• Tidak ada hasil yang ditemukan

スクールソーシャルワーカー緊急派遣事業における実践と課題

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2024

Membagikan "スクールソーシャルワーカー緊急派遣事業における実践と課題"

Copied!
8
0
0

Teks penuh

(1)

*a 福島県教育庁県南教育事務所   *b 福島大学人間発達文化学類  

 東日本大震災から1年半あまり,福島県における「スクールソーシャルワーカー緊急派遣事業」

がスタートして1年が過ぎた。本稿では,これまで実際に関わった事例を基にしたスクールソーシャ ルワーカーの活動状況,中でも①校内ケース会議の開催②市町村要保護児童対策地域協議会(要対 協)への関与③広域的な問題への対応の3点について取り上げ,あわせて今後の課題についても提 示したい。なお,本稿でとりあげる事例については,特定ができないよう変更を加えてあることを あらかじめ記しておく。

〔キーワード〕福島県復興計画  校内ケース会議  要保護児童対策地域協議会  広域連携

スクールソーシャルワーカー緊急派遣事業における実践と課題

鈴 木 庸 裕*

土 屋 佳 子*

1.はじめに

 「震災における生活環境の変化等,多様な問題に直 面している児童生徒に対し,教育分野に関する知識に 加えて,社会福祉等の専門的な知識や技術を有するス クールソーシャルワーカー(以下SSWr)を活用して,

当該児童生徒が安心して学校生活を送ることができる よう問題の解決に向けた支援を行う」ことを目的に,

平成23年7月にスタートしたSSWr緊急派遣事業は,

平成24年度にはエリア・人員を拡充(詳細は後述)し 現在に至っている。平成23年12月には「福島県復興 計画(第1次)」の中でも重要施策となった。以下,

SSWrの取り組みを紹介する。

2.福島県の子ども・保護者を取り巻く  現状

⑴ 「福島県復興計画(第1次)」の中の位置づけ  福島県は平成23年12月28日に「福島県復興計画(第 1次)」を策定,平成24年6月には,「福島県復興計画

(第1次)進捗状況」を公表している。福島県の復旧・

復興のための特に重要な主要事業を,政策目的別に12 の「重点プロジェクト」として位置付けているが,最 初の項目に,緊急的対応として応急的復旧・生活再建 支援・市町村の復興支援が挙げられ,被災者住居の確 保と幅広い生活支援・心のケアが謳われている。

 「心のケア」では「スクールカウンセラー等緊急派 遣事業」「教育相談を推進する事業」「子どもの心のケ ア事業」などが,子どもやその保護者への対策とされ ている。それぞれの概要を示すと次のようになる。

Table 1 「福島県復興計画(第1次)」における「心のケア」関連施策(抜粋)

ࢫࢡ࣮ࣝ࢝࢘ࣥࢭ࣮ࣛ➼⥭ᛴὴ㐵஦ᴗ ᮾ᪥ᮏ኱㟈⅏࡟ࡼࡾ⿕⅏㸪ཪࡣཎᏊຊ⅏ᐖ࡟ࡼࡾ㑊㞴ࡋࡓඣ❺⏕ᚐ➼ࡢᚰࡢࢣ࢔㸪 ᩍ⫋ဨ࣭ಖㆤ⪅➼࡬ࡢຓゝ㸪་⒪ᶵ㛵➼࡜ࡢ㐃ᦠ࣭ㄪᩚ࡞࡝ᵝࠎ࡞ㄢ㢟࡟ᑐᛂࡍࡿ

ࡓࡵ㸪ࢫࢡ࣮ࣝ࢝࢘ࣥࢭ࣮ࣛࡸࢫࢡ࣮ࣝࢯ࣮ࢩ࣮࣮ࣕࣝ࣡࢝ࢆὴ㐵ࡍࡿࠋ

ᩍ⫱┦ㄯࢆ᥎㐍ࡍࡿ஦ᴗ ࢫࢡ࣮ࣝ࢝࢘ࣥࢭ࣮ࣛ➼ࡢ㓄⨨࡟ࡼࡿᩍ⫱┦ㄯయไࡢ඘ᐇࢆᅗࡿ࡜࡜ࡶ࡟㸪Ꮫᰯ㸪 ᐙᗞ㸪ᆅᇦ♫఍ࡀ㐃ᦠࡋ࡚⏕ᚐᣦᑟ࡟࠶ࡓࡿྛ✀஦ᴗࢆ⥲ྜⓗ࡟ᒎ㛤ࡋ㸪ၥ㢟⾜ື

