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ゲノム解析で醸される清酒の味わい 月桂冠株式会社総合研究所

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プロダクト イノベーション

清酒酵母のリンゴ酸高生産に寄与する 変異遺伝子の同定と育種への応用

ゲノム解析で醸される清酒の味わい 月桂冠株式会社総合研究所

根来宏明,小高敦史,松村憲吾,秦 洋二

434 化学と生物 Vol. 55, No. 6, 2017

はじめに

清酒には,すっきり滑らか,香り華やか,濃醇で旨味 たっぷりなど,さまざまなタイプが存在する.これは,

各酒蔵がそれぞれに特色を出した酒造りを行った結果で ある.清酒は使用できる原料が法律により厳しく定めら れており,主として米,米麹,醸造アルコールといった 原料のみを使って製造される.それにもかかわらず,上 記のようなさまざまなタイプの香味を造りだせるのは,

原料(水,米),発酵制御,微生物(主に酵母や麹菌)

などの取り扱い方を工夫し,ねらった味となるように調 節しているためである.今回は,酒造りの主役といって も過言ではない酵母に着目して,育種と遺伝学的解析を 進めるなかで得られたいくつかの知見を簡単に解説した い.

清酒の味わい

清酒の味わいには,糖やアルコールに加え,アミノ 酸,有機酸,エステル類,無機成分など非常に多くの成 分が関与している(1).一般的には,糖分が多くアルコー ル度数が低い(日本酒度がマイナス側に振れる)と甘 口,糖分が少なくアルコール度数が高い(日本酒度がプ ラス側に振れる)と辛口になる.清酒の製造過程で生じ るコハク酸,クエン酸,リンゴ酸,乳酸などの有機酸も 味に大きく影響しており,有機酸の濃度(酸度)が高い ほど濃醇な味わいとなり,低ければ淡麗な味わいとな る.日本酒度が同じであれば,酸度の高い酒は辛く感 じ,低い酒は甘く感じるとされるため,有機酸には味を 引き締める働きがある.清酒中の有機酸の多くは酵母に

よって作られることから,酸味のコントロールには酵母 の使用法が重要となる.

清酒酵母

酒造りには「清酒酵母」と呼ばれる清酒醸造に適した 酵母が用いられる.清酒酵母は出芽酵母

に属する2倍体であり,エタノールや香気成 分の生産に優れるといった特徴をもつ.代表的な清酒酵 母である「きょうかい7号(K-7)」と遺伝的に近縁とさ れる,いわゆる K-7グループ が専ら使用されている

(すべての株の親株がK-7という意味ではない).K-7グ ループの中にもさまざまな醸造特性の菌株が存在し,目 的とする酒質に応じて使い分けることができる.酒蔵に よっては使用した酵母を商品ラベルに記載しており,注 意深く見ればK-7のほかにK-9, K-10, K-1801など(いず れもK-7グループ)を目にすることができるだろう.各 種菌株には,日本醸造協会から頒布されるものもあれ ば,各酒蔵が独自に取得したものもある.それぞれがバ ラエティに富んだ特長をもっており,清酒の多様性に貢 献している.

もし新しい特性の菌株が欲しい場合には,育種法の開 発から行う必要があるが,清酒酵母の育種には特有の難 しさが存在する.第一に,清酒酵母の特徴として胞子形 成能が非常に低く,掛け合わせによる育種が容易に行え ない.第二に,2倍体から突然変異体を直接得る場合に は,劣性変異であると形質が現れにくい.そうかといっ て目的の形質が現れやすいように変異を強く誘導する と,ゲノム上の多くの箇所に変異が入り,発酵する力が 弱くなるなど往々にして目的外の悪影響を生じることと

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なる.これらの清酒酵母の特徴は,安定した形質を管理 するという面においては好ましい性質であるが,酵母育 種を行うにあたってはハードルとなる.しかし,この困 難を克服して新しい形質を産み出すことが酵母育種の醍 醐味であり,これまでに数多の技術者の努力によってさ まざまな種類の菌株が取得されてきた.われわれも旧来 よりさまざまな酵母育種に取り組んでおり,一つの例と してリンゴ酸の生産能が高い酵母が挙げられる(2)

リンゴ酸高生産酵母

リンゴ酸は清酒に含まれる主要な有機酸の一つであ り,発酵中に酵母が生産する.さわやかな酸味をもつた め,酸味にインパクトをもたせた清酒を造る場合は,リ ンゴ酸含有量を高くすると好ましい味になるとされる.

