• Tidak ada hasil yang ditemukan

レニン‒アンジオテンシン系と 血圧調節 - J-Stage

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

Membagikan "レニン‒アンジオテンシン系と 血圧調節 - J-Stage"

Copied!
8
0
0

Teks penuh

(1)

高血圧治療薬として初めて登場したのがACE阻害薬である.

ACEとはAngiotensin I-converting enzymeの略称であり,レ ニン分泌を諸端とする一連の代謝系における昇圧物質の産生 にかかわる酵素とされる.この代謝系はレニンアンジオテ ンシン系と呼ばれ,これまで昇圧系として認識されてきた.

しかしながら,近年の報告では本系の代謝物に降圧作用を示 す 物 質 が 存 在 す る こ と が 判 明 し て い る.ACE阻 害 を 基 本 と する機能性食品成分(主としてペプチド)は特定保健用食品 の関与成分として取り扱われているが,本系の複雑な代謝が 明らかになりつつある現在,抗高血圧食品とのかかわりにつ いて再考する段階にあると考える.本稿では,これらを踏ま えてレニンアンジオテンシン系について概説する.

血圧

血圧は体液量と血管抵抗性の積として規定され(血 圧=体液量×血管抵抗性),両項の増大が血圧上昇へと 導く.したがって,血圧値を維持・改善するにはこれら 血圧規定因子の抑制を図ることが重要となる.なお,血 圧調節系は神経系と体調節系に大別され,前者は興奮刺

激による心拍数増大に伴う一過的な血流量・速度増大で あり,後述するように降圧治療の多くは後者の系に帰結 されることから,本稿においても体調節系を主題として 解説する.

血圧は心拡張期(Diastolic)と心収縮期(Systolic)で 表され(mmHg),一定血圧値以上を高血圧としている.

しかしながら,高血圧研究が終焉に至らない要因の一つ には,発症成因が不明な本態性高血圧症者が約90%以 上を占めていることにある.その他は2次性高血圧症と され,腎機能不全など高血圧の成因が明らかな病態を指 す.高血圧状態の持続は心臓での心不全・心筋梗塞,腎 臓での腎障害(腎硬化症)・腎不全,血管での閉塞性・

解離性動脈疾患等の臓器障害を引き起こすため,血圧値 を適正に維持することがこれら臓器を保護するために重 要となる(1).薬剤投与による治療が必要とされる血圧基 準は≧160 mmHg(収縮期血圧)or ≧100 mmHg(拡張 期血圧)である.前述したように,高血圧発症成因が不 明であるため,対処療法として各種の降圧治療(アンジ オテンシンI変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシ ンII受容体拮抗薬(ARB),(プロ)レニン受容体拮抗 薬,Ca2+チャンネルブロッカー(CCB)等)が優先さ

【解説】

Regulation of Blood Pressure by the Renin‒Angiotensin System Toshiro MATSUI, 九州大学農学研究院生命機能科学部門食料化学 工学講座

レニン‒アンジオテンシン系と 血圧調節

松井利郎

(2)

れる.それに対して,正常血圧域である<130 mmHg

(収縮期血圧)and <85 mmHg(拡張期血圧)との境界 領域(正常高値血圧および軽症高血圧)がいわゆる高血 圧予備軍であり,運動,減塩,さらには特定保健用食品 の対象となる.

レニンアンジオテンシン系

1. レニンアンジオテンシン系

降圧剤や特定保健用食品による血圧低下を図るには,

レニン‒アンジオテンシン系の制御が重要であると認識 されている.レニン‒アンジオテンシン(‒アルドステロ ン)系は副腎でのアルドステロン分泌によるNa貯留 量増大に伴う循環血液量の増加ならびに末梢血管抵抗性 を増加させるため,一般には昇圧代謝系と称される(2). 本系は循環系だけではなく血管,腎臓,さらには脳組織 等にも存在するが,局所での役割については不明な点が 多い(特に,精巣に存在するNドメインACEについて の役割は十分にわかっていない).図

1

に循環系での血 圧調節にかかわるレニン‒アンジオテンシン系および降 圧系とされるキニン‒カリクレイン系を示した.昇圧系 としての本系の初段階酵素は腎臓で産生されるレニンで あり,腎傍糸球体細胞から分泌される.レニンは肝臓で 合成されるアンジオテンシノーゲン(分子量約10万の 糖タンパク質)を基質として,アンジオテンシンIを産 生する.アンジオテンシンIはデカペプチドであり,

Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe-His-Leuの配列を有す る.なお,マウスレニンはマウスアンジオテンシノーゲ ンのみを認識するが,ヒトレニンはヒト・マウスアンジ オテンシノーゲンを認識し,アンジオテンシンIを生成 する.この要因は基質であるアンジオテンシノーゲンの

レニン開裂部位での配列の違い(ヒト:Val11-Ile-His, マ ウス:Leu11-Tyr-His, ラット:Tyr11-Tyr-Ser)に起因す るものであり,レニン阻害薬(物質)を研究するうえで この種特異性を考慮することは極めて重要である(2).ア ンジオテンシンIは主として肺循環過程で分解を受け,

昇圧活性の最も強いアンジオテンシンII(Asp-Arg-Val- Tyr-Ile-His-Pro-Phe)が生成される.この分解反応にか かわる酵素がアンジオテンシンI変換酵素(ACE)であ り,アンジオテンシンIのC末端側からジペプチドHis- Leuを切り出す.生成したアンジオテンシンIIは血管壁 に存在するレセプター(AT1R)を介して血管平滑筋を 収縮させ,さらに副腎からのアルドステロン分泌を促し て腎からのNa排出を抑制する.このように,アンジ オテンシンIIは体液量ならびに血管抵抗性を増大させる ため,本昇圧系での活性本体と認識されている.

2. レニンアンジオテンシン系阻害

レニン‒アンジオテンシン系の阻害,特にアンジオテ ンシンIIの産生抑制と作用減弱は降圧の最大目標とな る.表

1

にまとめたように,降圧剤の作用目的は,大き くは本系の入口(レニン阻害)と出口(ACE阻害:ア ンジオテンシンII産生抑制,ARB:アンジオテンシン II作用抑制)の制御に帰結できる.現在では血管収縮を 担うAT1Rに対するアンタゴニスト剤であるARB薬の 開発が主流であるが,降圧薬としてはACE阻害剤開発 が初端である.他方,特定保健用食品として認可を受け た食品の関与成分の多くはACE阻害作用を基本として いる(3)(表1).ACEは亜鉛を活性中心にもつジカルボキ シペプチダーゼ(分子量147 kDa)であり,かつ2つの 触媒活性ドメイン(NおよびCドメイン)をもつ(図

2

.両ドメインともに活性中心のアミノ酸配列はHis-

レニン - アンジオテンシン系 キニン - カリクレイン系

アンジオテンシンII

(Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe)

キニノーゲン

ブラジキニン

(Arg-Pro-Pro-Gly-Phe-Ser- Pro-Phe-Arg)

カリクレイン

BK2R

(血管弛緩)

肝由来アンジオテンシノーゲン 腎由来レニン

アンジオテンシンI

(Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe-His-Leu)

副腎由来

アルドステロン

AT1R

(血管収縮)

不活性代謝物 降圧系

昇圧系

ACE

Na+

図1レニンアンジオテンシン系(概要)

(3)

Glu-Met-Gly-Hisであるが,Nドメインは塩素イオン非 依存的,Cドメインは塩素イオン依存的に活性発現す る.これまでの報告では,Nドメインでは主としてブラ ジキニン(ブラジキニンレセプター BK2Rを介して血管 弛緩を誘導する.図1参照)の分解が,Cドメインでは アンジオテンシンIの分解が起こり,反応速度はCドメ イン側が大きいとされる(2).なお,蓄積したブラジキニ ンはc繊維からのサブスタンスP量の分泌を刺激し,結 果として空咳などの副作用を引き起こす.したがって,

この副作用の併発リスクを考えると,ブラジキニンの蓄 積を伴わないACE-Cドメインを特異的に阻害するACE 阻害剤(ペプチド)が理想的と考えられる.他方,表

2

に示したACE阻害ペプチドの阻害性(IC50値)は,簡便 性とCドメイン活性化を考慮した擬似基質(Hip-His-Leu)

を用いた高塩素イオン濃度下での評価結果である(4).言 い換えると,これまでに報告されているACE阻害ペプ チドの阻害活性値はN/C-両ドメインに対する阻害の総 合値であり,Cドメイン特異的阻害作用については不明 である.なお,ACE-Nドメインにおいて分解され,腎 繊維化抑制作用を示すacetyl-Ser-Asp-Lys-Pro(5)はACE 阻害ペプチドのドメイン特異的阻害挙動を評価する一助 になるかもしれない.

