はじめに
2006年 11
月7日に行なわれたアメリカの中間選挙では、民主党が 12
年ぶりに上下両院において多数党の座を奪還した。このため共和党が大統領府と連邦議会の両方を制する統一 政府が終焉し、大統領の政党と連邦議会の多数党が異なる分割政府が復活した。
対イラク戦争の長期化などによりブッシュ大統領への支持率が低迷し、また、一連の汚 職事件などにより連邦議会への不信が強まるなか、民主党は議席を増やすであろうという のが、選挙前の大方の予測であった。しかし、特に上院では、民主党が過半数を取るのは、
相当困難であると考えられていた。上院で民主党が過半数(51議席)に達するには6議席増 す必要があり、そのためには接戦州の大部分で勝利しなくてはならなかったからである。
また、下院でも、共和党現職議員に有利な選挙区の区割りなどの構造的優位があった。さ らに、情報技術(IT)を利用した選挙戦術などの面で、共和党は民主党よりも進んでいると 指摘されていた。にもかかわらず、民主党は上下両院において過半数を占め、予想を上回 る善戦をした。
以下では、民主党が予想外の大勝利を収めた要因を、全米レベルおよび州レベルで分析 したい。まずイラク戦争への批判の高まりなどを、全米レベルの共和党への支持率低下と 関連付け、次いで個々の州や選挙区にどう影響していったかを明らかにする。そして、こ うした
2006
年中間選挙の結果が、当面の議会運営や2008
年の選挙にどう作用するか考察し たい。1
選挙の結果今回の中間選挙で民主党は、連邦下院で31議席増やし、233議席を獲得した。下院の総議 席数は
435
であり、その過半数は218
である。31議席増は、1982年の27
議席を上回るが、1994
年の共和党の54
議席増よりも小幅である。上院においては、民主党は6
議席増やし、49議席となった。これに民主党寄りの無所属議員 2名を加えて、過半数の最低ラインである
51議席に達する
(1)。上院では、6名、下院では23名の共和党現職議員が落選した。下院にお
ける
20名以上の現職議員の落選は、1998年以来のことである。
2006年は、女性の政界進出が加速した年であった。上院では中西部のミネソタ州および
ミズーリ州で女性の新人が当選し、史上最多の16名に達した(上院の16%)。政党別内訳は、民主党が11人、共和党が
5人である。下院では 11
人の新人が加わり、女性議員数はやはり 最多の71名となった(下院の16%)(2)。71名のうち民主党は50
人、共和党は21人である。上 下両院とも、民主党のほうが共和党よりも女性の政界進出が進んでいる。近年の選挙にお いて、女性は民主党の最も重要な支持基盤のひとつである。下院においては、民主党が多 数党となったことにより、民主党のナンシー・ペロシが、第110議会において女性初の下院
議長に就任することとなった。2
中間選挙の特質と近年における共和党の構造的優位共和党の敗因の分析に入る前に、まずアメリカにおける連邦中間選挙の特質および近年 における共和党の構造的優位について説明しておきたい。中間選挙においては、連邦レベ ルで下院議員のすべておよび上院議員3分の1が改選される。大統領選挙がない年に行なわ れる中間選挙では、大統領選挙の年と比較して投票率が10ポイント前後低い。2006年選挙 の投票率は、2002年と比較して
0.7
ポイント増の40.4%
であった(3)。投票率が低いため、大 統領選挙の年と比べて支持基盤の動員が重要となる。連邦議会は、現職議員が知名度や政治資金面での優位を背景に再選されやすい構造を有 している。特に下院ではその傾向が強い。1960年以降、下院現職議員の再選率が
90%
未満 だったのは1964年のみである。特に1998年から2004
までの間は現職再選率が高く、98%を 超えた。1990年代以降、下院選挙区の区割りをめぐる2
つの傾向が共和党に有利に働いた。第1は、1994年における州議会での共和党の躍進である。この年の選挙で、共和党が上下両院を制
する州が8から19に増えた。連邦議会の区割りを決めるのは州議会なので、州議会の多数党 は、連邦レベルの選挙区の区割りを有利に進めることができる。
共和党優位に貢献する第
2の傾向は、アフリカ系アメリカ人やヒスパニックが多数を占め
る下院選挙区が増えたことである。アフリカ系アメリカ人やヒスパニックは、民主党の支 持率が高い。共和党は、こうした民主党の大票田を特定の選挙区に集中することにより、残りの選挙区で優位に立つ戦術を、1990年代以降採用してきた。2006年現在で白人有権者 の割合が半分以下の下院選挙区の数は、435選挙区のうち
89にのぼる
(4)。1998年と比較して28の増加である
