• Tidak ada hasil yang ditemukan

PDF 刑事事件の捜査の端緒としての生命保険調査

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

Membagikan "PDF 刑事事件の捜査の端緒としての生命保険調査"

Copied!
22
0
0

Teks penuh

(1)

1

刑 事 事 件 の 捜 査 の 端 緒 と し て の 生 命 保 険 調 査

- 生 命 保 険 犯 罪 防 止 に 資 す る 特 性 分 析 -

住 友 生 命 前 田 順 平

個 々 の 契 約 か ら 見 た 場 合 の 生 命 保 険 制 度 は 、 当 該 契 約 の 状 況 如 何 に よ り 、 少 額 の 保 険 料 で 多 額 の 保 険 金 が 得 ら れ る 可 能 性 が あ る 仕 組 み と 捉 え る こ と が で き る 。 し た が っ て 、 そ の 制 度 が 保 険 金 詐 欺(保 険 犯 罪)に 利 用 さ れ て し ま う と い う 危 険 性 を 完 全 に 否 定 す る こ と は で き な い 。 そ こ で 、 生 命 保 険 会 社 は 、 日 頃 か ら こ う し た 犯 罪 の 事 前 検 知 ・ 未 然 防 止 に 備 え て お く 必 要 が あ る が 、 捜 査 当 局 が 保 険 犯 罪 を 1 件 た り と も 見 逃 さ な い 保 証 は な い と い う 前 提 に 立 っ た 場 合 に は 、 犯 罪 の 検 知 ・ 防 止 に つ き 、 捜 査 当 局 に 完 全 依 存 す る の で な く 、 法 や 約 款 で 認 め ら れ た 調 査 権 限 を 駆 使 し て 自 ら 実 現 す る 態 勢 ・ 行 動 が 求 め ら れ る(こ の 場 合 、 保 険 調 査 は 捜 査 の 端 緒 と な る)。 本 稿 は 、 こ う し た 問 題 意 識 の 下 、 保 険 会 社 が 捜 査 当 局 に 先 ん じ て 犯 罪 を 検 知 し た 死 亡 事 件 を 梃 に 、 生 命 保 険 犯 罪 防 止 に 資 す る 特 性 分 析 を 試 み る 。 そ の 結 果 、 次 の 知 見 が 得 ら れ た 。

第 1 に 、 保 険 調 査 が 捜 査 の 端 緒 と な っ た 死 亡 事 件 の う ち 筆 者 が 知 る も の の 内 容 を 分 析 し た 結 果 、 各 事 件 に は 、 ① 行 為 の 態 様 に つ い て 、 い ず れ も 車 ご と 海 に 転 落 し て の 溺 死 で あ る 、 ② 保 険 調 査 に 臨 む 請 求 者(犯 罪 者)の 態 度 に つ い て 、 保 険 金 取 得 と い う 目 的 を 果 た す た め に 雄 弁 に 証 言 を 行 っ て い る 、 ③ そ の 他 の 特 徴 と し て 、 保 険 犯 罪 の 実 行 に あ た り 共 犯 者 が 存 在 す る 、 犯 人 が 借 財 や 金 銭 ト ラ ブ ル 等 を 抱 え て い る 、 犯 人 に 不 適 切 な 異 性 と の 関 係 が 存 在 す る 、 保 険 犯 罪 の 経 歴 を 有 す る 、 と い っ た 事 情 が 認 め ら れ 、 こ れ ら の 特 徴 に つ い て は 国 内 で 起 き た 著 名 な 保 険 金 殺 人 事 件 に も 同 様 の も の が み ら れ た(第 1 特 性 分 析)。第 2に 、第 1 特 性 分 析 が 通 用 性 を 持 つ か ど う か に つ き 、外 国 文 献 で 指 摘 さ れ て い る 保 険 犯 罪 ( 者 ) の 特 徴 等 と も 対 比 し た 結 果 、 ① は 日 本 の 特 徴 と 言 え る の で は な い か 、 ② は 死 亡 事 件 と 死 亡 以 外 事 件 と の 間 で 正 反 対 の 特 徴 が 認 め ら れ る の で は な い か 、 ③ に つ い て は 海 外 の 事 例 に お い て も 共 通 す る 特 徴 で は な い か 、 と い う 分 析 結 果 が 得 ら れ た(第 2 特 性 分 析)。

(2)

2

Ⅰ . は じ め に

1 . 本 稿 の 問 題 意 識 と 目 的

保 険 は 、 少 額 の 保 険 料 で 多 額 の 保 険 金 が 得 ら れ る 可 能 性 が あ る そ の 仕 組 み が 故 に 、 モ ラ ル ・ リ ス ク が 内 在 す る こ と か ら 、 犯 罪 に 悪 用 さ れ る 危 険 が 常 に 付 き ま と う 。 そ の 最 た る も の が 生 命 保 険 契 約 を 利 用 し た 、 い わ ゆ る 保 険 金 殺 人 で あ る と い え る 。

捜 査 当 局 が 保 険 犯 罪 を 1件 た り と も 見 逃 さ な い 保 証 は な い1の だ か ら 、 生 命 保 険 会 社 と し て も 、 そ の よ う な 前 提 に 立 ち 、 犯 罪 の 検 知 ・ 防 止 に つ い て 、 捜 査 当 局 に 完 全 依 存 す る の で な く 、 こ れ を 自 ら 実 現 す る 態 勢 ・ 行 動 が 求 め ら れ る 。 法 や 約 款 は 、 保 険 金 の 支 払 い に あ た り 、 提 出 さ れ た 診 断 書 等 の 書 類 の み で は 保 険 事 故 の 発 生 や 免 責 事 由 の 存 否 の 判 断 が つ か な い 場 合 に 、 そ れ ら の 存 否 を 確 認 す る た め 、 生 命 保 険 会 社 に 調 査 権 限 を 認 め て い る 。 こ う し た 調 査 の 結 果 、 捜 査 当 局 が 見 逃 し た 保 険 犯 罪 を 保 険 会 社 が 検 知 し 、 そ れ が 捜 査 の 端 緒 と な っ て 刑 事 事 件 の 立 件 に つ な が る と い う 展 開 は そ れ 自 体 あ り 得 る も の で は あ る が 、 知 ら れ て い る 実 例 は 必 ず し も 多 く は な い よ う に 思 わ れ る 。 本 稿 の 目 的 は 、 こ の よ う な 実 例 の う ち 、 裁 判 例 と し て 公 に な っ て い る も の を 素 材 と し 、 記 録 と し て 残 す と と も に 、 こ れ ら 事 件 に つ い て 、 そ の 内 容 を 分 析 し 、 保 険 犯 罪 に 共 通 し た 傾 向 を 見 出 す こ と で あ り 、 そ れ が 今 後 の 実 務 の 助 け に な る の で は な い か と の 筆 者 の 問 題 意 識 に よ る も の で あ る 。

な お 、 近 年 、 保 険 金 殺 人 の 検 挙 件 数 は 減 少 傾 向 に あ り 、 下 表 の 通 り 、 2 0 0 2 年 に 1 1 件 、 2 0 0 3 年 に 1 0 件 で あ っ た の を ピ ー ク に 、 近 年 は 1 ~ 3 件 程 度 で 推 移 し て い る 状 況 が 認 め ら れ る 。

1 2011 4月 に 法 医 学 者 、 刑 事 法 学 者 等 の 有 識 者 か ら な る 警 察 庁 の 研 究 会 に お い て と り ま と め ら れ た 「 犯 罪 死 の 見 逃 し 防 止 に 資 す る 死 因 究 明 制 度 の 在 り 方 に つ い て 」 に よ れ ば 、 警 察 が 病 死 や 自 殺 と し て 処 理 し た 死 者 が の ち に 殺 人 事 件 な ど の 被 害 者 と 判 明 す る 、 犯 罪 死 の 「 見 逃 し 」 の 発 覚 は 、1998年 か ら 2010年 ま で の 13年 間 で 43件 で 、 う ち 14 が 保 険 金 目 的 で 犯 行 に 及 ん だ も の で あ っ た と さ れ て い る 。

(3)

3

( 保 険 金 目 的 殺 人 事 件 の 検 挙 件 数 の 推 移 (1991 年 ~2016 年 )2

1 9 9 1 1 9 9 2 1 9 9 3 1 9 9 5 1 9 9 6 1 9 9 7 1 9 9 8 1 9 9 9 2 0 0 0 2 0 0 1 2 0 0 2 2 0 0 3 2 0 0 4 2 0 0 5 2 0 0 6 2 0 0 7

4 2 3 3 5 4 6 8 9 9 11 10 9 2

2 0 0 8 2 0 0 9 2 0 1 0 2 0 1 1 2 0 1 2 2 0 1 3 2 0 1 4 2 0 1 5 2 0 1 6

2 0 2 2 1 2 3 2 1

こ れ は 、 1 つ に 、 保 険 犯 罪 の 未 然 防 止 に 向 け た 制 度 面 の 整 備 、 具 体 的 に は 、 一 般 社 団 法 人 生 命 保 険 協 会 を 通 じ て 、 各 生 命 保 険 会 社 等 と の 間 で 保 険 契 約 等 の 加 入 状 況 に 係 る 情 報 を 共 同 利 用 す る 「 契 約 内 容 登 録 制 度 」 「 契 約 内 容 照 会 制 度 」 の 創 設 ・ 拡 充 に よ り 、 短 期 集 中 加 入 の 意 図 を 検 知 し 、 当 該 申 込 み を 拒 絶 す る こ と で 保 険 犯 罪 を 未 然 に 防 止 す る こ と が で き る よ う に な っ た こ と が 挙 げ ら れ る 。