ACEを阻害するペプチドはこれまで多数報告され,

またペプチド鎖長もさまざまである(表2に一例,その 他は文献4参照).ACE阻害は基質であるアンジオテン シンIを認識する3つの活性部位での拮抗作用を基本と し(図2),活性中心に存在する亜鉛金属イオンとの相 互作用も重要となる.したがって,活性ポケットとの構 造親和性を考えると,ペプチド鎖長としては2 〜3アミ

ノ酸残基で十分といえる.実際,ACE阻害薬としての カプトプリルはAla-Proを基本骨格とするジペプチド性 チオール誘導体であり,エナラプリルについてもPhe- Ala-Proをモデルペプチドとしている.構造‒活性相関 に関してはこれまでCheungらの報告(6) に基づき考察さ れ,C末端側アミノ酸側鎖の疎水性とかさ高さがACE 阻害性発現に重要であるとされる.近年では,低分子ペ プチドをリガンドとしてACEタンパク質構造との

解析(図

3

)が精力的に実施されており(7〜9),ACE 活性部位でのS1およびS2

ポケットに対しては芳香族ア ミノ酸残基が,S1′ポケットに対しては疎水性ならびに 芳香族アミノ酸残基が高いドッキングスコアを与える等 の有益な阻害構造情報が明らかになりつつある.Leu- TrpとTrp-Leuのようにペプチド配列によって作用(結 合)するACE活性ポケットが異なる(7)(図3)等,シ ミュレーション解析により得られる知見は興味深いもの がある.このようにACE阻害に必要な構造要件が明ら かになりつつあるが,いずれのペプチドもACE阻害活 性(IC50)はACE阻害薬と比較して微弱であり(カプ トプリル:21 nM, エナラプリル:3 nM),薬剤と同等の 降圧作用を発揮するには少なくとも薬剤をしのぐ吸収量 が必要である.

3.ACE

阻害ペプチドによる

ACE

阻害

奇異な項目題であるが,これまでのACE阻害性評価は いずれも での結果であり,Foltzら(10)も痛烈に 指摘しているように での作用発現を知ることは 血圧低下作用を示す物質の生体内での作用機序を知るう えで極めて重要である.表2は血圧低下ペプチドを高血 表1主な降圧剤と血圧低下作用を有する特定保健用食品

降圧剤 特定保健用食品

種類 代表薬 素材 関与成分 作用機作

レニン阻害剤 エナルキレン,アリスキレン 酸乳 Ile-Pro-Pro-Val-Pro-Pro ACE阻害

ACE阻害剤 カプトプリル,エナラプリル イワシ Val-Tyr ACE阻害

ARB剤(AT1Rアンタゴニスト) ロサルタン,バルサルタン ワカメ Phe-Tyr, Val-Tyr, Ile-Tyr ACE阻害 Caチャンネルブロッカー ニフェジピン,ベラパミル カツオ節 Leu-Lys-Pro-Asn-Pro ACE阻害

ゴマ Leu-Val-Tyr ACE阻害

カゼイン Phe-Phe-Val-Ala-Pro-Phe-Pro-Glu-

Val-Phe-Gly-Lys ACE阻害 ノリ Ala-Lys-Tyr-Ser-Tyr ACE阻害 ローヤルゼリー Val-Tyr, Ile-Tyr, Ile-Val-Tyr ACE阻害

ブナハリ茸 Ile-Tyr ACE阻害

醤油(大豆) Gly-Tyr, Ser-Tyr ACE阻害

γ-アミノ酪酸 GABA ノルアドレナリン抑制

酢酸 酢酸 血管拡張

杜仲茶 杜仲葉配糖体 血管拡張

燕龍茶 フラボノイド 血管拡張

クロロゲン酸類 クロロゲン酸類 血管拡張(NO)

(4)

圧自然発症ラット(SHR)に投与した後の血圧値および ACE活性変化,  ACE阻害活性をまとめたもの

である(11〜18).表から明らかなように, において

ACE阻害作用を示すペプチドの投与によって血清(ある いは血漿)ACE活性が低下したとの報告例は数例のみ である.なお,血中ではブラジキニンは速やかに分解さ れ,ほとんど存在しない(検出できない)(<1 fmol/mL)

