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Erekutoronikusu sangyo ni okeru kyoso genri no kaimei to sono oyo : kigyo hani sentaku no juyosei

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(1)Title Sub Title Author Publisher Publication year Jtitle Abstract Notes Genre URL. Powered by TCPDF (www.tcpdf.org). エレクトロニクス産業における競争原理の解明とその応用 : 企業範囲選択の重要性 寺澤, 敦史(Terasawa, Atsushi) 小幡, 績(Obata, Seki) 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 2014. Thesis or Dissertation http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=KO40003001-00002014 -2973.

(2) 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程 学位論文( 2014 年度) 論文題名 . エレクトロニクス産業における競争原理の解明とその応用 −企業範囲選択の重要性− . 主 査 . 小幡 績 准教授 . 副 査 . 齋藤 卓爾 准教授 . 副 査 . 高橋 太志 教授 . 副 査 . . 学籍番号 81330892 . 氏 名 . 寺澤 敦史 .

(3) 論 文 要 旨 . 所属ゼミ. 小幡績. 研究会. 学籍番号. 81330892. 氏名. 寺澤 敦史. (論文題名) エレクトロニクス産業における競争原理の解明とその応用. ー企業範囲選択の重要性ー. (内容の要旨) 2000年代後半以降のエレクトロニクス関連産業での、日本企業の不振を考察し、そこで得られた知見を他産業へと 応用することが本論文の主題である。考察に前提となる「プラットフォーム・リーダーシップ」と「製品アーキテク チャ理論」の導入を行った上で、日本企業に対比できる成功事例を考察する。 PC産業での成功事例として、PCのアーキテクチャを意図的に変革し、「モジュール化」を進行させたインテルが存 在する。インテルは、マイクロプロセッサという自領域に価値を集約し、自らの製品を基幹として成立するプラット フォームを成立させ、自らをそのリーダーに位置づけた。薄型テレビ・スマートフォン市場の成功事例として、サム スンが挙げられる。サムスンは「リバース・エンジニアリング」といわれる、先進した企業の製品を分解・再構成す る手法をとっていた。モジュール化の進行が進むほど、分解・再構成は容易となり、先進して製品を開発する日本企 業の「フォワード・エンジニアリング」に対する優位性を高まっていた。 その上で、成功事例の解釈に有用な、「分業関係の3分類」を提示する。(1)完成品の分業 (2)半製品の分業 (3)バリ ューチェーンのフェイズごとの分業 の3つである。補完関係に基づいて行われる多様な分業はこの3つに大きく大別 できる。この視座に基づき、日本企業の不振の原因を企業範囲の選択に失敗した点に求めた。インテルは、分業を推 進し易い環境に転化させ、プラットフォーム・リーダーシップを発揮した。その単一のプラットフォームの中で、日 本企業は対抗することも、内部に入り込むことも出来なかった。サムスンには、開発フェイズをフリーライドする“分 業”を実行された。 他産業の事例として、ウォルマートを提示する。ウォルマートの部門管理手法は、顧客のニーズを満たす品揃えを 標準部門という準分離可能な単位に分解・整理する技法である。その結果、標準部門の設計とその組立てを、本部と 店舗がそれぞれ分業する体制が可能になっている。これはバリューチェーンのフェイズごとの分業に近い。また、部 門管理による分業は、プラッットフォーム・リーダーシップと類似する。各店舗では得られた膨大なPOSデータは、 本部に集積され、更なる精度の高い標準部門の設計に役立てられる。すると、その精度の高い標準部門の利用を目的 とした更なる店舗の拡大(フランチャイズの拡大)が起きる。その結果、より多くの情報が収集され、標準部門の精 度とその価値は高まる。つまり、部門の組立てとPOS情報の入手を担う無数の店舗が、部門管理の質と価値を累積的 に増大させたのである。 最後に、無限の文脈を持つ現実の社会事象においては、ある企業の分業のディメンションの捉え方もまた無限に広 がる点を指摘する。そして「どの分業の軸を抽出し、その軸の中でどれだけの領域までを統合するか」を経営目的と そのための戦略に沿うように、その都度丹念に決定していくことの重要性を主張する。. 2.

(4) 目次 序章 . 問題意識と研究目的. P4. 1 章 . エレクトロニクス産業の競争原理の解明. P5. 1-1 . 概念の導入. P6. . プラットフォーム・リーダーシップ. P6. 製品アーキテクチャ理論. P7. 事例. P11. インテルの事例. P11. サムスンの事例. P18. 解釈. P22. 分業の 3 類型. P21. 日本企業の不振. P24. 2 章 . 洞察の応用と拡大. P26. 2-1. 事例. P27. ウォルマートの事例. P27. 解釈. P29. 1-2 . 1-3. 2-2. ウォルマートの分業. 終章. P29. 分業の捉え方. P31. 経路依存性による制限. P32. 企業体の枠組み. P33. 生存可能な戦略ポジション. P34. 参考文献. P35. 謝辞. P36. . 3.

(5) 序章 問題意識と研究目的 2000 年代後半以降のエレクトロニクス関連産業において、極端な不振に陥る 日本企業の事例が散見される。パナソニック社は 2012 年から 2 期連続で 7000 億円以上の赤字を計上し、ソニー社は業績悪化に伴って、パソコン事業の売却 とテレビ事業の子会社化に踏み切った。ルネサスエレクトロニクスは、多額の 損失を計上し、大幅な人員削減に踏み切った。 では、こうした企業の業績が悪化した本質的な理由は何であろうか。この問 の追究がなされずに、“メイドインジャパン”の象徴的存在であった企業群の 復調を安易に期待すべきでない。 本稿では、この問いを起点として、エレクトロニクス産業において働いた競 争原理の解明を試みる。そして、それらのインプリケーションを他産業へと拡 大することを図る。 . 4.

(6) 1 章 エレクトロニクス産業の競争原理の解明 エレクトロニクス産業において日本企業の業績が悪化したな理由は何であろ うか。この問いを起点として、エレクトロニクス産業において働いた競争原理 の解明を試みる。 . 5.

