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プロダクト イノベーション - J-Stage

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プロダクト イノベーション

天然食材中の超微量重要香気成分の研究

合成化学を通じた食品香料への応用 長谷川香料株式会社

渡辺広幸

365

化学と生物 Vol. 54, No. 5, 2016

はじめに

香料産業はBusiness to Business形態であり,香料自 体が商品として直接消費者に届くことはない.食品や香 粧品の付加価値付与の手段として使用される.そういっ た観点では,広く香料産業が世間に認知されているとは 言い難いため,本稿では,香料の意義と香料ならではの 研究開発体制の解説に多少の紙面を使わせていただき,

その後に実際の研究例を,筆者の所属する部署である有 機合成化学による香気成分の合成に焦点をあてて紹介し たい.

食品香料の意義

流通産業や容器産業を加えた加工食品産業の発展に よって,われわれは豊かで安全な食生活を送ることがで きている.食品は栄養摂取という食品の一次機能に加 え, おいしさ あるいは嗜好機能と呼ばれる二次機能 を兼ね備える必要がある.

香りは食品の おいしさ を左右する重要ファクター の一つである.香りは揮発性が高く,それゆえ嗅覚を通 じて伝達されるのであって,またそれゆえに食品から優 先的に失われやすいというはかない性質も避けられぬ宿 命である.すりたてのゴマやいれたてのコーヒーの香り が経時的に急速に失われていくことでも実感できよう.

日々進歩する食品加工技術においても香りは失われや すく,その結果低下する風味を補って おいしさ を維 持することが食品香料の大きな役割である.また,現代 のライフスタイルの変遷により,減塩,低糖,低脂肪な どが加工食品に求められ,それによって低下する風味の 底上げにも食品香料は有用な手段となる.

世界での食品香料市場は1兆5千億円規模と言われて おり,一方,国内では1,275億円の市場である(1)

食品香料開発

食品の香気は複雑であり,通常数百種類の揮発性の香 気化合物の混合物としてわれわれは感じている.香料を 産業として見た場合,数百種類の香気化合物を混合する ことは経済的にかなわない.香料開発で重要なことは,

いかに重要となる化合物を選択して組み合わせることに より,目標とする香りを表現できるかである(香料研究 においては調香と呼ぶ).この部分を担うのが,食品香 料の調香を専門にするフレーバリストと呼ばれる調香師 である.通常熟練調香師の育成には10年以上を要し,

優に千を超える香気化合物の特性を記憶し,自由自在に 使い分ける能力を要求される.

素材の選定と比率は調香師の経験と感性によるところ であるが,その研究対象の食品の鍵となる香気成分を分 析して調香師に情報提供するのが分析部門である.

合成部門は,重要な香気成分が未知の場合に入手可能 な原料から有機合成の手段を用いて化学合成し,構造決 定を行う.また,分析データから得られる情報が限ら れ,提示構造が立体化学を含めて推定である場合は,一 致するまで合成を繰り返す必要がある.さらには,その ものを香料素材として活用する場合は,商業的に入手で きない場合が多く,経済的な有機合成経路を確立し,自 社で工業生産体制を整える役目がある.

このように,調香,分析,合成の連携により重要香気 成分を活用した新たな香料開発がなされる.

日本農芸化学会

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ユズ香料の研究

さて,商業化に繋がった実際の研究開発例として,

ユ ズ 香 料 の 研 究,新 規 重 要 香 気 成 分YUZUNONE®, YUZUOL®の発見と構造決定,YUZUNONE®の合成供 給経路の確立について順次述べさせていただく.

日本にはユズにかかわる多くの文化がある.果皮を料 理の香り付けに用いたり,ユズポン酢のように果汁を料 理に取り入れたり,また丸ごと風呂に入れてユズ湯にし たりする.ユズが日本人に慣れ親しまれる理由の一つは その特有の香りであろう.ユズの産地は日本とそのほか 僅かな地域に限られ,良質な天然のユズ油を食品香料に ふんだんに使用することは困難であり,ユズ油を用いな い完成度の高いユズ香料の開発が望まれていた.

