Gutaiteki jirei kara kosatsusuru ona kigyo no seicho yoin
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(2) 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程 学位論文(. 2016. 論文題名. 具体的事例から考察するオーナー企業の成長要因. 主. 査. 岡田 正大. 副. 査. 小幡 績. 副. 査. 齋藤 卓爾. 副. 査. 氏. 名. 乾 文良. 1. 年度).
(3) 論 文 要 旨. 所属ゼミ. 岡田研究会. 氏名. 乾. 文良. (論文題名) 具体的事例から考察するオーナー企業の成長要因. (内容の要旨) 本論文では、成長しているオーナー企業(ファミリー企業)のオーナーにインタビューを実施す ることで、オーナー企業における成長要因を模索し、将来の自身の経営に活用することを目的とす る。 本論文の構成として、本題を取り上げた理由、オーナー企業の定義、背景となる理論、実際のイ ンタビュー内容、インタビュー内容の解釈とフレームワーク化、私の将来取るべきオーナーシップ となる。 結果として、計 12 社のオーナーにインタビュー内容から、自身の参考となるオーナー企業を特定 し、将来の自身が取るべきオーナーシップを導き出した。. 2.
(4) 目次 1. イントロダクション・・・・・・・・・・・・・・・・・・P4~P5 2. 本論文の目的と意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・P5~P6 3. 本論文の領域. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・P6. 4. 背景となる理論. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・P6~P7. 5. 文献調査. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・P7~P8. 6. 仮説の導出. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・P8. 7. メソドロジー. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・P8. 8. 検証結果. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・P8~P23. 9. 検証結果の解釈. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・P23~P28. 10. 結論と限界. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・P28~P29. 11. 参考文献. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・P30. 3.
(5) 慶應ビジネススクール 乾. M38. 文良(81530133). 1.イントロダクション 私の父親は現在、香川に本社を置く産業系機器を取り扱う商社の 2 代目とし て経営を約 25 年間続けている。祖父が創業したオーナー企業であり、父親が 継承した後も厳しい環境ながら、なんとか売上・利益ともに成長を続けてい る。私は幼少期から祖父や父親が家庭を犠牲にしてまで仕事に没頭してきた姿 を見て育った。夜は朝の 2 時 3 時に帰宅するのが当たり前で、夕食を一緒に食 べた記憶はほぼ無い。授業参観や部活の大会にも来てもらった記憶もほぼ無 い。夜は帰って来たと思えば、多くの社員さんを引き連れて帰って来て、明け 方までお酒を酌み交わしていた。 そうした辛く苦しい生活を送っている父親だったが、日々の中でオーナー企 業における経営の素晴らしさややり甲斐を私に良く話してくれた。私自身、幼 少期はスポーツ一徹でろくに勉強もせず、友人も多く、単なるガキ大将的な子 供だった。そうした何かに没頭する性格もあり、大学では私が大好きであった 西ヨーロッパの歴史を学ぶため、「経営学部へ行って欲しい」という父親の意 向に反発し、文学部史学地理学科で西洋史学を専攻した。大学在学中はバック パッカーで世界を放浪し、授業以外の時間は好きな読書やクラシックコンサー トに通い続けていた。しかし、そんな不真面目な私の中にもどこか「父親の企 業を継承しよう」という意識はあった。これは恐らく、幼少期からオーナー企 業経営の素晴らしさを父親から聞き、それが無意識の内に潜在意識として残っ ていたからであろう。そのため、大学 4 年時にイギリス留学を決意した際も、 歴史を学ぶのではなく、マーケティングを学ぶためにビジネス専門カレッジへ 留学した。この時には将来の継承への気持ちが自分の中でかなり明確に形にな ってきていた。そして、就職活動もグローバルな大手企業でダイナミックなビ ジネスをやりたいという気持ちから総合商社と大手メーカーのみに集中して行 い、結果として富士通株式会社へ入社を決意した。そこで数年間メガバンク向 けの営業を経験した後、退職し、慶應ビジネススクールへ入学した。 このように、父親の経営する中小企業(売上高約 100 億円)と富士通(売上 高約 4 兆 5000 億円)という超巨大企業を比較できる環境にいる中で、ある一 つの疑問を持つようになった。それは「なぜ、元々は小さな規模から始まった 企業の中で成長にここまでの差が出るのか」ということである。富士通は富士 電機の一事業部が独立したところに起源を持ち、起業当初から一定の経営リソ ースは持っていたと推測されるが、私の祖父のように0から起業し、現在に至 4.
(6) るまでオーナー企業として成長してきた企業の中にも、サントリーや竹中工務 店のような超巨大オーナー企業は存在する。当然、その裏では、ほとんどのオ ーナー企業は倒産の道を歩んでいっただろうし、私の父親の企業のように地道 な成長をしている企業もあるだろう。 この成長(売上の成長という意味)の差は何から起因しているのだろうか。 経営者一人の能力なのか。時代が良かったのか。戦略、ビジネスモデルが優れ ていたのか。それとも目で見ることのできないような組織風土やマインドなの か。当然、一つの要因ではなく、様々な要因が複雑に絡まり合っている場合も 多々あるだろう。また、理論では説明できないような偶然性のようなものもあ るだろう。しかし、企業が存続している数十年間という期間の中で、数千億の 成長の差を生む要因は必ず存在すると考えている。 また、慶應ビジネススクールに入学してから父親と、父親の企業について会 話することが増えた。父親はその中で「自社の閉塞感」を強く感じており、一 刻も早く成長の軌道を描く必要があると危機感を募らせている。このような 100 億円企業のオーナーが感じる企業成長の難しさを、現在大企業にまで成長 したオーナー企業は当然克服してきたわけである。しかし、父親の経営の姿を 見ていて、数百億円単位での大きな成長を実現するのは極めて難しいのが現実 である。戦略、組織マネジメント、資金調達方法など様々な点において、現実 には数え切れない程の困難がある。それら困難を乗り越え、成長してきた企業 には既存の成長理論では説明できない、オーナー経営独自の要因があるのでは ないだろうか。 本論文では、こうした「オーナー企業の成長要因」について、実際に成長を 実現させたオーナー企業のオーナーへインタビューを実施することで、何らか の共通要因を模索していきたい。 2.本論文の目的と意義 本論文の目的は、様々なオーナーへのインタビューを通じ、そこから得られ る多くの見地を私なりにフレームワーク化し、その中から私自身の将来の経営 において売上・利益における成長を実現するための重要な要因、経営的示唆を 見出すことである。本目的を達成するための分析単位としては個別企業を単位 とする。また、本目的を達成した場合の学術的意義としては、従前は企業成長 として研究されてきた成長要因というものから、オーナー企業という企業体へ 対象を限定することで、オーナー企業独自の成長要因を見出す点にある。実務 的意義としては、世に数多く存在するオーナー企業のオーナーへ経営的示唆を 与えられることである。本論文が自社の閉塞感、成長の限界を感じているオー 5.
