はじめに
近年,ヒトの健康維持・増進に寄与する機能性食品成 分が注目され,抗酸化能をはじめ,生活習慣病予防・改 善,抗がん,免疫促進,抗アレルギー,血流促進,認知 症予防など多くの生理機能が報告されている.しかし,
それぞれの機能の作用機構は,効果を示す機能性食品成 分の構造によって異なることから,その全貌解明は困難 な課題である.本稿で取り上げるプロシアニジンは,フ ラバン-3-オール構造をもつ難吸収性のポリフェノール である.難吸収性でありながらもさまざまな機能性を示 す.ここでは,その一部についての作用機構を概説す る.また,筆者らが近年明らかにしたプロシアニジンの 生理機能についても紹介する.
プロシアニジン
プロシアニジンは,フラボノイド類のフラバン-3-オー ルに属し,エピカテキンあるいはカテキンが縮合したオ リゴマーあるいはポリマー(2〜15量体)として存在す る,植物の二次代謝産物である.構造の一例を図1に示 す.カカオや黒大豆,シナモン,ナッツ,アップル,グ レープシードなどの食品に多く含まれている.フラバ ン-3-オールは,A, BとC環を基本骨格とし,3, 5, 7, 3′あ るいは4′がヒドロキシル結合した構造をもち,平面では
なく通常は立体構造をとっている.たとえば,3位がヒ ドロキシル化されたグループは2つの立体構造が存在 し,2,3-シスアイソマーは(−)-エピカテキンで,2,3-ト ランスアイソマーが(+)-カテキンである.これらの基 本骨格をもつ単量体がいずれもC4‒C8結合かC2‒O‒C7 結合することによりオリゴマーが形成されている.その 結合様式によりアイソマーが2つに大別され,C4‒C8あ るいはC4‒C6結合したものをB-タイプと称し,C2‒O‒
プロシアニジンの機能性
山下陽子,芦田 均
神戸大学大学院農学研究科
図1■プロシアニジンの構造例
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セミナー室
食品因子による生活習慣病予防・改善機構の解明をめざして-5C7結合したものはA-タイプと称す.自然界に存在する プロシアニジンは,(−)-エピカテキンからなるものの ほうが,(+)-カテキンから構成されるものより多く発 見されており,主にB-タイプである.しかし,植物内 でモノマーからオリゴマーに生合成される詳細な経路に 関しては,まだ十分に解明されていない.一方で,フラ バン-3-オールの酸化によるキノン構造が,ほかのオリゴ マー形成に重要であるとの報告もなされている(1).立体 構造の特徴として,まず基本骨格となる(−)-エピカテ キンのB環が垂直に曲がっている.これにより,二量体 のプロシアニジンB2の[(−)-エピカテキン(C4‒C8),
(−)-エピカテキン]とプロシアニジンB1[(−)-エピカ テキン(C4‒C8)(+)-カテキン]は,いずれも同じよ うなU字カーブを描き,二つのB環同士が重なり合う構 造をとっている.一方で,C2‒O‒C7結合したプロシア ニジンA2は,2つの(−)-エピカテキンが重なり合わな い.このような現象は付加的な結合だけでなく立体結合 でも認められ,ヒドロキシグループの3位が分子の立体 構造を位置づける重要な役割を果たしている.さらに高 重合なプロシアニジンでは,ねじれ構造をとる.たとえ ば(−)-エピカテキン(C4‒C8)が結合した四量体では, 左側にねじれた立体配置をとる.このような結合様式や 立体構造の差で,脂質やタンパク質,糖や核酸などのほ かの化合物との親和性も変わる.さらに,分子構造の違 いにより体内動態や生体機能が異なる点が興味深い.水 酸基による抗酸化能に着目すれば,オリゴマーであるプ ロシアニジンは抗酸化性が高いと期待できる.重合度の 高い高分子化合物は,モノマーと比べると腸管からほと んど吸収されないと考えられるが,その一方で,さまざ まな生理機能が報告されている.プロシアニジンは,
1990年代になってようやく標品が得られるようになり,
生体調節能についての科学論文が顕著に増加したのもこ の時期以降であり,まだ歴史がそう長くはないが,現在 注目が高まっている化合物である.
