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乳牛における放射性セシウムの動態 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 50, No. 9, 2012

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セミナー室

放射性降下物の農畜水産物等への影響-3

乳牛における放射性セシウムの動態

眞鍋 昇

東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場

原発事故に起因する放射性物質で汚染された飼料を 用いた実証的試験の必要性

平成23年3月11日に発生した東日本大震災によって 東京電力株式会社福島第一原子力発電所で大きな事故

(以下原発事故)が発生し,私たちが直接口にする食品 だけでなく家畜の飼料もさまざまな放射性核種(以下放 射性物質)によって汚染されることとなった.事故直後 の平成23年3月17日に汚染された食品について食品衛 生法上の暫定規制値が定められ,牛乳に対しては放射性 ヨウ素70 Bq/kg以下,放射性セシウム200 Bq/kg以下 とされた(平成24年4月1日からは放射性セシウム50  Bq/kg以下とする新基準値が遵守されている)

.つづい

て平成23年4月14日には暫定規制値を超えない牛乳を 生産できるようにするため,粗飼料中の原発事故に起因 する放射性物質の暫定許容値(300 Bq/kg以下)が設定 された(平成24年2月3日からは100 Bq/kg以下)

.こ

れらの規制値や許容値は国際原子力機関 (International  Atomic Energy Agency ; IAEA) などが取りまとめた 報告に基づいて急遽設定されたものであるが,わが国に おいて一般的な条件下で栽培された粗飼料を乳牛に給与 したときに粗飼料に含まれる放射性物質がどの程度牛乳 へ移行するのか,放射性物質を含まない飼料に切り換え た際に牛乳中から消失するのかなどの実態が正確に把握 されてはいなかった.放射能に対する感受性が高いと考 えられている乳幼児や児童の食品として重要である牛乳

の生産に関わる適切なリスク管理措置を提案するために は,原発事故に起因する放射性物質で汚染された飼料を 用いた実証的試験に基づいた正確な知見が求められてい た.そこでわが国における主要な生乳生産地である北関 東圏に位置している東京大学大学院農学生命科学研究科 附属牧場(以下牧場)と同附属放射性同位元素施設が協 力して,牧場の圃場で栽培していた一年生草本牧草(イ タリアンライグラス)を牧場で飼養していた泌乳中の乳 牛に給与して実証的試験を実施し,これらの点を明らか にしたので紹介する.

原発事故に起因する放射性物質を含む飼料の調製 牧場は原発から南西に約130 km離れた茨城県笠間市 に位置している.ここの圃場に平成22年10月に播種し て栽培したイタリアンライグラスを原発事故2カ月後の 平成23年5月12から17日にかけて刈り取り,半乾燥後 プラスチックフィルム梱包してヘイレージとした.この ヘイレージを原発事故に起因する放射性物質を含む飼料

(放射性物質含有飼料)として乳牛に給与した.原発事 故に起因する放射性物質を含まない飼料として輸入飼料

[total mixed ration (TMR) と呼ばれる粗飼料,濃厚飼 料などを混合して乳牛が要求する飼料成分を適正に配合 したもの:JA東日本くみあい飼料製造]を給与した.

このTMRはトウモロコシ45%(重量比)

,コーングル

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テンフィード,フスマ,トウモロコシジスチラーズグレ

インソリュブル,米糠などの糟糠類29%,大豆油粕,菜 種油粕,加糖加熱処理大豆油粕などの植物性油粕類21%

に炭酸カルシウム,糖蜜,アルファルファミール,食 塩,酵母など5%を混合したもの(粗タンパク質約16%,

粗脂肪約2.5%,粗繊維約10%,粗灰分約10%,カルシウ ム約0.8%,リン約0.5%)であった.

乳牛への原発事故に起因する放射性物質を含む飼料 の給与

実証的試験を平成23年5月30日から開始したが,供 試乳牛は原発事故後茨城県からの通達に従って平成23 年4月20日から屋外に出すことなく牛舎内に繋留され,

試験開始時まで原発事故の前年の平成22年5月から7月 にかけて収穫・調製された原発事故に起因する放射性物 質を含まないイタリアンライグラスのヘイレージと TMRを混合した飼料を給与し続けられていた.