ま た 、 警 察 が 病 死 や 自 殺 と し て 処 理 し た 死 者 が 後 に 殺 人 事 件 な ど の 被 害 者 と 判 明 す る 犯 罪 死 の 「 見 逃 し 」 の 発 覚 は 2 0 1 1 年 ~ 2 0 1 9 年 の 9 年 間 で 1 1 件 で 、 う ち 5 件 は 近 畿 連 続 青 酸 殺 人 事 件 で 、 急 激 な 減 少 傾 向 が み ら れ て い る 。 こ れ は 、 警 察 庁 の 有 識 者 研 究 会 が 2 0 1 1 年 に 見 逃 し 防 止 の た め の 新 た な 死 因 究 明 制 度 の 必 要 性 を 提 言 し 、 後 に 成 立 し た 死 因 ・ 身 元 調 査 法 な ど の 効 果 と み ら れ て い る が 、 一 方 で 、 6 件 の 中 に は 聞 き 込 み も し な い ず さ ん な 捜 査 で 事 故 死 と し て 処 理 し た も の も あ っ た 模 様3で あ り 、 捜 査 当 局 が 犯 罪 死 を 見 逃 さ な い 保 証 が な い と の 前 提 を 覆 す も の で は な い 。 保 険 金 殺 人 と い う 、 保 険 制 度 を 悪 用 し た 、 極 め て 悪 質 性 の 高 い 犯 罪 は 1 件 た り と も 許 す べ き で は な い こ と 、 未 判 明 の 見 逃 し 事 案 や 保 険 金 殺 人 事 件 が 潜 在 し て い る 可 能 性 も あ る こ と を 考 え る と 、 筆 者 の 問 題 意 識 は な お 一 定 の 意 義 を 有 す る も の で あ る と 考 え る 。

2 未 遂 を 含 む 。 数 値 は 、 法 務 省 「 犯 罪 白 書 」( 平 成 13年 版 )、 警 察 庁 「 犯 罪 情 勢 」( 平 成 16年 版 ~28年 版 ) か ら 筆 者 が 取 り ま と め た 。

3 産 経 新 聞 デ ジ タ ル 版 2020 2 5 20 52分 記 事

(4)

4

Ⅱ . 調 査 の 端 緒 と 保 険 調 査 の 関 係

1 . 捜 査 の 端 緒 と は

刑 事 訴 訟 法 第 1 8 9 条 第 2項 は 「 司 法 警 察 職 員 は 、 犯 罪 が あ る と 思 料 す る と き は 、 犯 人 及 び 証 拠 を 捜 査 す る も の と す る 。 」 と 規 定 す る 。 本 条 に お い て 「 犯 罪 が あ る と 思 料 す る と き 」 と は 、 特 定 の 犯 罪 の 嫌 疑 が あ る と 認 め ら れ る と き の 意 味 で 、 こ の 、 犯 罪 が あ る と 思 料 す る に 至 っ た 原 因 を 捜 査 の 端 緒 と い う 。 捜 査 の 端 緒 と し て は 、 現 行 犯 、 告 訴 、 告 発 、 請 求 、 自 首 、 検 視 な ど が 規 定 さ れ て い る が 、 こ れ ら に 限 定 す る も の で は な い4。 つ ま り 、 捜 査 の 端 緒 に は 制 限 が な く 、 被 害 者 ・ 第 三 者 の 申 告 、 捜 査 機 関 の 現 認 な ど は 、 典 型 的 な 例 と さ れ る 。 他 事 件 の 捜 査 、 新 聞 記 事 、 投 書 風 評 等 の ほ か 、 外 国 議 会 に お け る 発 言 等 に よ っ て も 捜 査 の 開 始 さ れ る こ と が あ る 。 訴 訟 条 件 が ま だ 具 備 す る に 至 っ て い な く と も よ い 。5

捜 査 の 端 緒 と し て 最 も 多 い の は 通 報 で あ り 、 最 近 で は 9 0 % 近 く が 通 報 に よ る と さ れ 、 通 報 の 主 体 は 被 害 者 な い し 被 害 関 係 者 で あ る6。 本 稿 に お い て 、 生 命 保 険 会 社 が 独 自 の 調 査 の 結 果 に よ り 保 険 金 詐 欺 ( 保 険 犯 罪 ) を 検 知 し 、 こ れ を 捜 査 機 関 に 情 報 提 供 す る と い う ケ ー ス も 、 こ こ で い う 被 害 者 に よ る 通 報 の 一 類 型 と い う こ と に な る 。

2 . 生 命 保 険 会 社 に お け る 調 査 a . 法 律 ・ 約 款 上 の 規 定

保 険 法 は 、 生 命 保 険 に つ い て は 第 5 2 条 に お い て 、 「 保 険 者 が 免 責 さ れ る 事 由 そ の 他 の 保 険 給 付 を 行 う た め に 確 認 を す る こ と が 生 命 保 険 契 約 上 必 要 と さ れ る 場 合 」 が あ る こ と を 前 提 と し て 保 険 給 付 を 行 う 期 限 を 定 め る と と も に 、 「 保 険 契 約 者 、 被 保 険 者 又 は 保 険 金 受 取 人 が 正 当 な 理 由 な く 当 該 調 査 を 妨 げ 、 ま た は こ れ に 応 じ な か っ た 場 合 に は 、 保 険 者 は そ の 期 間 の 遅 滞 の 責 任 を 負 わ な い 」 旨 の 規 定 を 設 け て い る 。

4 松 尾 = 松 本 = 土 本 = 池 田 = 酒 巻 編「 条 解 刑 事 訴 訟 法( 第 4版 増 補 版 )」( 弘 文 堂 、2016年 ) 358

5 池 田 修 ・ 前 田 雅 英 「 刑 事 訴 訟 法 講 義 ( 第 6版 )」( 東 京 大 学 出 版 会 、2018年 )93

6 池 田 ・ 前 田 前 掲 94

(5)

5

ま た 、 上 記 の よ う な 保 険 法 の 規 定 を 基 礎 と し て 、 生 命 保 険 会 社 で は 、 通 常 、 現 在 の 保 険 約 款 に お い て 、 保 険 金 請 求 時 に 提 出 さ れ た 書 類 だ け で は 保 険 金 の 支 払 理 由 の 発 生 の 有 無 や 支 払 免 責 事 由 の 存 否 等 の 確 認 が で き な い と き に は 生 命 保 険 会 社 が 調 査 ( 確 認 ) を 行 う こ と 、 そ の と き に は 保 険 金 の 支 払 期 限

( 5 営 業 日 ) を 延 伸 ( 4 5 日 ) す る こ と 、 更 に 特 別 な 事 項 の 調 査 等 が 必 要 と 判 断 さ れ た 場 合 に は 保 険 金 等 の 請 求 者 に 通 知 の う え で 支 払 期 限 を 更 に 延 伸

( 1 8 0 日 ) す る こ と 、 保 険 契 約 者 、 被 保 険 者 ま た は 死 亡 保 険 金 受 取 人 が 、 正 当 な 理 由 な く そ の 確 認 を 妨 げ 、 ま た は こ れ に 応 じ な か っ た と き は 、 会 社 は 遅 滞 の 責 任 を 負 わ な い こ と 等 を 定 め て 、 保 険 会 社 に よ る 調 査 権 限 、 保 険 金 請 求 者 側 か ら 見 る と 調 査 へ の 協 力 義 務 を 定 め て い る 。

住 友 生 命 保 険 相 互 会 社 終 身 保 険 普 通 保 険 約 款 第 4 9 条

保 険 金 等 の 支 払 金 は 、 請 求 日 の 翌 日 か ら 起 算 し て 5 営 業 日 以 内 に 、 会 社 の 本 社 ま た は 会 社 の 指 定 す る 支 社 で 支 払 い ま す 。

会 社 は 、 保 険 金 の 支 払 い の た め に 確 認 が 必 要 な 次 表 の 場 合 に お い て 、 保 険 契 約 の 締 結 か ら 請 求 ま で の 間 に 会 社 に 提 出 さ れ た 書 類 だ け で は 次 表 の 事 項 の 確 認 が で き な い と き は 、 そ れ ぞ れ そ の 事 項 の 確 認 を 行 い ま す 。 こ の 場 合 に は 、 前 項 に か か わ ら

ず 、 保 険 金 の 支 払 期 限 は 請 求 日 の 翌 日 か ら 起 算 し て 4 5 日 を 経 過 す る 日 と し ま す 。

確 認 が 必 要 な 場 合 確 認 が 必 要 な 事 項

1 . 保 険 金 の 支 払 理 由 発 生 の 有 無 の 確 認 が 必 要 な 場 合

こ の 約 款 に 定 め る 保 険 金 の 支 払 理 由 に 該 当 す る 事 実 の 有 無

2 . 保 険 金 の 支 払 い の 免 責 事 由 に 該 当 す る 可 能 性 が あ る 場 合

保 険 金 の 支 払 理 由 が 発 生 す る に 至 っ た 原 因

3 . 告 知 義 務 違 反 に 該 当 す る 可 能 性 が あ る 場 合

告 知 義 務 違 反 に 該 当 す る 事 実 の 有 無 お よ び 告 知 義 務 違 反 に 至 っ た 原 因

4 . こ の 約 款 に 定 め る 重 大 事 由 、 詐 欺 ま た は 不 法 取 得 目 的 に 該 当 す る 可 能 性 が あ る 場 合

第 2 号 も し く は 前 号 の 事 項 、 約 款 に 定 め る 重 大 事 由 に 該 当 す る 事 実 の 有 無 ま た は 保 険 契 約 者 、 被 保 険 者 も し く は 死 亡 保 険 金 受 取 人 の 保 険 契 約 の 締 結 の 目 的 も し く は 保 険 金 請 求 の 意 図 に 関 す る 保 険 契 約 の 締 結 か ら 請 求 ま で に お け る 事 実

前 項 の 確 認 を す る た め 、 次 表 の 特 別 な 照 会 手 続 き や 調 査 が 不 可 欠 な 場 合 に は 、 第 1 項 お よ び 前 項 に か か わ ら ず 、 保 険 金 の 支 払 期 限 は 、 請 求 日 の 翌 日 か ら 起 算 し て そ れ ぞ れ 次 表 に 定 め る 日 数 ( 第 1 号 か ら 第 4 号 ま で の う ち 複 数 に 該 当 す る 場 合 で あ っ て も 、 1 8 0 日 ) を 経 過 す る 日 と し ま す 。

(6)

6

特 別 な 照 会 手 続 き ・ 調 査 照 会 手 続 き ・ 調 査 の 対 象 と な る 事 項 支 払 期 限 1 . 弁 護 士 法 そ の 他 の 法 令 に も と づ く 照

