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kyodo seihan to juhan no kubetsu ni kansuru kenkyu : nitchu hikaku hoteki kosatsu waseda daigaku shinsa gakui ronbun hakushi

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共同正犯と従犯の区別に関する研究

―――日中比較法的考察―――

謝 佳君

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目 次

序 章.......................................................................4 第一章 日本の判例における共同正犯と従犯の区別...............................8 第一節 判例における共謀共同正犯理論の展開.................................9 一 旧刑法時代..........................................................10 二 現行刑法下の大審院時代..............................................11 三 現行刑法下の最高裁時代..............................................13 第二節 判例における共犯関係の特殊事案の展開..............................26 一 実行行為を行う従犯に関する判例......................................27 二 見張り行為に関する判例..............................................36 第三節 小 括............................................................42 第二章 日本の学説における共同正犯と従犯の区別..............................46 第一節 主観説............................................................46 第二節 形式的客観説......................................................47 第三節 共同意思主体説....................................................49 一 共同意思主体説......................................................49 二 西原春夫博士の見解..................................................53 三 高橋則夫教授の見解..................................................54 第四節 実質的客観説......................................................56 一 間接正犯類似説......................................................56 二 行為支配説および行為支配応用説......................................58 三 重要な役割説........................................................65 第五節 小 括............................................................74 第三章 中国刑法における共同犯罪理論........................................77 第一節 中国刑法における共同犯罪理論の沿革................................77 一 中国古代刑法における共同犯罪........................................78 二 中国近代刑法における共同犯罪........................................91 三 中華人民共和国成立から現行刑法典制定の共同犯罪.....................106 四 小 括.............................................................120 第二節 中国現行刑法における共同犯罪理論.................................122 一 中国現行刑法における共同犯罪規定...................................123 二 中国現行刑法における共同犯罪理論の分析.............................124 三 日本刑法における共犯規定との相違点.................................140 第三節 中国の判例における共同犯罪理論...................................142 一 主犯に関する判例...................................................142

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3 二 従犯に関する判例...................................................145 三 脅従犯に関する判例.................................................146 第四節 小 括...........................................................148 第四章 共同正犯と従犯の区別に関する一試論.................................152 第一節 中国共同犯罪理論による共同正犯と従犯の区別.......................153 一 共謀共同正犯に関する事案の分析.....................................153 二 実行行為を行う従犯に関する事案の分析...............................158 三 見張り行為に関する事案の分析.......................................160 第二節 共同正犯と従犯の区別に関する新たな展開...........................163 一 総 説.............................................................163 二 私 見.............................................................166 終 章.....................................................................169 参考文献...................................................................174

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序 章

複数の者が 1 つの犯罪に関与する現象、すなわち共犯現象は、時代を問わず世界のどの 国においても普遍的なものであり、かつ永遠の課題である。そして、それらの関与者がど の範囲で、またどのような罪責を追及されるかについては、時代によって、国によって、 様々な立法形式がある。すなわち、「共犯現象に関する立法には、大凡、二種のものがある。 第一種は、犯罪関与の形式如何を問うことなく、いやしくも犯罪に関与した者は、凡てこ れを正犯者とするものである。いわゆる統一的正犯者概念(Einheitstäterbegriff)を以 ってする立法例である。この考え方に支援され、制定されたものが、イタリア、デンマー ク、ブラジルおよびルイジアナ等の立法例である。第二種のものは、犯罪関与の形式如何 に従って、共犯の種類を分け、共同正犯・教唆犯・従犯等を区別する立法例である。ドイ ツ、オーストリヤ、スイス等の法制の採るところである1。日本の共犯立法も、犯罪関与の 形式如何によって共犯の種類を分かち、共同正犯・教唆犯・従犯を区別する立場を採って いる2 もっとも、日本刑法 63 条は、「従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。」と規定し、共同正 犯と従犯で法定刑が異なるため、従来、両者の区別が重視されてきた。日本の判例実務は、 「共謀」に着目し、意思連絡の有無を中心に共謀共同正犯を認めようとする立場であるが、 その一方で、形式上、実行行為に該当する行為を行った場合については、共同実行の意思 の存在が否定されれば、従犯の成立を認める立場に立っている。かくして、判例は、共同 正犯と従犯の区別について、明確な基準を示していないといえる。また、判例のこの立場 に対し、学説は、共同正犯と従犯の区別が曖昧になっているとの批判に応えるべく、行為 支配の有無や果たした役割などによって、共同正犯と従犯の区別の一般理論を呈示しよう としている。しかし、いずれの学説も、明確な区別方法や統一的基準を呈示しているとは いえず、現在も議論は続けられている。したがって、共同正犯と従犯の区別理論を再検討 する必要がある。 一方、中国の共犯立法はどうであろうか。中国刑法 25 条 1 項は、「共同犯罪とは、2 人以 上共同して故意による犯罪を犯すことをいう3。」と規定し、共同犯罪の概念を明文で規定し ている4。また、同法 26 条 1 項は、「犯罪集団を結成し、若しくは指導して犯罪活動を行っ た者、又は共同犯罪において主要な役割を果たした者は、主犯である。」とし、27 条 1 項 は、「共同犯罪において副次的又は補助的役割を果たした者は、従犯である。」と定め、 また、28 条は、「脅迫されて犯罪に参加した者は、その犯罪の情状に応じて、その刑を減 1 齊藤金作『共犯判例と共犯立法』(有斐閣・1959 年)139 頁。詳細は、高橋則夫『共犯体 系と共犯理論』(成文堂・1988 年)5 頁以下参照。 2 齊藤・前出注(1)166 頁。 3 甲斐克則=劉建利編訳『中華人民共和国刑法』(成文堂・2011 年)79 頁。 4 刑法典のなかに共同犯罪の概念を明確に規定するのは、社会主義刑法の特徴である(馬克 昌主編『犯罪通論』〔武漢大学出版社・1999 年〕503 頁)。

