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モデル生物としてのメダカの新領域 - J-Stage

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Academic year: 2023

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2012年10月ロシアのバイコヌール 宇宙基地より野口宇宙飛行士らと一緒 に飛び立ったメダカは,約2カ月間国 際 宇 宙 ス テ ー シ ョ ン (International  Space Station ; ISS)  の 日 本 実 験 棟

「きぼう」に滞在した.今なぜメダカ が宇宙に行くのか,本稿ではISSにお いてメダカを長期飼育する宇宙メダカ 計画の概要を紹介し,その意義を議論 したい.

国際宇宙ステーションをとりまく状況 1998年 よ り 建 築 が 始 ま り 今 年

(2014年)で完成から3年目を迎える ISSは,多くの成果を上げてきたと同 時に,先んじて建築・運用されたモ ジュールでは過酷な宇宙環境での運用 のためにすでに老朽化が始まってい る.2020年頃までの運用が確定され ているが,莫大な建設・維持経費に対 して成果が少なすぎるという指摘があ るのも事実である.ISS計画に参加し ている国々ではISSの次を見越した有 人宇宙開発計画が模索されており,月 面の恒久的基地建設,あるいは火星探 査などが報道されているが,技術的課 題に加えて予算面での実現可能性は考 慮されてしかるべきであり,各国が模 索を続けているのが現況である.

宇宙へ行くのがメダカである理由 1.  ヒトと同じ脊椎動物である

ゲノムシークエンスの成果からヒト とメダカ ( ) は約70%

の遺伝子を共有することが明らかと なっており(1),ヒトと魚で共通する部 分を研究の対象とするのであれば,体 外発生する魚類を用いて遺伝子の機能 を個体レベルで研究しようと考える研 究者たちがゼブラフィッシュやメダカ を実験動物として用いた研究を精力的 に進めている.魚類であるメダカには われわれのような手や脚はなく,われ われには魚のもつエラやヒレはない が,魚とわれわれは主な内臓器を共有 し,内分泌系,神経系などが基本的に 同じ動作をし,脊椎動物として体の構 造,体を動かす機構など(ボディープ ラン)を同じくしている.宇宙環境が 動物,特にヒトである宇宙飛行士に与 える影響はいまだ未知の部分が大き く,その全容を解明するためには対象 とする動物の体,生理機能を網羅的に 精査して異常の兆候を見逃さず捉える ことが肝要である.全身の構造,機能 を網羅的に検討するためには,実験室 で扱えるほどに対象モデル動物が小型 であることが現実には極めて重要であ り,従来マウスがヒトのモデル動物と して多用されてきた.宇宙飛行士のモ デルとしてメダカを採用するために は,メダカとヒトに共通する部分に着 目するだけでなく,メダカとヒトで異

なる部分についての網羅的理解も同時 に必須となる.この観点の重要性は,

メダカをヒトの疾患モデルとして採用 する場合においても同じであり,また ゼブラフィッシュ,マウスなどをモデ ル動物とする場合にも同様である.

2.  狭い水槽でも生活できる

国際宇宙ステーションにセットされ た飼育装置 (AQH) には高さ7 cm,

幅15 cm,奥 行 き7 cmの 水 槽(容 量 約735 mL)が2基備えられて,各水 槽で6匹のメダカ成魚を最大3カ月間 飼育することを可能とする設計であ り,2012年に実施されたISSでの軌道 上飼育実験では2カ月間の飼育に成功 している.ISSではスペースと使用可 能な水の量に厳しい制限があるため,

このような小型の水槽とならざるをえ ないのであるが,活発に遊泳するゼブ ラフィッシュ等に比較して,おとなし いメダカはかような狭い水槽での長期 飼育に好適であると期待されている.

メダカのおとなしい性格に加えて,メ ダカが野生では水田,用水路など浅く 狭い場所に特に適応していることが,

複数個体のメダカをAQHの水槽で長 期間にわたって飼育することを可能に した重要な要素であったものと考えら れる.ただし,そうは言っても狭い水 槽よりも広い水槽のほうがメダカに とってより快適であると考えられるこ とから,狭い水槽での飼育によってメ ダカが受けるストレスとその影響を解 明し,さらに水槽という人工環境にお

モデル生物としてのメダカの新領域

なぜ今メダカは宇宙へ行くのか?

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いてメダカをより健全に生存させるた めの研究と技術開発が進められてい る.

