日本語教育実践 研究 創刊号
ニ ュース教材 を利用 した聴解 実践研 究
中野真規子
【キ ー ワ ー ド】 ト ッ プ ダ ウ ン 処 理 ・ボ トム ア ッ プ 処 理 ・ニ ュ ー ス 教 材 ・語 彙 力 1.は じめ に 日本 語学 習 者 が 実 生 活 にお い て 日本 語 で 情 報 を得 る場 面 は 多 様 で あ る。 そ の 中 で も留 学 生 は 日本 語 で 学 校 の 講義 を受 け る とい う揚 面 にお い て 、 言葉 を 聞 い て 理解 す る聴 解 能力 を 強 く求 め られ る。 2004年 度 前 期 、早稲 田 大学 日木 語 研 究 教 育 セ ン タ ー に お い て 突 施 され た留 学 生 対 象 の 聴 解 授 業r口 本 語 聴解6AJで はニ ュー ス を教 材 と し、 以 下4つ の 学 習 目標 の も とに授 業 が 実 施 され た 。 ① 中上 級 語 彙 の 習得(講 義 な どで 使 用 され る 書 き言 葉) ② 話 し言 葉 の習 得(や や 俗 っ ぽ い 語 句 も含 む) ③ 短 め の講 義 、 講演 な どの 要 旨把 握 ④ 未 知 の語 の推 測(2004年 度 前期 、聴 解教 育 実践研 究 シ ラバ ス〕 授 業 は留 学 生 が今 後 、大 学 で の 講 義 な どの 内 容 を理 解 し、 分 か らな い言 葉 が あ っ て も推 測 で き る力 を 養 成 す る こ と を 目的 と して 教 室 活 動 が 実 施 され た 。 筆 者 を含 め 大学 院 生16 名 が 実 習 生 と して参 加 した 。 本 稿 で は 、 まず 聴 解 にお け る情 報 処 理 の 方 法 につ い て の 先 行研 究 を概 観 し、 ど の よ うな 能 力 が 学習 者 に 求 め られ て い る か に つ い て 検 討 し、 次 にr日 本 語 聴 解6A』 の 実 践 方 法 に つ い て 考察 、学 習者 の聞 き取 りの 困 難 点 と聴 解 指 導 の今 後 の 課題 に つ い て述 ぺ る。 2.先 行 研 究 2・1.聴 解 に お け る情 報 処 理 能 力 に っ い て 情 報 処 理 過 程 に お い て 人 は 二 つ の 方 法 を 用 い て い る と い うこ とが 、 多 く の 研 究 に お い て 指 摘 され て い る 。 倉 八(1996)は 、 情 報 処 理 の 方 向 とい う視 点 か ら トッ プ ダ ウ ン 処 理 と ボ トム ア ップ 処 理 を と りあ げ 、 ドラマ や 情 報 番 組 な ど聴 解 教 材 の 内 容 、 性 質 に よ っ て ど ち らの 処 理 が よ り有 効 で あ る か が 異 な る こ と を検 証 して い る。藤 家(2002)は 、 聴 解 能 力 の 向 上 に は 「一 語 一 語 を解 読 し て 意 味 を積 み 上 げ て い くボ トム ア ッ プ処 理 」 と 「さ ま ざ ま な 杞 憂 知 識 を 利 用 して 意 味 内 容 を 類 推 す る トッ プ ダ ウ ン 処 理 』 とい う二 つ の 情 報 処 理 能 力 を身 に付 け て い く こ とが 必 要 で あ る と述 べ て い る。土 岐(1988)もrこ ま か 開 き 取 り」 とrお お ま か 聞 き取 り」 の 両 者 は 、 互 い に車 の 両 輪 の よ うな も の で 、 ど ち らか 一 方 に か た よ って も妥 当 性 を欠 く と述 べ て い る。 こ の よ う に先 行 研 究 で は 、情 報 処 理 方 法 は 、 ボ トム ア ップ 、 トップ ダ ウ ン ど ち らか 一 方 に 偏 る こ とは 望 ま し く な く 、 学 習者 が そ の 両 方 を 身 に 付 け て い け る よ うに す る こ とが 聴 解 能 力 の 向 上 に 重 要 で あ る とい う指 摘 が な され て き た 。 