コンプトン散乱
1923年にコンプトンは、X線と物質との散乱実験で、散乱後のX線の中に、入射し たX線の波長よりも長い異なるX線が含まれることを発見した。そのX線の発生を、X線 光子と電子の弾性衝突によって起こると説明した。
衝突前の状態:
X線光子(波長λ,振動数ν =c/λ,エネルギーE =hν =hc/λ) 電子(エネルギーEe =mc2,静止しているので運動量は0) 衝突後の状態:
X線光子(波長λ′,振動数ν′ =c/λ′,エネルギーE′ =hν′ =hc/λ′) 電子(エネルギーEe′ =m′c2 =mc2/q1−(v/c)2 =qm2c4+p2ec2、 運動量pe=m′v =mv/q1−(v/c)2)
m′c2 =mc2/q1−(v/c)2 =qm2c4+p2ec2」の証明 両辺を2乗する。
m2c4/(1−(v/c)2) =m2c4+p2ec2 (0.1) pe =m′v =mv/q1−(v/c)2を代入する。
右辺 = m2c4+p2ec2 =m2c4+ m2v2 1−(v/c)2c2
= m2c4(1−(v/c)2) +m2v2c2
1−(v/c)2 = m2c4
1−(v/c)2 =左辺 (0.2)
(証明終わり)
次に、X線の入射する方向をx軸にとり、それに垂直にy軸をとる。但し、散乱したX 線と電子は、xy平面内にあるものとする。X線の散乱する方向にx軸からの角度θをと り、また、電子の散乱する方向にx軸からの角度φをとる。(原康夫第3版「物理学基礎」
298ページ図24.3参照)
エネルギーの保存則から次の式を得る。
E+Ee =hν+mc2 =hc/λ+mc2 =E′+Ee′ =hν′+m′c2 =hc/λ′+qm2c4+p2ec2(0.3) 更に、 運動量の保存則から、x成分とy成分のついてそれぞれ、
x成分: X線の全運動量p=h/λ=p′cosφ+pecosθ =hcosφ/λ′+pecosθ (0.4)
y成分: 0 =hsinφ/λ′−pesinθ (0.5) 式(0.4)と(0.5)から、p2ecos2θ+p2esin2θ=p2eを計算する。
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p2e = (h/λ−hcosφ/λ′)2+ (hsinφ/λ′)2
= h2/λ2+h2cos2φ/λ′2−2h2cosφ/(λλ′) +h2sin2φ/λ′2
= h2/λ2+h2/λ′2−2h2cosφ/(λλ′) (0.6) これを式(0.3)に代入したいのだが、煩雑になるのを避けるため、式(0.3)を予め変形し ておく。即ち、m′c2 =qm2c4+p2ec2を2乗して、
Ee′
2 = m2c4+p2ec2 = (E+Ee−E′)2 = (hc/λ+mc2−hc/λ′)2
= h2c2/λ2 +h2c2/λ′2+m2c4−2h2c2/(λλ′) + 2mc3h(1/λ−1/λ′) (0.7)
を得、これに式(0.6)を代入する。
m2c4+p2ec2 = m2c4+ (h2/λ2+h2/λ′2−2h2cosφ/(λλ′))c2
= m2c4+h2c2/λ2+h2c2/λ′2−2h2c2cosφ/(λλ′)
= 式(0.7)
= h2c2/λ2+h2c2/λ′2 +m2c4−2h2c2/(λλ′) + 2mc3h(1/λ−1/λ′) (0.8) この式の2行目と4行目を比較すると、m2c4+h2c2/λ2+h2c2/λ′2が消去でき、
−2h2c2cosφ/(λλ′) = −2h2c2/(λλ′) + 2mc3h(1/λ−1/λ′) (0.9) を得る。全体にλλ′/(2mhc3)を掛けると、
−(h/mc) cosφ =−h/mc+ (λ′−λ) (0.10) 即ち、
∆λ≡λ′−λ= h
mc(1−cosφ) (0.11)
を得る。これは、テキスト(298ページ)問1の(24.5)式を得たことになる。散 乱後のX線の波長のずれは、X線の散乱する角度φが大きい程大きくなることが分かる。
ポイントは、
光子のエネルギー:E = hν =hc/λ 光子の運動量:p = h/λ
電子のエネルギー:Ee′ = m′c2 = mc2
q1−(v/c)2 =qm2c4+p2ec2 電子の運動量:pe = m′v = mv
q1−(v/c)2 (0.12)
である。
2007.1.24 物理学IIB(鎌田)
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