ࡢᮍ↛㜵Ṇ࡜᪩ᮇゎỴࢆᅗࡿࠋ

Ꮚ࡝ࡶࡢᚰࡢࢣ࢔஦ᴗ ⿕⅏ࡋࡓඣ❺ཬࡧࡑࡢಖㆤ⪅㸪ᨭ᥼⪅➼࡟ᑐࡍࡿྛ✀ᨭ᥼άືࡢ඘ᐇ࡜㸪ྛάື㛫 ࡢࡼࡾ୍ᒙࡢ㐃ᦠࢆᅗࡾ㸪ࢫࢺࣞࢫࢆᢪ࠼ࡓᏊ࡝ࡶ࡟ᑐࡋ࡚㛗ᮇⓗ㸪⥅⥆ⓗ࡞ࢣ࢔

ࢆ⾜࠺ࠋ

ฟ඾ࠕ⚟ᓥ┴᚟⯆ィ⏬㸦➨㸯ḟ㸧ࠖഐ⥺㒊ศ➹⪅

(2)

⑵ 避難の状況

 県外に避難した福島県民は平成24年8月2日現在 60,878人である。児童・生徒に関しては,文部科学省 の学校基本調査によると,平成24年5月1日現在の 福島県内の幼稚園・小中学・高校の児童・生徒数は 243,977人で前年度同期に比べ,9,642人減少し,この うち小学生は前年度同期比5,014人減の103,324人であ り,この数値は過去最多となった。減少幅は東日本大 震災,東京電力福島第一原子力発電所事故直後の昨年 度より縮まったが,少子化の影響を考慮しても,子ど もたちの県外避難が依然として続いていることを裏付 けている。しかしながら,他県になじめず県内に戻る 事例や避難区域見直しによる帰還の動き等も散見され ており, いずれにせよ生活環境そのものが流動的であ ることに異論の余地はないだろう。

⑶ SSWrが留意すべき点

 本事業は,「緊急派遣事業」の名称を使用している が,SSWrが関与するケースは多岐にわたり,直接的 な震災関連にとどまらない。緊急時・非常時には平時 の問題・課題が拡大するというのが,支援活動を行っ ている上での実感であるが,SSWrとして考慮・留意 しなければならないこととして,以下の点が浮き彫り になった。すなわち①住所地と居住地の問題(住所を 残したままでの避難・自主避難)や住環境の問題(仮 設・借り上げ・除染)②保護者の就労・経済状況(金 銭的な問題だけではなく,プライドを持って行ってい た仕事を変更せざるを得ない,単発的な仕事をせざる を得ないなど。原発補償の件で,かえって働く意欲が そがれてしまった例もあった)③家族の形態(家族が バラバラ,養育者の変更など)④その他,生活習慣や 文化,気候の変化などである。

 いずれも生活環境の変化そのものが,今後も流動的 かつ長期間にわたるであろうことは避けられない。先 が見えない状況の中で,様々な問題が複合的に絡み 合っているのである。実際,転居により支援が途絶え てしまったケースも多い。また,SSWrの配置エリア が拡充されたとはいえ,ひとりも配置されていない市 町村もあり,地域間で格差があることは否めない。そ のような状況をどのように克服していくのか,マクロ 的な視点を持つことも,SSWrが留意すべき点である。

3.事例

 次に筆者がSSWrとして関わった事例について述べ る。筆者の担当するエリアは津波の被害こそないが,

場所によっては地震による甚大な被害が出た地域があ り,また,放射線量も決して低いとは言えない場所も 抱えている。

 前述したとおり多種多様なケースを扱っているが,

ここでは①校内ケース会議の開催②要保護児童対策地 域協議会への関与③広域的なケースへの対応,以上3

つの観点で抽出する。

⑴ 校内ケース会議の開催

【ケース1・中高移行期における場面緘黙児への支援】

<概要>

 高1の女子。幼少期から場面緘黙があり,小中学校 では実技科目に参加できないことが多かった。高等学 校へ入学後もその傾向が続いており,学校側から今後 の対応についての相談がある。高等学校では,実技科 目で評価対象にならないと単位が取れず,進級や卒業,

さらには卒業後の進路にも影響することから,主に保 護者との連携のありかたについて支援することとなる。

<経緯>

 本人が入学してすぐ,スクールカウンセラー(以下 SC)による本人・母親へのカウンセリングや,教職 員への研修(緘黙への理解と対応)が行われたが,必 ずしもすべての教職員に共通理解されたわけではな かった。また,実技教科の職員の中には,本人を医療 につなげる必要があるのではないかとの意見を持つ者 もいた。SCと本人は良好な関係が保たれていたが,