(5)。下院選挙区の区割り以外に、共和党は選挙戦術と選挙参謀についても優位に立っている との指摘がある。例えば、2004年大統領選挙の鍵を握ったオハイオ州民主党の選挙対策責 任者が、選挙対策の情報技術において民主党は共和党より3年遅れていると証言している(6)。 近年最も注目を集めている共和党の選挙参謀は、カール・ローヴである。ローヴほど頻繁 にメディアに取り上げられる選挙参謀は、例をみない。ブッシュ大統領は、ローヴに政治 と内政については中心的な役割を、外交についても補助的役割を与えたとされる(7)。大統領 選レベルの選挙参謀はテレビによる選挙広告のプロが多いが、ローヴはダイレクトメール による支持基盤動員の専門家である。従来の選挙戦術の主流は、不特定多数の視聴者にメ ッセージを送るテレビ広告により浮動票を獲得することであった。しかしチャンネルの多
様化が進むなか、ひとつのテレビ広告でカバーできる視聴者数は1960年代と比べて大きく 減っている。また浮動票も近年減少傾向にある。このためローヴは、情報技術を使って各 地に散らばる共和党支持者をピンポイントで識別し、動員する戦術を重視する。
共和党も民主党も、従来から個別訪問による支持基盤の動員を行なっていた。しかし、
その対象は支持者が集中して住む地区に限られていた。ところが、共和党の支持者は、民 主党支持者が多数を占める地区にも数多く住んでいる。従来は、こうした自党の支持者を 識別して接触するのが困難であった。ところが、クレジットカードの購買情報と投票行動 の相関を分析すると、有権者の購買傾向から支持政党を推定することが可能になる。例え ば、共和党支持者はポルシェを好み、民主党の支持者はボルボの所有者が多いといった傾 向がある。また、有権者をライフスタイルや価値観で分類し、それぞれのグループの琴線 に触れるメッセージを用意することができる。共和党の支持者データベースは、Voter-Vault と呼ばれる(8)。
こうして識別した共和党支持者に対して、投票日直前の
72時間を中心に、運動員が個別
訪問や電話で投票を求めるマイクロ・ターゲティングを共和党は行なった。重点的に接触 するのは、大統領選挙では投票するが中間選挙を棄権する有権者である。ローヴは、約200 万人の中核的ボランティア運動員を電子メールで組織して、支持基盤動員のネットワーク を構築した(9)。民主党の運動員は、有給の労働組合関係者が多い。こうした外部から来た運 動員よりも、ライフスタイルや価値観を共有するボランティア運動員のほうが、説得力が 高い。以上のような現職優位、選挙区の区割り、先進的な選挙戦術など共和党の構造的優位に より、ブッシュ大統領と連邦議会への支持低下という強い追い風はあったものの、2006年 初めの段階では民主党が上下両院で多数を制するのは困難と考えられてきた。にもかかわ らず共和党が大敗した原因を、全米レベルと州レベルに分けて、次節で分析したい。
3
共和党の敗因分析:全米レベル以下では全米レベルでの共和党の敗因を、出口調査の結果(下院)および各種世論調査に より論じる。また、中間選挙での大敗の根底にあったブッシュ政権2期目における支持率低 下の構図を示したい。
(1) 出口調査等結果分析
まず、支持政党別の得票からみてみよう。2004年の選挙と比較して、支持政党無しの有 権者からの民主党の得票率が大きく伸びていることが、2006年中間選挙の最大の特色であ る。2006年出口調査で民主党は、支持政党無し層からの得票を、2004年と比較して
8ポイン
ト伸ばし、57%とした。共和党との得票率の差は18ポイントである。1994
年から2004
年ま での民主党の支持政党無し層からの得票率は、49%前後で安定している(10)。他の世論調査も、民主党が支持政党無しの有権者からの得票を伸ばしたことを示してい る。投票日直前のCBS放送・『ニューヨーク・タイムズ』紙による調査では、民主党に投票 するとした支持政党無し層は50%であり、共和党に27ポイントもの差を付けた(11)。同時期
のギャラップの調査では
17
ポイントの差がみられる(12)。これら世論調査の結果を総合する と、2006年中間選挙における支持政党無しの有権者の間での民主党の優位は明らかである。民主党支持者の
9
割が民主党に投票し、共和党支持者の9割が共和党に投票するという構造 があり、選挙ごとの変動は少ない。このため、毎回変化する支持政党無し層からの得票率 が、選挙の結果を大きく左右する。同時に、中間選挙は投票率が低いため、支持基盤の動員も選挙結果の鍵を握る。2006年 出口調査にみる民主党支持者の割合は36%であり、共和党支持者の割合(34%)に
2
ポイン トの差を付けた。2004大統領選挙ではそれぞれ38%
で拮抗し、それ以前の大統領選挙にお いて民主党支持者の割合が共和党を数ポイント上回ってきた優位が崩れていた。2002年以 降、前述の情報技術を駆使した支持基盤動員において共和党が優勢であったことを考慮す ると、2006年の中間選挙で民主党は善戦したと言える。それが2006
年中間選挙出口調査で は、ブッシュへの反対の一票を投じたとした回答が36%
もあり、反ブッシュ的ムードが民 主党支持者の動員に寄与したと考えられる。こうした出口調査にみる有権者の動向をどのように説明したらよいか。投票行動の説明 力が一番高いのは、支持政党である。しかし、支持政党は長期的に安定しているので、毎 回の得票率の変化は説明しにくい。次に有力なのは、景気動向に関する有権者の意識であ る。しかし、2006年出口調査で経済の状況が悪いとする有権者の割合は