会 手 続 き

前 項 各 号 に 定 め る 事 項 180

2 . 研 究 機 関 等 の 専 門 機 関 に よ る 医 学 ま た は 工 学 等 の 科 学 技 術 的 な 特 別 の 調 査 、 分 析 ま た は 鑑 定

前 項 第 1 号 、 第 2 号 ま た は 第 4 号 に 定 め る 事 項

180

3 . 保 険 契 約 者 、 被 保 険 者 ま た は 死 亡 保 険 金 受 取 人 を 被 疑 者 と し て 、 捜 査 、 起 訴 そ の 他 の 刑 事 手 続 き が 開 始 さ れ た こ と が 報 道 等 か ら 明 ら か で あ る 場 合 に お け る 、 送 致 、 起 訴 、 判 決 等 の 刑 事 手 続 き の 結 果 に つ い て の 警 察 、 検 察 等 の 捜 査 機 関 ま た は 裁 判 所 に 対 す る 照 会 手 続

前 項 第 1 号 、 第 2 号 ま た は 第 4 号 に 定 め る 事 項

180

4 . 日 本 国 外 に お け る 調 査 前 項 各 号 に 定 め る 事 項 180

保 険 金 の 支 払 期 限 を 第 2 項 ま た は 前 項 の 日 と す る 場 合 に は 、 会 社 は 、 確 認 が 必 要 な 事 項 の 内 容 お よ び 支 払 期 限 を 保 険 金 の 請 求 者 に 通 知 し ま す 。

第 3 項 の 支 払 期 限 を 過 ぎ て も な お 、 第 三 者 機 関 か ら の 回 答 の 遅 延 そ の 他 の 会 社 の 責 任 に よ ら な い 理 由 に よ り 第 3 項 の 事 項 の 確 認 が 終 わ ら な い 場 合 に は 、 会 社 は 、 そ の 確 認 が 終 わ ら な か っ た 理 由 お よ び 確 認 が 必 要 な 事 項 の 内 容 を 保 険 金 の 請 求 者 に 通 知 し た 上 で 、 確 認 を 継 続 し ま す 。

第 1 項 か ら 第 3 項 ま で に よ り 定 ま る 支 払 期 限 の 後 に 保 険 金 等 の 支 払 金 を 支 払 う こ と と な る と き は 、 会 社 は 、 支 払 期 限 の 翌 日 以 後 遅 滞 の 責 任 を 負 い 、 遅 延 利 息 を 保 険 金 等 の 支 払 金 と あ わ せ て 支 払 い ま す 。

前 項 に か か わ ら ず 、 第 2 項 ま た は 第 3 項 の 確 認 に 際 し 、 保 険 契 約 者 、 被 保 険 者 ま た は 死 亡 保 険 金 受 取 人 が 、 正 当 な 理 由 な く そ の 確 認 を 妨 げ 、 ま た は こ れ に 応 じ な か っ た と き は 、 会 社 は 、 こ れ に よ り そ の 事 項 の 確 認 が 遅 延 し た 期 間 に つ い て 遅 滞 の 責 任 を 負 い ま せ ん 。

b . 保 険 会 社 に よ る 調 査 の 実 際

生 命 保 険 会 社 に よ る 調 査 は 、 概 ね 以 下 の よ う な 流 れ で 行 わ れ る 。 な お 、 こ こ で は 死 亡 保 険 金 請 求 を 例 に 説 明 す る こ と と す る 。

生 命 保 険 会 社 は 、 死 亡 保 険 金 の 請 求 に あ た り 、 保 険 金 受 取 人 に 対 し 、 会 社 所 定 の 請 求 書 ( 保 険 金 の 請 求 内 容 を 表 示 す る た め の も の ) の ほ か 、 死 亡 診 断 書 ( 死 体 検 案 書 ) 、 不 慮 の 事 故 の 場 合 に は 、 事 故 状 況 に つ い て の 申 告 書 ( 請

(7)

7

求 者 が 記 入 ) 、 交 通 事 故 の 場 合 に は 、 自 動 車 安 全 運 転 セ ン タ ー が 発 行 す る

「 交 通 事 故 証 明 書 」 等 の 資 料 の 提 出 を 求 め る の が 一 般 的 で あ る 。 生 命 保 険 会 社 は 、 こ れ ら の 提 出 書 類 に 基 づ い て 第 一 次 的 な 支 払 可 否 判 断 を 行 う が 、 こ れ ら の 提 出 書 類 の み で は 支 払 可 否 判 断 が で き な い 場 合 、 例 え ば 、 不 慮 の 事 故 に よ る 死 亡 で あ る か 否 か ( 災 害 死 亡 保 険 金 の 支 払 要 件 充 足 の 有 無 ) や 、 被 保 険 者 や 保 険 金 受 取 人 に よ る 故 意 な ど の 免 責 事 由 等 存 否 の 判 断 が つ か な い 場 合 に は 調 査 を 実 施 す る こ と に な る 。 提 出 書 類 の み で 支 払 う か 、 調 査 を 実 施 の う え で 支 払 可 否 を 決 定 す る こ と に す る か の 判 断 は 、 死 亡 診 断 書 ( 死 体 検 案 書 ) か ら 認 め ら れ る 死 亡 お よ び そ の 原 因 と な っ た 事 故 の 態 様 、 死 亡 保 険 金 額 、 保 険 契 約 締 結 か ら の 経 過 期 間 等 を 総 合 し て 行 う 。

調 査 は 、 は じ め に 保 険 金 受 取 人 の 事 情 聴 取 を 行 い 、 同 人 の 同 意 を 得 た う え で 関 係 先 へ の 聴 取 を 進 め て い く と い っ た 流 れ で 行 わ れ る 。 主 な 関 係 先 と し て は 、 事 故 等 の 外 因 死 の 場 合 に は 事 故 現 場 、 警 察 等 の 捜 査 機 関 、 死 亡 診 断 ( 死 体 検 案 ) を 行 っ た 医 師 ・ 医 療 機 関 等 が あ げ ら れ る が 、 関 係 先 の 調 査 の 結 果 、 新 た に 判 明 し た 関 係 先 等 に 調 査 の 対 象 を 広 げ て い く こ と も あ る 。

調 査 内 容 は 調 査 の 目 的 に よ っ て 異 な る が 、 例 え ば 、 外 因 死 で 、 免 責 事 由 で あ る 保 険 金 受 取 人 に よ る 故 意 の 存 否 を 調 査 す る よ う な 場 合 は 、 生 命 保 険 会 社 独 自 の 調 査 結 果 と 、 警 察 等 の 捜 査 機 関 に お け る 犯 罪 捜 査 の 進 捗 状 況 や 同 機 関 の 見 解 、 つ ま り 、 捜 査 機 関 が 事 件 、 事 故 、 自 殺 の う ち 、 事 件 性 を 疑 っ て 捜 査 し て い る の か ど う か 、 と い う 点 も 確 認 し つ つ 、 保 険 金 の 支 払 可 否 判 断 に 必 要 な 事 実 関 係 の 確 認 を 進 め て い く 。

こ の よ う な 調 査 は 、 生 命 保 険 会 社 な い し 同 社 よ り 委 託 さ れ た 調 査 会 社 の 専 門 の 調 査 員 に よ っ て 行 わ れ る こ と が 多 い が 、 こ れ と 並 行 し て 、 一 般 社 団 法 人 生 命 保 険 協 会 を 通 じ て 、 他 の 各 生 命 保 険 会 社 等 に 対 し 保 険 契 約 等 の 内 容 等 を 照 会 す る 、 支 払 査 定 時 照 会 制 度7を 利 用 す る こ と に よ り 、 被 保 険 者 の 他 生 保 に お け る 生 命 保 険 の 加 入 状 況 等 を 調 査 す る こ と も あ る 。

7 支 払 査 定 時 照 会 制 度 に つ い て 、 一 般 社 団 法 人 生 命 保 険 協 会 の ホ ー ム ペ ー ジ https://www.seiho.or.jp/personal/assessment/ を 参 照

(8)

8

こ の よ う な 生 命 保 険 会 社 の 調 査 の 結 果 、 保 険 犯 罪 、 な い し そ の 疑 い を 検 知 す る に 至 っ た 場 合 、 詐 欺 の 被 害 者 に 位 置 付 け ら れ る 生 命 保 険 会 社 が 捜 査 機 関 に 通 報 す る こ と で 捜 査 の 端 緒 と な る と い っ た ケ ー ス も あ れ ば 、 捜 査 機 関 の 側 で 、 同 一 の 事 案 で 多 数 の 保 険 会 社 が 立 て 続 け に 調 査 に 訪 れ て き た こ と 自 体 か ら こ れ ま で 単 に 事 故 と し か 見 て い な か っ た 事 案 に つ い て 、 事 故 を 装 っ た 保 険 犯 罪 で あ る と の 疑 い を 抱 き 、 捜 査 を 開 始 す る こ と も あ る 。 こ の よ う な 場 合 、 捜 査 機 関 は 、 生 命 保 険 会 社 に 対 し 、 刑 事 訴 訟 法 第 1 9 7 条 第 2 項 に 基 づ く 捜 査 関 係 事 項 照 会 を 行 い 、 被 害 者 、 被 疑 者 を 当 事 者 と す る 生 命 保 険 の 加 入 状 況 、 保 険 金 の 支 払 状 況 、 調 査 の 内 容 等 に つ い て 情 報 収 集 を 行 う こ と も あ る 。

ち な み に 、 生 命 保 険 会 社 の 調 査 は 、 死 亡 保 険 金 の 請 求 一 件 書 類 の 提 出 後 に 行 わ れ る の が 一 般 的 で あ る 。 請 求 一 件 書 類 の 提 出 は 、 通 常 、 被 保 険 者 の 葬 儀 等 が 済 ん だ 後 に 順 次 行 わ れ る よ う で あ り 、 死 亡 か ら 1 週 間 以 内 に 提 出 さ れ る ケ ー ス は ご く 稀 で あ る こ と か ら 、 外 因 死 の 場 合 、 多 く の ケ ー ス で は 事 故 発 生 か ら 少 な く と も 1 週 間 以 上 が 経 過 し た 後 に は じ め て 調 査 を 開 始 す る こ と に な る 。 こ の 点 、 事 故 受 付 後 に 損 害 調 査 と い う 形 で 即 時 着 手 が 可 能 な 損 害 保 険 会 社 と 比 べ る と 、 事 故 に つ い て の 鮮 度 の 高 い 情 報 を 入 手 し 難 い 側 面 が あ る の は 致 し 方 な い 面 が あ る も の と 思 わ れ る 。

