一般選抜入試/ 2021
国 語
次の文章は、丹羽宇一郎『死ぬほど読書』の一節である。よく読んで、問いに答えよ。
最近の人は、 論理的にものを考える力が弱くなっている気がします。
あの人の主張はだめだと思う場合、なぜだめなのかをきちんと考えて言葉にする。そういうこ とが論理的に考えるということです。
いまの時代は容易に答えを出すのが難しい問題が山積しています。
環境問題や深刻な格差を生むグローバリズムの問題といったものは、いろいろな角度 から論理的に考えていかなくては、よりよい解決策は出てきません。風が吹けば桶おけ屋が儲かる式 の単純な発想では、太た ち う刀打ちできない。
考える力がある人は、その人なりの価値観を軸として持っています。軸ですから当然ブレては いけません。
地球が自転する際、地軸の傾きは公転面に対して23 ・4度傾いていますが、この傾きが数度ズ レれば、いまのようには地球は回りません。 、きちんと論理的に考えるには、価値観の 軸がしっかり定まっていなくてはいけないのです。
政治思想の立場として、(注1)リベラリズムがいいか、(注2)リバタリアニズムがいいか、(注3)コミュ ニタリアニズムがいいか、どれがいいとか悪いとかということはありません。
、自分はなぜリバタリアンの立場なのかとか、コミュニタリアンなのか、というよう に論理的に考えられることが大事です。
いつも感覚的に、 場当たり的な対応をしていては、よりよい考えは導かれません。
仕事でもうまくいかないことがあれば、その理由をきちんと考えていかなくては、本当の問題 解決にはなりません。
いまの人が論理的に考える力が衰えているとすれば、読書量が減っただけではなく、マニュ アル的な感覚が蔓まんえん延している影響もあると思います。
試験と同じで、仕事にも人生にも答えが用意されている。その答えをどれだけたくさん持って いるかで、うまくいくか イナかが決まってくる。そんなふうに思っている人が、けっこういる のではないでしょうか。
、仕事の仕方でも人生においても、正解があるわけではありません。自分でいいと思 うものをその ツド、探して行動していくしかないのです。そのとき、そのときでよりよいもの を導くには、とことん考え抜く力がなくてはいけません。
また、考える力の低下には、ネットの影響も多分にあるでしょう。ネットに溢れる情報やツイッ ターのようなSNSをしょっちゅう目にしていれば、情報を受け身で得る習慣ばかりがつき、そ れらの中身や質を問うようなことはしなくなると思います。
論理的に考える力をつけるには、読書はこの上なく効果的です。
思考力を養うには、何も哲学書のような堅い本を読む必要はありません。小説でも、なぜこの 主人公はこういう行動をとったのか?作者はこうした物語を書くことで何を伝えたかったのか?
一
㋐
a b
c
あ
Ⓐ
①
d
②
国 語
そんなことを考えさせてくれます。経済書にしても、書き手が主張する論は正しいのか?いまの時代に合っているのか?いろいろ なことを考えながら読むことができます。
本は「なぜ?」「どうして?」と考えながら読めば、それだけ考える力が ミガかれるのです。
考える力は生きていく力に直結します。それは何よりも読書によって培われるのです。
論理的にものを考えることは、人がよりよく生きていく上で欠かせません。その力をもっとも 鍛えてくれるのは、繰り返しになりますが、読書だと思います。
、本を 漫然と読んでも、論理的にものを考える力がつくわけではありません。たと えば、グローバル資本主義を論じた本を読むときに、著者がいうことをそのまま受け身で読むの と、ところどころ立ち止まり、考えながら読むのとでは、読書の意味合いがまったく違ってきます。
著者がここでいっていることはどういうことだろう?それは果たして正しいのか?現状の分析 は鋭いが、10 年後の世界にも同じようなことがいえるのか?この推察は新興国にいえることであっ て、成長率が鈍化している 先進国には当てはまらないのではないか……。そんなことを考えな がら読む人は、本から得る知識が相当に深いものになるでしょうし、論理的に考える力も得られ るはずです。