50%
であり、2004 年と比較して2ポイント減ったものの、変化の幅は小さい。また、もしも景気の影響があっ たとしても、経済状況の改善は多数党に有利に働くので、共和党の得票率は逆に上がらな くてはいけない。このように、経済状況に関する有権者の認識では、2006年の中間選挙を 説明しにくい。共和党が大きく得票を減らした原因の手がかりは、投票の際に有権者が何を重視したか という回答である。前述のCBS・『ニューヨーク・タイムズ』の調査は、有権者に対して投 票に際して最も重要な争点は何かを聞いている。1位は
27%のイラク戦争で、2位
(13%)の 経済を大きく引き離している。他の調査でもイラク戦争が最も重要な争点という結果が出 ている(13)。2006年出口調査は、「イラク戦争を支持する」とした有権者の81%が共和党に投
票し、イラク戦争を支持しない回答者の80%が民主党に投票したことを示す。2004年の選 挙では、「イラク戦争開戦を支持する」と出口調査で答えた者の割合は、51%であったのに 対し、2006年中間選挙で「イラク戦争を支持する」と回答したのは42%に減少した。以上 の結果から、イラク戦争への支持の低下が、共和党の得票率減に結び付いたと結論付ける ことができる。イラク戦争は、連日のメディア報道と
2005年以降のブッシュ政権内の混乱や共和党のス
キャンダルと相俟って、ブッシュと連邦議会への支持を押し下げていった。イラクに関す る主要テレビ・ネットワークの2006年の報道件数を、ヴァンダービルト大学のニュースア ーカイブで検索すると、2136件に達する。他のニュースと比較すると、例えばイスラエル は681件、ハリケーン・カトリーナは648
件、経済は253件、エネルギーは178
件、中国は209
件、日本は117件、汚職は80件などとなっており、イラク関係の報道頻度は他のニュー
スを圧倒していることがわかる(14)。メディア報道件数は、何が大事な争点かという世論を左 右する議題設定効果を有する。
第2の理由は、「イラク戦争は対テロ戦争」というブッシュ政権の説明の破綻である。原 理主義のアル・カーイダと、世俗的なバース党支配下のイラクとの間には、協力関係はな かった。しかし、ブッシュ政権は、イラク戦争を対テロ戦争の最前線と位置付けた。それ は、テロの不安におびえる有権者の支持を得るためであった。こうした世論対策が功を奏 して、CBS・『ニューヨーク・タイムズ』の世論調査では、2004年
2
月には44%、翌2005
年12月においても 41%の回答者が「イラク戦争は、対テロ対策としてきわめて重要」とみな
していた(15)。これが
2004年大統領選挙におけるブッシュの再選に寄与した。しかし、中間
選挙前月の2006年
10
月には31%
にまで低下した。イラク報道が繰り返され、また9・11同 時多発テロ事件やイラクに関する報告書などが出されるなか、正しい事実関係がアメリカ 国民に浸透していったと言える。(2) ブッシュと連邦議会共和党への支持率低下の構図
イラク情勢に加えて、2005年夏以降、ブッシュ政権の不手際やスキャンダルが連続した ことが、支持率の低下に寄与した。2005年
8月のハリケーン・カトリーナへのブッシュ政権
の対応が後手に回ったことは、強いリーダーというイメージを傷付けた。次いで同年10月
における連邦最高裁判所判事の候補として、側近の大統領首席法律顧問ハリエット・マイ ヤーズを指名したが、これを撤回して政権内の混乱を印象づけた。指名を断念したのは、人工中絶問題に関するマイヤーズの立場が不鮮明だと中核的支持基盤のキリスト教右派が 反対したためであった。同月にはチェイニー副大統領の首席補佐官ルイス・「スクーター」・ リビーが、国家機密であるCIA職員の身分を漏洩した事件に関する偽証罪で起訴された。翌
2006年 2月には、チェイニー副大統領が狩猟での猟銃の誤射により同行者を負傷させる事件
を起こした。3月には、ドバイ首長国の国営企業がアメリカにおける
6
つの港湾の管理者と なることをブッシュ政権が認可しようとしたところ、世論が中東のイスラム教国の企業で あることにテロへの不安を感じて反発し、それに押されて多数の共和党議員が反対に回っ たことにより、同企業が申請を取り下げるに至った。イラク情勢の泥沼化に、こうした混 乱と不祥事の連続が追い討ちをかけ、ブッシュへの支持率は低下していったのだった。CBS・『ニューヨーク・タイムズ』の調査では、2005
年8月初旬のブッシュの支持率は 42%
であったが、翌年8月には
33%
まで落ちていた(16)。こうした支持率低下の背景として、共和党内部や軍関係者からの批判の噴出も無視でき ない。共和党インサイダーによる批判の続出が、ブッシュ政権の特色である。元財務長官 のロバート・オニール、著名な政治評論家のケヴィン・フィリップス、ウォーターゲイト 事件で有名なジョン・ディーンなどがその例である。また、『ワシントン・ポスト』紙のボ ブ・ウッドワードの3部作などジャーナリストの著作に、相当踏み込んだ政権インサイダー の証言に基づくものがみられる。さらに、政権2期目においては、退役した将軍・提督クラ スの軍人によるイラク政策批判や、陸・海・空・海兵隊の機関紙が中間選挙直前にラムズ フェルド国防長官辞任を求める意見を一斉掲載したことなども、ブッシュ政権の威信を傷