対照群の乳牛(平均体重:636 kg,平均搾乳日数:

140日)にはTMRのみを朝夕2回に分けて60 g/kg体重 の割合(体重600 kgの乳牛に36 kg/日給与)で6週間給 与した.放射性物質群の乳牛(平均体重:593 kg,  平均 搾乳日数:108日)にはあらかじめTMRを60 g/kg体重 の割合で2週間給与して牛乳中の原発事故に起因する放 射性物質が検出下限以下であることを確認した後,

TMRと放射性物質含有飼料を2 : 1(重量比)で混合し た飼料を60 g/kg体重の割合で2週間給与し,その後ふ たたびTMRのみを60 g/kg体重の割合で2週間給与し た.なお,試験期間中を通じて乳牛には原発事故に起因 する放射性物質が検出下限以下である飲料水を与えた.

牛乳中の放射性物質の測定

牛乳中には約50 Bq/kgほどの放射性カリウムなどが 含まれているが,実証的試験では原発事故に起因する放 射性物質のみについて調べた.

一般に泌乳中の乳牛からは朝夕2回搾乳し,このとき に給餌も行う.搾乳・給餌ごとに個体別に放射性物質含 有飼料とTMRとに分けて飼料摂取量と搾乳量を測定す るとともに飼料,牛乳,飲用水を採材した.あわせて一 般的健康状態診断(食欲,活動状況,体温,糞便の量,

固さと色,尿の量と色など)を行った.試験開始時,放 射性物質含有飼料給与開始時,およびその2および4週 間後,早朝の搾乳・給餌前に体重を測定した後採血して 血液学的検査および血液生化学的検査を自動分析装置を 用いて行い,より精密に乳牛の健康状態を把握した.

採材した飼料,牛乳,飲用水をゲルマニウム半導体検 出器で測定し,ガンマ線スペクトロメトリー法により核 種を同定した.なお 134Csおよび 137Csは各々604.7およ び661.6 keVを定量に用いた.測定後カウント値を校正 してBqを算出した.放射性核種の濃度は各々の重量を 元に算出した.なお検出下限はバックグラウンドの標準 偏差の3倍とした.

牛乳中への飼料由来の放射性物質の移行と消失 試験期間中を通じて両群間で体重,飼料摂取量(各時 点の朝夕2回の摂餌量を合わせて1日あたりの飼料摂取 量とした)

,泌乳量(各時点の朝夕2回の搾乳量を合わ

せて1日あたりの泌乳量とした)

,健康状態および血液

学的検査所見と血液生化学的検査所見には差異が認めら れなかった.

牛乳中の 134Csと 137Csとをまとめて放射性セシウム として図

1

に示した.牛乳中の放射性セシウム濃度は放 射性物質含有飼料を供給し始めてから12日後に平衡状 態 (36 Bq/kg) に達した.これの給与を停止すると,給 与停止時から1週間は3.61 Bq/kg/day, 1週間後から2週 間 後 は0.69 Bq/kg/day(2週 間 を 平 均 す る と2.05 Bq/

kg/day)の割合で減少し,14日後には対照群と有意差 が認められないレベルに下がった.なお,供試した放射 性物質含有飼料(ヘイレージ)における福島第一原子力 発電所事故に起因する放射性物質による放射線量は,

131Iは検出下限以下,134Csと 137Csでは各々 600と650   Bq/kg(放射性セシウムとして1,250 Bq/kg)であった ので,体重約600 kgの乳牛にTMRと放射性物質含有飼 料とを2 : 1で混合して朝夕2回に分けて給与したので,

放射性セシウム417 Bq/kgを含む飼料を36 kg/cow/日2 週間給与したことになる.

牛乳中の放射性セシウムレベルが平衡状態に達した

図1牛乳中の放射性セシウム濃度の推移

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12から14日後の時点で考えると,給与された放射性セ シウムは15,000 Bq/cow/日であり,1日に生産された 20  の牛乳中には720 Bq/cow/日(4.9%に相当する)が 移行したことになる.なお,飲用乳における放射性セシ ウムの移行係数 (Fm) は「Fm:乳用家畜が一日に摂取 した放射性核種の量(Bq/日)と乳汁中の当該核種の濃 度 (Bq/ ) との比(日/ )」と定義されており,移行係 数は0.0024日/ であったことになる.旧ソ連のチェルノ ブイリ事故の後,乳牛に約1カ月間汚染した粗飼料を与 え続けた場合のFm値は初日には約0.0010日/

,6日後

には約0.0050日/ となって平衡状態に達したことが報告 されている1)

.国内では0.0027から0.0064日/ であると

報告されている1)

