Business Writing
No.4
減損会計と情報インダクタンス
1
課 題
• 減損会計は,固定資産について,その帳簿価額 の全額を回収できなくなった場合に,当該資産 の帳簿価額を回収可能額まで切り下げる会計で あり,わが国では2005年4月1日以降に開始する 事業年度から上場企業等に実施が義務づけら れるようになりました。
• 減損会計が実施された場合,当該企業の損益 計算書には減損損失が計上され,その金額だけ 当期純利益は減額されます。
課 題
• しかし,上場企業の中には,2005年4月1日以降 に開始する事業年度よりも早い年度から,減損 会計を自発的に実施(早期適用)した企業も,少 なからずありました。
• このように減損会計の実施に当たって,早期適 用する企業と早期適用しない企業というように,
上場企業間で対応が分かれた理由を,情報イン ダクタンスの観点から説明しなさい。字数は350 字程度とします。
復習 情報インダクタンス
• P.Prakash and A.Rappaport[1977],
“Information Inductance and Its
Singnificance for Accounting,”AOS, 2(1), pp.29-38.
情報インダクタンス
• 基本命題
情報の送り手は,情報の受け手の反応を事 前に予測して行動する。
Feedforward ≠Feedback
5
送り手 受け手
情報 反応 実際の情報
情報インダクタンスの意義
• 測定行為が測定対象に影響を及ぼすこと(e.g. 温度計と水 温)や,測定結果が異時点に伝達されること(e.g. サーモス タット)は,社会システムと自然システムを区別する規準と ならない。
• 自然システムは,測定されることを知らない。したがって,
それは,測定の結果を予想しない。フィードバック効果を予 想して行動を変更することがない。
• かくして,社会システムを自然システムから区別するの は,インダクタンスである。Thus it is inductance which distinguishes social systems from physical systems.
(Prakash and Rappaport[1977]p.31)
6
情報の送り手の 3 段階の行動
1.業績の記述の変更
(例)会計方針の変更。定率法→定額法 2.行動の変更
(例)目的達成行動の変更。
①販管費の削減,新規採用枠の削減等。
②自己申告目標の調整(成果主義賃金システ ムの失敗要因)。
3.目的の変更
(例)特定プロジェクトの中止,廃止事業等。
7
解答のポイント
1.早期適用した企業と,早期適用しなかった企 業の,それぞれのインセンティブを,分けて考 える必要があります。
なぜ早期適用したか。
なぜ早期適用しなかったか。
2.課題のケースは,第1段階の行動(業績の記 述の変更)に当たります。
モデル解答
• 減損会計を早期適用した企業と,早期適用し なかった企業に分けて考える必要がある。
• 減損会計を早期適用した企業は,減損損失 の自発的な開示が利益圧縮型決算の戦略的 実施(ビッグバス・V字回復指向型決算)という シグナルになり,市場のポジティブな反応(積 極的な評価)をもたらすことを期待して,減損 会計を早期適用したと考えられる。
つづき
• これに対し,減損会計を早期適用しなかった企 業は,減損損失の計上が市場関係者のネガティ ブな反応をもたらすことを予想し,そうした事態を 回避するために減損会計を早期適用しなかった と考えられる。
• 前者のケースは相対的に業績良好の企業が,
後者のケースは相対的に業績不振の企業が,
該当すると考えられる。
(301字)
得点分布状況 N=19 名
内容 文章・構成 総合点
A+ 2 2 2
A 3 2 3
A‐ 3 3 3
B+ 5 6 6
B 5 4 4
B‐ 1 2 1
C+ 0 0 0
C 0 0 0
C‐ 0 0 0
D 0 0 0
19 19 19
得点分布状況 N=19 名
採点を振り返って
(1)文書の修正に線や塗りつぶしの使用が増えまし た。
(2)文字数を大幅に満たさない解答がありました。
(3)減損会計を早期適用した企業および早期適用 しなかった企業両者に関して、前者または後者の み議論されている解答が見られました。
(4)文章・構成の得点の上昇とともに内容の得点も 上がってきました。