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オーキシンの受容と信号伝達の分子機構 - J-Stage

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【解説】

植物ホルモンの一種であるオーキシンはSCFTIR1ユビキチン リ ガ ー ゼ 複 合 体 に 結 合 し,Aux/IAAリ プ レ ッ サ ー の ユ ビ キ チン化およびプロテアソームによる分解を介してさまざまな 遺 伝 子 の 発 現 を 調 節 す る.こ の と き オ ー キ シ ン は,Aux/

IAAリプレッサーとTIR1受容体の結合を促進する「分子接 着剤」として機能する.本稿では,オーキシン受容とシグナ ル伝達の分子機構について概説し,新しいオーキシン受容体 拮抗剤を紹介する.

オーキシンは胚発生,花芽形成,側根形成,頂芽優 勢,光・重力屈性など,植物の分化・成長のあらゆる局 面に関与する.そのホルモン作用は,主として細胞伸 長,細胞分裂および細胞分化を制御することで発揮され る.オーキシンは光屈性の実験からその存在が示唆さ れ,インドール3-酢酸 (IAA) が植物界に広く存在する 主要な天然オーキシンとして同定された(1) (図1.オー キシンは,単純な化学構造であるにもかかわらず,顕著 なホルモン作用を示すことから,これまでに多くの芳香 族誘導体のオーキシン活性が研究され,合成オーキシン

が多数報告されてきた.それらのなかでフェノキシ酢酸 系オーキシンやピリジン系オーキシンなどが除草剤や植 物成長調整剤として,広く用いられている.近年,モデ

オーキシンの受容と信号伝達の分子機構

TIR1オーキシン受容体拮抗剤の分子設計

林 謙一郎,野崎 浩

Molecular Basis of Auxin Perception and Signal Transduction Ken-ichiro HAYASHI, Hiroshi NOZAKI, 岡山理科大学理学部生物 化学科

図1オーキシン・オーキシン拮抗剤の構造

IAA, NAA, 2,4-D, Picloram(オーキシン),PCIB(アンチオーキ シン),BH-IAA, PEO-IAA, Auxinole(TIR1/AFB受容体拮抗剤)

(2)

ル植物であるシロイヌナズナを用いた分子遺伝学的手法 を中心として,オーキシンのシグナル伝達の基本的な仕 組みが分子レベルで明らかになった(2).本稿ではオーキ シンのシグナル伝達経路について概説し,分子の視点か らオーキシン受容体の機能と構造について述べるととも に,筆者が開発したオーキシン受容体の拮抗剤の設計戦 略と作用機序について紹介したい.

遺伝子発現の調節を介したオーキシンシグナル 比較的単純な分子であるIAAが,植物の複雑な形態 形成や多様な環境応答を調節することから,長らく,

オーキシンのシグナル伝達経路の解明はオーキシン研究 の中心命題であった(2).これまでのシロイヌナズナの オーキシン感受性変異体の解析から,オーキシンのシグ ナル伝達系にかかわる多くの原因遺伝子が同定され,

オーキシン応答の分子基盤の概要が明らかになった(図 2.現在,植物のオーキシン応答には遺伝子発現を介し た応答と,これを介さない応答の2つが知られている が,主として前者による応答が重要だと考えられてい る(3)

オーキシンはAux/IAAリプレッサータンパク質の分 解を促進することで,オーキシン応答性遺伝子の転写を 誘導する(図2).すなわち,転写抑制因子であるAux/

IAAリ プ レ ッ サ ー は,SCF (Skip1, Cullin, F-box pro- tein) 複合体であるE3ユビキチンリガーゼにより認識さ れ,ユビキチン化を受けて,プロテアソームにより分解 される.このときオーキシンは,SCF複合体を介した Aux/IAAタ ン パ ク 質 の ユ ビ キ チ ン 化 を 促 進 す る.

