本報告では,福島県で2008年からはじまった文部科学省「スクールソーシャルワーカー活用事業」
の2年目の実践総括をもとに,今後の課題について論じていく。福島県教育委員会の「事業報告書」
および県内の2名のスクールソーシャルワーカーの活動報告をもとに,今後のあり方について分析 検討をおこなう。
〔キーワード〕スクールソーシャルワーカー(SSWer) 校内・校外での支援チーム会議 子どもの居場所
福島県におけるスクールソーシャルワーカーの実践
宮 地 さつき*
c鈴 木 庸 裕*
a,鹿 島 丈 夫*
b*a:人間発達文化学類 *b:会津坂下町教育委員会 *c:本宮市教育委員会
はじめに
スクールソーシャルワーカー(以下,SSWerと略す)
は,社会福祉の行政・制度をはじめ,子どもや家庭の 支援に関わる幅広い社会的制度や援助活動に関する情 報や知識,そして,これまでの地域福祉やソーシャル ワークの領域で培われた専門的な対人援助技術を用い て,問題を抱えている児童生徒とその家族等への支援 を行う専門家である。
福島県でも2008年度より,文科省「スクールソーシャ ルワーカー活用事業」を導入し,SSWerが県教委ある いは市町村教委に任用される形態で業務遂行にあたっ てきた。
本稿では,この事業に関わる福島県教育委員会の「事 業報告書」と事業実施当初から継続して県教委で任用 されている鹿島,宮地2名のSSWerの実践をめぐる 業務の形態や諸体制と実践事例報告,そして鈴木が今 後の課題について論じる。なお,業務報告並びにケー スについては,当該関係者の了解を得ていることをあ らかじめ明示しておく。
Ⅰ 2009年度の事業概要
まず,事業実施2年目の2009年度を中心に,本事業 に関する実践概要について,福島県教育委員会「学校 におけるソーシャルワークを通じた児童生徒支援の実 践・事業報告書」より示していきたい⑴。
SSWerの任用資格要件は,①社会福祉士や精神保 健福祉士の資格を有する者,②学校教育と子ども家庭 福祉の両面に関して専門的な知識・技術を有する者,
③過去に子ども家庭福祉の分野において活動経験の実 績等があると認められる者であり,鹿島,宮地は①の 要件となる社会福祉士である⑵。
その主な業務は以下の通りになる。
① 学校や教育機関での面接や家庭訪問
SSWerは問題行動に起因する児童生徒の家庭環境や状況等に関す
る情報収集と,具体的な援助の糸口をつくるために本人理解を行い ます。
② 関係機関へのつなぎ(連絡,介入,調整)
SSWerは児童生徒の相談相手や一緒に活動するという直接的支援 だけでなく,保護者や教員へのニーズに代弁,問題解決に向けた情 報の提供,地域機関との連携,児童福祉や障がい者福祉,地域福祉 等への橋渡しなど間接的支援活動も行います。
③ 問題解決への関わり(支援体制構築)
SSWerは,支援チーム会議等で社会福祉的視点に立った問題解決 に向けた働きかけを提案し,学校,家庭,関係機関等が連携して活 動できるように支援します。
さらに具体的な業務は,以下に示されている。
① 児童生徒への働きかけ ア)本人理解や家庭環境等の理解
○児童生徒との面接,家庭訪問等を行います。
○学校・家庭・地域の関係機関からの情報収集を行います。
○問題解決に向けた取組みを行います。
イ)支援活動
○面談等による児童生徒に関する情報収集の内容を把握し,家庭・
地域等へ支援活動を行います。
② 保護者等に対する支援,相談,情報提供 ア)相談活動
○保護者等の来校相談や電話,家庭訪問等による相談活動を行い ます。
イ)情報提供
○関係機関や地域の様々な社会資源に関する情報提供または仲介 等を行います。
ウ)支援活動
○教員と保護者との間や,保護者と関係機関との間の仲介,解決 に向けた調整,支援を行います。
③ 学校内における生徒指導体制(チーム体制等)への支援 ア)校内の支援チーム会議への参加
○児童生徒に対する改善に向けての情報交換,援助及び課題分析 (アセスメント),支援のためのプランニングの構築を行います。
イ)教員に対する支援
○校内チーム体制づくりの一員として,教員への支援活動を 行ったり,学校現場での有用な指導の方法やソーシャルワーク に関する知謀や技術について研修を行います。
④ 関係機関とのネットワークの構築による解決に向けた連携・調整 児童生徒及び家庭環境等に関する情報を基に,関係機関と連携し た支援体制の構築等を行います。
⑤ 守秘義務の遵守
職務上知り得た秘密は守ります。
こうした取り組みの中でSSWerに携わる者の視点 は,以下の4点である。
【SSWerの支援・解決の視点】
視点1:児童生徒の最善の利益を大切にしていくこと
視点2:児童生徒が置かれている個と環境の相互作用に着目すること 視点3:学校内あるいは学校の枠を越えて関係機関と連携すること 視点4:支援チーム体制を推進すること