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5 軽し、又は免除しなければならない5。」と規定し、役割分担基準によって、共犯者を主犯・ 従犯・脅従犯6に分けている。それと同時に、29 条 1 項は、「人を教唆して罪を犯させた者 は、共同犯罪において果たした役割に応じて処罰しなければならない。……7」と規定し、 関与者の関与形式を考慮することで、共同犯罪者を教唆犯に分類している。以上のように、 中国現行刑法において、共犯者は、主犯、従犯、脅従犯および教唆犯に分類されている。 その内容には独自性に富み、上記2種類のいずれの立法形式とも異なるといえよう。 また、中国の共同犯罪理論においては、共同犯罪の場合、可罰的な関与行為と不可罰的 な行為との限界に関して、主観的要素と客観的要素の両方を重視する「主観・客観統一説8 が通説である。そして、共同犯罪として可罰的な者のうち、誰を主犯とし、誰を従犯とす べきかは、関与者が共同犯罪において果たした役割によって区別される。すなわち、犯罪 集団を組織 ・画策 ・指揮した者または主要な役割を果たした者が主犯であり、副次的ま たは補助的役割を果たした者が従犯である。むろん、学説においても実務においても、中 国刑法 26 条1項にいう「重要な役割」によって主犯と従犯が区別されているが、その「重 要な役割」をいかに判断すべきか、関与者の主観面をどの程度まで考慮に入れるか、とい った問題も生じている。いずれにせよ、共犯者を役割分担によって区別すること、犯罪集 団の定義づけや犯罪集団につき、組織・画策・指揮の役割を果たした者(黒幕・中心人物) を特別に扱うことは、中国刑法における共同犯罪理論の大きな特徴であるといえよう。 さらに、以上で述べたように、中国現行刑法典は、共犯規定に関し日本と異なる条文規 定があり、正犯を中心とする共犯体系を放棄し、主犯を中心とする統一的共犯体系を採用 している。しかし、中国刑法 27 条 2 項は、「従犯に対しては、その刑を軽くし、減軽し又 は免除しなければならない。9」と規定し、日本と同じように、従犯に対し(必要的)減軽 主義を採用している。また、日本の実務上は、昭和 27 年から平成 10 年までの第 1 審にお ける有罪総人員のうち、共犯者が関与したとされる人員の割合は、約 25.4%であり、現在 の実務における共犯者のうち、約 98%が共同正犯(共謀共同正犯を含む)、1.9%が従犯と して処理されている10。中国の現状も、日本のそれと類似しており、実務における共同犯罪 は、犯罪類型のうち大きな割合を占めている。例えば、山東省のある市の人民法院では、 2000 年 1 月から 2004 年 9 月まで、第1審判決の 7,937 件のうち、共同犯罪は 2,023 件あり、 5 甲斐=劉編訳・前出注(3)79 頁。 6 「脅従犯」を「脅迫犯」と呼ぶ見解もある。張凌『日中比較組織犯罪論』(成文堂・2004 年)147 頁参照。 7 甲斐=劉編訳・前出注(3)79‐80 頁。 8 原文は「主客観統一説」である。具体的いえば、客観面については、その複数の者が共同 して犯罪に参加し、かつ犯罪結果に対し因果関係がなければならないにもかかわらず、主 観面については、すべての者がその犯罪活動に対し故意(未必の故意も含め)も備えてい るべきである、と解している。 9 甲斐=劉編訳・前出注(3)79 頁。 10 昭和 27 年から平成 10 年までの統計結果において、複数関与者の場合の最終的処理人員 は、正犯(共同正犯、間接正犯を含む)が 97.9%、教唆犯が 0.2%、従犯が 1.9%とされて いる。亀井源太郎『正犯と共犯を区別するということ』(弘文堂・2005 年)6‐8 頁参照。

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6 それは、刑事事件のうち実に 25.4%であり、そのうち、91.4%が共同犯罪(明確に主犯と されたのは 7.5%)、8.5%が従犯とされた11。そして、中国現行刑法においては、組織犯罪 などの集団犯罪に関し、実行行為に直接関与せず、背後に控えている中心人物(集団犯罪 を組織・指導した首謀者)が重視される点など、日本の状況と共通する部分も数多くある。 以上のような現状に鑑みれば、日本と中国では、複数の者が 1 つの犯罪に関与する共犯 理論の関連規定および共犯実務の現状につき、共通点もあれば相違点もあるといえる。そ して、共犯現象(共同犯罪)が諸犯罪の中心となっている日中両国にとっては、従犯に対 し(必要的)減軽主義を採用している以上、共同正犯と従犯を区別(主犯と従犯の区別) するための理論的枠組みを提供することは、重要かつ大きな課題であるといえる。また、 グローバル化しつつある現代社会においては、比較法研究という観点からさらに議論を続 ける必要があるように思われる。しかし、共同正犯と従犯の区別理論に関して、従来の先 行研究は、日本現行刑法典に大きな影響を与えたドイツ刑法学を主たる研究対象としてお り、統一的正犯体系を採用したイタリア刑法やブラジル刑法12を検討対象とした研究が多数 を占め、中国刑法の分析はあまり行われてこなかった。したがって、主犯と従犯の区別を 重要な問題とする中国現行刑法が、共同正犯(共謀共同正犯を含む)と従犯の区別に関す る問題をどのように扱ってきたかという比較法的視点から、共同正犯と従犯の区別理論、 とりわけその具体的な判断基準を明らかにすることが必要であると考える。 以上のような問題意識に基づき、本稿は、まず、第一章で、共同正犯と従犯の区別に関 する日本判例の系譜を概観し、共同正犯と従犯の区別に関する基本的な理論構成に従い、 判例における共謀共同正犯理論の展開、判例における共犯関係の特殊事案の展開(実行行 為を行う従犯に関する判例、見張り行為に関する判例)につき、それぞれ詳細な検討を加 える。つぎに、第二章では、日本の学説における共同正犯と従犯の区別に関する議論につ き、①構成要件に該当する行為(実行行為)を行った者が正犯であり、それ以外の者が共 犯であるとする「形式的客観説」、②2 人以上の者が一定の犯罪を実現するという共同目的 を達成するために同心一体となる点に特徴がある「共同意思主体説」、③実行概念を規範 的・実質的に理解することで、共謀共同正犯を正当化すると同時にこれを限定し、行為支 配の有無および因果性の寄与度や役割の重要度などによって共同正犯と従犯を区別する 「実質的客観説」に大別し、日本の学説を詳細に概観し分析を加える。さらに、第三章で は、第一章と第二章の検討を踏まえたうえで、歴史的視角から、中国刑法における「主犯 と従犯の区別理論」に関して、従来どのような立法および議論が展開されてきたのか、そ の議論にいかなる問題が生じているのか、そして、そこから生じた問題が日本の議論とど のように関係しているのかという課題を設定し、中国の共同犯罪理論を概観し、若干の考 察を加える。最後に、第四章では、第三章での検討に基づき、中国の共同犯罪理論におい て、第一章で検討する日本の各事案は、どのように処理されているか、ここから、共同正 11 呉光俠『主犯論』(中国人民公安大学出版社・2007 年)307 頁。 12 高橋(則)・前出注(1)『共犯体系と共犯理論』1‐90 頁。

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犯と従犯の区別につき、いかなる示唆が得られるかについて検討を加え、そのうえで共同 正犯と従犯の区別に関し、新たな解決の糸口を得ようとする。そして、終章では、以上の 議論を総括すると共に、今後の課題と展望に言及する。

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第一章 日本の判例における共同正犯と従犯の区別

周知のように、複数人が犯罪に関与する場合、関与の形態や程度に応じてその取扱いを 区別する立法と区別しない立法とがあり、日本の刑法は、旧刑法制定当時から前者に立脚 している。1880 年の日本旧刑法は、フランス刑法に範をとりながらも、共犯の規定につい ては、ある重要な点で変更を加えた13。すなわち、旧刑法「第8章 数人共犯」という章に おいて、「正犯」(第1節)と「従犯」(第2節)が区別され、104 条で「二人以上現ニ罪ヲ 犯シタル者」が、105 条で「人ヲ教唆シテ重罪軽罪ヲ犯サシメタル者」が正犯とされ、109 条で「重罪軽罪ヲ犯スコトヲ知テ器具ヲ給与シ又ハ誘導指示シ其他予備ノ所為ヲ以テ正犯 ヲ幇助シ犯罪ヲ容易ナラシメタル者」が従犯とされた、という点がそれである。そして、「正 犯ノ刑ニ一等ヲ減ス但正犯現ニ行フ所ノ罪従犯ノ知ル所ヨリ重キ時ハ止タ其知ル所ノ罪ニ 照ラシ一等ヲ減ス」と定められ、従犯については、「一等ヲ減ス」という減軽規定が設けら れている点が注目される。この規定は、日本現行刑法典にも受け継がれ、現行刑法 63 条は、 「従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。」と規定している。このように、従犯について(必要 的)減軽を定めている立法からは、共同正犯と従犯で法定刑が異なる以上、当然に、両者 を区別しなければならない。したがって、旧刑法時代においても、現行刑法時代において も、正犯と共犯、特に共同正犯と従犯をどのように区別するかは、理論上、重要問題の1 つであるといえる。 この点に関し、かつての学説は、共同正犯について定める刑法 60 条を根拠としてこれを 区別しようとしていた。すなわち、犯罪を「実行」した者、つまり、犯罪の構成要件に該 当する行為を行った者が共同正犯であり、それ以外の者は、教唆や幇助にしかなりえない、 とするのである14 例えば、A と B が強盗を行った場合を考えてみよう。このとき、A が暴行を、B が財物奪 取を担当するとしよう。この場合、厳密には、A は暴行罪にあたる行為、B は窃盗罪にあた る行為しか行っていない。それにもかかわらず、両者に対して強盗罪の共同正犯が成立す るのは、A も B も、ともに強盗罪の共同正犯の成立要件たる「実行」行為の一部を行ってお り、いわゆる「一部実行全部責任」により、強盗の点について(共同)正犯となるからだ というのである。もっとも、判例は、このような理解に従っていたわけではない。すなわ ち、判例は、自ら実行行為を行ったわけではないが、他の共犯者が行った犯罪について共 同正犯を認める、いわゆる共謀共同正犯を肯定していたからである。これを受けて、学説 においても、この共謀共同正犯を根拠づける見解が主張され、共同正犯と従犯の区別につ いても、すべての条件は等価であるとしたうえで、行為者が自己のための行為を行うか、 それとも、他人のために加担する意思で行為を行うかによって区別する「主観説」と、行 13 島田聡一郎「共謀共同正犯論の現状と課題」川端博=浅田和茂=山口厚=井田良編『理 論刑法学の探究❸』(成文堂・2010 年)39‐40 頁。 14 小野清一郎『(新訂)刑法講義 総論』(有斐閣・1948 年)203 頁以下。