しか し、 土 岐(1988)は 従 来 の初 級 レベ ル に お け る聴 解 練 習 で は ミニ マ ル ペ ア を 聞 き 取 る練 習 な ど 、 学 習 者 が 一 字 一 句 正 確 に 聞 き 取 り、 そ れ を再 生 しな けれ ば な らな い とい う練 習 が ほ とん どで あ っ た と指 摘 、 タ ス ク リス ニ ン グ 紹 介 以 降 お お ま か 聞 き取 り 能 力 の た め の練 習 も 開発 は され た が 、 ボ トム ア ッ プ 処 理 を 利 用 した 聴 解 授 業 が 多 い こ と を指 摘 して い る。 ま た 、 留 学 生 を 対 象 と した 聴 解 授 業 の 実 践 報 告(藤 家2002)で は 、 学 習 者 が ビデ オ 学 習 に 対 しr言 語 重 視 」 「ボ トム ア ップ 的 理 解 重 視 ゴ と い う ビ リー フ を 持 っ 傾 向 が あ っ た との 報 告 が な され て い る。 木 村(1969)は 日本 語 学 習 者 が言 葉 を 聞 い て理 解 す る 「聴 解 」 に は 、 複 数 の 人 間 が 交 互 に 話 し て い るr対 話 」 と 、話 し手 が 聞 き 手 に 一 方 的 に 話 すr独 話 」 とい う二 っ の 場 面 が あ る と述 ぺ て い る。 そ して 、r独 話 」 の 聴 解 に つ い て 、対 話 を理 解 す る た め の 以 上 の 能 力 が 必 要 で あ る と述 べ 、 独 話 理 解 に 必 要 な4っ の 能 力 を あ げ て い る。 ① 話 を 聞 きな が ら、 文 脈 を急 速 に 把 握 す る 能 力 ② 話 の 中 の 未 知 の 語 句 を 補 っ て 理 解 す る 能 力 ③ 話 の 段 落 ご と に 要 旨を ま と め る 能 力 ④ 話 を 聞 きな が ら、 必 要 な事 項 を 記 憶 した り、 メ モ を と っ た りす る能 力 こ こ で あ げ られ た 能 力 とは 、 前 述 した 情 報 処 理 能 力 で い う トップ ダ ウ ン処 理 能 力 に あ た る もの と考 え られ る。 大 学 で の 講 義 な ど 「独 言乱 を 理 解 す る事 が 要 求 され る 学 習 者 に と っ て 、 情 報 の ト ップ ダ ウ ン処 理 能 力 の 獲 得 が 重 要 で あ る とい う こ と が 指 摘 され て い る とい え るだ ろ う。 初 級 か ら の 聴 解 練 習 の 影 響 か ボ トム ア ップ 処 理 に慣 れ 一 語 一 句 が 分 か ら な い と不 安 に な る 学 習 者 に と っ て 、 トップ ダ ウ ン で の 理 解 の 方 法 を 学 習 す る 事 が 聴 解 能 力 の 向 上 を促 す と考 え られ る。 2・2.ニ ュー ス 教材 を 使 用 した 聴 解 授 業 情 報 の トップ ダ ウ ン処 理 能 力 を 向 上 させ る こ と を 目的 と した 聴 解 授 業 で は ニ ュ ー ス 教 材 を 素 材 と した 授 業 が 多 く 実 施 され て い る。 遠 藤(1987)は 、東 京外 国 語 大 学 日本 語 学 科1年 生 を 対 象 と した 日本 語 の 授 業 に お い て 大 学 生 の た め の 聴 解 と してr専 門 の 講 義 ・演 習 な どが 円 滑 に うけ られ る よ うに な る こ と」 を 目標 と し、テ レビ の ニ ュ ー ス番 組 の 特 集 を利 用 した 授 業 を 実 施 、r聞 い て 理 解 し ノ ー トを と り情 報 を 自分 の も の とす る 」 練 習 の 実践 報 告 を行 っ て い る。 一182一
