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タンパク質の少ない食事が慢性腎不全の悪化を防ぐ理由とは…?

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はじめに

近年,わが国では,食の欧米化や高齢化に伴い,生活 習慣病患者が増加していることは周知のとおりである.

生活習慣病として一般的にイメージするのは,肥満を起 因とした糖尿病や高血圧,そして動脈硬化である.しか し,慢性腎不全患者の増加も,現状として軽視できない 状況にある.2012年現在,日本腎臓学会の発表による と,日本では成人の約8人に1人に当たる約1,330万人の 慢性腎不全患者がいるとされ,新たな国民病として考え 始められている.慢性腎不全は現在,不可逆的な病変と 考えられており,末期まで進行が進むと,排尿量が大幅 に減少する.よって,体外に尿として排出すべき老廃物

(尿毒素)が体内に蓄積されてしまうことから,それを 除去するために透析治療が必要となる.日本は世界第1 位の透析大国であり,現在の透析患者数はすでに30万 人を超え,さらに毎年1万人ずつ増え続けていくと予想 されている.透析導入の問題点とてしてまず挙がるの は,患者のQuality of Life(QOL)の低下である.透析 治療は標準的に,「週3回」,「一日4時間」の処置であ り,透析導入は患者への負担が非常に大きい.また,ほ かの問題点として,透析治療に要する年間の国民医療費 が挙げられている.その総額は1兆5千億円を超えてお り,医療経済的にも最重要課題の一つとなっている.し たがって,慢性腎不全の進行を遅延させることで透析患

者数の増加を抑えることは,透析導入による慢性腎不全 患者のQOLの低下を防ぐだけでなく,国民医療費の増 加に対する社会問題を解決する重要な手段となりうる.

慢性腎不全の中には,免疫学的な異常による慢性糸球 体腎炎のように,食習慣の悪化や高齢化による腎機能の 低下を起因としないケースもあるが,慢性腎不全中期か らの進行メカニズムは,共通の機序で行われると想定さ れている.そのため,発症原因とは関係なく,中期から は同様の治療法が処置される.慢性腎不全の代表的な治 療法には,タンパク質摂取量や塩分摂取量を制限した食 事療法,薬物療法による血圧管理,貧血改善,脂質代謝 管理,糖代謝管理などがある.この中でも,特に低タン パク食による食事療法は,古くから慢性腎不全の進行遅 延に対する有効的な治療法として位置づけられている.

しかし,低タンパク食療法の有効性に対するメカニズム について,その詳細は不明な点が多い.そこで本稿で は,腸内細菌の代謝産物に焦点を当て,摂取した食品タ ンパク質による慢性腎不全の進行促進メカニズムについ て,筆者がこれまでに見いだしてきた知見を中心に紹介 する.

食品タンパク質由来腸内細菌代謝産物インドール  からインドキシル硫酸の産生過程

摂取したタンパク質に含まれるトリプトファンは,図 1にあるように,大腸内で腸内細菌(大腸菌など)が有

食品タンパク質由来腸内細菌代謝産物が導く慢性 腎不全の進行促進メカニズム

タンパク質の少ない食事が慢性腎不全の悪化を防ぐ理由とは…?

清水英寿

島根大学生物資源科学部生命工学科

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

セミナー室

腸内相互作用の理解に基づいた健康の増進・疾患の予防-3

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しているトリプトファナーゼによって,インドールへと 変換される.産生されたインドールは腸管から吸収され た後,門脈を介して肝臓に蓄積され,そこで薬物代謝酵 素群チトクロムP450に属するチトクロムP450 2E1(Cy- tochrome P450 2E1; CYP2E1)とチトクロムP450 2A6

(Cytochrome P450 2A6; CYP2A6)によって酸化的代謝 を受け,インドキシルが生成される.さらにインドキシ ルは,硫酸転移酵素1A1(Sulfotransferase 1A1; SUL- T1A1)の媒介により硫酸抱合され,インドキシル硫酸 となる.インドキシル硫酸は代表的な尿毒素の一つであ り,腎機能が正常に機能している際は尿とともに体外へ

排出されるが,腎機能の低下による排尿量の減少に伴 い,血中に蓄積される.このインドールおよびインドキ シル硫酸が,腎不全の進行促進に関与していると示唆さ れる発端となったのは,現在では慢性腎不全に対する代 表的な治療薬となっているAST-120を用いた,慢性腎 不全モデルラットによる解析であった(1).慢性腎不全モ デルラットにAST-120を摂取させると,AST-120は腸 管内でインドールを吸着し,糞とともにインドールを体 外へ排出する.その結果,インドールは腸管からの吸収 を阻害され,血中インドキシル硫酸濃度が低下し,それ に伴って慢性腎不全の進行が抑制された.そこで,慢性 腎不全モデルラットにインドールを摂取させたところ,

血中インドキシル硫酸濃度の上昇とともに,慢性腎不全 の進行が確認された(2).以上から,腸内細菌によって産 生される,食品タンパク質由来トリプトファン代謝産物 であるインドールが,腎不全の進行促進に対する原因の 一つであることが明らかとなった.