付けた。
内部批判の続出や支持率の低迷は、世論に同調する共和党議員の造反を招いた。その結 果、新たな支持基盤開拓を目指すブッシュ政権の諸政策が、相次いで行き詰ったのである。
「思いやりある」温情的保守を標榜するブッシュは、小さな政府志向が強い共和党の保守 本流とは異なり、年金、教育および不法移民政策の改革などを柱とする保守政治の革新を 目指していた。教育と不法移民政策の改革は、西部と南西部の選挙を左右するヒスパニッ ク票の取り込みを目指すものであった。2004年の大統領選挙では、ブッシュはヒスパニッ ク有権者からの得票率を増やし、これが再選に貢献した(17)。ブッシュ政権は、再選後、1000 万人とも言われるヒスパニック系不法入国者にゲストワーカーの地位を付与することを要 とする改革を推進した。1000万人もの不法移民を強制送還することは、法の執行と経済へ の影響からみて現実的でないという判断であり、経済界や連邦上院からは支持された。し かし、連邦下院では、保守的な共和党議員が中心になって、犯罪の恩赦に等しいと激しく 反発した。こうした共和党内の造反により、ブッシュ政権の不法移民政策の見直しは頓挫 した。そして、2006年中間選挙においては、ヒスパニックからの共和党の得票率は、2004 年と比較して14ポイントも下がった。
現在基金の運用が国債で行なわれている公的年金の一部を、個人勘定として株式市場等 で運用できるようにする改革も、民主党の強い反対と共和党の分裂により行き詰った。そ の背景にあったのは、反対の世論が過半数を超えていたことなどであった(18)。ブッシュ大 統領や連邦議会への支持率が高ければ、多少の世論の反発があっても、共和党内の結束を 固めて重点施策を推進する余力があったかもしれない。しかし、2006年の中間選挙を控え て支持率が低迷する状況では、共和党の議員は世論に敏感にならざるをえず、ブッシュ政 権を支えることよりも自らの再選を優先したのであった。
支持率が低迷するなか、共和党は中核的支持基盤であるキリスト教右派への依存度を高 めることになり、宗教保守を狙ったパフォーマンスが目立つようになった。例えば2005年8 月にブッシュ大統領は、テキサス州の新聞のインタビューにおいて、人類の誕生の背後に は未知の力があるとする「知性による設計(intelligent design)」説を進化論と併行して公立学 校で教えることへの支持を表明している(19)。前述の最高裁判所判事候補の指名撤回などと相 俟って、宗教保守票を意識した一連の行為は、教会に通う頻度が少ない有権者の反発を招 いたと考えられる。2006年の出口調査では、月に一度程度教会に通うとする回答者と、教 会に通わないとする回答者の共和党得票率は、2004年と比較してそれぞれ
8
ポイントと6ポ
イント下がっている。2006年中間選挙の特色のひとつは、スキャンダルによる辞職や現職議員落選の続出であ
る。多数の共和党議員を巻き込んだのが、ロビイストのジャック・エイブラモフをめぐる 醜聞であった。エイブラモフは、カジノ買収をめぐる詐欺の容疑で起訴され、2006年3月に 実刑判決を受けた。その後これに関連してトーマス・ディレイ下院院内総務を含め3人の共 和党議員が辞職した。また、エイブラモフとの関係が問い質された連邦議会の現職が、上 院で1名、下院で3名落選している。エイブラモフ関連以外に、国防予算をめぐる贈収賄で
1名が辞職し、不倫、身内への便宜供与、政治献金疑惑および公約違反が争点となった 4名
が落選した。スキャンダルは、本来はローカルな問題である。しかし、院内総務を含む多 数の連邦議会議員がかかわったため、民主党はこれを「腐敗の文化」だと攻撃し、全米的 な争点としたのである。2006年中間選挙の結果に大きく影響したのが、投票まで約 1
ヵ月という10月初旬に起きたマーク・フォーリー議員の猥褻メール問題である。フォーリーは、下院共和党の院内幹 事であった。ゲイであったフォーリーが、連邦議会でインターンの少年に猥褻なメールを 送っていたことが報道され辞任に追い込まれた。フォーリーは同様の問題を過去にも起こ しており、これを共和党執行部が隠蔽したのでは、という疑惑に発展した。2004年以降共 和党は、ゲイの結婚への攻撃などを通じてキリスト教右派の動員を行なってきただけに、
フォーリーのスキャンダルの打撃は大きかった。2006年10月までは、民主党が上院を制す るのは困難で、また下院で過半数を取れるか否かも明確ではなかった。しかし、10月以降 それまで共和党が優勢であった多くの選挙区が接戦となった。「クック政治レポート」によ
れば、9月
20日において共和党現職と民主党挑戦者が互角の接戦区は18
であったが、10月6日には25に増加した(20)。このため終盤において共和党は完全に守勢に回り、勝算が低い選 挙区は切り捨てることを余儀なくされたのである。