(7) ナーへの参考となれば幸いである。 3.本論文の領域 本論文の対象とする領域としては、当然オーナー企業であるが、ここでオー ナー企業の定義をしておく。企業にはプリンシパル(株主)とエージェント (経営者)が存在するが、本論文におけるオーナー企業は、以下の条件に当て はまる企業とする。 ① プリンシパルとエージェント双方において創業家一族が支配 ② プリンパルにおいて創業者一族が支配 ③ エージェントにおいて創業者一族が支配 規模、業種については特に領域を設定せず、中小企業から大企業まで包含し、 考察を行う。 4.背景となる理論 本論文のテーマである「オーナー企業の成長要因」に関係のある理論として はティース教授の唱えたダイナミック・ケイパビリティー理論が挙げられる。 当該理論は未だ完成されていない理論ではあるものの、オーナー企業成長を考 察する上で重要な示唆を与えてくれる。 ダイナミック・ケイパビリティーの概要は「外部環境の変化を認識・感知 し、その変化に対応させる形で内部の資源を活用し、それらを再構成・再構 築・統合し、最終的には全社として機能するようオーケストレーションする模 倣困難な能力」と説明できる。ティース教授は「ダイナミック・ケイパビリテ ィーとは、企業が技術・市場変化に対応するために、その資源べースの形成・ 再形成・配置・再配置を実現していく(模倣不可能な)能力のことである」と 定義している。このダイナミック・ケイパビリティーの能力を分解すると 3 つ の要素に分解できる。1 点目は「環境変化に伴う脅威を感じ取る能力 (Sensing:感知)」である。自社を取り巻く外部環境が時と共に変化していく 中で自社の競争優位を脅すような要素が生まれてきた場合に、その脅威に企業 として感知できる能力のことである。これは組織全体がそうした外部環境の変 化に敏感になるような仕組みを構築することで保有できる能力でもあるが、や はり全社行動の権限者である経営者、もしくは経営層がそうした脅威を感知す る能力を養い、常に外部に向けアンテナを張っておく必要がある。2 点目は 「Sensing によって把握した外部環境の変化の中に見出せる機会を捉え、自社 に存在する既存の資源、ルーティーン、ナレッジを様々な形で応用し、再利用 する能力(Seizing:捕捉)」である。1 点目に説明した Sensing 能力によっ 6.
(8) て、自社を取り巻く外部環境の変化を的確に把握し、その変化の中で自社が成 長する機会を模索し、その機会に自社のありとあらゆる経営資源を適切な形で 投入する能力である。この能力は全社観点で自社の経営資源を把握、管理でき る人材が必要なことを示している。つまり、その人材も 1 点目の能力と同様、 経営者を含めた経営層なのである。企業の中で全社の経営資源を把握すること のできるのは経営層以外にいない。そのため、経営者を含めた経営層は自社の 経営資源をタイムリーに把握し、感知した機会に対し、自社の様々な経営資源 をどのような形で組み合わせ、再利用していくことができるかを考え抜かなけ ればならない。3 点目は「新しい競争優位を確立するために自社組織内外の既 存の資源や組織を体系的に再編成し、変革を行う能力(Transforming:変 革)」である。つまり、感知した自社の機会に対し、自社の経営資源を様々な 形で応用、再利用し、その後自社だけではなく自社以外も含めた資源や組織を 再編成し、変革を行うことで自社の競争優位を確立することができるというこ とである。この能力も前述の Sensing 能力と Seizing 能力と同様、経営者を含 めた経営層が持つべきものである。組織の大きな改革や外部の経営資源の統 合・変革は全社を巻き込む動きであるため、経営者を含めた経営層にしかでき ない場合が多い。 このように、企業がダイナミックに成長するためには外部環境の変化を迅速 に感知し、その中から自社の機会を見出し、自社の保有する既存の経営資源を 再利用し、それら資源や外部の資源も統合、変革させられるといった極めてダ イナミックな能力が必要と考えられる。この理論はマイケル・ポーターのポジ ショニング理論や J.B.バーニーの資源ベース理論のようなスタティックな理論 では説明できない企業の「成長」というダイナミックな動きに着目している点 から、本論文の背景となる理論として挙げられるだろう。 5.文献調査 長寿企業の要因としては、現在に至るまで様々な研究がなされており、例え ば「自社のコアコンピタンスを基にした多角化」「身の丈に合った成長範囲で の資金調達」「長期視点での投資」などが挙げられている。しかし、それらの 要因は「長寿」の要因であり、「成長」の要因ではない。また、企業成長の研 究では前述のダイナミック・ケイパビリティー理論がそれに該当するし、その 他にもペンローズの「会社成長の理論」がある。しかし、これらもオーナー企 業の成長というものではなく、一般に言う会社というもの全てを対象とした成 長理論であり、本論文の参考にするには限界がある。そのため、本論文では先 行研究は参考にしていくものの、自分自身で行うオーナーへのインタビューの 7.
(9) 中からオーナー企業における成長要因を模索していきたい。 6.仮説の導入 本論文では仮説をまずは設定せず、オーナーへインタビューする中で成長要 因を模索していく形を採用したいと考えている。その理由として、オーナー企 業の成長というものは体系化された理論やメカニズムのようなものではなく、 成長過程での偶発的な製品イノベーション、偶発的な小さな成功を即座に捉 え、オーナーが独断で一気に成長させたなどという理論化できないような個別 ケースが多く見られるからである。そうした個別ケースを細かに見ていくこと で、オーナー企業の成長における何らかの重要な要因を模索していきたい。 7.メソドロジー 本論文においては、前述の通り、仮説を検証するのではなく、オーナーへの インタビューを実施する中で重要な成長要因を模索いていきたいと考えてい る。対象企業としては、中小から大企業までを含め、12 社とする。具体的な社 名はインタビュー先企業からの要望もあり、非公開とさせて頂く。 8.検証結果 各 12 社に実際にインタビューを行った内容を以下に纏める。各社全てに行 った代表的な質問を中心に記載していく。 A 社(10 代目)食品製造・販売:4,100 億円、6,000 名 B 社(3 代目)産業系機器商社:1,300 億円、770 名 C 社(2 代目)ゼネコン:400 億円、300 名 D 社(7 代目)総合リゾート経営:370 億円、1,000 名 E 社(2 代目)コンサルティング:230 億円、1,200 名 F 社(1 代目)マッサージ機製造・販売:130 億円、450 名、 G 社(7 代目)熱処理加工:130 億円、740 名 H 社(1 代目)菓子類卸売:120 億円、350 名 I 社(3 代目)酒類飲料製造・販売:100 億円、250 名 J 社(3 代目)オリーブ製造・販売:60 億円、140 名 K 社(1 代目)新規事業創出・売却:不明、不明、 L 社(20 代目)旅館経営:不明、不明 ① A 社名誉会長(食品製造・販売:売上高約 4,100 億円) (質)同族経営の優位点、劣後点は何か? 8.
