セミナー室
放射性降下物の農畜水産物等への影響-9果樹樹体内への放射性セシウムの移行について
高田大輔
東京大学大学院農学生命科学研究科
はじめに
一年生作物では放射性核種に関する試験として,1950 年代からの大気圏内核実験によるフォールアウトの影響 調査(1),チェルノブイリ事故後の報告(2),あるいは,試 薬を利用した塗布などの実験環境下での試験(3) など多 数報告されている.多年生作物である果樹でも,調査例 は少ないものの,土壌から果実への放射性核種の移行,
すなわち移行係数が検討された資料がある.しかしなが ら,果樹では,IAEAレポート(3) のように,トマト,
イチゴといった果菜類と合わせて論じられることが多 い.果樹のなかでもブドウでは比較的多くの報告が存在 し,放射性核種を葉に塗布し,他器官や土壌への移行を 調べた例がある(4).しかしながら,モモにおける放射性 核種の動態を明らかとした報告は少ない.福島県のモモ 生産量は日本全体の約5分の1を占めており,放射性核 種の影響について早急に明らかとする必要がある.
筆者は,福島第一原発事故後より,福島県(伊達市・
福島市・東白川郡)と東京都(西東京市)において,モ モを中心に放射性セシウム (Cs) の移行の実態調査や栽 培試験を行ってきた.本稿では,モモ樹体への放射性 Csの移行経路について検討を行うとともに,現在の試 験状況なども簡単に紹介したい.
放射性Csの樹体内への移行経路について
植物体内への放射性Csの移行には2つの経路が考え られる.すなわち,土壌に降下した放射性Csが根を介 して移行する経路と地上部器官への直接付着に起因して 移行する経路である.さらに後者については,福島第一 原発事故発生時に存在した旧枝,主幹といった旧器官へ の付着と,事故時に存在しなかった葉,新梢,果実(果 皮)などの新生器官への付着に分けて考える必要があ る.
1. 地下部からの移行
チェルノブイリ事故時の場合,すでに展葉済みの樹種 が多く,新生器官への放射性Csの直接付着に起因する 樹体内への移行が多く議論されてきた.しかしながら,
福島第一原発事故では,ウメなどの開花の早い樹種を除 き,多くの落葉果樹で開花・萌芽前であり,放射性Cs の植物体への移行過程や移行量はチェルノブイリ事故と は異なることが予想されていた.予想どおり,事故時に 開花を終了していたウメでは2011年度出荷時に,当時 の暫定規制値を超える放射性Csが検出された.しかし それ以降の事故時には展葉前であった樹種においても果 実・葉といった新生器官より放射性Csが検出され,し かも今回の事故以前での移行係数の範疇に収まらない値 を示すものもあった.本事故による土壌中の放射性Cs
濃度は文献5の耕起前土壌でのデータによると,2011年 5月の時点で0 〜5 cmに96%の割合で存在していること が明らかとなっている(5).根の表面組織では,放射性 Csが樹体内に吸収される(6)ものの,イチジクなどの浅 根性を示す樹種を除けば,果樹の根は基本的に5 cmよ りさらに下に多く存在している.したがって,事故当年 では土壌の下層に放射性Csが移動しておらず,根を介 した樹体への放射性Csの移行はあまり起きていない可 能性が考えられる.
福島第一原発事故に起因する土壌からの放射性Csの 樹体への移行の有無,あるいはその寄与率については,
土壌に放射性核種の降下がない条件下で栽培している樹 体を用いることで推定できる.筆者ら(7) は,コンテナ 植えモモ あかつき の地表面を事故の数週前より被覆 して栽培していた樹体(図
1
)を用いてこの推定を試み た.土壌部被覆樹体と無被覆樹体について,収穫時に樹 体を解体し,各器官別の放射性Cs濃度を測定した.す ると,土壌部分の被覆により,コンテナ表層土壌の放射 性Cs濃度は,7分の1程度に,土壌下層では検出限界値 以下に抑えられた(表1
).被覆の有無により土壌の放 射性Cs濃度に差が見られたにもかかわらず,地上部各 器官の放射性Cs濃度には差がなかった(表2
).地上部 器官の放射性Cs濃度は被覆と無被覆で濃度の差がない ことから,事故当年に限っては樹体地上部に付着した放 射性Csの樹体内への移行が地下部から地上部への移行 を上回っていることが考えられた.なお,被覆土壌にお いても放射性Csが検出された点には,モモの地下部が 過湿に弱いことを配慮のうえ,比較的通気性のある素材 を被覆に用いたことが関係していると考えられる.ほか の園地でも同資材を用いて被覆した部分の直下土壌においても放射性Csが検出可能で,その形態は不明である が,放射性Csがこの資材を通過していることが考えら れる.
