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プラハにおいて核軍縮・不拡散の問題を包 括的に扱

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はじめに―プラハ演説と核不拡散

アメリカのオバマ大統領は、2009年4月

5日、プラハにおいて核軍縮・不拡散の問題を包

括的に扱う演説を行ない(プラハ演説)、「核兵器のない世界」を追求することを宣言した。

「核兵器のない世界」とは核兵器の全廃を意味することから、この演説は一般に核廃絶を標 榜する演説と捉えられてきた。しかし、演説の総論部分を仔細にみると、「核兵器のない世 界」を提唱するオバマ大統領の動機は、むしろ核の拡散に対する懸念や危機感にあったこ とがわかる。

プラハ演説は、その総論において、「今日、冷戦は消滅したが、何千もの核兵器は消滅し ていない」と述べ、また、「歴史の奇妙な展開により、世界規模の核戦争の脅威は低減した が、核攻撃の危険性は高まっている」と述べたうえで、次のような点を指摘する。すなわ ち、核兵器を保有する国家が増え、核実験が続き、闇市場では核の秘密や核物質が大量に 取引され、核爆弾の製造技術が拡散し、テロリストが核爆弾の入手を決意し、これらの危 険を封じ込めるための努力は全世界的な不拡散レジームを軸としているが、規則を破る 人々や国家が増えるに従い、この軸が持ちこたえられなくなる時期が来る可能性がある、

と指摘する。このような現状認識に基づいて、オバマ大統領は、「核兵器を使用したことの ある唯一の核兵器国として、アメリカには行動する道義的責任がある」とし、「アメリカが 核兵器のない世界の平和と安全(the peace and security of a world without nuclear weapons)を追求す る決意であることを、信念をもって明言する」と述べたのである(1)

「核兵器のない世界」が語られるようになった直接の契機は、2007年

1

月の『ウォール・

ストリート・ジャーナル』紙に掲載されたシュルツ、ペリー、キッシンジャー、ナンの

4氏

による「核兵器のない世界(A World Free of Nuclear Weapons)」と題する記事にある(2)。このな かで4氏は、核兵器のない世界を唱える理由として、テロリストによる核兵器の取得と新た な国への核兵器の拡散のもたらしうる危険を強調している。この点は、2008年

1月の同じ 4

氏による同紙への再度の寄稿記事においても繰り返されているが(3)、こういった懸念は、オ バマ演説が上記の現状認識において述べた点と軌を一にするものである。

核軍縮と核不拡散の関係をより具体的に明示したのが、2009年

2月にイギリス外務省が発

表した政策情報文書である。同文書は、世界規模の核兵器禁止の合意(すなわち核廃絶の合 意)を達成するためには、現在核兵器に依存している国に対して核兵器を放棄するよう説得

(2)

しなければならないが、そのためには、それらの国が核兵器のある世界より核兵器のない 世界のほうが結局は安全であると信じるための条件を作りだす必要があるとしたうえで、

その3つの主要な条件の第

1として、原子力の利用が拡大するなかで国家やテロリストに核

兵器が拡散するのを防止する確実な手段の存在を挙げている(4)

このように、核拡散の危険は、「核兵器のない世界」を唱える契機となっただけでなく、

核拡散の効果的な防止は核軍縮の前提ともされているのであり、「核兵器のない世界」とい うスローガンにもかかわらず、重点はむしろ核不拡散にあり、核不拡散が喫緊の課題とし て認識されているとさえ言える(5)。2009年9月に開かれた核不拡散と核軍縮をテーマにした 初めての国際連合安全保障理事会(安保理)サミットで採択された決議1887においても、重 点は明らかに核不拡散に置かれているが(6)、それも決して偶然ではなかろう。

そこで本稿では、「核兵器のない世界」への第

1

歩とも言える核不拡散の現状と課題につ いて検討することとし、とりわけ本年

5月に開かれた 2010

年核兵器不拡散条約(NPT)再検 討会議における議論等に照らしながら、オバマ大統領がプラハ演説において核不拡散との 関係で第

1

の要素として提示した「国際査察の強化」、すなわち追加議定書の問題について 考えてみることにしたい。

1

追加議定書の普遍化―直接的アプローチ

1

NPTの検証と追加議定書

核兵器不拡散条約(NPT)に基づく核不拡散(核兵器等の製造禁止)の検証は、国際原子力 機関(IAEA)の保障措置を適用することによって行なわれている。それは、NPT第3条

1項

において、締約国たる非核兵器国は、そのすべての平和的原子力活動にかかるすべての核 物質に適用されるIAEAの保障措置(=包括的保障措置)を「受諾すること」を約束している からである。しかし、NPT第

3

条に基づいて締結されるいわゆる包括的保障措置協定が、必 ずしも十分な検証を保証するものでないことは、1991年の湾岸戦争後にイラクにおいて明 らかとなった。湾岸戦争後に安保理決議687に基づいて実施された査察の結果、NPTの締約 国として包括的保障措置の適用を受け、それまでに保障措置協定違反を指摘されたことも 一度もなかったイラクにおいて、核兵器開発が行なわれていた「決定的な証拠」が得られ たからである。イラクにおける核開発の事実が、湾岸戦争といういわば「偶然」の結果と して発覚したのであり、その結果、締約国の「申告」を基礎とする包括的保障措置の信頼 性に根本的な疑問が投げかけられることになったのである(7)

この点を受けてIAEAによって作成されたのが、1997年のモデル追加議定書である。これ によって、IAEAの検証体制には、締約国からの情報提供と査察員のアクセスの両面におい て、包括的保障措置の枠組みを超えた強化・拡充がもたらされることになった。すなわち 追加議定書においては、核物質を伴わない核燃料サイクル関連の研究開発活動など、包括 的保障措置では対象外とされていた情報に関しても申告が求められるようになったほか(拡 大申告)、IAEAの査察員のアクセスについても、IAEAが指定した場所であれば、原則とし ていかなる場所であっても環境試料の採取が可能となるなど(補完的アクセス)、格段の改善

(3)

が得られることになった。

このように効果的な追加議定書であるが、その締結は非核兵器国にとっても

NPT

上の義 務ではない。この点については、以前別稿で詳述したことがあるが(8)、第1に、モデル追加 議定書採択前に

NPT

に加盟して、包括的保障措置協定を締結した非核兵器国は、それによ ってNPT第

3

条の義務をすでに履行したと言えるし(例えば、1985年の第

3

NPT再検討会議

の最終宣言には「[NPT]第

3

条の約束が守られてきた」との記述がある)(9)、第2に、追加議定書 は、IAEA理事会の作成したものであるが、IAEAは

NPT

の条約機関ではなく、加盟国も大 きく異なるのであり、NPT加盟国が

IAEA

の作成する累次の文書に自動的に拘束されること はありえないなどの理由である。このように追加議定書の締結がNPT上の義務でないとす れば、その普遍化のためには、地道にその締結を促す以外に方法はない。IAEAのエルバラ ダイ(前)事務局長も、毎年の