(7) . 1-1 概念の導入 1 章1節では、エレクトロニクス産業における日本企業の不振を考察する上で 重要な概念を、先行研究から二つ導入する。即ち、 「プラットフォーム・リーダ ーシップ理論」と「製品アーキテクチャ理論」である。. □ プラットフォーム・リーダーシップ *1まず、プラットフォーム・リーダーシップ理論の簡便な導入を行う。ガワ. ー・クスマノ(2005)によれば、プラットフォーム・リーダーシップとは、 「プラットフォームのコア製品を握り、それに基づいて他者が作る補完製 品・サービスがもたらすイノベーションを享受する」戦略の総称である。プ ラットフォーム内の補完製品の数量、種類の増加によって、コア製品の付加 価値は累積的に増大していく。例えば、アップル社製品と i-Tunes 内の構成 サービスの関係はその典型である。他社の担う i-Tunes 内の楽曲・アプリの 質と量の増大は、当然 i-Phone や MacBook の価値を増大させる。 図 1:プラットフォーム・リーダーシップのイメージ. 1更なる詳述は. 1 章 2 項でのインテルの事例に譲る。. 6.

(8) 他にも、ガワー・クスマノ(2005)はマイクロソフトの OS Windows を例示し ている。 コア製品がウィンドウズ OS であるマイクロソフトにとって、補完製品としての膨大な数量 と種類のウィンドウズ対応ソフトウェア・アプリケーションは、恵みとなる。(中略)補完製品 を使用する人が増えれば増える程、より多くの補完製品を市場投入しようとする補完業者のイ ンセンティブはますます高まり、そのことによって、ますます多くの人たちがコア製品を購入 し使用するように刺激され、さらにイノベーションが刺激され、と続いていく。. . □ 製品アーキテクチャ理論 次に、製品アーキテクチャ理論を導入する。 <アーキテクチャのモジュール化> 製品アーキテクチャとは、 「製品の機能要素を構造物(部品)にどのように対 応していくか、それらの構成要素間の相互依存関係をどのように設定するかに 関する設計思想」(Ulrich,1995 藤本,2001)である。アーキテクチャは「モジュラー・ アーキテクチャ」と「インテグラル・アーキテクチャ」に大別され、インテグ. 7.

(9) ラル・アーキテクチャはモジュラー性を獲得していくプロセス(モジュール化) の中で、モジュラー・アーキテクチャへと変化していく。 (具,2008)このモジュ ール化という変化プロセスの本質はどのようにシステムの複雑性を軽減してい くかである(具,2008)。システム全体の相互依存性が生じさせる複雑性は、構成 要素(部品)を準分離可能な(Simon,1969)単位にまとめ、構成要素間の関係 をルール化することによって、軽減することが可能となる。このように、部品 モジュール間の機能的な相互依存性を低減できれば、部品と部品を連結するイ ンターフェース部分を簡素化できる。そのインターフェース・ルールを特定企 業の社内(クローズド環境)あるいは業界内で事前に標準化できれば(オープ ン環境) 、組織間のコーディネションコストの削減とともに、異なる部品の寄せ 集めによって機能的に意味のある製品を構成することが可能になる。各モジュ ールが独立して機能を果たすことになり、製品に求められる諸機能のそれぞれ を各モジュールが一対一対応の形で担うようになる。 以下に、図を用いた簡便な説明を行う。例えば、機能 1 と機能2を満たすこ とで成立する製品がある。インテグラル・アーキテクチャの場合、部品 A と B はそれぞれ単独では機能を果たせず、固有のインターフェースで結合してはじ めて二つの機能を果たす。逆に、モジュラー・アーキテクチャの場合、製品は、 モジュール A とモジュール B によって構成され、両者を繋ぐインターフェース は標準化されている。即ち、標準化されたインターフェースに対応可能な他の モジュール D との互換性を持つ。そして、をモジュール A が機能1を、モジュ ール B が機能2を、それぞれ一対一対応で果たす。 図 2: 製品アーキテクチャ理論の概略 . (筆者作成) . 8.

(10) <分業の促進> 製品アーキテクチャの変化(モジュール化プロセス)の重要なポイントは、 各モジュールが企業の枠を跨いで生産され、標準化されたインターフェース・ ルールに基づいて簡便にコーディネートするという分業が促進される点である。 前述のように各モジュールが独立して機能を果たすことにより、製品に求め られる諸機能のそれぞれを各モジュールがより一対一対応の形で担うようにな る結果である。Chesbrough and Teece(1996)は、モジュラー・アーキテクチ ャに対してはモジュラー型の組織形態が、インテグラル・アーキテクチャに対 してはインテグラルな(統合的)組織形態が適格であると主張し、組織との適 合関係を説明した。Morris and Ferguson(1996)は、製品アーキテクチャ変化 による優位性を維持・発展させるためには、組織内部やサプライヤーのように 製品開発に関わる他企業との関係が製品アーキテクチャに適合する必要がある と主張した。また、Baldwin and Clark(2000) は,モジュール化の進展は, 巨大な垂直統合型企業の優位性を喪失させ,産業構造を水平分業型へと変化さ せると主張した。Baldwin らは,モジュール化が進行すると,デザイン・ルー ルを遵守している限り,構成要素の「交換」が極めて容易となり,ある特定の 構成要素に特化した事業を行う企業群が誕生することで,産業内の水平分業化 が促進されるのである。そのため,個々の構成要素ごとに専門企業群が集積し, その分野ごとに迅速かつ多様なイノベーションが期待され,結果として製品の 付加価値向上に貢献するのである。 また、アーキテクチャの変化は「システム全体を、相対的に相互依存関係性 の低い構成要素のグループ(モジュール)に分解可能となるよう、デザインを 見直すプロセスであり、必然的にシステムの機能と構造の配分関係の変更を伴 う」(Ulrich,1995:青島,1998a) という指摘は重要な意味を持つ。即ち、「システ ム全体の機能と構造をどのように再配分し、どのようにシステムに切り分け直 すか」という点に関する重要な意思決定プロセス(具,2008)であるモジュール 化現象は、意図して進行させられる余地があり、またその進行を以て分業関係 を変化させられる可能性を持つ、ということである。 . 9.