筆者らは,福島県東白川郡と東京都西東京市で栽培 の,ブドウ 巨峰 を用いて,樹体各部位の放射性Cs 濃度を測定した.同様の栽培環境であれば果実の放射性 Cs濃度は,東京都より空間線量率の高い福島県で高い ことが十分に考えられる.そこで本試験では,ビニル被 覆された福島県園地ブドウ樹と未被覆の東京都園地ブド ウ樹を比較した(図
2
).被覆園地とは側窓が解放状態 で,ブドウ樹体の上部をビニルで被覆してある,いわゆ るサイドレスビニルハウスであり,土壌を直接被覆して いるわけではないが,本ハウス内表層土壌の放射性Cs 濃度は近傍の未被覆地の約3%とかなり抑えられている(図2下).ただしそれでも土壌表層の放射性Cs濃度は 東京都園地の3倍程度であった.このような2園地のブ ドウを比較したところ,地上部各器官の放射性Cs濃度 は東京都の未被覆ブドウ樹で福島県の被覆ブドウ樹より 図1■モモコンテナ植え樹の土壌表面部の被覆のイメージ
左:被覆処理(2011年2月撮影,本試験に供試),右:未被覆処理
(2010年3月撮影)
表1■土壌表層の被覆処理が,モモ あかつき コンテナ植え 樹の土壌中の放射性核種濃度に及ぼす影響
条件 土壌深
(cm)
放射性核種 (Bq/kg-Dry weight)
134Cs 137Cs
無被覆 0 〜5 75.7±6.2 87.4±7.0
5 〜20 20.0±1.4 26.7±1.7
被覆 0 〜5 15.2±1.4 11.7±1.4
5 〜20 6.7>* 7.8>*
*検出限界値以下(数値は検出限界値)
(高田ら,2012より抜粋し,改変)
表2■土壌表層の被覆処理が,モモ あかつき コンテナ植え 樹の樹体の部位別の放射性核種濃度に及ぼす影響
条件 部位 核種 (Bq/kg-Dry weight)
134Cs 137Cs
無被覆 成熟果
―果皮 32.3± 3.8 52.7± 4.5
―果肉 12.1± 3.5 15.7± 3.2 新梢 22.0± 2.9 23.4± 3.2 葉 31.5± 2.9 40.9± 3.4 旧枝―樹皮 832.9±14.6 998.6±14.1
―材 14.2± 7.3 17.4± 2.5
被覆 成熟果
―果皮 37.2± 5.6 44.5± 6.2
―果肉 12.6± 1.7 14.0± 1.9 新梢 27.7± 5.9 37.9± 7.2 葉 41.6± 7.7 54.4± 9.1 旧枝
―樹皮 761.1±15.9 1047.8±19.3
―材 12.2± 3.4 9.8± 3.4
(高田ら,2012より抜粋し,改変)
も高い,あるいは差がないという結果となり,土壌の濃 度とは異なった.この結果も,事故当年に限っては樹体 内の放射性Csは地上部由来が地下部由来よりも寄与率 が高いという考察を補うものであった.そのため,事故 時に展葉していなかったモモ果実での放射性Csの検出 に関しては,後述するように,樹皮からの侵入や風雨に よって葉や果実へ付着した後に,吸収された可能性を検 討する必要がある.