このようにイラク情勢だけでなく、2期目におけるブッシュ政権内の不手際や不祥事の連 続や連邦議会のスキャンダルなども2006年中間選挙に少なからず影響し、支持政党無し層 をはじめ、多数の有権者の共和党離れを招いたと考えられる。
4
共和党の敗因分析:州・選挙区レベル本節では、共和党の敗因を、州レベル、選挙区レベルで分析していきたい。第1表は、落 選または辞職した共和党下院議員26名および上院議員6名について、選挙区、イデオロギー、
2006年中間選挙および2004
年大統領選挙の得票差ならびにスキャンダルの有無に関して整理したものである。イデオロギーは、ADA(「民主的行動のためのアメリカ人」)がリベラル度 の指標として選んだ20の対決法案(2006年)への投票から出した点数(100が最もリベラル)
で示している。第1表から読み取れるパターンは次のとおりである。
(1) 落選・辞職議員は、上下両院とも北東部および中西部に集中している。下院および 上院それぞれの約3分の
2が、これらの 2地域の議員である。
(2) 下院ではスキャンダルで辞職または落選した議員が半数弱の
12名に及ぶ。上院では 1
名にとどまる。ただしオハイオのデュワイン議員については、同州の共和党知事を めぐるスキャンダルの影響を考慮する必要がある。(3)
2004
年大統領選挙において民主党のケリー候補の得票率がブッシュ大統領を上回っ た選挙区、すなわち民主党寄りの下院選挙区で7名が落選している。うち 4名はイデオ
ロギー的には共和党よりも民主党に近いきわめてリベラルな議員である。上院におい ては、非常にリベラルな議員が1名、ややリベラルな議員が1名落選している。
次にイラク戦争やブッシュへの支持率の低下が、州や選挙区レベルでどう影響したか考
議員名 地域 落選
と 辞職
選挙区
2004年 ケリー 得票率
スキャンダル等 ADA 2004年
得票率
ジェブ・ブラッドリー 北東部 落選 ニューハンプシャー1区 30 63% 48%
チャールズ・バス 北東部 落選 ニューハンプシャー2区 40 58% 52%
ロブ・シモンズ 北東部 落選 コネチカット2区 55 54% 54%
ナンシー・L・ジョンソン 北東部 落選 コネチカット5区 45 60% 49%
スー・L・ケリー 北東部 落選 ニューヨーク19区 25 67% 45%
ジョン・E・スウィーニー 北東部 落選 ニューヨーク20区 20 66% 46% エイブラモフとの関係 メリッサ・A・ハート 北東部 落選 ペンシルヴェニア4区 0 63% 45%
カート・ウェルドン 北東部 落選 ペンシルヴェニア7区 10 59% 53% 娘に多額のコンサルタント費を 払った企業に便宜を供与した疑い マイケル・G・フィツパトリック 北東部 落選 ペンシルヴェニア8区 40 55% 52%
ドン・シャーウッド 北東部 落選 ペンシルヴェニア10区 10 93% 40% 不倫問題 アン・M・ノーサップ 南部 落選 ケンタッキー3区 5 60% 51%
トム・ディレイ 南部 辞職 テキサス22区 0 55% 36% エイブラモフとの関係 ヘンリー・ボニーリャ 南部 落選 テキサス23区 5 69% 35% 裁判所による選挙区区割り変更 チャールズ・H・テーラー 南部 落選 ノース・キャロライナ11区 0 55% 43%
マーク・フォーリー 南部 辞職 フロリダ16区 30 68% 46% 猥褻メール E・クレイ・ショー・ジュニア 南部 落選 フロリダ22区 20 63% 52%
ジム・リーチ 中西部 落選 アイオワ2区 50 59% 55%
クリス・チョコラ 中西部 落選 インディアナ2区 5 54% 43%
ジョン・ホステトラー 中西部 落選 インディアナ8区 15 53% 38% 失言を連発 マイク・ソドレル 中西部 落選 インディアナ9区 5 49% 40%
ボブ・ネイ 中西部 辞職 オハイオ18区 10 66% 43% エイブラモフとの関係 ジル・グットネヒト 中西部 落選 ミネソタ1区 10 60% 47% 12年で引退との公約を反故 ジム・ルーン 中西部 落選 キャンザス2区 0 56% 39% 時価を下回る価格で自宅を買えるよう
ロビイストから便宜供与を得たという疑惑 J・D・ヘイワース 西部 落選 アリゾナ5区 5 59% 45% エイブラモフとの関係 リチャード・W・ポンボ 西部 落選 カリフォルニア11区 0 61% 45% エイブラモフとの関係 ランディー・カニンガム 西部 落選 カリフォルニア50区 0 58% 44% 国防費をめぐる贈収賄
リンカン・チェイフィー 北東部 落選 ロードアイランド州 80 59% 57%
リック・サントラム 北東部 落選 ペンシルヴェニア州 5 52% 51%
マイク・デュワイン 中西部 落選 オハイオ州 37 60% 49%
ジム・タレント 中西部 落選 ミズーリ州 0 50% 46%
ジョージ・アレン 南部 落選 ヴァージニア州 0 52% 45% 人種差別的発言 コンラッド・バーンズ 西部 落選 モンタナ州 5 51% 39% エイブラモフとの関係
第 1 表 2006年中間選挙における共和党現職の落選・辞職議員
(出典) 1.
2.
3.
4.