私が「考えながら読む」ことをはっきり意識するようになったのは、アメリカ駐在時代に、日 本経済新聞からシカゴ穀物取引所の市況やアメリカの農業事情について、定期的に記事を書くよ う頼まれたことがきっかけです。
原稿を書くときは、実地の調査によって得た情報、資料や本にあたって仕入れた知識を整理し、
自分なりに考えたことを読み手にわかりやすく伝える工夫が必要です。
原稿の構成、文章スタイル、流れとリズム、強調すべき点など、頭のなかにインプットされた ものを文章化していく作業には、きわめて論理的な思考が求められます。
文章を通して多くの人に自分の意見や考え方を伝え、理解してもらうためには、考えながら本 を読んだり、資料を分析したりすることが非常に重要だと、そのとき感じたのです。
アメリカには9年間駐在しましたが、その間、自ら車を運転して現地の農場を見て回ったり、
穀物メジャーや気象関係者らと シンコウを深めるなど、独自のスタイルで生きた情報を仕入れ ることに 注力したことは、すでに述べたとおりです。
そんな努力を下地にした穀物市況の分析予測は関係者の間で評価されたのか、私の意見を聞き にNBCテレビが取材にきたこともありました。また帰国後はアメリカでの ジッセキに興味を もたれたのか、業界紙に「アメリカ農業小史」「アメリカ農業風土記」を連載したり、講演会の 依頼が舞い込んだりするようになりました。
これらは「考えながら読む」ことを重ね、論理的にものを考える習慣がなければ、実現できな かったことだと思っています。
(丹羽宇一郎『死ぬほど読書』幻冬舎)
③
e い
㋑
④ う
⑤
※問題作成の都合上、文章の一部を修正した。
注1 リベラリズム…自由主義。国家や集団や権威などによる統制に対し、個人などが自由に判 断し決定することが可能であり、自己決定権を持つとする思想・体制・傾向などを指す。
注2 リバタリアニズム…他者の身体や正当に所有された物質的、私的財産を侵害しない限り、
各人が望むすべての行動は基本的に自由であると主張する。
注3 コミュニタリアニズム…リベラリズムやリバタリアニズムが個人を優先するのに対し、歴 史的に形成されてきた共同体の伝統の中でこそ個人は人間として完成され、生きていけると する政治思想。
問一 傍線部①~⑤を漢字に直せ。
問二 空欄a~eに入る最も適当な言葉を選び、記号で答えよ。
a ア たとえば イ 決して ウ すぐに エ ほとんど オ もっとも b ア いわば イ 反対に ウ そもそも エ それと同じで オ または c ア しかも イ ただ ウ たとえば エ あるいは オ 思うに d ア だから イ つまり ウ そして エ このように オ しかし e ア しかし イ だから ウ そして エ つまり オ 一方
問三 傍線部㋐「論理的」、 ㋑「先進国」の対義語は何か、文中から言葉を選んで書け。
問四 傍線部あいうの言葉の意味を選び、記号で答えよ。
あ「場当たり的」
ア 様々場面に遭遇する イ その時の思いつき ウ 期間限定 エ 的確な オ 本番に強い
い「漫然と」
ア 目的もなく事をなす イ 何をする気も起らない ウ 変わりばえのない様子 エ 何度も繰り返す オ 一生懸命な様子
う「注力」
ア 注意深くすること イ 躍起になること ウ ねらいを定めること エ 丁寧にすること オ 力を尽くすこと
問五 Ⓐ「いまの人が論理的に考える力が衰えている」原因を筆者は三つ述べている。三つすべ て、解答欄にあてはまる文字数で文中から抜き出せ。(句読点を含まず)
問六 本文を読んで、筆者の考えをどう思いますか。あなたの読書経験と比較しながら、百字以 内で考えを述べよ。(句読点を含む)
次の文章は、遠藤周作の小説『海と毒薬』の一節である。よく読んで、問いに答えよ。
「おやじ000 の回診は何時に変ったんや」
「三時半やろ」
「また会議か」
「うん」