本事業は開始わずかの期間であるが,子どもの家庭 状況における児童虐待,発達障がい,経済的貧困,要 保護状況への問題解決やその軽減に向け,教育現場の みならず保健福祉現場からも評価が高い。その状況は 上記「事業報告書」における数値概数は以下のように 示されている(表1)。
表1の支援件数の多くは,それまでの生徒指導,教 育相談などにおいて未介入ケースであった家庭環境へ の支援や関係機関との関係調整への対応件数であり,
長期欠席や引きこもり,学校と家庭との未連携であっ たケースが「支援中」の数値に転じている。一般的に
「問題解決」や「好転中」の数値に関心が向きやすいが,
これまで「対応策が見いだせない」「困っているが手 つかず」「様子を見る」というケースに,具体的な支 援計画(組織体制,行動計画,結果・評価検討)が進
行している点,就学前や中学卒業後への対応,関係機 関との協働などに顕著な特徴がある。(鈴木庸裕)
Ⅱ SSWerの勤務と活動体制をめぐって
1 勤務体制
2008年度から福島県教育委員会の嘱託職員として,
会津坂下町のA中学校配属ではあるが,会津坂下町内 すべての小中学校を対象とする活動であった。以下,
SSWerの立場から2009年度の活動を整理する。
2008年度は,週2日勤務の社会福祉士(鹿島)と,
教育相談員として勤務していた週1日勤務の学校長退 職者の2名体制であったが,2009年度は社会福祉士1 名体制となった。県教育委員会のSSWer活用事業実 施要綱で,勤務時間が年35週以内,週30時間以内,1 日8時間以内,月17日以下,年間560時間以内であった。
そこで火曜日と金曜日の週2日の勤務とし,スクー ルカウンセラー(以下,SC)との連携(ケース介入 への役割分担や「子ども理解」の協働検討など)を考 え,SCが勤務する木曜日に半日月2回程度勤務日を あわせ,その分,火曜日の勤務時間を6時間とした。
ただ年間35週との限定があるため,夏季や冬季,年度 末に勤務を外さざるを得ず,継続した相談に多少支障 があった。相談などの活動は相手の都合で勤務日以外 の活動も必要で,柔軟に対応してきた。予算との関係 があるので,総勤務時間数の制限はやむを得ないが,
勤務曜日や勤務時間は柔軟な運用が必要であった。
2 勤務場所
会津坂下町内には小学校が4校と中学校が2校あ り,そのうちA中学校が本事業の調査研究校に指定さ れた。調査研究校への勤務ではあったが,町教育委員 会からは2008年度同様,町内の全小中学校を対象に活 動するとの確認を得た。配属された中学校で,SCが 使用している独立した部屋の相談室に席を置くことも できる旨説明があった。しかし,ソーシャルワーカー の立場から,教職員に近い場所で勤務したいと職員室 での勤務を依頼し,職員室に席を置いた。
生徒や保護者から見ると,職員室に勤務するSSWer は独立した存在ではなく,教職員の一員と見られる要 素はあるが,教職員に近い場所にいることで教職員を 通じての問題への関与を期待した。結果的にも配属さ れた中学校での相談件数は大幅に増え,それ以外の小 中学校の相談件数は2008年度と比べほとんど変化はな く,学校に勤務し職員室に席を置いたことでの成果は あった。
3 業務の実際
⑴ 問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働 きかけ
SSWerが要請を受けた活動は,福島県教育委員会の
ᖹᡂᖺᗘ㸦㸰ᖺ┠㸧 㞠⏝ேᩘ
㓄⨨ᕷ⏫ᮧ
ᨭ≧ἣ
㸰ᕷ⏫
ᨭᑐ㇟ඣ❺⏕ᚐᩘ
⥅⥆ᨭඣ❺⏕ᚐᩘ
ᑠᏛᰯ ୰Ꮫᰯ ͤ㧗➼Ꮫᰯ
շࡑࡢࡢእ㒊┦ㄯဨ
նࢫࢡ࣮ࣝ࢝࢘ࣥࢭ࣮ࣛ
յࡑࡢࡢᩍㅍ մ㣴ㆤᩍㅍ ճ⏕ᚐᣦᑟᢸᙜ ղ⟶⌮⫋
ձᏛ⣭ᢸ௵
㸲 㸮 㸴 ձඣ❺ᐙᗞ⚟♴ࡢ㛵ಀᶵ㛵
ղಖㆤ࣭་⒪ࡢ㛵ಀᶵ㛵 ճ㆙ᐹ➼ࡢ㛵ಀᶵ㛵 մྖἲ࣭▹ṇ࣭᭦⏕ಖㆤ㛵ಀᶵ յᩍ⫱ᨭࢭࣥࢱ࣮➼௨እࡢᩍ նࡑࡢࡢᑓ㛛ᶵ㛵 շᆅᇦࡢேᮦࡸᅋయ➼
㐃ᦠࡋࡓ㛵ಀᶵ㛵➼
㐃ᦠࡋࡓᰯෆࡢᩍ⫋ဨ➼
ࢣ࣮ࢫ㆟≧ἣ
㛤ദᅇᩘ
ᢅࡗࡓࢣ࣮ࢫ௳ᩘ
ཧຍᩍ⫋ဨᩘ
㛤ദᅇᩘ
ᢅࡗࡓࢣ࣮ࢫ௳ᩘ
ཧຍᩍ⫋ဨᩘ
ཧຍ㛵ಀᶵ㛵ࡢேᩘ
ձᩍ⫋ဨ➼ࡢ㆟
ղ㛵ಀᶵ㛵➼ࡢ㆟
ᅇ
௳
ே ᅇ
௳
ே
ே ゼၥάືᅇᩘ
ձᏛᰯ
ղᐙᗞ ճᩍ⫱ጤဨ
մ㛵ಀᶵ㛵 յࡑࡢ
ձⓏᰯ
ղ࠸ࡌࡵ
ճᭀຊ⾜Ⅽ մඣ❺ᚅ յே㛵ಀ㸦ղࢆ㝖ࡃ㸧 ն㠀⾜࣭Ⰻ⾜Ⅽ㸦ճࢆ㝖ࡃ㸧 շᐙᗞ⎔ቃࡢၥ㢟㸦մࢆ㝖ࡃ㸧 ոᩍ⫋ဨ➼ࡢ㛵ಀ չᚰ㌟ࡢᗣ➼㛵ࡍࡿၥ㢟 պⓎ㐩㞀ᐖ➼㛵ࡍࡿၥ㢟 ջࡑࡢ
⥅⥆ᨭᑐ㇟⏕ᚐࡢᨭ≧ἣ
㸲㸣 㸣 㸣 㸴㸣
ᨭෆᐜၥ㢟ゎỴ ᨭ୰ ᨭ୰ ͤࡑࡢ
㸦」ᩘᅇ⟅㸧 㸦ዲ㌿୰㸧
㸰ே㸦┴ᩍ⫱ጤဨ㸸ධ㑅㸪ጤკ㸪㓄⨨㸧
ͤ㧗➼Ꮫᰯ㸸ᮍᑵ Ꮫඣ㸱ྡྵࡴ
㸦ͤ༢㸸ேᩘ㸧
表1 㸦άືグ㘓ࡢࡲࡵࡼࡾ୍㒊ᢤ⢋㸧
定めたSSWer活用事業実施要綱にはソーシャルワー カーが行うべき業務として次の5点が規定されてい る。
