、モノローグ(ひとりごと)の並立ということになります。しかしこ のときも問題意識がないように見えるだけであって、問題意識の芽は現代社会で生活する青年ならば必ず あると思います。ただその芽が眼に見える程度に大きくなっていないだけなのです。だからこの芽を育て ようとするcタイドが、対話の少なくとも一方にあるときはいつかは、たいへん苦労を要することではあ るにしても、対話は成立するようになるでしょう。そしてそのなかで問題意識はするどくとぎすまされて くるにちがいありません。
さて、するどい問題意識をもった人は、父親をd落盤事故で失った子どもの話を聞くとき、サラ金で 両親が蒸発して捨てられた赤ん坊のニュースに接するとき、四〇年ぶりで肉親に再会した中国残留日本人 eコジを目にするとき、胸がしめつけられる思いがし、こんな社会を生み出した根源への怒りを燃やし、
明日の行動への意志をあらたにします。しかし、たんなる悲しみ、たんなる怒りは一過性のものです。人 間はすべての悲しみ、すべての怒りをいつまでもひきずっているわけではありません。それではとても生 きてゆくことができないからです。だから、悲しみが、怒りが持続し、それが確固とした意志に転化する
ためには別の要因が必要です。それが知性であり、理性である、と私は思います。悲しみや怒りの根源を 冷静に追求し、それを変革への固い意志にきたえあげるハンマーの役割を果たすのは知性、理性なのです。
だから、問題意識には知性・理性も、感情・情念も、意志・意欲もすべてかかわっています。つまり 問題意識は、知・情・意という意識の三つの側面が像をむすぶ焦点のようなものだと思います。レンズが ゆがんでいるときは明めいせき晰な像はむすびえないように、問題意識がくもっているときは知・情・意はちぐは ぐなものになります。問題意識がシャープにとぎすまされているとき、知・情・意は調和のとれた状態に あり、その人は自立したゆたかな人格を形成するのではないでしょうか。したがって、その人の問題意識 が鮮明であればあるほど、ほんとうに人間らしく生きいきと生活しているのだと言ってよいと思います。
(仲本章夫『理性の復権』)
問 1 下線部a〜eにおいて、漢字は読みを書き、カタカナは漢字に直せ。
問 2 下線部A「私的」の反意語を文中から抜き出して答えよ。
問 3 空欄 ア にあてはまる語を文中から抜き出して答えよ。
問 4 下線部B「このこと」とはどのようなことか、簡潔に説明せよ。
問 5 空欄 イ にあてはまる語を次の①〜④より選び、番号で答えよ。
① すなわち ② なぜなら ③ ところが ④ よって 問 6 下線部C「問題意識の問題」とはどのようなことか、簡潔に説明せよ。
問 7 筆者は「理性(あるいは知、知性)」をどのようなものと述べているか、簡潔に説明せよ。
2
次の文章を読み、後の問いに答えよ。インターネット、携帯電話に代表される情報化は、本来はビジネスなどの合理化、効率化を進め、消 費についても、ネットショッピングのように人々の潜在ニーズをa顕在化することが期待された。実際、
日本中どこに住んでいても、真夜中であっても、欲しい物がすぐに買える環境が実現したのだから、その 分消費は伸びたはずだ。
ア 、物心が付いたときにすでにテレビゲームも携帯電話もインターネットもあった現代の若者に とって、情報化は単に消費を便利にしただけではなかった。それは 24 時間いつでもどこでも友達とのつ ながりあい、同時にb束縛しあうことでもあったのだ。たしかに彼らは情報社会というAプラットフォー ムの上で自由にコミュニケーションし、行動し、行動範囲を広げている。しかし、そうであるがゆえに、
コミュニケーションの維持管理に時間と労力がかかりすぎて、他のことに手が回らなくなっているのでは ないかとすら思われたのである。いわゆる「B草食化」、つまり消費や性に対する若者の意欲の減退と呼 ばれるものも、コミュニケーションに費やされる時間とエネルギーがcフタンになっていることが背景に ありそうだ。
ケータイ以後の若者コミュニケーションについては、選択的なコミュニケーションが増えた、都合の いいときだけつながり、悪いときはつながらないで済ませる、オンオフ的なコミュニケーションが増えた という論がこれまでは展開されてきたと思う。私もそのように理解し、コミュニケーションの相手を選択 することが若者の全体的なコミュニケーション力を低下させたのではないかと考えていた。
イ 今回、学生の話を聞いていると、そうではないのではないかと思われた。むしろ彼らは、コミュ ニケーションの相手を選択できない、もうつきあわなくてもいい相手とも関係を切れない、オフにできな いでいる。別れたい彼女とも、周囲の共通の友人、知人の評価などが気になって別れられないのである。