(10) (回)自社は上場も行い、創業者一族の持ち株比率も 20%以下となり、 経営者も生え抜きのため、自社を同族経営と捉えたことはない。そのた め、同族経営の優位点と劣後点という意味では私自身考えたことは無 い。唯一思うことは、現在経営をしている会社というものは先祖が作っ てきてくれたものだと感じることがあり、その会社をより良い状態で将 来へ手渡したいと思う気持ちはもしかすると一族特有なのかも知れな い。また、同族経営の問題点はやはり継承者である。同族に固執してい ると優秀な経営者が途切れる可能性がある。そのため、従業員からも経 営人材が輩出されるよう権限移譲している。 (質)名誉会長は継承者に生え抜きを選ばれたがその理由は何か?一族 の継承は考えなかったか? (回)あくまで経営者は能力ベースで選抜されるべき。社員のモチベー ション向上にも繋がる。今も創業者一族から入社している人間はいる が、能力が不足していれば昇進しない場合も当然ある。そういった理由 から自分自身が判断した結果、生え抜きの社長となった。また社長選任 決裁も指名委員会を設置し、多数決で決定している。 (質)実際に生え抜きの経営者が輩出され良かった点はあったか? (回)やはり従業員のモチベーションがかなり向上したと聞いている。 (質)幼少期から継承する意図はあったか? (回)正直あまり無かった。大学卒業後は渡米し、アメリカのビジネス スクールで勉強をし、その際はアメリカで就職する予定だった。しか し、アメリカで自社の商品を見付け、その商品が海外の地で様々な人に 購入されている姿を見た時に、自社に戻り、よりグローバルな地で自社 の商品を販売していきたいと感じたため、自社に戻ることを決意した。 (質)ビジネススクールでの学びは実際の経営には活用されているか? (回)上に行けば行くほどビジネススクールで学んだ意思決定プロセス が踏襲されていると感じる。 (質)名誉会長が社長の時代に御社のグローバル化が急激に進んだが、 どういった人材がグローバル人材と言えるか? (回)3 要件ある。1 つは「専門能力」、2 つ目は「異文化への適応能 力」、3 つ目は「英語力」。ローテーションはあまりさせず、40 歳までに 2 つの専門能力を養う必要がある。そして、英語は当然とし、様々な人種 の中でもリーダーシップを発揮し、チームを牽引していける能力が必 須。 (質)経営者として必要な能力は何と考えるか? 9.
(11) (回)「先見性」「判断力」「人を動かせる力(リーダーシップ)」であ る。リーダーシップは説得力と言い換えられる。こういったの能力を使 い、経営者として重要な仕事は需要を創造することである。その際に海 外にビジネスを展開することも多々あるが、そういった場合はコンサル ティングを有効活用するのが重要である。 ② B 社顧問(産業系機器商社:売上高約 1,300 億円) (質)同族経営の優位点、劣後点は何か? (回)今まで深く考えたことはあまり無かったが、自身の経営を振り返 るとそこまで特段無かったように思う。強いて言うならば、他人に比べ て会社に対しての愛情は強いと言えるかも知れない。 (質)継承者は自身のご子息を考えているか? (回)考えていない。理由としては親がどうしても子供のコントロール 権を握ろうとしてしまう。それに加えて、経営者はあくまで能力ベース で決めるべき。能力ベースにしないと従業員のモチベーションも低下し てしまう。実際に、私を最後とし一族から経営者は輩出しておらず、現 在の経営者も生え抜きである。 (質)継承者は外部からの調達も考えたか? (回)基本は内部からの育成を考え、人材育成を行ってきた。海外経験 を昇進の必須としたり、そういった人材に国内人材の底上げの役目を担 ってもらったりした。また、そういった人材には必ず給与アップを行う などインセンティブも重要視した。また、困難な案件などを担当させ、 私にプレゼンテーションなどをやらせ、そういった部分で自発性を高め てきた。そういった育成方法の中から私が実際に現場へ赴き、重要な人 材を選抜していった。 (質)幼少期から継承する意図はあったか? (回)無かった。大学を中退し、渡米し MBA を取得した後はアメリカで 仕事を見付け、そのままアメリカで過ごす予定だった。しかし、先代の 体調が悪化し、周囲の人達にも説得されたため継承を決意した。 (質)自己資本比率を急激に向上させたり、利益を大幅に改善させた り、経営として大きな成功を収めたと思うが、どのような戦略転換を行 ったのか? (回)先代の頃は大手企業のみを顧客とし、取引条件なども極めて悪か った。景気にも左右され、大幅な赤字となる年もあった。そのため、私 はまず顧客の分散化を始めた。具体的には大手企業以外の中小企業をも 10.
(12) ターゲットとし、小さな取引(高い利益率は必須)を積み重ねていっ た。また、仕入れ先の拡大も行った。商社として重要な点は、顧客の要 望を自社のみで全て解決できること。そのためには豊富な商品群が必 要。 (質)経営者として重要なことは何か? (回)従業員がより自社を誇りに思える企業にすること。そのために、 業績を健全化させインセンティブも与えた。待遇についても、就任当初 に各社員に聞いて回り、意向に沿うように改善した。また、CM も増や し、認知度を高めることに努力した。MBA で学んだ事というのはこうい った面でも役立ったと感じる。 ③ C 社社長(土木・請負工事業、売上高約 400 億円) (質)同族経営の優位点、劣後点は何か? (回)私は元々創業者一族ではなく、現会長の長女と婿養子として結婚 し、継承した。そのため、あまり同族経営として深く考えたことはない が、同族内での継承であっても、能力ベースで継承されるべきだと考え る。私自身も、自社に入社してからとにかく誰よりも仕事を取って来 た。このことが従業員からの尊敬を集め、経営者としての説得力を増す 要因となると思う。 (質)継承者は自身のご子息を考えているか? (回)考えていない。繰り返しになるが、経営者はあくまで能力ベース で選ばれるべき。 (質)幼少期から経営者になりたいという意思はあったか? (回)あったと思う。大学卒業後、総合商社へ入り、誰よりも稼いでや るという気持ちで猛烈に働いた。社内でもよくケンカした。幼少期から 負けず嫌いで今もそういった性格は持っているなと感じる。そういった 意味で、経営者になってもっと上を目指そうという気持ちはあった。今 も思うが、経営者は絶対に負けず嫌いな性格が必要。 (質)大手企業での人生ではなく、中堅企業での人生を選択した理由は 何か? (回)様々な理由があるが、一つは中堅企業の方が自身の裁量が大き く、単純に刺激的に思えたから。実際に今経営者としての仕事は大手企 業ではできなかった仕事だと感じる。二つ目は中堅企業にはゴールが無 いこと。大手企業ではある程度ゴールが見えたが、中堅企業の経営者で はゴールが無く、人生掛けて企業の成長を目指していかなければならな 11.