母親は仕事が多忙であることもあり,学校とのコンタ クトがあまり図られていなかった。なおSCは,医療 機関受診の必要性はないとの見解を示している。

<SSWrの支援状況>

 担任・管理職(教頭)と実技教科担当教員とSSWr とがケース会を実施し,問題状況の洗い出しを行った ところ①高校入学前の本人についての情報の不足②教 職員間の,場面緘黙への理解の相違③保護者へのコン タクト(アプローチ)ができない等について出された。

①については本人の出身中学校がSSWrのエリアであ ることから,SSWrが高等学校入学前の中学校での状 況の聞き取りを行うことになった。②については再度 校内ケース会議を実施し,今一度本人の状態について の理解を図ることになった。③に関しては,SCから の助言も得ながら,担任や教頭が母親とコンタクトを とることとなった。

 さらに,実技教科担当教員がSSWrに対し,本人 の評価方法についての助言を求めたため,あくまで SSWrの私案とした上で,「本人が学校や家庭などで,

実際にできていること」を,実技科目の評価の観点と して採用できないか提案した。それにより保護者から 家庭の状況を聞く必要性が増すことになったが,学校 側はこれを了承し,保護者との連携を図ることも含め,

学内でも検討していくこととなった。

また,担任に対しては,場面緘黙の当事者団体が発行 する小冊子を渡し,関係する教職員と一緒に読んでも らうことにした。

<問題状況の整理>

 本人の場面緘黙について,SCからの助言があった にも関わらず,その病理面だけに着目し支援の糸口が

(3)

つかめずにいた。母親と学校とのつながりが弱かった ことや,高等学校に入学前の情報不足があり,本人へ の支援や学習評価方法について,十分な検討がなされ ていなかった。実技教科担任は,正しい評価ができな いことに対し,本人や母親だけでなく,本人に理解を 示している他の教職員に対して,懐疑的な感情を持っ ていた。

<対応方針>

 本人の「できない部分」にのみに目を向けるのでは なく,学校や家庭で「できていること」を,実技教科 の評価観点とすりあわせることを第一の目標にした。

その際,母親からの情報(家庭での様子)も加味し,

本人用の「個別の支援計画」とも言えるプランを設定 していくことにした。

<その後の支援状況>

 SSWrと,担任・教頭,母親の4者による面談にお いて,今後の対応について話し合ったところ,今後の 連携についての承諾を得た。その後,実技教科担任か ら,本人と母親へ評価方法についての説明が行われた。

追試と座学による課題が与えられたが,結果的には評 価することができた。3回目のケース会議では,母親 とSCも加わり,担任・教頭・教科担任・SSWrとと もに今後の支援についてのすりあわせが行われた。そ の席で,本人が同級生との交流を始めたことが母親か ら語られた。子ども同士の力の大きさに,ケース会議 に参加していた全員が驚嘆した。今後も,保護者を交 えたケース会議を継続する予定となっている。

⑵ 要保護児童対策地域協議会への関与

【ケース2・中高移行期における不登校児への支援】

<概要>

 高1の男子。家族は父・母と中1の弟。中学校に通 う弟が不登校傾向だったことから,派遣要請を受けて 支援開始。中学校において,弟を主とした校内ケース 会議を開催したところ,高1の兄が高等学校の入学式 にも出席しておらず,以後不登校(ひきこもり)であ ることが判明する。弟の状態にも影響していることか ら,兄弟両方への支援へとシフトすることになる。

<経緯>

 校内ケース会議で検討の結果,本人弟に関しては学 校が行っている支援により好転していることから,現 在の状態を続けることになった。本人については在籍 する高等学校が家庭訪問を行っても本人に会うことが できず効果的でないことから,①中学校でこれまでつ ながっていたSCや教員が家庭訪問をして本人に働き かけを行う②SSWrは関係する機関等において家庭状 況を調査する③学籍や進路のことがあるため,高等学 校もこれまでのようにアプローチを行う(ただし頻度 を落とす)こととし,状況に応じて次回校内ケース会 を実施することにした(連絡調整はSSWr)。次回開

催時期についてはおおよそ1ヶ月以内とする。

<SSWrの支援状況>

 各関係機関への聞き取りを行う。本家庭への他機関 の関わりを確認する当該市町村での児童相談および生 活困窮相談ケースの取り扱いがあった。また,非行に ついての課題もあったことがわかり,児童相談所の関 与も確認できた。