プロシアニジンの体内動態
プロシアニジンは,上述のとおり結合様式によってさ まざまな立体構造や重合度の違いがあるため,体内動態 が違うことが予想される.したがって,生体における機 能性を考えるうえでの体内動態解明の重要性は高く,研 究者の関心が集まっている.近年, や 試 験でプロシアニジンの消化吸収に関する研究結果が報告 されてきている(2).まず,胃におけるプロシアニジンの 消化と安定性については,胃酸のような低いpH条件下
(pH 2.0)で,モノマーのエピカテキンやカテキンにまで 分解されると報告されている(2).ただし,その分解は必 ずしもC4‒C8あるいはC4‒C6で開裂したモノマーになる とは限らない.一方で,胃液がプロシアニジンを懸濁し た水などの溶媒で薄まり,pH 5.0付近まで上昇した際に は,プロシアニジンは分解されない.つまり,消化吸収 を考えるうえでpHが炭素と炭素の結合を切ることに大 きく影響する.加えて,ほかの栄養成分と同時に摂取し た際には,また挙動が変化することもわかっている(2). たとえば,胃酸分泌を上昇させる高炭水化物食と同時に プロシアニジンを摂取させると,二量体や三量体の胃酸 での分解が増加する(2).つまり,プロシアニジンが胃で どのような作用を受けるかに関しては,ほかのさまざま な因子の影響を受けるため,今後より詳細な胃内での動 態検証が求められる.つづいて,腸における動態につい ては, 試験の報告によると,小腸でプロシアニ ジン二量体は直接受動輸送されるが,輸送可能なプロシ アニジンは重合度により異なるとの報告がある.基本的 にプロシアニジン四量体以上は吸収されないという報告 が大半を占めるが,使用する動物種や投与方法によって 得られる結果は異なっており, においてプロシア ニジン二量体,三量体,またはそれ以上のポリマーが直 接吸収されるかについては,まだ解明されていない点が 多い.表1に,これまでにプロシアニジン化合物あるい はプロシアニジンを高含有する食品を投与した際の動態 についての報告例をまとめた(2).これらの報告による と,多くはカテキンやエピカテキンなどの単量体とそれ らのメチル化物,あるいは抱合体として血中に検出され ている.Babaら(3)は,ラットにプロシアニジン二量体 を投与した際の血漿をスルファターゼ処理すると,プロ シアニジンB2,エピカテキンならびにそのメチル化物 3′- -メチルエピカテキンが血中に検出され,尿中にも抱 合体あるいは非抱合体が検出されることを明らかにして いる.また,多くのプロシアニジンは腸内細菌によって 代謝を受けることも報告されている(2).代謝されて生じ るフェノール酸は,主にフェニル酢酸,安息香酸誘導 体,フェニルバレロラクトンであるという報告(2)がある が,詳細についてはまだわかっていない.ラットの腸内 細菌に4種の二量体(B-typeエピカテキン,A-typeエ ピカテキン,A-typeエピカテキンガレート,A-typeエ ピガロカテキンガレート)を反応させたところ,構造に よって得られる代謝物は異なること,また同一化合物で も腸内細菌の代謝時間に応じて,抗酸化能が変化するこ とが報告されている(4).
近年では,プロシアニジン化合物レベルでの動物実験
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も増えてはきているものの,これまでの実験のほとんど はプロシアニジンを多く含む組成物を摂取させた実験で あり,その由来する食品の特性やほかの成分との相互作 用,抽出方法によっても体内動態が異なっている.