3.  3世代飼育を可能とする唯一の脊 椎動物

ISSでのミッション遂行のために は,事前(実験実施の1年以上前)に 宇宙飛行士の操作・作業の綿密なスケ ジュール設定が行われる.メダカの雌 雄ペアが毎日決まった時刻に一定数の 卵を産卵する習性は,宇宙実験を実施 するためには必須かつ極めて好適な性 質である.実験水槽の中で経世代が可 能である脊椎動物の中で,唯一メダカ がこの習性を有しており,この性質が 軌道上での採卵による経世代飼育実験

(後述)の実現を担保してくれるもの と期待されている.

受精した卵は8 〜 9日間かけて胚発 生し孵化する.孵化した後に生殖可能 まで成長するのにかかる時間は2 〜 3 カ月間と短くて軌道上での経世代実験 に好適ではあるが,実はマウス,ゼブ ラフィッシュも世代時間は同じであ り,メダカに特別なアドヴァンテージ はない.AQHの運転可能時間は,メ ダカの世代交代に必要な最短時間とし て計画された.ISSでは水が極めて重 要であり,飼育維持に大量の水を使用 する水棲動物の飼育実験は困難ではあ るが,マウス飼育実験において問題と なる空調に関する課題(ダストと臭い の発生)がなく,実験動物が逃亡する 可能性もないことから,わが国では水

棲生物の宇宙飼育実験に長年力を入れ てきた.その集大成であるAQHの狭 い水槽も,水の使用の制限の限界まで 努力して実現した宇宙仕様の「広い水 槽」ではあるのである.

国際宇宙ステーション ISS でメダ カがすること

1.  筋肉・骨の萎縮への対抗策を確立 するための基礎研究

ISSのような重力がない環境(厳密 には10−6 G程度の重力があるために,

マイクロG環境と呼ばれる)では,宇 宙飛行士の骨量が6カ月間に15%失わ れ,10 〜 20%の筋が萎縮する.無重 力環境では重力に抗して仕事をする抗 重力筋が萎縮を起こし(廃用萎縮), また運動に伴う負荷が減少するために 地上と同じ運動量の運動をしても筋の 萎縮が極めて速く進行する.筋萎縮と 連動して骨量も減少し,宇宙に滞在し た宇宙飛行士は地上に帰還後に長期の リハビリテーションを受ける必要があ る.筋萎縮を防ぐために宇宙飛行士は ISSにおいて毎日2時間の運動が求め られ,スケジュール管理面においての ストレスともなっている.今後,月面 の恒久的基地の運用,あるいは往復3 年かかるとされる火星探査が現実とな ると,宇宙飛行士は極めて長期にわ たって無重力環境に曝露されることと なり,筋萎縮・骨量減少の根本的対策 を講じることが不可欠となるものと予

想される.適切なモデル動物を用いた 基礎研究によるメカニズム解明が有効 と考えられ,水中生活をするメダカで も無重力環境下において骨量減少・筋 萎縮が起こるのかの検証を目的として 2012年10月から12月にかけてISSに おいてメダカを2カ月間飼育する計画 が実施された.軌道上で化学固定され たメダカサンプルはその後地上に回収 され,東京工業大学の工藤明教授らを 中心に現在詳細な解析が進められてい る.

2.  宇宙放射線による被ばく影響(特 に次世代への影響)の解明 ISSが飛行している地上400 kmの 軌道上では,大気による遮蔽効果がな いために銀河や太陽からの宇宙放射 線,太陽風が降り注ぎ,宇宙飛行士は 地 上 の 約100倍(1日 あ た り0.5 〜 1  mSv)の放射線を被ばくする.すでに 退役したスペースシャトルでのフライ ト は2週 間(最 大 で14 mSvの 曝 露)

であったのに対して,ISSでは6カ月 間の滞在(最大で180 mSvの曝露)が 今日ルーチン化しているが,現在まで 宇宙飛行士に発がん率の上昇などの障 害はない.Ikenagaらはスペースシャ トルに搭載されて宇宙環境に2週間曝 露されたショウジョウバエにおいて,

体細胞における突然変異率が被ばく線 量から予想される範囲内であったのに 対して,フライトをしたショウジョウ バエの子孫において被ばく線量から予 想されるよりも100倍以上高い突然変

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異 率 が 見 ら れ た こ と を 報 告 し て い る(2).無重力環境と宇宙放射線の組み 合わせによって突然変異率が上昇する 未知の作用が想定されるが,ショウ ジョウバエに特異的に見られる反応で ある可能性も考えられる.ヒトと同じ 脊椎動物であるメダカにおいて,Ike- nagaらが報告した次世代においての 突然変異率の上昇の有無を検討するた

め,ISSにおいて長期飼育したメダカ の精巣の組織切片像の解析(図1, 2) と,ISSから生存回収したメダカの子 孫のゲノムの解析を行って宇宙環境が 脊椎動物ゲノムに与える経世代影響を 解明する計画が,東京大学の三谷啓志 教授らによって進められている.