Aux/IAAリプレッサーは,ARF (Auxin response fac- tors) 転写因子とヘテロ2量体を形成し,ARFの転写機

構を抑制している.オーキシン濃度が高くなるとAux/

IAAリプレッサーの分解促進によりARF転写因子の機 能が活性化され,さまざまなオーキシン応答性遺伝子群 が発現する(4).このオーキシンに応答した遺伝子発現は 非常に速く,20分以内に数百の遺伝子の発現が観察さ れる.このようにオーキシン初期応答性遺伝子発現の制 御の仕組みが明らかになったが,オーキシンの受容か ら,SCF複合体によるAux/IAAのユビキチン化に至る 過程は不明であった.オーキシンは胚発生に重要なホル モンなので,その受容体に変異があると胚性致死とな り,受容体の変異体は得られないと考えられてきた.し かしながら,2005年に長い間発見されなかったオーキ シン受容体がTIR1と同定された(5, 6).驚くべきことに TIR1受容体は,SCFTIR1ユビキチンリガーゼ複合体を構 成するF-boxタンパク質であった.シロイヌナズナの 変異体は,オーキシン耐性変異として早くから同定 されており,シロイヌナズナでは,TIR1と,そのファ ミリー遺伝子である   (auxin-signaling F box  protein) の計6種のF-boxタンパク質がオーキシン受容 体として冗長的に機能している(7〜9).オーキシンは,

TIR1受容体に結合すると,Aux/IAAとTIR1間の相互 作用を促進する.その結果,Aux/IAAのユビキチン化 とそれにつづく分解が促進されると転写抑制が解除さ れ,最終的にオーキシン応答性遺伝子群の発現が誘導さ れる.このようなSCF複合体によるリプレッサータン パク質の分解制御を介した遺伝子発現の調節は,ジベレ リンやジャスモン酸のシグナル伝達機構でも見られ

(10, 11).特にジャスモン酸ではオーキシンと同じシグ

ナル機構が機能しており,ジャスモン酸‒イソロイシン 複合体(ジャスモン酸の活性型)は,SCF複合体を形 成するF-boxタンパク質であるCOI1受容体に結合し,

SKP1 (ASK1)・Cullin・F-boxタンパ ク質(TIR1/AFB受容体)は,オー キシン依存的にAux/IAAリプレッ サーを認識してユビキチン化する.

こ の と き,オ ー キ シ ン はTIR1と Aux/IAAの相互作用を仲介する 分 子接着剤 として働く.Aux/IAAは ARF転写因子の機能を抑制している ので,ユビキチン化されたAux/IAA が 分 解 さ れ る と,ARFの 制 御 下 の オーキシン応答性遺伝子群の発現が 誘導される.TGTCTC : オーキシン 応答性シスエレメント,CTD : カル ボキシ末端ドメイン,DBD : DNA結 合 ド メ イ ン,TPL : Toplessコ リ プ レッサー

図2TIR1/AFB‒Aux/IAA‒ARFオーキシンシグナル経路

(3)

JAZ1リプレッサーの分解を調節することは特に興味深 い(12)

転写調節を介さないオーキシンシグナル

細胞伸長におけるオーキシン応答時間が比較的短時間 であることから,この伸長応答は,遺伝子発現を介さな いオーキシン応答も関与していると考えられており,酸 成長説が議論されてきた(13).その作用機作はオーキシ ンがH-ATPaseやカリウムイオンチャンネルを活性化 することで細胞壁を酸性化し,応力緩和によって細胞が 伸長するというものである.近年,このオーキシンによ る素早い細胞伸長応答がTIR1/AFBオーキシン受容体 の四重欠失変異体でも観察されることや,細胞伸長応答 とH-ATPaseの活性化に相関があることから,転写制 御を介さないオーキシンのシグナル系の存在が支持され ている(13, 14)

ABP1 (Auxin binding protein 1) は,TIR1にさきが けて1990年にオーキシン結合タンパク質として同定さ れ,長らくオーキシン受容体の候補と考えられてきた.