プロシアニジンの生理機能 1. 抗酸化作用
プロシアニジンの抗酸化能や,それを介した抗炎症効 果をはじめとするさまざまな生理機能が数多く報告され ている.筆者らも,プロシアニジン二〜四量体とエピカ テキンを用いて,2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオンア ミジン)(AAPH)ラジカル吸収能の評価を行ったとこ ろ,(−)-エピカテキン,(+)-カテキン,二量体のプロ シアニジンB1, B2,三量体のプロシアニジンC,ならび に四量体のシンナムタンニンA2のAAPHラジカル吸収 能は,ほかの抗酸化性物質と比べて高く,特に(−)-エ ピカテキンが最も高い抗酸化能を示すことを明らかにし た(5).また,肝細胞HepG2にこれらの各ポリフェノー ル化合物を作用させ,活性酸素(ROS)産生の抑制効果 を2′,7′-ジクロロフルオレセインジアセタート(DCFH)
法を用いて定量するとともに,DCFに由来する蛍光を 顕微鏡下で観察して評価した.その結果,いずれのプロ シアニジン化合物も,有意にROSの産生を抑制した.
さらに,酸化的DNA損傷の抑制効果について,これら のプロシアニジン化合物をHepG2細胞に作用させ,
AAPHが誘導する8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8- OHdG)量をLC-MS/MSを用いて測定したところ,い ずれの化合物もAAPHにより誘導された8-OHdGの生 成を有意に抑制した(5).また,プロシアニジンは,抗変 異原性や小核形成抑制効果を示すことも明らかにし た(6).これらのことから,プロシアニジンは,その高い 抗酸化能により,酸化的DNA損傷を効果的に抑制でき ることがわかった.
2. 薬物代謝促進作用
さまざまなポリフェノールが,環境汚染物質などによ る細胞損傷や炎症に対して,薬物代謝促進作用を介して 抑制することが報告されている.たとえば筆者らは,フ ラボノイド類が無細胞系や培養細胞系において芳香族炭 化水素受容体(AhR)の形質転換(活性化)を阻害す ることが明らかにしており,カカオ由来のプロシアニジ ン組成物についても,ダイオキシン類のテトラクロロジ ベンゾジオキシン(TCDD)によって誘導されるAhR の活性化抑制作用を有し,なかでも四量体シンナムタン ニンA2の抑制効果が最も強いと報告している(7).さら に,プロシアニジンについて,化学発がん物質であるベ ンゾ[ ]ピレン[B( ) P]が誘導するDNA損傷に対して 表1■プロシアニジンの体内動態
Sample Subject Administractive
method Dose (mg kg−1) Plasma analytes Pharmacokinetics parameters
PB2 SD rats 50 PB2, EC, 3′OMEC Plasma max, urinary excretion.
PB2>EC>3′OMEC
[14C]PB2 Wister rats 21 ̶ 8‒11% oral-bioavailability
21, 10.5 ̶
PB3, Gtyl Grape seed extract(GSE)
Wistar rats Diet supplement 20(PC3), 200 and 400 GSE
EC, C, methyl EC and C in GSE group
̶ Grape seed extract Wistar rats 1000 C, EC, (methyl)glucuronidased C
and EC, dimer, trimer
EC>C>dimer>EGCG>trimer
Grape seed extract Wistar rats 1000 C, EC, dimer, trimer Trimer>dimer>EC>C
Grape seed extract SD rats 300×2 EC, C, methyl EC and C, dimer,
trimer
̶
Grape seed extract SD rats 1000 (Methyl)glucuronidated EC, C,
metyl-sulfated EC and C
̶ Procyanidin extract
and cocoa cream
Wistar rats 1000+50 (Methyl)glucuronidated EC, C,
methyl-sulfated EC and C, dimer, trimer
EC>C>dimer>trimer
Cocoa Human 357 EC, C, PB2 EC>C>PB2
Apple procyanidin Wistar rats Intragastric injections
1000 C, EC, PB1, PB2, PC ̶
PB2, A1, A2, A-type DP3, A-type DP4
Wistar rats perfusion of intestine
100 µmol L−1 PA1, PA2, PB2 5‒10% absorption
, intravenous; ., intragastric; EC,(−)-Epicatechin; C, (+)-catechin; 3′OMEC, 3′- -methyl-EC; PB1, procyanidin dimer B1; PB2, pro- cyanidin dimer B2; [14C]PB2, 14C-labelled procyanidin dimer B2; PBA1, procyanidin dimer A1: PBA2, procyanidin dimer A2; DP3, trimer procyanidin; DP4, tetramer procyanidin
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抑制効果を発揮することを明らかにした(6).肝細胞ある いはマウスより摘出した肝臓において,B( ) Pが誘導す る薬物代謝酵素のシトクロームP4501A1(CYP1A1)の 発現と,核におけるAhRとの結合抑制が作用機序の一 端を担うことを明らかにした.また,グルタチオン -ト ランスフェラーゼの発現を上昇させる効果が,B( ) Pの 解毒・代謝に寄与していると推測した(6).これらのこと から,プロシアニジンは,化学発がん物質により誘導さ れる薬物代謝第I相酵素の発現を抑制し,一方で薬物代 謝第II相酵素の発現を増加させることで化学発がん物質 の解毒代謝を促進する食品因子の一つであると言える.