ほかの柑橘とは異なるユズらしさを,従来知られた香 気成分だけで表現することは非常に困難であり,微量で あるがゆえにまだ知られていない重要な香気成分がユズ 中に存在していることが推測され,ユズの微量香気成分 の解明に取り組んだ.

新規天然物YUZUNONE®  YUZUOL®の発見と構造決定

数百種類の天然素材の香気成分からどのように微量重 要香気成分を絞り込んで分析していくかは,香料開発な らではの開発手法であり紹介したいところであるが,本 稿では紙面の都合上思い切って割愛させていただく(2, 3). 結果として分析部門と調香師の共同での詳細研究の末,

ユズの特徴香に寄与すると思われた強い香気を有する超 微量香気化合物2成分が見いだされた(化合物AB). 両者ともに得られたマススペクトルは弊社データベース に未登録であり,この段階では不明成分であったが,公 知物質とのスペクトル比較などにより,末端からの3連 続共役二重結合を有したウンデカトリエン骨格を有した 直鎖化合物であり,Aは3位が酸化されたケトン体,B

はどこかの位置が酸化されたアルコール体とそれぞれ推 定された(図1

そこで,候補化合物の合成を行った.異性体によって はマススペクトルやGC保持時間,あるいは香気特性が 類似なものも経験上多くあり,構造決定ミスを避けるた め全異性体を合成することとした.また,構造と香気の 相関関係(ほかの研究分野で言うところの構造活性相 関)を研究するうえでも手間はかかるが必要なプロセス である.有機合成化学として特異な方法は用いずにすべ ての候補化合物を調製することができた(図24

マススペクトルの比較から,天然物中の不明成分A は推定どおり,6,8,10-Undecatrien-3-one(化合物5)で あり,不明成分Bは6,8,10-Undecatrien-4-ol(化合物14

であることがわかった(ほかの異性体はマススペクトル が大きく異なる).その後の詳細研究により,立体配置 の確定も行った.すなわち,天然物中の不明成分と香気 特性を含めたすべての物性の一致により,不明成分A は,化合物5の(6 , 8 )-体(後の研究により,(6 , 8 )-

図1ユズ中の不明成分のマススペクトルと推定構造

図23-One体および3-ol体の合成

図32-One体および2-ol体の合成

図44-One体および4-ol体の合成

日本農芸化学会

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化学と生物 Vol. 54, No. 5, 2016

体もマイナー成分として天然中に検出されている),不 明成分Bは化合物14の(6 , 8 )-体と確定した(図5, 6

調査を行ったところ,化合物514は両者ともに文献 未収載の新規化合物であり,ユズからの発見に因んで,

YUZUNONE®,YUZUOL®とそれぞれ命名した.

果皮油中のYUZUNONE®,YUZUOL®の存在量は,

それぞれ5.5 ppm, 1.6 ppmとごく微量であり,強力な香 気化合物であることが類推され,香気強度の測定を行っ た(図7.香気化合物の強度は閾値(いきち)として 示され,どの濃度まで匂うかを数値化したものである

(数値が小さいほど,香気が強いことを示す).

YUZUNONE®,YUZUOL®の閾値はそれぞれ10 ppt,  42 pptと極めて小さく,予想どおり強力な香気物質であ ることが数値でも確認された.因みに閾値10 pptという 数値は,例えるならば幅10 m,深さ2 mの50 mプール に水をはって,そこに僅か10 mgを添加するとプールの 水全体が匂う濃度である.

YUZUNONE®の効率的合成法の開発

合成したYUZUNONE®,YUZUOL®をそれぞれ調香 研究に用いたところ,ともに効果が高く,特にYUZU-

NONE®はユズ香料を作成するうえで極めて重要で欠か せない素材であることが調香師の研究によりわかった.

新規化合物であり,天然中の存在量が極めて低いため,

YUZUNONE®を香料素材として活用するためには自社 で製造供給する必要性があり,効率的合成法の開発に研 究のステージを進めた.

図2に示したYUZUNONE®の合成法を見返してみる と(第1世代合成法),僅か3工程の合成ルートである が,その中の2工程を酸化反応と還元反応が占めてお り,さらなる改良が望まれた.