落選・辞職議員一覧は、“Departing Members of the 109th Congress,” CQ Weekly, November 13, 2006. p. 3066。
下院のADAのスコアは、http://www.adaction.org/2006Housevr.htm、上院はhttp://www.adaction.org/2006Senatevr.htm。
議員および2004年大統領選挙のケリー得票率は、Michael Barone and Richard E. Cohen, The Almanac of American Politics 2006, Washington D.C.: National Journal。
議員の汚職等については、Gregory L. Giroux, “Voter Discontent Fuels Democrat’s Day,” CQ Weekly, November 13, 2006, pp. 2986―2987、ニュース報道など。
連邦上院
州 ADA 落選
と 辞職 地域 議員名
2004年 ケリー 得票率 2004年
得票率 スキャンダル等
連邦下院
接戦区および民主党優勢区の議員名をグレーで表示。前者の基準は前回選挙の議員の得票率が55%を下回る場合であり、後者は 民主党の2004年大統領候補の得票率が50%を超える選挙区(斜体で表示)。
察したい。第2表は2006年出口調査における民主党得票率、ブッシュ、連邦議会および対イ ラク戦争への支持率ならびに家計が悪化したと答えた回答者の割合を、地域別に比較した ものである。この表から明らかなのは、北東部においてはブッシュやイラク戦争への支持 率が全米平均より目立って低いことである。このため、ブッシュやイラク戦争への支持低 下の影響が最も大きかったのは北東部だと言える。北東部以外の地域で落選した議員の大 部分は、①前回の選挙で得票率が
55%
以下の接戦区の、②2004年大統領選挙で民主党のケ
リー候補が50%以上得票した民主党寄りの選挙区の、または③スキャンダルを抱えた脆弱 な議員である。しかし、北東部では、これらのいずれにも該当しない、不安材料のない共 和党議員が多数敗れている。ロードアイランド州では、ブッシュ政権に批判的であった上 院議員(リンカン・チェイフィー)が落選している。また、下院では経歴が明らかに弱い民 主党候補が共和党の現職を破って当選するといった現象が起きている。例えばニューハン プシャー1区で当選したキャロル・シー・ポーターは、民主党ローチェスター市支部の委員 長を1
年務めたという限られた政治歴・公職歴しかもたないソーシャル・ワーカーであっ た。ペンシルヴェニア4区で当選したジェイソン・オルトマイヤーも、ピッツバーグ大学医 療センターの職員であった。こうした政治歴が乏しい新人候補に現職議員が敗れるくらい、北東部では共和党への逆風が強かったと言える。
以上列挙した点に、北東部および中西部では家計が悪化したとする有権者が全米平均よ り高い(特に後者)という地域経済の要因を加味すると、2006年中間選挙における共和党現 職議員の落選・辞職をおおむね説明できる。2006年中間選挙は、イラク戦争やスキャンダ ルによる共和党の自滅で民主党が過半数を取ったと総括できよう。
しかし、民主党陣営の戦術にも評価すべき点がいくつかある。第1は、イラク帰還兵、ベ トナム帰還兵などを約60人擁立したことである(21)。当選したのは上院1名、下院
4名にとど
まる。しかし、イラクからの撤兵を志向する民主党が、帰還兵大量擁立で愛国心をアピー ルするイメージ戦術は、愛国的で保守的な有権者が多い中西部や南部の有権者からの支持 を増やしたと考えられ、また、次の2008年の選挙にもその影響が持ち越されていく可能性 がある。第2には、 2004
年にケリーが過半数を取った18選挙区を重点化し、経歴がしっかり
した候補を擁立するとともに、十分な選挙資金を用意した点である。それによって7人の共第 2 表 2006年中間選挙出口調査にみる主要指標別回答者構成の地域差
民主党支持 ブッシュ支持 連邦議会支持 イラク戦争支持 家計が悪化 白人の キリスト教福音派
全 米 38% 43% 37% 42% 25% 24%
北東部 44% 33% 33% 33% 28% 12%
中西部 37% 43% 38% 43% 31% 27%
南 部 35% 51% 42% 50% 22% 35%
西 部 37% 41% 32% 40% 20% 16%
(出典) 2006年中間選挙出口調査。
1. 全米は http://edition.com/ELECTION/results/states/US/H/00/epolls.0.html。
2. 北東部は http://edition.com/ELECTION/results/states/US/H/00/epolls.1.html。
3. 中西部は http://edition.com/ELECTION/results/states/US/H/00/epolls.2.html。
4. 南部は http://edition.com/ELECTION/results/states/US/H/00/epolls.3.html。
5. 西部は http://edition.com/ELECTION/results/states/US/H/00/epolls.4.html。
和党現職を破るとともに、新人同士の対決となった
2選挙区を制した
(22)。第3には、2002年
中間選挙と比較して民主党は集めた政治献金を倍増し共和党との差を縮めたことである(23)。 第4には、共和党に追い付くべく、有権者データベースの強化に着手したことである。次に両党の支持基盤動員の効果を検証するため、2002年の中間選挙と比較した
2006
年の 得票数の変化を、下院で4人の現職が落選したペンシルヴェニア州を事例として取り上げた
い。第
3表は、同州で勝者の得票率が 55%
以下の7つの接戦区を抜き出し、2006
年の得票数が2002年と比較してどれだけ伸びたかを比較している。第
3表から明らかなのは、第 1には、
民主党候補の得票数が大幅に増えた選挙区が多いことである。前述の
18重点選挙区に限ら
ず得票が伸びている。第2には、北東部での強い逆風にもかかわらず、2
つの選挙区(6区と15区)
で共和党現職の得票数が伸びて落選を免れたことである。これら2
選挙区が、民主党 の18重点選挙区に含まれることは興味深い。この2選挙区の事例から、接戦区における民主 党の攻勢に対して共和党は支持基盤動員で反撃し、ダメージをコントロールしたことがう かがえる。民主党の重点選挙区では、18重点選挙区のうち、ペンシルヴェニアの2
選挙区を 含めて、9の選挙区で共和党現職が再選を果たしている。共和党の強力な動員戦術がなけれ ば、30議席減では済まなかったことを、ペンシルヴェニアの事例は示唆している。下院で は共和党が3%以下で辛勝した選挙区が全米で15あった(24)。5
第110議会の展望
最後に
2007年 1
月開始の第110議会について展望したい。ペロシ下院議長および上院のハリー・リード院内総務は、2008年選挙に向けてどのような戦術を採用するのだろうか。ま
第 3 表 2006年中間選挙のペンシルヴェニア州接戦区(勝者得票率55%以下)
における得票数の伸び率(2002年比)
選 挙
区 2002年候補 得票数 得票率 2006年候補
2006年 得票数の 2002年比
2004年 ケリー 得票率
共和党 得票数 得票率 現職再選
3 共和党 P・イングリッシュ 116,763 77.70% P・イングリッシュ 108,525 53.60% 93
47% ○