インドキシル硫酸について

肝臓におけるインドールの代謝産物であるインドキシ ル硫酸の特徴的な問題点として,血中に存在するインド キシル硫酸の90%以上がアルブミンと結合しているため,

透析による除去が部分的となってしまうことである.そ のため,慢性腎不全の合併症である動脈硬化の発症・進 展などにも,インドキシル硫酸が関与していると考えら れている.循環血中のインドキシル硫酸濃度は,健常者 では10 μM以下であるが,末期慢性腎不全患者では平均 図1摂取した食品タンパク質からインドキシル硫酸が産生さ

れるまでの過程

CYP2E1: Cytochrome P450(チトクロムP450 2E1; 酸化還元酵素 の 一 種),CYP2A6: Cytochrome P450 2A6(チ ト ク ロ ムP450  2A6; 酸化還元酵素の一種),SULT1A1: Sulfotransferase 1A1(硫 酸転移酵素1A1)

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

近年,わが国で生活習慣病患者が増加しているの は,周知の事実である.生活習慣病として頭に思い 浮かべるのは,肥満を起因とした糖尿病や高血圧,そ して動脈硬化といった病態をイメージすることが多 い.しかし日本には,成人の約8人に一人に当たる 1,330万人の慢性腎不全患者がいるとされ,新たな国 民病として考えられ始めている.さらに,慢性腎不 全が末期まで進行すると,排尿量が減少してしまう ため,体内に老廃物(尿毒素)が蓄積され,それを除 去するための透析治療が必要となってくる.すでに わが国は,世界第1位の透析大国であり,現在ではそ の患者数は30万人を超え,今後,毎年1万人ずつ増 加していくと予想されている.透析導入の代表的な 問題点は大きく2つあり,一つは治療に伴う患者への 負担によるQuality of Life (QOL) の低下である.も

う一つは医療経済面であり,透析治療に要する年間 の国民医療費の増加である.以上から、慢性腎不全 の進行を遅延させ、透析患者数の増加を防ぐことは,

非常に大きな意味をなす.病態の進行を遅延させる ためには,病態進行に対する分子メカニズムを知る 必要がある.タンパク質摂取は,以前から慢性腎不 全の進行を促進する要因として知られているが,ど のようなメカニズムで病態進行に関わっているのか,

不明な点が多い.本稿では,タンパク質中に含まれ るトリプトファンが腸内細菌による代謝を経て,体 内で作り出されるインドキシル硫酸と呼ばれる分子 に着目している.インドキシル硫酸は,腎機能が低 下した際に体内で蓄積される代表的な尿毒素である.

このインドキシル硫酸による慢性腎不全の進行促進 メカニズムについて,筆者がこれまでに明らかにし てきた一端を,本稿では紹介する.

コ ラ ム

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で約250 μM,最大で550 μM前後の濃度に達する(3). インドキシル硫酸は,有機アニオントランスポーター 1(Organic anion transporter 1; OAT1)や有機アニオ ン ト ラ ン ス ポ ー タ ー 3(Organic anion transporter 3; 

OAT3)を介して細胞内に取り込まれる(図2.したがっ て,インドキシル硫酸の標的細胞は,OAT1やOAT3が 発現している細胞となる.慢性腎不全の進行には,腎臓 の尿細管と呼ばれる組織に存在する近位尿細管細胞の線 維化,それに伴う機能障害が関与している.近位尿細管 細胞はOAT3が高発現している代表的な細胞であり,

慢性腎不全モデルラットを用いた解析では,インドキシ ル硫酸が近位尿細管細胞に蓄積されていることが確認さ

れている(4, 5).この結果からも,慢性腎不全の進行促進

にインドキシル硫酸が関与していることが推察される.