これまでに清酒業界ではリンゴ酸高生産酵母の育種法が 数多く開発されており(3, 4),われわれはコハク酸デヒド ロゲナーゼの阻害剤であるコハク酸ジメチル(DMS)

感受性をもつ株を取得する育種法を開発している(2).こ れらの酵母について,リンゴ酸高生産となるメカニズム がいくつか報告されている(4, 5).一方で,高生産という 表現型をもたらす変異遺伝子について具体的には報告さ れていなかった.酵母研究の発展という観点から見る と,2011年にK-7の全ゲノムが解読され(6),次世代シー ケンシング技術が急速に普及したことにより,多くの清 酒酵母が互いにどのような変異をもつか解析するための プラットフォームが整ってきたと言える.ゲノム上のど のような変異が有機酸の生成に影響しているのか解明で きれば,今後の酵母育種において有用な情報となること は想像に難くない.そこでわれわれは,DMS感受性を 指標に取得したリンゴ酸高生産酵母を用いて,それらの 形質を与える変異遺伝子の同定を行った.また得られた 結果を応用し,リンゴ酸生産能を自在に制御する育種法 の開発を行ったので併せて紹介する.

原因遺伝子の特定

は じ め に,K-7と 並 ん で 広 く 使 用 さ れ る 清 酒 酵 母

「きょうかい901号(K-901)」を親株として,DMS感受 性を指標とする手法により(2),リンゴ酸高生産酵母「K- 901H」を取得した.清酒醸造においてK-901HはK-901 の2.2倍のリンゴ酸生産能を示した.次に,K-901とK- 901Hの間でリンゴ酸生産能が異なる原因の解明に取り 組んだ.まずはコハク酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のサン ガーシーケンスや,TCA回路遺伝子のリアルタイム

PCRによる発現解析を行ったが,明確な結果は得られ なかった.そこで近年広まっている次世代シーケンシン グ技術を利用し,新たな知見の取得を試みた.K-901と K-901Hを全ゲノムシーケンス解析に供し,互いに変異 をもつ遺伝子の抽出を行った結果,150個の遺伝子上に ミスセンス変異やナンセンス変異を検出した.実験者に とって悩ましいのは,変異遺伝子を抽出したものの,

いったいどの変異がリンゴ酸生産能に影響しているのか を絞り込むことである.リンゴ酸生成に影響を与えてい る変異なので,TCA回路や解糖系,糖新生,アミノ酸 合成などの中心代謝に関連した遺伝子がやはり候補にな るだろうと推測し,酵母の遺伝子データベースの情報を 元にして個別に調べていった.こうして順に調べていく なか,4個ほど検討した段階で という遺伝子が K-901H型の変異(Gly131Arg)をもつことにより,リ ンゴ酸高生産かつDMS感受性となることを見いだし た(7).これは数あるリンゴ酸高生産清酒酵母において原 因となる変異遺伝子を同定した初めての例であり,四半 世紀以上前に開発された育種法に遺伝子情報をひも付け することができた.150個の候補の中から4個の中に 当たり が含まれていたことは,中心代謝系の遺伝子 から絞り込んだ推測が正しかったと同時に,幸運であっ たと言えるだろう.

リンゴ酸高生産となる機構

さて, (別名 )という遺伝子名からは,

中心代謝系の酵素を思い浮かべてもピンとこないであろ う.VIDと はvacuolar import and degradationを 意 味 し,Vid24 は GID(glucose induced degradation defi- cient)複合体の構成要素として知られている.GID複 合体はグルコースの存在に応答し,標的タンパク質をユ ビキチン化し液胞へ誘導して分解させる役割をもつ(条 件によってはプロテオソームにも誘導する)(8).なぜこ の複合体での変異がリンゴ酸生成能を上昇させるかを解 明するため, 変異株の細胞内で何が起きている か検証した.GID複合体はFbp1, Pck1, Mdh2, Icl1など の糖新生に関連するタンパク質を標的とすることが知ら