「あさましい世の中や。そんなにみんな、医学部長になりたいものかな」
一月の風が破れた窓をならしていた。窓硝ガ ラ ス子にはりつけた バクフウよけの紙がその風に少し
は剥
がれて、カサ、カサと音をたてている。第三研究室はこの病棟の北側にあったから、まだ午後 二時半すぎたばかりだというのに夕暮のように暗く冷え冷えとしていた。
机の上に新聞紙をひろげて戸田は薬用葡ぶ ど う萄糖をふるいメスで削っていた。少し削り終るたびに、
彼は掌てのひらにその白い粉をつけて如い か何にも惜しそうに舐なめるのである。病棟は静まりかえっている。
一階の大部屋患者も二階の個室患者も三時までは絶対安静なのだ。
黄色い痰たんの塊を(注1)白金線でガラス板に引き伸ばしていた勝す ぐ ろ呂はそれを青いガス火の上で乾 かした。痰の焼けるイヤな臭においが鼻についた。
「ちえっ、(注2)ガベット液が足りん」
「なに?」
「ガベット液が足りんのや」
勝呂は同じ研究生の戸田と話をする時は何い つ時も片言の関西弁を使う。学生時代からいつの間に か二人の間では そういう習慣が作られていた。昔はそれも彼か れ ら等が自分たちの友情を アンモク のうちに証明する(注3)ふちょう符牒だったのだ。
「だれの痰や、それは?」
「おばはん0000 ¦¦¦の」と答えて勝呂は顔をあからめた。戸田が葡萄糖の白い粉のついた唇の周 りに皮肉な嗤わらいを浮かべてこちらを見詰めているのに気がついたからである。
「なんやと。まだお前」戸田はわざと驚いたように声をあげて、
「やめとけよ。何時までお前あんな(注4)せりょう施療患者の面倒をみるねん」
「面倒みるわけや、ないねんけど」
「けどどうせ死ス テ ルぬ患者じゃないか。ガベット液を使うだけ無駄やで。¦¦¦」
けれども勝呂は眼をしばたたきながら痰を染色しはじめた。硝子板の間で火にあぶられたおば はんの痰が卵焼の茶色い縁のようにくっついていた。その痰のむこう側に勝呂はこれと同じよう に茶色くしなびた彼女の細腕を思いうかべた。 戸田の言う通りなのだ。あの女はもう十カ月は
も保
たないだろう。毎朝、臭気のこもった大部屋に行くたびに、垢じみた布団に身を横たえている おばはんの眼に光が次第に消えていくのを彼はとうから気づいていた。
あれは門も じ司が空襲で焼かれた時、この街に妹を頼って逃げてきた患者である。街にいってみる とその妹も家族と共に行方不明になっていた。警察からこの大学病院に施療患者として送られて から第三病棟の大部屋で寝たきりなのである。両肺がもう、半ば侵されているから手の施しよう もない。おやじ000 の橋本教授はとっくに 。
「ひょっとしたら助かるかと思うてな」
二
①
A ②
B
C
① ②
③ ④
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一般選抜入試/ 2021
国 語
「助かるもんか」戸田は突然、やりきれないと言ったように声をあげた。「変な カンショウは よせや。一人だけ助けても、どうなるねん。大部屋にも個室にもダメな奴やつはごろごろ0000 しているや ないか。なぜ、おばはんだけに執着するのや」
「執着してるんや、ないよ」
「おばはん、お前のお袋にでも似てますか」
「まさか」
「甘いねえ、お前。いつまでそんな女子学生みたいなこと考えてるのや」
そう言われれば勝呂は一方ではムッとしながらも、自分の秘密でも見つけられたように思わず 顔をあかくして硝子板を棚のうしろに投げこんだ。
彼は自分の気持ちをどう、戸田に説明していいのかわからなかった。(俺、あの患者が俺の最 初の患者やと思うとるのや)と言うのが恥ずかしかった。(俺、毎朝、大部屋であの髪の黄色くなっ たおばはんの頭をみるのがタマらんのや。鶏の足みたいな手をみるの苦しゅうなるんや)と打明 けるのが恥ずかしかった。そう言えば戸田はきっと 皮肉な刺とげのある言葉をぶつけてくるのだろ う。そんな憐れんびん憫は今の世の中にとっても医者にとっても何の役にたたぬ所か、害のあるものだと 言うだろう。