(11) <アーキテクチャの位置取り戦略> 藤本(2002)は「アーキテクチャの位置取り戦略」を提起した。この戦略の 特徴は,アーキテクチャの階層性,すなわち製品の内部構造にまで言及し,そ の構成や関係性を変えることによって利益獲得の機会を追求するという点にあ る。したがって,ある企業にとっての製品自体がインテグラル型かモジュラー 型か,またその製品を顧客が使うときに顧客側の製品あるいはシステムがイン テグラル型かモジュラー型かという視点から製品を分析することになる。 「中イ ンテグラル・外インテグラル」は,「当該製品自体は,インテグラル(擦り 合わせ)型として設計・開発されているが,販売先の顧客製品・顧客システム もまたインテグラル型であり,そうした川下の顧客製品専用に特殊設計された カスタム部品として売られる。自動車部品やオートバイ部品はその典型例であ る。このポジションは戦後日本企業の典型例であり,ものづくりには優れるも のの儲かっていないケースが多いと藤本は指摘する。次に,「中インテグラル・ 外モジュラー」は, 「その製品自体はインテグラル(擦り合わせ)型として設計・ 開発されているが,その製品を取り込む販売先の顧客製品・顧客システムはモ ジュラー型である。つまり,当該製品は,川下にある複数の顧客企業に,汎用 部品・標準部品として販売することができる」という特徴がある。このポジシ ョンは,インテルの CPU やシマノの自転車部品など,高収益企業が採用する戦 略として説明されている。続いて,「中モジュラー・外インテグラル」は,「当 該製品そのものは既存部品を上手く組み合わせたモジュラー・アーキテクチャ で設計・開発されているが,その製品を取り込む販売先の製品やシステムはイ ンテグラル型である。つまり,社内共通部品や業界標準部品を子部品として活 用することでライバルに勝つコスト構造を実現しつつ,それらをうまく組み合 わせてカスタム設計製品を作ることで,顧客の特殊なニーズに最適設計で応え ようとする」という特徴がある。最後に,「中モジュラー・外モジュラー」は, 「その製品自体も売り先のシステムも,ともにモジュラー・アーキテクチャで ある。この場合,一方で設計合理化により共通部品・標準部品を活用し,他方 で完成品を川下のモジュラーシステム向けの標準品として販売するので,二重 の意味で量産効果を得やすい。量産効果や学習効果によるコスト競争力の追求 が,このポジションで勝つためのポイントである。つまり,先手必勝,規模の 経済といった力勝負を要求される」という特徴がある。 . 10.

(12) . 1-2 事例 1 章 2 節では、1 章 1 節で導入した二つの概念を基に、二つの成功事例を見て いく。一つがインテル社であり、今一つがサムスン社である。. □ インテルの事例 インテルの事例は、 「製品アーキテクチャのモジュール化」と「プラットフォ ーム・リーダーシップ」の双方の概念を利用して理解することができる。結論 から言えば、インテルはパソコンのアーキテクチャを意図的に変革することで、 モジュール化を進行させ、自らをプラットフォームのリーダーと位置づけた。 <モジュール化を利用したプラットフォーム・リーダー> ガワー・クスマノ(2005)は、コンピューター産業でのモジュール化を以下 のように記述した。 多くの産業の創成期には、製品を作る為に必要な部品のすべて、あるいはほとんどすべてを、 少数の企業が開発してきた。産業が進化するにつれ、一般的に起こることは、より大きなジグ ソーパズルでの特定部品を開発する、特化型企業が出現することである。今日では、益々多く の産業が巨大なパズルの一部品をそれぞれが開発する、様々な企業から構成される。(中略)こ の進化は、コンピューター産業において生じた。この産業では、IBM や DEC のような垂直的 統合型企業が、ハードウェア部品メーカーであるインテル、ソフトウェア部品メーカーである. 11.

(13) マイクロソフト、そしてそれらを取り巻く無数の補完製品開発業者といったスペシャリスト企 業に、その中心的地位を明け渡したのである。 . 重要なのは、こうした変化が、インテル社のアーキテクチャ変革の試みによ って、意図的に発生させられた、ということである。ガワー・クスマノ(2005) は その変革を具体的に詳述している。以下に、その内容を要約する(図 3 参照) インテルは垂直統合型企業主導のアーキテクチャ(IBM による PC-AT アー キテクチャ)が、インテルの製品イノベーションの効果を制限していると状況 を認識していた。つまり、インテルのイノベーションによるマイクロプロセッ サのアップデートに際して、マイクロプロセッサにつながるデバイスやソフト ウェアは、その都度再設計を余儀なくされていた、ということである。そこで、 PC のアーキテクチャを変革し、アーキテクチャの主導権を握ることを企図した。 その手段として、PCI バスを導入された。PCI バスにおいては、マイクロプロ セッサとデバイス及びソフトウェアとのインターフェースとして、バッファー 層が存在した。このブッファー層をプログラミングによって修正することだけ で、他の箇所(デバイス&ソフトウェア)との結合が可能であった。それはつ まり、マイクロプロセッサのアップデートに際して、マイクロプロセッサにつ ながるデバイスやソフトウェアは、その都度再設計を必要としなくなったこと を意味していた。その結果、PC の当該部分がローカルなモジュール・アーキテ クチャとなり、高い先進技術に基づいたインテルの PCI バスが他の補完業者の 基盤となっていき、インテルはプラットフォーム・リーダーとなった。 図3:インテルのアーキテクチャ変革. 12.

(14) New!!%. (ガワー・クスマノ(2005)を参考に筆者作成). * 2、ガワー・クスマノ(2005)はこれらのインテルの戦略アプローチを「プラ. ットフォーム・リーダーシップ」として認識した。そして、プラットフォーム・ リーダーシップに向けて戦略をデザインする際の枠組み(「プラットフォーム・ リーダーシップの 4 レバー」)を提示した。即ち、⑴企業の範囲 ⑵製品化技術 ⑶外部の補完業者との関係 ⑷内部組織 の4つである。リーダー企業は、これ らの 4 つのレバーにおいて適切に意思決定を行っていくことで、プラットフォ ーム・リーダーシップを遂行する。. ⑴. 企業の範囲. 企業が内部で何を行い、外部企業に何を行わせるか. ⑵. 製品化技術. モジュール化の程度、プラットフォームへのインターフェースのオー プン化の程度及び外部企業に対する、プラットフォームとしにインタ ーフェース情報の開示の程度. ⑶. 外部の補完業者. 補完業者の関係がどの程度協調的あるいは競争的であるべきか。. 2. ガワー・クスマノ(2005)はマイクロソフト、シスコ、NTT ドコモ、リナックス OS サポー ター、も類似例として提示している。. 13.

