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ホスホリラーゼによる多糖の合成 - J-Stage

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574 化学と生物 Vol. 53, No. 9, 2015

ホスホリラーゼによる多糖の合成

安価な基質からグルカンをつくる

多糖とオリゴ糖の境界は曖昧であるが,連結した単糖 の数が3〜10個のものをオリゴ糖,それ以上を多糖と呼 ぶことが多い.多糖は幅広い産業で利用されている.食 品ではエネルギー源や物性改良剤である多糖や,整腸,

血糖上昇抑制,コレステロール改善などの機能を示す多 糖(食物繊維)が用いられている.1,3-

β

-グルカンやグ リコサミノグリカンのように医薬品となっている多糖も ある.製紙や繊維でも利用されている.オリゴ糖の多く がデンプンやスクロースなどに酵素を作用させて製造さ れているのに対し,産業で用いられる大半の多糖はポリ デキストロースを除き,天然物やその化学修飾物であ る.多糖の機能の種類や強さはその構造や純度に依存す ると思われるが,多糖を自在に合成できる技術があれ ば,天然で希少な多糖や,天然物よりも優れた機能を示 す新しい構造の多糖を生産できるかもしれない.また,

天然物からの精製が難しい多糖を高純度に調製するのに も役立つと思われる.

糖鎖の有機合成に関する優れた研究は数多くなされて いるが,一般的には反応性の類似したヒドロキシ基を区 別して結合位置を制御したり,鎖の伸長時に生じた立体 異性体を分離したりするために多くの工程が必要とされ る.一方,酵素法では酵素の優れた立体選択性や官能基 の位置選択性を利用して,単純な工程で糖鎖を伸長する ことができる.多糖を合成する酵素には,糖ヌクレオチ ドをドナーとする合成酵素,フッ化糖をドナーとする糖 加水分解酵素変異体,糖リン酸エステルをドナーとする 糖加リン酸分解酵素(ホスホリラーゼ)などがある(1, 2). どの酵素を用いた方法にも長所と短所があるが,ここで はホスホリラーゼを用いた多糖の合成について紹介す る.ホスホリラーゼはさまざまなオリゴ糖の合成にも応 用されている(1, 2)

ホスホリラーゼは糖鎖の非還元末端グリコシド結合を 加リン酸分解し,糖1-リン酸エステルを生成する酵素で ある.20種以上のホスホリラーゼが発見されているが,

その多くはグルコシド結合を分解する(1).反応は可逆で あり,

α

-グルコース1-リン酸(

α

-G1P)などの糖1-リン 酸エステルをドナーとする合成反応も触媒する.このと きに生じるグリコシド結合様式はホスホリラーゼの種類

によって異なるが,各酵素の反応位置選択性は極めて高 いため,特定の結合のみが形成される.一方,アクセプ ター特異性は必ずしも厳密ではなく,ホスホリラーゼの 中には重合度の異なるアクセプター糖に作用できるもの がある.このようなホスホリラーゼを用いて合成反応を 繰り返し行うと,特定のグリコシド結合を有する多糖が 生産される.

グリコーゲン(スターチ)ホスホリラーゼ[(1,4-

α

-グ ルコシル)+

α

-G1P⇄(1,4-

α

-グルコシル)+1+Pi]は最 も古く(20世紀前半)から研究されているホスホリ ラーゼである.マルトオリゴ糖と

α

-G1Pを基質として反 応を繰り返し行うと,1,4-

α

-グルカン(アミロース)が 合成される(2).アミロースは天然に豊富に存在するが,

デンプンからの精製は困難である.そのため,合成アミ ロースは新素材として期待されたが,基質の

α

-G1Pが高 価であり,量産化は長い間実現されなかった.

α

-G1Pは スクロースホスホリラーゼでスクロースを加リン酸分解 することで得られる.そこで,リン酸存在下において,

スクロースとマルトオリゴ糖にスクロースホスホリラー ゼとグリコーゲンホスホリラーゼを同時に作用させてア ミロースを合成する実用的な方法が開発された(3).合成 アミロースにはフィルム形成能や包接能があり,産業へ の応用が期待されている.また,グリコーゲンホスホリ ラーゼの合成反応を利用して,アミロースグラフト化多 糖(キトサンやセルロース)や,アミロースグラフト化 ポリスチレンなどの新しい素材も開発されている(2)

最近,筆者らは1,3-

β

-グルカンホスホリラーゼ[(1,3-

β

-グルコシル)+

α

-G1P⇄(1,3-

β

-グルコシル)+1+Pi]を 用いて,安価な基質から1,3-

β

-グルカンを合成する方法 を開発した(4, 5).本酵素は などの黄

金色藻や, などの細菌に存在す

る.ラミナリオリゴ糖(またはグルコース)をプライ マーとした本酵素による糖鎖の伸長反応と,スクロース ホスホリラーゼによるスクロースの加リン酸分解反応を 同時に行うと,直鎖1,3-

