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C/Nバランス調節による植物の代謝・成長戦略 - J-Stage

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セミナー室

植物の高CO2応答-6

C/Nバランス調節による植物の代謝・成長戦略

佐藤長緒,山口淳二

北海道大学大学院理学研究院

はじめに

生物を構成する物質群は,細胞内の多様な栄養素代謝 によって供給されている.これは,動物や植物に共通す る基本原理である.ヒトの場合,偏った食生活による栄 養バランスの乱れはメタボリックシンドロームのような 疾患につながるため,社会の大きな関心事となってい る.植物においてもまた,適切な栄養素バランスの維持 は最適な成長を遂げるうえで重要な因子である.そのな かでも,糖(炭素源,C)と窒素源 (N) のバランス

「C/N」は細胞内の基幹代謝,さらには植物のライフサ イクル転換を制御する重要なシグナルとなる.また近 年,世界規模での環境問題でもある大気中CO2 濃度増 加という観点からも,C/Nによる植物の成長制御が注 目されている.本稿では,最近得られたC/N応答の分 子機構に関する知見を中心に,C/Nを介した植物の成 長戦略について紹介したい.

高等植物のC/N応答

植物は,自らが生育する環境中の栄養状態を受容し,

多様な代謝系を巧みに制御しながら生育している.図1 に示すように,大気CO2 から光合成により合成されるC と根から吸収されるNは,特に代謝の根幹となる重要 な因子であり,アミノ酸合成をはじめとした多くの代謝

過程で両者は深いかかわりをもつ.そのため,糖や窒素 化合物の絶対量に加えて,両者の量的関係性「C/N」バ ランスは,重要なシグナルとして植物の成長を大きく左 右する要因となる(1〜3)

C/Nによる植物の成長制御の例として,シロイヌナ ズナの発芽後成長におけるC/N応答を図2-Aに示す.

シロイヌナズナの発芽後成長において,過剰量の糖(高 C)と窒素の欠乏培地(低N)で生育させた植物体は著 しい生育阻害を示し,緑葉の展開が行われず,アントシ アニンという色素が蓄積する.これまで,こうした生育 阻害は糖による単独の効果「糖応答」として解析される こともあった.しかし,同じ糖濃度でも十分量の窒素

(高C/高N)を添加することでこうした生育阻害は緩和 される.逆に,糖の量を減少させる(低C/低N)こと

図1C/Nバランスによる植物の制御戦略

(2)

でもそうした緩和効果が観察される.このことから,こ のような現象は単純な窒素不足による効果ではないこと も理解できる.このように,植物の発芽後成長はC/N に応じて変化し,特に高C/低N条件は著しいストレス となる.このような発芽後間もない実生を用いた実験は 極端な例ではあるが,本葉を展開し,成熟した個体にお いてもやはり同様のC/N応答機構が存在し,通常培地 から高C/低N条件へと移植することでストレス状態が 加速され,生育が阻害される.

C, N代謝のクロストーク

このような植物のC/N応答を理解するうえで基本と なるのが炭素代謝と窒素代謝とのクロストークである.

その代表例として葉緑体におけるグルタミン酸合成過程 を紹介する(図2-B).炭素は,地上部の葉緑体におい てカルビン回路を経てCO2 が固定され,光合成により 糖が合成されることで得られる.糖は,解糖系・TCA 回路を経て,ミトコンドリアでのATP合成に必要なエ ネルギー源として供されるが,その過程で 

α

-ケトグル タル酸 (2-OG) が生じる.一方,窒素は地下部の根にお いてアンモニアまたは硝酸として吸収される.TCA回 路の中間体である2-OGとアンモニウムは,葉緑体のグ ルタミン‒グルタミン酸サイクル(GS-GOGATサイク ル)に利用され,2-OGを炭素骨格としてアミド基を転 移させることで最終的にグルタミン酸が合成される.グ ルタミン酸はそのほかのアミノ酸やクロロフィルなどの

主要代謝物の合成に利用されることから,栄養素代謝に おける重要なアミノ酸である.そのため,GS-GOGAT サイクルは,炭素代謝と窒素代謝がクロストークする重 要なポイントであり,大腸菌では2-OGに結合するPII タンパク質がC/Nバランスのセンサーとして機能する ことが報告されている(4, 5).また,GS-GOGATサイクル で働く葉緑体型グルタミン合成酵素 (GS) であるGS2の 遺伝子発現は,培地中の窒素濃度に加えて,糖濃度や光 照射条件によっても変化し,C/Nによる転写制御を受 けることも知られている(6)

C/Nの乱れが栄養素代謝に与える影響はそれだけに とどまらない.リブロースビスリン酸カルボキシラー ゼ/オキシゲナーゼ (RuBisCo) やクロロフィル  /  結合 タンパク質 (CAB) といった光合成関連遺伝子の発現は 過剰な糖の供給に加えて窒素欠乏でも抑制され,高C/