インドキシル硫酸の主な受容体は,ダイオキシン受容 体として知られているAryl hydrocarbon receptor(AHR)

が報告されており(6),近位尿細管細胞においても,イン ドキシル硫酸によるAHRの活性化は確認されている

(図2).インドキシル硫酸はAHRと結合した後,リン酸 化/脱リン酸化などを介した細胞内シグナル伝達経路を 活性化させる.加えて,AHRは転写因子としても機能 しており,チトクロムP450 1A1(Cytochrome P450 1A1; 

CYP1A1) や Aryl hydrocarbon receptor repressor

(AHRR)などのさまざまな遺伝子の発現制御にかかわっ ている.そのため,慢性腎不全の進行にAHRが関与し ていると考えられている.しかし一方で,高脂血症治療 薬であるスタチンによるAHRの活性化は,慢性腎不全 の進行抑制・改善効果があると報告されている(7).そこ で筆者らは,ヒトの腎機能におけるAHRの生理的作用を,

AHRの活性化により発現誘導され,そしてAHRのネガ ティブフィードバック機構として機能しているAHRR に着目し,その多型からAHRが腎機能に与える影響に ついて検証した.この解析結果より,AHRの活性化は,

腎機能の低下に関与することが示唆された(投稿中). そのため筆者は,薬剤投与のような多量なリガンド条件 下ではAHRは進行遅延に寄与するが,生理的な条件下 では病態進行に関与していると考えている.しかし,

AHRのこの相反する作用メカニズムを明らかにするに は,さらなる解析が必要である.

細胞老化および線維化の誘導メカニズム

最近の研究結果から,組織の細胞老化は,その組織の 機能不全の発端となっていると考えられている.代表的 な細胞老化マーカー遺伝子としてp53とp21が知られて

いるが,近位尿細管細胞に対してインドキシル硫酸は,

活性酸素種(Reactive oxygen species; ROS)の産生を 介した転写因子Nuclear factor-κB(NF-κB)の活性化に より,これら遺伝子の発現増加を導く.また,産生され た活性酸素種によるp53の活性化は,p53自身の発現量 を上昇させる.以上の結果,p21が発現誘導され,細胞 老化へとつながる(8, 9)(図3.加えて腎臓は,抗老化遺 伝子の一つとして知られているKlothoが高発現してい る主要な臓器であり,インドキシル硫酸はKlothoに対 しては,活性酸素種の産生を介したNF-κBの活性化に より,その発現低下を導く(10)(図3).さらに,インド キシル硫酸によって活性化された転写因子Signal trans- ducer and activator of transcription 3(Stat3)は,NF- κBの構成サブユニットの一つであるp65 RelAの発現上 昇を導くことで,細胞老化を誘導することも明らかと なっている(11)(図3).

インドキシル硫酸による近位尿細管細胞の線維化は,

細胞老化を介して引き起こされる.インドキシル硫酸に よって活性化されたp53やStat3によって,線維化にかか わるα-平滑筋アクチン(α-Smooth muscle actin; α-SMA)

の発現量が増加し,同時にp53の活性化によって,線維 化誘導にかかわるトランスフォーミング増殖因子-β1

(Transforming growth factor-β1; TGF-β1)の発現量も

上昇する(8, 9, 11, 12)(図3).また,分裂促進因子活性化タ

ンパク質キナーゼ(Mitogen-activated protein kinase; 

図2インドキシル硫酸の細胞内取り込み機構およびその受容 体

OAT1: Organic anion transporter 1(有機アニオントランスポー ター1),OAT3: Organic anion transporter 3(有機アニオントラ ンスポーター3) AHR: Aryl hydrocarbon receptor(細胞内シグ ナル伝達分子および転写因子),CYP1A1: Cytochrome P450 1A1

(チトクロムP450 1A1;  酸化還元酵素の一種),AHRR: Aryl hy- drocarbon receptor repressor (AHRに対するネガティブレギュ レーター)

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MAPK)の一つである細胞外シグナル調節キナーゼ

(Extracellular signal-regulated kinase; ERK)の活性化 を介して,TGF-β1のシングル伝達上に存在するSmad3

の発現増加を導くことで,TGF-β1のシグナル伝達強度 の亢進に関与し,線維化進行の促進に寄与していると考 えられている(12)(図4

単球の浸潤に伴うマクロファージの集積メカニズム 近位尿細管細胞へのマクロファージの集積は,慢性腎 不全の進行に大きな影響を及ぼす.この集積過程には,

単球走化性因子-1(Monocyte chemotactic and activat- ing factor-1; MCP-1)と細胞間接着因子-1(Intercellular  adhesion molecule-1; ICAM-1)がかかわっている.MCP-1 には単球を引き寄せる作用があるため,その発現部位に 単球が集まる.集まった単球は,近位尿細管細胞の膜表 面に発現しているICAM-1との接着を介して組織内へと 浸潤し,マクロファージへと分化する.組織内に集積し たマクロファージは,TGF-β1を発現・産生するため,