にもかかわらず,Leu-Arg-Trp投与によってその量が増 大したことから(1→3 ng/mL, さらにアンジオテンシン

II量の低下),血圧低下作用をACE阻害として論じてい る(14)等,科学的真偽については十分に議論する必要が ある.また,ACE阻害ペプチドの血中濃度, 阻 害活性をもとに血清ACE活性低下(阻害)を議論した 論文は見当たらない.他方,臓器に局在するACEの活 性変化では,Val-Tyr(11)やHis-His-Leu(12)の投与による 血管(あるいは腎臓)での低下が認められ,ペプチドに よる血管機能改善作用が着目されつつある要因の一つと なっている.しかしながら,投与・吸収されたペプチド

CH2 CH CH2 C

NH CH C CH3

O

N C O- O CH2

-O O

CH2 CH C CH3

O

N C O-

O - S

H3N CH C CH3

O

N C O-

O +

H3N CH C CH2 O

NH CH C CH3

O

N C O- O +

S

2

S

1

Zn

2+

Captopril Ala-Pro

Enalaprilat

Phe-Ala-Pro

S

1

+

S2 +

S1 Zn2+

1次構造 (C domain) PDB: 1O86 589 residues

LVTDEAEASKFVEEYDRTSQVVWNEYAEANWNYNTNITTETSKILLQKNMQIANHTLKYG TQARKFDVNQLQNTTIKRIIKKVQDLERAALPAQELEEYNKILLDMETTYSVATVCHPNG SCLQLEPDLTNVMATSRKYEDLLWAWEGWRDKAGRAILQFYPKYVELINQAARLNGYVDA GDSWRSMYETPSLEQDLERLFQELQPLYLNLHAYVRRALHRHYGAQHINLEGPIPAHLLG NMWAQTWSNIYDLVVPFPSAPSMDTTEAMLKQGWTPRRMFKEADDFFTSLGLLPVPPEFW NKSMLEKPTDGREVVCHASAWDFYNGKDFRIKQCTTVNLEDLVVAHHEMGHIQYFMQYKD LPVALREGANPGFHEAIGDVLALSVSTPKHLHSLNLLSSEGGSDEHDINFLMKMALDKIA FIPFSYLVDQWRWRVFDGSITKENYNQEWWSLRLKYQGLCPPVPRTQGDFDPGAKFHIPS SVPYIRYFVSFIIQFQFHEALCQAAGHTGPLHKCDIYQSKEAGQRLATAMKLGFSRPWPE AMQLITGQPNMSASAMLSYFKPLLDWLRTENELHGEKLGWPQYNWTPNS

1次構造 (N domain) PDB: 2C6N chain 1 612 residues

LDPGLQPGNFSADEAGAQLFAQSYNSSAEQVLFQSVAASWAHDTNITAENARRQEEAALL SQEFAEAWGQKAKELYEPIWQNFTDPQLRRIIGAVRTLGSANLPLAKRQQYNALLSNMSR IYSTAKVCLPNKTATCWSLDPDLTNILASSRSYAMLLFAWEGWHNAAGIPLKPLYEDFTA LSNEAYKQDGFTDTGAYWRSWYNSPTFEDDLEHLYQQLEPLYLNLHAFVRRALHRRYGDR YINLRGPIPAHLLGDMWAQSWENIYDMVVPFPDKPNLDVTSTMLQQGWNATHMFRVAEEF FTSLELSPMPPEFWEGSMLEKPADGREVVCHASAWDFYNRKDFRIKQCTRVTMDQLSTVH HEMGHIQYYLQYKDLPVSLRRGANPGFHEAIGDVLALSVSTPEHLHKIGLLDRVTNDTES DINYLLKMALEKIAFLPFGYLVDQWRWGVFSGRTPPSRYNFDWWYLRTKYQGICPPVTRN ETHFDAGAKFHVPNVTPYIRYFVSFVLQFQFHEALCKEAGYEGPLHQCDIYRSTKAGAKL RKVLQAGSSRPWQEVLKDMVGLDALDAQPLLKYFQPVTQWLQEQNQQNGEVLGWPEYQWH PPLPDNYPEGID

図2ACENおよびCドメイン)の1次 構造配列とACE活性部位構造

(5)

が直接的に臓器ACEを阻害したかどうかは不明であり,

Ca2+収縮シグナル系の抑制(19)やNO/cGMP系の賦活(14) による組織レニン‒アンジオテンシン系の間接的な制御 の結果として捉えることもできる.このように,これま での研究からは  ACE阻害作用を示すペプチド が において直接的に循環レニン‒アンジオテンシ ン系ACEを阻害するとの積極的な知見は見当たらない.