低N条件下で最も顕著な抑制を受ける(2, 3).また逆に,

炭素骨格の貯蔵先となるデンプン合成の鍵酵素である ADP-グルコースピロホスホリラーゼ遺伝子の発現は,

高C/低N条件下で促進され,細胞内C/Nを維持するよ うなバランス機構が働く(7).一方,無機窒素同化の初発 反応を担う硝酸還元酵素の活性は,光合成が行われない 暗条件ではリン酸化修飾とそれに伴う14-3-3タンパク質 の結合により不活性化するといった翻訳後修飾による活 性制御も知られている(8, 9).さらに,C/Nによる代謝制 御は,酵素の遺伝子発現量や活性の調節だけではなく,

植物の形態形成にも影響を与える.高C/低N条件は根 の側根形成を抑制し,これには硝酸トランスポーター

(A) (B)

図2植物のC/N応答と炭素・窒素代謝のクロストーク

(A) シロイヌナズナの発芽後成長におけるC/N応答.低C : 0 mMグルコース,高C : 250 mMグルコース,低N : 0.3 mM窒素(硝酸+アン モニウム),高N : 60 mM窒素(硝酸+アンモニウム).(B) アミノ酸合成における炭素代謝・窒素代謝のクロストーク.植物は,光合成に より大気中二酸化炭素 (CO2) を固定することで糖を合成し,根から硝酸 (NO3) やアンモニウムイオン (NH4) などの各種無機栄養素を 吸収し,代謝に利用している.TCA回路の中間産物である α-ケトグルタル酸 (2-OG) とアンモニウム (NH4) を基質にグルタミン酸を合 成するGS-GOGATサイクルはアミノ酸代謝の根幹であり,炭素・窒素代謝のクロストークの場となっている.TP : トリオースリン酸,

PEP : ホスホエノールピルビン酸,OAA : オキサロ酢酸,Gln : グルタミン,Glu : グルタミン酸

(3)

NRT2.1が関与することが報告されている(10).また,地 上部での光合成で得られたスクロースは,植物体内での 長距離シグナルとなり,窒素も含めた無機栄養素の吸収 器官である根の形態形成に影響を与える(11).以上のよ うに,炭素同化と窒素同化系が相互に制御し合うこと で,両代謝系の調和が巧妙に図られていることがわか る.

これまでのC/N制御因子解析

C/Nは植物に限らず,生物に共通した重要な栄養状 態のパラメーターである.そのため,C/Nセンサー・

シグナル伝達機構の解析は,単細胞・原核生物である大 腸菌やシアノバクテリアで先行して行われてきた.大腸 菌 で は,2-OGと 結 合 す るPIIタ ン パ ク 質 がC/Nセ ン サーとして機能することが報告されている(4).PIIは,

シアノバクテリアにも保存されており,C/Nセンサー としての生化学的機能が明らかになっている(5).PIIは,

窒素充足条件下ではグルタミン酸からのアルギニン合成 における鍵酵素である  -アセチルグルタミン酸キナー ゼ (NAGK) に結合し,その活性を促進する.窒素欠乏 条件になると,GS-GOGATサイクルが停滞し,TCA回 路由来の2-OG量が増加する.これにより,2-OG結合型 のPII量が増加し,NAGKに結合していたPIIの遊離が 促進される.その結果,NAGK活性が低下し,アルギ ニン合成の低下とグルタミン酸の消費が抑制される.ア ルギニンはタンパク質合成の材料としてだけではなく,

シアノバクテリア細胞内での有機窒素貯蔵体(シアノ フィシン)の構成成分としての役割もある.このよう に,2-OG量に応じたNAGK活性の制御は環境に応じた 成長(分裂増殖)と代謝のバランス維持に寄与すると考 えられている.また,PIIは2-OG依存的に,シアノバク テリアの硝酸同化系遺伝子発現を制御する転写因子 NtcAの活性を制御することも示されており,C/Nに応 じた窒素同化制御において主要な役割を果たすことがわ かっている(12)

高等植物シロイヌナズナでもPIIホモログAtGLB1の 解析から,この分子が2-OGに結合し,C/N代謝制御に 関与することが報告されている(13).AtGLB1タンパク 質は葉緑体に局在し,その遺伝子発現は光や糖処理に よって促進される.また,  過剰発現体は,窒 素源として硝酸アンモニウムで生育させた場合は野生型 と同様のC/N応答を示すが,グルタミンを与えた場合 は糖への感受性が高まり,アントシアニンの蓄積が増加 する.よって,原核生物のPIIタンパク質と同様に,高

等植物においてもAtGLB1がC/Nセンサーとして機能 する可能性が示唆された.ただし,バクテリアでの解析 結果とは異なり,2-OGの結合によるNAGK活性調節に ついては示されておらず,遺伝学的解析も不十分なため 高等植物におけるC/Nセンサーとしての機能は未解明 な点が多い(14)

PIIに 加 え て,グ ル タ ミ ン 酸 の レ セ プ タ ー で あ る  AtGLR1.1もまた植物のC/Nセンサー候補因子として報 告されている(15). のノックダウン変異体は,

高C/低Nストレスへの感受性が高まっており,野生型 に比べ顕著な発芽後成長の阻害を示す.また,このノッ クダウン変異体は,炭素および窒素一次代謝に関与する 酵素群およびABA合成酵素群の遺伝子発現に異常が見 られたことから,炭素代謝と窒素代謝を統合的に制御す る因子として機能することが示された.この論文の筆者 らは,AtGLR1.1がC/Nセンサーであり,そのリガンド がグルタミン酸である可能性を提唱したが,現在までに その検証報告は行われていない.