日本語教育実践研究 創刊 号 藤 家(2002)は 、 京 都 外 国 語 大 学 留 学 生 別 科 に お け る 日本 語 授 業 に お い て テ レ ビ ニ ュ ー ス 番 組 の 内 容 理 解 を 目的 と した 学 習 を行 い、 学 習 者 の 学 習 方 法 の 幅 を 広 げ る試 み に つ い て 報 告 して い る。 社 会 人 を 対 象 と した ニ ュ ー ス 教 材 を 利 用 し た 聴 解 授 業 の 実 践 報 告 と し て 、 市 川 (1990)が あ げ られ る 。 市 川 は米 国 国 務 省 日本 語 研 修 所 に お い て 、 政府 機 関 で職 務 を遂 行 す るた め に必 要 な 日本 語 能 力 を 身 に 付 け る こ とが 期 待 され て い る学 習 者 に 対 す る 上 級 聴 解 ク ラ ス で の 実 践 報 告 と学 習 効 果 の 分 析 を行 っ て い る。 対 象 授 業 で は 、 テ レ ビの 報 道 番 組 の 利 用 に よ っ て 、 学 習 者 の 推 測 ・類 推 能 力 の 向上 を 促 す 試 み が な され た 。 ニ ュ ー ス 教 材 を選 定 し た 理 由 と して 、 次 の3つ の理 由 が 述 べ られ て い る。 ① 映 像 の イ ン パ ク トが 興 味 を 高 め る 、 ② 映 像 か ら 学 習 者 の 持 っ 背 景 知 識 が 活 性 化 され る 、 ③ 身 近 な メ デ ィア で あ り学 習 者 が 学 習 後 も利 用 す る 可 能 性 が 高 い 。 そ し て 、 報 道 番 組 ビデ オ を 使 用 した 実 践 の 結 果 と して 、次 の5つ:a,推 測 能 力 の 向 上 、b様 々 な ス ピー チ ・レベ ル や 話 し方 の ス タ イ ル に な れ る 、c,日 本 的 な コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン ・ス トラ テ ジ ー に 慣 れ る、吐 日本 事 情 の 知 識 獲 得 、e,学習 者 の 聴 解 ク ラ ス に 対 す るモ テ ィベ ー シ ョ ン ン の 向 上 、 の 効 果 が 確 認 され た と述 べ て い る。 3.聴 解 教 育 実 践 研 究 2004年 度 前 期r聴 解 実 践研 究 」 は 早 稲 田 大 学 日本 語 研 究 教 育 セ ン タ ー 設 置 の 留 学 生 対 象 日本 語 授 業r目 本 語 聴解6A」 を 実 習 対 象 授 業 と し、 大 学 院 生16名 が 実 習 生 と し て 授 業 に 参 加 、 授 業 の 参 与 観 察 と院 生 の グ ル ー プ ご とで の 教 材 の 選 定 、 教 案 作 成 、 発 展 練 習 の 進 行 を 行 っ た 。授 業 に 参 加 して い た 対 象 留 学 生 は24名 、 目本 語 中 上 級 レベ ル の 学 生 で あ る。 3-1.「 日本 語 聴 解6A』 授 業 の 進 め 方 授 業 は 全13回 実 施 され 、初 回 は聴 解 の 実 カ テ ス ト、最 終 回 に は 期 末 テ ス トが 行 わ れ た 。 そ の 間 の11回 の 授 業 に お い て 、NHKの ニ ュ ー ス を題 材 と した 聴 解 授 業 が 実 施 さ れ た 。 授 業 の 進 め方 は 、 学 期 前 半 と後 半 の 大 き く 二 っ に わ け られ る 。 学 期 前 半 で は3分 程 度 の 短 い ニ ュ ー ス を題 材 に全 体 視 聴 に よ る 概 要 把 握 と 、一 文 ず っ 聞 く部 分 視 聴 に よ る 正 確 な 聴 取 を行 っ た。 後 半で は 、6∼8分 の 長 め の ニ ュー ス の 特 集 を と りあ げ 、全 体 視 聴 と段 落 ご と の 要 旨把 握 棟 習 が 行 わ れ た 。 前 半 の 授 業 で は 、 ひ とっ の ニ ュー ス を1回 も し く は1,5回 で 取 り上 げ 、 後 半 の 授 業 で は ひ とっ の ニ ュー ス を2回 の授 業 で 取 り扱 っ た. 〈前 半> 全 体視 聴 部分視聴