4. 血圧調節系としてのレニンアンジオテンシン系と

その制御の意義

前述したように,レニン‒アンジオテンシン系は循環 系だけでなくあらゆる臓器に存在する(2).しかしなが ら,各組織のACE活性は血圧の上昇に伴って一律には 変化しない.SHRの場合,血圧の亢進によって血管 ACE活性は増加するが,血液や他の組織のACE活性は 血圧亢進とは相関しない(20).その一方で,ACE阻害薬 であるスピラプリルによる長期間にわたる降圧作用の発 現は大動脈血管ACE活性の低下が一つの要因である(21)

ことが指摘されている.このように,昇圧系としてのレ ニン‒アンジオテンシン系と降圧作用の関係について十 分な解明がなされているわけではない.

 図

4

はこれまでの報告例をもとにレニン‒アンジオテ ンシン系を再構築したものである.図1のレニン‒アン ジオテンシン系を古典的昇圧系とすると,図4に示した 本系は自己血圧調節系とみなすことができる.本系の起 点とされる酵素レニンについては,その前駆体であるプ レプロレニンが腎臓において不活性型とされるプロレニ ンへと変換され,さらにプロセッシングを受けて 活性 型 のレニンとなる.しかしながら,近年の研究により プロレニンおよびレニンを認識する受容体(両者が結合 することから,(プロ)レニン受容体と呼ばれる)が同 定され,循環系臓器をはじめとしてさまざまな主要臓器 に発現していることが判明した(22).(プロ)レニン受容 体へのプロレニンの結合は細胞内MAP(mitogen-acti- vated proteins)キナーゼ経路を活性化し,病態悪変を 惹起し,さらに本受容体に結合したプロレニンは組織に

図3ACE/ペプチドの 解析

表2高血圧自然発症ラットでの血圧低下作用を示すペプチドおよびタンパク質分解物 ACE阻害ペプチ

ド・素材 IC50 (μM) Δ収縮期血圧(mmHg) 

(投与量)

ACE活性

血清(血漿) 肺 心臓 血管 腎臓 文献

Val-Tyr 22 −13.7 (10 mg/kg) → → → ↓ ↓ 11

His-His-Leu 5.7 −32 (i.v. 5 mg/kg) → ̶* ̶ ↓ ̶ 12

Leu-Arg-Pro 0.35 −26.8 (10 mg/kg) ↓ ̶ ̶ ̶ ̶ 13

Ile-Arg-Trp 0.6 >30 (15 mg/kg-18 days) ↓ ̶ ̶ ̶ ̶ 14

発酵大豆 Gly-Tyr: 97, Ser-Tyr: 67 −12 (1 g-発酵大豆/kg) → ↓ → → → 15 酸乳 Ile-Pro-Pro: 5, Val-Pro-Pro: 9 −26.4 (10 mL/kg) → ↓(傾向) → ↓ → 16

大豆ペプチド ̶ −38 (100 mg/kg/day-1 month) → ̶ → → ̶ 17

大豆ペプチド ̶ −41 (0.5%食-12週間) ↓ → ↓ → → 18

*̶:データ記載なし

(6)

おいてレニン様の酵素活性(アンジオテンシノーゲン分 解)を示す.したがって,レニン阻害剤の重要性はもと より(プロ)レニン受容体拮抗薬の開発(現在はアリス キレンのみ),さらにはこれを指向した食機能学研究は 新たな降圧戦略といえる.

従来,アンジオテンシンI代謝物は血圧上昇にかかわ る物質(あるいは不活性代謝物)とされ,アンジオテン シンIIおよびIIIはその代表的な昇圧代謝物と認識され てきた.しかしながら,近年では多様な活性アンジオテ ンシン代謝物が血圧調節に直接かかわっていることが明 らかになりつつある.血圧上昇にかかわるアンジオテン シン代謝物はアンジオテンシンIIである.他方,血圧低 下にかかわるアンジオテンシン代謝物としてアンジオテ ンシンII(AT2Rを介した血管弛緩.ただし,AT1Rへ の結合が優先する),アンジオテンシン(1‒7)(23),アン ジオプロテクチン(24)が報告されている.作用は不明で あるが,アンジオテンシンA(25)が血圧調節にかかわっ ている可能性も指摘されている.なお,図には示してい ないがアンジオテンシン(3‒4)は腎糸球体圧調節因子 として働く可能性がある(26).したがって,図4に示した レニン‒アンジオテンシン系を俯瞰すると,本系は血圧 上昇/血圧低下を担う自己血圧調節系として成立してい る可能性がある.