① 問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働き 掛け
② 関係機関等とのネットワークの構築,連携・調 整
③ 学校内におけるチーム体制の構築,支援 ④ 保護者,教職員等に対する支援・相談・情報提 供
⑤ 教職員等への研修活動等
これは,調査研究校中学校長が,年度当初に県教育 委員会に提出する実施計画書の事業概要でもあった。
2009年度の支援対象となったのは小学生14名,中学 生23名,高校生1名,就学前の児童3名の計41名であっ た。抱えている問題も家庭環境の問題が29件と最も多 く,次いで不登校が8件であった。児童生徒自身の問 題より環境的要因が主要な課題であった。
児童生徒の置かれている環境として,家庭,学校,
友人,地域社会,関係機関,社会諸制度などがあるが,
家庭環境に関わる面が多かった。それら環境への働き かけがどの程度できたのか心もとないが,児童生徒に 直接関わること以上に保護者や関係機関に関わりを多 く持ってきたことは,子どもの生活環境への働きかけ が必要であった結果といえる。保護者など家庭に接点 を持ったケースは19件,学校等の関わりを求めたケー スが15件,関係機関の対応を求めたケースが15ケース であったが,地域社会と関わりを持ったケースは1件 にとどまった。
⑵ 関係機関等とのネットワークの構築,連携・調 整
関係機関との関係は2008年度の活動でほぼ形成さ れ,09年度はそれらの基盤の上に立っての活動となっ た。08度からのケースも含め09年度支援対象となった 41名の児童生徒の内,関係機関から提起されたケース は5件あり,関係機関と何らかの形で情報を共有した ケースが29件あった。またケース会議で対応したケー ス11件中9件は関係機関等でおこなったものであり,
関係機関(児相や保健福祉部門等)とともに開催した ケース会議は13回であった。
SSWerの日常的な活動で,課題を抱えた児童生徒 に関して,関係機関等と情報を共有し,ともに考え,
それぞれが役割を果たす活動が定着してきた。町役場 児童福祉担当,母子福祉担当,生活保護担当,両沼福 祉相談コーナー家庭相談員,教育相談員,教育委員会 事務局は日常的に関わりを持てている。町保健師や地 域包括支援センター職員,主任児童委員,警察少年補 導員等とも必要な時に関われる関係はできている。
⑶ 学校内におけるチーム体制の構築,支援 A中学校に席を置くことで,職員会議にも出席し,
学校の現状を理解する機会も増えた。生徒指導委員会 への出席で問題に直面している生徒の状況や教職員の 取り組みの情報も増えた。教職員からの日常的な情報 も増えた。だが,SSWerとして学校内におけるチーム 体制の構築,支援となると,ほとんど意識的な活動は できなかった。学校内におけるチーム体制の構築は学 校の課題で,SSWerはチームの一員として,ソーシャ ルワークの視点でチームの中で積極的な役割を果たす ことではないかと思う。
週2日の限られた勤務の範囲で,学校内のチーム体 制の一員として参加し,役割を果たせる場は,問題を 抱えた児童生徒について協議される機会の多い生徒指 導委員会ではないかと思われる。09年度はA中学校の 生徒指導委員会にしか参加する機会がなかったので次 年度以降他の学校でも生徒指導委員会に参加できる機 会を求めていきたい。
問題を抱えた児童生徒の支援において,ケース会議 は有効な場であり,組織的な支援のチームとしての取 り組みであり,チーム体制構築の具体化でもある。関 係機関等とのケース会議が9件13回開催されたのに対 し,校内での教職員等とのケース会議は2件2回と少 なかった。校内においては日常的に情報交換や個別の 協議が行われていて,ケース会議を開催する必要性が 感じにくいことや,時間を調整して会議を開催しにく いという事情もある。しかし,情報を持ち寄り,確認 し,課題を共通理解し,役割を分担し,支援し,結果 を確認しながら,次の支援に繋げていく組織的な支援 の強化は不可欠であると思われる。
⑷ 保護者,教職員等に対する支援・相談・情報提 供
保護者と面談したケースは20件で,ほとんどが生活 問題,経済的な問題に関連しており,保護者の直面し ている困難な問題を受け止めることと,利用できそう な社会資源の紹介が主な支援であった。生活保護制度,
社会福祉協議会の生活福祉資金,就学援助制度,特別 支援教育奨励費,児童扶養手当,母子福祉資金,学童 保育,公営住宅,介護保険サービス等社会福祉に関連 する領域の情報は提供しやすく,実際に利用にも結び ついたケースもかなりあった。
中学校卒業後進学しなかった生徒の就労の場など は,SSW活動の中で新たに直面した課題であり,情 報も少なく,社会資源の開発も含め情報の収集を行っ た。保護者への支援にまでは至らなかったが,情報の 収集は支援の前提として大きな活動課題であった。