巨 璽]レ
匡璽
圃)ワ
ークシート
記入 ゆ ワークシート
記入 極
璽 コ
(内容理解確認〉 〔再生文完成) 全 体 視 聴 の あ と、 学 生 に わ か っ た こ と を発 表 して も ら い 、 概 要 を つ か め て い る か確 認 を 行 う。 キ ー ワー ドが っ か め て い た か 確 認 。 内 容 に 関 す る重 要 な 語 句 の 確 認 を行 う。 次 に 部 分 視 聴 に お い て 、 一 文 ず つ 正 確 に 聞 き取 らせ 、 文 を 再 生 させ る。 こ こ で 、 全 体 視 聴 で は 取 り上 げ られ な か っ た 表 現 や 語 句 を 確 認 。 語 彙 の 拡 張 を は か る。 そ して 、 再 度 の 全 体 視 聴 、 部 分 視 聴 を行 い 、 ニ ュ ー ス の 内 容 理 解 が で きて い た か の確 認 問 題 と再 生 文 の 書 き 出 しを 行 った.最 後 に 、 院 生 に よ る発 展 練 習 と して 、 グル ー プ デ ィ ス カ ッ シ ョ ン を 実 施 した。 〈 後 半>匝 聾
匪 亜 ト ・一ク・一ト
記入[亟
野
全体視聴
團
(要旨把握)ワ ー クシー ト記入 (内容理解確認) 後 半 の 授 業 で は 、 初 め て の 全 体 視 聴 の あ と、 す ぐ に 要 旨 を書 き 出 す と い うタ ス ク が 課 され た 。 そ の 後 、 ニ ュ ー ス に お け る キ ー ワ ー ドを 学 習 者 か ら あ げ て も らい 、 ク ラ ス 全 体 で ニ ュ ー ス の概 要 に つ い て の 全 体 像 を 確 認 して い く。 そ の 後 、 段 落 視 聴 を 行 い 、 重 要 な 情 報 に つ い て 確 認。 そ の 際 、 語 彙 や 表 現 に つ い て の 学 習 も行 う。 再 度 の 全 体 視聴 の あ と 、 段 落 ご との 要点 を お さ え て い る か ワー ク シ ー トに よ っ て 確 認 が 行 われ た 。 最 後 に 、 院 生 に よ る発 展 練 習 、 グ ル ー プ デ ィ ス カ ッ シ ョン や デ ィベ ー トが 実 施 され た 。 〈2004年 度 前 期r日 本 語 聴 解6A」 で使 用 した ビデ オ 教 材> ①NHK首 都 圏 ニ ュー ス ②NHK首 都 圏 ニ ュ ー ス ③NHK首 都 圏 ニ ュ ー ス ④NHK首 都 圏 ニ ュ ー ス ⑤NHK首 都 圏 ニ ュ ー ス ⑥NHK首 都 圏 ニ ュ ー ス ⑦NHK首 都 圏 ニ ュ ー ス 「小 江 戸 の 観 光 ガ イ ド」 「犯 人 が嫌 が る?」 「"五行 歌"で 商 店 街 をPR」 「手 軽 に 和 服 を 楽 しむ 」 特 集 「ア トム 通 貨 」 特 集 「見 通 し良 好 に 死 角 あ り』 特 集 「住 む 人 が 作 る コ ー ポ ラ テ ィ ブ ハ ウス 」 授 業 に お い て 、 学 生 へ の 語 彙 表 の 配 布 は行 っ て い な い 。 これ は 、 語 彙 表 を配 布 す る こ と に よ っ て 、 学 習 者 が語 彙 表 に 頼 っ て しま う こ と を さけ る 、 ま た ビデ オ 教 材 を集 中 し て 視 聴 し語 彙 を 推 測 す る能 力 を つ け る こ と を 意 図 と した 担 当 教 員 の 考 え に よ る もの で あ る。 配 布 資 料 は 、 上 記 の授 業 の 流 れ に 示 され た ワー ク シ ー トの 他 に 、 ビデ オ 学 習 が 終 わ 一184一口本 語教育実践研究 創刊号 っ た ニ ュ ー ス の 全 文 ス ク リプ ト、 発 展 練 習 に 関 連 した 資 料 が あ る。 3・2.