新規C/N応答制御因子ATL31の単離

上述のAtGLB1およびAtGLR1.1は,いずれも代謝的 側面あるいはほかの生物種での研究からその重要性が予 想されたものである.シロイヌナズナにおいて両遺伝子 変異体を用いた遺伝学的解析が行われてきたが,その影 響は限定的であり,C/Nセンサーとしての検証は不完 全なままであった.また,葉緑体,ミトコンドリアなど の各代謝に特化したオルガネラ分化が進み,多細胞生物 としてライフサイクルの変遷も大きく異なる高等植物で は,大腸菌やシアノバクテリアとは異なる独自のC/N 応答制御機構の存在も予想される.したがって,高等植 物におけるC/N応答機構の実態については多くの謎が 残されたままであった.そのため,新たなC/Nセン サーおよびシグナル制御分子候補の発見が待たれてい た.そこで筆者らは,新規C/N応答異常変異体の単離 を目指し,独自のC/Nストレス培地を用いたスクリー ニングを行ってきた.理化学研究所植物科学センターが 開発したシロイヌナズナ機能獲得型変異体 FOX (Full- length cDNA OvereXpressor)  ラ イ ン を 材 料 に,約 6,000ラインのスクリーニングを行った.その結果,こ の培地で耐性を示す新規のC/N応答異常変異体の単離

に成功した.  ( / ) 

と名づけられたこの変異体は,野生型植物が著しい生育 阻害を受けアントシアニンが蓄積するような高C/低N ストレス条件に耐性を示し,緑葉の展開が観察された.

(4)

その後の解析から,この変異体の表現型は   遺伝 子の過剰発現が原因であり,この遺伝子の機能欠損変異 体では,逆にC/Nストレスに高感受性となっていた.

したがって,ATL31タンパク質はC/N応答制御分子で あることが示唆された(3)

  遺 伝 子 は ATL (Arabidopsis Toxicos en  Levadura) ファミリーという高等植物に特徴的な遺伝 子ファミリーに属している機能未知のタンパク質をコー ドしていた(16, 17).このファミリーで最も特徴的なのが RINGと呼ばれるユビキチンリガーゼ (E3) に保存され たドメインである.E3は真核生物で保存されたタンパ ク質分解機構「ユビキチン‒プロテアソームシステム 

(UPS)」における鍵となる分子である(18).E3は,特異 的な標的タンパク質と結合し,E1, E2を経て受け渡され たユビキチン分子を付加することでプロテアソームによ る分解へと導く.植物では全ゲノムの5%にあたる約 1,200遺伝子がユビキチンリガーゼをコードしており,

その多様性が植物のもつ優れた環境適応能力の一翼を担 うと考えられている(19).ATLは,シロイヌナズナでは 約90種,イネでは120種以上のメンバーが存在する大き なファミリーを形成しているが,その機能はほとんど未 解明であった.RINGドメインに加えて,ATLファミ リーには,N末端付近に膜貫通が予測される疎水性アミ ノ酸領域,機能未知のGLDモチーフが保存されている.

また,C末端は保存性が低く,この領域が標的分子との 特異的な結合に関与することが予測されている.RING 型E3およびATLファミリーの機能に関する詳細は筆者 らの総説および以下の文献を参照されたい(16, 20)

  での再構成実験から,ATL31が実際にユビ キチンリガーゼ活性を有することが確認できた.また,

GFP融合タンパク質の観察および生化学的な分画実験 から,ATL31が細胞膜に局在することが示された.加

えて,RINGドメインまたはN末疎水性領域を欠損した    過剰発現体がC/Nストレス耐性を失うことか ら,ATL31は膜上に存在するユビキチンリガーゼとし て植物のC/N応答を制御することが明らかとなった(3)

ATL31標的分子14-3-3タンパク質の同定

ATL31のユビキチン化ターゲットは何か? これを つきとめることがATL31機能解析の重要課題であった.