 図

5

はアンジオテンシンIの分解(代謝)にかかわる 酵素をまとめたものである.アンジオテンシンIからII への分解をACE作用として捉えてきたが,実際にはト ニンやキマーゼもその分解を担う(27, 28).特に,心臓疾 患の重篤化とともにキマーゼによるアンジオテンシンI

分解はACEよりも優先される.キマーゼはトリプシン 様酵素であるため,ACE阻害薬による阻害を受けない

(筆者らの見いだしたVal-Tyrについてもヒトリコンビ ナントキマーゼに対する阻害作用は認められない).本 系を血圧調節系として捉えるうえでアンジオテンシン

(1‒7)は重要である.これまでの報告により,アンジオ テンシン(1‒7)はアンジオテンシンIIとは独立したレ セプター(MasR)を介して血管でのNO産生促進,平 滑筋細胞増殖抑制作用を示し,降圧的に働くことが明ら かとなっている(27, 29).また,アンジオテンシンIを起点 として派生するアンジオテンシン(1‒7)がACE活性を 低下させる(30)との報告は,亢進したレニン‒アンジオテ ンシン系(アンジオテンシンIおよびアンジオテンシン II量増大)をフィードバック的に制御している可能性を 示唆している.したがって, ACE阻害 は昇圧および 降圧代謝物双方の産生を遮断することから,降圧戦略の 良策かどうかは不明である.他方,アンジオテンシンI およびIIからのアンジオテンシン(1‒7)の産生増大を 促すACE2の活性化は理に適った戦略の一つである.イ ミノヒドラジン基を含むジミナゼンアセテュレートが ACE2触媒活性を促進する(アンジオテンシンIIからア ンジオテンシン(1‒7)への産生が約1.5倍増大)(31)との 知見は,塩基性ペプチド等によるACE2活性化の可能性 を示唆する新たな高血圧改善研究の視点といえる.

これまでのアンジオテンシン(1‒7)の生理作用に関 する精力的な研究と比較して,アンジオプロテクチンな らびにアンジオテンシンAに関する知見は僅かである が,今後のレニン‒アンジオテンシン系制御の意義を考 アンジオテンシノーゲン

ACE アンジオテンシン

(1-9)

アンジオテンシン

(1-7)

ACE

血圧上昇(血管収縮)

血圧低下(血管拡張)

MasR

アンジオテンシン

II

プロレニン

レニン

ACE2

AT2R AT1R

(プロ)レニン ACE2 受容体

MAPKs

[Ca

2+

]

i

[cGMP]

i

[cAMP]

i

アンジオプロテクチン

アンジオテンシン

I

アンジオテンシン

A

? ?

図4レニンアンジオテンシン系とその 代謝物

(7)

えるうえで極めて重要な代謝物と考える(図4).アン ジオテンシンAやアンジオプロテクチンの存在が明ら か に な っ た の はJankowskiら(24, 25)のMALDI-TOF-MS 解析による.これら代謝物が見いだされなかった大きな 理由は,ELISA法でのアンジオテンシンII抗体が両代 謝物に対しても交差反応性を示すため,アンジオテンシ ンIIとして評価されていたためである(言い換えると,

これら3種のアンジオテンシン代謝物の合計値として評 価).アンジオテンシンAは,Asp脱炭酸酵素によりア ンジオテンシンIIのN末端アミノ酸Aspの脱炭酸反応 により生じる(Des[Asp1]-[Ala1]-アンジオテンシンII). これまでのところ,アンジオテンシンAがAT2Rへの 高親和的結合を介して降圧的に作用するとの報告(25)が ある一方で,アンジオテンシンIIとほぼ同等にAT1Rア ゴニスト(昇圧物質)として働くとの報告(32)もあり,

生理作用についてはいまだ不明である.他方,アンジオ プロテクチンは血管内皮に存在するMas受容体(Ang

(1‒7)受容体)への結合を介してアンジオテンシンII誘 導の血管収縮を抑制する(24).したがって,アンジオテ ン シ ンIIか ら 派 生 す る ア ン ジ オ プ ロ テ ク チ ン

(Des[Asp1]-Des[Arg2]-[Pro1]-[Glu2]-アンジオテンシンII,  トランスフェラーゼ等により産生されるようであるがそ の生成経路は不明)は内因的な血管弛緩性物質であると 言える.このことは,ACEならびにACE2系とは独立 した内因性降圧物質産生系がレニン‒アンジオテンシン 系,特に局所(血管内皮など)に存在すること,ACE 阻害は降圧作用を有するアンジオテンシン代謝物の産生 に影響を及ぼす可能性があることを示唆している.