近位尿細管細胞の線維化が促され,慢性腎不全が進行す る.インドキシル硫酸長期投与ラットの腎臓において,

MCP-1とICAM-1が発現上昇しており,そして同部位 で,マクロファージの浸潤が観察されている.したがっ て,インドキシル硫酸は,この過程にも関与している.

この過程における作用メカニズムについては,インドキ シル硫酸によって活性化されたMAPKファミリーであ るERKとc-Jun N末端リン酸化酵素(c-Jun N-terminal  kinase; JNK)の活性化が,MCP-1の発現上昇を導いて いる(13)(図4).また,活性酸素種の産生と,NF-κB, p53,  Stat3の活性化を介してMCP-1の発現量が増加する(11, 13). ICAM-1の発現上昇に関しては,活性酸素種の産生,NF-κB とp53の活性化を介して促されている(14)(図4, 5).以 上から,インドキシル硫酸は,近位尿細管細胞の線維化 を直接引き起こすだけでなく,マクロファージの浸潤・

集積も誘発することで,慢性腎不全の進行促進にかか わっていると考えられている.

抗酸化遺伝子への関与

生体は,酸化と抗酸化のバランスを調節することで恒 常性を維持しているが,その維持機能を担っている活性 酸素種に対する感受性転写因子として,NF-E2-related  factor 2(Nrf2)が知られている.しかし,慢性腎不全 モデルラットやインドキシル硫酸長期投与ラットの腎臓 では,Nrf2とその標的遺伝子である抗酸化遺伝子ヘム オキシゲナーゼ-1(Heme oxygenase-1; HO-1)とNAD-

(P) Hキ ノ ン 脱 水 素 酵 素1(NAD(P) H quinone dehy- drogenase 1; NQO1)の発現量は低下しており,逆に活

図4MCP-1の発現および線維化誘導に対する作用経路

Stat3: Signal transducer and activator of transcription 3(転写因 子),JNK: c-Jun N-terminal kinase(c-jun N末端リン酸化酵素;

細胞内シグナル伝達分子),ERK: Extracellular signal-regulated  kinase(細胞外シグナル調節キナーゼ;細胞内シグナル伝達分 子),MCP-1: Monocyte chemotactic and activating factor(単球 走化性因子-1;  ケモカイン),TGF-β1: Transforming growth fac- tor-β1(トランスフォーミング増殖因子-β1; 増殖因子/繊維化マー カー遺伝子)α-SMA: α-Smooth muscle actin(α-平滑筋アクチ ン;線維化マーカー遺伝子). 

赤:活性化,青:遺伝子発現上昇.

図3細胞老化および線維化誘導に対する作用経路

ROS: Reactive oxygen species(活性酸素種;細胞内シグナル伝 達分子),Stat3: Signal transducer and activator of transcription  3(転 写 因 子),NF-κB: Nuclear factor-κB(転 写 因 子),TGF-β1: 

Transforming growth factor-β1(トランスフォーミング増殖因子- β1; 増殖因子/繊維化マーカー遺伝子)α-SMA: α-Smooth muscle  actin(α-平滑筋アクチン;線維化マーカー遺伝子). 

赤:活性化,青:遺伝子発現上昇,緑:遺伝子発現抑制.

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性酸素種のレベルは上昇している.このNrf2の発現低 下には,インドキシル硫酸によるNF-κBの活性化が関 与していると考えられている(15)(図5).活性酸素種の 産生は,インドキシル硫酸のみならず,後述するアンジ オテンシンII(Angiotensin II)によっても産生が促さ れており,慢性腎不全の進行に大きくかかわっている.

よってインドキシル硫酸は,抗酸化遺伝子の発現制御系 を破綻させ,インドキシル硫酸自身やアンジオテンシン IIのシグナル伝達強度の亢進によって慢性腎不全の進行 促進に寄与している可能性が高い.