IAEA

総会において、追加議定書締約国の増加のスピードが 遅いことを嘆いてきたし(10)、かつての

NPT

再検討会議準備委員会の議長ペーパーも、追加 議定書を普遍化する必要性を再確認してきたが(11)、NPT加盟の

185

(12)の非核兵器国のうち、

追加議定書を発効させているのは、現在のところなお

96ヵ国にとどまる

(2010年

5

月現在)。

2) 追加議定書の普遍化と

2010 NPT

再検討会議

追加議定書の普遍化の重要性は、2010年の再検討会議でも多くの国によって主張された。

しかし、この点においてNPT締約国間にコンセンサスがあるわけではなく、それを推進す る核兵器国(13)および西側非核兵器国とそれに消極的な非同盟(NAM)諸国との間の対立は、

2010年の NPT

再検討会議が直面した大きな問題のひとつであった。

追加議定書推進派は、主として次の3つの観点からその主張を展開した。第

1に、まさに

「追加議定書の普遍化」そのものを求める主張であり、「すべての締約国に追加議定書を発効 させるよう求める」との主張である。第

2

に、「包括的保障措置協定と追加議定書は、NPT 第3条に従った検証の標準(verification standard)である」との主張であり、第

3

に、「追加議 定書は、IAEAの保障措置制度の不可分の一部(an integral part)である」との主張である。こ れらはいずれも同一の目的を志向するものであり、以上の主張をすべて行なう国もあれば(14)

(例えばオーストラリア、カナダなどのウィーン・グループ諸国(15)、日本、ウクライナなど)、そ の一部のみを行なう国もある(16)。そのことが明確に意識されているかは必ずしも明らかでな いが、3つの主張のそれぞれについて若干のニュアンスの違いを指摘することができる。第

1の主張は、直截にすべての国に追加議定書を締結するよう求めるものであるのに対して、

第2の主張は、追加議定書の締結と

NPT

第3条とを緩やかに(「義務」とは言わず「標準」と いうことで)(17)結び付けようとするものである。さらに第

3

の主張は、NPT第

3

条の文言

(「[IAEA]の保障措置制度」)に言及することで、追加議定書とNPT第

3

条を解釈上直結させ、

結果として追加議定書の締結はNPT上の義務であるとの主張を可能にするものとも言える(18)。 すなわち、NPT締約国たる非核兵器国は、NPT第

3

条により、「[IAEA]憲章及び[IAEA]

……保障措置を受諾することを約束」(傍点引用者)しているが、追 加議定書が「[IAEA]の保障措置制度」の不可分の一部であるということになれば、それを 締結することが義務であるということにもなるからである(19)

・・ ・ ・

(4)

これに対してNAM諸国は、その作業文書において、「法的な義務[である包括的保障措 置協定]と任意の信頼醸成措置[である追加議定書]との間の区別は基本的」なものであ り、任意のものが「法的な保障措置義務に転化しないように確保」しなければならないと して、追加議定書の締結は義務ではないとの立場を明確にした(20)。もっとも、前述のよう に、この主張はNPTの解釈としてはいわば当然のことであり(21)、現在の

NAMは、この当然

とも言える点について合意できるのがせいぜいであって、それ以上に追加議定書をいかに 評価するかという点については、NAM諸国間でも見解が異なるのが実情である。

一方で、例えばエジプトは、NAMを代表しての発言と自国としての発言の双方において、

追加議定書が未申告の核物質・核活動の探知能力を高めるといった文言や、追加議定書は きわめて重要であるといった文言が最終文書に含められることに反対し、上記追加議定書 推進派の第2の主張である「検証の標準」という表現についても、追、包括的保障措置協定と追加議定書はそ「検証の標準」であるとい った文言とするよう主張するなど、追加議定書に対して否定的な態度を示した(22)

他方で、同じNAMのメンバーであっても、例えば南アフリカは、「追加議定書は、[IAEA]

の検証制度を強化する重要な手段を提供し、未申告の核物質や核活動がないことについて 確かな保証を提供する点で不可欠の役割を果たす」と述べたうえで、「すべての国に対して

……追加議定書の締結を考えるよう求め」ているし、インドネシアは、「追加議定書(AP)

の重要性を完全に承認する」としたうえで、「APの普遍化を先導する国になる用意がある」

と述べ、いずれも追加議定書の重要性とその普遍化の必要性に言及している(23)。しかし、追 加議定書の義務化に繋がりかねない追加議定書推進国の第

2および第 3

の主張、特に第

3の

主張が

NAM諸国の演説や主張において明示されることは、一般討論および主要委員会での

発言を含めてほとんどなかった(24)

このように、NAM諸国は追加議定書に関して決して一枚岩ではなく、その主張はまさに 多様である。それは、今や(核兵器国を加えると)

100

を超える国が追加議定書を発効させて おり、そのなかに多数のNAM諸国が含まれているという事実を反映したものであろう。そ して、今後ますます多くのNAM諸国が追加議定書を締結するということになれば、NAM においても核兵器国や西側非核兵器国と同様の立場をとる国が多数となり、NAMが共通ポ ジションを維持することが困難となり、再検討会議(準備委員会)においても、「検証の標 準」「IAEAの保障措置制度の不可分の一部」といった文言を拒否することが、NAMとして も困難になってくるのではないかと思われる。

では、2010年の再検討会議の最終文書では、いかなる文言で決着したのか。最終文書の 最終案は、「再検討(review)」(この部分の項目はすべて「パラグラフ」で列挙されており、以下 では単に「パラ」として言及する)と「結論および勧告(conclusions and recommendations)」(こ の部分の具体的な項目は中東および北朝鮮関連の項目を除きすべて「アクション」として列挙さ れており、以下では単に「アクション」として言及する)からなっていたが、そのうち「再検 討」の部分には、「再検討会議議長[カバクチュラン = フィリピン大使]が、自らの責任の 下に、自らの知る限りのものを反映させた」ものであるとの注釈が付されており(25)、その内

(5)

容にコンセンサスがないことを示していた。再検討会議では、以上の最終案について、前 者をそのようなものとして「テークノート」し、後者を「採択」することがコンセンサス で合意された(26)