どんどん増えていくばかりの相手とつねにコミュニケーションをとらねばならず、そこに時間もエネル ギーも割かれているのである。
ウ 、誰と関係を結ぶかについての選択の自由は上昇しているが、関係を維持せよ、一人でいては いけないという圧力もまた大幅に上昇しているらしいのである。お互いが仲良くしているというと聞こえ がいいが、牽けんせい制し合って、金縛りになって、何もできないでいるようにも見える。それでも楽しいからい いかと満足している、そのふりをしているようにも見える。
さらにそこに男女関係がからまりあう。現在は、一流大学でも三割ほどが女子だ。学部によってはもっ と多い。そこで若い男女がリアルに出会うだけでなく、ネットでも常時接続されている。男子から見れば 女子の反応は非常に重要だ。C逆もまた真なり。異性に関する様々な情報が即座にネットに乗り、結果と して、不特定多数の他者の反応を常時気にしなければならない状態になっている。もちろん、同性間の情 報も気になる。このため、彼らはコミュニケーションの維持管理のためにつねにお金と時間とを使わざる を得なくなっている。
エ 、消費した物や自分の発言によって他者から突出することも慎重に避けられている。人が知ら ないことを知る、人の持たない物を持つ差別化が好まれない。そこに 1980 年代までの若者に見られた個 性化、差別化という志向性は感じられない。非常に同調志向が強い。それはすでに 1950 年代にアメリカ の社会学者リースマンが「他者志向」と名付けて以来、「豊かな社会」における若者のdトクチョウであ るが、それにしても現代日本の若者のeカジョウなまでの同調性の高さは 1980 年代の若者だった私には 驚きだ。それはまさに 80 年代の流行語で言えば「ほとんどビョーキ」に見える。
(三浦展・原田曜平『情報病−なぜ若者は欲望を喪失したのか?』)
問 1 下線部a〜eにおいて、漢字は読みを書き、カタカナは漢字に直せ。
問 2 下線部A「プラットフォーム」の意味に合うものを次の①〜④より選び、番号で答えよ。
① 環境 ② 誘導 ③ 記号 ④ 用語 問 3 下線部B「草食」に対して反対の意味となる語を書け。
問 4 下線部C「逆もまた真なり」を本文の内容に合うような文章にすると、どのように書くことができ るか。
問 5 空欄 ア 、 イ 、 ウ 、 エ に当てはまる接続詞の組み合わせが正しいものを次の①〜④より選 び、番号で答えよ。
① ア しかし イ そして ウ つまり エ しかし ② ア そして イ また ウ さらに エ そして ③ ア しかし イ しかし ウ つまり エ また ④ ア そして イ いっぽう ウ しかし エ さらに
問 6 筆者は情報化が発達したことによって、若者にどのような対人感覚の変化があると述べているか、
説明せよ。
① ②
③ ④
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学校推薦型選抜(公募制)/ 2021
基礎学力テスト (家政学部 ライフスタイル学科・こどもの生活学科)
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次の文章を読み、後の問いに答えよ。内田麻理香:評 『専門知を再考する』=H・コリンズ、R・エヴァンズ:著、奥田太郎:監訳
新型コロナウイルスの問題が拡大する状況下、専門家という存在がaジュウライよりも注目されている。
本書は、科学技術に関わる意思決定に、誰が関わるべきかの論争に対し、「そもそも、A専門知とは何か」
という問いを立て検討する。専門知や専門家を冷静に判断するための助けになる一冊だ。
著者は、科学技術ポピュリズムの立場や、科学技術の専門家の特権性をb称揚する立場の両極に振れる ことはしない。信頼しうる専門知の成立条件を精査し、「民衆の知恵」と専門知の境界線を引き直そうと する。
特定分野の専門知については、五段階の梯は し ご子がある。最も下位の「ビアマット知識」は、雑学クイズ に正答するたぐいの知識だ。次の「科学の通俗的理解」は、「抗生物質はウイルス感染症を治さない」な どの科学的知識の理解を指す。この知識は当該科学の議論に論争がある場合は、その主題をcハアクでき ないため、この理解のレベルにある者が専門的な判断を下しても、拙劣なものになる。次に、一次文献な どを読んで得られる「一次資料知識」があるが、この一次資料も論争中の分野に関しては一度も読まれて いない論文という場合もある。一次資料知識も科学の論争を理解することからは遠い。