民主党 ─ ─ ─ S・ポーター 85,110 42.10% ─ 4 共和党 M・ハート 130,534 64.60% M・ハート 122,049 48.10% 93
45% ×
民主党 D・スティーヴン・Jr. 71,674 35.40% J・オルトマイヤー 131,847 51.90% 184 6 共和党 J・ガーラック 103,648 51.40% J・ガーラック 121,047 50.70% 117
51% ○
民主党 D・ワフォード 98,128 48.60% L・マーフィー 117,892 49.30% 120 7 共和党 C・ウェルドン 146,296 66.10% C・ウェルドン 114,426 43.60% 78
53% ×
民主党 P・レノン 75,055 33.90% J・セスタック 147,898 56.40% 197 8 共和党 J・グリーンウッド 127,475 62.60% G・フィッツパトリック 124,138 49.70% 97
51% ×
民主党 T・リース 76,178 37.40% P・マーフィー 125,656 50.30% 165 10 共和党 D・シャーウッド 152,017 92.90% D・シャーウッド 97,862 47.10% 64
40% ×
民主党 ─ ─ ─ C・クリストファー 110,115 52.90% ─ 15 共和党 P・テューニー 98,493 57.40% C・デント 106,153 53.60% 108
50% ○
民主党 E・オブライアン 73,212 42.60% C・ダーティンジャー 86,186 43.50% 118
(出典) 1. ペンシルヴェニア州州務省の得票データに基づき作成。
2. 2002年得票結果は、http://www.electionreturns.state.pa.us/ElectionsInformation.aspx?FunctionID=13&ElectionID=7&
OfficeID=11。
3. 2006年得票結果は、http://www.electionreturns.state.pa.us/ElectionsInformation.aspx?FunctionID=12&ElectionID=24。
た共和党側はどのように対抗してくるだろうか。
下院のペロシは、きわめてリベラルなサンフランシスコ市を擁するカリフォルニア州第8 区を代表する。同選挙区における2004年大統領選挙でのブッシュの得票率は
14%であった。
この選挙区における有権者の4分の1強は、中国系である。このためペロシは、中国の人権 問題に力を入れ、人権の観点から中国との貿易協定には反対してきた(25)。下院の新外交委 員長のトム・ラントスも、人権外交の推進者である。
党の運営に関しては、ペロシはイデオローグというよりも、関係者の話をよく聞いて調 整を行なったうえで、一度決めたことは遵守させる調整型の政治家だと言われる。それは 北東部のボルティモア市の市長を務めた父親ゆずりの政治手法とされる(26)。
上院院内総務のハリー・リードは、イデオロギー的には穏健で、上院の諸規則と手続き に精通した老練な政治家である。共和党院内総務のミッチ・マッコンネルも、やはり院内 手続きを楯に取った妨害などが得意なタイプで、イデオロギー的には保守である。共和党 下院院内総務のジョン・ベイナーは保守派であるが、ブッシュ政権の教育改革を推進する ため民主党リベラル派と協調した実績を有する。
2006
年の中間選挙後、共和党および民主党双方とも歩み寄りと協力の姿勢を表明した。選挙直後の通常のパターンである。民主党は多数党であるとはいえ、上院ではわずか1議席 差の過半数にとどまる。このため無理な議会運営はできない。また、下院ではリベラル派 よりも中道派の議員のほうが数で勝る。ブッシュ政権としてもイラク政策で民主党の協力 を得る必要があり、また残りの2年で後世から評価される業績を残したいであろう。しかし、
民主党がブッシュ大統領と協力して業績が出れば、それは共和党への評価を高めることに なり、次の選挙で民主党に不利になる。このため民主党は議会多数党の責任を問われない ようにしつつ、大統領の業績づくりを妨害せざるをえない面もある。
中間選挙後、ブッシュはイラクへの地上部隊増派を提案した。民主党は、世論を背景に 増派に真っ向から反対している。また、世論を受けて一部の共和党議員もこれに同調して いる。外交上の最大の懸案であり、また支持率低下を通じて内政の足かせとなっているイ ラク問題をめぐり、早くも2007年2月の時点でブッシュ政権と民主党は対決モードの兆しを みせている。大統領との戦いにおいて民主党の顔となるのが、ペロシ下院議長である。世 論調査では、ペロシは好感度が比較的高く、また今のところ反感度が低い。支持率が低下 したブッシュにとって、ペロシは手ごわい存在となるかもしれない。
結びに代えて―2008年選挙に向けて
候補の乱立と予備選挙の前倒しが、2008年選挙の特色である。民主党最有力候補のヒラ リー・クリントンは、抜群の知名度と組織力・集金力を誇るものの、世論調査では反感度 が高い。共和党のほうでは、現在有力なルドルフ・ジュリアーニ(前ニューヨーク市長)や ジョン・マッケイン(アリゾナ州上院議員)は、中道・穏健派であり、党の中核的支持基盤 であるキリスト教福音派の支持を得にくい。圧倒的に強い候補がいないため、民主党、共 和党とも多数の候補が出馬している状況である。
1988年以降民主党は、穏健派や支持政党無し層を狙った中道路線を採用している。それ
は、民主党の中核的支持基盤のリベラル層が、共和党の支持基盤の保守層と比較して数が 少ないためと言える。ブッシュは、数のうえで勝る保守層の結束を固めることで、2004年 大統領選挙で勝利した。しかし、こうした保守路線をこれ以上継続すると、2006年中間選 挙にみられた支持政党無し層の共和党離れが、固定化するおそれがある。そうなると、毎 回接戦となるペンシルヴェニア、オハイオ、フロリダなどの大票田で勝利するのは容易で ない。また、近年大統領選挙で共和党が負けたことがないヴァージニアやノースカロライ ナなども流動化してくる可能性すらある。このため、共和党が支持政党無し層の票を取り 戻せる候補を擁立できるか否かが、2008年大統領選挙の行方を左右しよう。下院選挙区の区割りや情報技術による支持基盤動因など、共和党の構造的優位は堅固で ある。しかし、肝心なイラク情勢が今後1年半余りで大きく改善すると考える材料は、今の ところ見当たらない。また、近年民主党が優勢な若者の投票率が上昇していること、イデ オロギー区分ではリベラルな若者が増えていること、インターネットを通じた小口献金な どにより政治資金面で共和党との差が縮まっていることなどは、民主党にとっての新たな 構造的優位になりつつある。言うまでもなく1年
9
ヵ月先のことを正しく予測するのは難し い。共和党の予備選挙で穏健派と保守派が泥仕合を演じ、その結果、アメリカ初の女性大 統領が誕生という展開は、想定しうる数々のシナリオのひとつだとは言える。(1) 改選前は、共和党55、民主党44、無所属1。改選後は、共和党49、民主党49、無所属1および無 所属民主党(Independent Democrat)1。無所属民主党を名乗るジョゼフ・リーバーマンは、民主党 の現職議員であったが、予備選挙で落選したため、無所属で立候補し当選。
(2) Center for American Women and Politics, “Women Candidates - Election 2006; Congressional and Statewide Office - Winners and Losers”(http://www.camp.rutgers.edu/Facts/Elections/Can2006results.html).