追加議定書の普遍化については、「再検討」部分において、最終的に次のような表現が用 いられた。すなわち、再検討会議は、①包括的保障措置協定が未申告の核物質・核活動の 不存在について限定的なレベルの保証を提供していることを承認し、②追加議定書の措置 の実施が当該国全体としての未申告の核物質・核活動の不存在についての信頼を高めるこ とに留意し、③多数の国がそれらの[追加議定書の]措置はIAEAの保障措置制度の「不可 分の一部(an integral part)」として導入されたとの見解であったことに留意し、④追加議定書 の締結は各国の主権的な決定であるが、いったん発効すれば追加議定書は法的な義務とな ることに留意する(以上、パラ

17)

(27)。また、⑤多くの国が包括的保障措置協定と追加議定書 はIAEAの保障措置制度の「不可分の要素に含まれる(among the integral elements)」ことを承 認していることに留意し、⑥

NPT第 3条 1

項に従って包括的保障措置協定を締結し、追加議 定書の発効によってそれを拡充している締約国の場合には、両文書に含まれる措置がその 国にとっての強化された「検証の標準(verification standard)」となることに留意し、⑦追加議 定書が重要な信頼醸成措置であることに留意し、⑧追加議定書を締結し発効させていない すべての締約国に対してその締結と発効を奨励する(以上、パラ

18)

(28)。なお、⑧と同趣旨の 文言は「結論および勧告」のアクション

28

にも置かれており、そこでは、追加議定書を締 結・発効させていないすべての締約国に対して、「可及的速やかに」追加議定書を締結・発 効させること、および、発効までの間同議定書を「暫定的に実施すること」を奨励してい る(29)

以上の文言のなかで注目すべきは、まず④において、追加議定書の締結が「主権的な決 定」、すなわち任意であることが明らかにされている点である。また③では、追加議定書の 導が「IAEAの保障措置制度の不可分の一部」としてであるという内容であるにも かかわらず、「多数の国が」という限定句が付き(30)、⑤では「不可分の一部」ではなく「不 可分の要素に含まれる」という緩やかな文言であるにもかかわらず、「多くの国が」という 限定句が付けられている。さらに、「検証の標準」に言及した⑥でも、追加議定書を発効さ せた場合には、そ「検証の標準」となるとしているにすぎないし(それによ って「検証の標準」と称することの意味の大半が失われる)、同じ⑥で、NPT第

3

1

項が包括 的保障措置協定との関係でのみに言及されている点も注目される。

これらは、いずれも、追加議定書に対して消極的な姿勢の国の存在とその主張を反映し たものであり、いかにそれらの国の主張が強力であったかを示している。しかし、追加議 定書の締結が重要であるのは、まさにそれらの国においてなのである。追加議定書の締結 がNPT上の法的義務でない以上、それらの国に対して追加議定書の締結を迫る手段として は、NPT再検討会議における「国際世論」の動員だけでは限界があると言わなければならな い。では、追加議定書を普遍化するために、ほかにいかなる手段があるのか。次節におい ては、そのひとつとして、民生用原子力資機材の供給(移転)に追加議定書の締結を条件と

(6)

するという提案について検討することにしよう。追加議定書の普遍化を直接に求めるのが

「直接的アプローチ」であるとすれば、これは原子力資機材の供給との関係でその普遍化を 追求するという点で、「間接的アプローチ」と言うことができるかもしれない。

2

追加議定書の供給条件化―間接的アプローチ

1

1992年の NSG

ガイドライン改正、1995年の「原則と目標」および

2004年のブッシュ提案

民生用原子力資機材の供給に関する国際的な政策調整は、1975年に結成された原子力供 給国グループ(NSG)において行なわれてきた。NSGは条約に基礎を置かない緩やかな国家 集団であるが、NSGの「ガイドライン」とその適用対象品目が列挙される「トリガー・リ スト」は、重要な行動指針として、NSG参加国における核関連の輸出管理制度の基礎を構 成してきた(31)。NSGのガイドラインはこれまで9回にわたって改正されているが、本稿に関 連する改正は

1992

年に行なわれたものである。モデル追加議定書採択前の改正であるが、

後述との関係で、まずこの点に触れることにしたい。

1978年公表のNSG

の当初のガイドラインでは、原子力資機材(原子力専用品)の移転条件(32)

として、①核爆発装置に繋がる利用を明示的に排除する正式な政府保証があること、②

IAEAの

(特定的=後述)保障措置によってカバーされていること、などが要求されているに すぎなかった(33)。しかし、湾岸戦争後におけるイラクによる核開発の事実の発覚を契機と して1992年にガイドラインの改正が行なわれ、受領国が包にのみ、リスト品目を非核兵器国に移転すべきものとされた(34)。この新たな方針 は、1995年のNPT再検討・延長会議においても支持され、「核不拡散と核軍縮のための原則 と目標」(以下「原則と目標」と言う)と題する決定において、「[原子力資機材]を非核兵器 国に移転するために新たな供給取決めを行なう場合には、必要な前提条件として、[IAEA]

の全面的[=包括的]保障措置および核兵器その他の核爆発装置を取得しないという国際 的に法的な拘束力のある約束の受諾を要求すべきである」(パラ

12)

ことが定められた(35)。 このパラ

12

の決定(法的拘束力はない)は、

2000

年の

NPT

再検討会議最終文書においても

「再確認」されている(36)

ところで、ここでの問題は、包括的保障措置協定ではなく、追加議定書をいかに普遍化 するかという点にある。追加議定書を原子力資機材の供給条件とする旨の提案は、2004年 にアメリカのブッシュ大統領によって行なわれた。ブッシュ大統領は、2004年2月の国防大 学での演説において、「来年(2005年)末までに、民生用原子力計画のための設備の輸入に 追加議定書の署名を条件とすること」(37)を提案した。しかし、同年の

NSG

では、このような 条件は任意とすべきであるとか、このような制限は濃縮・再処理にかかる移転に限定すべ きであるなどといった多様な意見が出て、追加議定書の条件化に合意することはできなか った。それどころか、ブッシュ提案から6年以上が経過した現在に至るも、NSGは追加議定 書の条件化について合意するには至っていないのである。

2) 追加議定書の供給条件化をめぐる法的問題 

NSGが原子力供給に関していかなる方針を採用するかは、基本的には政治的な問題であ

(7)

る。しかし、追加議定書の供給条件化の場合には、NPTとの関係で法的な問題が生じうる。

なぜなら、

NPT

の締約国は、NPTの第

4条において、原子力の平和利用の「奪い得ない権利」

を保証されているし(1項)、原子力の平和利用のための資機材・情報の交換に参加する権利 を与えられているからである(2項)。原子力供給に新たな条件を課することが、これらの