聴解 の 方 法 これ ま で 述 べ て き た よ うにr目 本 語 聴 解6A」 で は 、大 き く 分 け て 二 っ の 聴 解 練 習 が 実 施 され て き た.先 行 研 究 に お い て 指 摘 され た 聴 解 能 力 の 育 成 に お い て 、 こ の 授 業 で どの よ うな 能 力 の 向 上 が 目指 され て き た の か 、そ の 位 置 付 け に つ い て 考 察 を 行 い た い. ま ず 、 全 体 視 聴 の あ とに 教 師 が 学 生 を指 名 、 分 か っ た こ と に つ い て 発 表 を させ る。 そ の 際 、 学 習者 の 実 力 に合 わ せ て 、 ま た 時 間 配 分 の 問 題 や よ り多 くの 学 生 の 参 加 を促 が す こ とを 配 慮 し、 キ ー ワ ー ドの み を 答 え させ る ケ ー ス も あ っ た 。 こ の よ うな 練 習 が 繰 り返 され る 事 に よ り、 学 習 者 が ニ ュ ー ス 全 体 か ら何 らか の 情 報 を 得 よ う とい う意 識 が 高 ま っ た と思 わ れ る 。 これ は 、 ま ず ニ ュ ー ス 全 体 か らの メ ッ セ ー ジ を 理 解 しよ う と す る 意 識 、 学 習 者 の トップ ダ ウ ン能 力 を働 か せ る練 習 に な っ て い た と考 え られ る 。 次 に 、 学 期 前 半 に行 わ れ た 部 分 視 聴 で は 、 一 文 を 正 確 に 聞 き 取 る 練 習 を 繰 り返 す 事 に よ り正 確 な 聞 き 取 り を学 習 者 に意 識 させ 、 そ の 中 に 出 て く る語 彙 や 表 現 、 接 続 な ど に 対 す る 意 識 を 高 め た 。 これ は 正 確 な 視 聴 を 目的 と した ボ トム ア ッ プ 処 理 の 聴 解 に あ た る が 、 同 時 に 、 一 文 で あ っ て も 分 か ら な い 語 彙 の 意 味 や つ な が りを 考 え る事 に よ り 推 測 力 が 養 わ れ る もの と考 え られ る。 授 業 で は 聞 い た 事 を 口頭 で 発 話 して 理 解 を示 す だ け で は な く 、 ワ ー ク シ ー トに 記 入 させ る、 問 題 に 回 答 させ る形 を と る こ とに よ っ て 、 どれ だ け 内 容 を 理 解 で き た か の 確 認 が 行 わ れ た 。実 際 に 闘 い た 内容 を 自分 の 言 葉 で も 表 現 で き る か 、ま た 再 生 練 習 で は 、 学 習 した 語 彙 、 表 現 を どれ だ け正 確 に使 え る か ど うか の 確 認 が 行 われ た. 学 期 後 半 で は 、6∼8分 の ニ ュ ー ス の 特 集 の 全 体 視 聴 の あ と要 旨 を 書 き 出 す 作 業 を 行 うた め 、 学 習 者 は ニ ュ ー ス の 内 容 を 把 握 し、 さ ら に 纏 め る 力 を 要 求 され る。 段 落 視 聴 に お い て も 、 あ る程 度 の 長 さ と ま と ま りを 持 っ た 聞 き 取 りを行 う こ とに よ り、 不 明 な 点 が あ っ て も 自分 な りに 内 容 を 推 測 ・理 解 し表 現 しよ う とす る トッ プ ダ ウン 処 理 能 力 が 育 成 され て き た と考 え られ る。 実 際 に授 業 で の 学 生 の 発 言 で 、 聞 き取 れ な い語 彙 が あ っ て も 、 そ の 語 彙 を 使 わ ず に 他 の 言 葉 で 内 容 を 的 確 に 表 現 して い る 発 言 が 観 察 され た 。6つ 目の ニ ュー ス 教 材r見 通 し良 好 に 死 角 あ り」で 、交 通 事 故 防 止 対 策 と して 設 置 され た ポ ー ル の 働 き に つ い て 、 「車 が ポ ー ル の 間 を走 り抜 け る と、ち らっ い て 見 え ま す 。