本書では、論争のある科学を理解できる専門知となる条件として、「暗黙知」の獲得を挙げる。暗黙知 とは、それを保有する集団に馴な じ染むことによってのみ獲得できる深い理解のことを指す。五段階の梯子の 最上位に位置するのが、「貢献型専門知」である。これは、特定分野に属し、熟練した実践をしてその分 野に貢献する専門家がもつ知識のことだ。
本書のオリジナリティーは、貢献型専門知の下の段階にある、「対話型専門知」に注目した点である。
対話型専門知は「専門分野の、実践44についての専門知を欠いた、言語44についての専門知」と定義される。
特定分野の社会学者、ジャーナリストなどがこの専門知をもつという。著者の一人であるコリンズは、重 力波物理学の社会学者だ。彼は実践はしないが、重力波物理学について語ることができる対話型専門知を もつとみなされる。
この暗黙知の習得は容易ではない。コリンズは、アモルファス半導体の分野で社会学的研究を試みたが、
この分野の暗黙知は獲得できなかったことを認めた。本書の第四章では、この対話型専門知を検証するた めの実験が詳説されている。重力波物理学についての実験では、他分野の科学者よりも、当該分野の社会 学者であるコリンズの方が、対話型専門知をもっているという結果が出たことは興味深い。科学者が、必 ずしも他分野の貢献型専門知をもっているわけではないことがd示唆される。
著者たちは、たとえ専門知をもたないとしても、公衆は科学技術に関する意思決定の問題にe携わる権 利があると主張する。公衆は「民衆の知恵」をもつという理由で権利があるわけではない。 ア 、論 争的な科学に公衆が加わるのは、民主的な社会における政治的な権利なのだ。
新型コロナウイルスは、論争的な科学であり、専門知とは何か、誰を専門家として鑑定するか、市民 としてどう関わるべきか、などの問題を突きつけている。専門知の正体を見極めようと探求するB本書は、
いまの時代に必読であると考える。
(毎日新聞 2020 年 5 月 30 日)
問1 下線部a〜eにおいて、漢字は読みを書き、カタカナは漢字に直せ。
問 2 この問題文の筆者は誰か答えよ。
問 3 下線部A「専門知」の対立概念は何か、文中から抜き出して答えよ。
問 4 「専門知」の「五段階の梯子」を上位より順に示せ。
問 5 空欄 ア に入る適切な接続詞を次の①〜④より選び、番号で答えよ。
① そして ② ところが ③ そのため ④ しかし 問 6 下線部B「本書は、いまの時代に必読である」と筆者が考える理由を述べよ。
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次の⑴〜⑽までの各文章の空欄にあてはまるものをそれぞれ①〜④の番号で答えよ。⑴ ドストエフスキーの代表作は である。
① 罪と罰 ② 高慢と偏見 ③ ファニーとアレクサンデル ④ フラニーとゾーイー
⑵ 「そそのかす」の意味として正しいものは、 である。
① 相手がよくない行動をするように、おだてたり誘ったりする。
② 相手の気分が良くなるように、褒めたりよろこんだりする。
③ 相手のことを無視するなどして、意地悪をする。
④ 相手のことを他の誰かに悪い印象がつくように告げ口をする。
⑶ WTOとは、 の略称である。
① 世界保健機関 ② 世界気象機関 ③ 世界銀行 ④ 世界貿易機関
⑷ 衆議院議員の被選挙権は である。
① 満 18 歳以上 ② 満 20 歳以上 ③ 満 25 歳以上 ④ 満 30 歳以上
⑸ 毎年 1 月に召集され、会期が 150 日の国会のことを という。
① 通常国会 ② 臨時国会 ③ 特別国会 ④ ねじれ国会
⑹ 対角線の数と辺の数が同じになる形は である
① 正三角形 ② 正方形 ③ 正五角形 ④ 正八角形
⑺ ドライアイスは が固まったものである。
① 窒素 ② 酸素 ③ 二酸化炭素 ④ 水素
⑻ 月のように惑星の周囲を公転する天体のことを という。
① 小惑星 ② 彗星 ③ 衛星 ④ 恒星
⑼ 香港が中国に返還される前まで統治していた国は である。
① オランダ ② アメリカ ③ フランス ④ イギリス
⑽ 日本の河川のうち、最も流域面積が広いものは である。
① 利根川 ② 筑後川 ③ 吉野川 ④ 信濃川
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次の空欄にあてはまる数字をそれぞれ答えよ。⑴ に 9 を足して 8 をかけたものと、ある数字に 11 をかけ 15 を引いたものは等しくなる。
⑵ 一次関数y=−x+7 において、xの変域が(− 1 ≦x≦ 2 )のときのyの変域は である。