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9 為者が構成要件に該当する実行行為を行う者を正犯、そうでない者を共犯とする「形式的 客観説15」、犯罪の完成にとって重要な行為を行ったか否かによって区別する「実質的客観 説」などが主張されてきた16 また、複数人が犯罪に関与する共働現象につき、現実の実務における共犯者の約 98%が 共同正犯(共謀共同正犯を含む)として処理されている17。以下で詳しくみるように、判例 は、共謀共同正犯につき、すでに旧刑法からこれを認めており、実務上は定説となってい る。それでは、より具体的には、判例の立場はどのようなものであろうか。判例は、当初 の、知能犯に限って共謀共同正犯を肯定した態度から、共同意思主体説や間接正犯類似説 によって団体責任や個人責任から共謀共同正犯を認める立場を経て18、共謀に着目し、意思 連絡の有無から共謀共同正犯を認めようとする立場になり、共謀共同正犯を拡散させる傾 向になっていった。一方で、形式上、実行行為の一部に該当する行為を行った場合に対し て、判例は、共同実行の意思の存在が否定されれば、従犯の成立を認める傾向にあるとい える。 かくして、共同正犯と従犯の区別基準を考察するに際しては、共謀共同正犯を含め、共 同正犯と従犯に対する判例の発展・形成の軌跡を辿る必要がある。以下では、日本判例の 系譜を概観し、共同正犯と従犯を区別するそれぞれの基本的な理論構成に従い、判例上の 共謀共同正犯理論の展開と、共犯関係の特殊事案の展開、すなわち、実行行為を行う従犯 に関する判例と、見張り行為に関する判例について、詳細な検討を加えることにする。 第一節 判例における共謀共同正犯理論の展開 それでは、以下、具体的な事案をみていくことにしよう。 日本には、複数の者が共謀に基づいて 1 つの犯罪に関与する場合、一部の者のみ実行行 為に出たが、実行行為に出なかった関与者も存在する場合、この関与者も共同正犯となる とする理論、いわゆる共謀共同正犯理論がある。この理論は、一般に、判例から生まれた 理論であるといわれている。判例における共同正犯と従犯の区別を検討する際に、共同正 犯に関する議論は、共謀共同正犯を包摂するものでなければならず、むしろ、共謀共同正 15 団藤重光『刑法綱要総論 第 3 版』(創文社・1990 年)373 頁、福田平『全訂 刑法総論 〔第四版〕』(有斐閣・2004 年)249 頁、同『全訂 刑法総論〔第五版〕』(有斐閣・2011 年) 248 頁以下、大塚仁『刑法概説(総論)第 4 版』(有斐閣・2008 年)281 頁、川端博『刑法 総論講義 第 2 版』(成文堂・2006 年)515 頁。 16 川端博「幇助犯についての予備的考察」『神山敏雄先生古稀祝賀論文集 第一巻 過失犯 論・不作為犯論・共犯論』(成文堂・2006 年)541 頁。 17 昭和 27 年から平成 10 年までの統計上、複数の関与者がある場合の最終的処理人員は、 正犯(共同正犯、間接正犯を含む)が 97.9%、教唆犯が 0.2%、従犯が 1.9%とされている。 亀井・前出注(10)『正犯と共犯を区別するということ』6‐8 頁。 18 浅田和茂「共謀共同正犯(1)――練馬事件」別冊ジュリスト 189 号『刑法判例百選Ⅰ(総 論)〔第 6 版〕』(有斐閣・2008 年)152‐153 頁。

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10 犯に関する検討から、共同正犯に対する判例の立場が引き出されるといってもよい。そこ で、判例における共謀共同正犯理論を検討する必要があると思われる。 周知のとおり、共謀共同正犯理論に関する判例は、旧刑法時代の大審院にまで遡ること ができる。その時代から現在までの共謀共同正犯に関する判例は、数多くあり、ここでそ のすべてを詳しく考察することはできない19。もっとも、本稿は、共謀共同正犯の判例の流 れを概観することにより、共謀共同正犯論の問題点を明らかとしようとするものであって、 共謀共同正犯論を幅広く検討しようとするものではない。したがって、本節では、判例が 共謀共同正犯を認めた根拠に着目し、旧刑法時代、現行刑法下の大審院時代、および現行 刑法下の最高裁判例時代の 3 つの時期に分けて20、共謀共同正犯に関する典型な判例を概括 的に検討することにする。 一 旧刑法時代 まずは、旧刑法時代に、大審院が共謀共同正犯をはじめて肯定したと思われる判例か らみていこう。 1.大判明治 29 年 3 月 3 日刑録 2 輯 3 巻 10 頁 ――共謀者一体の行為とされ、共謀共同正犯を認めた事例(事例①) 1.1 事案の概要 被告人 A は、B および C と単衣の寸法に相違があると称し、被害者Xを恐喝し金員を騙し 取ろうと共謀し、被告人 A は、誰が何を演じるかなど、すべての具体的な実行方法を考え た。その後、B は、Xの店へ赴き、衣類の寸法に相違がある旨を伝え、金員を要求するに至 った。 19 共謀共同正犯に関する判例の経緯については、これを詳論する先行研究がある。例えば、 齊藤金作「共謀共同正犯」『総合判例研究業書刑法(2)』(有斐閣・1956 年)12 頁以下、同・ 前出注(1)『共犯判例と共犯立法』3‐6 頁、夏目文雄「『共謀共同正犯の理論』の批判的検 討(1)」愛知大学法経論集 53 号(1967 年)1 頁以下、下村康正『共謀共同正犯と共犯理論』 (学陽書房・1975 年)48‐82 頁、石田清史「共謀共同正犯の研究(1)」駒沢大学大学院公 法学研究 10 号(1983 年)57 頁以下、畢英達「『共謀共同正犯』に関する試論(一)――日 中両国の共犯理論に即して――」北大法学論集 46 巻 3 号(1995 年)547 頁以下、鄭澤善「共 謀共同正犯について――中国の共同犯罪論との比較研究――」中京法学 35 巻 2 号(2001 年) 59 頁以下、香川達夫「共同正犯の成立範囲」学習院大学法学会雑誌 46 巻 1 号(2010 年)3‐ 6 頁、松原芳博「共謀共同正犯の現在」法曹時報 63 巻 7 号(2011 年)1488‐1491 頁など参 照。 20 共謀共同正犯に関する判例の構成を考察するにあたり、齊藤金作博士は、ある種の犯罪 については、共謀共同正犯を認め、ある種のものにはこれを認めなかった期間(第 1 期)、 共謀共同正犯に関する判例が確立され最高裁判所の設立までの期間(第 2 期)、最高裁判 所設立以降の期間(第 3 期)に分ける(齊藤・前出注〔1〕3‐5 頁)。また、下村康正博士 は、判例を、第 1 期(旧刑法下のもの)、第 2 期(現行刑法下昭和 11 年 5 月 28 日までの もの)、第 3 期(昭和 11 年 5 月 28 日以後最高裁判所創設までのもの)、第 4 期(最高裁 判所創設以降)の 4 時期に分ける(下村・前出注〔19〕『共謀共同正犯と共犯理論』48‐ 82 頁)。