Ⅲ . 保 険 会 社 の 調 査 に よ っ て 犯 罪 が 検 知 さ れ た 実 例

以 下 、 先 に 保 険 調 査 が 保 険 犯 罪 の 疑 い を 検 知 し 、 更 に は 民 事 事 件 で 保 険 金 支 払 い の 有 無 責 を 巡 り 係 争 と な り 、 そ れ ら が 端 緒 と な っ て 犯 罪 捜 査 が 進 め ら れ 、 刑 事 事 件 の 立 件 に つ な が っ た と い う 展 開 を 辿 っ た 実 例 を 紹 介 す る 。

1 . い わ ゆ る 松 山 嘱 託 殺 人 事 件

本 件 は 、 1 9 9 2 年 1 1 月 2 9 日 夜 、 愛 媛 県 長 浜 町 の 長 浜 湊 砂 利 置 場 岸 壁 か ら 知 人 の 運 転 す る 乗 用 車 が 車 ご と 海 に 転 落 、 同 乗 し て い た 男 性 と そ の 愛 人 の 男 女 二 人 が 死 亡 し た 事 案 で あ る 。 死 亡 し た 男 性 は 、 生 命 保 険 会 社 6 社 と の 間 で 1 3 件 、 保 険 金 総 額 は 災 害 保 険 金 を 加 え て 1 0 億 円 を 超 え る 生 命 保 険 契 約 を 、 損 害 保 険 会 社 4 社 と の 間 で 7 件 、 保 険 金 総 額 2 億 7 0 0 0 万 円 も の 傷 害 保 険 契 約

(9)

9

を 締 結 し て お り 、 か つ 、 そ れ ら の う ち 1 5 件 、 保 険 金 総 額 1 0 億 円 以 上 も の 保 険 契 約 が 事 故 発 生 直 前 8 か 月 間 の 間 に 短 期 集 中 的 に 締 結 さ れ て い た こ と 、 調 査 の 結 果 、 乗 用 車 の 海 中 転 落 の 状 況 に も 不 審 点 が 多 い こ と 、 男 性 に は 保 険 金 詐 欺 の 前 歴 が あ る こ と 、 愛 人 の 女 性 の 事 故 前 の 行 動 が 不 自 然 で あ る こ と な ど が 判 明 、 各 保 険 会 社 は 、 男 性 の 死 亡 事 故 は 偶 発 的 な 事 故 を 仮 装 し た も の で 、 被 保 険 者 が 故 意 に 発 生 さ せ た 事 故 で あ る と し て 支 払 い を 拒 絶 、 あ る い は そ の 可 能 性 が 高 い と し て 支 払 い を 保 留 し て い た 。

そ の 後 、 1 9 9 3 年 5 月 に な っ て 保 険 金 受 取 人 で あ る 男 性 の 妻 お よ び 男 性 が 生 前 に 代 表 取 締 役 を 務 め て い た 法 人 2 社 が 損 害 保 険 会 社 を 相 手 取 り 保 険 金 の 支 払 い を 求 め て 民 事 訴 訟 を 提 起 し た 。

当 該 訴 訟 の 第 一 審 判 決8に お い て 、 裁 判 所 は 「 男 性 は 、 本 件 事 故 前 約 1 0 億 円 を 超 え る 負 債 を 有 し て 経 済 的 な 閉 塞 状 況 に 陥 っ て い た こ と 、 本 件 事 故 前 8 か 月 の 間 に 多 数 か つ 多 額 の 保 険 契 約 を 締 結 し て お り 、 こ れ は 、 男 性 が 本 件 事 故 の 発 生 を 予 定 し 、 そ れ に 対 応 し た 行 動 を と っ た の で は な い か と の 疑 い が 強 い こ と 、 本 件 事 故 に つ い て は 、 そ れ が 偶 発 的 事 故 と す る と 説 明 で き な い 不 自 然 、 不 合 理 な 種 々 の 事 情 が 存 在 す る こ と 、 本 件 事 故 に よ り 男 性 と と も に 死 亡 し た 愛 人 の 女 性 に つ い て も 、 本 件 事 故 直 前 に 多 額 の 生 命 保 険 に 加 入 し 、 従 業 員 に 自 分 が 死 ん だ ら 生 命 保 険 金 を あ げ る な ど と 言 っ て 、 事 故 の 死 を 予 定 し た 具 体 的 な 行 動 を と っ て い た こ と 、 男 性 に は 、 過 去 に お い て も 、 保 険 金 詐 欺 目 的 の た め 船 舶 を 沈 没 さ せ よ う と し た 偽 装 事 故 未 遂 の 経 歴 が あ り 、 右 事 件 に つ い て は 艦 船 覆 没 未 遂 罪 に よ り 松 山 地 方 裁 判 所 に 起 訴 さ れ 、 本 件 事 故 当 時 は 右 刑 事 事 件 も 結 審 間 近 と な っ て 、 精 神 的 に も ま す ま す 追 い 込 ま れ て い た こ と が 認 め ら れ … ( 略 ) … 以 上 の 事 情 を 総 合 考 慮 す る と 、 こ れ ら の 事 情 に 対 す る 原 告 ら の 合 理 的 な 反 論 の な い 本 件 に お い て は 、 本 件 事 故 は 、 男 性 及 び 愛 人 の 女 性 が 、 そ れ ぞ れ 負 債 の 返 済 に 苦 慮 し た あ げ く 、 同 人 ら が 死 亡 す る こ と に よ り 、 遺 族 ら に 多 額 の 保 険 金 を 入 手 さ せ 、 借 金 を 清 算 し よ う と 画 策 し て 、 多 数 か つ 多 額 の 保 険 契 約 を 締 結 し た 上 で 、 運 転 手 を 利 用 す る こ と に よ り 、 偶 発 事 故 を 装 っ て 故 意 に 発 生 さ せ た 偽 装 事 故 で あ る と 判 断 せ ざ る を 得 ず 、 本 件 事 故 は 、 損 害 保 険 約 款 に お け る 保 険 者 の 免

8 松 山 地 判 平 成 7 12 8日 ( 判 例 タ イ ム ズ 909 246頁 )

(10)

10

責 事 由 に 該 当 す る と 言 う べ き で あ る 」 と 判 示 し た 。 控 訴 審9も 原 判 決 を 維 持 し た 。

本 判 決 で 認 定 さ れ た 事 実 に よ れ ば 、 事 故 発 生 の 手 段 に つ い て 「 運 転 手 を 利 用 す る 」 、 つ ま り 、 運 転 手 が 被 保 険 者 ら の 依 頼 に 基 づ い て 二 人 が 同 乗 す る 乗 用 車 を 運 転 し 、 故 意 に 海 中 に 転 落 さ せ て 死 亡 さ せ た と い う 、 嘱 託 殺 人 罪 に 該 当 す る 行 為 を な し た こ と を 示 唆 し た も の で あ り 、 当 時 、 こ の 民 事 裁 判 の 結 果 は 新 聞 で も 大 き く 報 道 さ れ た が 、 捜 査 機 関 の 動 き は 「 現 在 、 事 件 、 事 故 の 両 面 か ら 捜 査 を 進 め て い る 」1 0、 「 引 き 続 き 捜 査 し て い る 」1 1な ど と 報 道 さ れ て い た 。 確 か に 、 こ の 民 事 判 決 は 、 当 該 行 為 の 存 在 を 直 接 証 明 す る 証 拠 に よ り 認 め た も の で は な く 、 種 々 の 間 接 事 実 の 積 み 重 ね に よ っ て 推 認 し た も の で あ り 、 犯 罪 事 実 に つ い て 厳 格 な 証 明 を 要 し 、 有 罪 の 認 定 に あ た っ て 合 理 的 な 疑 い を 差 し 挟 む 余 地 の な い 程 度 の 立 証 が 必 要 と さ れ る 刑 事 事 件 の 立 件 に 直 接 つ な が る も の で は な い も の の 、 被 告 で あ る 保 険 会 社 が 主 張 し 、 判 決 内 で 認 定 さ れ た 各 事 実 は 、 捜 査 機 関 を し て 犯 罪 の 存 在 を 疑 う に 足 り る も の と し て 、 捜 査 の 端 緒 と な っ た こ と は 間 違 い な い だ ろ う 。

最 終 的 に 、 愛 媛 県 警 は 、 1 9 9 7 年 1 0 月 2 日 に 、 運 転 手 の 男 性 を 嘱 託 殺 人 の 疑 い で 逮 捕 す る に 至 っ た 。 新 聞 記 事 に よ れ ば 、 警 察 当 局 は 「 当 初 、 転 落 事 故 と み て 捜 査 し て い た が 、 現 場 の 状 況 や 二 人 に 多 額 の 保 険 金 が 掛 け ら れ て い る な ど 不 審 な 点 が あ っ た た め 、 事 件 の 可 能 性 が あ る と み て 捜 査 し て い た 」 「 嘱 託 殺 人 の 時 効 は 5 年 で 、 来 月 2 9 日 に 時 効 を 迎 え る 寸 前 だ っ た 」 と さ れ て い る1 2。 ま さ に 、 保 険 会 社 の 調 査 を 端 緒 と し て 刑 事 事 件 の 立 件 に つ な が っ た 実 例 と い え よ う 。

蛇 足 に な る が 、 本 事 案 に つ い て は 、 上 記 の 損 害 保 険 契 約 の 裁 判 例 と は 別 に 、 生 命 保 険 契 約 を 巡 る 裁 判 例 も 存 在 す る 。 男 性 が 締 結 し て い た 生 命 保 険 契 約 の う ち 、 当 初 か ら 締 結 さ れ て い た 2 件 、 死 亡 保 険 金 総 額 1 億 3 5 0 0 万 円 に つ い て は 、 約 款 上 の 自 殺 免 責 期 間 ( 当 時 は 1 年 ) を 経 過 し て い た が 、 生 命 保 険 会 社 が 商 法 6 8 0 条 1 項 1 号 に よ る 全 期 間 免 責 等 を 主 張 し て 支 払 い を 拒 絶 し た た め 、