3. 肝損傷抑制作用
プロシアニジンは肝臓において,上述した抗酸化能や 薬物代謝促進作用に伴って肝損傷に対して抑制あるいは 保護作用を有することが明らかとなっている.筆者ら も,黒大豆より抽出したプロシアニジン高含有組成物を 用いて,肝損傷抑制効果を検討した.実験マウスに四塩 化炭素(CCl4)を投与することで,肝障害を誘導した.
肝障害誘導期間中にプロシアニジン組成物をAIN-93M 飼料に混餌して与え,これらのマウスの肝線維化を評価 した(山下ら,未発表).CCl4により上昇したマウス血 漿のASTとALT活性を,プロシアニジン組成物は濃度 依存的に抑制した.組織病理学検査において,CCl4が 誘導した肝細胞の変性と壊死,ならびに炎症細胞の浸潤 をプロシアニジン組成物は抑制した.また,CCl4によ り,肝線維化にかかわる分子マーカーと炎症マーカーの 発現量が増加したが,プロシアニジン組成物はこれらの 発現量を有意に低下させた.さらに,CCl4による肝臓 の脂質過酸化の上昇も,プロシアニジン組成物は有意に 抑制した.これらの効果には,CCl4による抗酸化酵素 の活性低下をプロシアニジンが抑制していることが関わ ると推測した.Wangら(8)やYangら(9)の報告において も,プロシアニジンB2を実験動物に摂取させると,
CCl4誘導性肝繊維化が抑制され,トランスフォーミン グ増殖因子(TGF-
β
1)とマロンジアルデヒド(MDA)の生成が抑制されると報告している.以上のことから,
プロシアニジン類は肝臓において,さまざまな作用機序 によって炎症や障害に対して保護あるいは改善作用を有 する可能性があると考えられる.
4. 糖代謝促進作用
プロシアニジンやそれを多く含む食品が,糖代謝を促 進し,高血糖の予防改善を含めた健康の維持増進に及ぼ す効果が報告されている.たとえば,ダークチョコレー
トを摂取すると,健常人ではインスリン感受性が高まる こと(10),カカオポリフェノールを摂取させた肥満II型 糖尿病モデルのdb/dbマウスでは,高血糖の進行を抑 制することが報告されている(11).グレープシードのプ ロシアニジンも,II型糖尿病モデルマウスにおいて高血 糖を抑制すると報告されている(12).筆者らも黒大豆種 皮由来のプロシアニジン組成物が,糖尿病や肥満を抑制 することを報告した.その作用機序の一端は,消化管に 存在するL細胞から分泌される消化管ホルモンのグルカ ゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌を促進し,それに 伴ってインスリン分泌の促進に寄与していることを明ら かにした(13).GLP-1は,インスリン分泌以外にもさまざ まな代謝調節を制御するホルモンとして近年注目されて いる.現在までに報告されている作用機構を図2に示 す.González-Abuínら(14)も,グレープシードプロシア ニジンがGLP-1分泌の促進と,さらにGLP-1を失活させ るDPP-4の阻害作用をもつことを報告しており,この ことは,プロシアニジン類が消化管内で,すでに初発の 機能を発揮していることを示唆している.また,別の作 用機構として,筆者らはインスリン非依存的に,AMP 活性化プロテインキナーゼ(AMPK)のリン酸化を介 してグルコース輸送担体4型(GLUT4)の細胞膜への 移行を促進し,筋肉へのグルコース取り込みを上昇させ ることも明らかにした(15).AMPKは図3に示すとおり,