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11 1.2 判 旨 大審院は、以上のような事案について、「共ニ謀リテ事ヲ行フ以上ハ何人カ局ニ当ルモ 其行為ハ共謀者一躰ノ行為ニナラス」と判示し、被告人 A に共謀共同正犯を認めた。 1.3 分 析 これは、共謀共同正犯を認めた最初の判決であるといわれている21。本判決以前まで、大 審院は、窃盗罪に関して、「是ニ由テ之ヲ観レバ、現ニ犯所に臨マサル者ニシテ教唆犯ニ 非サルヨリハ、仮令犯罪ヲ共謀スルモ之ニ科スルニ正犯ノ刑ヲ以テスルコトヲ得サルヤナ リトス22」として、犯所に臨まない者は、共謀をしたとしても正犯ではないと判示していた。 本判決は、「共謀者一体」を被告人 A に認め、結果的に共謀共同正犯を認める根拠として いるようにみえるが、それがなおその唯一の根拠とされているかについては疑いがあった。 本判決以降、大審院は、次第に誣告罪23、文書偽造罪24につき、共謀共同正犯を認めると こととなり、それぞれ、共謀者が共謀によって一体となったことと、その犯行が共謀者一 体の行為であったことを要求していると解される。ただし、この時期において、あらゆる 犯罪類型についてまで共謀共同正犯を認めるのか否か、判例の立場はなお確定していなか ったと評価されている25 二 現行刑法下の大審院時代 以上のような旧刑法における大審院の立場は、現行刑法に入っても受け継がれていたと いえよう。 1.大判大正 11 年 4 月 18 日刑集 1 巻 233 頁。 ――恐喝罪の知能犯につき、犯罪の意思を遂行させた者に共同正犯を認めた事例(事例 ②) 1.1 事案の概要 埼玉朝日新聞社の社長である被告人は、部下の社員である A と共謀の上、熊谷清凉飮料 水株式會社專務取締役Xの遊蕩に関する記事を自分の経営する新聞紙に掲載することをも って、同人を恐喝して金員を収受しようと企てた。A は、大正 9 年 6 月 13 日に、埼玉縣熊 谷町某料理店でXと会見し、その趣旨に基づき、Xを恐喝して広告料の名義の下に金百圓 を要求し、結局五十圓の出金を承諾された。Xは、A に金三十圓を交付し、同月 23 日に、 被告人は、A からその金員を受け取った。 21 下村・前出注(19)『共謀共同正犯と共犯理論』52 頁。これに対して、本判決以前に、 すでに共謀共同正犯を認めた判例が存在することを主張する見解もある(桜木澄和「『共 謀共同正犯の理論』の批判的検討」法律時報 36 巻 1 号〔1964 年〕42 頁)。 22 大判明治 24 年 4 月 27 日刑録明 24 年 4~9 月分 45 頁。 23 大判明治 35 年 6 月 10 日新聞 94 号 26 頁参照。 24 大判明治 41 年 3 月 31 日刑録 14 輯 343 頁参照。 25 下村・前出注(19)『共謀共同正犯と共犯理論』51 頁。

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12 1.2 判 旨 大審院は、「共同正犯トハ犯罪ノ構成要件タル行為ノ全部又ハ一部ノ実行ニ加功シタル者 ノミヲ謂フニ非ス数人共同シテ犯罪ノ実行ヲ謀リ共謀者中ノ或者ヲシテ実行ノ任ニ当ラシ メ之ヲシテ他ノ者ニ代リ犯罪ノ意思ヲ遂行セシメタル者モ亦共同正犯ナリ」とし、被告人 に恐喝の共同正犯を認めた。 1.3 分 析 本判決は、現行刑法でも、大審院として共謀共同正犯を認める立場を示したものであ る。その理由付けに関しても、主に共謀者が他の共謀者に実行行為を実行させた点に依拠 し、精神的な加功の重要性を強調し、「犯罪の発意者26」である社長に恐喝罪の共謀共同正 犯を認めている。本判決は、大審院が恐喝罪に関する共謀共同正犯を認めたものであり、 他の犯罪類型においても認められるか否かは、当時、問題であったところ、虚偽告訴罪27 恐喝罪28、詐欺罪29などといった知能犯を中心に共謀共同正犯を認めるようになっていた。 そして、そこでは、この共謀共同正犯がいかなる根拠に基づいて認められるのかという点 にも言及されるようになっていった。 2.大判昭和 11 年 5 月 28 日刑集 15 巻 715 頁 ――「一心同体」(共同意思主体説)の論理で共同正犯を認めた大森銀行ギャング事件(事 例③) 2.1 事案の概要 共産党地下組織の資金部長の地位にある被告人 A は、昭和 7 年 10 月 4 日に部員である B と共謀し、東京市大森区にある川崎第百銀行大森支店に侵入し、同支店員を脅迫してその 行金を強奪しようと企て、同日午後、さらに他の党員を集まり、C が一切の責任者とし、D が実行担当の責任者となり、E、F を実行の担当者とする、という具体的な計画を立てた。 同月 6 日に、これらの者が計画どおりに実行した。 2.2 判 旨 大審院は、「共同正犯ノ本質ハ二人以上ノ者一心同體ノ如ク互ニ相倚リ相援ケテ各自ノ犯 意ヲ共同的ニ實現シ以テ特定ノ犯罪ヲ實行スルニ在リ共同者カ皆既成ノ事實ニ對シ全責任 ヲ負擔セサルヘカラサル理由茲ニ存ス」、「窃盗罪又ハ強盗罪ニ付テ其ノ謀議ニ与リタル者 ハ実行行為ヲ分担セサルモ共同正犯タル責ヲ負フヘキモノトス」と判示し、被告人に共同 正犯を認めた。 2.3 分 析30 26 松原(芳)・前出注(19)「共謀共同正犯の現在」1489 頁。 27 大判明治 43 年 5 月 19 日刑録 16 輯 888 頁。 28 大判明治 44 年 10 月 6 日刑録 17 輯 1622 頁、大判大正 5 年 8 月 24 日新聞 1172 号 32 頁。 29 大判大正 3 年 3 月 27 日新聞 936 号 27 頁。 30 本判決の評釈として、下村康正「共謀共同正犯」別冊ジュリスト 2 号(1965 年)156 頁、 同「窃盗罪又は強盗罪の謀議と共同正犯(判例要旨 大審院刑事判例)」法律時報 8 巻 12