(15) ⑷. 内部組織. 内部構造をどのようにデザインするか. 表 1:「プラットフォーム・リーダーシップの 4 レバー」 (ガワー・クスマノ(2005)より筆者作成). <インテルの戦略が持つ排他性> . ガワー・クスマノ(2005)は、補完業者のイノベーションを促し、プラット フォーム全体を成長させることが、プラットフォーム・リーダーの利益に適う ことを強調し、企業の公共的精神の重要性を主張した。それに対し、小川(2007) は、自社利益の獲得がなされる構造を形成するための、インテルの企業努力を 強調した。*3小川(2007)によれば、インテルの戦略は、5 つのフェイズによっ て明らかになる。*4即ち、⑴自らの強みとなる技術領域を知財戦略やポリス・フ ァンクションによって保護・ブラックボックス化する ⑵その後ブラックボック ス領域をM&A によって拡大・統合化する ⑶完成品側の技術ノウハウの自社部 品側への取り込む ⑷オープン化が加速する環境を強制する ⑸新興国企業を 協業関係によって利用する の五つである。 1つ目と2つ目のフェイズにおける重要なポイントは、インテルが自社の強 みとなる領域の確立を強力に推進したことである。 . 例え、オープン化を標榜してもその内部構造は完全にブラックボックス化されて外部に公開 されない。そしてこのブラックボックスは、技術革新の力だけでなく、強力な知財戦略とポリ ス・ファンクションによってはじめてその付加価値が長期に維持される。(中略)周辺モジュー ルの統合化を進めながらブラックボックス領域(付加価値領域)を更に広げようとする。 . 3つ目と 4 つ目のフェイズにおいて小川(2007)が主張する核論は、 「確立し た自社領域を利益獲得に結びつけるために、インテルが、他の領域から価値を 3. 実際には、 「フェイズ」ではなく「プラットフォーム」という単語が使用されている。しかし 本稿においては、ガワー・クスマノ(2005)の主張に準じて、「プラットフォーム」を、「コア 製品とそれを基盤にして形成される補完製品群の集合」と定義して使用する。従って、混同を 避けるために、「フェイズ」と表記する。 4. これらの枠組みは、クスマノ・ガワー(2005)の「4 レバー」に内包されるが、主張の力点は 異なる。. 14.

(16) 吸収するメカニズムを利用した」という点である。つまり、アーキテクチャ変 革を進行させることで、インテルの製品領域以外の部分の価値を減じさせる(こ とを(相当程度)意図していた、という解釈である。 ハード・ディスクも DRAM も、オープン・インタフェースによってパソコン側のバスに繋がる もので、パソコン側との擦り合せを必要とせずに自由に技術革新を行なえる部品である。翻っ ていえば、完成品としてのパソコン側のノウハウ、特にマイクロプロセッサに繋がるバス側の ノウハウを自分自身の内部に蓄積できないことを意味するのである。そこで行われたのが三つ 目の戦略である。ハード・ディスクの場合、コンパックなど完成品ベンダーが中心になって制 定した IDE インターフェースは制定された初期の 1980 年代にベンダーによって仕様が少しずつ 異なっていたが、インテルが強く介在して標準化した ATAPI インターフェースの登場によって 完全モジュラー型に統一され、ここからインテル Chipset(South Bridge 側)との相互依存性が 排除された。また DRAM の場合も 1996 年ころまでメモリ・コントローラとメモリ・モジュール の間がアナログ信号で繋がる方式だったのでマザー・ボード側やパソコン・ベンダー側と摺り 合わせを必要とし、性能や品質が差別化に繋がった。しかし 1996 末から 1997 年に登場したシ ンクロナス DRAM になるとインターフェースがデジタル化され、North Bridge 側にコントローラ 機能が取り込まれた。ここからインテル Chipset との相互依存性が完全に排除されたのである。 そして DRAM は、単品部品モジュールとなった。シンクロナス DRAM の基本コンセプトは既に 1980 年代の後半から DRAM 業界に現れ、1995 年ころからアメリカの標準化団体である JEDEC で標準化 が進められたが、インテルは更に厳しい独自規格をデファクト規格にした。そして、例えば DRAM を複数個使うモジュールの実装パターン(配線データ)までインテル標準として世に広め、DRAM 素子とプリント基板があれば誰でも作れるようにした。(小川,2007) (インテルは、)標準化を経営ツールに使って強制的にオープン・モジュラー型へ転換させよ うとした(中略)インテルはより速い PCI バスを 1990 年ころに開発し、ここに知財を封じ込め ながら業界標準を主導することで,業界に強力な影響力を持つに到った。そしてパソコンの基本 機能を封じ込めた Chipset とマザー・ボードのビジネスを 1993~1994 年からマイクロプロセッ サと一体になって押し進めた。1995~1996 年には台湾企業をパートナーに大規模なマザー・ボ ード・ビジネスを展開する。(小川,2007) . 5つ目のフェイズの重要な洞察は、補完製品の製造を新興国企業(台湾等)に 促すことで、統合型企業(IBM・コンパック)を更に追いつめたという論点であ. 15.

(17) る。 パソコンの粗利を極度に小さくして研究開発能力を弱体化させるという戦略を描いたインテ ルは、それには粗利率が小さくても問題なく市場参入できるキャッチアップ型工業国企業を活 用したのである。1995~1996 年になってインテルは、当時まだキャッチアップ型工業国であっ た台湾のマザーボード・メーカに対して、MPU 周辺の Chipset10 とこれを使ってマザードートを 組み立てるリファレンスを一体提供した。更にはパソコン・ベンダーへも、設計技術ノウハウ としてのリファレンス・ガイドだけでなく、パソコンそれ自身のロード・マップや価格トレン ドとこれに対応した MPU や Chipset のロード・マップまでが提供された。したがって例え技術 蓄積の浅い企業でも、マザー・ボードはもとよりパソコンすらも、インテルが提供する Chipset とリファレンスを使えば簡単に作れるようになった。(中略)ここから台湾企業がパソコンのマ ザー・ボードとパソコンそれ自身の輸出を急増させた。IBM やコンパックなどのように技術革新 を武器に業界をリードしてきた完成品ベンダーは、付加価値が詰まった領域である Chipset 付 マザー・ボードまでキャッチアップ型工業国の企業に支配された。そしてこのタイミングから 急速に利益を減らして市場撤退への道を歩む。研究開発を最初から放棄したデル(Dell)のよう に、極めて低い粗利率でも赤字にならないビジネス・モデル(吹野、2006)だけしか先進工業 国の市場で生き残れなくなったのである。1980 年代に 40%以上の売上高総利益を誇ったコンパ ックは、1990 年代前半に 24%(うち営業利益率が約 6%)まで下がり、この時点から次世代パ ソコンの研究開発力を奪われた。その後 1996 年には利益の全てをパソコン以外のサーバに頼ら ざるを得なくなった(バーゲルマン、2006)。 (小川,2007) . IBM やコンパックは、インテルと、新興国の OEM 業者によって形成されたプラ ットフォームにはじき出され、生存ポジションを奪われたのである。このよう に小川(2007)は、インテルの戦略が持つ、自社利益獲得のための戦略的排他性 に重点を置いてインテルの戦略を解釈した。 図4: PC 産業における、生存ポジションの奪い合い . 16.