おわりに

昇圧系としてのレニン‒アンジオテンシン系は単純,

かつ 阻害評価系が簡便であったことから,食品 機能学研究においても多くのACE阻害物質が評価され てきた.しかしながら,本系は昇圧/降圧代謝物が産生 される血圧調節系であることが徐々に判明し,かつ代謝 物量も各種の臓器疾病(腎不全や心血管障害など)と連 動して変化するようである.食品機能学分野においても 降圧性アンジオテンシン代謝物動態と

“ACE”

阻害の 意義を再考し,  ACE阻害作用を示す ペプチ ドによる血圧低下作用について多様な視点から解明を行 うことが必要であると考える.

略 称:ACE: angiotensin I-converting enzyme, ACE2: angiotensin con- verting enzyme 2, ARB: angiotensin II receptor blocker, AT1R: angio- tensin II type 1 receptor, AT2R: angiotensin II type 2 receptor, BK2R: 

bradykinin type 2 receptor, CCB: Ca2+ channel blocker, SHR: spontane- ously hypertensive rats

文献

  1)  日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会: 高

血圧治療ガイドライン ,日本高血圧学会,2000.

  2)  日和田邦男,荻原俊男,猿田享男: レニン・アンジオテ

ンシン系と高血圧 ,先端医学社,1998.

  3) (公財)日本健康・栄養食品協会:http://www.jhnfa.org   4)  M. T. H. Khan & A. Ather:  Lead Molecules from Natu-

ral Products: Discovery and Trends,  Elsevier B.V., the  Netherlands, 2006, p. 259.

  5)  A. Rousseau, A. Michaud, M. T. Chauvet, M. Lenfant & 

P. Corvol:  , 279, 3656 (1995).

  6)  H. S. Cheung, F. L. Wang, M. A. Ondetti, E. F. Sabo & D. 

W. Cushman:  , 255, 401 (1980).

  7)  M. T. H. Khan, K. Dedachi, T. Matsui, N. Kurita, M. Bor-

Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe-His-Leu

Aminopeptidase A

Trypsin Endopeptidase 24.15 Endopeptidase 24.11 Mast cell chymase Neutrophil cathepsin G Chymotrypsin

ACETonin

Human heart chymase

Carboxypeptidase Prolylendopeptidase

昇圧系代謝物

降圧系代謝物

Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe (Ang II) Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro (Ang (1-7))

Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe (Ang III)

Asp-decarboxlase ACE2 Transferases, ligases

Ala-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe (Ang A) Ala-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe (Ang A)

Pro-Glu-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe ( Angioprotectin )

の代謝物5アンジオテンシンI分解とそ

(8)

gatti, R. Gambari & I. Sylte:  , 12,  1748 (2012).

  8)  G.  Masuyer,  S.  L.  U.  Schwager,  E.  D.  Sturrock,  R.  E. 

Isaac & K. R. Acharya:  , 2, 1 (2012).

  9)  T.  Lafarga,  P.  O Connor  &  M.  Hayes:  , 59,  53  (2014).

10)  M. Foltz, C. Pieter, G. van der Pijl & J. E. Duchateau: 

140, 117 (2007).

11)  T. Matsui, M. Imamura, H. Oka, K. Osajima, K. Kimoto,  T.  Kawasaki  &  K.  Matsumoto:  , 10,  535  (2004).

12)  Z. I. Shin, R. Yu, S. A. Park, D. K. Chung, C. W. Ahn, H. 

S. Nam, K. S. Kim & H. J. Lee:  , 49,  3004 (2001).

13)  A. G. Tejedor, L. S. Rivera, M. C. Ruiz, I. Recio, J. B. Sa- lom  &  P.  Manzanares:  , 62,  1609  (2014).

14)  K. Majumder, S. Chakrabarti, J. S. Morton, S. Panahi, S. 