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13 大審院は、次第に知能犯だけでなく、放火罪31、殺人罪32、強盗罪などの実力犯に関し ても、共謀共同正犯を認めるようになった。本判決は、現行刑法下においても、大審院が、 共謀共同正犯を全般的に採用すべき旨を宣明した画期的判決とされている33。また、判旨の なかには、共同意思主体説によって共謀共同正犯を根拠づけているのではないかと伺わせ る点もあり34、共同意思主体説を採用したうえで共謀共同正犯を肯定した判例の代表格であ ると評価されることもある35。もっとも、自己の犯意を実現したものとして共同正犯の責を 負う、ということから、(共同)正犯概念に関する主観説の見地から、「正犯者意思の実現」 によって共同正犯を認めたという面も有している、と評価されることもある36 三 現行刑法下の最高裁時代 以下では、現行刑法における最高裁の重要判例を扱うことにしよう。 (一)共同意思主体説を依拠した共謀共同正犯判例 まず、共同意思主体説に依拠していると思しき判例から検討していこう。 1.最判昭和 22 年 12 月 1 日最高裁判所裁判集刑事 1 号 155 頁 ――共謀関係に依拠し、共同正犯とされた事例(事例④) 1.1 事案の概要 被告人 A は、B、C、D 三名と共謀の上、強盗を行ったが、被告人 A は、その実行に全然参 加せず、自分の輩下の「チビ」と称する若者を参加させたにすぎず、しかも「チビ」なる 者は単に道案内をしたのみであった。 1.2 判 旨 この事案につき、最高裁は、被告人が共謀関係にある以上、本件強盗の共同正犯として の責任を免れることができないと判示した。 1.3 分 析 最高裁は、共謀共同正犯の成立について、被告人が強盗の共謀関係に加わった以上、強 盗の実行に全然参加せず、または、自分の輩下の若者を参加させたのみであったとしても、 強盗の共同正犯としての責任を免れることはできないと判断した。最高裁は、その具体的 号(1936 年)59 頁、木村亀二「共謀による共同正犯(活きている判例・43」)法学セミナ ー43 号(1959 年)48 頁など参照。 31 大判昭和 6 年 11 月 9 日刑集 10 巻 568 頁。 32 大判昭和 8 年 11 月 13 日刑集 12 巻 1997 頁。 33 下村・前出注(19)『共謀共同正犯と共犯理論』48 頁。 34 松原(芳)・前出注(19)「共謀共同正犯の現在」1490 頁。 35 小林充「共同正犯と狭義の共犯の区別」法曹時報 51 巻 8 号(1997 年)9 頁。 36 岩田誠「判解」『昭和 33 年度最高裁判所判例解説・刑事編』(法曹会・1959 年)404 頁、 内藤謙『刑法講義総論(下)Ⅱ』(有斐閣・2002 年)1369 頁、松原(芳)・前出注(19) 「共謀共同正犯の現在」1490 頁。

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14 な根拠を示さなかったが、「共謀関係にある以上」という理由で共謀共同正犯を認めている ことからすると、共謀をして一心同体となった以上は、その主体の行為全体に対して責任 を負うとする、共同意思主体説に親和的な判決と解することができ、また、実行に関与し ていなくともよいという意味で、共謀関係を先に挙げた判決よりも緩やかに解している。 それゆえ、本判決は、最高裁判所が、大審院と同様に、「共謀共同正犯」を認めた立場は不 変であり、確定的な立場ことを示したもの37として意義を有するといわれている。 2.最判昭和 23 年 1 月 15 日刑集 2 巻 1 号 4 頁 ――共同意思主体の理論で、数人が共同して強盗罪を犯した場合の判示方法を示した事 例(事例⑤) 2.1 事案の概要 被告人らは小遣銭に窮した結果、物品を盗み取ることを企て、次のように短期間内に同 種の強盗犯行を繰り返した。昭和 21 年 5 月に、被告人 A は被告人 B と共謀し、他人所有の 学生服 40 着を窃取した。同年 8 月に、A は被告人 C、D と共謀し、多数人の威力を示し、被 害者からタオル 500 枚などの物品を奪取した。同年 11 月に、被告人 A、E、F は共謀して威 力で他人から衣類などを奪い取った。同年同月に、被告人 A と E は、他の 2、3 名と共謀 し、学生服 40 着などの物品を窃取した。 2.2 判 旨 数人が共同して強盗罪を犯した場合につき、最高裁は、「凡そ共同正犯者が共同正犯者 として処罰せられる所以のものは、共犯者が、共同意思の下に一体となって、互に他人の 行為を使用して自己の意思を実行に移す点にあるのであるから、……その如何なる部分を 分担したかは、これを特に明示しなくとも、罪となるべき事実の判示として、間然とする ところはない。」と判示し、実行行為を行わなかった者も共同正犯とした。 2.3 分 析 本判決は、共謀共同正犯理論が最高裁によって明瞭に踏襲された最初の判決として評価 されている38。数人が共同して強盗罪を犯した場合の判示としては、判決文上、共謀の事実 を明確にしさえすれば、実行行為の際、各人が如何なる部分を分担したかを特に明示しな くてもよいとし、自己の意思の実現を強調すると共に、共同意思の下に一体となる一体性 も重視することになった。また、本判決は、「共同意思の下に一体となる」ことを前提とし ながら、共犯者の行為を相互的に利用し合う点を強調しているといえよう。 (二)謀議行為を為したか否かによる共謀共同正犯判例 もっとも、その後の判例における争点の中核は、共謀共同正犯の成否ではなく、より具 37 下村・前出注(19)『共謀共同正犯と共犯理論』70 頁、畢英達・前出注(19)「『共謀 共同正犯』に関する試論(一)」562 頁。 38 下村・前出注(19)『共謀共同正犯と共犯理論』48 頁。

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15 体的な、「共謀」や「謀議」の内容やその証明に移っていった。 1.最大判昭和 33 年 5 月 28 日判決39 刑集 12 巻 8 号 1718 頁 ――練馬事件(事例⑥) 1.1 事案の概要 昭和 26 年 11 月末頃、東京都練馬区の O 製紙株式会社東京工場では、労働組相(第 1 組 合)が賃金上げなどを要求して争議に入ったが、これに先立ち第 2 組合(P 委員長)が結成 され争議に反対したため、対立した。同時に、第 1 組合は、第 1 組合員が第 2 組合員を傷 害した事件を扱った Q 巡査にも反感を募らせていた。被告人 10 名のうち A、B、C、D は共 産党員、E は学生、F、I、H、J は第 1 組合所属の工員であった。A、B は、第 1 組合の反感 を利用して P、Q に暴行を加えることを企図し、その実行について、B が指導連絡すること を決めた。12 月 26 日よる、E、D、F、I は、氏名不詳者 2 名と共に H 方に集まり P に暴行 を加えることを協議した。P が所在不明だったため、B の連絡指示により、H、J 等も Q の襲 撃に加わることとし、さらに、C および G もこれに加わることになり、ここに、A~J は Q 暴行の順次共謀を遂げた。同夜 11 時頃、C~J の 8 名は、外数名と共に駐在所に赴き、行き 倒れ人があると詐って Q を路上に誘い出し、古鉄管・丸棒などで乱打したため、Q は、頭蓋 骨骨折等により現場で死亡した40 第 1 審41(東京地判昭和 28 年 4 月 14 日)は、以上のように事実認定に基づき、現場に臨 まなかった A、B も含めて、全員に傷害致死罪の共同正犯を認めた。第 2 審42(東京高判昭 和 28 年 12 月 26 日)は、被告人・検察側双方の控訴を棄却したため、被告人側が上告した。 1.2 判 旨 最高裁は、以下のような理由で上告を棄却した。すなわち、「いわゆる共謀共同正犯が 成立するには、2人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互い に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯 罪を実行した事実が存しなければならない。したがって右のような関係において共謀に参 加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自 己の手段として犯罪を行ったという意味において、その間刑責の成立に差異を生ずると解 すべき理由はない。さればこの関係において実行行為に直接関与したかどうか、その分担 または役割の如何は右共犯の刑責じたいの成立を左右するものではないと解するのを相当 とする」と判示した。また、「同一の犯罪について、数人の間に順次共謀が行われた場合 は、これらの者のすべての間に当該犯行の共謀が行われたものと解するのを相当とし、数 人の間に共謀共同正犯が成立するためには、その数人が同一場所に会し、その数人の間に 39 本事案を掲載したその他の文献として、裁判所時報 258 号 3 頁、判例時報 150 号 6 頁、 法律新聞 98 号 9 頁、最高裁判所裁判集刑事 125 号 583 頁など。 40 浅田・前出注(18)「共謀共同正犯」152 頁。 41 刑集 12 巻 8 号 1797 頁参照。 42 刑集 12 巻 8 号 1809 頁参照。