 本人が在籍していた当時の中学校SCへの問い合わ せを行ったところ,本人が精神的に不安定な面がある とし,高等学校への登校促しよりも,まずは受診勧奨 が先であろう,とのことであった。中学校在籍中も当 時の担任がつきそい,一度だけ病院に行ったことがあ るという。SCからは早急な介入を提案された。

父母については,両親とも軽度の知的障害の疑いがあ るとの情報があったが,福祉サービスにつながった経 緯はなかった。

 本家庭への支援状況を整えるため,関係者を集めた ケース会議の開催が妥当であると判断し,SSWrが引 き続き連絡調整と聞きとり調査を実施する。非行事実 があったことから当該市町村の要保護児童対策地域協 議会(以下要対協)における個別ケース検討会の枠組 で,ケース会議の実施を提案し了承を得た。日程,場 所,招集メンバー,ケース会議開催のための役割分担 等について市町村担当者とSSWrとで打合せを行った。

 それ以後,SSWrが情報集約・連絡調整を行ってい る間にも,中学校を含むそれぞれの機関で兄,父母,

弟に対してアプローチを行ってきた。母親へは,今ま で関わったことのある家庭相談員が連絡・面接を実施 し,改めて母親へ本人の受診について勧奨を行った。

しかし,なかなか通院へは結び付かなかった。

<問題状況の整理>

 本人の状態悪化(精神障害)が懸念される。風呂に 入らず,同じ服を着続けている。昼夜逆転。夜中に徘 徊あり。

 父親に持病があり,定職には就いておらず,母親が 働いているパート収入が主。父親と弟は関係が良好だ が,本人と父親はあまりよくない。父親は本人よりも 弟に期待をかけており,本人がひきこもり状態となっ てからは,弟と父親との結びつきが強くなり,その分,

弟は安定し登校できるように変わりつつある。父母と もに本人をどうにかしたいというニーズはあるものの 具体的な行動に結びつかない。また,父母ともに車を 持っていないため,普段は自転車で行動している。

<対応方針>

 本家庭を支援する関係機関が集まり,各機関で把握 する課題状況を整理・共有を行う。これまでの支援の 中で,有効だった支援や残されている課題について洗 い出し,関係者間で整理・共有する。今後の方針(目 標と具体的取組)について確認を行う。

 本人が不登校・ひきこもりの状況にあり,精神状態

(4)

の悪化が見受けられることから,早期の医療機関受 診(再診)が望まれるが,本人が行きたがらないこと に加え,父母へ勧奨を行っても連れていくことができ ずにいるため,改めて,父母の力を引き出すことに焦 点をあてつつ,行政でできることとできないことを具 体的に検討する。次のケース会議までの日時で,方針 に基づいた具体的な支援を行う(期限をしっかり切っ て対応する)。SSWrは関係する機関をつなぎコーディ ネートすることに加え,担当者をエンパワメントする ことを忘れない。

<その後の支援状況>

 本人の今後についての見通しや対応方針を関係機関 全体で共有し,それぞれの役割を明確にした。困難事 例のため,中長期的な目標設定を急がず,本人がどう してもだめなら,父母だけでも病院につながること(父 母の口から主治医に本人の病状を伝えること)という 短期目標に狙いを定めた。SSWrは,「次の会議で,

小さな変化でもいいから,成果を発表できるようにし よう」と関係者を励ました。福祉サービスで時間がか かりそうなものについて(各種申請等)は,障害福祉 担当とも調整し,水面下で進められること(行政と主 治医との連携等)を徐々に進めることも同時に行った。

現在は,病院につながり,服薬を開始したところである。

⑶ 広域的なケースへの対応

【ケース3・広域連携が必要となった小中移行期にお  ける不登校児への支援】

<概要>

 中1の女子。家族は母親と妹(2歳)。震災直後,

転居した先で母親が放射線の恐怖等から落ち着かない 状態が続き,本人は中学校へ入学・登校できずにいた。

二次避難場所に落ち着くも,体調不良により当該学区 の学校には通えなくなる。本人を心配した祖父が本人 を病院(心療内科)へ連れていき,診察・カウンセリ ングが開始されるが,数回通ったところで母親の意向 により通院が途絶える。その間,本人は祖父母の住む 応急仮設住宅(祖父母・叔母も被災)で暮らす。平成 23年8月末に避難所の閉鎖が決まり,母親は転居先を 探し始めるが,本人や自分の父親(本人祖父)と折り 合いが悪いことから,母親と妹だけが別の仮設住宅に 住むことになった。本人は祖父母宅から,隣町に再開 した学校にいったん登校することになる(祖父の強い 意向で)。数日は笑顔で通ったが,再び不登校となる。

