岡山理科大学紀要第48号App,23-27(2012)
自己保持機能を有するデジタルサーポ弁の改良
宗史***
正子祐輔。堂田周治自旧。赤木徹也・大野歩。上田
****岡山理科大学大学院工学研究科知能機械工学専攻
*岡山理科大学工学部知能機械工学科
**岡山理科大学工学部工学プロジェクトコース
***SMC株式会社
(2012年9月28日受付、2012年11月1日受理)
1.緒言
近年、空気圧駆動のウェアラブル制御システムの開 発が盛んである')。このようなシステムの実現には、
流体制御弁の小型化。省エネルギ化は大きな課題であ る。現在主流の電気-空気圧制御弁では、圧力差による 大きな力が加わったアーマチュアやポペットをソレノ イドの力で駆動するため弁の容積と重量が大きくなっ てしまう。さらにシールを保ちながら可動する複雑な 機構が必要でありコスト削減の弊害となっている。
そこで、本論文では弁開閉の状態を保持するために エネルギを必要とせず、段階的に流量調節ができる自 己保持機能を有するデジタルサーボ弁の開発とその改 良について述べる。
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図2垂直方向と直交方向の力の比
3.従来のデジタルサーポ弁3)
従来のデジタルサーポ弁の構造および写真を図3に 示す。弁は直径30mm、厚さ3mmのアクリル製円盤に中心 から半径12mmの位置でl28deg・の角度を有するように 配置されたネオジム磁石(直径5mm、厚さ5mm)と、開口 面積の異なるオリフイス(の0.4,0.6,08mm)が挿入さ れた6本のチェック弁付柔軟チューブ、アクリル製円盤 を駆動するためのサーボモータ(㈱GWS S125-1T/2BB/F)から構成される。このサーボモータの
‘性能は428.6deg./s(71.4rpm)である。また、チューブ は給気側と排気側の3本ずつに分けられ、6本のチュー ブの一端が全て1つの出力ロに接続されている。
2.弁の基本コンセプト2)
従来の制御弁は図l(a)に示すように、ポペット(鋼 球)に管路軸方向から力を加えることで弁を開閉して おり、駆動に大きな力が必要となる。そこで本研究で は図1(b)のように管路軸に直交する方向から力を加 えることで、小さな力で開閉する弁の開発をめざす。
図2に管路軸方向の力F、垂直方向の力まで開口に必要 な力の比と、ボール径、とオリフィス径dの比の関係 を示す。鋼球の直径〃=2mm、オリフイス内径。=0.5mm の場合Z''7は1/4となり、管路軸方向に比べ弁開閉のた めに必要な力が25%で良いことがわかる。
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(b)提案する弁 弁の基本コンセプト
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図3従来のデジタルサーボ弁の構造と外観
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24 田宗史
そして、給気側の3本は給気口としてまとめ、排気側の 3本はそれぞれ大気に開放している。また、チューブ内 の鋼球(直径2m)は、円柱状磁石の軌道である円周上に 並列に配置されている。そのチューブ列上部にサーボ モータで回転する円柱状磁石を配置し、サーボモータ で磁石の位置を変えることで任意のチューブ内の鋼球 を磁着し、給気と排気用のオリフイスを開口し、流量 を調節するものである。この時の円柱状磁石の位置と 開口するチューブ(ポート)の模式図を図4に示す。また、
動作原理を図5(a)~(。)に示す。初期状態では、図5(a)
に示すように給気側、排気側のチューブ全てが閉じた 保持状態であり、(b)、(c)、(。)に示す給気小、中、大 の状態へ移動できる。また円盤の反対側に配置されて いる磁石により、排気側も同様に3段階に調整できる。
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図6流量と弁位置の関係
図6に円柱状磁石の位置(弁の状態)と弁の出力流量 の関係を示す。図の横軸は弁の状態E3~S3(図4参照)
で、縦軸は流量[Q/、in]である。図より流量は弁の状 態に比例して変化しており、給排気を行わない保持状 態を含め、給気3,排気3状態の計7状態の調節が可能で あることがわかる。
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4.デジタルサーポ弁の改良
前述のデジタルサーポ弁はサーボモータの回転範囲 を大きく(360deg.)する必要があるため、大きなサーボ モータを使う必要があった。本論文では、可動範囲の 小さい(l20deg.)小型のサーボモータを使用すること で円盤の回転角度を小さくすると共に、弁全体の小型 化を目指す。図7に従来の弁に使用していたサーボモー タと改良弁に使用するサーボモータの外観を示す。従
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自己保持機能を有するデジタルサーポ弁の改良 25
来のサーボモータの容積34cm3に対して、新しく使用す るサーボモータ(㈱GWSPICO/STD/F)は4.3cm3であり 87%程度小型である。回転速度に関しては従来のサー ボモータの428.6deg./sに対し、新しく使用するサーボ モータは500deg./sと少し速い。しかし、可動範囲が 360.e9.からl20degと1/3に減少したことによりチェ ック弁付柔軟チューブを並列に6本配置した場合、両端 のチェック弁を開口することができないという問題が 生じた。そこで、チューブの本数を6本から4本へ変更 した。改良した弁の構造および模式図をそれぞれ図8 と図9に示す。改良弁は直径20mm、厚さ2mmのアクリル 製円盤の中心から半径7.5mmの位置に1個の円柱状ネオ ジム磁石(直径5m、厚さ5mm)と、開口面積の異なるオ リフィスが挿入された4本のチェック弁付柔軟チュー ブ、アクリル製円盤を回すためのサーボモータより構 成される。改良後の弁のサイズは幅24mm、高さ36m、
長さ50mとなり以前の弁のサイズ(幅41mm、高さ55mm、
長さ61mm)に比べて容積が約70%程度に小型化できた。
図10に弁の状態と出力流量の関係を示す。図に示す ように、状態が切り替わると流量がおよそ倍になって いることがわかる。吸排気を行わない保持状態を含め、
吸気2,排気2状態の計5状態の調節が可能であることが わかる。しかし、最大流量は以前の弁に比べ64%減少 した。これはチューブの最大内径を0.6mmにしたためで ある。
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図9改良したデジタルサーボ弁の模式図蕊ji議鍵蕊蕊鍵蕊il
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図10流量と弁位置の関係
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図7サーボモータの比較 5.デジタルサーボ弁の応用