遺伝学的手法によって同定されたTIR1とは異なり,生 化学的手法により単離されたABP1の結合タンパク質と しての性質は明らかであったが,受容体としてのABP1 の生理作用については長い間不明であった.その理由と してABP1は細胞分裂や細胞伸長に関与すると報告され ているが,オーキシン応答性遺伝子の発現を制御する直 接的な証拠は得られておらず(15),また,単一遺伝子で あるABP1ホモ欠失変異は胚性致死となることが挙げら れる.

しかし,近年ABP1の機能抑制変異体が,矮性な形態 を示すことから,ABP1は生理学的に重要な役割を果た すことがわかった(15).さらに,ABP1がオーキシンの 輸送担体であるPINタンパク質の細胞膜への局在化を 調節することも明らかにされた(16, 17) (図3.オーキシ ン輸送担体であるPINタンパク質の細胞膜への局在化 はクラスリンを介した小胞輸送で調節されており,細胞 膜に局在化したPINタンパク質はオーキシン輸送の方 向を制御する.このPINタンパク質の局在化の制御が オーキシン輸送の量と方向を決定し,それにつづくオー キシンの濃度勾配を決定すると考えられている(15).そ し て 低 分 子 量Gタ ン パ ク 質 ROP (Rho of Plant) が,

ABP1下流のシグナル経路に位置し,ROPシグナルを経 由してPINタンパク質の局在化を調節していることが 明らかとされた.このようにABP1の下流にROPタン パク質がシグナル因子として働き,オーキシン輸送を制 御するモデルが示されたが,H-ATPaseの活性化と酸 成長による迅速な細胞伸長に,ABP1が活性化するROP タンパク質が関与するかどうかは,依然として不明であ り,今後注目すべき点である.

オーキシン受容体の分子認識機構

SCFユビキチンリガーゼ複合体のF-boxタンパク質 は,ユビキチン化される標的タンパク質の認識を担う.

F-boxタ ン パ ク 質 で あ るTIR1オ ー キ シ ン 受 容 体 は, 

Aux/IAAリプレッサーとオーキシン依存的に結合す る.TIR1受容体が同定された2005年当時,オーキシン はTIR1オーキシン受容体のコンフォメーションの変化 図3転写制御を介さないオーキシ ンシグナル経路

オーキシンは,H-ATPaseなどが関 与する細胞伸長を誘導する.また,

オーキシンは,ABP1の下流の低分 子量Gタンパク質 (ROP) を活性化す る.オーキシンがABP1に結合する と,ROPシグナルを介して,クラス リン依存的なPINの小胞体への輸送 を阻害する.結果として,オーキシ ンはPINの細胞膜への局在化を誘導 する.

(4)

を誘導すると考えられていた.その2年後,TIR1‒オー キシン‒Aux/IAA複合体の結晶構造が報告され,SCF ユビキチンリガーゼの新しい基質認識の機構が提唱され た(18) (図4.TIR1はマッシュルーム型の立体構造を形 成し,オーキシンはTIR1表面の凹みの最深部に結合 し,Aux/IAAタンパク質がオーキシン結合部位を埋め るように結合して,TIR1‒オーキシン‒Aux/IAA複合体 を形成する.オーキシンはここで,TIR1とAux/IAA の両タンパク質間の疎水結合による相互作用を促進する 分子接着剤 として機能する.すなわち,オーキシン はタンパク質間相互作用を直接的に仲立ちする分子で あった.受容体側の視点から見ると,TIR1のオーキシ ン結合部位とAux/IAAのドメインIIのWPPVモチーフ 部分が,IAAを挟み込んで保持することから,Aux/

IAAとTIR1の両タンパク質がオーキシンの複合受容体 として機能するとも言える(図4).このAux/IAAは,

4つのドメインI 〜 IVからなり,ドメインIIのWPPV モチーフ部分は,TIR1との結合に必須のモチーフであ り,ド メ イ ンIIIと ド メ イ ンIVは,ARF転 写 因 子 の  CTD (C-terminal domain) と相互作用してヘテロダイ マーを形成することにより,ARF転写因子の機能を抑 制する(図2).