そこで,筆者らはFLAGタグを用いたアフィニティー 精製とMS解析によるATL31相互作用因子の探索を試 みた.通常のATL31タンパク質を用いた場合,標的タ ンパク質はユビキチン化および分解を受けてしまい同定 が困難になることが予想された.そこで,より効果的に ユビキチン化標的分子を捕捉するために,上述のRING 変異型ATL31(不活性E3型)-FLAGを発現する形質転 換体を用いて実験を行った.精製産物のMS解析の結 果,複数の14-3-3タンパク質群がATL31相互作用因子 として同定された.14-3-3は分子量およそ25 kDaのタ ンパク質で,リン酸化された多様な標的タンパク質に結 合し,その活性や安定性等を制御する多機能分子として 知られている.そのなかでも,特にH-ATPaseや硝酸 還元酵素,グルタミン合成酵素,グルタミン酸合成酵 素,スクロースリン酸合成酵素など,炭素・窒素代謝の 主要な酵素群が14-3-3の結合により活性制御を受けるこ とが知られており,C/N応答との関連性が非常に高い

(表1.酵母2ハイブリッドなどの実験から,ATL31が C末端の非保存領域で14-3-3と結合すること,また蛍光 タンパク質再構成 (BiFC) 実験から両者が植物細胞内の 細胞膜上で結合することが確認された(未発表データ). このような相互作用に関する検証に加えて,ATL31が 14-3-3をポリユビキチン化し,また   機能欠損変異

表114-3-3の結合標的となる主要な炭素・窒素代謝関連酵素群

酵素 機能 14-3-3の影響 文献

細胞膜プロトンポンプ (H-ATPase) プロトン輸送・物質輸送,pH維持 活性亢進 25

スクロースリン酸合成酵素 (SPS) スクロース合成 活性抑制* 27

インベルターゼ (INV) スクロース分解26

トレハロースリン酸合成酵素 トレハロース合成38

ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ (PEPC) オキサロ酢酸合成 活性亢進* 39 6-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-二リ

ン酸加水分解酵素 (F2KP) フルクトース2,6-ビスリン酸の合成と分解37

デンプン合成酵素 (SS) デンプン合成 活性低下* 36

硝酸還元酵素 (NR) 硝酸還元 活性低下 25, 27

細胞質グルタミン合成酵素 (GS1) グルタミン合成(細胞質型) 活性亢進 27

葉緑体グルタミン合成酵素 (GS2) グルタミン合成(GS-GOGAT型) 活性亢進 27 グルタミン酸合成酵素 (GOGAT) グルタミン酸合成(GS-GOGAT型)26

*間接的な実験データによる予測で, での直接的な影響は未確定.

(5)

体では14-3-3蓄積量が増加していることが確認された.

さらに,発芽後成長時のシロイヌナズナを用いたC/N 処理実験から,14-3-3タンパク質が高C/低Nストレスに 応じて蓄積し,14-3-3過剰発現体はC/Nストレスに対し て高感受性を示すことが確認された.これらの生化学お よび遺伝学的解析の結果から,ATL31はユビキチンリ ガーゼとしてC/N状態に応じて14-3-3タンパク質の安定 性の調節を行い,その結果として植物の発芽後成長を制 御していることが結論づけられた(17, 21) (図3.この発 見により,今まで不明瞭であった高等植物のC/N応答 制御機構の一端が明らかになり,そこにはユビキチン‒

プロテアソームシステムによる特異的タンパク質分解が 関与するという植物独自の栄養ストレス応答機構の存在 が示された.

そのほかのC, Nシグナル制御E3

ATL31の単離と時期を同じくして,糖と窒素,個別 のシグナル伝達に着目した解析からも,UPSを介した 炭素・窒素シグナル制御機構の存在が相次いで報告され た.一つは,植物ホルモンであるアブシジン酸 (ABA) 

のシグナル伝達にかかわるユビキチンリガーゼ KEEP  ON GOING (KEG) であり,この分子の機能欠損変異体 では糖に対する応答および発芽後成長が異常になること が示された(22).KEGのユビキチン化ターゲットとして ABAシグナル伝達を担う転写因子ABI5が同定されて いる.KEGは,通常条件下でABI5をユビキチン化し分 解へと導くが,ABA処理により自己ユビキチン化が亢 進し不安定化する.その結果ABI5が蓄積し,下流の ABA応答関連遺伝子の発現が制御されることが明らか となっている.また,糖ストレス応答スクリーニングか ら単離された SUGAR INSENSITIVE 3 (SIS3) はRING

型E3であり,機能欠損変異体は糖に対する感受性が低 下する(23).ただし,この変異体はABAに対する応答性 が正常であることからABAシグナルとは独立した経路 で植物の糖応答に関与していると考えられる.SIS3の ユビキチン化ターゲットは未同定であり,その生化学的 機能は未解明である.

一方,低窒素条件下での生育が不良になる変異体の原 因遺伝子として報告された NITROGEN LIMITATION  ADAPTATION (NLA) もまたユビキチンリガーゼで あった(24).NLAは窒素欠乏条件での老化誘導に関与す るE3として機能する.NLAは核に局在し,この遺伝子 の欠損変異体では老化時のアントシアニンの蓄積が抑制 される.  機能欠損変異体のメタボローム解析から アントシアニン合成にかかわる二次代謝経路に異常のあ ることが報告されているが,標的タンパク質はいまだ不 明である.

まだ数は少ないが,ATL31およびこれらE3の機能解 析が進むことで,UPSを介した炭素・窒素栄養適応機 構の新たな一面が明らかになりつつある.