デジタルサーボ弁の応用としてゴム人工筋の位置決 め制御を行う。制御システムの構成を図11に外観を図 12に示す。
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図12制御システムの外観
図14追従制御結果 制御システムは試作したデジタルサーボ弁、ゴム人
工筋、目標値入力用と制御量(変位)を測定するために 人工筋に接続された2つのポテンショメータ ((株)MIDORIPRECISIONS社製LP-50F)と制御器とな るマイクロコンピュータ(㈱RenesasElectronics社製 H8/3664F)から構成されている。制御の流れは以下の通 りである。2つのポテンショメータからの出力電圧をマ イコン内のA/、変換器を介して検出し、偏差を求め、制 御則に基づいて弁を駆動し、ゴム人工筋の位置決め制 御を行う。
図13にゴム人工筋の位置決め制御の実験結果を示す。
破線が目標値を示し、実線が制御値を示している。実 験では供給圧は500kPaで目標値は20mmに設定し、制御 則は比例制御則を適用した。この図より、目標値付近 で多少の振動が見られ、開口時のむだ時間も0.1秒程度 ある。これらはサーボモータの回転速度や角度に依存 すると考えられる。次に、目標値設定用のポテンショ メータを手で動かし、追従制御実験を行った。制御結 果を図14に示す。この図から弁の吸気と排気が切り替 わる際(波形の山や谷の部分)に動作遅れが生じている ことがわかる。この遅れは制御則を改良したりサーボ モータの回転角度をより小さくすることで改善できる ものと思われる。また、チューブ内径の組合せも検討 する必要がある。
6.結言
自己保持機能を有するデジタルサーボ弁の改良を目 指した本研究は以下のように要約される。
1)サーボモータの変更やチューブ配置の変更によ り、デジタルサーポ弁を改良して、従来の弁に比 べ約70%の小型化を実現した。
2)改良したデジタルサーボ弁を用いてゴム人工筋 の位置決め制御システムを構築し、制御実験を行 った。その結果、多少の誤差はあるが制御できて いることを確認した。
デジタルサーボ弁や位置決め制御システムの更なる I性能改善は今後の課題である。
参考文献
1)長田義仁編:ソフトアクチュエータ開発の最前線~人工筋 肉の実現をめざして~、NTS、(2004)、ppZ94-32L 2)TetsuyaAkagi,ShUjiroDohtaandShin-ichiKatayama:
DevelopmentofSmall-sizedFIexiblePneumaticValveUsing VibrationMotorandItsApplicationfbrWcarableAotuator,
JoumalofComputerApplicationinTechnology,
Vol39,N0.1/2/3,(2010)、pp、86-92
3)TctsuyaAkagi,ShUjiroDohtaandHirofUmiUeda:
ImprovemcntofFluidControlValvewithSclfLholding FunctionUsingPelmanentMagnet,JoumalofSystemDesign andDynamics,VOL5,N0,6,(2011),pp・'251-1263.
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図13位置決め制御結果
27
Improvement of Digital Servo Valve with Self-holding Function
Yusuke MASAGO, Shujiro DOHTA*, Tetsuya AKAGI*, Ayumu ONO** and Hirofumi UEDA***
Graduate School ofEngineering,
* Department ofIntelligent Mechanical Engineering, Faculty ofEngineering,
**Engineering Project Course, Faculty ofEngineering, Okayama University ofScience,
1-1 Ridai-cho, Kita-ku, Okayama 700-0005, Japan
***SMC Corporation,
4-14-1 Sotokanda, Chiyoda-ku, Tokyo 1010021, Japan (Received September 28, 2012; accepted November 1, 2012)
In a power assisted system, an actuator and a driving device such as a control valve are mounted on the human body. Therefore, the size and weight of the valve become serious problems.
In addition, the valve should be operated with lower energy consumption. The purpose of our study is to develop a small-sized, lightweight and lower energy consumption control valve. In this study, a digital servo valve with self-holding function is improved and investigated experimentally. The valve consists of a small servo motor, a disk with permanent magnetic cylinders and four check valves. To realize the miniaturization and to improve the dynamics of the previous valve, the valve is redesigned. In addition, using the improved digital servo valve, a position control system of rubber artificial muscle is built and the control is performed. As a result, the miniaturization has been achieved about 30% compared with the previous valve and the position control of the rubber artificial muscle is achieved using the tested valve.
Keywords'- self-holding function; low energy consumption; permanent magnet.