(13) い。そこに面白さを感じた。 (質)経営者として重要なことは何か? (回)従業員から尊敬されること。そのためには誰よりも働き、誰より も稼ぐこと。また、マイナスな人材を勇気を持って切れることも重要。 仕事のできる従業員にのみ業務の付加が大きく掛かることは公平さが欠 け、部署の士気低下へと繋がる。 (質)社長就任から売上を約 10 倍近くにまで成長させたがその戦略とは どういったものか? (回)極めて単純であり、ただ「顧客から好かれること」。すると、仕事 はいくらでも舞い込んでくる。そのために、従業員にはアフターサービ スの重要性を説いた。建築業界ではクオリティーの違いというのは工事 段階ではほぼ無いと言って良い。そのため、顧客のリピート率を上げる にはアフターサービスでいかに顧客へべったりと張り付くかによる。そ の部分は徹底させた。また、東京などの新しい市場へ進出する際は中堅 企業だと顧客からの信用の観点から財務内容が重要になってくる。自社 は内部留保を蓄え、自己資本比率はかなり高い状態にあるため、進出時 も困難は比較的少なかった。また、とにかく人材確保と育成に努めた。 採用については毎年必ずコンスタントに採用し、社内教育も徹底して行 った。常に説いているのは「若者は未知なる魅力」ということ。どんな 案件にも、どんな顧客にも臆せず臨んでいく姿勢を何度も説いている。 ④ D 社社長(総合リゾート経営:売上高約 370 億円) (質)同族経営の優位点、劣後点は何か? (回)優位点と劣後点は表裏一体。自身の経験で言えば、先代が旧態依 然とした経営をしており、企業としては完全に腐敗していた。そういっ たオーナーが経営を行っている場合は劣後点となる。しかし、そこから 私が実権を握り改革を行った際、オーナーの権限があったからこそダイ ナミックに変革を行えた。こういった場合は優位点と言えるだろう。 (質)反発などは無かったか? (回)まず、私は継承には色々な形があって良いと思っている。平和的 に継承するのに越したことがないが、先代の経営方法やビジネス環境の 違い、継承する人の準備具合など、そういった諸々の要因を鑑み、無理 やり権限を奪い取る継承があっても良い。その場合に重要な点はやはり 株式の保有率。保有率を高め、強力に改革を推進していかなければなら ない。私の場合、確かに色々な従業員からの反発はあった。実際に従業 12.
(14) 員の 3 分の 1 は会社を去った。しかし、私にとっては好都合であった。 私の経営方針に反発する従業員を排斥できたことで、残った従業員とは 一致団結し、戦略を徹底できた。そして、今思うのはこうした動乱があ った後に付いてきてくれた従業員は私が苦しい時でも必ず助けてくれ る。重要なのは苦しい時に揚げ足を取るのではなく助けてくれる従業員 と共に仕事をすること。志を同じくするメンバーとなら必ず良い仕事が できる。私はチームを組成するまではかなり厳しく統制していくが、一 度志が同じチームメンバーが揃ったら、後は全て一任する。 (質)ここまで急成長した現在、経営者としてのモチベーションは何 か? (回)私は継承というのは「運命づけられたベンチャー」と捉えてい る。つまり、自分以外に継げないベンチャーということ。ベンチャーは 成長が絶対的使命になっており、それが日本社会への貢献にもなる。し かし、通常のベンチャーは存続リスクが極めて高く、夢にまで届かず消 えていく企業が多い。しかし、継承というのはある程度企業の基盤が出 来ている。だから、私は継承した後はなにがなんでも成長しろと言いた い。それも 2 倍や 3 倍ではなく数十倍という夢を持って欲しい。日本の 全企業の 98%はオーナー企業であり、その企業群が GDP の半分を創造 している。そして、そういった企業は大企業のように経営が「きちん と」できていない。つまり、成長の余地を大いに持っているというこ と。こうした企業群が経営をより良くし、成長することが日本社会の成 長へと繋がると思う。 (質)将来、経営の課題に対処するために学生としてやるべきことは何 か? (回)実際の経営において課題に直面した時に初めて本の価値が出る。 そういった場面で使える本をとにかく探し読むこと。私も何百冊も読む が、その中からそういった本は数冊しかない。しかし、その価値は本当 に高い。また、私も MBA を取得したが、あの時の勉学、そして仲間は未 だに大切にしている。是非、若い人達には MBA に行って欲しいと思う。 ⑤ E 社名誉会長(コンプライアンス・アドバイザリー業務、売上高約 220 億円) (質)同族経営の優位点、劣後点は何か? (回)私は創業者一族として継承したのではなく、生え抜きとして継承 した。ただ、株式は保有しているという意味ではオーナー企業と言え 13.
(15) る。優位点としては、オーナー企業特有のネットワークができること。 そういった経営塾などもあり、そういった場で様々な方々とお会い出来 るのは大きなアドバンテージ。劣後点はやはりオーナーの人間性に全て が依存してしまうところ。先代が強烈な個性を持っており、一歩間違え ると危険とも思う。 (質)継承者は自身のご子息を考えているか? (回)私の息子ではなく、創業者(現会長)の息子になると思う。私自 身、強い拘りは無いが、創業者の意向もあり、そのような形になる予 定。 (質)幼少期から経営者になりたいという意思はあったか? (回)そこまで無かった。大学卒業後は公認会計士として働き、その後 今の会社へ入社した。とにかく猛烈に働き、創業者に見込まれ、経営者 になった。そこからは経営が全く分からない日々が続いたがとにかく必 死に創業者へ食らいつきながら経営を行った。しかし、コンサルという 職業柄、今まで 7 人の自殺した経営者を見てきた。そういった姿を見て きて、素晴らしい経営者にならないといけないという意思がより強くな ってきた。そこで、稲森和夫氏の経営塾へ入塾し、経営についてより学 びを深めた。そこでの学びは今もなお継続しているが、それ無しでは今 の経営はできていないと確信している。今思うことは、経営者程素晴ら しい職業は無いということ。 (質)経営者として重要なことは何か? (回)人間性を磨くこと。正直、私自身の経営も直感的に行ってきたと ころはあるが、人間性だけは意識して磨いてきた。経営というのは結局 人と人との繋がり。だからこそ、自分自身の人間性を磨き続け、同時に 従業員の人間性を磨く教育も徹底して行う。経営というものは常に真剣 であるべきで、少したりとも気を抜いてはいけない。そのため、従業員 にも大変厳しい業務内容を入社当初から伝えている。 (質)社長就任から売上を約 20 倍近くにまで成長させたがその戦略とは どういったものか? (回)業務特化が重要。コンサルタントというのはいかに顧客から信頼 されリピートされるかが重要。そのためにはコンサルタントの専門能力 を最大限伸ばす必要がある。そのため自社はコンサルティング領域を狭 め、従業員に徹底したスペシャリストになるためのキャリアパスを歩む ようにさせた。そのことで、価格競争からも逃れられ、差別化が可能に なった。自社の価格設定は他社に比べ比較的高い設定にしているが、高 14.