9 高 松 高 判 平 成 9 22 8日 ( 判 例 集 等 未 登 載 )

1 0 読 売 新 聞 1995 12 8日 ( 夕 刊 ) 記 事

1 1 愛 媛 新 聞 1997 3 1日 ( 朝 刊 ) 記 事

1 2 東 京 新 聞 1997 10 3日 ( 朝 刊 ) 記 事

(11)

11

保 険 金 受 取 人 で あ る 遺 族 が 支 払 い を 求 め て 提 訴 し た も の で あ る 。 判 決1 3で は

「 商 法 6 8 0 条 1 項 1 号 に い う 『 自 殺 』 と は 、 被 保 険 者 が 自 分 の 命 を 絶 つ こ と を 意 識 し 、 こ れ を 目 的 と し て 死 亡 の 結 果 を 招 く 行 為 を い う の で あ り 、 そ の 方 法 は 問 わ な い の で あ る か ら 、 本 件 の 如 き 嘱 託 殺 人 も 含 ま れ る と 解 さ れ る 」 「 A

( 被 保 険 者 ) が 計 画 及 び 実 行 し た 本 件 嘱 託 殺 人 の 目 的 、 方 法 の 反 社 会 性 は 著 し く 、 公 序 良 俗 に 反 す る う え 、 こ の よ う な 場 合 に … 保 険 金 支 払 義 務 を 認 め る な ら ば 、 契 約 者 間 の 衡 平 を 著 し く 失 す る 」 等 と し て 、 自 殺 免 責 期 間 を 1 年 に 限 定 す る 特 約 の 適 用 を 排 除 す べ き 特 段 の 事 情 が 存 在 す る と い え る と し て い る 。

な お 、 免 責 期 間 経 過 後 の 自 殺 へ の 免 責 適 用 に つ い て は 、 最 高 裁 判 例1 4で 「 当 該 自 殺 に 関 し 犯 罪 行 為 等 が 介 在 し , 当 該 自 殺 に よ る 死 亡 保 険 金 の 支 払 を 認 め る こ と が 公 序 良 俗 に 違 反 す る お そ れ が あ る な ど の 特 段 の 事 情 が あ る 場 合 は 格 別 , そ の よ う な 事 情 が 認 め ら れ な い 場 合 に は , 当 該 自 殺 の 動 機 , 目 的 が 保 険 金 の 取 得 に あ る こ と が 認 め ら れ る と き で あ っ て も , 免 責 の 対 象 と は し な い 」 と い う 判 断 が 示 さ れ た が 、 本 事 案 は 、 最 高 裁 の こ の よ う な 判 断 枠 組 み に 基 づ い て 検 討 し て も 免 責 判 断 が 妥 当 な 事 案 で あ っ た と い え よ う 。

2 . い わ ゆ る 石 巻 保 険 金 殺 人 事 件

こ の 事 件 は 、 1 9 9 5 年 8 月 1 8 日 の 夜 、 実 家 に 盆 の 挨 拶 に 行 く と し て 自 宅 を 出 発 し 、 同 日 9 時 こ ろ に は 実 家 を 出 た 男 性 ( 以 下 A と い う 。 ) が そ の 後 行 方 不 明 と な り 、 同 人 の 家 族 ら が 警 察 に 捜 索 願 を 提 出 す る な ど し て 同 人 の 捜 索 に 努 め た が 発 見 で き ず に い た と こ ろ 、 同 年 1 1 月 7 日 、 宮 城 県 石 巻 市 の 石 巻 工 業 港 の 海 中 か ら 、 車 両 に 乗 っ た 状 態 で 死 亡 し て い る 同 人 の 遺 体 が 発 見 さ れ た 事 案 で あ る 。

A と の 間 に A を 被 保 険 者 と す る 生 命 保 険 契 約 を 締 結 し て い た 生 命 保 険 会 社

( 2 社 ) は 、 受 取 人 で あ る A の 妻 ( 以 下 、 Ⅹ と い う 。 ) か ら の 保 険 金 請 求 を 受 け 、 死 亡 保 険 金 2 件 計 1 億 3 , 0 0 0 万 円 余 り を 支 払 っ た 一 方 、 災 害 特 約 保 険

1 3 【 原 審 】 松 山 地 判 平 成 1 1 81 7 日 ( 生 命 保 険 判 例 集 第 11 465頁 )、【 控 訴 審 】 高 松 高 判 平 成 12 2 25日 ( 生 命 保 険 判 例 集 第 12 128頁 )

1 4 最 判 平 成 16 3 2 5日 民 集 5 8 3 753

(12)

12

金 2 件 計 9 , 0 0 0 万 円 の 災 害 特 約 保 険 金 の 支 払 い を 拒 絶 し た こ と か ら 、 平 成 8 年 1 0 月 に Ⅹ が 、 こ の 保 険 金 の 支 払 い を 巡 っ て 民 事 訴 訟 を 提 起 し た 。

判 決1 5は 、 「 被 保 険 者 は 、 本 件 車 両 を 無 灯 火 の ま ま 海 面 に 向 け て 走 行 さ せ た 結 果 、 道 路 か ら 数 十 メ ー ト ル も 先 の 海 中 に 転 落 し た も の で 、 本 件 事 故 は 、 決 し て 一 瞬 の は ず み で 重 大 な 結 果 を 招 い た と い う た ぐ い の も の で は な く 同 人 の 重 過 失 に よ り 発 生 し た も の と 認 め る の が 相 当 」 と 判 示 し 、 災 害 死 亡 保 険 金 の 請 求 が 棄 却 さ れ る と い う 結 果 と な っ た 。 こ の 判 決 の 事 実 認 定 に よ れ ば 、 行 方 不 明 に な っ て か ら 約 3 か 月 経 っ て A が 発 見 さ れ た 経 緯 に つ い て 「 1 0 月 3 0 日 、 石 巻 警 察 署 に 対 し 、 8 月 1 8 日 の 夜 、 埠 頭 の 先 端 で 夜 釣 り を し て い た と こ ろ 、 1 台 の 自 動 車 が 、 港 の 岸 壁 か ら 海 中 に 転 落 す る の を 見 た と の 匿 名 の 投 書 が な さ れ た 」

「 そ れ ら を 手 が か り に 、 同 年 1 1 月 7 日 、 石 巻 港 の 海 中 を 捜 索 し た と こ ろ 、 本 件 事 故 現 場 に お い て 、 岸 壁 か ら 約 5 メ ー ト ル の 位 置 に 、 本 件 車 両 及 び そ こ に 乗 車 し た ま ま の A の 遺 体 が 発 見 さ れ 、 引 き 揚 げ ら れ た 。 」 「 右 引 揚 げ 時 の 本 件 車 両 の 状 況 は 、 ド ア ロ ッ ク は 解 除 さ れ 、 運 転 席 と 助 手 席 の 窓 ガ ラ ス ( 手 動 式 ) は 全 開 と な っ て お り 、 エ ン ジ ン キ ー は O N の 位 置 、 シ フ ト ・ レ バ ー ( オ ー ト マ チ ッ ク ) は L ( ロ ー ) の 位 置 、 ラ イ ト の ス イ ッ チ は O F F の 位 置 と な っ て お り 、 ハ ン ド ル は 右 に 切 ら れ 、 タ イ ヤ も そ の 方 向 を 向 い て い た 。 」 等 と さ れ て い る 。 と こ ろ が 、 本 件 は そ の 後 、 意 外 な 展 開 を 見 せ る 。 被 保 険 者 の 死 亡 か ら 6 年 以 上 が 経 過 し た 2 0 0 1 年 1 0 月 6 日 、 保 険 金 受 取 人 で あ っ た Ⅹ ら 4 人 が A を 石 巻 工 業 港 の 岸 壁 か ら 車 ご と 海 中 に 転 落 さ せ て 水 死 さ せ た と し て 殺 人 容 疑 で 逮 捕 さ れ た の で あ る 。 翌 日 の 新 聞 報 道1 6の 内 容 は 以 下 の と お り で あ る 。

・ 「 Ⅹ 容 疑 者 は A さ ん が 行 方 不 明 に な っ て 2 か 月 後 の 1 9 9 5 年 1 0 月 1 0 日 、 『 夫 は 石 巻 の 港 に 沈 ん で い る と の お 告 げ を 巫 女 か ら 受 け た 』 な ど と 話 し 、 石 巻 市 の 潜 水 業 者 に 捜 索 を 依 頼 し た 。 」

1 5 【 原 審 】 仙 台 地 判 平 成 1 0 31 9 日 ( 生 命 保 険 判 例 集 第 10 123頁 )、【 控 訴 審 】 仙 台 高 判 平 成 1 0 1 0 2 0日 ( 生 命 保 険 判 例 集 第 10 401頁 )

1 6 河 北 日 報 2001 10 7日 ( 朝 刊 ) 記 事

(13)

13

・ 「 業 者 が 『 漁 港 も あ れ ば 工 業 港 も あ る 』 と 特 定 を 求 め る と 、 Ⅹ 容 疑 者 は 『 壁 や 建 物 が あ り 、 大 型 車 も 往 来 す る 場 所 と 言 わ れ た 』 と 、 石 巻 工 業 港 の 中 島 ふ 頭 を 指 定 し た 」

・ 「 ( 二 度 に わ た る 捜 索 の 結 果 で も 発 見 に 至 ら な か っ た 後 に ) そ れ で も あ き ら め ず 、 業 者 を 替 え て 翌 1 1 月 7 日 、 三 度 目 の 捜 索 。 Ⅹ 容 疑 者 が 当 初 か ら 指 定 し て い た 地 点 で ダ イ バ ー が 海 中 に 沈 ん だ 車 を 発 見 。 車 内 の A さ ん の 遺 体 を 確 認 し た 。 」