教職員から相談や紹介を受けたケースが25件,教職 員から求められたという点において教職員への支援に なっていたのではないかと理解している。対応として
は保護者と面談し,保護者の問題を受け止め,保護者 に情報の提供や,利用できる制度の紹介が主であった。
教職員にとってはなじみの薄い生活問題,社会福祉制 度に関する分野で社会福祉の専門性に期待されたので はないかと受け止めた。
また,問題を抱えた児童生徒に関する情報を教職員 に伝えるのも重要な支援であった。教職員から相談を 受けたケースや,特に相談を受けていないが支援が求 められているケースに関わる情報の提供である。情報 等は連携している町内の関係機関等からの把握が主で あるが,時には社会福祉専門機関,団体,インターネッ ト等広い範囲からも収集した。身近ではきょうだい等 が小学校と中学校に在籍している場合には,小学校か らの情報を中学校へ,中学校からの情報を小学校へと いうケースもあった。学校現場では,学校外の,特に 教育分野以外の関係機関との連携,情報収集等の機会 は少なく,情報で学校と関係機関をつなぐのもSSWer の大きな役割であった。
⑸ 教職員への研修活動等
教職員への研修活動等もSSWerの活動として求め られた。配属されたA中学校の教師と保護者の会の教 養講座で,スクールソーシャルワークについて講演す る機会があり,研修活動の一端になった。また2009年 度末2月に町教育委員会主催でSSWer活動研修会が 開催され,学校関係者,地域の関係者と私たちの活動 の検証ができたことの意義は大きかった。
2009年度の途中から,小中学校,幼稚園,保育所の 教職員,関係機関職員向けに,毎月1回広報誌「ソー シャルワーカーの視点」を配布した。社会福祉関係の 社会資源の紹介,スクールソーシャルワーカーの活動 の紹介などを行い,研修活動的要素も含んでいた。
4 予防的支援の充実
2009年度関わった児童生徒は41名,昨年度は26名で あったので人数的に大幅に増えたが,それ以上に子ど も達の置かれている環境の厳しさ,問題の深刻さが強 い印象である。直面している問題は,負債,DV,離 婚,嫁姑問題,疾病,介護,不安定就労,リストラ等 実に多様であった。トータルでは家庭環境の問題が29 件,その背景に経済的問題,生活費の厳しさが想定で きるのが26件もあった。関わった児童生徒41名のうち,
離婚や別居,死亡等により,一人の親で子育てを担わ れている児童生徒が17名,雇用環境が厳しい中で,一 人の就労で生活費を確保し,子育てをすることの苦労 が推察される。
問題の解決,あるいは好転したケースは8件と必ず しも多くはないが,関係機関と情報を共有しているの が22件,学校と情報を共有しているのが33件,関心を 持って見守る体制が整えられつつある意義は大きい。
教職員や関係機関から紹介や相談を受けたケースの 中には,具体的な問題に直面しているわけではなく,
置かれている環境に様々な問題があって,困難に直面 することを心配してのものもあった。いじめや不登校,
暴力行為,非行,児童虐待などの問題行動が現れて支 援するのではなく,客観的に児童生徒の置かれている 状況が厳しければ,少しでも良い環境で過ごせるよう な視点での関わりがあった。SSWer活動が事後的支 援だけではなく,予防的支援に大きな役割があること を実感した。
2009年度,特に意識したことに,中学校卒業後就学 も就職もしていない生徒への支援がある。中学校卒業 後進学しない生徒がここ数年毎年1名ずつおり就職も していない。それに不登校のまま卒業し進学も就職も していない生徒もいる。就労等により社会経験が蓄積 できないか,関係機関への協力要請と情報の収集に努 めた。就労に至る成果はないが必要な支援の領域であ ることは確認できた。
5 活動をめぐる今後の課題―町単独事業の中で 2010年度は福島県教育委員会のSSWer派遣事業で はなく,会津坂下町単独予算でSSWer活動が継続す ることとなった。勤務時間数は年間560時間と09年度 と変わらないが,年間35週の制限がなくなったので,
年間を通じて活動ができるように,火曜日,金曜日の 週2日,10時から17時までの1日6時間勤務を原則に した。ただし必要に応じ,年間560時間の範囲内で柔 軟に勤務することの了解を得た。
勤務場所は,09年度A中学校の職員室に席を置くこ とで,教職員からの相談を受けやすかったので,次年 度も継続する方向で教育委員会と協議した。児童生徒 や保護者からの相談を期待してSSWerの周知に工夫 はするが,児童生徒や保護者の状況を最も知りやすい 立場にいるのは教職員であり,教職員から相談,情報 を得やすい体制を優先した。
ただし,席を置く中学校とそれ以外の小中学校の件 数に大きな開きがあり,席を置く中学校以外の学校の 教職員からの相談,情報を受けやすい体制を作るのが 課題である。県教育委員会のまとめた事業報告書では,