2. 地上部旧器官からの移行
樹体地上部からの放射性Csの侵入に関しては,事故 後の試験により示唆が得られている(8, 9).筆者らも,モ モを用いて,地上部からの放射性Csの樹体への移行に ついて検討を行った.福島県福島市より2012年1月に採 取したモモの主幹についてイメージングプレートを用い て放射性核種の像を投影させた.図
3
はその投影写真と 原図を重ね合わせたものであり,黒いスポットが放射性 核種の検出部位である.なお,6年生樹であるため,幹 外側に凹凸の多い,いわゆる 外樹皮 は存在せず,比 較的滑らかな状態であることを付記する.また,すべて 洗浄後のサンプルを使用している.モモでは樹皮のうち 最外層においてのみ像が投影され,その直下の部分にお いては像が投影されなかった.自然由来の 40K濃度につ いてゲルマニウム半導体検出器で測定したところ,表皮 とその直下では 40K濃度に差がないことから,この像の 濃淡は事故由来の核種濃度に左右されていると推定でき る.また,表皮と表皮直下の放射性Cs濃度を,ゲルマ ニウム半導体検出器で測定した結果,表皮部分には極め て高い濃度で放射性Csが存在していた(10, 11).これらのことから,樹体に降下した放射性Csは樹皮,しかもそ の最外層にあたるわずかの厚さの部位に極めて高い濃度 で存在していることが推測できた.なお,低濃度汚染地 域である東京都のモモ樹においても,同様にIP像の投 影とゲルマニウム半導体による測定を行ったところ,濃 度の違いはあるものの,同様の結果を得た(10).しかし ながらこれらの結果のみでは,表皮での放射性Csは表 皮そのものに強く固着し,その内側の通水組織である師 管にほとんど到達しない可能性もあり,表皮に存在する 図3■モモ3年生枝の放射性核種の投影画像(福島県福島市)
黒いスポットが放射性核種の投影部位を示す.
図2■ブドウ“巨峰”の試験環境の模 式図(葉は省略)と土壌表層 (0〜 5 cm) と果粒の放射性Cs濃度
(高田ら,2012より抜粋し,別データ を加え改変,果実の濃度は果実kg当 たりに変換)
放射性Csの樹体内へ侵入の可否や程度については不明 瞭である.
樹皮から樹体内への放射性Csの侵入経路に関しては 仮説の域を出ないが,その一つに樹皮上に存在する皮目 より何らかの形で師管あるいは材まで到達する可能性が ある.イメージングプレートを用いた画像解析を行った ところ,皮目部分で放射性Csの像の投影が確認でき た(12).この結果から,樹皮上に存在する皮目より,放 射性Csが樹体内に移行する可能性が考えられる.しか しながら,皮目は一般的には通気組織とされており,樹 皮上にコルク化した状態で存在している.そのため,通 水性に乏しく,正常な皮目では放射性Csの侵入経路と なりにくいことが考えられる.そこで,伊達市のモモ樹 を用いて,皮目直下の部位IP像を撮影した.その際に,
直上の皮目の中心部分が裂けている部位とそうでない部 位に分けて撮影したところ,前者でのみ像の投影を得た
(データ未発表).モモの樹皮上の皮目に関しては,割れ ているものも多く見られ,このような個所から放射性 Csが樹体内に侵入した可能性がある.また,枝上の物 理的な裂開は皮目においてのみ起きるわけではない.せ ん定痕などのいわゆる うろ になった部位でも強い像 の投影を得ている.このような部位では,凹凸が激し く,放射性Csを含む粉塵なども溜まりやすく,放射性 Csの樹体内への侵入経路の一つである可能性は十分に 考えられる.