(18) (ガワー・クスマノ(2005)を参考に筆者作成) . <ノート・パソコン市場における日本企業> PC 産業の事例のように、モジュール化の進行と分業の促進によって一部のモ ジュールに価値を集約させ、その領域に集中し価値の低い部分を広く他企業に 行わせる分業は、 「垂直統合型の組織による擦り合わせ型の製品を生み出す」と いう一般的な日本の製造業のスタイルの有効性を弱めていく。実際に、モジュ ール化の進行を促進し、また分業を促進したインテル社は、ノート・パソコン 領域における日本企業の競争力を弱めていった。パソコン産業における IBM や コンパックのように、日本企業は、自らの組織や資源に適応する生存ポジショ ンを奪われていった。小川(2007)は インテルがノート・パソコンでも同様 の戦略を行った、日本企業が競争力を失った様子を詳述している。 1997~1998 年に同じプラットフォーム戦略スタートさせ、マイクロプロセッサの情報開示を この時点で中止した。したがって我が国のノートパソコン・ベンダーは、最後の付加価値であ った Chipset すら 1998 年ころから自主開発できなくなってしまった。これは多くの業界関係者 へのインタビューでも明らかになっている。1998 年ころまで我が国企業はノート・パソコンで 世界の 35〜40%におよぶ市場シェアを握っていたが、2000 年からシェアを急落させ、2006 年に は 10%台となった。インテルがインターフェース情報を非公開にした 1998 年でなく 2000 年から 我が国企業のシェアが落ちたのは、当時のノート・パソコンが擦り合わせ型に近いアーキテク チャを持っていたので、台湾企業が厚くて重い機種しか作れなかったことによる。しかしイン. 17.

(19) テルは、2000 年ころから発熱量の多い画像処理機能を Chipset に内蔵し発熱量を激減させ、そ の上で更にノート・パソコンの設計ノウハウを蓄積したレファレンス・ガイドを徐々に充実さ せた。これが結果的に擦り合わせ型から部品単純組み立てのモジュラー型へ転換さる効果をも たらし、2001 年には台湾企業のノート・パソコン生産が一気に世界シェアの 55%を超えるまで になった。放熱設計において、高度な摺り合わせのノウハウを必要としないので、誰でも簡単 に、軽くて薄いノート・パソコンを作れるようになったのである。2006 年には台湾よるノート・ パソコンの生産シェアが世界の 80%に及ぶという。インテルはここからプラットフォーム・リー ダーとしての揺ぎ無い地位を固めた。その後インテルは、パソコンと同じプラットフォーム戦 略をサーバ市場でも展開している。これによって、当時 10,000~20,000 ドル(追加プロセッサ ー・カード 16,000 ドル)だったサーバが、すぐ 5,000~10,000 ドル(追加プロセッサー・カー ド 2,500 ドル)まで下落した。1980 年代の超優良企業だったコンパックは、全ての付加価値を インテルに吸い取られてヒューレット・パッカード社(HP社)に吸収合併された。 (小川,2007) 図5:ノート・パソコン産業における日本企業 . (ガワー・クスマノ(2005)を参考に筆者作成) . □ サムスンの事例 前項で、モジュール化現象を利用し、PC 産業のプラットフォーム・リーダー となったインテルの戦略を提示した。インテルの「プラットフォーム・リーダ ーシップ」戦略において指摘すべきは、戦略の前提条件として、アーキテクチ ャの変革を意図して果たすだけの知識と技術力が自社内に存在していた点であ. 18.

(20) る。IAL の知見を基にした高い技術的先進性が PCI バスの開発を可能にし、その 結果、製品のアーキテクチャ変化を意図してコントロールすることができたと いう点である。それに対し、本項では、必ずしも高い技術的先進性をコア・コ ンピタンスとして利用したわけではない事例として、薄型テレビ市場、スマー トフォン市場におけるサムスン電子を概観する。糸久・吉川(2008)の主張を 基に、サムスン電子の「リバース・エンジニアリング」を詳述し、同社の成功 要因を示す。 <リバース・エンジニアリング> 1998 年~2006 年において、*5日系大手電機メーカー(ソニー、パナソニック、 日立、シャープ、富士通、東芝、三菱 )の営業利益率は約 5%以下である。そ れに対し、サムスン電子は約 15%であり、その利益率の高さは歴然としている。 また、額に関しても、売上高 5.7 兆円のサムスン電子は、売上高約 9 兆円の日立 製作所よりも、約 3 倍弱の営業利益を計上している。ではなぜ経営成績にここ までの差が出たのだろうか。糸久・吉川(2008)は開発方法の違いに着目し、 その理由を説明する。 サムスン電子は、「リバース・エンジニアリング」と言われる開発方法をとっている。「リ バース・エンジニアリング」とは、すでに市場に存在する対象モデルから新製品を開発する手 法で、その製品を実際にはばらしてみて、構造的な調査をすることから開始される。逆に日本 企業の開発方法である「フォワード・エンジニアリング」は、商品企画から始め、スペックを 決めて(機能設計)、構造設計に移行するプロセスであった。(糸久・吉川、2008). 糸久・吉川(2008)はフォワード・エンジニアリングの特徴として、⑴独自 の商品企画からスタートした新しい製品開発が可能になるメリットと、⑵市場 の調査・開拓と新技術開発のために、莫大なコストとリードタイムが必要にな るデメリットの2点を指摘した。逆にリバース・エンジニアリングは、マーケ ティングと R&D における莫大なコストとリードタイムを節約が可能になる。 <モジュール化の影響>. 5. 各社財務諸表より糸久・吉川(2008)算出. 19.