腎臓レニンアンジオテンシン系への関与

慢性腎不全の進行過程において,レニン‒アンジオテ ンシン系(Renin‒angiotensin system)が亢進してい る.そのため,レニン‒アンジオテンシン系を標的とし た薬剤は,慢性腎不全の進行遅延に対して非常に有効で あり,現在でも代表的な治療薬となっている.レニン‒

アンジオテンシン系の概略は,以下のとおりである(図 6.アンジオテンシノーゲン(Angiotensinogen)から レニン(renin)によって,アンジオテンシンI(Angion- tensin I)が産生される.産生されたアンジオテンシンI は,アンジオテンシン変換酵素(Angiotensin-converting  enzyme; ACE)によってアンジオテンシンIIとなり,こ のアンジオテンシンIIが近位尿細管の線維化を導くこと で,慢性腎不全の進行に関与している.加えて最近で は,レニンとその前駆体であるプロレニン((Pro) renin)

の受容体が同定され,プロレニン受容体((Pro) renin  receptor, (P) RR)を介した慢性腎不全の進行について も明らかとなっている.インドキシル硫酸は,このレニ ン‒アンジオテンシン系に対して,アンジオテンシノー ゲン,プロレニン受容体,そしてプロレニンの発現増加 を近位尿細管細胞で導いている(16〜18)

図6に示されているとおり,インドキシル硫酸による アンジオテンシノーゲンの発現増加には,NF-κBと転写 因子cAMP response element binding protein(CREB)

の活性化,そして活性酸素種の産生を司るNADPHオキ シダーゼの一つであるNADPHオキシダーゼ4(NADPH  oxidase 4; NOX4)の発現増加がかかわっている.NOX4

5MCP-1ICAM-1および抗酸化遺伝子の発現制御に対す

る作用経路

MCP-1: Monocyte chemotactic and activating factor(単球走化性 因子-1;  ケモカイン),ICAM-1: Intercellular adhesion molecule-1

(細胞間接着因子-1),ROS: Reactive oxygen species(活性酸素 種;細胞内シグナル伝達分子),NF-κB: Nuclear factor-κB, Nrf2: 

NF-E2-related factor 2, HO-1: Heme oxygenase-1(ヘムオキシゲ ナーゼ-1; 抗酸化遺伝子),NQO1: NAD(P)H quinone dehydro- genase 1 (NAD(P)Hキノン脱水素酵素1; 抗酸化遺伝子). 

赤:活性化,青:遺伝子発現上昇,緑:遺伝子発現抑制. 図6Renin‒Angiotensin系に対する作用経路

ROS: Reactive oxygen species(活性酸素種;細胞内シグナル伝 達分子),CREB: cAMP response element binding protein(転写 因 子),NF-κB: Nuclear factor-κB(転 写 因 子),Stat3: Signal  transducer and activator of transcription 3(転写因子),NOX4: 

NADPH oxidase 4(NADPHオキシダーゼ4),Renin‒angiontesin  system(レニン‒アンジオテンシン系),Angiotensinogen(アン ジオテンシノーゲン;アンジオテンシンI前駆体),Renin(レニ ン;プロテアーゼ)(Pro)renin(プロレニン;レニン前駆体) Furin(フーリン;プロテアーゼ)(P)RR: (Pro)renin receptor

(プロレニン受容体;レニンおよびプロレニンの受容体),Pro- renin/(P)RR: (Pro)renin receptor(プロレニン・プロレニン受容 体複合体;アンジオテンシノーゲンに対するプロアーゼおよび細 胞内シグナル伝達分子),Angiotensin I(アンジオテンシンI;  ア ンジオテンシンII前駆体),ACE: Angiotensin-converting enzyme

(アンジオテンシン変換酵素;プロテアーゼ),Angiotensin II(ア ンジオテンシンII;  ペプチドホルモン),TGF-β1: Transforming  growth factor-β1(トランスフォーミング増殖因子-β1; 増殖因子/

繊維化マーカー遺伝子)α-SMA: α-Smooth muscle actin(α-平滑 筋アクチン;線維化マーカー遺伝子). 

赤:活性化,青:遺伝子発現上昇.

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● 化学 と 生物 

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はほかのNADPHオキシダーゼとは異なり,恒常的に活 性酸素種を産生するため,NOX4の発現増加によって細 胞内の活性酸素種の濃度は上昇すると考えられている.