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16 1個の共謀の成立することを必要とするものではない。」とし、順次共謀に関しても、す べての者の間に共謀を認めた。 1.3 分 析43 本判決は、共謀共同正犯の理論内容を明確化したものであり、一心同体性に重点を置い た共同意思主体説(団体責任)によって説明する従来の判例の立場と一線を画し44、「他人 の行為をいわば自己の手段として犯罪を行った」という間接正犯類似の説明45により、個人 43 本判決の評釈として、横井大三「共犯の自白-最近の大法廷の判例を通じて」警察研究 29 巻 8 号(1958 年)3 頁、岩田誠「共謀共同正犯の要件および共犯者の自白と憲法第三八 条第三項-練馬事件の上告審判決」ジュリスト 160 号(1958 年)28 頁、伊達秋雄「共犯者 の自白と憲法第三十八条第三項」法律のひろば 12 巻 2 号(1959 年)52 頁、諸戸玉味「い わゆる共謀共同正犯の成立要件、実行行為に関与しない共謀者の刑責と憲法第三一条、数 人間の順次の共謀と共謀共同正犯の成立」法学雑誌 5 巻 4 号(1959 年)133 頁、平野龍一 「共犯者の自白」ジュリスト 200 号(1960 年)186 号、安平政吉「数人間の順次共謀と共 謀共同正犯の成立」青山法学論集 6 巻 1 号(1964 年)75 頁、江藤孝「共謀共同正犯におけ る間接正犯類似の理論構成」名城法学 16 巻 1=2 号(1966 年)170 頁、岡野光雄「共謀共 同正犯」法学セミナー264 号(1977 年)62 頁、矢野光邦「共犯者の自白」研修 372 号(1979 年)103 頁、横山晃一郎「共犯者の自白」別冊ジュリスト 1 号(1965 年)128 頁、藤木英雄 「共謀共同正犯における共謀と、罪となるべき事実、共謀の判示方法」別冊ジュリスト1 号(1965 年)138 頁、小暮得雄「共謀共同正犯の意義」別冊ジュリスト 111 号(1991 年) 154 頁、同「共謀共同正犯の意義」別冊ジュリスト 142 号(1997 年)150 頁、下村康正「共 謀共同正犯(練馬事件)――いわゆる共謀共同正犯の成立要件、実行行為に関与しない共 謀者の刑責と憲法第三一条――」ジュリスト増刊(刑法の判例)(1967 年)111 頁、同「共 謀共同正犯(練馬事件)――いわゆる共謀共同正犯の成立要件、実行行為に関与しない共 謀者の刑責と憲法三一条――」ジュリスト増刊『刑法の判例〔第二版〕』(1973 年)120 頁、平野龍一「共犯者の自白」別冊ジュリスト 2 号(1965 年)194 頁、庭山英雄「共犯者 又は共同被告人の自白」別冊ジュリスト 21 号(1968 年)122 頁、藤木英雄「共謀共同正犯」 別冊ジュリスト 27 号(1970 年)90 頁、横山晃一郎「共犯者の自白」別冊ジュリスト 32 号 (1971 年)184 頁、藤木英雄「共謀共同正犯における共謀と罪となるべき事実、共謀の判 示方法」別冊ジュリスト 32 号(1971 年)196 頁、庭山英雄「共犯者又は共同被告人の自白」 別冊ジュリスト 44 号(1974 年)160 頁、横山晃一郎「共犯者の自白」別冊ジュリスト 51 号(1976 年)200 頁、藤木英雄「共謀共同正犯における共謀と罪となるべき事実、共謀の 判示方法」別冊ジュリスト 51 号(1976 年)208 頁、同「共謀共同正犯」別冊ジュリスト 57 号(1978 年)172 頁、庭山英雄「共犯者又は共同被告人の自白」別冊ジュリスト 68 号(1980 年)194 頁、同「共犯者又は共同被告人の自白」ジュリスト 95 号(1988 年)246 頁、藤木 英雄「共謀共同正犯」ジュリスト 82 号(1984 年)158 頁、同「罪となるべき事実」別冊ジ ュリスト 119 号(1992 年)244 頁、同「罪となるべき事実」別冊ジュリスト 148 号(1998 年)230 頁、同「罪となるべき事実」別冊ジュリスト 89 号(1986 年)294 頁、藤木英雄「共 謀共同正犯」『刑法判例百選』ジュリスト臨時増刊 307‐2 号(1964 年)80 頁、鈴木義男 「共謀共同正犯における『共謀』と『罪となるべき事実』(最近の判例から)」法学セミ ナー45 号(1959 年)74 頁、浅田・前出注(18)「共謀共同正犯」152 頁、川端博「共謀共 同正犯の意義」『刑法判例百選1(第5版)』(2002 年)別冊ジュリスト 166 号 148 頁な どがある。 44 本判決を、依然、共同意思主体説に拠ったとする見解もある。例えば、下村康正「批判」 『刑法の判例(第 2 版)』(有斐閣・1973 年)123 頁以下、同・前出注(43)「共謀共同正 犯(練馬事件)」123‐124 頁、岡野・前出注(43)「共謀共同正犯」64 頁。 45 本判例に対して、共謀共同正犯における共謀とそれへの参加の重要性を強調している点 からみて、共謀参画説の立場に親和的なものと理解する見解もある。小林・前出注(35)

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17 責任の原理を根拠づけとする斬新な視角を図ったものとして、評価されるべきである。 一方、本判決は、「『共謀』または『謀議』は、共謀共同正犯における『罪となるべき 事実』にほかならず、これを認めるためには厳格な証明によらなければならない」として いる。また、その共謀の事実に対して、「謀議の行われた日時、場所またはその内容の詳 細、すなわち、実行の方法、各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示する ことを要するものではない。」としている。したがって、本判決は、共謀共同正犯が成立 するには、「共謀」が成立する事実を重視した。言い換えれば、本件においては、「謀議 行為」への参加を不可欠とする客観的謀議説が採用されたのである46。しかし、「共謀」を 認めることにつき、従来の判例より厳格に解したところに、本決定の特色があるといえよ う。 また、本判決が与えた、学説への影響も看過することができない。すなわち、本判決の 個人主義的な共謀共同正犯の基礎づけは、学説による共謀共同正犯の受容を促進する原動 力となった47。また、本判決をきっかけとして、間接正犯類似説48、行為支配説49、優越支配 共同正犯説50などのような、共謀共同正犯を肯定しながら、一定の範囲に制限しようとする 一連の学説が主張されることになっていったのである。 なお、本判決は、順次共謀をはじめて最高裁として肯定した判決であるとも評価されて いるが(それ以前に、大判大正 12 年 6 月 5 日刑集 2 巻 490 頁は、詐欺罪における順次共謀 を問題とした。)、順次共謀は本稿の射程範囲を超えてしまうため、その検討は別の機会 に論ずることにする。 2.最決昭和 57 年 7 月 16 日51刑集 36 巻 6 号 695 頁 ――謀議を遂げたことを認め、資金提供の行為を共同正犯とした大麻密輸入事件(事例 ⑦) 2.1 事案の概要 被告人は、大麻の密輸入を計画した甲からその実行担当者になって欲しい旨頼まれたが、 大麻を入手したい欲求にかられ、執行猶予中の身であることを理由にこれを断ったものの、 知人の丙に対し事情を明かして協力を求め、同人を自己の身代りとして甲に引き合わせる と共に、密輸入した大麻の一部をもらい受ける約束の下にその資金の一部を甲に提供した。 「共同正犯と狭義の共犯の区別」11 頁。 46 岩田・前出注(36)「判解」405 頁。 47 松原(芳)・前出注(19)「共謀共同正犯の現在」1490 頁。 48 藤木英雄『可罰的違法性の理論』(1967・有信堂)334 頁、川端博「共謀共同正犯の基礎 付けと成立要件」板倉宏博士古稀祝賀『現代社会型犯罪の諸問題』(勁草書房・2004 年)334 頁。 49 平場安治『刑法総論講義』(有信堂・1952 年)157 頁。 50 大塚・前出注(15)『刑法概説総論』307 頁。 51 本事案を掲載した他の文献として、裁判所時報 844 号 1 頁、判例時報 1052 号 152 頁、判 例タイムズ 477 号 100 頁、最高裁判所裁判集刑事 228 号 199 頁など。