SSWerの効果的な活用方法として,各学校にSSWの 担当者を置くことを提起している。担当者の役割を,
ソーシャルワーカーとのパイプ役として,連絡,調整,
情報交換,情報の共有,提供をするとしている。さら にSSWerと連携して校内で支援チーム会議を開催す ること,児童生徒及び保護者,教職員から相談を受け 付けSSWerにつなぐことなどとしている。各学校で 担当者が決められれば,配置校以外の学校からの相談,
情報のルートができるだけでなく,事業計画で求めら れながらも成果を上げられなかった「学校内における チーム体制の構築」を担う担当者ができることになる。
2010年度,各学校の担当者との協働が可能になれば,
飛躍的な進展になる。SSWerの立場からは,各学校 で担当者が決められることを期待したい。
子どもの福祉をめぐる関係機関等との連携はこれま でも図られてきたので,継続,強化が課題である。た だ,この間,手がけた中学校を卒業しても進学も就職 もしていない生徒の支援は,高校中退者の問題,広い 意味での地域づくりにつながる課題であり,社会福祉 分野だけでなく,かなり幅広い関係機関との連携が必 要となり,次年度の課題である。 (鹿島丈夫)
Ⅲ 児童生徒の居場所づくりと社会資源 の開発
1 地域に広がる子ども支援の輪
学校現場には,学習面や身体面での困難さなどに よって個別対応を要する子ども,環境要因の影響から 不安定になる子ども,ストレスを周囲の子どもにぶつ ける子ども,学校に足が向かない子ども,誰が訪問し ても顔を出すことすらない子どもなど, 特別な支援 を要する 子どもたちが多く存在する。しかしこのよ うな子どもたちは,見方を変えていけば,自身がエン パワメントされる側であると同時に, 家庭・学校・
地域をまるごとエンパワメント していく必要性を教 えてくれている存在と考えられる。
筆者(宮地)はSSWerとして勤務する中で,子ど もたちの声に耳を傾けるよう努力していこうと,手探 りで活動してきた。以下では,筆者がSSWerとして 大事にしてきた,つなぎ・社会資源の掘り起こしや開 発・居場所づくり・ネットワークの構築などの活動の 一端を通して,子どもたちとともに行なってきたエン パワメント活動の経過を報告する。
2 SSWerとしての出発
SSWerとして配置される際,まず筆者はSCとの定 期的な打ち合わせの日を設けてほしいと学校側へ依頼 した。しかし,事業開始当初, SCの出勤日以外の相 談室対応員 ととらえられる傾向があり,結局はSC の出勤日以外の曜日の設定からはじまった。 SSWer は,長期欠席対応・相談室対応 というイメージが強 くあることに戸惑ったが,その一方で,学校の抱える 第一の課題が長期欠席・相談室登校の生徒への対応で あるということを痛感した。そうであるならば,まず 学校のニーズに応えていくこと,その上で,子どもた ちの抱えている根底の課題を共有し,子ども理解を深 めていくことが,遠回りのようでもっとも近道である と考えるに至った。
どこの中学校にもすでに,SCが月2,3回のペース で巡回し配置され,子どもや保護者,教職員との信頼 関係を築いている。筆者が出会ったどのSCも,相談 室での面談のみならず,必要があれば家庭訪問などに
よって地道な働きかけを行っていた。その結果,長 期欠席を続けていた子どもたちが相談室登校できるよ うになり,徐々に登校できるようになるという流れが あった。筆者はその関係の中へ 割って入る という よりむしろ, 仲間に入れてもらう という感覚を大 切にしながら,SSWerとしての立ち位置を模索して いくこととした。また,SCとSSWerのそれぞれの専 門性をめぐる理解を図ることも大切にした。
3 はじめての居場所づくり
長期欠席の子どもたちは,不特定多数の生徒と不意 に出くわしたり,進みすぎてしまった学習内容を行っ ている授業の中へ他の生徒と共に参加すること,また,
腫れ物に触るような扱いを受けることなどは当然のご とく極端に嫌がる。それは,どのような生徒でも同じ ことが言える。長期欠席状態から一歩前進してみよう と思う反面,学級に戻って 普通に 生活を送ること はかなりハードルが高い。そんな彼らの居場所として
相談室 は存在している。
それでも子どもたちは,やっとの思いで相談室に やってくる。他の生徒にみられないように授業の合間 をぬってこっそりやってくる者もいれば,給食の時間 に間に合うように登校する者もいる。最初は『初めま して』だった相談室の生徒同士も,互いに理解し合え るものがあるのか,徐々に距離が縮まり,いつしか,
同一化するほどの仲になることもある。同一化した生 徒は,他生徒が担任に注意を受けていたり,不合理だ と思われる対応をうけていると,それを自分のことか のように同苦し,それがストレスになってしまうこと があるので,注意を払う必要があった。