「権利」との関係で問題がないかをみておく必要があるのである。

NPT第 3条 2

項によれば、原子力資機材の非核兵器国への供給にあたっては、当保障措置が適用されること(以下、「包括的」保障措置に対して「特 定的」保障措置と言う)が条件とされている。供の観点からすれば、原子力供給にあた って、自発的に、条約に定める以上の措置(NSGの1992年合意における包括的保障措置の適用、

2004年のブッシュ提案における追加議定書の適用)

をとるよう受領国に求めたとしても、それ

自体、NPTの趣旨に合致こそすれ、供のNPT上の不拡散義との関係で問題が生ずる ことはなかろう。

他方、そのような追加的な措置を求めることが法的な観点から問題となりうるとすれば、

受領国がNPT締約国である場合の受の権との関係においてである。

NPT

4条 2項は、

すべての締約国に対して「原子力の平和的利用のため設備、資材並びに科学的及び技術的 情報を可能な最大限度まで交換すること」に「参加する権利」を与えているのであり、受 領国がNPT締約国たる非核兵器国である場合には、受領国はその

NPT

上の基本的義務を遵 守している限り、そのような交換に参加する権利を保証されていると言えよう(38)。非核兵器 国に課されたNPT上の基本的な義務とは、核兵器を製造・取得しない義務(第

2

条)と包括 的保障措置を受諾すること(第

3

条1項)であるところ、締約国たる非核兵器国(受領国)に 対してそれ以上の措置をとるよう要求し、それを満たさない限り原子力協力をカテゴリカ ルに否定するということになれば、上記第

4条 2

項に定める権利との関係で法的な問題が生 ずる可能性がある。

以上のような一般論を前提とした場合、NSGが

1992

年に包括的保障措置協定の発効を原 子力供給の条件としたことに法的な問題はない。包括的保障措置の受諾は

NPT

締約国たる 非核兵器国にとって

NPT

上の義務だからである(39)。他方、追加議定書の締結を原子力供給 の条件とすることは、非核兵器国にNPT第

3条に基づく義務を超える措置を求め、それを原

子力供給の条件とするということになるから、法的な問題が生じうるということになろう。

もっとも、NPT第4条

2

項に定める「権利」およびそれに対応する「義務」はきわめて限 定的であることには注意しなければならない。このことは同項の文言とその起草過程の双 方から確認することができる。まず同項に定める「義務」は、原子力資機材・情報の可能 な最大限度までの交換を「容易にする(facilitate)」こと(「交換する」ことではない)、および 可能なときは原子力の平和的応用のいっそうの発展に「貢献することに協力する(co-operate

in contributing)

」こと(「貢献する」ことではない)である。以上に引用した文言からも、NPT

の定める原子力協力に関する権利義務関係がかなり緩やかなものであることがわかるが、

そのことは次のようなNPTの起草過程からも確認することができる。すなわち、メキシコ が、原子力の平和的応用のいっそうの発展に「貢献する義務がある(have the duty to contribute)」

(8)

旨の修正案を提案したのに対して、カナダやイギリスが、「義務(duty)」という文言はあま りに広く、あらゆる要請に応えなければならないというように解釈されかねないとして懸 念を表明し、結局メキシコ案は採用されなかった経緯がある(40)。以上からすれば、NPT第4 条2項の規定する原子力協力に関する権利義務は、「求められたら与える義務がある」とい うものではないということになろう。そうであれば、不拡散の観点から原子力供給に追加 議定書の締結を条件とするということが、直ちにNPT第

4

条2項の違反を構成するというこ とにはならないように思える。しかし、そのような条件付けが他のNPT締約国によってど のように受け止められるかは別の問題である。この点について、2010年NPT再検討会議で はいかなる議論がなされたのか、みることにしよう。

3) 追加議定書の供給条件化と

2010 NPT再検討会議

追加議定書の供給条件化に関連する問題は、2010年の

NPT再検討会議において、核不拡

散に関する主要委員会Ⅱと原子力の平和利用に関する主要委員会Ⅲを中心に議論された。

論点となったのは、追加議定書の条件化そのものの可否と、それと直接には関連しないが 間接的に関連する米印原子力協力合意(以下「米印合意」と言う。内容につき注

52参照)

の評 価との関係においてである。

再検討会議において、追加議定書を原子力移転の条件とすべきか否かについては、3つの 異なった見解が示された。第1に、追加議定書の締結・発効を原子力移転の条件とすべきこ とを提案するものであり、ウィーン・グループ諸国、欧州連合(EU)諸国(41)など(42)がこの ような立場であった(43)。これらの諸国のなかには、オーストラリアのように、すでに追加 議定書をウラン供給の条件としている国もある(44)。なお、ロシアは、追加議定書を供給条件 とするという点では第1の立場の国に含まれるが、同国は条件化の対象に限定を加え、機微 な原子力技術(濃縮および再処理)の移転に際して追加議定書を「義務的な条件」のひとつ とすべきとの立場を主張した(45)

第2の見解は、原子力移転にあたって、追加議定書の締結を条件とすべきとまでは言わな いまでも、追加議定書の締結の有無を「考慮」すべきであるとする立場である。このよう な立場は、再検討会議において、追加議定書に積極的な一部の

NAM諸国によってとられた

ものであるが(46)、同様の考え方は、2009年

9

月の安保理サミットで採択された決議

1887に

も含まれており、「原子力輸出の決定にあたって、受領国がモデル追加議定書に基づく追加 議定書に署名・批准しているか否かを考慮(consider)するよう諸国に奨励する」(パラ19)

としている(47)。なお、かつてフランスは、機微技術の移転に関して上記のロシアと同様の立 場をとっていたが(48)、その後その内容が若干緩やかとなり、2010年の再検討会議での発言 では、濃縮・再処理関連の機微技術の移転は、「追加議定書または同等の保障措置を含む」

一連の基準に従って「評価されるべきである(should be evaluated)」と述べるにとどまってお り(49)、これは、原子力移転にあたって追加議定書の締結の有無を考慮すべきであるという第

2の見解を、機微技術の移転のみに限定した立場ということになろう。

これに対して、NAMは、第

3

の見解として、NPT第

4

条に規定する原子力の平和利用の

「奪い得ない」権利を強調し、同条に「再解釈や条件付けの余地はない」として、原子力技

(9)

術の妨げられない無差別の移転を確保する必要性を主張した(50)。特にアラブ連盟諸国は、

追加議定書は「任意の(optional)」文書であって、追加議定書を「NPT締約国が平和目的で 原子力技術を受領する際の標準となる義務的文書とすることには同意しない」と明言した(51)