<経緯>

 母親が,二次避難所の閉鎖に伴い他自治体の応急仮 設住宅へ引っ越す際,「どうせ(本人は)学校には行 かないのだから,A中に籍を置いておいてください」

と中学校に申し出た。教職員の異動や夏休みであるこ とが重なり,通常の手続きを踏まないまま母親は転居 したとの情報があった(本人は母親と一緒ではなく,

この時点では本人の所在がはっきりしておらず,情報 も不確実)。また,学校から教育委員会への報告も遅 れた。

 当該教委は,母親から転校先の申し出がないことや 意向が強固であることから,来年度3月までの在籍を 認めるとの判断をした。経緯を知った当該教委所属の SSWrが,本人が現在どうなっているのか,教委を通 じて学校へ確認してもらったところ,本人には中学校 のSCが対応しているので,SSWrの介入は特に必要 ない,とのことであった。本人の所在がはっきりしな いままであることに疑問を感じたSSWrは,念のため 中学校へ直接確認。すると,学校と母親との間でトラ ブルがあったこと,SCとは一度のみの面接を行った だけで,その後はつながっていないことが判明する。

本人の所在も,学校では十分に把握できていないとの ことであった。

<SSWrの支援状況>

 担任は他自治体の応急仮設住宅まで家庭訪問に行く など,本人や母親と関係がとれていたことから,担任 から母親へSSWrの紹介をしてもらう。その後母親か ら相談のニーズがあり,教委で面接を実施する。さら に,以下のような支援を行った。

・学籍の手続きに関する情報提供(SSWr→母親)。

のちに母親自身が中学校で手続きを行う。

・本人への面会の了承を得る(母親より)。祖父母の 住む応急仮設住宅への家庭訪問を実施する。

・県保健福祉事務所保健師,およびB町健康福祉課保 健師へ連絡し情報交換を行う。

・本人の前籍校(C小教頭)へ連絡し,情報を得る(震 災以降も小学校時の担任や教頭が母親・本人と関 わっていた)。

・家庭訪問を行い,以下の点を確認する。①本人と同 居する叔母は感情の起伏が激しい。また祖父には行 政に対する不信感もある。②SSWrが介入したのと 同時期に,祖父がD中への就学を進めており,家庭 訪問の日が学校再開日であった(SSWrは帰宅した 本児に短時間だけ会うことができた)。③仮設住宅 のため,本児の話を聴くスペースがない。祖父母,

叔母は周りを気にし,訪問自体を快く思っていない。

<問題状況の整理>

 本人と母親は,震災前の状況(それまでの家庭環境)

から,関係が悪化しており,本人と別居する母親と,

本人と同居する祖父の意向が対立。本人自身の意思

(ニーズ)が把握できない。

 祖父の力により,E町で再開したD中への就学が決 まったが,本人の精神および身体症状が顕著となり数 回登校したのち不登校となる。また,母親はこの就学 に納得していない。母親,祖父家族ともに,行政に対 する不信・不満がある(震災の際の対応について)。

(5)

<対応方針>

 SSWrが所属するF町教育長と協議。SSWrが自治 体を超えて支援することに難色を示していたが,相手 先のB町教育長,B町教委,B町健康福祉課とも連絡 をとり協議を続け,対応方針を決定することになる。

B町では震災の影響もあり支援リソースがほとんどな く,学校再開にともない教職員も多忙を極めているこ となどから,最終的にSSWr自身が兼務していた教育 事務所ケースとして関わることになった。B町教委・

D中とSSWrがケース会を定期的実施し,本人宅(祖 父母宅や母親宅)への訪問は,B町教委・D中と協議し,

状況を見て行う(学校が中心となる)。本人の様子(精 神状態)については,養護教諭が主に見守りと確認を 行うことになった。

<その後の支援状況>

 B町教委・D中(担任)とのケース会をおおむね月 1回開催し,SSWrと担任とは随時連絡をとれるよう にしていく。

 本人へのコンタクトは,担任が中心で行う。担任か らの要望により,SSWrがD中の見学(あいさつ含む),

養護教諭との打合せを実施した。またSSWrがB町社 会福祉協議会と連携し,応急仮設住宅への支援状況の 聞き取りや,祖父母とのつながりを確認したところ,

社協職員が本人宅の状況を把握していたことから,見 守りを依頼するに至った。

 SSWrの関わりがきっかけとなり,B町では次年度 のSCおよびSSWrの派遣申請を検討し,SCについては 年度途中(平成23年10月ごろ)より配置されることに なり,本人との関わりを開始する。平成24年度は,B 町にSSWrが配置されることになり,SSWr同士での 申し送りを実施することができた。