エネルギー調節にも深くかかわっている.特に,体熱産 生やミトコンドリアの生合成にかかわる脱共役タンパク 質(UCP) やPeroxisome proliferator-activated recep- tor gamma coactivator-1
α
(PGC-1α
)の発現上昇をもた らし,インスリン抵抗性や肥満の予防・改善にも寄与す ることが期待される分子ターゲットである.AMPKを 介した脂質代謝促進作用については次項で述べるが,筆 者ら(15)は高脂肪食摂取によるインスリン抵抗性を惹起図2■GLP-1の生理作用
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したマウスにおいて,GLUT4の発現量低下をプロシア ニジン高含有組成物が抑制することも見いだし,その際 にAMPKの活性化が関与することも明らかにした.ま た,グレープシード由来プロシアニジンB2についても,
高糖質誘導性のミトコンドリア機能異常に対して,
AMPK‒SIRT1‒PGC1
α
の経路を介して糖尿病性神経症 の改善に寄与する可能性も報告されている(16).5. 脂質代謝促進作用
プロシアニジンの脂質代謝促進や肥満・脂肪蓄積抑制 効果については種々の報告がなされてきつつあるもの の,いずれもプロシアニジン高含有組成物を用いた実験 であるとともに,その詳細な作用機構はまだ十分に解明 されていない.筆者らがマウスを用いて食事誘導性の高 血糖や肥満に及ぼすプロシアニジン組成物の効果を検討 したところ,カカオならびに黒大豆由来のプロシアニジ ン高含有組成物は,AMPKのリン酸化を亢進させること で,熱産生に関連するUCPや,ミトコンドリアの発生に 関連するPGC-1
α
の遺伝子発現を上昇させ,エネルギー 産生を促進し,高脂肪食摂取による脂肪蓄積の予防に寄 与していることを明らかにした(15, 17).Kamioら(18)も,プ ロシアニジンを単回投与すると,エネルギー代謝を上昇 させ,褐色脂肪組織中のUCP-1発現を増加させること,さらにその作用機構には神経伝達物質が関与しているこ とを報告している.また,プロシアニジンを反復投与し
た際にも,骨格筋におけるPGC-1
α
とUCPの発現上昇に 伴って,ミトコンドリア新生が促されることも報告して いる.エネルギー代謝に対して大きく影響を与える交感 神経系を,プロシアニジンは消化管内ですでに刺激し(18), その結果として分泌されるカテコールアミンが全身性の 代謝促進作用を発揮している可能性が考えられている(19). 以上のことから,プロシアニジンはまず初発段階とし て,消化管内における何らかの受容体に作用し,分子機 構を変化させることで抹消組織における代謝調節を制御 する可能性が高いと考えられ,その詳細な作用機構の早 期究明が求められる.6. 消化酵素への作用
これまで,ポリフェノールをはじめとする食品由来の 機能性成分は,小腸酵素活性を阻害することで,消化管 からの糖や脂肪の吸収を抑制する作用を標的として,生 体調節機能や生活習慣病予防に寄与することが報告され てきた(20).プロシアニジンと同様に難吸収性のポリフェ ノールであるテアフラビンは,小腸での
α
-グルコシダー ゼ阻害作用を有することが報告されている(21).一方,た いへん興味深いことにプロシアニジンがこの活性阻害に 関与する報告は少ない.筆者ら(15)も, と の両方でα
-グルコシダーゼ活性を測定したところ,試験ではプロシアニジンは活性阻害作用を示すもの の, では活性阻害が認められないという結果を得 ており,ほかの因子との相互作用や別の経路が血糖調節 に関与していると考えている.