月面探査あるいは火星までの航海経 路ではさらに強い宇宙放射線に長期に

わたって曝露される.また,今後は若 い宇宙飛行士が宇宙に飛び立つ機会が 増加することが予想される.あるいは 観光目的での宇宙飛行が実現すると宇 宙飛行士以外の一般市民が宇宙放射線 に曝露される状況が近い将来に現実の ものとなろうとしている.宇宙環境に おいて宇宙放射線に曝露されることに よるリスクを正確に把握し,必要に応 じてその対策を講じておくことが,今 後の宇宙開発にとって極めて重要かつ 焦眉の急務となっている.

3.  自律神経の生理に着眼した健康実 現のためのモデル研究

自律神経の不調による健康障害およ びパフォーマンスの低下はわれわれが 日常生活で経験的に認識しているとこ ろであるが,その実験生物学的解明が 進んでないことも事実である.宇宙放 射線の被ばく,無重力環境への長期曝 露に加え,閉鎖環境での長期間の生活 が精神面のみならず宇宙飛行士の自律 神経活動に影響を及ぼす可能性を評価 するために,現在,ISSに長期滞在す る宇宙飛行士に携帯式のホルター心電 計を装着して心拍変動の概日リズムを 解析する研究がJAXA宇宙医学生物 学研究室を中心にして精力的に進めら れている(JAXA宇宙医学生物学研究 室のHPを参照).

宇宙飛行士における健康障害,パ フォーマンスの低下は火星探査などの 長期ミッションにおいては大きなリス クとなり,宇宙飛行士の自律神経活動 図1メダカの全身組織切片像

宇宙環境がメダカの組織・器官の構造に与える網羅的解析のために,メダカの全身を連続 組織切片として数値解析を行う研究が進められている.2012年の軌道上長期飼育実験で は,咽頭歯をモデルにした骨代謝研究が実施された.図中の矢印が咽頭歯,矢頭が精巣の 位置を示している(北里大学医学部の太田博樹博士,山口大学医学部の小賀厚徳博士のご 厚意による)

図2放射線被ばくによってメダカ精巣組織に誘発される構造異常

メダカの精巣では精巣周縁部に位置する精原幹細胞(矢頭)から産み出された精原細胞が 活発に増殖し,精母細胞,精細胞を経て精子(矢印)に分化している(図2a).重粒子線 

(Fe 1 Gy) を照射すると精子形成は一過的に停止し,照射7日後には精原細胞,精母細胞,

精細胞が組織からほぼ消失する(図2b)(東京大学大学院新領域創成科学研究科の保田隆 子博士,三谷啓志博士のご厚意による).メダカ精巣の組織像の変化を指標として,宇宙放 射線の影響を検出・評価することが計画されている.

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の適切な維持を担保することが必須と なる.自律神経の活動は意識されない と同時に,「病は気から」というよう にヒトでは当該個体の精神状態にも大 きく影響される.宇宙飛行士は特別に 選抜されたうえに10年にも及ぶ長期 の特別な訓練を経験していることか ら,宇宙飛行士を対象として宇宙環境 がヒトの自律神経活動に与える影響を 評価するには残念ながら限界があるも の と 考 え ざ る を え な い.そ こ で,

JAXA宇宙医学生物学研究室ではメダ カをモデルとしてこの課題に取り組も うとしている.われわれと同じく空気 中で生活するマウスに比較して,水中 生活を行うメダカは無重力環境が与え る自律神経活動への影響が小さいもの と考えられる.体躯が透明なメダカの 心拍変動の解析からメダカの心拍変動 がわれわれと同じく交感・副交感神経 の支配にあることを示すデータが得ら れているほか,メダカの活動を24時 間トレースすることによってメダカの 活動に明確な昼行性の概日リズムがあ ることが確認され,ISSにおけるメダ カの活動リズムを解析する計画が進め られている(3).メダカをモデルとした 脊椎動物の自律神経活動の実験生物学 的研究は,宇宙開発のみならず,地上 における健康実現のための基礎研究と しても有意義と期待される.