相談室に登校するようになった子どもたちが,すぐ に教科学習には取り組むことは難しい。学習の時間を 確保しようとすると,翌日は逃げるように欠席したり,
反発したりすることもあった。しかし,これらは「ま だエネルギーがたまっていないから,もうちょっと 待って」という,彼らなりのサインである。長期欠席 になってしまった子どもたちは,登校できれば問題が なにもかも解決されるわけではない。その背後にさま ざまな課題を抱え,その二次障がい・三次障がいとし て 長期欠席 という精一杯の行動をとっている。彼 らの中には自己肯定感が低く,「どうせ何をやっても 正当な評価をしてくれない」「私自身のことをみてく れていない」と,諦めや不満が蓄積されてしまってい る生徒もいる。
そのため,相談室登校ができるようになると,まず,
彼らの得意なことややりたいことを引き出しながら,
その活動を共有することから始める。他から見れば遊 んでいるかのように思われる活動の中にも,自己肯定 感や意欲の向上を図っている大事な時期として,教職 員やSCと共通理解をしていく必要があった。
相談室が安心できる場として定着してくると,少し ずつ「なにかにチャレンジしたい」「もっと学校生活 を楽しみたい」という生徒の声を聞く事ができるよう になる。これらのことから,相談室を拠点として,子 どもたちの存在意義を見出し,「ここに居てもいいん だよ」「ありのままの自分でいいんだよ」というメッ セージを伝えていくことの必要性を感じた。メッセー ジを伝えることは,言葉だけではなく,行動面や感情 など,あらゆることに着目する必要がある。そのため には,さまざまな活動を通して,彼らの力を発揮でき る場が必要になる。その活動の中から「学校に来る意 義」を見出してほしいと考え,子どもたちはもちろん,
担任やSCと共に,学習の時間やグループワークの時 間などを取り入れたカリキュラム作りを始めた(表2
―相談室時間割例)。
᭶ ⅆ Ỉ ᮌ 㔠
⤥ࠉࠉ㣗
ఇ ࡳ 㸱 㝈 㸦㸿㸧 㸦㹀㸧 㸲 㝈 㸦㸿㸧 㸦㹀㸧
ᅜࠉㄒ ⱥࠉㄒ ᩘࠉᏛ ᅜࠉㄒ ᩘࠉᏛ 㸦ۑۑඛ⏕㸧㸦ڹڹඛ⏕㸧㸦ڧڧඛ⏕㸧㸦ۑۑඛ⏕㸧㸦ڧڧඛ⏕㸧
≉ูάື 㸦⮬⩦㸧 ᕼᮃᩍ⛉ ≉ูάື ⱥࠉㄒ 㸦6&㸧 㸦ۑۑඛ⏕㸧 㸦66:HU㸧 㸦ڹڹඛ⏕㸧
表2
カリキュラムの中で彼らは,SCやSSWerとだけで はなく,管理職やALTとも関わる時間ができるなど,
新しい出会いを重ねながら,教科学習以外にもさまざ まなことを学ぶことができた。学校側の理解が深まる につれ,相談室を勉強できる環境に整えたり,彼らの 得意な活動を共有すること,夏休みを利用して企画・
運営して行なった調理実習や校外学習の実施,子育て サークルへのボランティア参加など,様々な活動を組 み込んでいった。
活動が軌道に乗り始めると当然のごとく,「勉強し たくない」「あの子がイヤだ」と,相談室という小さ な社会の中で,子どもたち同士も葛藤し悩んでいった。
しかし,その葛藤や悩みを経験することで,彼らはよ りお互いのことを理解していけるようになり,その壁 を乗り越えることによって,自信を持ってさらに前に 進むことができるようになった。
年度末に,子どもたちへこれまでの相談室での活動 について聴き取りを行うと,どの子どもからも「もっ と勉強したかった」と,意外な言葉が返ってきた。自 己肯定感が高まり,自己実現に向けた活動を求め始め,
共に学ぶことの楽しさを実感している様子が伺えた。
手探りで始まった子どもたちとのこのような居場所 づくりの中で,筆者は次のようなことを改めて学んだ。
① 子どもたちは,どの子も『学びたい』という意欲を持っているが,
さまざまな理由でそのニーズを満たすことができない環境に追いや られている。その環境を整えていくことで,自ら積極的に活動し始 めることができること。
② 子どもたちは,さまざまな体験が不足している。無理のない程度
に他者とのかかわりを増やしながらさまざまな活動を通して,自ら 人間関係の難しさや楽しさを学び,社会体験・生活経験を積み重ね ていくことができること。
4 地域の中の居場所づくりへ
新年度になると同時に,年度末の子どもたちの言葉 を管理職へ伝えるとともに,相談活動の充実のために は,校内に相談室とは別に 学習室 の設置が必要で あることを訴えた。協議の末に,担任や学年の教員の みならず学校全体で子どもたちの学習支援に当たって くださるようになっていった。当初は教員の負担感も 大きい様子であったが,校長先生のリーダーシップや 担当となった教員のご尽力の甲斐あって,徐々に軌道 に乗っていった。子どもたち自身も,当初は相談室か ら学習室への心理的・物理的な 引越し に戸惑いが 見られたが,日当たりの良い学習室をすぐに気に入り,
毎日楽しく学習に取り組み始めた。
また,それまでは互いに気を使って学級へと行こ うとしなかった子どもたちが,SCの後押しもあって,