れており(8, 9),これらの糖新生酵素がリンゴ酸高生産能

に寄与していると推察した.遺伝子破壊や酵素活性測定 により各糖新生酵素の影響を調べると,Mdh2(細胞質 リンゴ酸デヒドロゲナーゼ)が 変異株のリンゴ 酸生成能上昇に関与していることが明らかになった.ま た, 破壊株を作製して有機酸生成能を比較した 結果,K-901H型の 変異は機能欠損をもたらす変

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異であると考えられた. 破壊株では細胞内に Mdh2を蓄積すると報告されている(9).実験結果と過去 の報告を併せて考えると,分解制御を受けなくなった Mdh2によりオキサロ酢酸をリンゴ酸に変換する経路が 強化され,リンゴ酸高生産となったと推察した(図1 嫌気的な環境である清酒もろみにおいては,リンゴ酸は 酵母の細胞質内で還元的経路(つまり,Mdh2によるオ キサロ酢酸からリンゴ酸への変換)により生成するとい う機構が提唱されており(10),われわれの仮説を支持す るモデルであると考えられた.

育種への応用

リンゴ酸高生産酵母の原因遺伝子とメカニズムに関す る生化学的な知見が得られたので,これを酵母育種へ応 用した例を紹介する.清酒酵母は通常2倍体であり,変 異が導入される際にはヘテロ接合型あるいはホモ接合型 のいずれかとなる.K-901Hの 変異はヘテロ接合 型であったことから,この変異がもたらすリンゴ酸高生 産は半優性あるいは優性の形質であると推測した.もし 半優性であれば,変異をホモ接合型とした場合にリンゴ 酸生産能がさらに上昇する可能性がある.これを検証す

るために,遺伝子工学的な手法により変異をヘテロおよ びホモ接合型とした株を作製した.その結果,変異型 のコピー数に応じてリンゴ酸生産能とDMS感受 性が上昇したことから,半優性であることが判明した.

これにより, の変異型を操作することで,清酒 中のリンゴ酸を自在に制御できると考えられた.

しかし,上記で作製したホモ接合型変異株を清酒醸造 に使用することは,遺伝子組換え技術を利用しているた め難しい(たとえ遺伝子組換え体に該当しないセルフク ローニングであっても,あまり受け入れられていないの が現状である).そこで外来遺伝子を用いる操作を一切 含まない,ヘテロ接合性の消失(loss of heterozygosity; 

LOH)によるホモ接合型変異株の取得を目指した(11). ヘテロ接合型と変異ホモ接合型はリンゴ酸生産やDMS 感受性などの表現型が異なるため,育種に利用できると 考えてスクリーニングの系を構築した.ここでは詳細な 方法は割愛するが,DMS存在下でのナイスタチン処理 や,ハイスループットなリンゴ酸生産能の評価法を組み 合 わ せ る こ と で,K-901Hを 親 株 と し て ホ モ 接 合 型 変異株(K-901H×2)をLOHにより得ることが できた.K-901H×2を用いて清酒醸造を行うと,リンゴ 酸含有量がK-901の4.5倍,K-901Hの2.2倍となり,ね らいどおりリンゴ酸生産能がさらに強くなっていた(表 1.また,K-901H×2はエタノール生産能がK-901Hと 同程度で,でき上がった清酒も(酸味がとても強いとい う特徴はあるが)良好な香味であり,実用的な製造に耐

図1細胞内におけるリンゴ酸生成のモデル図

グルコースの存在に応答してGID複合体がMdh2を分解へ導く.

Vid24の機能が欠損するとMdh2の分解制御が解除され,リンゴ酸 への経路が増強される.

表1育種酵母を用いて醸造した清酒の分析値

K-901 K-901H K-901H×2 エタノール(%) 18.1 18.0 18.0 日本酒度 +11.8 +9.8 +8.6

酸度 2.42 3.13 4.05

アミノ酸度 1.46 1.27 1.38

有機酸 

(mg/L) リンゴ酸 266 531 1187 コハク酸 640 833 813

乳酸 566 586 550

クエン酸 67 82 70

図2 取 得 し た リ ン ゴ 酸 高 生 産 酵 母 と 変異の接合型

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えうる株であった.以上をまとめると, 変異と 接合型を指標として,外来遺伝子を使用せずにリンゴ酸 の生産能が異なる実用清酒酵母を育種することができ た(12)(図2

おわりに

取得した 変異酵母(K-901H, K-901H×2)を用 いると清酒の酸味を自在にコントロールすることがで き,冒頭で述べたようなバリエーション豊かな清酒の醸 造に貢献できる.たとえば,さわやかな酸味を効かせた 清酒や,甘酸っぱくフルーティな清酒の製造に用いるこ とができる.特にK-901H×2は高エタノール生産かつ リンゴ酸超高生産という点で,従来取得されていたリン ゴ酸高生産酵母とは醸造特性が異なるため,これまでに なかった酒質の開発に役立っている.