一方,ABP1-オーキシン複合体の結晶構造は,2000 年に報告されており(19),ABP1のオーキシン結合部位 は樽形の深いポケット内に形成され,そこにオーキシン がはまり込む.結合部位では,ヒスチジン残基により保 持された金属イオンとオーキシンのカルボン酸が配位結 合 す る(図4).す な わ ちABP1とTIR1受 容 体 で は,

オーキシンの認識機構が全く異なっている.

TIR1/AFB‒Aux/IAA‒ARFシグナル伝達系の多 様性

オーキシンがかかわる多様な環境応答や分化・成長 は,多数の遺伝子の複雑な発現制御により調節されると 考えられる.では,オーキシンの複雑な発現制御はどの ように調節されるのだろうか? シロイヌナズナのゲノ ムには前述の,TIR1/AFB受容体が6種類,Aux/IAA リプレッサーが29種類, 転写因子が23種類,存在 する(3).これらの遺伝子間の発現部位や時期が異なるこ と,TIR1/AFB受容体とAux/IAA, およびAux/IAAと ARFの相互作用に親和性の差があることが知られてい る.すなわち,TIR1/AFB受容体・Aux/IAAリプレッ サー・ARFシグナル伝達系の各因子の発現制御やシグ ナル因子間の相互作用の組み合わせがオーキシン応答性 遺伝子群の発現を複雑に調節させることを可能にしてい ると考えられている(9, 20)

シロイヌナズナの6種のTIR1/AFB受容体に関して は,TIR1とAFB2が主要なオーキシン受容体として機 能しており,AFB1やAFB3もTIR1と機能が冗長する と報告されている(8).非常に興味い深いことに,合成 オ ー キ シ ン で あ るpicloram(除 草 剤) は,AFB4と AFB5受容体にのみ,高い結合活性を示す(21).AFB4・

AFB5受容体では,オーキシン結合部位におけるオーキ シン認識残基が,TIR1とは数残基が異なっていること が,picloramに対して強い親和性を示す原因である(9). また,AFB4の機能欠損型の変異では,オーキシン応答

図4TIR1受 容 体 お よ び,ABP1 のオーキシン認識機構

IAAはTIR1表面の凹みに結合し,そ のIAA結合部位にフタをするように Aux/IAA(ドメインIIペプチド)が 結合する.IAAは,TIR1のオーキシ ン結合部位とAux/IAAの間を,疎水 結合を介して結合するため 分子接 着剤 として機能する.ABP1では,

樽形の深いポケット内にオーキシン が結合する.

(5)

が亢進されたような表現型を示す.つまり,AFB4が欠 損するとオーキシンシグナルが亢進すると考えられる.

このことから,AFB4受容体は,オーキシンシグナルを 負に調節すると推測されたがその作用機構は不明であ る(21). / や 遺伝子群についても,それぞ れある特定の組み合わせでホモダイマー,ヘテロダイ マーを形成することが,分化・環境応答を調節している と考えられる.これまでにシロイヌナズナで,IAA12/

BDL-ARF5やIAA14/SLR1-ARF7ARF19などいくつか のAux/IAA‒ARFの組み合わせが,胚形成や側根形成 などの分化調節で中心的な役割を果たすと報告された が, と 遺伝子群の多くは,その機能が冗 長していることから,単一の遺伝子が欠損しても生育や 形態への影響はほとんど観察されず,個々の遺伝子の詳 細な生理機能はいまだ不明である(3)

蘚苔類から,シダ類,裸子植物,被子植物まで,陸上 植物は多様な形態と生活環を示す.これら蘚苔類から被 子植物まで,SCFTIR1‒Aux/IAA‒ARFシグナル経路の 遺伝子ホモログが保存されており,共通したオーキシン の遺伝子発現の制御系が存在すると考えられている.コ ケのモデル植物である蘚類ヒメツリガネゴケ (

) では,そのオーキシン応答が詳細に 解析されており,被子植物のオーキシン応答性のプロ モーターは,ヒメツリガネゴケでも機能する.また,ヒ メツリガネゴケのPpTIR1受容体とシロイヌナズナ Aux/IAAは複合受容体を形成してオーキシンを認識す る(22).そして,後述するTIR1受容体のオーキシン拮抗 剤 も ヒ メ ツ リ ガ ネ ゴ ケ の オ ー キ シ ン 応 答 を 阻 害 す

(23, 24).このように,TIR1受容体のオーキシン認識機

構はコケ類から被子植物まで陸上植物では保存されてい ることから,オーキシンという植物ホルモンが植物の進 化過程で不可欠な役割をもっていると考えられ,今後の 解析から,藻類でのオーキシンの機能やシグナル伝達系 の解明が期待される.