(21) 葛・藤本(2005)は、後発企業の技術発展を「コピー・改造」、「リバース・エ ンジニアリング」、「フォワード・エンジニアリング」の3段階に区別する。 「コピー・改造」は、先進国などが開発した対象モデルの形状・構造を、その まま模倣ないし多少の改造を行なう段階である。次に「リバース・エンジニア リング」段階へと移行し、単純な形状・構造のコピー・改造と異なる、構造か ら機能という逆探知のプロセスを持つようになる。この 2 つの段階においては 新製品アイデアの源泉は、すでに市場に存在する先進企業の対象製品である。 しかし、最後の「フォワード・エンジニアリング」においては、独自の製品コ ンセプトから新製品を開発していき、 模倣段階を経ることなく、機能設計、構 造設計へと展開していくようになる。この、技術発展モデルは、暗黙の前提と して、企業はより発展した段階を目指すことが想定されている。それはあたか も、技術を蓄積した結果としての進化の過程と捉えることもできる。(Nelson and Winter, 1982; Kim, 1997)。 図6:エンジニアリング技法の比較. (糸久・吉川(2008)を参考に筆者作成) . しかし、リバース・エンジニアリング段階で技術発展を止めたサムスンは、よ. り先行するはずの日本企業を上回る高利率を実現している。技術発展モデルの 前提と矛盾する、この現象は、全く新しい製品開発のメリットが、R&D、マー. 20.

(22) ケティングコストを上回れないことを示している。そして、この、フォワード・ エンジニアリングの新製品開発のメリットが削がれる原因こそが、「アーキテ クチャのモジュール化」である。糸久・吉川(2008)は、モジュール化を以下 のように説明し、リバース・エンジニアリングの戦略的有効性が高まったこと を示した。 90~00 年代にかけて、セットメーカーはモジュール化を進めた結果、モジュール単位でサプ ライヤーにまとめて任すモノが多くなった。これにより、サムスン電子は直接、そのサプライ ヤーからすでに信頼性の高いモジュールを購入することにより、新製品を開発することができ る。さらに、部品と部品、モジュールとモジュールの相互調整の必要性を減じさせたことも大 きい。 (中略) 電機産業はリバース・エンジニアリングが効果を発揮しやすい分野である。なぜ なら、自動車産業等に比べると、相対的にモジュール化が進展していて、PCB 基盤等をはじめ 構造調査がやりやすい。 (糸久・吉川,2008). 技術的先進性を志向するフォワード・エンジニアリングが、自らが創出した イノベーションの収益を十分にもたらすとは限らない。むしろ、モジュール化 の進展している産業では、後追いのリバース・エンジニアリング型開発プロセ スの方が、そのイノベーションから得られる収益をより多く享受できる可能性 がある。*6この産業の変化を理解し、戦略的にリバース・エンジニアリングによ る開発をすすめたことがサムスン電子の成功要因である。. 6. 糸久・吉川(2008)はサムスンの成功要因として、デザインによる差別化に成功した面も併せ. て指摘している。. 21.

(23) 1-3 解釈 成功事例として、 インテルとサムスンの戦略の概要を把握した上で、エレク トロニクス産業に働いた競争原理の解明を試みる。. □ 分業関係の 3 類型 私は、サムスンとインテルの事例を整理・理解する上で、 「分業関係の3類型」 を提示する。それは、⑴完成品の分業 ⑵半製品の分業 ⑶バリューチェーンの フェイズごとの分業、の3つである。補完関係に基づいて行われる多様な分業 様式はこの 3 つに大別できるという趣旨である。現実に存在する多様な分業形 態は、これら3種類のタイプの分業が混在することで、成立している。*7 図7:「分業関係の 3 類型」その1. 7. 留意すべきは、それぞれの分業方法が不分点であること。つまり、ある分業が、半製品の分 業ともバリューチェーンのフェイズごとの分業とも見做せることがあり得る。. 22.

(24) (筆者作成). . 完成品の分業とは、独立した完成品として存在している財・サービスが、補完. 関係に基づいて、価値を創出するタイプの分業である。PC 本体とソフトウェア、 PC 本体と通信サービス、の関係はその典型であり、アップル社の端末と i-Tunes 内のアプリや楽曲との関係も事例として挙げられる。 それに対し、半製品の分業とは、半製品が一つの完成品を成り立たせること で価値を創出するタイプの分業である。例えば、OS、メモリー、プロセッサ、 ディスプレイのような半製品は、PC という完成品を構成している。つまり、イ ンテルのプロセッサと PC 本体との関係は、半製品の分業と見做すことができる。 そして、バリューチェーンのフェイズごとの分業は、 「開発→製品→企画→設 計→調達→最終組み立て→販売→保守サービス→ソフトウェアサービス」とい った価値連鎖の中で行われる分業タイプである。 <サムスンの「分業」> ここで、指摘したいのは 1 章 2 節において提示したサムスンのリバース・エ ンジニアリングの事例を、バリューチェーンのフェイズごとの分業と見做すと いう論点である。サムスンは、開発というフェイズを自ら担当せず、日本企業 の開発を受け継ぎ、それ以降の構造調査・機能設計のフェイズを担当すること で価値を創出していった。これは、 (フリーライドともとれる形ではあるが)一 種の分業であったと捉えられるのではないだろうか。. 23.

(25) 図 8:「分業関係の 3 類型」その 2. (筆者作成). <単位への分解と単位の結合> 3 つの分業は、準分離可能な単位に整理されていることを前提として成立する。 PC 産業における、「アーキテクチャのモジュール化」は、この準分離可能な単 位に整理し、半製品の分業を可能にした行為に他ならない。他方で、分離され た単位が結合できることも分業の前提となる。薄型テレビやスマートフォンの 市場におけるモジュール化は、バリューチェーンのフェイズごとの結合を容易 にし、 (日本企業にとって意図せざるものであるが)分業を可能にした。その結 果、サムスンのリバース・エンジニアリング手法はその優位性を、より増大さ せたのである。. □ 日本企業の不振 <企業範囲選択の失敗> 成功事例としてのインテルとサムスンを概観し考察した上で、日本企業の不 振の原因を、企業範囲の意思決定に失敗した点に求める。つまり日本企業は、 「ど. 24.