知られている清酒酵母の育種法のなかには,ターゲッ トとなる遺伝子が明らかになっているものもあれば,目 的の表現型は現れるが生化学的な機構は未解明なものも ある.今回述べたリンゴ酸高生産酵母は後者の一つを明 らかにしたものであり,全ゲノム解析のような技術革新 を活用すればブラックボックスのふたを開けられること を示せた.今後も生化学的機構がいまだ明らかにされて いないほかの清酒酵母についても,遺伝子レベルで原理 を明らかにしていきたい.得られた結果は知的好奇心を 満たすだけでなく,次の新たな育種法を産む原動力とな るだろう.最終的には,新たな味わいを造る技術につな げ,読者の皆様に楽しんでいただけるような清酒を造り 出すことが目標である.

文献

  1)  財団法人日本醸造協会: 醸造物の成分 ,日本醸造協会,

1999, p. 1.

  2)  相川元庸,水津哲義,市川英治,川戸章嗣,安部康久,

今安 聰:醗工,70, 473 (1992).

  3)  吉田 清:醸協,90, 751 (1995).

  4)  T. Asano, N. Kurose & S. Tarumi:  , 92,  429 (2001).

  5)  S. Nakayama, K. Tabata, T. Oba, K. Kusumoto, S. Mitsui- ki,  T.  Kadokura  &  A.  Nakazato:  , 114,  281 (2012).

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  9)  G. C. Hung, C. R. Brown, A. B. Wolfe, J. Liu & H. L. Chi- ang:  , 279, 49138 (2004).

10)  S. Motomura, K. Horie & H. Kitagaki:  , 118,  22 (2012).

11)  A.  Kotaka,  H.  Sahara,  A.  Kondo,  M.  Ueda  &  Y.  Hata: 

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12)  H.  Negoro,  A.  Kotaka,  K.  Matsumura,  H.  Tsutsumi,  H. 

Sahara & Y. Hata:  , 122, 605 (2016).

プロフィール

根来 宏明(Hiroaki NEGORO)

<略歴>2007年京都大学大学院農学研究 科修了/同年月桂冠株式会社入社,現在に 至る<研究テーマと抱負>発酵中の微生物 の働きを基礎から応用まで明らかにする

<趣味>夏フェス,日本酒

小高 敦史(Atsushi KOTAKA)

<略歴>2003年京都大学大学院農学研究 科修士課程修了/同年月桂冠株式会社入 社/2011年博士(農学)(京都大学) 在に至る<研究テーマと抱負>酒造りにお ける科学的知見と職人ワザの更なる融和

<趣味>バイク・鉄道の旅,ジム通い

松村 憲吾(Kengo MATSUMURA)

<略歴>1999年京都大学大学院農学研究 科修了/同年月桂冠株式会社入社/2009 年農学博士(京都大学)/2016年主任研究 員現在に至る<研究テーマと抱負>経営学 理論の実践により「研究によるイノベー ションの発生」をも研究する<趣味>経営 学,日本酒

秦  洋 二(Yoji HATA)

<略歴>1983年京都大学農学部農芸化学 科卒業/同年大倉酒造(株)(現・月桂冠)

入社/1993年農学博士(京都大学)/2005 年総合研究所長、現在,常務取締役製造副 本部長,奈良女子大学客員教授,京都大学 非常勤講師<研究テーマと抱負>醸造技術 の素晴らしさを世界に発信したい<趣味>

読書,スポーツ観戦

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.434

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Referensi

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さんにとって納得のいく結果になります様、慎重 にそして賢明なご判断をして頂くことが必要であ るのではないかと思われます。既に伝えさせて頂 いたと思うのですが、トゥイリー様の事はとても 快く素敵な方であるとパーティでお会いした時か ら思っており、同時にベンソン様との間に何か確 執があるとも思っており、たとえ彼があなたの傍 にいなくとも一人の社会人として生活することが