(16) い確立でリピートして下さる。 ⑥ F 社社長(マッサージ機製造・販売:売上高約 130 億円) (質)同族経営の優位点、劣後点は何か? (回)やはり経営のスピーディーさは優位点。全てオーナーの判断で物 事が進む。しかし、劣後点としては、オーナーに権限が集中しがちで、 継承者の育成が難しい。 (質)継承者は自身のご子息を考えているか? (回)正直に言うと、子供に継承させたいが、まだ能力として不十分な のでまだ決めていない。ただ、やはり継承者は社員から生え抜きで選抜 するのが良いとは思う。そもそも、私はオーナーと経営者は異なるもの と考えている。経営者は 2 つの能力が必要。1 つは「経営職が好きなこ と」。もう一つは「そこそこのセンスがあること」。その能力を持つ人間 が経営は継承すべきだと思っている。 (質)センスというのはどのように磨いていくものなのか? (回)学ぶことしかない。読書や経営者の話を聞くのも当然だが、MBA などもその内の一つだろう。 (質)企業として継承を行う上で重要なことは何か? (回)基本は従業員から生え抜きで選抜すること。そのためには、企業 内における人材ピラミッドの底を強くすること。つまり、担当レベルの 従業員により経営センスを身に付けさせること。そうすることで、経営 センスを持つ従業員をより多く持つことができ、継承をスムーズなもの とする。 (質)上場は考えなかったか? (回)考えたことはあるが行わなかった。理由は 2 つある。1 つは私に権 限が集中していたこと。もし上場を行ったとしても会社として回らなく なるだろうと感じた。2 つ目は継承者がいなかったこと。継承者がしっか り決まれば上場はしても良いとは思っている。 (質)上場のメリット・デメリットは何か? (回)メリットは「採用」と「情報の公開性」。採用はやはり上場すると 圧倒的に楽になるだろう。デメリットは「株主主体の見方」になってし まう点。これは経営の方向性を迷走化させ、企業を弱体化させる可能性 がある。やはり企業は顧客の次に従業員を大切にしなければならない。 (質)創業者として売上高も 100 億を超えているが、どのような戦略を 行ってきたのか? 15.
(17) (回)マッサージ機製造を中心に関連多角化で成長してきた。基本的に はコスト削減と最先端技術の導入による製品品質の向上。今の最新機は まだ試作機段階だが、AI の導入も考えている。こういった顧客への提供 価値をいかに低コストで行っていくかに尽きる。 ⑦ G 社社長(熱処理加工:売上高約 130 億円) (質)同族経営の優位点、劣後点は何か? (回)私は 7 代目として継承したので私は比較的継承代数の長いオーナ ーに入るだろう。そのため、継承に関しては一族の中で慣れていたこと もあり、あまり同族経営の劣後点を感じたことはない。ただ、他の一部 のオーナー企業を見ていると、やはりオーナー一族のみが私腹を肥やし ているような企業もあり、そういった企業は廃れている。それはオーナ ー企業の劣後点と言えるだろう。優位点としては、やはり強力に経営を 推進できること。それはやはり株式の保有率が重要。私自身の経験で言 えば、先代とはかなり良好な関係であり、スムーズに株式の相続なども 終えたため苦労しなかったが、知り合いの企業などは株式の相続に揉 め、企業としての統治力を失った一族もある。 (質)継承者は自身のご子息を考えているか? (回)まだ若いので考えていない。しかし、父親の姿を見ていると、父 親も年齢を重ねた段階で私に継承させたいという思いがでてきたような ので、私も将来そのように感じる日が来るかも知れない。私の個人的実 感では、やはり会社に対する愛情が生え抜き社長と一族からの社長では 異なると思う。一族からの社長の持つ会社愛の深さは中々生え抜き社長 では持てないレベルにあると思う。 (質)幼少期から経営者になりたいという意思はあったか? (回)私は先代との関係も良好だったので、その意思は早い段階からあ った。大学卒業後、某大手電機メーカーで働いたがそれも 3 年で辞職す るつもりで入社し、実際に 3 年で今の会社に入社した。 (質)社長に就任され、海外売上高比率が高まったが、どのような戦略 を採用したのか? (回)まず、熱処理加工業界というのは、設備が高価なので中小・中堅 企業が外注する世界。しかし、近年そういった潮流から、コアな技術に 入り込む段階で外注する大手企業も増えてきた。そのため、現在は大手 企業も顧客になってきている。そして、そういった企業からは海外進出 時に引き合いが来る。そういった案件の内容は、顧客の工場近くに熱処 16.
(18) 理工場を作って欲しいというものが大半。その際にスピーディーに最小 限の現地調査はやるが、重要なのはとにかく早く対応をし、顧客の工場 稼働に間に合わせること。そのため、顧客から引き合いが来た場合ほぼ 断らないことにしている。勿論、苦しいこともあったが、やればなんと かなるということがほとんどだった。そういった姿勢が海外での実績や 顧客からの信頼を勝ち取った理由だと思う。 (質)海外市場に進出する際はどのようなことを考慮して選択している のか? (回)重要なのはマーケットサイズと競合の数。特に熱処理加工はそこ まで品質に違いが出ないので価格競争になりがち。そのため、競合が既 に多いマーケットには出ないことにしている。そうなると発展途上国が 多くなる。ただ、インドなどのインフラが整っていないマーケットでは 熱処理加工が行えないので、進出を諦めたこともある。 (質)経営者として重要なことは何か? (回)経営者は理論より人間心理の方が重要だと思う。いかに優れた理 論でもやはり人が動いてくれないと仕事にならない。いかに従業員が納 得して気持ち良く仕事をしてくれるか、こういった人間心理を読む力が 重要だと思う。そのために、私が意識している 1 つは経費削減を求める のではなく売上増大を求めること。経費削減はどうしてもマイナスの仕 事なので従業員も率先してあまりやらないが、売上増大は刺激的で前向 きな仕事なので比較的率先して行ってくれる。 ⑧ H 社会長(菓子類卸売:売上高約 120 億円) (質)同族経営の優位点、劣後点は何か? (回)優位点は、とにかく従業員を最も大切にできること。会社の利益 は全て従業員に還元しており、還元率は極めて高い。一方で劣後点は経 営者の資質によってのみ会社の行き末が決まってしまう事。 (質)継承者は自身のご子息を考えているか? (回)既に私の息子が継承する予定。その理由は全社観点で物事を見れ る人材おらず、彼一人であったため。後はやはり会社を思う気持ちが生 え抜きに比べ強いため。また、自社の理念である従業員を大切にするマ インドを最も共有できた人間であった。私自身も経営については何も口 出ししていない。ただ 1 つだけ求めているのは従業員の幸せを守れとい うことのみ。 (質)継承の際に重要なことは何か? 17.