NAMの急進派諸国はさらに、この問題をいわゆる米印合意

(52)とリンクさせて、アメリカ をはじめとするNSG諸国に対する批判を展開した。すなわち、NPTの締約国でもなく包括 的保障措置協定も締結していないインドに対して原子力協力を約束する一方で(それを容認 したNSGの決定は

1995年の「原則と目標」のパラ12〔前述〕違反であるとの主張

(53)や、NPTの非 締約国に対する原子力協力を禁止すべきとの主張(54)もなされた)、NPTの締約国に対して、包括 的保障措置協定では不十分であり、追加議定書を締結していないと原子力供給を行なわな い、というのは二重基準ではないかと主張した(55)

以上のような対立を反映して、追加議定書の条件化の問題も、再検討会議の最終文書で 最も争われた部分のひとつとなった。この問題は、最終文書では、議長の責任の下に作成 された「再検討」部分と、コンセンサス採択された「結論および勧告」部分とに分けて扱 われた。最終的な文言はその変遷をたどることなくしては理解が困難であるので、その過 程を簡単にたどることにしよう。最終文書は、まず各主要委員会で分野別の文書案(それぞ れ2度ほど改訂)が作成され、それらを基礎にカバクチュラン議長が作成した最終文書案全 体(1度だけ改訂)を全体会合で交渉するというプロセスをたどった。

本件問題を主として扱った主要委員会Ⅱ(委員長:イェルチェンコ = ウクライナ大使)の当 初の委員長案には、原子力移転への条件設定との関連で2つの項が置かれており、①

1995年

の「原則と目標」のパラ12(新たな原子力供給取決めには包括的保障措置と核兵器放棄の法的 約束の受諾が条件)を再確認する、②原子力輸出の決定にあたって追加議定書発効の有無を 考慮する、というものであった(56)。①は文字どおり1995年の決定の再確認であるし、②は 上記の第2の見解を反映したもので、安保理決議1887のパラ19をほぼそのまま利用したも のであった。これらは、委員会のその後の改訂版でも維持されたが(57)、委員会レベルでは 文書案はコンセンサスに至らなかった(本件との関係では

NAM諸国が②に対して反対した)

(58)

再検討会議のカバクチュラン議長は、最終文書の当初案(5月

25日)

において、①②につ いては共に主要委員会Ⅱのイェルチェンコ委員長案をそのままの形で再録していた(59)。と ころが、議長の最終案(5月27日)では、①はほぼそのまま維持されたが(60)、②は次のよう な文言に変化し(61)、それがそのままの形で最終文書となった(①は「再検討」のパラ

12

に、

②は「結論および勧告」のアクション37となった)(62)。すなわち、②では、「追加議定書」とさ れていた部分が「IAEAの保障措置義務」に変化し、その結果「原子力輸出の決定にあたっ て、受領国がIAEAの保障措置義務を発効させているか否かを考慮するよう[NPT]締約国 に奨励する」という文言になった。これは、最終段階でNAM諸国が追加議定書への言及を 削除するよう強く求めた結果と推測されるが、追加議定書の署名・批准を考慮要素とする よう奨励した安保理決議1887からの後退であるだけでなく、「IAEAの保障措置義務(IAEA

safeguards obligations)

」の発効という一見意味不明(63)の文言が用いられているという点で、き

わめて問題の多い項と言わねばならない。

(10)

再検討会議の最終文書でもうひとつの関連する項は、米印合意にかかるものである。米 印合意に関する問題は、主要委員会Ⅲ(委員長:中根猛大使)の下に設けられた補助機関3

(議長:カンセラ = ウルグアイ大使)において、NPT第

9条

(NPTの普遍化)との関連で扱われ た。補助機関3の当初案では、米印合意とそれを容認した

NSG

の決定は「原則と目標」のパ ラ12違反であるとか、NPT非締約国との原子力協力は禁止すべきといったNAM諸国の主張 を直接に反映する形で、「すべての

NPT締約国は、IAEA

の枠内のものを含め、[NPT]の非 締約国とのいかなる形態の原子力協力も破棄(reverse)すべきである」とする厳しい文言が 置かれていた(64)。しかし、その改訂版からは、NAM諸国の主張を間接的(相当婉曲に)に 反映する形で、「原則と目標」のパラ

12を若干修正のうえ引用する次のような文言に取り換

えられ、補助機関レベルではそれが最後まで維持されることになった。すなわち、「現在の または新たな供給取決め」には、包括的保障措置と核兵器放棄の法的約束の受諾が条件で あることを再確認する、という文言となった(65)

再検討会議のカバクチュラン議長の当初の最終文書案では、上記補助機関レベルの最終 案がそのまま維持されていたが(66)、その改訂版では、上記引用部分の「現在のまたは」が 削除された形となり(67)、それが最終的に最終文書の文言となった(パラ

117)

(68)。この最終修 正は、米印合意は

NSG

においてもコンセンサスで認められ、「すでに決着のついたこと

(done deal)」であるとして、最低限この部分(「現在のまたは」)を削除しなければ全体のコン センサスをブロックするとまで主張したアメリカの意向を受けたものであろう(69)。なお、そ もそも1995年の「原則と目標」のパラ

12には、

「現在のまたは」という文言はなく、補助機 関3のカンセラ議長が

NAMの主張を直接に反映する文言を間接的に反映する文言に変えた

ときにNAM諸国の意を汲んで追加したものである。

ところで、最終的に採択された最終文書のパラ117にはもうひとつの問題があった。それ は同パラが、「原則と目標」のパラ12をもうひとつの側面においてもそのまま再録しなかっ た点に関係する。すなわち、「原則と目標」において、「非核兵器国に移転するため[の]新 たな供給取決め」とされている部分が、最終文書では単に「移転のため[の]新たな供給 取決め」とされ、「非核兵器国」に言及されなかったため、包括的保障措置と核兵器放棄の 法的約束の受諾という供給条件が、非核兵器国のみならず核兵器国との新たな供給取決め にも適用されるということになり、結果として核兵器国(上記条件を満たさない)との新た な供給取決めが禁止されることになったと解釈することが可能となったのである(70)

この問題点は、再検討会議最終日の最終文書採択後に、イギリスによっても指摘されて いるが、最終文書のパラ117が、核兵器国との新たな供給取決めを禁止する意図で規定され たとは考えがたい(実際、そのような趣旨の主張はなされていない)。この点を最終文書の文言 との関係において整合的に理解するには、パラ

