第 5 章 ナーススケジューリング問題
6.2 総括
本節では汎用ソルバーを使って組合せ最適化問題を効率的に求める手法を総括する.二つ のソルバーに関しての各問題の傾向を表6.1にまとめる.二つのソルバーの比較に関しては,
最小無矛盾DFAがSATによるアプローチが有効,移動順最適化問題はMILPによるアプ ローチが有効,ナーススケジューリング問題はインスタンスによって異なるという顕著な違 いが得られた.
表6.2に書く問題のサイズを示す.問題のサイズは,変数の数と節数によって示している が,問題ごとに式の形が異なっているので直接的な比較はできない.しかし,問題の比較の 役にはたつと考えられる.特に節数と変数の数の比に着目すると,これらの問題はそれぞれ 異なった特徴を持っている事がわかる.移動順最適化問題は特殊で,MILPとSATでの比に 大きな違いがある.最小無矛盾DFAは両者ともに比が大きい.これに対して,ナーススケ ジューリング問題は比が小さい問題である.比が小さいということは,変数の数に比べて節
104 第6章 おわりに 表 6.2: 問題の大きさの比較
問題 MILP 節数/変数 SAT 節数/変数 最小無矛盾DFA 変数 800–7,000 2–25 8,000–70,000 6–46
問題 節数 2,500–240,000 5,000–320,000
移動順最適化問題 変数 57,000–76,000 0.2 57,000–76,000 11–15 節数 1,000–1,300 605,000–1,141,000
ナーススケジュー 変数 6,000–10,000 0.2 150,000–330,000 0.3 リング問題 節数 15,000–27,000 500,000–1,124,000
表 6.3: 目的関数と問題の特徴
問題 目的関数 特徴
最小無矛盾DFA問題 状態数の和,20変数程度 MILP においては MaxMin の形式
移動順最適化問題 アークの重み付き和,6000 変数前後
ほとんどの変数が目的関数 に現れる
ナーススケジューリング問 題
ペナルティ変数の和,1300 変数程度
SATでは和を特別に表現し ている
数が少ないということである.表と前節での各問題に対する結果を比べると,この比が小さ い問題はMILPによって解きやすいという傾向が予想される.
表6.3に,目的関数の特徴について示した.最小無矛盾DFA問題は変数の数に比べて,目 的関数に現れる変数の数が少ない問題であるといえる.このことから考えると,MILPによ るアプローチでは,目的関数に多くの変数が現れる問題のほうが効率的に解けることが予想 される.
次に本論文で扱った三つの問題をグラフ彩色問題として考えてみよう.図6.1に各々の問 題を隣接グラフで表現したときの模式図を示す.各々の問題の実行可能解は,この隣接グラ フのグラフ彩色問題の実行可能解となっている.a)の最小無矛盾DFA問題はそのままグラ フ彩色問題として考えることができる.b)の移動順最適化問題は経路を隣接辺とした隣接グ ラフとしても考えることができる.この隣接グラフにおける辺彩色とTSPの実行可能解で あるハミルトン閉路の関係はよく研究されている(例えば,[86]).c)のナーススケジューリン グ問題では,各々の看護師に各々の日に対してシフトを割り当て,例えば二人の看護師を同 じシフトに割りつけないような制約条件を与える.この場合は図に示したような隣接グラフ として,同じ色に割り当たった割り当て方が実行可能解となる.このように三つの問題をグ ラフ彩色問題として見てみることは難しさを考える上で興味深い.
本論文では,ソルバーをブラックボックスとして扱い,問題の定式化方法によって効率的
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図 6.1: 三つの問題の隣接グラフによる表現
に解を求める手法について研究した.いずれの問題においても,問題の表現方法にバリエー ションを持たせることが効率的に問題を解く鍵となることがわかった.近年,ソルバーの進 歩には眼を見張るものがあるが,今後の課題としては,ソルバーの実行制御に対して問題依 存の手法を取り入れることが考えられる.
6.3 まとめ
本論文では,組合せ最適化問題の厳密解を効率良く求める手法を確立するため,三つの事 例研究を行った.その各々では,従来手法を上回る時間的効率性を得ることができた.
特に,MILPソルバーとSATソルバーを中心に,解の効率性を比較した.これまで,この ようなソルバーの違いによる効率性の違いの研究は多くない.問題によって,これらのソル バーの効率性に非常な違いが見られたことは興味深い.
最後に,組合せ最適化問題の厳密解法は近似解法に比べて,どのような問題でもある程度 短時間で解けるというものではないが,今後のハードウェアや汎用ソルバーの性能向上によ り,解ける問題は着実に増えていくと思われる.新たな組合せ最適化問題の厳密解を得るた めには,まず,汎用ソルバーの利用を検討するのがよいと思われるが,その際に本論文がそ の一助となれば幸いである.