(19) (回)利益と人材。利益を生み、しっかりと内部留保を持っておくこ と。そういった健全な財務基盤とやはり全社観点で物事を考えられる人 材を育てておくこと。 (質)経営者として重要なことは何か? (回)従業員を最も大切にすること。経営者はそのために人生を掛ける べきだと思っている。私自身、創業して約 50 年間、そのことだけを中心 に経営を行ってきた。社員の幸せを守るためであれば家族であっても犠 牲にしてきた。例えば、報酬にしても徹底して高めてきた。コスト削減 を達成した際にも報酬を与え、企業が赤字になった際にも報酬は必ず与 えている。利益もとにかく従業員への還元へ回している。また、経営者 は誰よりも早く起き、会社へ行き、トイレ掃除から倉庫の掃除など全て を率先してするべき。私もそれを 50 年間毎日続けてきた。 (質)1 代で 100 億円を超す企業に成長してきたが、どういった戦略を 採用したのか? (回)多角化は自社のコアの行き届く範囲のみに限定し、売上は一切追 わず、必ず利益優先で考える。利益向上のための最重要項目は従業員の 生産性。現場の生産性を高め原価を下げる。そのためには最新設備への 投資も惜しまないことが重要。 (質)兄弟経営をしているが、諍いなどは無かったのか? (回)経営が幸運にもうまくいっているので、今まで諍いは特に無かっ た。 ⑨ I 社社長(酒類飲料製造・販売:売上高約 100 億円) (質)同族経営の優位点、劣後点は何か? (回)優位点はスピーディーな決断。しかし、それは株式が集中してい ることで可能となる。一方、劣後点は一族内での株式分散による経営の 停滞。私自身、一族内での株式分散によって苦労した経験がある。その ため、今は一人に集中させる方針を取っている。 (質)継承者は自身のご子息を考えているか? (回)考えている。やはり、私自身も幼少期から継承を意識して育てら れ、そこに関して特に異論も無く今まで来た。そうすると、今私自身の 息子にはやはり継承者としての愛着が沸き、息子にも継承して欲しいと いう思いが出てきた。そして、幸運にも息子もその意思を持っているの で、継承は恐らく息子になると思う。 (質)ご子息が継承されることに対しての社内での反発は無いか? 18.
(20) (回)特に無いと聞いている。私自身、まだ社内で息子が継承するとは 言っていないが、従業員の雰囲気を見ていると全員がそれを理解してい ると感じる。 (質)社長に就任され、日本酒だけではなくビール事業にも進出し、成 功したが、どのような戦略を採用したのか? (回)私が社長に就任された頃に地ビールの法規制が緩和され、当社で も作れる環境になった。製品については、「地ビールの拘り」を大切にし た。消費者は地ビールに拘りを求めている。そこを徹底したことで販売 量が伸びたと思う。 (質)その成功が新社長であった社長の求心力を増した要因か? (回)そうであったと思う。先代もその事業を後押ししてくれた。経営 者は新しい事業を創造し、成功させることが最も重要な仕事。それを行 っていくことで求心力を高め、維持していくことが可能。社内には一族 での継承に反発し、足を引っ張りたいと思っている者もいる。そういっ た人間を抑えるには事業で成功させていくしか方法は無い。 (質)ご子息が継承されることが決まった今、経営者としてのモチベー ションは何か? (回)次世代により良い企業を引き継いでやりたいという気持ち。財務 基盤を健全化させ、人材を育てること、こうした遺産を残してやりた い。 (質)経営者として重要なことは何か? (回)常に本を読み、勉強すること。経営はやりがいのある仕事だが、 知識も当然必要。その知識を得る努力を怠らないことが重要だと感じ る。また、企業を長寿にさせるためには内部留保を十分に蓄えておくこ とも当然重要。 ⑩ J 社社長(オリーブ製造・販売:売上高約 60 億円) (質)同族経営の優位点、劣後点は何か? (回)優位点は会社に対する愛情の深さだろう。私自身、幼少期から農 園で働く父親を見て、オリーブという製品に物凄く魅力を感じた。だか らこそ、スペインにも留学に行き、継承したいという気持ちも強くなっ ていった。こういった愛情の深さは幼少期からの環境が大きく影響して いると思う。一方、劣後点はワンマンになり、裸の王様になる可能性を 秘めている事。地元のオーナーというのは色々な場所でチヤホヤされる ことが多い。それは自分自身の力を過大評価することになる。それが極 19.
(21) 大化すると完全に経営の方向を間違えることになる。私自身、そういっ た経験をしないためにも、経営塾に入り、色々な方々から意見を貰うよ うにし、自分自身の慢心を諫めている。 (質)継承者は自身のご子息を考えているか? (回)正直まだ息子が若いので分からないが、私自身が父の姿を見る中 でオリーブが好きになったように、息子にもそういう風に思ってもらえ たら継がせたいと思うようになるだろう。正直、今の社内には横断的に 経営を見れる人材はいない。 (質)継承されてから売上高を約 30 倍増大させたが、どういった戦略を 採用したのか? (回)祖父が農園を始めたが、祖父の代は「農夫」としての農業だっ た。それが父親になり、若干農地を拡大し、「経営」と変わっていった。 そして、そこに観光ブームと食の西洋化の波が来た。つまり、外部環境 が幸運にも自社ビジネスに良い方向に変わってくれた。しかし、そこか ら一時は良かったが、商社が海外から安価のオリーブを大量に輸入する ようになり、国産オリーブは価格面でもブランドイメージ面でも全く勝 てず、苦しい時期になった。そこで私が継承する時期になり、いざ会社 に入ってみると、とにかく小売業者にパワーを握られ、農園側が一切値 決め出来ず、ただの言いなりのようにオリーブを作っていた。そこで私 はまず値決めができるようになることから始めた。具体的には販売力を 強化すること。マーケティングの勉強を県外にまで足を運んで学んだ。 オリーブを高級食材としてイメージ化し、化粧品業界にも進出した。媒 体としては新聞広告が最も有効だった。ターゲットも 65 才以上の人をタ ーゲットにした。そして、小売業者との取引をほぼ止め、通販へ移行し ていった。今では売上の 99%は通販が占めている。こういった施策を進 めていく中で受注が増大していき、自社だけでは賄えない部分をスペイ ンの農家と契約し、賄っている。今でも新商品の開発に注力し、常に付 加価値の高い商品を生むことを意識している。経営については今までも 特別に MBA などは勉強したことはないので、素人であり、一貫した経営 戦略などは立てられないなと感じる。せめて横断的に経営を見れるよう 今もなお経営塾やマーケティング講座などに通い、勉強をしている。 ⑪ K 社会長(新規事業創出・売却:売上高不明) (質)同族経営の優位点、劣後点は何か? (回)私自身が今の企業も含め 2 社の創業者であり、昔立ち上げた企業 20.