4.事例の考察と課題

 上記⑴~⑶の事例についてそれぞれ考察を加える。

⑴ 校内ケース会議の開催―中高移行期における場面  緘黙児への支援

 教育現場でのケース会議については,生徒指導の手 引書である「生徒指導提要」にも,「解決すべき問題 や課題のある事例を個別に検討することによって,そ の状況の理解を深め対応策を考える方法である」と示 されている。また,対象となる児童生徒のアセスメン ト(見立て)やプランニング(手立て)が行われるこ とが望ましく,事例の状況報告だけでは効果のあるも のにはならないとも明記されている。

 しかしながら,震災・福島第一原子力発電所の事故 からの復興途上にあることに加え,様々な復興事業が 学校現場にも影響し,今なお平時の学習環境にあると は言い難い。また,新学習指導要領の全面実施や,一 部スタートしている放射線教育等もあり,教師の多忙

感が震災直後から増大し続けているといっていい。

 ちなみに,筆者が行った校長会でのSSW研修の事 後アンケートにも「ケース会議を開く労力が大変であ る」「ケース会議後の学校の動きがよくわからない」

「ケース会議の開き方,関係者の集め方など,ケース 会議の主催者によって異なる」といった意見が出され た。時間をいかに捻出するかはもちろん,限られた時 間の中で課題を明確化し,状況に向き合える環境を意 識的につくっていくこと等が今後も課題となるであろ う。「アセスメントシート」等のツールの活用に加え,

協働する教職員への負担感を減らすための方策とし て,「課題共有シート」を試作しているところである

(文末に挿入)。これは,SSWrとの協働の前段階にお いて,SSWrと話し合いたいことを校内で集約したり,

SSWrが調査してきた内容を整理し,学校に提示する のにも役立つようにしてある。ここでのデータを元に して,さらに校内ケース会議を開催するのか,あるい は関係機関とのケース会議を実施するのか,そのほか の方策を検討するのかが絞り込める。

 事例としてあげた本ケースは,場面緘黙はSCの領 域であり,入学当初からSCによる複数回の研修会の 実施や,本人や母親へのカウンセリングも行われてい た。しかし,本人の校内での情報共有にばらつきがあ り, 具体的にどんな対応をしたらいいのかとまどう教 職員も多かった。場面緘黙があると,単位取得に響 き,途中で通信制等に進路を変更することも少なくな いとのことで,静観する向きもあった。このケースに おいては,教頭がスクールソーシャルワーク(以下 SSW)についての知識があったことも奏功し,本人 の状況にあった支援計画(一定の評価が出せるだけの 課題設定)プランが打ち出せたことも大きかった。ケー ス会議に当事者である母親を参加させることができた のも,学校側の理解によるところである。このように,

ケースによっては,例えば子ども自身や保護者も参加 できるようなケース会議を行えるようになることは,

大きな成果と言えよう。

⑵ 市町村要保護児童対策地域協議会(要対協)への  関与―中高移行期における不登校児への支援  要保護児童対策地域協議会(要対協)とは,虐待を 受けた子どもを始めとする要保護児童等に関する情報 の交換や支援を行うために協議を行う場である。平成 16年児童福祉法改正法の第25条において,市区町村へ の設置を法的に位置づけられ,平成22年4月1日現在,

全国で95.6%の設置率となっている。前身の「児童虐 待防止ネットワーク」と合わせた設置率は98.7%であ る。

 しかし,同調査における福島県の設置率は全国平均 を下回り, 要対協が76.3%,ネットワークと合わせて も94.9%である。実際,設置されていても,活発に活

(6)

用されている要対協は少なく,教職員の間でも,要対 協の存在はあまり知られていないのが現実である。

 加藤(2008)によれば,どのようなケースを,要保 護児童として扱うのかは,自治体によって差異が生じ ており,課題であるとする。「保護を要する」意味は,

虐待を含め,保護者に監護養育させることが困難であ り,保護者の監護に従わない場合を指すため,厳密に 言えば通報を受けた子どもが主となるという。しかし,

ハイリスクと考えられる事例については,要対協で扱 うべきであろうと指摘されている。

 筆者のこれまでの経験から,虐待事例などの困難事 例については,要対協自体をつながりあうリソースと 考えることで,具体的なアクションを起こす方向性を つけることができる。要対協の個別ケース検討会が,