・ 「 一 部 の 保 険 会 社 は 、 Ⅹ 容 疑 者 の 指 摘 が “ 的 中 ” し た こ と に か え っ て 疑 問 を 抱 き 、 独 自 に 調 査 を 開 始 。 巫 女 か ら 事 情 を 聴 い た 結 果 、 『 港 と は 言 っ た が 、 ふ 頭 名 な ど は 特 定 し て い な い 』 と の 証 言 を 引 き 出 し て 疑 念 を 深 め た と い う 。 」

・ 「 Ⅹ 容 疑 者 が 捜 索 中 の 9 5 年 1 0 月 3 0 日 、 『 工 業 港 で 車 の 転 落 を 目 撃 し た 』 と い う 匿 名 の 投 書 が 図 面 付 き で 石 巻 署 に 寄 せ ら れ 、 図 の 示 す 転 落 地 点 は

Ⅹ 容 疑 者 が 指 定 し た 場 所 と ほ ぼ 一 致 し た 。 」

・ 「 県 警 は 同 日 、 石 巻 署 に 捜 査 本 部 を 設 置 。 本 格 的 な 捜 査 に 乗 り 出 し た 。 」

・ 「 A さ ん に は 総 額 2 億 円 以 上 の 保 険 金 が 掛 け ら れ 、 Ⅹ 容 疑 者 は こ の う ち 1 億 数 千 万 円 を 受 け 取 っ て い た た め 、 捜 査 本 部 は Ⅹ 容 疑 者 が B 容 疑 者 ら に 謝 礼 を 支 払 っ て 殺 人 を 依 頼 し て い た 疑 い も あ る と み て 金 の 流 れ な ど の 特 定 を 急 ぐ と と も に 詐 欺 容 疑 で の 立 件 も 目 指 す 。 」

・ 「 X 容 疑 者 は 容 疑 を 認 め て い る と い う 。 」

・ 「 捜 査 本 部 は 、 投 書 が 届 い た 時 期 と X 容 疑 者 が A さ ん を 発 見 し た 時 期 が 近 接 し て い る 上 、 投 書 か ら 指 紋 が 一 切 検 出 さ れ な か っ た こ と を 重 視 。 4 容 疑 者 の う ち の だ れ か が 投 書 を 出 し た が う ま く い か な か っ た た め 、 保 険 金 を 得 る た め に X 容 疑 者 自 身 が A さ ん を 『 発 見 』 し た と み て 追 及 す る 。 」

上 記 の 報 道 内 容 か ら は 、 一 部 の 保 険 会 社 は 、 独 自 の 調 査 の 結 果 、 保 険 金 受 取 人 の 関 与 を 疑 う に 足 り る 事 実 を 把 握 し て い た こ と が 窺 え る が 、 民 事 訴 訟 に お い て 被 告 と な っ た 生 命 保 険 会 社 は 、 訴 訟 に お い て 災 害 死 亡 保 険 金 の 支 払 い の み が 争 わ れ て い る こ と か ら も わ か る よ う に 、 死 亡 保 険 金 部 分 は 訴 訟 提 起 を 待 た ず に 支 払 い を 行 っ た よ う で あ る 。 こ の こ と か ら す る と 、 生 命 保 険 会 社 が 保 険 金 受 取

(14)

14

人 の 故 意 と い う 免 責 事 由 の 調 査 に あ た り 、 最 も 重 視 す る 捜 査 機 関 の 当 初 の 見 解 が 事 件 性 を 否 定 す る 内 容 で あ っ た こ と が 窺 え る し 、 か つ 、 生 命 保 険 会 社 に よ る 独 自 の 調 査 の 結 果 や 、 A 氏 へ の 高 額 の 生 命 保 険 の 付 保 の 事 実 、 そ し て 死 亡 保 険 金 取 得 後 の 実 行 犯 へ の 報 酬 金 の 流 れ が 犯 罪 捜 査 に 役 立 っ た こ と は 想 像 に 難 く な い 。 本 件 も 、 逆 説 的 な 意 味 で は あ る が 、 生 命 保 険 会 社 の 調 査 が 捜 査 の 端 緒 と な っ て 刑 事 事 件 の 立 件 に つ な が っ た 事 案 と い え る か も し れ な い 。

な お 、 本 件 の 刑 事 裁 判 で は 、 実 行 犯 ら が 被 害 者 に ク ロ ロ ホ ル ム を 吸 引 さ せ 、 昏 倒 さ せ た ( 第 1 行 為 ) う え で 、 被 害 者 を 溺 死 さ せ よ う と 海 中 に 転 落 さ せ た

( 第 2 行 為 ) と こ ろ 、 被 害 者 は 死 亡 し た も の の そ の 死 因 が 特 定 で き ず 、 海 中 に 転 落 さ せ る 前 に 被 害 者 は ク ロ ロ ホ ル ム の 吸 引 に よ り 、 既 に 死 亡 し て い た 可 能 性 が あ っ た と さ れ 、 こ の よ う な 経 過 に お け る 殺 人 罪 の 既 遂 の 成 立 が 問 題 と な っ た 。 こ の 点 に 関 し 、 最 高 裁 の 決 定1 7は 、 「 第 1 行 為 は 第 2 行 為 に 密 接 な 行 為 で あ り 、 実 行 犯 3 名 が 第 1 行 為 を 開 始 し た 時 点 で 既 に 殺 人 に 至 る 客 観 的 な 危 険 性 が 明 ら か に 認 め ら れ る か ら 、 そ の 時 点 に お い て 殺 人 罪 の 実 行 の 着 手 が あ っ た も の と 解 す る の が 相 当 」 と し 、 殺 人 罪 の 既 遂 を 認 め た 。 刑 法 判 例 上 著 名 な 「 ク ロ ロ ホ ル ム 事 件 」 で あ る 。 こ の 点 、 本 稿 の 議 論 と は 直 接 関 係 す る も の で は な い が 、 参 考 ま で に 紹 介 し て お く 。

Ⅳ . 事 例 を 梃 と し た 分 析

こ こ ま で 、 保 険 調 査 が 捜 査 の 端 緒 と な っ た 死 亡 事 件 の う ち 筆 者 が 知 る も の の う ち 、 保 険 会 社 が 捜 査 当 局 に 先 ん じ て 犯 罪 を 検 知 し た 死 亡 事 件 を 概 観 し て き た が 、 以 下 で は 、 こ れ ら の 事 件 を 梃 に 、 生 命 保 険 犯 罪 に つ い て の 特 性 分 析 を 試 み た い 。 な お 、 松 山 嘱 託 殺 人 事 件 に つ い て は 、 い わ ゆ る 「 保 険 金 殺 人 」 と は 異 な る が 、 こ こ で は 、 自 殺 を 遂 げ た 被 保 険 者 を 保 険 犯 罪 の 首 謀 者 、 嘱 託 殺 人 を 行 っ た 運 転 手 を 共 犯 者 と し て 分 析 を 行 う 。

1 7 最 決平 成 16 3 2 2刑 集 5 8 3 187

(15)

15 1 . 行 為 の 態 様

こ こ ま で 、 概 観 し て き た 2 つ の 事 件 に つ い て は 、 偶 然 な の か 必 然 な の か 、 港 の 岸 壁 か ら 自 動 車 ご と 海 に 転 落 し て 被 保 険 者 が 溺 死 し た と い う 態 様 面 に お け る 共 通 点 が 認 め ら れ る 。

こ れ と 同 様 な い し 類 似 の 態 様 を と っ た 保 険 金 殺 人 事 件 と し て は 、 古 く は 1 9 7 4 年 に 発 生 し た い わ ゆ る 「 別 府 3 億 円 保 険 金 殺 人 事 件 」 、 1 9 7 9 年 発 生 の い わ ゆ る 「 力 丸 ダ ム 保 険 金 殺 人 事 件 」 、 最 近 で は 、 2 0 0 2 年 に 秋 田 で 発 生 し た 保 険 金 殺 人 事 件 、 2 0 0 5 年 に 北 九 州 で 発 生 し た 保 険 金 殺 人 事 件 等 が あ げ ら れ る 。

ま た 、 少 し 前 の デ ー タ に な る が 、 1 9 7 8 年 ~ 1 9 8 2 年 の 5 年 間 に 検 挙 し た 保 険 金 目 的 の 殺 人 事 件 4 4 件 に つ い て 犯 行 の 手 段 ・ 方 法 を み る と 、 交 通 事 故 を 偽 装 し た も の が 1 6 件 ( 3 6 . 3 % ) と 最 も 多 く1 8、 か か る 特 性 が 単 に 概 観 し た 2つ の 事 件 に と ど ま る も の で は な い こ と が み て と れ る 。

ま た 、 交 通 事 故 を 偽 装 す る も の で は な い が 、 近 年 で は 、 1 9 9 9 年 に 発 覚 し た 長 崎 ・ 佐 賀 の 夫 子 連 続 保 険 金 殺 人 事 件 、 2 0 1 7 年 7 月 に 和 歌 山 県 白 浜 町 で 起 き た 保 険 金 殺 人 事 件 、 2 0 1 9 年 1月 に 千 葉 県 富 津 で 起 き た 保 険 金 殺 人 事 件

( 公 判 中 ) な ど の よ う に 、 い ず れ も 水 難 事 故 を 装 い 、 岸 壁 か ら 海 に 突 き 落 と し て 溺 死 さ せ る と い う 手 段 が と ら れ て い る ケ ー ス も 見 ら れ る 。

生 命 保 険 会 社 で 1 0 年 以 上 の 支 払 査 定 経 験 を 有 す る 筆 者 の 経 験 上 も 、 車 ご と 海 に 転 落 し て の 溺 死 は 、 そ の 態 様 か ら 、 単 な る 交 通 事 故 で は な く 事 件 や 自 殺 で は な い か と い う 疑 い を 即 座 に 抱 か せ る 一 方 で 、 実 際 に 調 査 を 行 っ た 後 も 、 種 々 の 間 接 事 実 の 積 み 重 ね の み で 事 件 、 事 故 、 自 殺 の 別 を 判 断 す る こ と は か な り の 困 難 を 要 す る ケ ー ス が 多 か っ た よ う に 思 う 。 裏 を 返 せ ば 、 保 険 金 殺 人 を 目 論 む 者 に と っ て は 、 生 命 保 険 会 社 が 不 慮 の 事 故 に よ る 死 亡 で あ る こ と に つ い て 合 理 的 な 反 証 ( 立 証 ) に 成 功 し な い 限 り 、 少 な く と も 普 通 死 亡 保 険 金 が 取 得 で き る 可 能 性 が 高 い こ と 、 万 一 、 不 慮 の 事 故 死 で あ る こ と が 否 定 さ れ た と し て も 、 溺 死 の 場 合 、 犯 罪 性 が あ る 場 合 に 特 有 の 痕 跡 が 生 じ に く い と 思 わ れ る1 9こ と や 、