14-3-3タンパク質による炭素・窒素代謝制御 C/N応答制御因子ATL31のユビキチンターゲットと して同定された14-3-3は,これまでにもさまざまな生理 現象への関与が報告されてきた(9, 25).14-3-3は分子量お よそ25 kDaのタンパク質で,真核生物に広く保存され たタンパク質である.多くの場合,14-3-3は特異的なア ミノ酸配列中のセリン/スレオニン残基のリン酸化を認 識し,酵素活性や安定性,細胞内局在性などを変化させ る多機能タンパク質として知られている.シロイヌナズ ナでのプロテオミクス解析から,100種類を超える相互 作用タンパク質が確認されており,細胞内に広がるリン 図3ユビキチンリガーゼATL31 によるC/N応答制御の分子機構

(6)

酸化シグナル伝達ネットワークと広範なかかわりをも つ(26).特に,筆者らが研究している炭素・窒素代謝の 鍵酵素群の多くが直接の標的となり機能制御を受けるこ とが知られており,C/N応答との関連も深い(9, 27) (表 1).Shinらが行った   過剰発現体およびノックダ ウンシロイヌナズナを用いたメタボローム解析でも,デ ンプンやスクロース代謝に変化が見られ,14-3-3機能の 生理的意義も実証されている(28).また,最近では植物 ホルモン・ブラシノステロイドのシグナル制御因子 BKI1やBZR1, 花成制御因子Hd3a, さらには青色光受容 体phot1などにも直接結合し,植物の成長を制御する多 様なシグナル伝達系においても重要であることが報告さ れている(25, 29, 30)

ここでは,14-3-3と相互作用する一次代謝関連酵素の なかでも特に解析の進んでいる細胞膜H-ATPaseおよ び硝酸還元酵素を例に,14-3-3の具体的な機能について 紹介する.

1.  細胞膜H-ATPase

細胞膜H-ATPaseは,プロトンポンプとして機能 し,細胞内外の物質輸送やpH維持,気孔の開閉など,

細胞の活動を支える必須の膜タンパク質である.シロイ ヌナズナH-ATPaseファミリーの一つAHA2は,947 番目のスレオニン残基 (Thr947) がリン酸化を受けると 14-3-3が認識し,AHA2の2量体化が促進されることで 活性が亢進する(25).また,一方で931番目のセリン残 基 (Ser931) へのリン酸化は,この2量体化を抑制し,

活性が低下する.島崎,木下らの詳細な研究から,こう したH-ATPaseのリン酸化と14-3-3結合を介した活性 制御は,青色光シグナルに応じた気孔開口に重要な役割 を果たすことが明らかとなっている(31, 32).気孔は炭素 源であるCO2 取込みの窓口でもあり,気孔開閉におけ るH-ATPaseのリン酸化および14-3-3機能制御の解明 は植物科学における重要な課題の一つとなっている.射 場らが行った気孔開閉にかかわる変異体のスクリーニン グから,CO2 に応じた気孔閉鎖には孔辺細胞の陰イオン チャネルSLAC1および上流制御因子HT1による制御が 重要であることが明らかとなり,大きな成果を上げてい る(詳細は本シリーズ射場らの記事を参照されたく,こ こでは割愛する)(33, 34)

また,スクロース処理に応じたリン酸化プロテオーム 解析からも,スクロース添加によりAHA2のThr947の リン酸化が促進され,H-ATPase活性が亢進すること が報告されている(35).加えて,最近筆者らが行ってい る14-3-3相互作用因子の網羅的解析からも,高C/低N

ストレスによりH-ATPaseと14-3-3との相互作用が増 加するという実験結果を得ており(未発表データ),14- 3-3を介したH-ATPaseの機能制御は,炭素・窒素代謝 制御にも重要であることが伺える.

2.  硝酸還元酵素

H-ATPaseに加えて,14-3-3との相互作用に関する 解析が進んでいるのが硝酸還元酵素 (NR) である.NR は,トランスポーターで細胞内に取り込まれた無機窒素 の利用における初発の硝酸還元を担う鍵酵素であり,硝 酸の量や光環境により厳密に遺伝子発現量および酵素活 性が制御されている.NRもまた特異的なセリンのリン 酸化を目印に14-3-3の結合を受けるが,H-ATPaseと 異なり,NRでは活性が抑制される(25).こうしたNRと 14-3-3の結合は,昼間の光環境下では阻害され,暗所で 促進されることが示されており,単純な土壌中の硝酸量 ではなく,光合成や呼吸といった炭素代謝に関連したシ グナルとのクロストークにより制御されていることも興 味深い(27)

このほかにも表1に示すように,スクロースリン酸合 成酵素やデンプン合成酵素,グルタミン合成酵素,グル タミン酸合成酵素などが14-3-3相互作用分子であること が報告されている(26, 27, 36〜39).しかし,その結合様式の 詳細や生理学的な意義については不明な点がまだまだ多 い.最近筆者らは,栄養環境に応じた14-3-3相互作用の ダイナミクスを網羅的に解明すべく,一過的C/Nスト レス処理後の14-3-3相互作用因子の網羅的解析およびリ ン酸化プロテオーム解析に取り組んでいる.この手法に より,C/Nに応じた代謝変動における14-3-3機能の包括 的な理解が進むと考えている.また,従来から注目され てきた代謝酵素群に加えて,機能未知のシグナル伝達因 子と14-3-3結合の変動に関する情報も得られており,現 在詳細な解析を進めている.