Kaufman, S. T. Davidge & J. Wu:  , 8, e82829  (2013).

15)  T.  Nakahara,  K.  Sugimoto,  A.  Sano,  H.  Yamaguchi,  H. 

Katayama & R. Uchida:  , 76, H201 (2011).

16)  O.  Masuda,  Y.  Nakamura  &  T.  Takano:  , 126,  3063 (1996).

17)  J. Wu & X. Ding:  , 49, 501 (2001).

18)  H. Y. Yang, S. C. Yang, J. R. Chen, Y. H. Tzeng & B. C. 

Han:  , 92, 507 (2004).

19)  T. Kumrungsee, T. Saiki, S. Akiyama, K. Nakashima, M. 

Tanaka,  Y.  Kobayashi  &  T.  Matsui: 

1840, 3073 (2014).

20)  宮崎瑞夫:血管と内皮,3, 255 (1993).

21)  H. Okunishi, T. Kawamoto, Y. Kurobe, Y. Oka, K. Ishii,  T. Tanaka & M. Miyazaki: 

18, 649 (1991).

22)  A. Ichihara, M. Sakoda, A. Kuramachi-Mito, Y. Kaneshiro 

& H. Itoh:  , 86, 629 (2008).

23)  Y. Ren, J. L. Garvin & O. A. Carretero:  , 39,  799 (2002).

24)  V. Jankowski, M. Tolle, R. A. S. Santos, T. Gunthner, E. 

Krause,  M.  Beyermann,  P.  Welker,  M.  Bader,  S.  V.  B. 

Pinheiro, W. O. Sampaio  :  , 25, 2987 (2011).

25)  V. Jankowski, R. Vanholder, M. van der Giet, M. Tolle, S. 

Karadogan, J. Gobom, J. Furkert, A. Oksche, E. Krause, 

T. N. A. Tran  :  , 

27, 297 (2007).

26)  F. Axelband, J. Dias, F. Miranda, F. M. Ferrao, R. I. Reis,  G. M. Costa-Neto, L. S. Lara & A. Vieyra:  ,  177, 27 (2012).

27)  D. J. Campbell:  , 35, 784 (2003).

28)  K. Kirimura, S. Takai, D. Jin, M. Muramatsu, K. Kishi, K. 

Yoshikawa,  M.  Nakabayashi,  Y.  Mino  &  M.  Miyazaki: 

28, 457 (2005).

29)  E.  J.  Freeman,  G.  M.  Chisolm,  C.  M.  Ferrario  &  E.  A. 

Tallant:  , 28, 104 (1996).

30)  B. Tom, A. Dendorfer & A. H. J. Danser: 

35, 792 (2003).

31)  L.  A.  Kulemina  &  D.  A.  Ostrov:  , 16,  878 (2011).

32)  R. Yang, I. Smolders, P. Vanderheyden, H. Demaegdt, A. 

V. Eeckhaut, G. Vauquelin, A. Lukaszuk, D. Tourwe, S. 

Y. Chai, A. L. Albiston  :  , 57, 956 (2011).

プロフィル

松井 利郎(Toshiro MATSUI)

<略歴>1986年九州大学農学部食糧化学 工学科卒業/1991年同大学大学院農学研 究科食糧化学工学科博士課程修了/同年同 大学農学部助手/2000年同大学大学院農 学研究院助教授/2011年同教授,現在に 至る<研究テーマと抱負>食機能の分析化 学的解明<趣味>旅行,食べ歩き<所属研 究 室 ホ ー ム ペ ー ジ>http://www.agr.ky- ushu-u.ac.jp/lab/foodanalysis/

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

Referensi

Dokumen terkait

背景と目的 市民科学とは、市民が研究のプロセスの一部ま たはすべてに従事し専門家と協同で科学研究を行 うことである図1。特に市民科学が有用と考えら れるのは、身近で多くの人が利用している事業で ある、例えば下水道に対する知識や情報共有など ができることである。日本における下水道は循環 型社会の構築に貢献しているが、現在完全に普及

10, 2016 の弱い相互作用にも着目していきたい. 本稿では,天然物ビセリングビアサイド類の作用機序 研究を紹介した.ビセリングビアサイド類の結合様式が 明らかになり,SERCAを標的とする薬剤に関して重要 な設計指針を得ることができた.創薬という視点から は,SERCAは正常細胞にも発現しており,組織特異性 をいかに与えるかが課題である.デリバリー技術と組み