NF-κBとCREBの活性化には活性酸素種がかかわってい ることから,NOX4の発現上昇に伴い細胞内の活性酸素 種濃度が上昇し,その結果,NF-κBとCREBのさらなる 活性化が導かれる.加えて,NF-κBとCREBは,それ ぞれが発現誘導を引き起こす.つまり,NF-κBとCREB の活性化が起因となり,NF-κB, CREB, NOX4の三者が 協調的に働くことで,アンジオテンシノーゲンの持続的 な発現増加が導かれると考えられている(16)

インドキシル硫酸は,プロレニンとその受容体である プロレニン受容体の発現上昇を,活性酸素種の産生を介 したNF-κBとStat3の活性化によって導き,その結果と してレニン・プロレニン/プロレニン受容体シグナルを 亢進させ,腎臓近位尿細管細胞の線維化を導く(17, 18)

(図6).またプロレニンは,フーリンによってレニンに 変換をされなくても,プロレニン受容体と複合体を形成 することでレニンと同等の酵素活性を発揮できる.した がって,インドキシル硫酸によって発現増加したプロレ ニンとプロレニン受容体は,複合体を形成することで,

同様にインドキシル硫酸によって発現上昇したアンジオ テンシノーゲンに対して作用し,アンジオテンシンIIの 産生を促進させる.最終的に,アンジオテンシンIIの産 生量が増加し,慢性腎不全の進行促進へとつながってい くと予想される.

おわりに

本稿では,食品タンパク質由来腸内細菌代謝産物によ る慢性腎不全の進行促進メカニズムについて紹介した が,インドキシル硫酸は慢性腎不全の合併症である,心

血管疾患(19〜21),骨粗鬆症(22),そして腎性貧血(23)などの

発症要因にもなっている.さらに最近では,健常者にお いても加齢とともに血中インドキシル硫酸濃度が上昇し,

それが腎機能低下と相関があると報告されている(24).イ ンドキシル硫酸の前駆体であるインドールの産生にかか わるとされる大腸菌も,加齢とともに腸内で増加するこ とから(25),加齢に伴う腸内細菌叢の変化が腎機能に影 響を与えている可能性が高い.

昨年,大腸がんの発症が,赤肉や加工肉の摂取量と相 関していると報道された.しかし,タンパク質の摂取過 多による病態発症・進行メカニズム,特に発症過程につ いては未解明な部分が非常に多い.そこで今後は,本稿 で紹介したインドールやインドキシル硫酸だけでなく,

ほかの食品タンパク質由来腸内細菌代謝産物,たとえば スカトールなどにも焦点を当て,「摂取タンパク質量‒腸 内環境‒健康促進効果および病態発症・進行」の関係性 を明らかにしていきたい.

謝辞:本稿における研究報告の一部は,文部科学省地域イノベーション 戦略支援プログラム(北海道大学)により実施された.

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22)  Y. Iwasaki, H. Yamato, T. Nii-Kono, A. Fujieda, M. Uchi- da, A. Hosokawa, M. Motojima & M. Fukagawa: 

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日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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24)  A.  Wyczalkowska-Tomasik,  B.  Czarkowska-Paczek,  J. 

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, (2016), in press.

25)  光岡知足:腸内細菌学会誌,25, 113 (2011).

プロフィール

清水 英寿(Hidehisa SHIMIZU)

<略歴>1999年東海大学開発工学部生物 工学科卒業/2001年筑波大学大学院バイ オシステム研究科修士課程修了/2004年 同大学院生命環境科学研究科博士課程修 了,博士(農学)/2005年同大学大学院博 士特別研究員・産官学連携研究員・研究 員/2006 年 McGill  University・McGill  Cancer Centre博士研究員/2008年筑波大 学大学院人間総合科学研究科非常勤研究 員/2009年名古屋大学医学部・大学院医 学系研究科寄附講座助教/2012年北海道 大学大学院農学研究院特任講師/2015年 島根大学生物資源科学部生命工学科准教 授,現在に至る<研究テーマと抱負>食品 タンパク質由来腸内細菌代謝産物および湖 沼藍藻類由来毒素による病態発症・進行メ カニズムの解析,これら病態発症・進行の 作用機序に焦点を当てた島根県産食資源に よる予防・改善効果の検討<趣味>日常生 活の中で面白い出来事を見つけること.

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.203

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Referensi

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はじめに 花は儚い(はかない)ものの象徴にもなっているが, 仕方なくしおれているのではなく,自ら進んでしおれて いく.そもそも花は種子を作るための器官である.ヒト が見て美しいと思う花の多くは,昆虫を引き寄せて受粉 を成功させるために,多種多様に進化したものである. 受粉が成功した後,あるいは受粉しなくても咲いてから