(中 略)こ う した 動 き を っ け る こ と で 、 ドラ イ パ ー に い ち早 く注 意 を は ら っ て も らお う と い うわ け で す 。」 とい う内 容 に っ い て 、学 生 た ち はrち らっ く」 とい う語 彙 の 意 味 、説 明 が で き な か っ た 。 しか し、 ポ ー ル の 設 置 意 図 につ い てr車 の動 き が よ く見 え る よ うに 。亘 反 応 で き る よ うに 。」と、 自分 達 の 表 現 で 理 解 し た 内 容 を表 現 して い た。 r日 本 語 聴 解6A」 に お け る授 業 実 践 で は 、学 習 者 の トップ ダ ウ ン処 理 能 力 を養 う と
同 時 に 、 ボ トム ア ップ 処 理 能 力 に つ い て も学 習者 の 注 意 を促 が して お り、 二 つ の聴 解 能 力 を 学 習 者 に要 求 し、 伸 ば し て い こ う とい う活 動 方 針 が あ る と筆 者 は 感 じて い る. 3・3.院生 の 参 加 こ の 実 践 対 象 ク ラ ス に は 、筆 者 を 含 め16名 の 院 生 が 実 習 生 と して 授 業 に 参 加 を行 っ た.院 生 は 基 本 的 に授 業 中 は ク ラ ス の 後 方 で 参 与 観 察 を行 っ て お り、 学 期 前 半 の 授 業 に お い て 理 解 確 認 の ワー ク シー ト作 業 の 指 示 と、 学 期 を通 して発 展 練 習 の 進 行 と グル ー プ 活 動 の 補 助 を行 っ た 。 教 師 以 外 に 院 生 が 実 習 生 と して ク ラ ス 活 動 に 参 加 す る事 に よ っ て 、 日本 語 で の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン 機 会 が増 え 、 学 習 者 の発 話 促 進 に つ な が っ た と 考 え られ る。 院 生 は3つ の 班 に 分 け られ 、 班 ご とに 計2回 の 実 践 授 業 の 立 案 に たず さ わ っ た 。 具 体 的 に院 生 が 行 っ た作 業 は 、 以 下 の 通 りで あ る。 ・ニ ュ ー ス 教 材 の選 定 ・ニ ュ ー ス ス ク リプ ト作 成 ・授 業 計 画 案 の 提 出 ・語 彙 表 現 リス ト作 成 ・ワー ク シー トの 作 成 ・発 展 練 習 の 企 画 、進行 筆 者 も他 の 院 生4名 と グ ル ー プ を組 み 、2つ の ニ ュ ー ス 教 材 を使 用 す る 授 業 活 動 に 関 わ っ た 。 そ して 、 実 際 の 授 業 運 営 に 関 わ る 中 で 、 教 室 活 動 に お い て 教 師 は 多 くの こ と を配 慮 しな けれ ば な らな い こ と を 学 ん だ 。 ニ ュ ー ス 教 材 の 選 定 に あ た り、教材 と して適 した素材 を収集 す るこ との難 しさを体 験 し た 。生 教 材 で あ る だ け に 、い っ 、どの よ うな ニ ュ ー ス が 放 映 され る か は 分 か らず 、 学 習 者 が 興 味 を 持 っ て 取 り組 め 、 か っ 勉 強 に な る よ うな 語 彙 や 表 現 を 含 ん だ ニ ュ ー ス を選 ぶ に は 時 間 を か け る必 要 が あ る と痛 感 した 。 学 習 者 に 対 して 語 彙 表 の 配 布 は 行 わ な か っ た が 、 教 材 に 含 ま れ る学 習 対 象 と な る 可 能 性 の あ る語 彙 表 現 に つ い て 、院 生 内 で 意 味 の説 明 と例 文 を 載 せ た リス トを作 成 した 。 学 習 者 の 日本 語 力 の 個 人 差 も考 慮 し 、 語 彙 の 説 明 は 平 易 な 日本 語 で 行 え る よ うに と説 明 を 考 え た が 、 こ の 作 業 が 想 像 以 上 に 大 変 な も の で あ っ た。 