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シリコンナノ結晶表面を利用した

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Academic year: 2024

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PRESS RELEASE

令和3年8月16

米国物理学会 (American Physical Society)『Physical Review Materials』令和3年628日に掲載 研究成果の概要

名古屋市立大学大学院芸術工学研究科産業イノベーションデザイン領域の松本貴裕教授,日本 原子力研究開発機構大原高志研究主幹,京都大学化学研究所金光義彦教授らの共同研究グループ は,水素から重水素への同位体置換が,シリコンナノ結晶表面において効率良く起こることを世 界に先駆けて発見しました。

重水素は水素原子よりも2倍重いが,化学的な性質が同じため,地味ではあるが多くの実用的 な用途があります。しかし,天然に存在する重水素の割合は水素と比較して0.015%と低いた め,重水素を自然界から回収して,これらの応用に利用するには,大量のエネルギーと貴金属が 必要となります。今回,松本教授らの研究チームは,ナノ結晶シリコンの表面で水素原子と重水 素が自然に交換される,エネルギー効率の高い重水素回収方法を発見しました。この成果は,環 境への影響を抑えながらコストも抑えることが可能な,経済性のある重水素回収技術への道を開 くものです。

本研究は、米国物理学会 (American Physical Society)の『Physical Review Materials』に令和3年6 月28日に公開されました。

【背景】

同位体とは,周期表に記載されている元素のうち,陽子の数が同じで,中性子の数が異なる

「バージョン」であり,化学的性質は同一であるが,質量が異なります。この質量の違いは,生 化学における同位体標識マーカーとしての応用から,宇宙科学における惑星の起源の解明に至る まで,幅広い分野で利用されています。物質で最も軽い水素原子にも3種類の水素同位体があり ます。地球上のほとんどの水素原子は,1つの陽子と1つの電子を持っていますが,わずかな割 合で存在する水素同位体には,1つの中性子(重水素)と2つの中性子(三重水素)を持つもの があります。これらの重水素または三重水素は,通常の水素の2倍(三重水素は3倍)の重さが あるため,この大きな重さの比を利用して,多くの実用的・科学的な利用が行われています。例 えば,生化学反応プロセスを調べるために,タンパク質などの分子に重水素を付けて酵素反応を 追跡したりするのに利用します。また,薬物を重水素化して代謝率を下げ,体内での持続時間を 長くするために戦略的に治療に利用することもできます。

シリコンナノ結晶表面を利用 した

エネルギー効率の高い重水素回収方法を発見しました!

名古屋市立大学 論文発表

文部科学記者会、科学記者会他 名古屋教育医療記者会と同時発表

名古屋市立大学芸術工学部事務室

℡:052‐721-1225 Fax:052-721-3110

世界初!

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重水素のもう一つの重要な用途は,半導体エレクトロニクスの分野にあります。現代のシリコ ン半導体集積回路は半導体表面を水素で「不動態化」することで,安定に動作させることがで きます。この集積回路から水素が抜けてしまうと,回路が動作しなくなり,故障の原因となりま す。水素の代わりに重水素を用いて不動態化処理を行うと,故障の確率が約100分の1になるこ とから,重水素は電子機器に欠かせない材料になると考えられています。しかし,重水素は非常 に高価であり,シリコン表面に重水素を導入する技術は,大量に重水素を利用するため,非常に 高価な集積回路にのみ,この重水素不動態化処理は行われているのが現状です。

【研究の成果】

名古屋市立大学(NCU)の松本貴裕教授率いる研究者チーム(NCUチーム)は,希薄な重水 素溶液から重水素を回収する,エネルギー効率の高い新手法を発見しました。Physical Review

Materials誌に掲載された本研究は,日本原子力研究開発機構の大原高志研究主幹,京都大学の金

光義彦教授との共同研究で行われました。

NCUチームは,ナノ結晶シリコン(n-Si)の表面で,水素から重水素への特異な交換反応が起 こることを発見しました。この反応は,n-Siを,重水素を含む溶液に浸すだけで,n-Si表面の水 素が重水素に積極的に置換されるというものです。その置換反応メカニズムは,中性子非弾性散 乱法を用いて解明されました。中性子非弾性散乱とは,試料に中性子を照射し,その際に生じ る原子の運動や結晶の振動を分析する分光法です。この実験と,他の分光法や量子力学に基づく エネルギー計算を組み合わせることで,n-Si表面の水素が重水素に置換されるメカニズムが明ら かになりました。この交換プロセスは, n-Si表面に結合した水素と重水素の量子力学的零点エ ネルギーの相違に密接に関連しています。これは,簡単に述べると,重水素を含むn-Siの方 が,水素終を含むn-Siより量子力学的に安定な材料であることを示しています。松本教授は,

「液相で行った実験では,n-Siの表面重水素原子の濃度を4倍に高めることができました」と強 調しております。「さらに,気相でのn-Si濃縮プロトコルを提案し,理論計算によれば重水素 濃縮率を15倍に高めることができる」と述べており(図1),現在,気相での重水素濃縮実験 に取り組んでいます。

1. n-Siを利用した重水素濃縮プロセスの模式図.