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18 そいて、甲と丙は、タイ国に渡航し、大麻を密輸入した。 第 1 審(大阪地判昭 56 年 4 月 15 日52)および原審(大阪高判昭 56 年 9 月 17 日53)は、 被告人に大麻密輸入罪および関税法違反の共謀共同正犯を認めた。これに対して、弁護側 は、被告人の行為が、実行行為の分担ではなく、正犯の行為を助け、資金提供という物質 的援助の方法をもってその実現を容易ならしめた有形的幇助であり、従犯の意義に関する 最判昭和 24 年 10 月 1 日54および同種の事案に関して従犯の成立を認めた大審院諸判例に反 するとして上告し、被告人は従犯であって(共謀)共同正犯ではない旨を主張した。 2.2 決定の要旨 本決定は、「これらの行為を通じ被告人乙は、甲及び丙らと本件大麻密輸入の謀議を遂 げたものと認めた原判断は、正当である。」と判示し、弁護人の上告を棄却した。 2.3 分 析55 本件では、被告人の罪責が共同正犯か幇助犯かについて争われたが、本決定は、具体的 な理由を示さなかったものの、共謀を「罪となるべき事実」として、重視された数人が共 同して強盗罪を犯した場合の事例⑤と、事例⑥の練馬事件判決と同様に、「謀議」を遂げ たことにより、実行行為を分担しなかった者も共同正犯とする、という論理を採用した56 そして、ここで留意すべきは、最高裁が是認した、原審の「『謀議』を遂げた」と認めた 事情には、被告人自身が大麻を入手したいと考えていることと、輸入した大麻の一部をも らい受ける約束したこと、つまり、それを自分のためにしたのであることも考慮した、と いう点である57。すなわち、本件で取り扱われた「謀議」とは、純粋に客観的な行為とはい 52 刑集 36 巻 6 号 705 頁参照。 53 刑集 36 巻 6 号 707 頁参照。 54 刑集 3 巻 10 号 1629 頁。 55 本決定の評釈として、中野次雄「共謀共同正犯にあたるとされた事例」警察研究 56 巻 1 号(1985 年)70 頁、西田典之「大麻密輸入の謀議を遂げたものと認められた事例」法学教 室 29 号(1983 年)132 頁、香川達夫「大麻密輸入の謀議を遂げたものとされた事例」判例 時報 1064 号(1983 年)205 頁、木谷明「大麻密輸入の謀議を遂げたものとされた事例」法 曹時報 35 巻 5 号(1983 年)144 頁、同「大麻密輸入の謀議を遂げたものとされた事例」ジ ュリスト 778 号(1982 年)70 頁、大野平吉「共同正犯と幇助犯(2)」法律時報 54 巻 11 号(1982 年)171 頁、同・別冊ジュリスト 142 号(1997 年)154 頁、大越義久「共謀共同 正犯の成立が認められた事例(特集 一九八三年主要判例解説 刑法)」法学セミナー351 号(1984 年)61 頁、岡上雅美「共同正犯と幇助犯(2)」別冊ジュリスト 189 号『刑法判 例百選1(第6版)』(有斐閣・2008 年)158 頁、酒井安行「共同正犯と幇助犯(2)」 別冊ジュリスト 166 号『刑法判例百選Ⅰ(総論)〔第5版〕』(有斐閣・2003 年)152 頁、 前田雅英「共謀の認定(警察官のための刑事基本判例講座 11)」警察学論集 63 巻 8 号(2010 年)149 頁。 56 本件において、謀議に参加することの利害やその間の経緯等を具体的に認定している点 からみて、単に謀議に参加したというだけで共謀共同正犯の成立を認めるべきではなく、 謀議参加の態様や積極性の有無等を総合してその成否を決すべきである、と解されなくも ない(木谷明「昭和 57 年度重要判例解説」〔1983 年〕229 頁)。 57 この点は、ある犯罪がこれに関与した者にとって、「自己の犯罪」であるか「他人の犯罪」 であるかについても、「自己」と「他人」を区別する客観的要件の方針を示したものである。 これにつては、松本時夫「共同正犯――幇助との区別――」芝原邦爾編『刑法の基本判例・

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19 えないのであり58、そこには主観的要素も含まれているといえよう。 また、本決定においては、もともと共謀共同正犯を肯定した判例に対し、強い否定的態 度をとっていた59団藤重光裁判官の補足意見もあった。すなわち、「共同正犯についての刑 法六〇条は、改めて考えてみると、一定の限度において共謀共同正犯を認める解釈上の余 地が充分にあるようにおもわれる。そうだとすれば、むしろ、共謀共同正犯を正当な限度 において是認すると共に、その適用が行きすぎにならないように引き締めて行くことこそ が、われわれのとるべき途ではないかと考える。」という意見がそれである。したがって、 実務上、共謀共同正犯理論がすでに定着しているものの、「共謀」を認定する際に、共謀 共同正犯をさらに限定しようとする声も高まっている。本決定は、練馬事件判決(事例⑥) を前提とするものであるが、被告人の意思内容や具体的に果たした役割の認定に立脚して 謀議の成立を肯定した点で、学説の主張する実質的実行共同正犯論に一歩近づいたと評価 することもできよう60 3.最判昭和 34 年 8 月 10 日 61刑集 13 巻 9 号 1419 頁 ――謀議の存在に疑いがあり、共同正犯を否定した事例(松川事件、事例⑧) 3.1 事案の概要 旧国鉄および A 電気会社の労組員である被告人らが、当時、政府が進めていた行政整理 政策に対する報復及び国鉄荒廃についての宣伝の裏づけをすること等を目的として、国鉄 側で列車顛覆を企図して A 電気会社の労組員を引入れ、順次共謀の上、昭和 24 年 8 月 17 日午前、東北本線の松川駅付近で列車を顛覆させ、乗務員らを死亡させた。 第 1 審は、本件は共謀に基づく共同正犯の起訴であるから、共謀の事実とそれに基づく 実行のあったことさえ記載されれば、起訴状の記載としては欠くところがないのであって、 必ずしも誰と誰が何時、何処で謀議を為し、誰が実行を為したかについて具体的に記載を 為す必要はないと解するのが相当であるなどとして、被告人 20 名全員に有罪とした。第 2 審は、第 1 審判決には一部事実誤認があるとされ、それを破棄し、被告人 20 名のうち、3 名に無罪、17 名に有罪判決を下した。 3.2 判 旨 最高裁は、「共謀共同正犯における共謀または謀議は罪となるべき事実であって、その 認定は厳格な証明によるべきものであることは、前記のように、当裁判所の判例とすると ころであり、また当裁判所としては、既に調べた如く、諏訪メモなどを公判に顕出したに 基本判例シリーズ』別冊法学教室(有斐閣・1988 年)365‐367 頁、同「共謀共同正犯と判 例・実務」刑法雑誌 31 巻 3 号(1990 年)321 頁。 58 前田・前出注(55)「共謀の認定」155 頁。 59 団藤・前出注(15)『刑法綱要総論(第三版)』373 頁以下。 60 西田・前出注(55)133 頁。 61 本件を掲載した他の文献としては、判例時報 194 号 10 頁、裁判所時報 285 号 1 頁、判例 タイムズ 95 号 1 頁、最高裁判所裁判集刑事 131 号 39 頁など。