1 8 昭 和 58年 警 察 白 書

1 9 2011 4月 に 法 医 学 者 、 刑 事 法 学 者 等 の 有 識 者 か ら な る 研 究 会 に お い て と り ま と め ら れ た 「 犯 罪 死 の 見 逃 し 防 止 に 資 す る 死 因 究 明 制 度 の 在 り 方 に つ い て 」 に よ れ ば 、 平 成 1 0 年 以 降 に 発 覚 し た 犯 罪 死 の 見 逃 し 等 事 案 の う ち 、 死 因 は 誤 っ て い な い が 、 犯 罪 性 を 見 落

(16)

16

運 転 手 が 脱 出 す る 、 な い し 被 害 者 以 外 が 乗 車 し な い こ と で 、 犯 罪 性 を 疑 わ せ る 痕 跡 が 残 り に く い と 思 わ れ る こ と 等 か ら す る と 、 保 険 金 受 取 人 の 故 意 で あ る こ と を 立 証 す る の は さ ら に 至 難 の 業 で あ り 、 ( こ う し た こ と が あ っ て は な ら な い も の の ) 保 険 金 殺 人 で あ る こ と が 発 覚 し な い ま ま 普 通 死 亡 保 険 金 部 分 が 取 得 で き る 可 能 性 は 高 い と も い え る 。

ま た 、 石 巻 保 険 金 殺 人 事 件 に お い て 、 被 保 険 者 を 失 神 さ せ る た め に ク ロ ロ ホ ル ム が 用 い ら れ て い る よ う に 、 犯 行 の 過 程 で 薬 毒 物 が 用 い ら れ る も の も 多 く み ら れ る 。 例 え ば 、 2 0 0 0 年 に 発 覚 し た 埼 玉 ・ 本 庄 保 険 金 殺 人 事 件 ( ト リ カ ブ ト や 薬 物 の 過 剰 摂 取 に よ り 殺 害 ) 、 2 0 0 1 年 に 発 覚 し た 久 留 米 の 看 護 師 4 人 組 に よ る 連 続 保 険 金 殺 人 事 件 ( ① 睡 眠 薬 を 飲 ま せ た う え で 静 脈 に 空 気 を 注 射 、

② 睡 眠 薬 で 意 識 消 失 さ せ 、 鼻 か ら ウ イ ス キ ー を 流 し 込 む ) な ど 、 薬 毒 物 等 を 用 い た 事 例 は 列 挙 に 暇 が な い 。

2 . 保 険 調 査 に 臨 む 請 求 者 ( 犯 罪 者 ) の 態 度

次 に 、 保 険 調 査 に 臨 む 請 求 者 ( 犯 罪 者 ) の 態 度 に つ い て み て み た い 。 紹 介 し た 2 つ の 実 例 の う ち 、 松 山 嘱 託 殺 人 事 件 に つ い て は 、 保 険 犯 罪 者 に あ た る 被 保 険 者 が 死 亡 ( 自 殺 ) し て お り 、 保 険 調 査 に 臨 む こ と が な か っ た た め 、 本 検 討 の 参 考 に な ら な い が 、 以 下 、 石 巻 保 険 金 殺 人 事 件 の 刑 事 裁 判 の 判 決 文 や 報 道 さ れ た 内 容 か ら 認 め ら れ る 、 保 険 金 受 取 人 で あ る X の 性 格 や 態 度 を 概 観 し て い く と と も に 、 前 記 1 で 列 挙 し た 過 去 の 保 険 金 殺 人 事 件 等 と の 共 通 点 を 探 っ て い く こ と と す る 。

・ 「 被 告 人 X の 性 格 は 、 活 発 で 激 し く 、 自 己 中 心 的 な と こ ろ が あ る 」2 0

・ 「 被 告 人 X は 、 … 知 り 合 っ た C と 肉 体 関 係 を 持 ち 、 以 後 、 同 人 と の 不 倫 関 係 を 続 け る た め に 、 多 数 の 消 費 者 金 融 か ら 借 金 を し た り 、 実 母 に 無 断 で 同 人 の 一 時 払 い 養 老 保 険 を 担 保 に 借 り 入 れ を す る な ど し て ま で 、 1 か 月 2 0 万 円 以 上 も の 多 額 の 金 銭 を 生 活 費 や 遊 興 費 と し て C に 貢 ぐ よ う に な り 、 再 び 借 金 が 増 加 し て い っ た 。 そ の た め 、 被 告 人 X は 、 平 成 6 年 中 に は 、 単 に A の 死 を 待

と し た も の (21件 ) の う ち 半 数 以 上 に あ た る 11件 が 溺 死 と さ れ て い る 。

2 0 最 決 平 成 16 3 2 2日 刑 集 5 8 3 187

(17)

17

つ の で は な く 、 同 人 を 殺 せ ば 生 命 保 険 金 が 手 に 入 る と 考 え る よ う に な り 、 H を は じ め と す る 知 人 に 対 し 、 『 お ら い の ハ ゲ う っ と う し い 。 お ら い の ハ ゲ 死 ね ば い い 。 だ れ か 殺 し て け ね が や 。 』 な ど と 話 す よ う に な っ た 。 」

・ 「 ( 被 害 者 の 殺 害 後 、 ) 被 害 者 の 遺 体 発 見 に 異 常 な 執 着 を み せ 、 遺 体 が 発 見 さ れ る や 、 良 心 の た め ら い も な く , 驚 く ほ ど の 早 さ で 保 険 金 請 求 に 必 要 な 書 類 を 整 え 、 他 の 遺 族 の 悲 し み に 目 も く れ ず 、 葬 儀 の 日 取 り も 意 に 介 さ ず 喜 々 と し て 保 険 金 請 求 を し て い る 」2 1

・ ま た 、 X は 、 「 た だ の 自 殺 で は ( 保 険 金 が ) 半 分 に な る 。 絶 対 に 事 故 に 見 せ か け な け れ ば 駄 目 だ 」 と 注 意 し た と い う 。2 2

・ X 容 疑 者 は A さ ん が 行 方 不 明 に な っ て 2 か 月 後 の 1 9 9 5 年 1 0 月 1 0 日 、

『 夫 は 石 巻 の 港 に 沈 ん で い る と の お 告 げ を 巫 女 か ら 受 け た 』 な ど と 話 し 、 石 巻 市 の 潜 水 業 者 に 捜 索 を 依 頼 し た 」2 3

・ 「 一 部 の 保 険 会 社 は 、 X 容 疑 者 の 指 摘 が “ 的 中 ” し た こ と に か え っ て 疑 問 を 抱 き 、 独 自 に 調 査 を 開 始 」2 4

こ の よ う に 、 X の 性 格 は 活 発 で 激 し く 、 自 己 中 心 的 で 、 遺 体 捜 索 や 保 険 金 請 求 に は 異 常 な 執 着 を み せ 、 保 険 調 査 に 際 し て も 、 保 険 会 社 や 関 係 者 に 疑 念 を 抱 か せ る ま で に 雄 弁 に 虚 偽 の 事 実 を 並 べ 立 て て 説 明 し た こ と が 窺 え る 。

こ の よ う な X の 性 格 や 態 度 は 、 本 件 に 特 有 の も の で は な く 、 前 出 の 保 険 金 殺 人 事 件 の 首 謀 者 、 例 え ば 、 マ ス コ ミ を 利 用 し て 積 極 的 に 身 の 潔 白 を 主 張 し た 別 府 3 億 円 保 険 金 殺 人 事 件 の 荒 木 虎 美 や 、 埼 玉 ・ 本 庄 保 険 金 殺 人 事 件 の 八 木 茂 死 刑 囚 、 看 護 師 仲 間 3 名 を 言 葉 巧 み に 洗 脳 し 、 共 謀 の う え 連 続 保 険 金 殺 人 事 件 を 起 こ し た 主 犯 格 の 吉 田 純 子 死 刑 囚 ら に も 共 通 し て み ら れ る 特 徴 で は な い か と 思 わ れ る 。

2 1 仙 台 地 判 平 成 1 4 5 29(判 例 集 等 未 登 載)

2 2 朝 日 新 聞 ( 東 北 版 )2002 1 2 2日 ( 朝 刊 ) 記 事

2 3・2 4 河 北 日 報 2001 10 7日 ( 朝 刊 ) 記 事

(18)

18 3 . そ の 他 の 特 徴

そ の 他 に 認 め ら れ る 特 徴 と し て 、 保 険 犯 罪 の 実 行 に あ た り 共 犯 者 が 存 在 し て い る 点 、 犯 人 が 借 財 や 金 銭 ト ラ ブ ル 等 を 抱 え て い る 点 、 犯 人 に 不 適 切 な 異 性 と の 関 係 が 存 在 す る 点 等 が あ げ ら れ よ う 。

保険 金 殺 人 は 共 犯 率 が 非 常 に 高 い 犯 罪 で あ る と さ れ2 5、 さ ら に そ の 中 で も 車 ご と 海 に 転 落 さ せ る よ う な 交 通 事 故 偽 装 事 件 は 、 そ の 態 様 か ら 考 え て も 単 独 で の 実 行 が 極 め て 難 し い も の と 考 え ら れ る 。 借 財 や 金 銭 ト ラ ブ ル の 存 在 は 、 保 険 金 殺 人 の 最 も 重 要 な 動 機 が 金 銭 欲 と さ れ る2 6こ と か ら し て も あ る 意 味 当 然 か も し れ な い 。 ま た 、 生 命 保 険 が 基 本 的 に は 家 族 制 度 の 上 に 成 り 立 ち 、 保 険 金 受 取 人 は 、 家 族 間 の 愛 情 関 係 か ら 、 本 来 被 保 険 者 が 生 き 続 け る こ と を 望 み 、 保 険 金 を 受 け 取 る こ と を 望 ん で い な い と い う 前 提 に 立 っ て い る2 7こ と を 考 え れ ば 、 石 巻 保 険 金 殺 人 の よ う に 被 保 険 者 と 保 険 金 受 取 人 が 夫 婦 の 場 合 に お い て は 、 保 険 金 受 取 人 に 異 性 と の 不 適 切 な 関 係 が 存 在 す る ( こ の 場 合 、 夫 婦 関 係 は 極 度 に 悪 化 し て い る こ と が 多 い ) の は あ る 意 味 自 然 と い え よ う 。