β

-グルカンのワンポット合成が 可能である(図

1

.酵素合成1,3-

β

-グルカンは水不溶性 であるため,精製や回収が容易である.また,スクロー スとプライマーの濃度比を設定することにより,平均重

今日の話題

(2)

575

化学と生物 Vol. 53, No. 9, 2015

合度20〜100の範囲で合成グルカンの鎖長を調節でき る.このような鎖長の1,3-

β

-グルカンは天然にほとんど 存在しないが,重合度50以上の1,3-

β

-グルカンには高い 抗腫瘍活性があることが知られている.また,高眼圧モ デルラットの硝子体に合成1,3-

β

-グルカンを投与したと ころ,網膜神経節細胞の保護効果が認められたため,合 成グルカンが緑内障治療に役立つ可能性が示唆され

(5, 6).さらに,合成グルカンには喘息モデルマウスの

気管支平滑筋の肥厚抑制効果があることも見いだし た(5).また,ラミナリビオースホスホリラーゼとスク ロースホスホリラーゼを用いた1,3-

β

-グルカンの合成例 もある(7).グルコースとスクロースを出発材料として合 成された直鎖1,3-

β

-グルカン(重合度30程度)が六角薄 板状の結晶を形成することが報告されている.

いくつかの細菌は環状や直鎖の1,2-

β

-グルカンを生産 するが,容易に入手できる多糖ではなく,機能は十分に は解明されてない.最近,新規酵素1,2-

β

-オリゴグルカ ンホスホリラーゼ[(1,2-

β

-グルコシル)+

α

-G1P⇄(1,2-

β

-グルコシル)+1+Pi]が発見され,本酵素とスクロー スホスホリラーゼを用いて,グルコースとスクロースか ら1,2-

β

-グルカン(平均重合度25)を大量調製する方法 が開発された(8).この成果により,1,2-

β

-グルカンや関 連酵素の研究が進むことが期待される.希少多糖である 1,2-

β

-グルカンには,従来利用されてきた多糖とは異な る有用な機能性が見いだされるかもしれない.

これまでにホスホリラーゼを用いて合成された多糖は すべてグルカンであり,その数も少ない.今後,新たな ホスホリラーゼの発見や既存酵素の機能改変などにより,

グルカン以外の多糖やヘテロ多糖を合成できるようにな ることが期待される.また,1,4-

α

-グルカンの合成では

すでに行われているが,ホスホリラーゼと修飾酵素(枝 づくり酵素など)を同時に作用させて,複雑でバラエティ に富んだ構造の多糖が製造されるようになるだろう.

  1)  H. Nakai, M. Kitaoka, B. Svensson & K. Ohtsubo: 

17, 301 (2013).

  2)  E. C. O Neill & R. A. Field:  , 403, 23 (2015).

  3)  K. Ohdan, K. Fujii, M. Yanase, T. Takaha & T. Kuriki: 

24, 77 (2006).

  4)  Y.  Yamamoto,  D.  Kawashima,  A.  Hashizume,  M.  Hisa-

matsu & N. Isono:  , 77, 1949 

(2013).

  5)  磯野直人,山本 豊,西尾昌洋,梅川逸人,久松 眞:

応用糖質科学,5, 128 (2015).

  6)  M.  Nishio,  Y.  Kumita,  Y.  Uji,  N.  Isono  &  H.  Umekawa: 

19, 485 (2013).

  7)  Y. Ogawa, K. Noda, S. Kimura, M. Kitaoka & M. Wada: 

64, 415 (2014).

  8)  K.  Abe,  M.  Nakajima,  M.  Kitaoka,  H.  Toyoizumi,  Y. 

Takahashi, N. Sugimoto, H. Nakai & H. Taguchi: 

62, 47 (2015).

(磯野直人,三重大学大学院生物資源学研究科)

プロフィル

磯野 直人(Naoto ISONO)

<略歴>1998年北海道大学農学部卒業/

2003年同大学大学院農学研究科博士後期 課程修了,博士(農学)/2004年三重大学 生物資源学部助手/2007年同大学大学院 生物資源学研究科助教/2014年同研究科 准教授,現在に至る<研究テーマと抱負>

機能性多糖の酵素合成.バイオエタノール の効率的生産.ありふれた素材から役立つ モノをつくりたい<趣味>コンピュータ

(Mac),ワイン

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.574 図1ホスホリラーゼを用いた1,3-β-グルカ ンの合成

ラミナリオリゴ糖(またはグルコース)をプ ライマーとした1,3-β-グルカンホスホリラーゼ による糖鎖の伸長反応と,スクロースホスホ リラーゼによるスクロースの加リン酸分解反 応を同時に行うと,1,3-β-グルカンのワンポッ ト合成が可能である.

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