段 落 視 聴 の あ とに 配 布 され る要 点 把 握 を確 認 す る ワー ク シー トの 作 成 に あ た っ て は 、 ど の よ うな 設 問 が 学 習 者 の 理 解 を 的 確 に と ら え る の に ふ さわ しい か の 見 極 め が 難 し く、 ポ イ ン トが ず れ て しま い 、 担 当 教 官 か らの 修 正 の ア ドバ イ ス を い た だ い た 。 筆 者 が 担 当 班 と な った 発 展 練 習 で は 、 五 行 歌 の 作 成 とデ ィベ ー トを 実施 した が 、 視 聴 した ニ ュー ス と どの よ う な 関 連 を も た せ る か 、 聴 解 能 力 の 向 上 、授 業 へ の 関 連 性 を 持 た せ る と い うこ とが 非 常 に難 し く 、聴 解 能 力 向 上 に 意 味 の あ る 発 展 練 習 に は 結 び っ 一 】86一
日本語教 育実践研究 創刊号 け る 事 が で き な か っ た と思 う.ニ ュー ス 視 聴 で 学 習 した 事 を 、 も う一 度 表 現 させ る 、 さら に強 化 で き る よ うな 発 展 練 習 を組 み 立 て る事 が 実 習 生 に 求 め られ て い た と感 じ て い る 。 4,聴 解 に お け る 問題 点 木 村(1969)は 、 聴 解 で 問題 に な る 日本 語 の 特 質 と し て 以 下 の8つ を あ げ て い る。 ① 述 語 、② 主 語 、③ 助 詞 、④ 同 音 異 義 語 、⑤ 間 接 話 法 、⑥ 従 属 節 、⑦ 慣 用 的 な 言 い 方 、 ⑧文 体 。 ス ワ ン(1988)は 、 学 習 者 が 理 解 で き な い 場 合 の 問 題 点 と して 、① 音 声 を 正 しく 聞 き 分 け られ な い 、② 文 脈 の 中 で どの よ うな意 味 を持 つ の か が わ か らな い 、 場 合 が あ る と 述 ぺ て い る。 実 際 にr日 本 語 聴 解6A」 で 見 られ た 聞 き 取 りの 問 題 点 に は 以 下 の 例 が あ げ られ る 。 ・助 詞 助 詞 を 単 語 の 一 部 と し て 聞 き 取 っ て し ま っ た 例。 例1)∼ の コー ナ ー →X「 の こな 」 例2)∼ を機 に →x「 お き に」 ・同 音 異 義 語 例3)市/× 詩 例4)発 信/X発 進 ・類 義 語 正 確 な 再 生 は で き ず、 推 測 を行 い 既 知 の 単 語 で 理 解 を した例 。 例5)木 製/X木 造(の 箸) ・自 他 動 詞 例6)高 ま る/X高 め る 例7)届 く/x届 け る ・慣 用 表 現 慣 用 表 現 は推 測 が 難 しか っ た よ うで あ る。 例8)に らみ を きかす ・清 音 と濁 音 の 混 同 例9〕 世 帯/× 世 代 例10)構 想/x構 造 例1Dシ ョ ッ ピング/xシ ョッ ピン ク ・長 音 と単 音 の 混 同 伊j12)コ ン クー1レ/xコ ンクノレ 先行 研 究 で も指 摘 され た よ うに 、音 を正 し く聞 き 敢 れ な い(例9∼12)、 ま た 誤 っ た 聞 き取 りを 行 っ た(例1,2)の 誤 りが 見 られ た 。 ま た 、音 は 聞 き 取 れ て い て も意 味 の 理 解 が出 来 な か っ た も の に 、 同 音 異 義 語(例3,4)や 慣 用 表 現(例8)が あ げ られ る.そ の 他 に 、 語 句 の 意 味 は 推 測 で きた もの の 、学 習 者 の 語 彙 知 識 不 足 に よ っ て 誤 っ た 再 生 が 行 わ れ た 例 と して 自他 動 詞 の誤 りや 類 義 語 の 出 現 が 観 察 され た 。 5.今 後 の 課 題 ふ た つ の聴 解 能 力 を 育 て る必 要 性 に っ い て 述 べ て き た が 、 さ ら な る聴 解 能 力 の 向 上 には 違 っ た 情 報 処 理 能 力 を み に っ け る だ け で な く、 学 習 者 の 語 彙 を拡 大 して い く事 も