脂質代謝にかかわるリパーゼ活性阻害に関しては,プ ロアントシアニジンによる活性阻害作用が報告されてい る.たとえば,プロシアニジンが あるいは
試験の両方でリパーゼ阻害作用を発揮し,二量体か ら五量体では重合度依存的に阻害活性が高まることを明 らかにしている(22).さらに,動物実験において脂質負 荷試験を行った場合に,トリグリセリドの吸収量がプロ シアニジンの1時間前処理により抑制されることを確認 している(22).しかしながら,その作用機序の詳細はま だ十分に判明しておらず,重合度による活性の違いにつ いても解明が急がれる.
おわりに
プロシアニジンは,抗酸化能をはじめとしてさまざま な生体調節機能を有することが報告されている.プロシ アニジンを多く含む食材は,カカオやシナモン,黒大豆 のように世界的に広く親しまれ,そして歴史的にも食経 図3■AMPKの作用機構
CAMKK: calcium-calmodulin-dependent protein kinase kinase LKB1: liver kinase B1
ACC: acetyl-CoA carboxylase
CPT-1: Carnitine palmitoyltransferase I GLUT4: Glucose transporter 4 SIRT1: Sirtuin 1
PGC1α: Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coacti- vator 1-alpha
CREB: cAMP response element binding protein UCP: Uncoupling protein
AMPKα: AMP-activated protein kinase
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験の長い食材であるため,これらの食材が人々の健康維 持増進に寄与することが多いに期待できる.しかしなが ら,現時点では組成物での評価が多く,化合物ごとで作 用機序や体内動態の異なるプロシアニジンの評価は不明 な点が多いが,それが逆に研究者の興味を引き寄せてい る理由とも言えるであろう.化合物レベルでの分子標的 もまだ十分に解明されていないことと,重合度の違いあ るいは立体構造の違いによる生体調節能の比較もほとん どなされていないことや,ヒトでの体内動態やその検証 も不十分な点が多く残されていることから,今後のより 詳細な科学的検証が求められる.また,筆者らの動物実 験でも観察されたことであるが,プロシアニジンはごく 微量で効果を発揮することがわかっている(23).そのた め,生体でのより生理的な濃度域での検証や安全性評価 も十分に行うことで,機能性表示食品などへと実用化 し,社会貢献にもつなげられると考えている.また,そ のほかの食品との食べ合わせや摂取するタイミングな ど,生体で起こっている現象はさまざまな要素と複合的 にかかわりあっているため,その点を踏まえて今後も健 康の維持増進に寄与する機能性食品成分の科学的エビデ ンスを追求していきたい.
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プロフィール
山下 陽子(Yoko YAMASHITA)
<略歴>2007年神戸女子大学大学院家政 学研究科食物栄養学専攻博士前期課程修 了/同大学家政学部管理栄養士養成課程助 手/2009年神戸大学自然科学系先端融合 研究環重点研究部教育研究補佐員/2013 年同大学大学院農学研究科博士課程後期課 程修了/同大学農学研究科特命助教,現在 に至る<研究テーマと抱負>食品成分の生 活習慣病予防効果の解明に関する研究.特 に,プロシアニジンなどの高重合化合物が 生体調節に及ぼす効果とその作用機構,標 的分子究明.最近ではそれらと体内時計と の関係性に興味をもっている<趣味>料 理・食育活動・ピアノ
芦 田 均(Hitoshi ASHIDA)
<略歴>1983年神戸大学農学部農芸化学 科卒業/1985年同大学大学院農学研究科 農芸化学専攻修士課程修了/1988年同大 学大学院自然科学研究科資源生物科学専攻 博士課程修了(学術博士)/同年日本学術 振興会特別研究員/1990年神戸大学農学 部助手/1994〜1995年カリフォルニア大 学デービス校環境毒物学科研究員/1999 年神戸大学農学部助教授/2004年同大学 農学部教授/2007年同大学大学院農学研 究科教授(改組),現在に至る<研究テー マと抱負>食品成分の機能評価に関する研 究,生活習慣病の予防・改善に関する基礎 的研究,ダイオキシン毒性の抑制に関する 研究<趣味>物見遊山,ドライブ
Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.747
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