(22) は上場もさせたため、一族の人間に継承させた経験が無い。そのため、 正直同族経営について深く考えたことはなかった。優位点・劣後点は特 に無い。自身が経営を行っている期間においてそういったことを意識し たことは無い。しかし、経営の判断を行う上で、自分自身の裁量が大き かったとは言えるかも知れない。 (質)起業した理由は何か? (回)正直言うと、仕方なく起業した。元々働いていた企業では金型の 営業をやっていたが、お酒も飲めず、営業マンとして極めて能力が低か ったため、営業を辞めた。そして、顧客が本当に欲しい商品を売れない かと考え、マーケットアウトのビジネスモデルを考え出した。 (質)成功した要因は何か? (回)一言に、ビジネスモデルが良かった。当時はダイエーやイオンな ど流通革命が起きていた時代であり、それを大きな参考とした。まずは 生産財の部品を作るところから始めた。大阪には多くの大手企業が存在 していたが、彼らは全てメーカーの代理店であり、バブル崩壊の不況を 極めて強く受けていたため、ビジネスモデルの大きな転換を必要として いた。そこで、私は販売代理店ではなく、購買代理店に着目し、ネット 通販を始めた。つまり、製造側から商品をマーケットにプッシュ型で販 売するのではなく、マーケットからニーズを汲み取り、商品を作り、売 るという仕組みを作った。これがマーケットアウト型ビジネス。これは 川上から川下に主導権が移ったことを意味する。このビジネスモデルが 優れていたため順調に成長したと思う。実際に現代を見ても SPA 企業は みんな軒並み成長している。これは、やはり技術ありきではなくマーケ ットありきで商品を作り売るビジネスモデルだからこそ。そのマーケッ トは始め、極力絞っておいて、成功したら拡大するという方法が正しい と思う。そのマーケットは大手企業が存在しないマーケットであるべ き。それこそが中小企業が勝つための重要な点。 (質)成長している際に歪みは生まれなかったか? (回)特に無かった。強いて言うならば、コンピューターがシステムダ ウンしたことくらいである。 (質)上場させた理由は何か? (回)売上が 300 億円程度にまで届いた時、私達役員の力ではこれ以上 拡大させるための仕組みを作るのは不可能だと感じたため、外部から経 営者を招いた。大手企業は大手企業の仕組みが必要だが、私も含めて役 員はスタートアップから企業を成長させてきたため、大手企業の仕組み 21.
(23) を作る能力が無かった。継承者の経営を見ていると、やはり今の人に継 承させて良かったと感じる。また、会社を公共のものにしなければなら ないと思った。 (質)リーダーシップの形はどのようなものだったか? (回)リーダーは旗を立てるのが重要。つまり、企業としてどの方向に 向かうのかといった方向性を示すこと。そして、そのゴールに行き着く 方法論も明確に示すべき。企業はあくまでプラットフォームであり、各 従業員が能力を伸ばし、自由に仕事をすべきであると思う。時代は会社 中心時代から個人中心主義になった。 (質)人材採用には困らなかったか? (回)ビジネスモデルが魅力的だと人は集まる。魅力的なビジネスモデ ルを作るのはリーダーの仕事。私はビジネスの勝負はビジネス立ち上げ 時に 8 割方決まっていると考える。ビジネスモデルは一旦走り出すと転 換するのが難しいからだ。そして、この立ち上げ時が最も面白く、付加 価値の高いフェーズである。ビジネスとは新しいことを連続的に行うこ と。 (質)新しいビジネスを始める上で、学制としてやるべきことは何か? (回)シリコンバレーなどの新しいことを次々に行っている場に行き、 空気を感じること。それだけで変わると思う。そして、とにかく今まで やったことの無い新しいことにチャレンジして欲しい。 ⑫ L 社社長(旅館経営:売上高不明) (質)同族経営の優位点、劣後点は何か? (回)優位点は求心力。創業者一族が継承することで歴史が継承され、 経営も継承されていく。劣後点としては、やはり相続が大変だというこ と。 (質)極めて長寿な企業だが、どういった経営理念を大切にされてきた か? (回)当時は今川家の家老として商売を始めた。その頃からの教えとし ては「寺より控える」「温泉と川を大切に」「神仏をたいせつに」という こと。近くのお寺が街の中心であるから、そのお寺を超えるような存在 にならないようにしている。そのこともあり、1店舗主義を貫いてい る。 (質)旅館内のサービスについても変えないのか? (回)変えない点は「料理は部屋出しという点」と「布団という点」。他 22.
(24) の点は変えてはいけないと決まっておらず、新しいことに次々とチャレ ンジしている。 (質)新しいことにもチャレンジされる中で大切にされていることは何 か? (回)私自身が泊まりたい宿でありたいという気持ち。そのためには、 ただ存在するだけではいけない。この旅館のためにここに来るというと ころまで洗練させなくてはいけない。そのため、美意識を磨くことが重 要。 (質)継承者は自身のご子息を考えているか? (回)考えている。私自身も継承するのが当然だった。そのため、今の 内から旅館内の神仏儀式などに参列させたり、美意識を磨くような場所 に連れて行ったりして、継承する意識を醸成させている。 (質)ご子息が継承されることに対しての社内での反発は無いか? (回)全く無いと聞いている。何百年という長い歴史の中で創業者一族 が一貫して継承しているため、創業者一族が継承するということに対し て当然となっている。 (質)高いサービスクオリティーを維持するために意識して行っている ことは何か? (回)競合の動きは常に注視している。また、実際に自分で現場を歩 き、足りない部分は指摘、改善している。また、こちらから客集めはし ない。マーケティングも一切行っていない。そして、当然だが常に客目 線で考えるよう徹底して社員教育している。研修も積極的に参加させて いる。 (質)経営者として重要なことは何か? (回)私は長寿旅館の経営者なので通常の経営者の方々とは異なった考 えだと思うが、私が大切にしていることは地域の方々と共存すること。 村社会のようなものなので、やはり突飛な行動などは死活問題となる。 9.検証結果の解釈 ここでは先述の検証結果を私なりに解釈していく。本論文の目指すところで ある、私自身の将来における経営的示唆をより明確にしていくため、各オーナ ーの経営における特徴を抽出し、フレームワーク化を試みる。本作業によっ て、自身の現状、そして今後私が父親の企業においてどのような経営の方向性 を打ち出していくべきかということがより明確になることを目的とする。 では、フレームワーク化する上での重要な項目、縦軸と横軸となり得る要素 23.