「みんな死んでいく時代やぜ」相手は葡萄糖を新聞紙に包んで机の中に入れた。「病院で死なん 奴は、毎晩、空襲で死ぬんや。おばはん一人、憐あわれんでいたってどうにもならんね。それよりも 肺結核をなおす新方法を考えるべし」
壁にかけた診察着に腕をとおすと、戸田は兄貴が弟をさとすような微笑をうかべて部屋を出て いった。
既に三時である。安静の終ったらしい病棟の廊下で看護婦たちがバタバタと走る足音がきこえ はじめた。自炊する患者たちが洗い場の水を流している。破れた窓の間から大学の構内をクリー ム色に光った自動車がゆっくりと登ってくるのが見えた。第二外科の正門にとまったその車に、
一人の軍医を従えて、(注5)国民服を着た小柄の太った男が乗りこんだ。ドアがしまる。車はすべ るように走りだす。鉛色の路みちを消えていく。人影のない夕暮の大学構内での颯さっそう爽とした それら の動きは確かにこの暗い研究室やみすぼらしい病室や、その病室で身を横たえている患者たちと は違った世界の出来ごとのようだった。
(あれは権ごんどう藤教授と小こ ぼ り堀軍医じゃなかろうか。すると会議はもう終わったな)そう気づくと勝 呂は更に憂ゆううつ鬱になっていった。(会議が都合よういきゃいいが。そうせんと、また、おやじが俺 たちに当たるもんなあ)
一カ月前、勝呂の働いている大学で大おおすぎ杉医学部長が脳のういつけつ溢血で倒れた。西部軍司令部の医官や文 部省の役人との会議中の出来ごとである。会の途中でこの老人は少し、よろめきながら便所にたっ た。何かがぶつかったような ニブい物音を耳にして人々が駆けつけた時、老人は水洗便所の鎖 を握ったまま、仰むけに壁に靠もたれていた。
勝呂はそれから一週間たったある日、校庭で開かれた医学部葬のことを覚えている。それは 曇った寒い午後だった。海から吹いてくる風が校庭の黒い土つちぼこり埃や新聞紙を小さな竜巻のように巻 きあげながら、天幕をバタ、バタとならした。その天幕の前に白い手袋をはめて軍刀の柄つかを押え ている西部軍の高級将校が両脚をひろげて椅子に腰かけていた。彼等の横にならんだ教授たちは
③
D
E
④
ぶかっこう不
格好な国民服を着ているためか、どれも、にがい疲れた表情をみせ、痩やせこけてみすぼらしかっ た。一人の将校が故人の写真の前で長い長い演説をやり、医学徒の(注6)臣道実践を述べはじめた。
たんなる医局の研究生にすぎない勝呂にも毎日、おやじ000 の橋本教授の苛いら立った表情をみるたび に部長の椅子をめぐって医学部の教授たちが ドウヨウしていることが薄々と感ぜられる。この 頃、回診の時など、おやじ000 は妙に医局員に当ったり、施療患者を叱りつけたりするのだ。
戸田の表現によると教授たちの大半は権藤第二外科部長の勢力に、「丸めこまれた」のだそう である。実際の所、年齢から言っても、部内の経歴から言っても、戸田や勝呂のおやじ000 である橋 本教授が医学部長を継ぐのは至極当然の話に思われた。その当然の話が クツガエりはじめたの は権藤派がF市の西部軍と結びついて足がためを前からしていたからだ。これも戸田の話だが、
権藤教授は自分が医学部長になれば大学の二病棟に(注7)しょうい傷痍軍人だけを収容するという内約を 軍に与えたと言うことだ。そして彼と軍との間をたえず連絡しているのは第二外科の講師だった 小堀軍医だそうなのだ。
そういう複雑な学内の内情は下積みの研究員にすぎぬ勝呂にはハッキリ呑
のみこめなかった。
もっとも呑みこめた所でそれが自分の将来とは深い関係があるとは思わなかった。(俺の頭あ、
浅井さんや戸田のごと大学に残る頭じゃなか)と彼は考える。(どこか山の療養所で結核医とし て働けば、それで結構だ。それに、俺はもうすぐ(注8)短期現役でこの医学部ともおさらばじゃ)
夕暮になると(注9)国防色の車がよく第二外科の入口に停とまる。みどり色の襟章をつけ、身に合わ ぬ軍刀を長ちょうか靴にあてながら見習医官たちがその車のドアをあける。小太りの権藤教授が悠然と乗 り込む。そうした光景を眼にしても勝呂が憂鬱になるのは、ただ回診の時、苛立ったおやじの