支援者同士が顔を合わせるテーブルとして機能した結 果,必要な情報を共有,蓄積したり,応答力を高める 機会となることを,何度も体験してきた。本事例は,

保護者の判断力の問題や,本人自身の認識の欠落から,

結果として医療ネグレクトの状態となっていること,

これまでの経緯を考慮するとハイリスクであることか ら,要保護児童として関係機関が連携し対処していく 必要性があった。比較的人口の多い自治体であるが ゆえに,行政内でも担当が分かれており,十分な課題 共有が行われていなかったが,SSWrがコーディネー ションと情報の集約・初回ケース会議資料の作成等を 手掛け,ケース会議において,支援の内容と期間を明 確にしたことから方針と実際に援助の方向性が定まっ てきた。

 2回目のケース会議では,当該自治体が主体となり,

ケース会議の運営がなされた。SSWrは引き続きコー ディネーションを分担している。今後は自治体が主で 運営できるようにバックアップしていく方針である。

⑶ 広域的な問題への対応―広域連携が必要となった  小中移行期における不登校児への支援

 本事例は,震災直後の混乱の中で,就学時期を逸 し,その後長期欠席につながってしまったケースであ る。場合によってはいわゆる「居所不明児童」の問題 にもリンクしかねなかったのではないかと危惧する。

ちなみに「1年以上の居所不明児童」については,毎 年5月1日現在で区市町村教育委員会がまとめ,文部 科学省の学校基本調査の「不就学学齢児童生徒調査」

によって報告される。平成23年度(確定値)は全国で 1,191名が不明となっており, 平成24年度(速報値)

では976名と,前年度より減少している。

 SSWrが本事例を発見できたのは,転居間際のこと であった。しかも,子どもからの直接的な訴えはなく,

母親からのニーズも確かではなかった。行政側も,基 本的には去る者についての追跡はできない。しかし,

SSWrの危機感というべくものが,「せめて子ども自

身の意向を聞きたい」という方向へ向かわせた。子ど もの声は埋もれてしまう。それをいかに代弁していく のかに,SSWrの社会正義があるのではないかと考え た結果だった。

 転居先は,SSWrが配置されていない地区であった が,子どもの最善の利益のためには,SSWrがいない 地区であっても,行政上の線引きに過度にとらわれる ことなく動くなど,実際の個別事例を通して既成事実

(実践)を積み上げ,その成果を関係者に実感しても らうことが欠かせない。

 行政上の線引きには配慮するものの,「県内SSWrが ひとつのチームとして機能する=どこにいてもSSWr としての専門性を持ちながら対処する」そのことが 地域格差を低減することにつながるのではないか。

SSWrの業務には際限がない。おのずと連携先は増え,

守備範囲が広がり,関わる人や機関が増大,その中で の共通理解,あるいは合意形成のあり方に,かなりの 時間を要することも事実である。誰が,どのタイミン グで,誰とつながっていくのか。そしてどんな手立て を使えばいいのかなどの判断力が求められるのである。

 最後に,今回取り上げた事例に共通することとして,

それぞれが違う学校種間移行期であったことに着目し たい。幼保小・小中・中高,そしてそれ以降と,切れ 目のない支援を行うためには,SSWrのような人材が 必要不可欠なことを改めて認識する。

5.おわりに

 以上,約1年間のSSWrとしての実践をたどってき た。各地域(地区)ともそれぞれ模索段階ではあるが,

各々の地域特性に沿ったSSWのあり方を追求できる ことは,「震災後の,この時期だからこそ」とも言える。

しかし,与えられた業務時間は圧倒的に少なく,SC を踏襲するような勤務形態(30週というくくり)となっ ているため,スクールソーシャルワークの視点でもあ る「横断的・包括的」な支援が効果的に行えないとい うジレンマが生じている。

 被害の大きい地域と,それ以外の地区との格差がま すます顕著であり,いわゆるメゾレベルの崩壊と再生 が,生活に与える影響は計り知れない。かろうじてメ ゾレベルが機能している自治体のSSWrが,広域的に つながりお互い支援していくというネットワーキング は必須であると考える。また,SSWrのより効果的な 配置のあり方を,早急に検討すべきであろう。

 SSWrの業務は,いかに具体的な支援に結び付けら れるかを問われる局面が多く,SSWrも家庭・学校・

地域と一緒に悩みながらの支援になることがある。「中 長期的なビジョンが見えない中で生活環境をケアす る」という矛盾を,SSWr自身がどう理解していくの か,という課題は常にありながらも,「問題状況の中 にいる人々とともに歩み続ける」という,SSWrとし

(7)

てあたりまえの姿勢を,図らずも常に意識することに なった。子どもたちや学校だけが,あるいは家庭だけ が,ましてやSSWr(支援者)だけが問題状況を背負い,

対峙していくのではなく,支えあう人々やしくみを幾 重にも意識的に創りだしていく必要がある。

(8)

