日本数学教育学会第1回春期研究大会「学会指定課題研究」
わが国の算数・数学教師教育における教材研究
オーガナイザー: 佐々木徹郎(愛知教育大学)
発表者: 飯田慎司(福岡教育大学)
岡崎正和(岡山大学)
指定討論者: 太田伸也(東京学芸大学)
久保良宏(北海道教育大学旭川校)
研究題目と要約
題目:「わが国の算数・数学教師教育における教材研究」の趣旨 発表者:佐々木徹郎(愛知教育大学)
要約:本課題研究は,昨年の第 45 回数学教育論文発表会の課題別分科会「数学教育学 における研究の国際化」から展開したものである。その中で議論されたことは,現在の 米国で注目を浴びている教師教育の研究であった。そして,多くの研究は教師が算数・
数学を教えるために必要な数学の知識に焦点を当てている。しかし,その知識をどのよ うに使うのか,それはどうすれば養えるかといった研究は少ない。数学知識や教授知識 ではなく,「研究」という言葉を使うのは,東洋やわが国の教師文化を反映している。
ところが,わが国でも,「教材研究とは何か」は必ずしも明確ではない。「今の若い先生 は,教材研究が出来ていない」とは,よく聞く耳にすることである。それでは,教材研 究は何をすることなのか,どうすればいいのか。そこで,本課題研究では,わが国の教 育実践の背景にある教材研究を中心に,教師教育の在り方を究明したい。
題目:算数・数学教師教育における教材研究の理論化に向けて 発表者:飯田慎司(福岡教育大学)
要約:算数・数学科教育では,伝統的に,関係する教師集団の経験に基づく観点から教 材研究が行われ,授業が実践され,授業研究会等で教材研究の是非も論じられてきたが,
教材研究に対する数学教育学としての理論化は十分でない。本発表では,数学教育研究 者が関与し教育行政機関と協力した教師教育研究を振り返ることによって,算数・数学 教師教育における教材研究を理論化するための枠組みを得る一助としたい。とりわけ,
教材研究モデルに付加されるべき,認識論に関わる Pedagogical Values の転移性と変 容性について,DVD 研修教材の作成に参加したモデル授業者の場合や,本教材を活用し た諸研修に参加した教師集団の場合を典型的事例として確認した。さらに,教材研究の 構成要素についての整理とともに,教師教育における焦点化の必要性を提起した。
題目:算数・数学科教材研究に含まれる教師の知識の様相について ―数学教育学研究の課題にする為に―
発表者:岡崎正和(岡山大学)
要約:教材研究は日本の算数・数学の授業の質の維持と向上を支えてきた中心的要因で あると思われる。今日,日本の算数・数学教育が世界の中で注目されるとともに,一方 では指導力不足教員の存在が指摘されるなど,教師の専門性とは何か,とりわけ教材研 究の質を吟味できる枠組みが必要となっている。
本稿は,教師の専門性や教材研究がどうあるべきかを問うのでなく,それらを学問的研 究の俎上に載せることをめざすものである。とりわけ,教材研究において教師が有すべ き知識とは何かに主な焦点を当てて,その分析を可能にする視点として Ball らの教師 の知識に関する研究を吟味する。また NCTM ハンドブックから Sowder の論考を採り上げ,
教材研究を単に授業の準備としてではなく,教師の職能成長過程の中に位置づける必要 性についても論じていく。