御下問がきびしくなりはせぬかと言うことだった。
(遠藤周作『海と毒薬』新潮文庫)
注1 白金線…炎色反応用試薬を浸けてガスバーナーの炎の中に入れると、特有な色の炎を観察 することができる。
注2 ガベット液…細菌染色用の薬品。
注3 符牒…仲間にだけ通用する言葉や印。
注4 施療患者…貧しくて無料で治療を受けている患者。
注5 国民服…国民が常用すべきものとして昭和十五年に制定された軍服に似た形の衣服。
注6 臣道…臣下として守るべき道。
注7 傷痍軍人…戦場あるいは公務中に負傷した軍人。
注8 短期現役…徴兵制度の特例で、旧制大学卒業者等を対象に現役期間を二年間に限って採用 した士官のこと。
注9 国防色…昭和九年当時の日本陸軍の軍服の色。
注10 御下問…目下の者に問い尋ねること。
⑤
⑥
F
(注10)
問一 傍線部①~⑥のカタカナを漢字に直せ。
問二 傍線部A「そういう習慣」が示す内容を文中より二十五字から三十五字以内で抜き出せ。
(句読点を含む)
問三 傍線部B「戸田の言う通り」が示す内容として最も適当なものを選び、記号で答えよ。
ア おばはんはどうせ死ぬ患者であるのだから薬品を使っても無駄になるだけである イ おばはんは警察が送ってきた施療患者であるから治療にお金をかけてはいけない ウ おばはんの腕はしなびており、眼の光も消えつつあるのだからすぐ死ぬに違いない エ おばはんの痰をどんなに炎であぶろうと卵焼きの茶色い縁のようにしかくっつかない オ おばはんが自分の母親に似ているからなんとか助けたいと思うのは悪いことではない 問四 空欄Cにあてはまる最も適当な語句を次のア~オから選び、記号で答えよ。
ア 胡あ ぐ ら坐をかいていた イ 太鼓判を捺おしていた ウ 匙さじを投げていた エ 意地になっていた オ 快かいさい哉を叫んでいた
問五 傍線部D「皮肉な刺のある言葉」が示す内容として最も適当なものを選び、記号で答えよ。
ア 同情しても哀れんでもいずれは空襲で死ぬか、病院で死ぬかだけの違いである イ 同情や哀れみをもつようでは女子学生のような甘い奴と思われるのが落ちである ウ 同情し哀れんだところで新しい治療方法を考案することに全く役に立たないのである エ 同情や哀れみは今の世の中にも医者にも役に立たないどころか害を与えるものである オ 同情や哀れみが葡萄糖となって空腹を満たしてくれることなど有り得ないではないか 問六 傍線部E「それらの動き」が示す内容として最も適当なものを選び、記号で答えよ。
ア 自炊する患者たちが洗い場の水を流している イ 看護婦たちがバタバタと走る足音がきこえはじめた ウ 兄貴が弟をさとすような微笑をうかべて部屋を出ていった エ クリーム色に光った自動車がゆっくりと登ってくるのが見えた オ ドアがしまる。車はすべるように走りだす。鉛色の路を消えていく
問七 傍線部F「そういう複雑な学内の内情」が示す内容として最も適当なものを選び、記号で 答えよ。
ア 橋本教授は毎日苛立っていて、医局員に当ったり施療患者を叱りつけており、到底、医 学部長に相応しいとは思えないと大半の教授たちが思っているということ イ 戸田のように新しい治療法を考えようとする優秀な研究生は徴兵されずに医学部に残る
ことができるが、勝呂のような研究生はすぐに徴兵されてしまうということ ウ 次の医学部長に橋本教授がなったとしたら大学の二病棟に傷痍軍人だけを収容するとい
う密約を、小堀軍医を通してF市の西部軍に与えたと噂されているということ エ 大杉医学部長の葬儀には西部軍の高級将校が医学のあるべき道を説いていたが、医学の
道を歩んでいるはずの教授たちは疲れた表情をみせるばかりだったということ オ 次の医学部長には年齢や経歴から、当然、橋本教授が引き継ぐと思われていたが、小堀
軍医が権藤教授と軍を強く結びつけ、大半の教授は権藤教授派に取り込まれたこと
問八 勝呂とはどのような人物であると思うか。あなたの考えを四十五字から五十五字以内で書 け。(句読点を含む)