炭素と窒素シグナルのクロストーク

上述の代謝レベルでのクロストークに加えて,植物の C/N応答を考えるうえで重要なのは,糖および窒素シ グナルのクロストークである.糖シグナルに関しては,

ヘキソキナーゼがグルコースセンサーとして報告されて おり,アブシジン酸やエチレンといった植物ホルモンも 含めた複数のシグナル伝達経路が統合的に関与すること が明らかとなっている(40).一方で窒素に関しては,榊 原らの研究から植物ホルモンのサイトカイニンを中心と したいくつかの重要なシグナル伝達系がわかっている

(7)

(41),窒素源のセンシングや早期の窒素応答にかかわ る情報伝達系に関してはほとんど解明されていなかっ た.しかし,この数年間に硝酸センシングおよびシグナ ル伝達に関して大きな進展があったので紹介したい.

1.  硝酸センサーCHL1

一つは硝酸センサーに関する報告で,2009年にHoら が シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の 硝 酸 ト ラ ン ス ポ ー タ ー CHL1/

NRT1.1が硝酸センサーとして機能することを報告し た(42).CHL1は硝酸濃度に応じて高親和性と低親和性の 両機能を有するトランスポーターとして知られており,

この活性変換には101番目スレオニン残基 (Thr101) の リン酸化が関与することが知られていた.Hoらの解析 から,低濃度の硝酸条件 (<1 mM) において起こる Thr101の リ ン 酸 化 は,CHL1を 高 親 和 性 型 ト ラ ン ス ポーターに変換するだけでなく,輸送活性とは独立し て,硝酸トランスポーター   遺伝子の硝酸によ る発現誘導を抑制する役割があることが示された.この Thr101のリン酸化はCBL9-CIPK23キナーゼにより行わ れることも確認されている.一方,高濃度の硝酸条件 

(>1 mM) ではThr101が脱リン酸化状態とり,硝酸誘 導性の   遺伝子発現が促進される.また,この 際にはThr101とは別のセリン/スレオニン残基へのリ ン酸化が起こることも確認されており,こちらのリン酸 化についてはCIPK8と未知のCBL依存的に行われると 考えられている.これらの結果から,CHL1は,硝酸濃 度に応じた特異的なリン酸化により,輸送活性とは独立 した硝酸センサーとしての機能を有すると結論づけられ た.ただし,硝酸濃度に応じたCHL1のリン酸化がどの ようにして制御されるのかはわかっておらず,CIPK23 やCIPK8の活性化機構とあわせて硝酸センシング機構 についてのさらなる解析が必要である.また,蜂谷らの 解析から,CHL1ノックアウト変異株がアンモニア感受 性にも異常を示すことが報告されている(43).これは,

CHL1が硝酸非依存的な機能をもつことを示唆するもの であり,窒素源のセンシング機構については多くの謎が 残されている.

2.  硝酸応答性転写因子NLP

もう一つの大きな発見が,硝酸誘導性の早期遺伝子発 現を制御する転写因子の同定である.小西と柳澤は,硝 酸還元反応における2段階目の亜硝酸還元反応を担う亜 硝酸還元酵素をコードする   遺伝子の硝酸応答性発 現に注目し,これに関与するシス因子を探索した.  

遺伝子のプロモーター領域を用いた詳細なレポーター解

析から,  遺伝子プロモーターに存在する43塩基が 硝酸応答性遺伝子発現のシス因子 (NRE) であることを 示した(44).また,硝酸還元酵素 遺伝子の硝酸応答 性シス因子としてNRE様配列 (NIA-NRE) が,この遺 伝子の下流領域に存在することも明らかにしている(45). さらに,NREを用いた酵母1ハイブリッドスクリーニン グから,硝酸応答性転写因子としてNIN-LIKE転写因子 

(NLP) を同定した(46).NLPはRWP-RKドメインを有 する転写因子であり,培地への硝酸添加に応じてNLP タンパク質が活性化し,NREに直接結合することで 

  遺伝子の転写誘導が起こることが示された.NIR に加えて,硝酸還元にかかわる酵素 (NIA1/2, UPM1),  硝酸トランスポーター (NRT1.1/2.1) さらに複数の硝酸 応答関連転写因子 (GARP, LBD39) に関してもNLP制 御下で遺伝子発現が制御されることを確認しており,

NLPが硝酸応答における重要な上流制御因子であるこ とが示された.