117が「NPTの普遍化」に関する NPT第 9条

の再検討にかかる部分に置かれている点に注目し、同パラは非との関係を念頭に置 いたものであって、締約国(核兵器国はすべて締約国である)との関係を規律することを意図 したものではない、と考えるほかないように思える(71)

ともあれ、こうして

2010

NPT再検討会議の最終文書では、包括的保障措置協定を供給

(11)

条件とすることは繰り返し確認されたものの、追加議定書の供給条件化には失敗したとい うことになる。しかし、他方で、再検討会議を通して、追加議定書を供給条件とすること はNPTに違反するとの主張はほとんど行なわれなかった(72)。これは上記(2)の法的検討の結 果とも一致するものである。このように、追加議定書の供給条件化がNPT違反ではないと すれば、その成否は供給国(その集団であるNSG、さらには

NPT

締約国全体)の政治的決断の 問題だということになろう。

4

G8

における追加議定書の供給条件化

原子力供給国グループ(NSG)は、ブッシュ提案のなされた2004年以降、追加議定書の供 給条件化の問題をさまざまな形で議論しているが、前述のように、いまだ合意するには至 っていない。しかし、NSGにおける関連する未合意の提案(濃縮・再処理の設備・技術の移 転制限関連)が、他のフォーラム(主要国首脳会議〔G8サミット〕)において、実質的な規制 機能を果たしている点には注目しなければならない。

G8

の枠内では、2004年のブッシュ提案に含まれていた濃縮・再処理の設備・技術(以下

「機微技術」とも言う)の移転禁止に関する提案について、2004年以来、NSGでの検討と連動 する形で議論が続けられてきた(73)。当初は、機微技術の新規移転の禁止モラトリアムを毎 年更新する形で、G8諸国の間では機微技術の全面的な移転禁止の方針が維持されてきたが、

NSGにおけるクライテリア・アプローチ

(一定の基準を満たす国には移転を認める)の検討の 進展を受けて、2009年のラクイラ・

G8

サミットの「不拡散に関するラクイラ声明」では、

NSGにおける作業完了までの間、

「[2008年

11

月20日のクリーン・テキスト=

NSG

で未合意 の提案]を国ベースで今後一年間実施する」(パラ8)ことが合意されている(74)

2008年 11

20日のクリーン・テキストとは、濃縮・再処理関連の設備・技術の移転に関

して、受領国が、①

NPT

の当事国であり、その義務を完全に遵守していること(75)、②包括 的保障措置協定を署名・批准・実施し、追(76)、③

IAEA

事務 局の報告において保障措置協定の違反(breach)が認定されていないこと、その他列挙条件 のすを満たしていることを移転の条件とするというものである。したがって、「不拡散 に関するラクイラ声明」のパラ

8

は、以上のようなNSGで未合意の措置に含まれる「追加議 定書を発効させている」ということを、(1年間に限定された措置ではあるが)

G8

諸国による 機微技術の移転の「条件」のひとつとすることになったということになろう。NSGの枠内 では、2010年

6

月のNSG総会(クライストチャーチ)においても再度この措置について合意 することができなかったが(77)、同じ2010年

6

月に開かれた

G8

のムスコカ・サミットでは、

「不拡散に関するラクイラ声明のパラ

8

にある約束を繰り返す」として上記措置を

G8

諸国間 では引き続き適用することに合意している(78)

こうして、G8という限られた集団においてではあるが(しかし主要な原子力供給国が含ま れる)、また毎年更新の時限的措置ではあるが、さらに原子力移転のなかでも機微技術の移 転に限ったものであるが、追加議定書の供給条件化が一部実現しているということになろ う。しかし、G8の枠外にも原子力供給国は少なくないのであって、これがG8という一部の 供給国のみによる機微技術関連の移転に限った取り組みに終わるならば、その追加議定書

(12)

の普遍化に対する効果は限定的なものにとどまるかもしれない。

おわりに

2009年4

月のオバマ大統領の「核兵器のない世界」を求めるというプラハ演説は、2010年

5月に開かれた NPT

再検討会議が、2000年の再検討会議以来

10

年ぶりとなる最終文書を採 択することとなる重要な雰囲気作りに貢献したのは間違いない。プラハ演説からほぼ1年間 は実質的な措置面での進展は少なかったものの、再検討会議開催直前の2010年

4月には、長

期にわたるアメリカの消極的安全保証を転換・強化させた「核態勢見直し(NPR)」が公表 され(79)、同じ4月には、前年

12

月に失効した第1次戦略兵器削減条約(START-I)の後継条 約として新

STARTが署名されるなど

(80)、核軍縮の側面における実質的に意味のある展開が 続いた。さらに再検討会議の開会後も、初日のアメリカによる現有核兵器数の公表(81)、そ の後それを後追いしたイギリスによる同様の現有核兵器数の公表(82)など、核軍縮の分野で の雰囲気の醸成が途切れることなく進んだことが会議に好影響をもたらした。そしてより 直接的には、1995年以来の懸案であり、2005年の再検討会議が最終文書の採択に失敗した ひとつの大きな原因ともなった中東非大量破壊兵器地帯に関する合意ができたこと(83)、特に そこにおけるイスラエルの名指しをアメリカが容認したこと(84)、他方で、最終文書全体にわ たって当初の段階からイランを名指しした非難が皆無であったことなどが、広く「漸進的 成功(incremental success)」(85)と評価される最終文書の採択へと結びついたと言うことができ よう。

しかし、採択された最終文書の中身をみると、少なくとも核不拡散の観点、とりわけ追 加議定書の普遍化の観点からは、それがどれだけの評価に値するか疑問なしとしない(86)。 それどころか、同様の問題を扱った2009年

9月の安保理決議 1887

と比較しても、最終文書 の内容はむしろ後退していると言わなければならない。追加議定書の普遍化には、それを 直接に求める直接的アプローチと、他の方法でそれを促進する間接的アプローチがあるが、

そのいずれにおいても再検討会議の最終文書の文言は安保理決議1887のそれから後退して いる。前者については、決議

1887では、すべての国による追加議定書の署名・批准・実施

を求めつつ、追加議定書が包括的保障措置協定とともに「IAEAの保障措置制度の不可欠の 要素を構成する(constitute essential elements)」と述べていたが(パラ

15.b)

、最終文書では、包 括的保障措置協定と追加議定書が「IAEAの保障措置制度の不可分の要素に含まれる(among

the integral elements)

」ことを「多くの国が承認している」と述べられているにすぎない(パラ

18)

。また、後者については、決議

1887

では、原子力輸出の決定にあたって「追加議定書」

の署名・批准の有無を考慮すべきことを奨励しているのに対して(パラ

19)