(a)は液相中での, (b)と(c)は気相中での濃縮(重水素:赤の球,水素:ピンクの球,酸素:緑の球,シリコン:青の球)

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【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】

n-Siの表面の量子効果を利用したこの革新的な戦略は,重水素を調達して利用する新しい方法 への道を開く可能性があります。「我々が報告した効率的な水素-重水素交換反応は,持続可能 で,経済的に実現可能で,環境にやさしい重水素濃縮プロトコルにつながり,より耐久性のある 半導体技術につながる可能性があります」と松本教授は結論づけています。また,NCUチーム は,この戦略を利用することにより,三重水素(トリチウム原子)を固体シリコン表面に高濃度 で固定化することも可能となるため,汚染水浄化装置としての可能性を早急に見極めたいと考え ています。今回の研究成果により,地球に負担をかけることなく,より重い水素同位体の恩恵を 受けることができるようになることが望まれます。

【用語解説】

1 不動態化:シリコン半導体集積回路の表面は図2のようにSiO2酸化膜(ガラスと同じ成分)

で覆われているが,酸素(O)原子で完全に覆う(終端する)ことができない。このとき,シリ コン原子は共有結合の相手を失うため、結合に関与しない電子(不対電子)で占められた未結合

手(図2のPb)が存在することとなり,この未結合手をダングリングボンドという。このダ

ングリングボンドが存在すると,集積回路動作が阻害されるため,ダングリングボンドを水素 で終端し,集積回路表面にシリコンのダングリングボンドが存在しないようにすることを不動 態化という。

2. シリコン半導体集積回路表面不動態化(https://www.iue.tuwien.ac.at/phd/entner/node14.html,より転載)

2 中性子非弾性散乱法:中性子(n)をn-Siに照射すると,ビリヤードをイメージするように,中 性子のエネルギー(ここでは速度)がn-Si表面の水素原子(H)に与えられ,中性子(n)のエネル ギーが小さく(速度が遅く)なる。逆に,この原理を利用すると,遅くなった中性子(n)の速度 を測定することによって,n-Si表面の水素原子(H)がどのように振動しているかが,正確に評 価できる。このように,中性子の速度変化を測定することによって原子の運動や結晶の振動を 分析する手法を中性子非弾性散乱法という。(図3)

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3 零点エネルギー:絶対零度の温度など最もエネルギーが低い状態においては,我々の感覚から すると水素原子(H)が静止しているように見える(図3左の中性子衝突前の水素原子(H))。し かしながら,量子力学では不確定性原理の要請により完全に原子は静止することは許されない ため,最もエネルギーが低い状態においても,原子は平衡点付近で振動している。この原子が 持つ最低エネルギーを零点エネルギーという。

3. 中性子非弾性散乱法原理図.

【研究助成】

本研究は日本学術振興会科学研究費 基盤研究B(松本貴裕:20H04455)の助成を受けたもので す。

【論文タイトル】

“Determination of localized surface phonons in nanocrystalline silicon by inelastic neutron scattering spectroscopy and its application to deuterium isotope enrichment”

(中性子非弾性散乱分光法によるナノ結晶シリコン表面の フォノン状態の決定と重水素同位体濃縮への応用)

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【著者】

松本貴裕*,野又郁実、大原高志、金光義彦、 *Corresponding authors

松本貴裕(名古屋市立大学大学院芸術工学研究科,責任著者,教授)

野又郁実(名古屋市立大学大学院医学研究科,修士2年,当時。現日本特殊陶業株式会社)

大原高志(日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター,研究主幹)

金光義彦(京都大学化学研究所,教授)

【掲載学術誌】

学術誌名 Physical Review Materials(フィジカルレビューマテリアルズ)

DOI番号:https://doi.org/10.1103/PhysRevMaterials.5.066003

【研究に関する問い合わせ】

名古屋市立大学大学院芸術工学研究科 教授 松本 貴裕(まつもと たかひろ)

E-mail:[email protected]

【報道に関する問い合わせ】

名古屋市立大学 芸術工学部事務室 名古屋市千種区北千種2-1-10

TEL:052-721-1225 FAX:052-721-3110 E-mail:[email protected]

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