選択学習や給食など一定の時間であれば学級への参加 ができるようになっていく。またその他にも,修学旅 行や文化祭などの大きな学校行事にも他生徒と一緒に 参加し,学校生活を満喫している姿がみられ,自立に 向けて歩んでいった。これらの活動から,子どもたち は共通して,「学びたい」「他者との交流をしたい」と いうニーズを持っていることを改めて学んだ。
そこでさらに,登校にも至らず,家庭に引きこもり がちの子どもたちを対象に,地域に居場所をつくって いく試みを始めた。家庭と学校以外に居場所をもち得 ない子どもたちは,しばらく長期欠席が続くと他者と のふれあいを拒み,家庭内暴力に発展したり,自室に 引きこもっていってしまう傾向にある。居場所が必要 であることは,長期欠席の子どものみならず,特別支 援を要する子どもや養育環境に心配のある子どもに共 通してみられることである。
まずは,幅広い子どもたちの学習支援と他者の交流 を目的に,夏休み限定で居場所づくり活動を企画・運 営することとした。内容としては,夏休み期間中に計 数回,午前中は各自が持参した教材を用いて学習し,
午後にはレクリエーションを行うというもので,場 所は公的施設を活用した。午後のレクリエーションで は,ニュースポーツやALT(外国語指導助手)との 交流,調理実習など,さまざま活動を取り入れた。また,
主任児童委員などのご協力もいただき,他者とのかか わりの機会も作っていった。当初は子どもたちの参加 があるのかさえ懸念される声もあったが,最終日には
「楽しかった」「またやりたい」などの意見が出たり,「家 の中にいるのはつまらない」と感じ,新学期に向けて 気持ちを新たにする子どももいた(資料1)。
資料1 夏休みの活動に関する実施計画(抜すい)
○ 目的
・ 本活動に関心のある子どもを家外に出す機会を設け,さまざま な学習の機会を提供する。
・ 多様な子ども同士のかかわりを通して,対人関係を苦手とする 子どもたちに他者に対する不安軽減の機会とする。
・ 活動を可能な限り自主的に企画・運営させ,自主性を育み自己 肯定感を高めさせる。
・ 家族のかかわりにも着目し,今後のかかわりの足がかりとする。
・ 地域住民に支援を依頼することで,身近な人的資源を拡大して いく。
○ 内容
・ 対象 市内の児童生徒(主にスクールソーシャルワーカーがか かわっている,もしくは学校側から依頼のあった児童生徒)
・ 場所 中央公民館 ほか
・ 期間 夏休み期間数回
・ 活動 〜 9:50 … 集合 10:00〜12:00 … 自主学習 12:00〜12:40 … 昼食休憩 12:40〜14:30 … 課外活動
14:30〜15:00 … 次回の活動に向けたミーティング 15:00〜15:30 … 解散
15:30〜16:00 … スタッフ同士の振り返りと次回の活動の 確認
☆ 活動により,午前と午後が逆転する場合も考えられる。
※ 課外活動内容(例)…スポーツ大会,調理実習,ALTとの 交流,工作など
・ 傷害保険 一律300円 参加者より徴収
※ ルール ①家族が送り迎えもしくは自力で通う。②昼食は持 参する。③参加者の自主性を重んじる。
また,子どもたちだけでなく,保護者からも「こう いった企画を今後も続けてほしい」との意見をいただ き,市教育委員会や所属学校との検討を重ねた結果,
試験的な取り組みとして対象範囲を絞った上で,2学 期後半より平日の長期欠席生徒への居場所づくり活動 が開始された(資料2)。
この活動は夏休みの活動の発展型であり,基本的な プログラムとしては大きな違いはない。異なる点は,
①学校がある平日の昼間に活動していること ②保護 者との月1回程度の面談実施を明示していること ③ 実施日には原則参加を基本としていること である。
また,参加の際には 申し込み用紙 に記入していた だくこととした。これは,保護者の意向を汲むこと と,本人の生活やニーズ等をどれだけ把握しているか などを捕らえるためである。活動については,学校支 援地域本部事業の協力も得ながら,ボランティアや講 師派遣を依頼することで,より幅広い活動を行なうこ とができた。子どもたちの様子や成長していく姿を毎 回学校へ報告していくことで,学校と距離をとりがち な校外の居場所を連続性のあるものにしていこうと試 みた。
資料2 長期欠席児童生徒の居場所づくりに関する 計画書(抜すい)
1.目的
さまざまな理由により登校できていない児童生徒も,「学習した い」「同世代の友人と交流したい」といったニーズを抱えている。
当該児童生徒の学習権の保障及び児童生徒同士の交流の場を,家庭 でも学校でもない第三の場として設けることで,それぞれの特性を
活かした成長発達を図っていく。
2.期待される効果
学習への意欲向上,同世代との交流,コミュニケーションスキル の向上,自己肯定感・自己有用感の向上,家族の肯定的な関わりの 増加,当該児童生徒に適したモデルの獲得,etc.