3. 地上部新生器官からの移行
表
3
にモモの地上部の部位ごとの放射性Cs濃度を洗 浄の有無別に示した.3年生枝(旧枝)上での放射性Cs の形態については不明であるが,洗浄を行うことで,放 射性Cs濃度が低下した.また,果皮や葉といった,事 故時に存在しなかった新生器官でも洗浄により放射性 Cs濃度が低下した.これらのことは,放射性Csが容易な移動性を備えたまま,旧枝上に存在していることを示 している.福島県内において行った類似の試験において も濃度の違いはあるものの同様の結果であった(10).葉 では気孔よりイオン形態の元素を取り込むことは広く知 られており(13),放射性Csに関しても同様であると十分 に考えられる.放射性Csが,風雨により果実,新梢,
葉などの新生器官表面に付着し,器官内に移行した可能 性は十分に考えられる.
事故当年の2011年度(14) と翌2012年度(15) 産のモモの 果肉と果皮の放射性Cs濃度の比率を比較すると,果肉 に対する果皮の濃度割合が2011年度で2012年度よりも 高かった.このことから,事故当年である2011年度に は,果実表面に付着した放射性Csが多く存在し,直接 果皮内に移行しやすい環境であったと考えられ,事故後 少なくとも数カ月間は,新生器官への二次的な付着が生 じていた可能性がある.モモの葉について,徒長枝(発 育枝)と結果枝上の新梢に着葉しているものを分けて放 射性Cs濃度を測定した(14).すると,生育が旺盛な徒長 枝の葉の放射性Cs濃度は果実発育期間初期に伸長を停 止する結果枝上新梢の葉よりも低かった.このことか ら,以下の2つの推測が可能である.一つは,結果枝上 新梢の伸長が停止するまでの時期において,葉に放射性 Csが再付着した可能性である.これは検証が困難であ るが,イオン化した放射性Csが溶解度の高いCs塩とし て存在し,それらが降雨により葉や果実に再付着した可 能性がある.もう一つは,放射性Csのモモ樹体内での 挙動がカリウム (K) と異なり,器官の新旧や,生育状 況の違いに起因した濃度差が現れる可能性である.根か らの吸収に関してはKとCsは類似する(16) とされる一 方で,KとCsの地上部での動向は異なる場合がある.
この点に関して,イネでは,Kと異なり古い葉に,Cs が蓄積しやすいとされている(17) ことは,本データとの 共通点である.
放射性Csの樹体外への放出について
1. 地上部からの放出
樹体内への放射性Csの移行を検討する一方,樹体か ら樹体外部への持ち出しも考えなければならない.これ には,樹皮のはく離,果実の収穫(脱落),落葉などに よる持ち出し,根の脱落枯死などによる土壌中への放 出,せん定による人為的除去などがある.果実や葉など の冬季までに脱落(収穫)する器官に含まれる放射性 Csの割合については,下記のような試験の中で検討し た.2011年度収穫後の8月にモモ あかつき を樹体ご 表3■洗浄の有無が,モモ あかつき 6年生樹の樹体の部位
別の放射性核種濃度に及ぼす影響
洗浄の有無 部位 放射性核種 (Bq/kg-Dry weight)
134Cs 137Cs
洗浄有 新梢 16.3± 1.2 21.7± 1.3 葉 76.4±11.0 71.7±11.2 果皮 117.7±12.0 95.9±11.7 3年生枝・樹皮 759.8±36.0 811.6±36.8 洗浄無 新梢 22.9± 1.7 30.8± 2.9 葉 96.0± 8.5 107.8±10.7 果皮 133.8±18.5 139.7±17.5 3年生枝・樹皮 1044.6±45.8 1287.8±36.8
(高田ら,2012より抜粋し,別データを追加して改変)
と掘り起して解体し,放射性Cs濃度を部位ごとに測定 した.部位ごとの放射性Cs濃度に部位別乾物重を乗す ることで,期間ごとの放射性Cs含量(Bq換算)を求め たところ,およそ2割強の放射性Cs(Bq相当)が葉と 果実中に含まれていた(18).11月に落葉した葉では8月 の葉よりも放射性Cs濃度が低い(19) こと,収穫後に新 梢が2次伸長することなどを考慮に入れると,15 〜20%
程度の放射性Csが,樹体外に持ち出されると推定され る.モモのせん定量を比較した報告(20) によると,慣行 栽培樹の冬季せん定時の長さあたりせん定量は56.6%で ある.長さあたりの比率であるため,正確に重量比に換 算できないが,枝中よりおおよそ3割程度の放射性Cs
(Bq相当)が樹体より持ち出されることとなる.地上部 の収穫(脱落)量,せん定量あるいは材の肥大などを計 算することで,経年的な樹体外への持ち出し量の推定も 検討可能となる.地面と水平に伸長している主枝よりも 垂直に出ている主幹で,樹皮の放射性Cs濃度が低いこ
とから(8, 14, 18),冬季せん定の際に,これらの枝を落と
し,徒長枝を次年度以降の結果枝として養成するなどの 側枝の更新を積極的に行うことも樹体の除染という意味 では有効である.また,2011年12月〜 2012年2月を中 心に福島県下で実施された,高圧洗浄処理による人為的 な除去も樹体中放射性Cs濃度の低下に対して,十分に 効果が期待できる.