、最終文書では、

原子力輸出の決定にあたって(よく意味のわからない)「IAEAの保障措置義務」の発効の有 無を考慮すべきとされているにすぎない(アクション

37)

しかし、これらの事実をもって、国際社会が半年余りの間に核不拡散に関して後退した と考えるのは性急である。決議

1887

を採択した安保理では、拒否権を有する常任理事国

(=追加議定書の普遍化を推進)の発言権が強大であるのに対して、NPT再検討会議はコンセ

(13)

ンサス方式であり、しかも逆に116の締約国を擁する

NAM諸国

(=追加議定書に反対の国が 影響力をもつ)の発言力が大きい。そのようななかで再検討会議最終文書の「採択」を重視 すれば、NAM諸国が必ずしも積極的でない不拡散の部分は必然的に緩やかな記述とならざ るをえないのであって、それをもって後退ということにはならないように思える。

むしろ、今回の再検討会議で注目すべきは、NAM諸国のなかにも追加議定書を締結する 国が急速に増えてきたことを反映して、追加議定書に関して西側諸国と同様の発言を行な う国が出てきたことである。それは

NAM

の統一的立場とは異なる立場の表明であって、

NAMの結束力に疑問を投ずることにもなりうる事実である。そしてそのような主張を行な

うNAM諸国は、今後増えることはあっても減ることはないであろう。その点では、追加議 定書の普遍化をめぐる将来は、再検討会議の最終文書の内容にもかかわらず、明るいと言 えるかもしれない。もちろん、追加議定書の締結が

NPT

上の義務であるとは言えず、NPT の枠内(例えば再検討会議)でそれが義務であるとの合意に達することも不可能に近いが、

NAM諸国を含む多くの国が追加議定書を締結することによって、事実のうえで、包括的保

障措置協定と追加議定書がNPTの「検証の標準」であるという規を醸成することは 可能であるし、その方向に向かって現実は前進しているということであろう。

とはいえ、真の問題は核兵器開発の疑惑をもたれている国や、その動機があると疑われ ている国が追加議定書を締結するか否かである。それらの国は、追加議定書が「検証の標 準」とされる方向に進んだとしても、それだけで追加議定書を締結するということにはな るまい。そのような観点からは、追加議定書を締結していない国は原子力協力において不 利益を被るという体制を構築するという間接的アプローチの追求のほうが効果的であるよ うに思える。そのように考えると、NSGにおいてこの点での進展がはかばかしくないとい うところに、追加議定書の普遍化問題が抱える最大の問題があるように思える。しかし、

NSGはコンセンサス方式というきわめてハードルの高い手続を採用しており、機微技術の

移転に限定した現在の提案に対してさえ、トルコが「イデオロギー的」とも言われる反対 を維持しているようである(87)。そのような現状を前提とすれば、そしてそのような現状が変 化するまでは、G8における毎年の合意やオーストラリアの実践が維持・拡大されることを 期待するほかない。

1 Embassy of the United States(Prague), “Remarks of President Barack Obama,” Prague, 5 April 2009. オバマ 政権の核不拡散重視の姿勢は、2010年4月6日に公表された「核態勢見直し(NPR)」においても確 認できる。NPRは、アメリカの核兵器政策・態勢の5つの主要な目的の第1に「核拡散と核テロの 防止」を挙げているほか、核拡散・核テロ防止の主要な要素のひとつとして軍備管理・軍縮努力

(新戦略兵器削減条約〔New START〕、包括的核実験禁止条約〔CTBT〕の批准・発効、検証可能な 兵器用核分裂性物質生産禁止条約〔FMCT〕の交渉を含む)に言及しつつ、それは、「不拡散レジ ームの強化と世界中の核物質の安全確保に必要な措置に対する広範な国際的支持を動員する能力 を強化する手段」であるとしている。US Department of Defense, Nuclear Posture Review, April 2010, pp.

iii, vi–vii, 12–13.

(2) George P. Shultz, William J. Perry, Henry A. Kissinger, and Sam Nunn, “A World Free of Nuclear Weapons,”

Wall Street Journal, 4 January 2007.

(14)

3 George P. Shultz, William J. Perry, Henry A. Kissinger, and Sam Nunn, “Toward a Nuclear-Free World,” Wall Street Journal, 15 January 2008.

4 UK Foreign and Commonwealth Office, “Lifting the Nuclear Shadow: Creating the Conditions for Abolishing Nuclear Weapons,” February 2009, p. 51. 本文書は、第2の条件として、最少の核兵器と核兵器に対し て厳重で検証可能な制限を課する国際的な法的枠組み、第3の条件として、少数の核兵器からゼロ へと移る技術的、政治的、軍事的および制度的問題の解決、を挙げる。

5 2010年NPT再検討会議におけるロシアの一般討論演説も、同国が核不拡散の追求を優先してい ることを示している。Statement by Russia, General Debate, 4 May 2010.

6 Rebecca Johnson, “The 2010 NPT Review Conference Opens in NY,” Acronym Institute for Disarmament

Diplomacy. この点は、決議の本文冒頭の数項がいずれも主として核不拡散に関係するものであるこ

と、パラ6が「不拡散、原子力の平和利用、軍縮」の順番でNPTのいわゆる3本柱に言及している ことなどに象徴的に表われている。

7) 包括的保障措置協定においても、IAEAの要請で未申告の施設において「特別査察」を実施する 可能性が定められているが、これまでにそ「特別査察」が実施されたことはない。

特別査察の制度とその北朝鮮における実施の試みについて、浅田正彦「NPT・IAEA体制の新展開

――保障措置強化策を中心に」『世界法年報』第18号(1999年)、5―15ページ参照。See also John Carlson and Russell Leslie, “Special Inspections Revisited,” paper presented at INMM(Institute of Nuclear Materials Management)2005 Symposium Phoenix, July 2005.

8) 浅田正彦「NPT体制の危機と対応策の法的評価――違反と脱退の問題を中心に」『法学論叢』第 156巻3・4号(2005年1月)、221―224ページ参照。

9 “Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons: Final Declaration,” in United Nations Disarmament Yearbook, Vol. 10(1985), p. 177.

(10) See, e.g., “IAEA at a Crossroads: Statement to the Fifty-Second Regular Session of the IAEA General Conference 2008 by IAEA Director General Dr. Mohamed ElBaradei,” 29 September 2008.

(11) See, e.g., NPT/CONF.2010/PC.I/WP.72, 11 May 2007, paras. 6, 28–30.

(12) 国連軍縮部のサイトによる。185には北朝鮮が含まれているが、北朝鮮のNPT上の地位に関して 筆者は異なった見解である。See Masahiko Asada, “Arms Control Law in Crisis?: A Study of the North Korean Nuclear Issue,” Journal of Conflict and Security Law, Vol. 9, No. 3(2004), pp. 331–355.