.農林水産省消費・安全局から発出さ

れた「原子力発電所事故を踏まえた粗飼料中の放射性物 質の暫定許容値の設定等について」では暫定許容値の算 定にIAEAがとりまとめた移行係数が採用されており,

牛乳における放射性セシウムの移行係数は0.0046日/ で あるとされている.私たちが行った予備的試験2)  で汚 染ヘイレージのみを5日間給与した場合の移行係数は 0.00096日/ であったが,栄養バランスがよくないので 摂餌量と泌乳量が低下するために栄養バランスのよい TMRと混合して摂餌量と泌乳量が一定に維持される条 件で試験すると0.0024から0.0031日/ であった3)

飼料由来の放射性物質の牛乳中への移行と消失につい てとりまとめると,平成24年2月3日から実施されてい る粗飼料中の原発事故に起因する放射性物質の許容値 100 Bq/kgの4倍以上のレベルの放射性セシウム417  Bq/kgを含む飼料を体重600 kgの乳牛に36 kg/cow/日2 週間給与しても,この乳牛が生産する牛乳中の放射性セ シウム濃度は平成24年4月1日から実施されている新基 準値50 Bq/kgを下回るものであったこと,および放射 性物質を含まない飼料に切り換えると牛乳中の放射性物

質は速やかに減少することが確認できた.

放射性セシウムを含まない牛乳を生産するためには,

経口的に放射性セシウムを摂取しない飼養法が肝要であ るが,牛乳の安全性を担保するためには,牛乳中に分泌 されなかった90%以上の放射性セシウムが速やかに尿 などを介して排出されるのか,もし乳牛の体内に蓄積し ている場合はどの臓器に蓄積してどのように排出される のかなどの疑問点を明らかにしなくてはならない.加え て飼料作物や乳牛における非放射性 133Csの生理的役割 や代謝についてほとんどわかっていないので,これらを 解明することで牛乳中のセシウムレベルがどのように調 節されているのかわかってくると考える.一般に乳中の ミネラルレベルは一定の範囲に維持されており,必須元 素であるカリウムレベルはおおむね1,500 mg/kgに維持 されている.セシウムの生物体における動態はカリウム に類似していると考えられているが,乳中への分泌動態 も類似しているならば,乳中のセシウムはあるレベル以 上には高まらない可能性がある.このように今後解明す べき点は非常に多い.

最後にここで紹介した実証的試験は附属牧場と附属放 射性同位元素施設の教職員によって遂行されたものであ る.

文献

  1) (財)原子力環境整備センター: 飼料から畜産物への放射 性核種の移行係数 , 1995.

  2)  橋本 健,田野井慶太朗,桜井健太,飯本武志,野川憲 夫,桧垣正吾,小坂尚樹,高橋友継,榎本百合子,小野 山一郎,李 俊佑,眞鍋 昇,中西友子:

60(8), 335 (2011).

  3)  高橋友継,榎本百利子,遠藤麻衣子,小野山一郎,冨松  理,池田正則,李 俊佑,田野井慶太朗,中西友子,眞 鍋 昇: , in press.

田 岡 健 一 郎(Ken-ichiro Taoka) <略 歴>1991年京都大学農学部農林生物学科 卒業/1998年京都大学大学院理学研究科 博士課程修了(博士(理学))/1999年奈 良先端科学技術大学院大学バイオサイエン ス研究科博士研究員/2002年カリフォル ニア大学デービス校博士研究員/2007年 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエ ンス研究科博士研究員/2010年奈良先端 科学技術大学院大学バイオサイエンス研究 科助教,現在に至る<研究テーマと抱負>

フロリゲンの研究を通して農業にも貢献し たい<趣味>音楽鑑賞

高 木  正 道(Masamichi Takagi) <略 歴>昭和37年東京大学農学部農芸化学科 卒業/平成11年東京大学定年退官/平成 14年新潟薬科大学応用生命科学部教授,

学部長/平成22年新潟薬科大学学長,現 在に至る<研究テーマと抱負>新産業用酵 母研究会 (MINCY) の活動<趣味>とも に下手の横好きの囲碁とゴルフ

高 橋  秀 夫(Hideo Takahashi) <略 歴>1964年東京大学農学部農芸化学科卒 業/1969年東京大学大学院農学系研究科 博士課程修了(農学博士)/1969年東京大

学助手(応用微生物研究所)/1970 〜1973 年Laboratorio Internazionale di Genetica  e Biofisica (CNR, Italia) 研究員/1981年 東京大学助教授(応用微生物研究所)/

1990年 東 京 大 学 教 授(応 用 微 生 物 研 究 所)/1993年同上(分子細胞生物学研究 所)/2003年日本大学教授(生物資源科学 部)/東京大学名誉教授<興味をもってい ること>農業再興・山河保全,メディア関 連・ネット出版など<趣味>庭いじり,ド ライブ(海外),スポーツ観戦

プロフィル

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