このように,硝酸センサーとしてCHL1,また硝酸応 答性遺伝子発現を担う転写因子NLPが同定され,硝酸 シグナル伝達の理解が大きく進んだ.では,糖センシン グと窒素(硝酸)センシングの下流では,どのように C/Nシグナルが統合され,C/N応答を誘導するのだろ うか? おもしろいことに,NLPの標的候補遺伝子の 多くは,硝酸誘導に加えて,糖処理による発現抑制も受 ける.NLPがこうした糖および窒素両方のシグナルを 受容し遺伝子発現を制御するのか,それとも糖と硝酸シ グナルが全く別の転写因子により独立に伝達された結 果,個々の遺伝子発現がC/N応答性を示すのであろう か? これを解明することはC/N応答制御機構の全容 を明らかにするうえで重要な情報となる.現在,硝酸に 応じたNLPタンパク質の活性化機構に関する解析が進 行しており,その解明が期待される.また,筆者らが単 離したユビキチンリガーゼATL31と14-3-3相互作用を 制御するリン酸化キナーゼが同定され,これら糖および 窒素センシングとの関係が明らかになることで,C/N シグナルの統合から代謝制御,さらには植物のライフサ イクルチェックポイントも含めた成長制御に至るC/N 応答制御分子ネットワークの全容解明の進展が期待され る.

C/Nによる高等植物のライフサイクル制御

C/Nは各代謝経路の活性制御だけではなく,高等植 物のライフサイクル転換点を制御するシグナル因子とし ても注目されている(1).図2-Aに示したような発芽後成

(8)

長の調節は,種子貯蔵物質のエネルギーに依存した「従 属栄養成長相」から緑葉での光合成と根からの無機栄養 素吸収による「独立栄養成長相」への転換点にあたる.

この転換点では,植物が高C/低N状態にある場合,そ の進行が阻害される(図4.一方,「栄養成長相」から

「生殖成長相」への転換点である花成や老化においては,

その効果が逆転し,高C/低N状態により促進されると 考えられている.こうした植物のライフサイクルにおけ るC/N効果は果樹栽培などの農業の現場では経験的に よく知られており,花芽形成の時期には窒素栄養分を制 限する施肥管理が行われてきた.このように,経験に基 づく生理的現象が知られている反面,それを引き起こす 分子メカニズムに関する情報はほとんど明らかになって いなかった.花成については近年,島本および荒木らの 国内研究グループによる精力的な解析により,長年不明 であった花成ホルモン・フロリゲンの実態が特定のタン パク質Hd3a(イネ)/FT(シロイヌナズナ)であること が証明され大きな話題となった(47).また,日長や温度 環境に依存してFTの遺伝子発現を誘導する機構につい ても解析が進んでおり,詳細かつ複雑な制御ネットワー クの存在が報告されている(48, 49).その一方で,栄養素 環境による花成制御機構に関してはあまり解析が進んで いなかった.花成は,活発なエネルギー生産・物質代謝 が行われる栄養成長相で蓄積した栄養素を次世代の種子 へと効率的に移行させる段階であり,栄養素代謝フロー の劇的な転換過程でもある.筆者らは,C/N栄養シグ ナルを介した花成制御の分子機構解明を目指し,野生型 シロイヌナズナやC/N制御因子ATL31の変異体を材料 にした実験に取り組んでいる.シロイヌナズナを用いた

一過的C/N処理実験によっても,高C/低N条件による 花成促進が観察される.また,高C/低N条件による花 成促進はATL31機能欠損変異体ではより顕著であり,

逆に過剰発現体では花成が抑制されていた(未発表デー タ).こうした結果から,C/Nは確かに植物の花成を制 御する環境要因であることが確認できた.

C/Nによる花成制御は,FTおよびその上流に広がる 既存の情報伝達経路にどう作用するのだろうか? ある いは,新規の花成制御経路が存在するのだろうか? ま だまだ未解明な点が多い.また,ATL31のユビキチン 化標的であり,炭素・窒素代謝系の制御因子でもある 14-3-3タンパク質は,茎頂分裂組織においてFTと結合 し,FDも含めた転写制御複合体の形成を補助すること で花成においても重要な機能を担うことも報告されてい る(30).筆者らの解析から,高C/低N状態では14-3-3の 蓄積量が増大することがわかっており(21),C/N誘導性 の花芽形成における14-3-3の機能についても興味深い.

今後,C/N条件に応答した花成制御遺伝子群の発現解 析や変異体を用いた遺伝学的解析を行うことで,C/N 栄養素シグナルによる花成制御機構の実態を明らかにし たい.

CO2 応答

最後に,最近筆者らが行っているCO2 濃度制御を利 用したC/N応答実験について紹介したい.「土に砂糖は 入ってないよね?」C/N応答解析の話をしていると,

このようなご指摘をよくいただく.これまでの筆者らが 実施した糖応答およびC/N応答解析のほとんどは培地 図4C/Nバランスによる植物の  ライフサイクル制御

(9)

中への糖添加により行われてきた.培地への糖添加は,

従来の糖応答解析でも常套手段であり,糖過剰培地への 耐性変異体スクリーニングから,グルコースセンサーの ヘキソキナーゼ (GIN2 : glucose insensitive 2) やABA 合成・シグナル伝達にかかわる重要な糖シグナル制御因 子が報告されてきた(40).一方,本来地上部での光合成 を経て供給される糖を根から吸収させるというのは,植 物の生理的な機能を考えるうえで大きな問題でもあっ た.これを打開すべく,最近筆者らはCO濃度制御と 培地窒素濃度処理を組み合わせたC/N応答解析に取り 組んでいる.これまでの解析から,十分量の窒素源を含 む培地(3 mM窒素)で生育させた場合に,CO2 濃度の 上昇(780 ppm)によりシロイヌナズナの地上部および 地下部のバイオマス増加が確認されるが,窒素欠乏条件