オーキシン研究の化学ツール

近年のオーキシンバイオロジーの進歩は,モデル植物 であるシロイヌナズナを使った分子遺伝学的解析によっ て展開してきた.しかしその結果明らかになったのは,

オーキシンの生合成・輸送・シグナル伝達にかかわる遺 伝子の多くが多重遺伝子群を形成し,その解析には致死 性などによる困難な多重変異体の作成を必要とするとい うことであった.実際,オーキシン関連の多重変異株で は胚発生に問題が生じて不稔になる例が多い.このよう

な遺伝学的手法の問題を克服・補完する手法として阻害 剤などの低分子化合物をオーキシンの代謝・輸送・シグ ナル経路に作用することは非常に有効である.すなわ ち,低分子の阻害剤は遺伝学的に完全に遮断することが 困難なオーキシンのシグナル経路を容易に遮断すること ができる点,分化・成長の特定の段階での投与から時 期,部位特異的なオーキシンの生理的役割の解明,さら に分子遺伝学的手法が適応できない幅広い植物種にも適 用可能であることが挙げられる(25)

過去の合成オーキシンの研究から,オーキシン応答を 阻害する PCIB ( -chlorophenoxy isobutylic acid) など の, アンチオーキシン がこれまで数多く報告されて きたが,いずれのアンチオーキシンもその作用機構が不 明であり,その特異性には疑問があった(26).そこで,

われわれはTIR1/AFBオーキシン受容体に特異的な拮 抗剤を見いだし,その作用機構を分子レベルで明らかに

した(23, 24).また,オーキシンの生合成経路に関する大

きな進展とともに(27, 28),いくつかのオーキシン生合成 阻害剤が報告されている(25, 29).これらの化学ツールを 有効に利用することで,さらなるオーキシン研究の加速 が期待できる.

新しいオーキシン受容体拮抗剤と分子作用機構 筆者は,オーキシン誘導体を中心にケミカルツールを 研究してきたが(25),それらのなかで,IAAのカルボキ シル基の 

α

 位にアルキル基を導入した誘導体である 

α

- アルキルIAA誘導体が,強いオーキシン拮抗活性を示 すことを見いだした(23).特に,長いアルキル側鎖の末 端にかさ高い置換基をもつBH-IAAは,オーキシン応答 性遺伝子の発現から植物個体のオーキシン反応を拮抗阻 害した.また,BH-IAAはTIR1とAux/IAAの相互作 用をオーキシンと拮抗して阻害したことから,BH-IAA はTIR1受容体の拮抗剤として作用すると考えられた

(図5A).このBH-IAAとTIR1受容体の共結晶構造を解 析したところ,BH-IAAのインドール酢酸部位は,IAA と同様な配座でTIR1に結合していた(23).一方,導入し た側鎖は,TIR1受容体とは相互作用しておらず,TIR1 受容体からAux/IAAの結合部位に向けて配向し,揺ら いだ配座をとっていた.つまり,この側鎖が,Aux/

IAAのTIR1への結合を妨害するため,Aux/IAAはユ ビキチン化されず,その結果,オーキシンシグナルが遮 断されると推定された.

オーキシンであるIAAは,TIR1‒Aux/IAAの複合受 容体の間に取り込まれて,強固なTIR1‒オーキシン‒

(6)

Aux/IAA複合体を形成する(9).すなわち,オーキシン はTIR1‒Aux/IAAの複合受容体に強い親和性を示す.