次に考案した第2世代合成法を,図8に示した.第1 世代合成法と同じ工程数と総収率の製法であり,安価で 入手容易な原料を使用しているため,一見よさそうに見 えるが,このルートには合成スキーム上に現れない大き な欠点があった.

4-Oxohexanal(化合物17)は極めて水溶性が高く,

16からの変換反応後のaqueous work-upでの抽出効率 が極めて悪い化合物であった.加えて蒸留単離は可能で あるが,不安定な性質であり,図に示した収率を確保す るための労力と不安定な中間体の利用に問題を抱えるこ とになる.食品香料は,食品に僅かに添加されるという 食品添加物としての性質上,物量的に小規模であり,そ の中でもYUZUNONE®のような超微量で効果がある素 材は, 手早く 簡潔に ,そして 高品質に の3拍 子が揃った製造方法でなければ活用が困難である.

そこで酸化,還元反応を用いず,C-C連結をホスホニ ウム塩3とのWittig反応により構築する別経路を設定し 図56 , 8-体のYUZUNONE®の構造決定

図66 , 8-体のYUZUOL®の構造決定

図7水中閾値(単位ppt

図8YUZUNONE®の第2世代合成法

日本農芸化学会

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た(図9

4-Oxohexanal(化合物17)の等価体として,入手容 易な2-Ethylfuran(化合物18)を用いた.アセタール体 19へ変換後,脱保護を酸性水溶液中で行い,17を単離 することなく亜硫酸付加体20としたところ,条件をう まく設定することにより20が反応系から結晶化合物と して系外に効率よく析出してくる現象を見いだした(第 2世代合成法の反応系からはうまく析出しなかった). 最後に2017に戻すことなく,直接ホスホニウム塩3 とのWittig反応を行ったところ,YUZUNONE®へ効率 よく導くことができた.不安定な17をいっさい単離し ないことが第3世代合成法のポイントではあるが,この 製法のほかの製法にはない最も大きなアドバンテージは 最終工程原料の安定性にある.亜硫酸付加体20とホス ホニウム塩3はともに無色の結晶であり(図10,高温,

多湿,空気中の酸素に対してほぼ影響を受けず,安定に 長期間保管することができる.このことにより,高純度 のフレッシュなYUZUNONE®を調香素材として常に迅

速に供給可能となり, 手早く 簡潔に 高品質に を満たす製造方法として現在収率のさらなる向上を検討 中である.

おわりに

料理に加える隠し味は通常僅かな量が用いられ,家庭 でも料理店でも,それによってほかとの差別化がなされ ている.超微量であっても,香気全体に影響を与える成 分の利用は,香料の差別化,付加価値付与,完成度の向 上のいずれをも達成するうえで欠かせない奥義のように 思う.

近年の分析技術と香料開発技術の発展は目覚ましいも のがあり,新たな超微量重要香気成分が今後も次々に発 見され,香料素材として活用されていくことだろう.

天然 という名の調香師の隠し味と奥義を解き明かす ことで,豊かな香りに包まれた明るい未来に香料の分野 から貢献していきたい.

文献

  1) (株)香料産業新聞社:香料産業新聞,2015年5月25日.

  2)  N. Miyazawa, N. Tomita, Y. Kurobayashi, A. Nakanishi,  Y. Ohkubo, T. Maeda & A. Fujita:  ,  57, 1990 (1996).

  3)  N. Tomita:香料, 248, 69 (2010).

プロフィール

渡辺 広幸(Hiroyuki WATANABE)

<略歴>1990年岩手大学大学院工学研究 科応用化学専攻修士課程修了/長谷川香料 株式会社入社,現部署配属後現在に至る/

長谷川香料株式会社総合研究所技術研究所 第1部長/2000年博士(農学)<研究テーマ と抱負>香料化合物の合成研究<趣味>横 浜DeNAベイスターズ応援

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.365 図9YUZUNONE®の第3世代合成法

図10最終工程原料

日本農芸化学会

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Referensi

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