3.対象児童生徒の条件
・様々な理由により登校できていないが,児童生徒自身に学習した い・同世代の友人との交流をしたい,という意欲があること ・保護者の協力が得られること(月に1度程度はSCもしくはSSWer と保護者との面談の実施や,お弁当の持参が可能であること)
・学校及び担任の先生の協力が得られること 4.活動内容
・教科学習,図画工作,調理実習,運動など,参加児童生徒とプロ グラムを組みながら行う。
・可能な範囲でボランティアを依頼する。
・家庭と学校がこまめに連絡を取り合いながら,当該児童生徒の様 子を把握する。
5.場所 市内施設 6.流れ
①校内にて立案の承諾を得る。②校内にて立案・検討・ 協議。
③市教育委員会にて発議。④担任の先生方への周知。⑤対象 (予定)
児童生徒への呼びかけ及び申込用紙の配布・提出(必要が あれば面 談) ⑥参加者の掌握・確認。⑦活動開始(随時,受付可能 にする。
そのたびに意思確認をとる)。⑧経過観察・児童生徒及び 保護者面談・
必要に応じてケース検討等。⑨活動終結 7.期間
準備期間 ①〜⑤平成21年11月中
実施・観察期間 ⑥〜⑧平成21年12月〜平成22年3月末
不定期な開催や活動場所の未設置(日替わり),ス タッフの不足などの課題も多くみられたものの,以下 のような変化が見られた。
① これまで,生活リズムが不規則だったり,学習機会がなかった(拒 否していた)生徒が,自らの生活を見直したり,自分のペースにあっ た教材を持って意欲的に学習に取り組んだり,登校につながったり など,それぞれに改善がみられてきたこと。
② 保護者が「どうにか学校に行かせよう」と躍起になって子どもと の関係が悪化したり,保護者が疲弊したり無力感を感じてしまった りしていた家庭が,少し余裕を持って関わることができるように なったり,相互に肯定的な見方ができるようになっていること。
③ 生徒同士または大人と関わりを通して交流を重ねることで,コ ミュニケーションスキルの向上が図られ,それまで受動的であった 人間関係を自ら築いていこうとする姿がみられたこと。
④ 携わっていただいたスタッフが,子どもたちのこのような居場所 の必要性を強く感じて下さっており,継続的な実施を要望してくだ さっている。また,会場となった市職員や保健師,市社会福祉協議 会職員などからも,子どもたちの表情が変わっていく姿を通して本 活動への理解が深まったこと。
5 小括ー地域づくりとの関わりで
これらの取り組みは,子どもの居場所の必要性を指 し示すための試験的な取り組みであり,ソーシャルア クションの一貫である。課題が山積している中でも,
子どもたちがエンパワメントされていく姿を目の当た りにしたことで,大人の彼らを見る目や言動が変化し,
その結果として,周囲の大人自身が彼らにエンパワメ ントされていることを共通認識していきたい。
今後,このような居場所が,子どもの声・保護者の 声・地域の声となってさらに拡大し,地域に根づき,
学生や地域住民などさまざまな人びとの手で育めるよ う,そして,『地域で子どもたちを育てる』といった
取り組みへと発展し,子どもを中心とした地域福祉の 向上を目指していけるよう,SSWerとしても働きか けていきたい。 (宮地さつき)
Ⅳ 今後の課題
1 教育関係者以外の人々からの理解や了解 SSWerと学校や地域,機関での会議などで行動を 共にしたり,一緒に家庭訪問するなど,実践を直接共 有した経験がないと,この業務への理解が深まりにく い。その点で,冒頭に示した福島県教育委員会の「事 業報告書」は1つの検証された筋道(マニュアル)と して有効である。とくに,「学校におけるソーシャル ワーク」は,その専門性において教育領域には皆無に 等しかっただけに,日常的な協同的行動を通じて,教 育関係者の理解を高めていく方法が有効であろう。し かし,2名の報告とも,教師のみならず保護者向けの ソーシャルワーク研修や「ソーシャルワーク・マイン ド」の涵養を講じていこうとしている。
ただ,この際,教育委員会の役割は大きい。SSWer の2009年度実績において,児童生徒の出身の幼稚園教 諭や保育所保育士,進学先の小学校・中学校・高校 の教諭,あるいは適応指導教室相談員や指導員との 連携が不可欠であった。このことから,市町村教育 委員会がSSWerの役割を理解し,活用の体制を整え,
SSWer配置校のみならず,近隣の諸学校・幼稚園・
保育所に対する受け入れ体制を整える提案が必要とな る。単に人的な連携だけでなく,児童生徒の事例管理,
例えば諸記録の申し送りやその管理について特別な配 慮を提示する必要がある。そして,従来から関わりの ある児童相談所や保健・福祉・医療機関に加え,例え ば,地域包括支援支援センターのソーシャルワーカー や保健センターの地域保健師との連絡調整,要保護児 童対策地域協議会や地域障害者自立支援協議会への参 画,子育て・療育・障害等のNPOや親の会,学童保 育指導員,ハローワーク職員といった機関や組織との 連携がSSWerの活用事業にとって有効であった。こ うした学校の「外部者」への関心や信頼の形成に教育 委員会として配慮していくことも望まれる。
また,市町村教育委員会では,事例に関する会議や SSWerの活動の成果や課題について日常的に協議で きる場の設定,そしてSSWerのスーパーヴィジョン や専門研修の機会を設置し,継続的にSSWerを支援 できる体制は欠かせないと思われる。
2 校内担当者の役割の明確化
児童生徒や保護者,校内外の教職員からの相談受付
(教育委員会や教育事務所を含む)とSSWerとの連絡 調整(相談内容を踏まえた調整),そして相談活動に 関する具体的な計画立案,情報管理,個人情報や支援 チーム会議録の保管,さらには支援チーム会議の開催
に関する関係者の調整など,一連の役割が校内で明確 化されることが大切になる。特に情報や事例の管理に ついては,特段の管理技術の熟練も求められる。
3 地域に拓かれた学校づくりとの連動
上述の2つの実践に共通することは,学校運営が地 域(コミュニティー)に拓ていくための取り組みであ る。就学前からの引き継ぎや卒業後への移行支援はで きる限り学校側から発信していくテーマである。学校 づくりは,地域の行政,保健福祉,医療,社会教育な ど「子ども期」に関与する地域の諸領域が横断的につ ながることで達成される。こうした着目点を軸にして,
地域に子どもの自立支援のための居場所や人材が豊か になることをめざす。
SSWer事業の発展を生徒指導・教育相談事業の一 環としてのみとらえるか,地域づくりの見通しの中で とらえるか。今後の大きな分岐点がある。
(鈴木庸裕)
注