一方,BH-IAAはオーキシンと拮抗的にTIR1に結合し,

TIR1‒オーキシン‒Aux/IAA複合体の形成を阻害する.

すなわち,BH-IAAはTIR1とのみ結合する.しかし,

その親和性は高くないため,BH-IAAは拮抗型の阻害剤 としては,必ずしも活性が高くなかった.BH-IAAより も強い作用を示す拮抗剤を創薬するには,TIR1のオー キシン結合部位へ高い親和性を示す分子構造を見いだす ことがカギとなる.そこで,TIR1のオーキシン結合部 位 にIAAよ り も 高 い 親 和 性 を 示 す リ ガ ン ド を コ ン ピューターを用いた分子ドッキング計算(  スク リーニング)より探索し,インドール骨格を含む化学構 造ライブラリーからPEO-IAA(IAAアナログ)を同定 した(24).さらに,PEO-IAAをリード化合物とした構造 展開から,TIR1/AFB受容体に高い親和性を示すaux- inoleを見いだした(24).その結合配座の解析から,aux- inoleのキシレン基が,TIR1の Phe82残基と

π

π

相互作 用 で 強 く 相 互 作 用 す る こ と が 示 唆 さ れ,Aux/IAA 

(WPPVモチーフ)のプロリン残基とTIR1のPhe82側 鎖との疎水相互作用をauxinoleが妨害すると推定された

(図5B).分子動力学計算の詳細な解析からも,TIR1の Phe82残基がオーキシンの結合と,それにつづくAux/

IAAの認識に重要な役割を示すことが報告されている.

われわれのオーキシン拮抗剤の分子設計は,リガンド の認識部位(IAA)に つっかえ棒 (側鎖)を結合し,

タンパク質間の相互作用を阻害する作用機序を基にして いる.ジャスモン酸,ジベレリン,アブシジン酸などの 植物ホルモンの受容機構は,受容体とシグナルタンパク

質間の相互作用の促進に基づいている.これらの受容体 の阻害剤の設計戦略に,われわれのTIR1受容体拮抗剤 は今後,有用な例になると考えている.

おわりに

オーキシンの受容体と基本的なシグナル伝達の分子機 構が明らかにされた.しかし,オーキシンのシグナル伝 達系は多くの因子が複雑に相互作用して,植物の成長を 統合的に制御している.そこで,TIR1/AFB受容体・

Aux/IAAリプレッサー・ARF転写因子間の相互作用や 発現部位の網羅的な解析により,オーキシン応答を一連 のシステムとして理解しようとする試みが行われてい

(9, 20).また,オーキシンの輸送・生合成・代謝はシグ

ナル伝達と密接に関係しているため,これらの相互関係 の解析も重要である.今後,遺伝子発現を介さないシグ ナル伝達系とあわせて,オーキシン応答の統合的な理解 が重要となる.そのとき,前述の理由から低分子化合物 の開発が必要不可欠であり,重要なツールになると思わ れる.

蘚苔類から被子植物まで,オーキシンのシグナル伝達 系や輸送系の基本的な仕組みは共通していると考えられ るが,陸上植物の生活環と形態は多彩であることから,

植物種によってはオーキシンの生理的な役割が多様化し ている可能性も考えられる.これまでに私たちが理解し ている遺伝学を背景にしたオーキシンの生理機能は,近 年のシロイヌナズナを中心としたオーキシンバイオロ ジーから得られた情報に基づいている.今後,多様な植 物におけるオーキシンの生理機能の解明が期待され,そ 図5TIR1受容体とオーキシン拮抗剤 BH-IAAauxinole の結合様式と阻害機構

(A) BH-IAAの長いアルキル鎖は,Aux/IAAの結合部位に配向し,その結合を阻害する.(B) Aux/IAAとの結合にTIR1のPhe82残基は 重要である.Auxinoleのキシレン部位は,このPhe82残基と強く結合するため,TIR1に高い親和性を示し,Aux/IAAの結合を効率よく 阻害する.

(7)

の知見は農業分野での応用展開へのカギとなるだろう.

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Referensi

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