(25) とは何だろうか。今回のインタビューの中で、オーナー企業の成長要因に影響 を与えている要素はいくつか発見できる発言を抽出し、考察していきたい。 1.「継承者」について (質)継承者は自身のご子息を考えているか? (回)(A、B、C 社)売上高中堅~大手企業 ・創業者一族には限定せず、能力ベースで平等に評価すべき。従業 員のモチベーション向上の目的もある。実際に現在の社長も生え 抜き社員から選抜している。 ・あくまで経営者は能力ベースで選抜されるべき。今も創業者一族 から入社している人間はいるが、能力が不足していれば昇進しな い場合も当然ある。そういった理由から自分自身が判断した結 果、生え抜きの社長となった。また社長選任決裁も指名委員会を 設置し、多数決で決定している。 ・考えていない。理由としては親がどうしても子供のコントロール 権を握ろうとしてしまう。 (回)(G、H、L 社)売上高中小~中堅企業 ・まだ若いので考えていないが、父親の姿を見ていると、父親も年 齢を重ねた段階で私に継承させたいという思いがでてきたような ので、私も将来そのように感じる日が来るかも知れない。私の個 人的実感では、やはり会社に対する愛情が生え抜き社長と一族か らの社長では異なると思う。一族からの社長の持つ会社愛の深さ は中々生え抜き社長では持てないレベルにあると思う。 ・既に私の息子が継承する予定。その理由は全社観点で物事を見れ る人材が彼一人であったため。後はやはり会社を思う気持ちが生 え抜きに比べ強いため。また、自社の理念である従業員を大切に するマインドを最も共有できた人間であった。私自身も経営につ いては何も口出ししていない。ただ 1 つだけ求めているのは従業 員の幸せを守れということのみ。 ・ 2.「経営戦略」について (回)(A、B、D 社)売上高中堅~大手企業、継承代数中~長 ・上に行けば行くほどビジネススクールで学んだ意思決定プロセス が踏襲されていると感じる。 ・社長として重要なことは従業員がより自社を誇りに思える企業に 24.
(26) すること。そのために、業績を健全化させインセンティブも与え た。待遇についても、就任当初に各社員に聞いて回り、意向に沿 うように改善した。また、CM も増やし、認知度を高めることに 努力した。MBA で学んだ事というのはこういった面でも役立っ たと感じる。 ・私も MBA を取得したが、あの時の勉学、そして仲間は未だに大 切にしている。是非、若い人達には MBA に行って欲しいと思 う。 (回)(E、J 社)売上高中小~中堅企業、継承代数少~中 ・人間性を磨くこと。正直、私自身の経営も直感的に行ってきたと ころはあるが、人間性だけは意識して磨いてきた。 ・経営については今までも特別に MBA などは勉強したことはない ので、素人であり、一貫した経営戦略などは立てられないなと感 じる。 3.「リーダーシップ」について (回)(A、B、D 社)売上中堅~大手企業、継承代数中~長 ・従業員からも経営人材が輩出されるよう権限移譲している。 ・困難な案件などを担当させ、私にプレゼンテーションなどをやら せ、そういった部分で自発性を高めてきた。 ・私はチームを組成するまではかなり厳しく統制していくが、一度 志が同じチームメンバーが揃ったら、後は全て一任する。 (回)(F、H 社)売上高中小~中堅企業、継承代数少~長 ・私に権限が集中していたこと。もし上場を行ったとしても会社と して回らなくなるだろうと感じた。 ・全社観点で物事を見れる人材がいない。 以上のように、オーナーシップに関わる重要なポイントから性格付けられる コメントを抽出した結果、オーナーシップに強く影響を与える要因は「売上高 の規模」と「継承代数」ということが分かった。その 2 つの要因を縦軸と横軸 に据え、フレームワーク化を行う(表 1)。. 25.
(27) <表 1> カテゴリー別のタイトルとしては 4 通りあり、それぞれ左下から「非伝統型 プライベートオーナー」「伝統型プライベートオーナー」「非伝統型パブリック オーナー」「伝統型パブリックオーナー」と命名することとする。 そして、今回インタビューを行った各企業をマッピングすると以下の通りと なる(表 2)。. 26.
(28) <表 2> インタビュー結果を基に、各カテゴリー別に特徴を記載する。また各カテゴ リーの項目はインタビューの中から抽出したオーナーシップの重要な項目とし て「経営方針」、「継承者育成」、「オーナー依存度」、「経営戦略」を抽出した。 それぞれの項目の内容としては、以下の通りである。 経営方針:自社の経営方針を策定する上で、企業の歴史を重要視するか、も しくは企業の歴史ではなく自身のオリジナリティーを重要視するかといった度 合いの強さ。 継承者育成:継承者を一族からの輩出を考えているか、もしくは従業員も含 めた幅広い人材から考えているかといた度合いの強さ オーナー依存度:企業としてオーナー依存度が高いか、もしくは自発的な従 業員やシステムが存在しているかといった度合いの強さ。 経営戦略:経営戦略が直感か、もしくは論理的に策定されているかといった 度合いの強さ。 インタビュー結果から各カテゴリー別に各要因を分析すると、以下の通りと なる(表 3)。. 27.
(29) <表 3> 現在の自身が位置する部分はカテゴリー1「非伝統型プライベートオーナ ー」となる。カテゴリー1のオーナーシップの特徴は以下の通りとなる。 経営方針:過去からの伝統を踏襲する意識は比較的弱く、オーナー自身の 独自の出自や教育背景、思考などから策定する。 継承者育成:従業員や外部からではなく、一族からの輩出を考え、継承者 には幼少期から経営者教育を与える。 オーナー依存度:オーナーがトップダウンで統治し、従業員からの依存度 を高める。 経営戦略:オーナーの経験や直感により、戦略を構築、実行する。 カテゴリー1に属する企業である E、F、H、I、J、K 社はこうしたオー ナーシップを取り、企業成長を実現させてきた。 結果として、私自身、企業成長を目指していく上で将来取るべきオーナー シップは上記の形となる。 10.本論文の限界 本論文の限界としては、いずれのオーナーにしても同様の成長意欲(戦略的 意図)を保有していることを前提としていることである、つまり、現実世界に 28.
(30) おいては各オーナーの成長意欲(戦略的意図)には差異があり、どの成長パタ ーンを選択するかはオーナー自身の戦略的意図に依存しているということであ る。そのため、本論文の結論が全オーナーに該当するわけではないという点を 留意しておきたい。. 以上. 29.
(31) 11. 参考文献 1. デビッド.J.ティース、谷口. 和弘訳『ダイナミック・ケイパビリティー戦. 略』ダイヤモンド社(2013 年) 2. E.T.ペンローズ、末松 玄六訳『会社成長の理論(第二版)』ダイヤモンド 社(1980 年) 3. 山縣. 裕一郎『一橋ビジネスレビュー2015 年 AUT(63 巻 2 号) 』東洋経済. 新報社(2015 年). 30.
(32)
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