(0.3 mM窒素)ではそのような生育増加が抑制されてい た.また一方で,CO2 濃度の上昇は生育を促進するだけ でなく,葉の老化を促進するという結果を得ている(未 発表データ).植物が老化していく段階では,古くなっ た細胞・組織が単純に死んでいくだけではなく,植物体 全体の生育や栄養状態に応じて,古い葉(ソース器官)

から新しい葉や花芽・種子といった次世代を担う器官

(シンク器官)への栄養素の分配・再利用が積極的に行 われる(50).こうした「ソース−シンク」活性もC/Nバ ランスによる制御を受けると考えられており,実際に老 化葉ではスクロースやデンプンなどの炭素源が増加し,

窒素源が減少する「高C/低N」状態にあることが示さ

れている(50, 51).  遺伝子もまた,培地中の窒素飢

餓処理および老化葉において発現誘導される.そこで,

実際にATL31の過剰発現体 ( ) および機能 欠損変異体 ( ) を用いた実験を行ったところ,

  では高CO2 条件下における老化が抑制さ れ,  では促進された.また,高CO2 条件下で は,老化が観察される前の緑葉において,   で は野生型に比べデンプン蓄積量が増大し,逆に 

 では減少していた.デンプンの蓄積は,糖過剰およ び窒素制限条件で促進されることから,C/N状態およ び一次代謝フローの指標にもなっている.このようなこ とから,ATL31は,細胞内C/Nバランス維持や窒素源 の利用効率を改善することにより,老化段階のような C/Nアンバランス条件下での最適な栄養素代謝の管理 人として機能している可能性が考えられる.現在,

ATL31および14-3-3の機能も含めて,老化とCO2/Nバ ランスに関する解析を進めている.高CO2 条件下では,

光合成活性が本来上昇するはずが,逆に低下してしまう

「ダウンレギュレーション」という現象が起こり,高

CO2 下での効率的なバイオマス増産に向けた大きな障 害となっている.この要因として,高CO2 下での糖の 過剰な蓄積や窒素利用効率の低下が考えられており,そ うした観点からもC/Nによる代謝制御機構の解明が重 要となってきている(図1参照).

まとめ

C/Nバランスによる植物の成長戦略について概説し た.筆者らが進めているC/N応答制御因子ATL31と 14-3-3機能や糖および窒素量の受容・シグナル伝達に関 与する分子が明らかになったことで,長年不明であった C/N応答の分子機構が明らかになりつつある.C/Nは 高CO2 条件下や貧栄養土壌での最適な栄養素代謝制御 および作物収量の増加に直結することから,農業的観点 からも重要性が増している.また,植物細胞内の糖およ び窒素栄養状態は,病原体への抵抗性にも影響を与える と考えられており,実際,最近筆者らの行った研究から も   過剰発現体では病原体抵抗性が亢進している ことが示された(52).また,低温や乾燥といった環境ス トレス耐性にも細胞内の糖濃度が関与することが報告さ れている(53).C/Nによる炭素・窒素代謝制御は,植物 の成長および多様な環境ストレス適応機構における基盤 となる生命現象であり,今後のさらなる研究の発展が期 待される.

謝辞:本稿には柳澤修一教授(東京大学)のコメントをいただいた.本 研究は文科省科学研究費新学術領域研究「植物の高CO2 応答」の補助を 受けた.ここに謝意を表します.

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プロフィル

佐藤 長緒(Takeo SATO)    

<略歴>2005年山形大学理学部生物学科 卒業/2007年北海道大学理学研究科修士 課程修了/2010年同大学生命科学院博士 後期課程修了/同年日本学術振興会特別研 究員/2011年北海道大学大学院理学研究 院助教,現在に至る<研究テーマと抱負>

生物がどのように環境情報を伝えて,適応 しているのかをタンパク質機能解析から明 らかにしたいです<趣味>音楽鑑賞,散歩 山口 淳二(Junji YAMAGUCHI)    

<略歴>1981年埼玉大学理学部生化学科 卒業/1986年名古屋大学大学院農学研究 科博士課程後期生化学制御専攻修了/同年 日本学術振興会海外特別研究員(米国ロッ クフェラー大学留学)/1987年名古屋大学 農学部助手/1995年同大学生物分子応答 研究センター助教授/2001年北海道大学 大学院理学研究科教授/2009年同大学院 理学研究院生物科学部門(大学院生命科 学院システム科学コース)教授/2003年 科学技術振興調整費研究領域主管(兼務)

<研究テーマと抱負>生物の厳密性・柔軟 性・多様性を(タンパク質のような)分子 間相互作用で説明すること<趣味>読書

(歴史物),温泉めぐり

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