<参考・引用文献>

・「福島県復興計画(第1次)」(平成23年12月策定) 

・「福島県復興計画(第1次)進捗状況」(平成24年6月)

・加藤曜子「要保護児童対策地域協議会移行期における課 題」2008 流通経済大学論集―人間・社会・自然編―第 20巻2号 63p-77p

・厚生労働省「要保護児童対策地域協議会(子どもを守る 地域ネットワーク)の設置・運営状況について」2010年 12月報道発表資料市区町村の児童家庭相談業務等の実施 状況等について(平成22年4月現在)

・鵜飼孝導「スクールソーシャルワーカーの導入~教育と 福祉の連携の必要性」 2008 参議院 立法と調査 279 号 59p-68p

・文部科学省「生徒指導提要」(平成22年3月)

・文部科学省「学校基本調査」不就学学齢児童生徒調査  平成23年度(2012 2月公表),平成24年度(2012 8 月公表)

・鈴木庸裕「災害復興と学校福祉の展開⑴」福島大学総合 教育研究センター紀要11号 2011年

・鈴木庸裕「災害復興と学校福祉の展開⑵」福島大学総合 教育研究センター紀要12号 2012年

・鈴木庸裕編「ふくしまの子どもたちと歩むスクールソー シャルワーカー 学校・家庭・地域をつなぐ」2012 ミ ネルヴァ書房

Referensi

Dokumen terkait

留学生・日本人大学生相互学習型活動における 共生の実現をめざして ∗ 相互行為に現れる非対称性と権力作用の観点から 杉原 由美† 概要 本稿は,留学生・日本人大学生の相互学習型活動において共生を実現する示唆を得るために,グルー プディスカッションの相互行為を対象として,母語話者と非母語話者としての非対称性と権力作用に注

工業高校の教科において、 技術革新の変化に 対応する努力は常に払われてきたとも言えるが、 汎用性のある技術が特定の職業と結びつかなけ れば生徒たちの未来を保証することができない。 先端技術に関わる分野では、 技術が陳腐化する 速度も速いから、 工業高校の教育水準はこれを 追いかけなければならないが、 一方で生徒の学 力低下を食い止め教養教育の基礎も固めなけれ

2, 2012 138 2011年3月11日の午後,東北地方は未曾有の大地震 に襲われた.前日,震度5の予兆地震があったことを しっかり記憶している.3月11日の早朝に筆者は盛岡へ 出張に向かった.その後,約12時間かけてバスにて仙 台へ深夜に戻った.しかし,筆者を夜中に待っていたの は変わり果てた研究室であった.この報告では,筆者ら

月の遣い 月 の 遣 い 法学部法律学科3年 髙橋 将也 理由は、自分にもわからなかった。 一心不乱というべきかもしれない。私の意識と 足は、その竹の方へ向かっていた。そして夢中の まま、その光る竹に、持っていた包丁をそっと当 てていた。包丁で竹が切れるとは思っていなかっ たが、刃先は案外するりと、竹を切断してみせた。

はじめに 欧米や日本では、学校のいじめ問題に対する社 会的な関心が高く、さまざまなかたちで研究が進 められている。一方、中国ではいじめへの報道が 少ないため、「学校いじめが少ない」というイメー ジをもたれることがある。 本稿では、日本と中国における学校いじめ研究 を比較することによって、両者の差異と共通点を 明らかにし、その原因が何に由来するのかを検討

神戸女子短期大学 論攷 64巻 9-19(2019) 要 旨 本稿では,就職活動において企業が求める人物像と学生が考える人物像との間のず れを明らかにするための予備的調査を行った結果をまとめたものである。女子短期大 学生を対象としたビジネスコミュニケーションに関する授業開始前に「学生の考える

1 経済また文化の交流が深まるとともに、日本人母語話者だけではなく、日本語を操 る外国人も年々増加している。その中で、中国の日本語学習者数は世界第二位であり、 大学、大学院などの高等教育機関で学習する者が5割を占め、中上級レベルに達する 学習者の割合が高いことが特徴である。彼らは留学して日本で生活し、日本語母語話

1 基本方針 本学は、「キリストの心を心とする」という建学の精神を掲げ、キリスト教を基盤とした 人格教育のもと、ルターの宗教改革の精神に基づき、特に心と福祉と魂の高度な専門家を養 成することを目的としてまいりました。 本学が置かれている極めて厳しい外部環境の中で、建学の精神に立脚し、ミッションステ