ま た 、 松 山 嘱 託 殺 人 に つ い て は 、 被 保 険 者 に 過 去 に 保 険 犯 罪 ( 保 険 金 詐 取 目 的 の た め 船 舶 を 沈 没 さ せ よ う と し た 偽 装 事 故 未 遂 に よ り 、 艦 船 覆 没 未 遂 罪 で 起 訴 さ れ 、 公 判 中 ) の 経 歴 が あ っ た こ と 、 石 巻 保 険 金 殺 人 事 件 に つ い て も 、 主 犯 の X に は 前 歴 等 は な い も の の 、 実 行 犯 の 中 心 人 物 で あ る B は 本 件 と は 別 の 保 険 犯 罪 を 行 っ た 事 実 が 認 め ら れ て い る2 8点 等 か ら す る と 、 過 去 に 保 険 犯 罪 の 経 歴 が あ る と い う 点 も 特 徴 と し て 挙 げ て よ い と 思 わ れ る 。

2 5 月 足 一 清 「 保 険 金 殺 人 の 動 向 分 析 -1970年 ~1989年 」( 犯 罪 社 会 学 研 究 15 1990)129頁 に よ れ ば 、1970年 代 か ら 80年 代 に 起 き た 保 険 金 殺 人 の う ち 、 共 犯 に よ る 事 件 が 総 件 数 147件 中 92件 と 実 に 62.6% に 上 り 、 特 に 「 交 通 事 故 死 」 偽 装 事 件 で は 全 40 件 中3 1件 と 77.5% の 高 率 を 示 し て い る と さ れ る 。

2 6 渡 橋 健 「 近 年 の 刑 事 裁 判 例 に 見 る 保 険 金 殺 人 の 動 向 と モ ラ ル ・ リ ス ク 対 策 」( 保 険 学 雑 誌 第605 号 )172

2 7 月 足 ・ 前 掲 126

2 8 刑 事 裁 判 の 記 録 上 、 既 往 症 や 入 院 歴 等 を 秘 匿 し て 保 険 契 約 を し 、 多 額 の 保 険 金 を 詐 取 し た 事 実 が 認 定 さ れ て い る 。

(19)

19

Ⅴ . 外 国 の 事 例 等 と の 比 較

次 に 、 こ こ ま で の 特 性 分 析 が 通 用 性 を 持 つ か ど う か に つ い て 、 外 国 文 献 で 指 摘 さ れ て い る 保 険 犯 罪 ( 者 ) の 特 徴 等 と も 対 比 し た 分 析 を 試 み た い 。

1 . 行 為 の 態 様 に つ い て

人 身 傷 害 保 険 に か か る 記 述 で は あ る が 、Dexter Morse と Lynne Skajaa の 2 0 0 4 年 の 研 究 に よ れ ば 、 そ の 当 時 、 事 故 偽 装 (staged accident) に よ る 詐 欺 の 件 数 は 多 く の 国 で 劇 的 に 増 加 し て お り 、 保 険 の 対 象 と な る 犠 牲 者 に は 、 女 性 や 高 齢 者 が な る 傾 向 が あ る 、 請 求 者 (claimant) に は 、 似 た よ う な 状 況 で の 以 前 の 事 故 歴 (history of prior accidents) が あ る 等 と い っ た 指 摘 が な さ れ て い る2 9。 ま た 、Alfred Mane の 1 9 4 4 年 の 研 究 に よ れ ば 、 保 険 犯 罪 の 1 類 型 と し て 、 多 く の 人 間 が 自 殺 で あ る こ と を 発 見 さ れ る こ と の な い よ う 、 純 粋 な 事 故 を 仮 装 (camouflage of pure accidents) し て 故 意 に 死 亡 し て お り 、 科 学 の 進 展 に よ り 、 自 動 車 や 飛 行 機 等 の 乗 り 物 を 自 殺 の 方 法 と し て 用 い る こ と が 多 く な っ て い る と の 指 摘 が あ る3 0。 少 な く と も 、 自 動 車 を 用 い た 交 通 事 故 の 偽 装 は 、 日 本 国 内 の み な ら ず 、 海 外 に お い て も 保 険 犯 罪 の 代 表 的 な 態 様 で あ る よ う で あ る 。 一 方 で 、 車 ご と 海 に 転 落 と い う 態 様 を 用 い た 事 例 は 筆 者 に お い て は 発 見 す る に 至 ら ず 、 こ れ は あ る 意 味 日 本 に お い て 特 徴 的 な 態 様 で あ る 可 能 性 が 指 摘 で き る よ う に も 思 わ れ る 。 ま た 、 保 険 犯 罪 の 犠 牲 者 の 役 回 り を 演 じ る 被 保 険 者 に は 女 性 や 高 齢 者 が な る 傾 向 が あ る と い う 点 に つ い て も 、 日 本 に お け る 特 徴 と は や や 異 な っ て い る よ う に 思 わ れ る 。

2 . 保 険 調 査 に 臨 む 請 求 者 ( 犯 罪 者 ) の 態 度

Danielle E.Warrenと Maurice E.Schweitzer に よ る 2 0 1 5 年 の 研 究 は 、 詐 欺 請 求 者 (deceivers) に は 、 保 険 調 査 に 臨 む に あ た り 、 保 険 会 社 の 調 査 員 と の 面 談 を 避 け た り 遅 ら せ た り と い っ た 、 や り と り 回 避 (interpersonal

2 9 Dexter Morse and Lynne Skajaa“TACKING INSURANCE FRAUD:LAW AND PRACTICE”

(2004)P.21

3 0 Alfred Manes “Insurance Crimes(1944)P.37

(20)

20

avoidance) の 傾 向 が み ら れ る と 指 摘 し 、 そ の 理 由 と し て 、 ① 面 談 を 遅 ら せ る こ と に よ り 保 険 者 側 の 忍 耐 や 財 源 を 試 す こ と が で き る と い っ た 戦 略 的 な 理 由 、

② 会 話 手 段 を 遮 断 す る こ と に よ り 請 求 内 容 を 矛 盾 な く 思 い 出 さ な け れ ば な ら な い 機 会 を 回 避 で き る 点 、 ③ 調 査 員 と 会 う こ と で 、 ス ト レ ス や 不 安 等 の 何 か し ら の 生 理 的 な 反 応 が 生 じ る 点 、 と い っ た 内 容 を 挙 げ て い る3 1

こ の よ う な 「 や り と り 回 避 」 の 傾 向 は 、 筆 者 の 実 務 経 験 上 か ら の 推 測 に は な る が 、 日 本 に お け る 保 険 犯 罪 の 中 で も 、 生 命 保 険 の 高 度 障 害 保 険 金 の 請 求 や 各 種 の 医 療 特 約 に 基 づ く 給 付 金 と い っ た 生 存 給 付 の 請 求 者 に み ら れ る 傾 向 の よ う に も 思 わ れ る 。

石 巻 保 険 金 殺 人 事 件 の 主 犯 で あ る Ⅹ や 、 著 名 な 保 険 金 殺 人 事 件 の 犯 人 ら に 共 通 し て み ら れ た 、 「 雄 弁 」 と も い え る 態 度 と は 正 反 対 の 特 徴 で あ る が 、 こ の よ う な 「 雄 弁 」 さ は 、 死 亡 事 件 、 つ ま り 保 険 金 殺 人 の 犯 人 に 特 有 の 特 徴 で あ る と い う 指 摘 が で き る よ う に も 思 わ れ る 。

3 . そ の 他 の 特 徴

保 険 犯 罪 の 実 行 に あ た っ て の 共 犯 者 の 存 在 に 関 し 、Dexter Morse と Lynne Skajaa に よ る 前 出 研 究 は 、 人 身 傷 害 保 険 の 詐 欺 の 特 徴 と し て 、 プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ ル で よ く 訓 練 さ れ た 組 織 (rings) の 存 在 や 、 事 故 現 場 に お け る 過 度 に 熱 狂 的 で 協 力 的 な 目 撃 者 (over‐enthusiastic and co-operative witness) の 存 在 を 指 摘 す る3 2。 ま た 、Michael H.Boyer に よ る 1 9 8 8 年 の 研 究 は 、 家 財 保 険 に つ い て で は あ る が 、 詐 欺 の 指 標 (indicators of fraud) と し て 、 「 保 険 加 入 者 は 個 人 的 あ る い は 仕 事 上 の 金 銭 ト ラ ブ ル を 抱 え て い る 。 」 「 保 険 加 入 者 と 配 偶 者 が 最 近 離 婚 し た 、 な い し 離 婚 手 続 き 中 で あ る 。 」 「 保 険 加 入 者 に 以 前 に 多 く の 疑 惑 の 損 害 歴 (black cloud) が あ る 。 」 と い っ た 項 目 を 挙 げ て お り3 3、 こ れ ら の 特 徴 は 日 本 に お け る 生 命 保 険 犯 罪 の そ れ と 一 致 を み る こ と が 指 摘 で き よ う 。

3 1 Danielle E.Warren Maurice・E.Schweitzer “When Lying Does Not Pay:How Experts Detect Insurance Fraud”(2015)P.714

3 2 前 掲 ・ 注)27 P21

3 3 Michael H.Boyer“PERSONAL PROPERTY INSURANCE FRAUD CHECKLISTS”(1988)P3

Referensi

Dokumen terkait

2 高校生白書 ⑤ ■調査概要 ●調査対象 全国 47 都道府県の高校生 ●調査方法 インターネット調査法 ●調査期間 2006 年 3 月 3 日〜 3 月 10 日 ■集計内容 3月初旬に、緊急アンケートといたしまして、インターネットで実施した進学に関するアンケー トの結果です。