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20 止り、何ら事実審におけるが如き事実の取調はしなかったのであるから」、「原判決がそ の挙示するような証拠によって謀議の存在を肯定したことには疑問があり、結局本謀議に 関する証拠は極めて薄弱であるといわざるを得ない」として、被告人らを有罪とした原判 決を破棄し、本件を原審に差し戻した。 3.3 分 析62 本判決は、練馬事件判決(事例⑥)が判示したように、実行行為に関与しなかった者に 関する限り、「共謀」または「謀議」の事実は、他の共謀者が実行行為をした事実と共に、 「『罪となるべき事実』にほかならないから、これを認めるためには厳格な証明によらな ければならないこと」63を要求する。すなわち、共謀共同正犯が成立するためには、単に「共 謀の上」と記載するだけで足りず、「罪となるべき事実」としての「共謀」となる内容を 明らかに証明する必要がある。しかし、原判決が挙げるような証拠によって謀議の存在を 肯定したことには疑問がある。このことによって、本件においては、共謀共同正犯の成立 に不可欠となる「謀議の存在」を否定し64、共謀共同正犯が成立しないことになった。 (三)黙示の意思連絡ないし黙示の共謀に関する共謀共同正犯判例 その後、最高裁で問題とされたのは、謀議行為が、明らかに明示的に行われた場合では なく、黙示的に、ないし、黙示の意思連絡が問題となった事案であった。以下では、それ らに関する典型的な事例を検討していこう。 1.最決平成 15 年 5 月 1 日65刑集 57 巻 5 号 507 頁 ――「黙示の意思連絡」を肯定し、共謀共同正犯とされた事例(スワット事件、事例⑨) 1.1 事案の概要 62 本判決に対する評釈として、井上正治「松川事件――破棄差戻判決の拘束力(続判例百 選 第二版)」別冊ジュリスト 3 号(1959 年)188 頁、竜岡資久「一、上告審で提出命令が 出せるか 二、上告審における証拠物の取調方法 三、上告審で取り調べた証拠物はどの 程度に判断の資料となし得るか 四、共謀共同正犯における共謀または謀議は罪となるべ き事実か 五、事実誤認を疑うに足りる顕著な事由がある場合と刑訴第四一一条第三号に よる原判決の破棄」裁判所判例解説刑事篇・昭和 34 年度(1959 年)312 頁、鈴木・前出注 (43)「共謀共同正犯における『共謀』と『罪となるべき事実』」法学セミナー45 号(1959 年)74 頁、鴨良弼「松川事件判決の問題点:公判経過と争点を中心に」法学セミナー67 号 (1961 年)7 頁、伊部正之「松川事件:検察の犯罪〈特集/検察の実態と病理:真の検察 改革を実現するために〉」法と民主主義 454 号(2010 年)22 頁。 63 鈴木・前出注(43)「共謀共同正犯における『共謀』と『罪となるべき事実』」74 頁。 64 本件に対して、謀議の存在に疑いが生じたことによって、意思連絡、さらには被告人ら によって列車転覆行為が行われた事実にすら疑いが乗じる事案であったため、客観的謀議 説でなくとも、無罪とされるべきであってことなどを理由に、判例は、謀議行為への参加 を共謀共同正犯の成立に不可欠としているわけではない理解も存在したという見解もある (藤木英雄「可罰的違法性の理論」法学協会雑誌 83 巻 7=8 合併号〔1966 年〕66‐102 頁、 同・前出注(43)『可罰的違法性の理論』334 頁以下参照)。 65 本事案を掲載した他の文献として、裁判所時報 1339 号 1 頁、判例時報 1832 号 174 頁、 判例タイムズ 1131 号 111 頁、最高裁判所裁判集刑事 284 号 71 頁などがある。

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21 被告人は、兵庫、大阪を本拠地とする3代目P組組長兼5代目Q組若頭補佐の地位にあ り、配下に総勢約3,100名余りの組員を抱えていた。P組には、被告人を専属で警護するス ワットという名称のボディーガードが複数名おり、スワットは、襲撃してきた相手に対抗 できるように、けん銃等の装備を持ち、被告人Xが外出して帰宅するまで終始被告人と行 動を共にし、警護する役割を担っていた。被告人は、スワットらを帯同して上京すること も多く、被告人の接待等をする責任者はP組R 会会長のA(以下「A」という。)は、被 告人が上京する旨の連絡を受けると、車5、6台で羽田空港に被告人を迎えに行き、Aの指 示の下に、被告人を警護しつつ一団となって移動するのを常としていた。 同年12月下旬ころ、被告人は、遊興等の目的で上京することを決め、これをP組組長秘 書見習いBに伝え、Bは、スワットのCに上京を命じ、Cと相談の上、これまで3名であ ったスワットを4名とし、被告人には組長秘書ら2名とP組本部のスワット4名が随行す ることになった。この上京に際し、同スワットらは、同年8月28日にQ組若頭兼宅見T 組長F が殺害される事件があったことから、被告人に対する襲撃を懸念していたが、P組 の地元である兵庫や大阪などでは、警察の警備も厳しく、けん銃を携行して上京するのは 危険と考え、被告人を防御するためのけん銃等は東京側で準備してもらうこととし、大阪 からは被告人用の防弾盾を持参することにした。そこで、Bから被告人の上京について連 絡を受けたAは、 D( Aの実兄)らにけん銃等の用意をも含む一切の準備をするようにと いう趣旨の依頼をした。また、Cも、別ルートでけん銃等の用意をDに伝えた。Dは、Eと 共に、本件けん銃5丁を用意して実包を装てんするなどして、スワットらに渡すための準 備を調えた。 同年12月25日、被告人がBやCらと共に羽田空港に到着すると、これをAらと、先に 新幹線で上京していたスワット3名が5台の車を用意して出迎えた。被告人車のすぐ後ろ にスワット車が続くなどの隊列を組んで移動しはじめ、最初に立ち寄った店を出るころか らは、次のような態勢となった。先乗り車には、P組本部のスワット1名と同組兼昭会のス ワット1名が、各自実包の装てんされたけん銃1丁を携帯して乗車した。先導車には、Aら が乗車した。被告人車には、被告人のほかB らが乗車し、被告人は前記防弾盾が置かれた 後部座席に座った。スワット車には、P組本部のスワット3名が、各自実包の装てんされた けん銃1丁を携帯して乗車した。雑用車は、当初1台で、途中から2台に増えたが、これ らに東京側の組関係者が乗車した。そして、被告人らは、先乗り車が他の車より少し先に 次の目的場所に向かうときのほかは、この車列を崩すことなく、一体となって都内を移動 していた。また、遊興先の店付近に到着して、被告人が車と店の間を行き来する際には、 被告人の直近を組長秘書らがガードし、その外側を本件けん銃等を携帯するスワットらが 警戒しながら一団となって移動し、店内では、組長秘書らが不審な者がいないか確認する などして警戒し、店外では、その出入口付近で、本件けん銃等を携帯するスワットらが警 戒して待機していた。 翌26日午前4時すぎころ、最後の遊興先の飲食店を出て宿泊先に向かうことになり、そ

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