4.  宇宙での脊椎動物の経世代維持の 可否の解明

実施が計画されている第2回目以降

のISSでのメダカ長期飼育実験では,

親メダカ(第1世代)を打ち上げて軌 道上において産卵させて子世代(第2 世代)を得て,第2世代を軌道上で生 殖可能なまで2カ月間飼育して産卵さ せて孫世代(第3世代)を得て,宇宙 で生まれて宇宙で成長したメダカが正 常な生殖能力を有するのか明らかにす ることを目指している.宇宙で生まれ て大きくなった子世代メダカを生きた まま地球に帰還させて繁殖させて孫世 代のメダカに影響がないかどうかを精 査するとともに,軌道上で生まれた胚 も精査してその胚発生に異常がないか どうかを検証することが検討されてい る.1986年 に 実 施 さ れ た 実 験 で は,

宇宙環境においてメダカが交配して産 卵を行い,その子孫が正常であったこ とが確認されている.ISSにおいての メダカ3世代飼育実験は,宇宙環境に おいて脊椎動物が代を重ねることの可 能性とリスクについての具体的な知見 を与えてくれると期待され,その成果 はスペースコロニー実現への第2歩目 ともなろう.

今後の展望

1.  国際宇宙ステーションでメダカを 長期飼育することの国益

単独で有人の宇宙開発を遂行できな いわが国が,今後も「宇宙クラブ」に おいて確固たる位置を占めるために は,他国が必要とする情報あるいはノ

ウハウを他国に先んじて取得し提供す ることが必要となろう.わが国が現状 において取得可能であり,かつポスト ISSとして月面,火星探査をねらう先 進他国が必要としている情報の一つ は,宇宙環境での長期滞在がヒトの健 康・パフォーマンスへ与える影響とそ の対策であり,宇宙環境がヒトの経世 代能力へ及ぼす影響であると考えられ る.

わが国はこれまでに膨大な国費をか けてISSの建築に参画し,年間約400 億円の維持費を使って日本実験ユニッ ト「きぼう」を運用している.歳入の 半分を国債に頼る国家財政の現状を踏 まえたとき,国益を見定めたうえで テーマを絞り込み効率的運用を図らざ るをえない.宇宙環境に長く滞在する とわれわれの体,生理にいかなる影響 が生じるのか,そして宇宙環境におい てわれわれヒトが代を重ねることにい かなるリスクがあるのかに答えるため の知見を得る手段として,ISSにおい てメダカを長期飼育する計画の意義が あると考えることができよう.

2.  宇宙時代のカナリア

わが国の宇宙開発を今後どのような 方向に進めていくのか,費用対効果を 真摯に評価した国民全体での議論が必 要であるのは言うまでもないが,宇宙 メダカ計画の将来の夢的計画案として 以下のような構想を個人的に抱いてい る.AQHを発展させた完全自動の飼 育装置を人工衛星に搭載し,メダカを

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数カ月間月面を周回させて月面での宇 宙放射線のリスクを評価することが実 現できれば,それによって得られる知 見は人類が月面に恒久的基地を建設す るうえで極めて有益な情報を提供する はずである.さらに,火星に至る深宇 宙での宇宙放射線被ばくの影響を評価 することも,実際に火星に宇宙飛行士 が行く前に実施するべき喫緊の課題と 考えられる.有人の宇宙飛行を実現す るためには慎重にその安全性を確保す ることが必要となり,未評価のリスク

を抱えた状況での有人の火星探査計画 の推進は莫大な予算を必要とするであ ろうことが容易に予想される.ヒトが さらなる遠い宇宙に行く前に,まずは メダカに行ってもらって偵察してきて もらうことは,いきなりヒトが行くよ りも計画全体の予算規模を大幅に抑 え,続いてヒトが行く際の安全性を大 きく向上させることにつながるはずで ある.さらなる遠い宇宙に行くという 夢につながる第一歩となることが,

ISSでのメダカ長期飼育計画のわが国

の国益としての,そして人類全体に とっての意義であろうと考えている.

  1) M.  Kasahara  : , 447,  714 (2007).

  2) M.  Ikenaga  : , 11, 346 (1997).

  3) T.  Watanabe-Asaka : , 24, 3 (2010).

(尾田正二,東京大学大学院新領域創 成科学研究科,宇宙航空研究開発機 構宇宙医学生物学研究室)

プロフィル

尾田 正二(Shoji ODA)   

<略歴>1989年東京大学理学部生物学科 卒業/同大学大学院博士課程を単位取得後 満期退学/獨協医科大学第一生理学教室研 究員,東京女子医科大学第2生理学教室助 手を経て,2003年より東京大学大学院新 領域創成科学研究科講師,2010年より現 職<研究テーマと抱負>メダカを健康にす る研究を進めて,飼育下のすべてのメダカ が幸せに生活できるようにしたいと考えて います.また,超音波処理が食材に与える 影響を解明しようとしています<趣味>ト ミカの修理

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