(26) こまでを握り、どこから他社にゆだねるか」という範囲の選択に失敗し、あら ゆる分業のディメンションで効率的な価値創出を達成する分業を行えなかった という主張である。 <PC・ノート PC 市場> インテルは、分業を推進し易い環境に転化させ、プラットフォーム・リーダ ーシップを発揮した。その単一のプラットフォームの中で、日本企業は対抗す ることも、内部に入り込むことも出来なかった。インテル・新興国企業群のプ ラットフォームは、技術的先進性から価値を創出する領域(マイクロプロセッ サ)とコスト優位性から価値を創出する領域(組立て)に切り分けて分業した。 それに対し、日本企業は、インテルのマイクロプロセッサを搭載しながらも、 技術的先進性が大きな価値創出を起こせない領域で、それを、価値創出の源泉 に位置づける、という矛盾する行為をおこなってしまった。 <薄型テレビ・スマートフォン市場> サムスンは、開発フェイズをフリーライドする“分業”を実行した。モジュ ール化が進行した中で、開発を行う領域に、大きな価値は無くなっていた。そ こで、サムスンは、開発フェイズを他者(日本企業)に委ね、新興国で求めら れるマーケティング調査に資源を投下し、各地で求められる機能が何であるか をより正確に把握した。逆に、日本企業はより多くの資源を開発に投下した。 <携帯型ミュージックプレーヤー市場> アップルは、i-Tunes 内にあるサービスや楽曲の多くを外製し、プラッットフ ォームを構築した。それに対してソニーは、(ソニー・ミュージックにおいて) 自らミュージックというコンテンツを内製し、統合型でソフトとハードの融合 を図った。しかし自社の製品(ソニー・ミュージックの楽曲)が、競合する製 品(他社に帰属する楽曲)のプラットフォームへの取り込みの障害となった。 結果として、より多くの補完製品の基盤となったアップルがより大きい価値創 出に成功した。. 25.

(27) 2 章 洞察の応用と拡大 1章において考察してきた洞察を他産業へと応用・拡大することを試みる。. 26.

(28) 2-1 事例 本節では、エレクトロニクス産業内の考察で得られた知見を応用して理解でき る事例として、ウォルマートを取り上げる。. □ ウォルマートの事例 <部門管理手法> 吉田(2009)によれば、ウォルマートは「部門管理」と言われる管理手法を 採用している。部門管理は、地域によって異なる標準部門を組み合わせること で、地域のニーズ差や、店舗の面積にあわせた部門ミックスを実現する手法で ある。 (図 9 参照)基本的部門である標準部門は、商品カテゴリーの枠と単品作 業の方法により設計され、多くの人に共通する買い物アイテムや補充頻度をみ たすような品揃えを形成している(図 10 参照)つまり、予め形成された標準的 部門を組み合わせることによって、顧客のニーズを満たす品揃えを実現すると. 27.

(29) いうことである。 →. 図9:ウォルマートの部門管理. (吉田(2009)を参考に筆者作成). . 図 10:ウォルマートの標準部門. (吉田(2009)を参考に筆者作成). 28.

(30) 2-2 解釈 □ ウォルマートの分業 では、1 章での議論をふまえて、ウォルマートの部門管理手法をどう理解する ことができるだろうか。 第一に着目するのは、顧客のニーズを満たす品揃えを標準部門という準分離 可能な単位に分解・整理している点である。その結果、標準部門の設計とその 組立てを、本部と店舗がそれぞれ分業する体制が可能になっている。これを「分 業関係の 3 類型」により捉えれば、バリューチェーンのフェイズごとの分業に 近いといえる。 (図 11 参照) 第二に、部門管理による分業の、プラッットフォームリーダーシップとの類 似点を指摘したい。各店舗では得られた膨大な POS データは、本部に集積され、 更なる精度の高い標準部門の設計に役立てられる。すると、その精度の高い標 準部門の利用を目的とした更なる店舗の拡大(フランチャイズの拡大)が起き. 29.

(31) る。その結果、より多くの情報が収集され、標準部門の精度とその価値は高ま る。つまり、部門の組立てと POS 情報の入手を担う無数の店舗が、部門管理の 質と価値を累積的に増大させる。これは、プラッットフォームの基盤製品が、 それを目指して設計される補完製品の恩恵を享受し、価値を増大させるという 現象と類似している。(図 12 参照) 第三に留意すべきは、相違点である。店舗と本部の分業は、ウォルマートと いう一つの企業組織の内部で成立している。これまでの議論の中で登場してき た、インテル、サムスン、アップルは、いずれも企業組織の上での他社との分 業を通して、自社製品の価値を高めた。. . 図 11:分業としての部門管理. (筆者作成). 図 12: プラットフォームとしての部門管理. 30.

(32) (筆者作成). □ 分業の捉え方 <事例の比較> これまでの、インテル、サムスン、アップル、ウォルマートの事例の中で、キ ーとなった4つの項目によって、それぞれのスタイルを比較したい。即ち、⑴ 分 業の3類型ではどう捉えられるか ⑵ プラットフォームの累積的価値増大の メカニズムを組み込んでいるか ⑶ プラットフォームのメカニズムを内包す る場合、自社の領域は基盤製品と補完製品のどちらなのか。もしくはその両方 か。 ⑷ 準分離された単位への整理・分解を自ら行い、分業を可能にしたか。 の4つである。 31.

(33) 図 13:分業スタイルの比較. (筆者作成). <分業様式の多次元への広がり> サムスンは、今回の場合、日本企業の開発を受け継ぐ分業だけを問題として いるため、 「プラッットフォームではない」という認識になる。しかし、分業の ディメンションを変え、半製品の分業という視座から見ると、Google 社 andoroid という基盤となる半製品のプラットフォームに組み込まれた補完製品 と見做すこともできる。つまり、一つの分業のディメンションではプラットフ ォームの補完製品部分を担い、もう一つのディメンションでは、プラットフォ ームのメカニズムを持たないバリューチェーンの一部を担っていると言える。 無限の文脈を持つ現実の社会においては、ある企業の分業のディメンションの 捉え方もまた無限に広がる。 1章1節において紹介したように、日本企業は一般に、自社もしくは「系列」 を利用した垂直統合型組織を保有し、摺り合わせ型の製品開発プロセスを得意 とした。そうして高い品質パフォーマンスを実現してきた。他方で、近年にな って、ある部分に集約する企業が競争優位を保有し、日本企業の不振が広がっ た。しかし、こうした事象から、統合的に価値を創出する在り方全てを一様に. 32.