(3) Curtis Gans, “Bush, Iraq Propel Modest Turnout Increase Ending 12-Year Republican Revolition,” Center for the Study of American Electorate, p. 1, 2006(http://spa.american.edu/ccps/files/File/csae/csae061109.pdf).
(4) Harold W. Stanley, Richard G. Niemi, Vital Statistics on American Politics 2005―2006, Washington D.C.:
Congressional Quarterly Press, 2006, pp. 56―59.
(5) Ibid., p. 55.
(6) Tom Hamberger and Peter Walsten, One Party Country, New Jersey: Wiley, 2006, p. 153.
(7) Mark Halperin and John Harris, The Way to Win: Taking the White House in 2008, New York: Random House, 2006, p. 149.
(8) Douglas B. Sosnik, Matthew J. Dowd and Ron Fournier, Applebee’s America, New York: Simon and Schuster, 2006, pp. 31―51, 184―188.
(9) Ibid., p. 55.
(10) “Republicans Draw the Lowest Support Since 1982,” The New York Times, November 8, 2006(http://www.
nytimes.com/2006/11/08/us/politics20061108_ELECTION_PORTRAIT_HOUSE.html).
(11) 実際に投票に行く有権者を推定したlikely votersが対象。CBS News, “Looking Ahead to the Election and the 110th Congress,” October 27―31, 2006, PDF. online.
(12) Frank Newport et al., “Democrat’s Election Strength Evident Across Voter Segments; Independent support a key to Democratic Success,” Gallup News Service, December 9, 2006, online.
(13) The Pew Research Center, “Republicans Cut Democratic Lead in Campaign’s Final Days: Democrats hold 47―
43% Lead Among Likely Voters,” November 5, 2006(http://peoplepress.org/reports/display.php3?ReportID=
295).
(14) Vanderbilt University Television News Archive(http://tvnews.vanderbilt.edu).
(15) The New York Times, CBS News Poll, October 5―8, 2006(http://graphics.nytimes.com/packages/pdf/politics/
20061010_poll_results.pdf).
(16) Ibid.
(17) 細野豊樹「2004年米大統領選挙・議会選挙の分析」『国際問題』第539号(2005年2月)、18―19、
24―25ページ、参照。
(18) 安井明彦「岐路を迎える米国の公的年金改革―共和党の『出口戦略』とその行方」『みずほ米州 インサイト』2005年7月14日(http://www.mizuho-ri.co.jp/research/economics/pdf/us-insight/USI016.pdf)。
(19) Peter Baker and Peter Slavin, “Bush Remarks On ‘Intelligent Design’ Theory Fuel Debate,” Washington Post, August 3, 2005, online(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/08/02/AR 2005080201686_pf.html).
(20) Charlie Cook, “2006 Competitive House Race Chart,” Cook Political Report(http://www.cookpolitical.com/
races/report_pdfs/2006_house_comp_sept20.pdf; http://www.cookpolitical.com/races/report_pdfs/2006_house_
comp_oct6.pdf).
(21) Fighting Dem Vets for Congress, 2006(http://www.fighting-dems.com/).
(22) “Decline of the ‘Kerry Republicans,’” CQ Weekly, November 13, 2006, p. 2987.
(23) “Campaign Finance Success,” Washington Post, November 3, 2006(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn /content/article/2006/11/02/AR2006110201531_pf.html).
(24) “Fifteen Republicans Squeaked by in 2006 Analysis Shows,” CQ Politics.com, January 4, 2007(http://www.
cqpolitics.com/2007/01/fifteen_republicans_squeaked_b.html).
(25) Hal Marcovitz, Nancy Pelosi, Philadelphia: Chelsea House, 2004, pp. 72―83.
(26) Jill Barshay, “Woman of the House Brings a Sense of Power,” CQ Weekly, November 13, 2006. pp. 2970―
2973.
ほその・とよき 共立女子大学助教授