(13) 2010年5月5日に行なわれた5核兵器国による声明は、「追加議定書を発効させるのに必要な措置

をとっていないすべての国に対してそのような措置をとるよう要請する」とともに、「包括的保障 措置協定は追加議定書とともに普遍的に承認された検証規範(verification norm)となるべきである と信じる」と述べている。“Statement by the People’s Republic of China, France, the Russian Federation, the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, and the United States of America to the 2010 Non- Proliferation Treaty Review Conference,” 5 May 2010, para. 11.

(14) NPT/CONF.2010/WP.21(Vienna Group), 29 March 2010, p. 5, paras. 11–14; NPT/CONF.2010/WP.5

(Japan), 19 March 2010, p. 1, paras. 2, 3, p. 2, paras. 6, 7; Statement by Australia, Main Committee II, 10 May 2010, p. 2; Statement by Japan, Main Committee II, 10 May 2010, p. 3; Statement by Ukraine, Main Committee

II, 12 May 2010, p. 1. 日本のWP.5については、その後西側諸国を中心に17もの国が共同提案国とな

っている。NPT/CONF.2010/WP.5/Rev.1, 7 May 2010; NPT/CONF.2010/WP.5/Rev.1/Add.1, 20 May 2010.

なお、本文に述べた3つの主張のすべてを行なった国も、別の場面ではその一部しか行なわないこ ともある。後出注16参照。

(15) ウィーン・グループは、オーストラリア、オーストリア、カナダ、デンマーク、フィンランド、

ハンガリー、アイルランド、オランダ、ニュージーランド、ノルウェーおよびスウェーデンの11 ヵ国で構成される。

(15)

(16) NPT/CONF.2010/WP.31(EU), 14 April 2010, p. 8, paras. 37–39; NPT/CONF.2010/WP.32(France), 14 April 2010, pp. 2–3; NPT/CONF.2010/WP.38(Vienna Group), 20 April 2010, p. 1; NPT/CONF.2010/WP.48

(OSCE), 30 April 2010, p. 3; NPT/CONF.2010/WP.56(EU), 4 May 2010, p. 3; NPT/CONF.2010/WP.64

(China), 6 May 2010, p. 2, para. 7; Statement by EU, Main Committee II, 10 May 2010, p. 5, para. 15; Statement by New Zealand, Main Committee II, 10 May 2010, p. 2; Statement by the United States, Main Committee II, 10 May 2010, pp. 1–2; Statement by Canada, Main Committee II, 10 May 2010, p. 2; Statement by Norway, Main Committee II, 10 May 2010, p. 2; Statement by Russia, Main Committee II, 12 May 2010, p. 3. Cf. ”G8 Muskoka Declaration: Recovery and New Beginnings,” Muskoka, Canada, 25–26 June 2010, para. 29.

(17)「標準(standard)」とは「原則として(as a rule)使用すべく確立されたもの」を言うとされ、そ の使用が義務であるとの含意を必然的に含むものではない。See Webster’s New World Dictionary.

(18) この点を比較的明確に示唆したのがオーストラリアであり、次のように述べている。非核兵器国 は、NPT第3条の下で、IAEAの保障措置制度に従った保障措置を受諾しているが、IAEAの保障措 置制度は進化するものであり、追加議定書は今やその不可分の一部となっている。Statement by Australia, Main Committee II, 10 May 2010, p. 2.

(19) 条約解釈の観点から言えば、追加議定書が「[IAEA]の保障措置制度」の不可分の一部であると いう合意が得られるならば、それが条約法条約第31条3項(a)に言う「条約の解釈……につき当事 国の間で後にされた合意」に該当するということにもなり、そうなれば、追加議定書の締結がNPT 上の義務ということにもなりうる。もっとも、そであると言いうるには、すべての 当事国による合意であることが必要と考えられる。浅田、前掲論文「NPT体制の危機と対応策の法 的評価」、226―227ページ参照。

(20) NPT/CONF.2010/WP.46(NAM), 28 April 2010, p. 7, Rec. 33; Statement by NAM, Main Committee II, 10 May 2010, para. 23. See also Statement by the League of Arab States, General Debate, 6 May 2010, p. 4;

NPT/CONF.2010/WP.30(League of Arab States), 13 April 2010, p. 2; Statement by Egypt, Main Committee II, 10 May 2010, p. 1; Statement by Iran, Main Committee II, 10 May 2010, p. 2; Statement by Lebanon, Main Committee III, 11 May 2010, p. 2; NPT/CONF. 2010/WP.51(Syria), 3 May 2010, p. 3, paras. 12–13. Cf.

Statement by Brazil, Main Committee II, 10 May 2010, p. 2. ブラジル(NAMのメンバーではない)は、

1997年のモデル追加議定書の交渉時に議定書の締結は任意であるとの了解があったとも主張した。

Carol Naughton and Rebecca Johnson, “Additional Protocol, Safeguards in Committee II,” Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

(21) 追加議定書の締結が現在NPT上の義務であるとの主張を行なう国は、追加議定書の普遍化を推 進する国を含めて存在しないと言ってよい。のみならず、追加議定書推進国も、「追加議定書の締 結の決定はすべての国の主権的権利であるが、いったん発効すれば法的拘束力をもつ文書となる」

(オーストラリア、カナダなどのウィーン・グループ諸国)との主張を行なうことで、追加議定書 の締結自体は義務でないことを認めている。NPT/CONF.2010/WP.21(Vienna Group), 29 March 2010,

p. 5, para. 12. ロシアに至っては、「追加議定書の締結は純粋に任意の行為にとどまる」と明確に述べ

ている。Statement by Russia, Main Committee II, 12 May 2010, p. 3.

(22) 主要委員会Ⅱにおける発言参照。なお、NAMのメンバーではないが、ブラジルも同様の発言を 行なった。

(23) Statement by South Africa, Main Committee II, 10 May 2010, p. 1. インドネシアは、追加議定書への支 持を拡大するために「追加議定書フレンズ」といったメカニズムを利用することまで提案してい る。Statement by Indonesia, Main Committee II, 10 May 2010, p. 1. See also Statement by Singapore, General Debate, 6 May 2010, p. 5; Statement by Chile, General Debate, 5 May 2010, p. 2; Statement by the Philippines, Main Committee II, 10 May 2010, p. 2; Statement by Malaysia, Main Committee II, 12 May 2010, p. 1.

(24) 第2の主張を行なった若干の例外として、一般討論演説において、スリランカが「包括的保障措

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