(34) 否定することはできない。例えば、プラットフォーム・リーダーの一例として あげたアップル社も、違うディメンション(半製品の分業)では、統合型と見 做せる側面を持っている。重要な基幹部品である OS を自社の独自企画にしてい る点である。そしてその独自の OS がアップル社の根本的な価値源泉の一つであ ろう。更に言えば、ファブレスと称される自社工場を持たない在り方は、また 違う分業のディメンションで捉えるべきである。 (バリューチェーンのフェイズ による分業)垂直統合は全て旧態依然とした在り方で、一部に集約することが 必ずよいと考えるのは間違いである。 「どの分業の軸を抽出し、その軸の中でど れだけの領域までを統合するか」を経営目的とそのための戦略に沿うように、 その都度丹念に決定していくしかないのが現実であろう。. □ 経路依存性による制限 他方で、現実に採択した戦略を遂行する時には大きな困難が伴うことがある。 それは、過去の文脈による制限(経路依存性)である。*8垂直直統合型の擦り合 わせ型製品開発によって高い技術視準を達成し、そのことを企業競争上の優位 に繋げてきた企業には、今後歩む経路をその成功体験に制限される経路依存性 が働く。その結果、一部分に特化し、補完製品の基盤となるプラットフォーム・ リーダーシップ戦略に変革していく戦略を採用すべであるとトップマネジメン トが決定をしても、組織全体が拒絶することがあり得る。実際に根本的な方針 の転換が達成されるには、相当の危機感の醸成が社内で為されなければならず、 継続企業の前提を揺るがせる程の深刻な状況の場合が多い。付け加えるならば バーゲルマン(2006)によれば、インテルでさえも PC 産業での大きな成功の後、 新規事業の展開が、マイクロプロセッサとの明示的なつながりをもつ部分にの み制限され、経営成績は停滞した。 . □ 企業体の枠組み 企業範囲の意思決定は「どれだけの領域までを統合するか」だけではない。 より正確な表現をするならば、 「どこまでの領域を、どの程度の統合度で、有す 8. 垂直統合型の製品開発プロセス他にも、事例は多数存在する。例えば、2010 年代以降のソニ ー。「“感動”を与えるコンシューマー・エレクトロニクス企業」という自らの定義付けに制限 を受け、改革を断行できない。. 33.

(35) るか」となる。一口に自社領域といっても、それをどこまでの範囲を示すかは、 明示的ではない。実際には、法人格として別なのか、資本関係の強弱、事業部 として別なのか、等によって統合度の濃淡がでる。ウォルマートの事例では、 店舗と本部を自社内と捉えたが、フランチャイズ形式の店舗を「他者」とみる こともできる。 図 14:企業体の統合度のスペクトル. (筆者作成). □ 生存可能な戦略ポジション インテルをリーダーとして形成されたプラットフォームの前に生存ポジショ ンを奪われた日本企業を見ると、ある一部分に特化し、補完製品の基盤となる プラットフォーム・リーダーが存在した場合に、そのプラットフォームと独立 して競争優位性を保持する方法が無いかのような印象を覚える。しかし、果た してそうなのであろうか。この点に関し、バーゲルマン(2006)は、 「ほとんど の業界には生存に適した複数の戦略上のポジションが存在するが、パソコン業 界には、収穫逓増の法則とも呼ぶべき、熾烈で逃げ場のない競争形態が存在し た」ことを指摘した。アーサー(1987)によれば、収穫逓増の法則は主に五つ の要因から引き起こされる。 (⑴使用することで学習する。⑵ネットワークの外 部性 ⑶製造における規模の経済 ⑷情報の収穫逓増 ⑸技術上の補完関係)バー. 34.

(36) ゲルマン(2006)によれば、これらすべての特徴はパソコン産業において合致 し、インテルは5つの要因すべてから便益を受けた。インテルが、新しい競合 企業(アップル、IBM、モトローラ、アップル)が打ち出した RISC ベースの マイクロプロセッサの挑戦を退けることができたのは、補完製品業者の採用数 において収穫逓増が成り立つからである。 しかし、私はこれまで主張してきたように、分業のディメンションは無数に 存在し、その軸をどう設定するか(それは即ち、どう自社の当該産業を定義す るかという問題とほぼ同義であるが、)次第では、生存ポジションを見つけるこ とも出来ると考える。その最たる例はアップル社である。 また、収穫逓増の法則を満たす産業においては、勝者(と勝者の敷くプラッ トフォームで補完製品を担う追従者)以外には生存できないというバーゲルマ ンの主張に依拠したとしても、収穫逓増の法則を満たさない産業では複数の戦 略的ポジションが存在し、故に競争優位性を保持することが可能である。. 参考文献 ① 青木雅彦・安藤晴彦 (2002) 『モジュール化』 東洋経済新報社 ② 青島矢一 (1998)「製品アーキテクチャと製品開発知識の伝承」『ビジネスレビ ュー』46巻1号 46−60頁 ③ 糸久正人・猪狩栄次朗・吉川良三 (2007)『サムスン電子におけるリバース・エン ジニアリング型開発プロセス』MMRC Discussion Paper No. 165 1−31 ④ 大木 裕子 『電気自動車(EV)開発における標準化戦略とその課題 』京都マネジメ ント・レビュー 第 18 号 139−151. 35.

(37) ⑤ 小川 紘一 (2007) 『我が国エレクトロニクス産業にみるプラットフォームの形成メ カニズム 』MMRC Discussion Paper No. 146 5−15 ⑥ 藤本隆宏(2001)『生産マネジメント入門Ⅰ:生産システム編』日本経済新聞社 ⑦ Bladwin, carless Y . and Kim. B Clark (2000), Design Rule : The power of . modularity1, Cambridge, MA : MIT press ⑧ 具承恒 (2008)『アーキテクチャのダイナミズム』 ミネルヴァ書房 . ⑨Chesbrough, Henry w. and David J.Teece (1996) When is Virtual Virtuous? ”. Havard Business Review. “Oganizing for Innovation : 80 (8):65-73. ⑩ ロバート・A.バーゲルマン(2006)『インテルの戦略』 ダイヤモンド社 ⑪ アナベル・ガワー/マイケル・A・クスマノ (2005) 『プラットフォーム・リーダー シップ』 有斐閣 ⑫ マルコ・イアンシティ/ロイ・レビーン(2007)『キーストーン戦略』 翔泳社 ⑬ 吉田繁治 (2009) 『ザ・プリンシプル』 商業界 . 謝辞 本稿の執筆の上で、小幡研究室の同期の方に力強く支えて頂いたと感じてい る。具体的な研究内容に対する鋭い指摘が、考察を進展させたことは、一度や 二度ではなかった。そして、我が小幡研究室の最も素晴らしいところは、研究 そのものの奥深さだけでなく、劣等生の鑑とも言うべき私を温かく見守ってく れる包容力だと思う。この場を借りて、心からの感謝を表現させ頂きたい。 また、小幡先生は学術的な部分から生活習慣まで、全てをご指導頂いたと思 っています。先生の求められるものに、日々遠ざかっていった研究に悔しい思 いを感じますが、こうして形だけでも提出することができました、本当にあり がとうございました。 . 36.

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