重 要 だ と考 え られ る。 吉 岡(1993)は 、 日本 人 と 留 学 生 のr聞 き 取 り能 力 」 を 調 査 、 分 析 し、 両 者 の 聞 き 取 り能 力 の 差 に な る 大 き な要 因 は 非 理 解 語 の 存 在 で あ る と考 察 し て い る。 正 確 に 音 を 聞 き 取 れ た と して も 、 語 彙 を知 らな け れ ば 内容 か ら意 味 を 推 測 しな けれ ば な ら な くな り、 内容 理 解 に 対 す る負 担 は 大 きい ま ま で あ る 。 先 行 研 究(市 川1990) に お い て 語 彙 の 保 持 が 課 題 と して あ げ られ て いた が 、 聴 解 練 習 を行 っ て い く中 で 学 習 者 の推 測 力 を高 め る だ け で な く 語 彙 の 確 認 も 行 い 、 新 た な 語 彙 が 学 習 者 に獲 得 され て い く よ うな 活 動 を 組 み 込 む こ とが 今 後 の 課 題 とな る だ ろ う。 6.お わ りに 聴 解 教 育 実 践研 究 を受 講 し 「日本 語 聴 解6A」 に 実 習 生 と し て参 加 す る こ とに よっ て 、 学 習 者 の推 測 力 の 向 上 を実 際 に 目 にす る こ とが で き、 又 教 材 選 定 か ら学 習 者 へ の 設 問 の 作 り方 な ど実 習 生 と して教 室 活 動 を 運 営 す る 立場 での難 しさ を 実 体験 す る事 が で きた こ とは 非 常 に 貴重 な経 験 だ った と感 じて い る。 こ の 実 践で 学 ん だ事 を 、今 後 の 教 育 実 践 にお い て 活 か して い き た い と思 う。 (ナ カ ノマ キ コ ・修 士 課 程1年) 〈 参 考 文 献> 市 川 智 子(1990)r上 級 聡 解 ク ラ ス に お け る テ レ ビ 報 道 番 組 ビ デ オ の 利 用 一 米 国 国 務 省 日 本 語 研 修 所 の 場 合 」 『日本 語 教 育 』73号pp.127・139日 本 語 教 育 学 会 遠 藤 裕 子(1988)r大 学 生 の た め の 聴 解 一 ニ ュ ー ス 番 組 の 特 集 を 利 用 して 一 」『日 本 語 教 育 』 64号pp.109-121日 本 語 教 育 学 会 木 村 宗 男(1969)「 日 本 語 教 授 法 の 問 題 一 聴 解 指 導 を め ぐ っ て 一 」 『講 座 日 本 語 教 育 』 第5 分 冊pp,58-71早 稲 田 大 学 日本 語 研 究 教 育 セ ン タ ー 倉 八 順 子(1996〉 「音 声 言 語 理 解 能 力 の 指 導 法 に っ い て の 考 察 」 『日本 語 教 育 学 会 春 季 大 会 予 稿 集 』pp,103・108 ス ワ ン 彰 子(1988)r聴 解 力 に つ い て 」 『講 座 日 本 語 教 育 』 第24分 冊pp,116・129早 稲 田大 学 日本 語 研 究 教 育 セ ン タ ー 土 岐 哲(1988)r聞 き 取 り基 本 練 習 の 範 囲 」 『日本 語 教 育 』64号pp.27・43日 本 語 教 育 学 会 藤 家 智 子(2002〉r映 像 素 材 を 用 い た 聴 解 ・会 話 の 授 業 に つ い て 』『日 本 語 ・日本 文 化 研 究 』 第9号pp,41・58京 都 外 国 語 大 学 留 学 生別 科 吉 岡 英 幸(1993)r聞 き 取 り能 力:留 学 生 と 日 本 人 の 調 査 分 析 」 『講 座 日本 語 教 育 』 第28 分 冊pp,47-59早 稲 田 大 学 日本 語 研 究 教 育 セ ン タ ー 一188一