2. 根を介した土壌への放出
収穫期の根では放射性Cs濃度が低いことを明らかと してきたが(14, 18),モモの根では秋季にも果実発育期間 同様に生長のピークがある.この時期に新根の形成のた めに地上部で同化された炭水化物とともに放射性Csが 地下部へ移動してくる可能性があるため,放射性Csの 旧根から新根への移行や地上部から地下部への移行につ いても十分に検討しなければならない.筆者らは,高線 量率地域のモモ樹を掘り起し,地下部を洗浄後,直径 2 mmの根を切除した後,非汚染土壌に植え付け,栽培 を行った結果,モモの新根に含まれる放射性Cs濃度は 葉以上であったという結果を得ており(15),現在さらに 精査中である.またブドウのポット植え樹を用いた報 告(4) では,葉に塗布した放射性Csは速やかに地下部に 移行するとされている.旧器官を経由した葉からの根へ の放射性Csの移行は,土壌からの吸収量よりも高い割 合を占める.果樹の場合,新根のすべてが木化し,越年 するわけではないため,新根に含まれる放射性Csは根 の枯死や脱落後の分解を経て,再び土壌中に移動する.
旧根においても肥大に伴う根の表層樹皮のはく離により
土壌中へ放射性Csが放出する可能性も十分に考えられ る.そのため,果樹樹体とその園地では,土壌や空間か らの樹体への移行と,樹体から土壌への移行の両面を検 討する必要がある.
おわりに
果樹における放射性Csの移行に関する試験は,ほか の作物に比べて試験が少ないことは前述したとおりであ る.少ない理由としては,果樹の栽培試験全般でも同様 のことが言えるが,樹体が大きく労力のかかること,収 穫までの年月もかかるため,一つの試験に要する期間が かかること,それらにより反復の確保などが難しいこと などが制限要因となっている.また,一年生作物と違い 果樹ではすでに圃場に根を下ろした状態であり,事故直 後より,樹体の伐採・改植などの方法も検討されている が,植え替え後の無収穫期間の減収は大きく改植を躊躇 する要因であり,実際の対策も難しい.加えて土壌の除 染を改植とセットで考えた場合,その作業労力や汚染さ れた土壌や樹体の処理対策も検討しなければならない.
モモなどの場合には加えて,改植時にいや地などが問題 となりやすいことから,一斉の改植も行いにくい.これ らのことから,永年性である果樹では,2011年度に樹 体内に移行した放射性Csがどこに蓄積し,どのように 再移行するかを明らかとする必要があるが,その解析に も時間がかかる.植え替えが行われないのであれば,な おさら早急に実態を明らかとする必要がある.放射性 Csは土壌に強く固着されているものの,根から吸収が 全くないわけではなく,何らかの処置を施さない限り,
年数の経過に伴う放射性Csの土壌よりの移行総量が増 加すると予想され,樹体中での土壌由来の放射性Csの 寄与率が徐々に高くなっていく可能性がある.
果実をはじめとした新生器官の汚染源として,土壌中 の放射性Cs,事故年に植物体に移行済みの放射性Cs,
土壌表層からの再浮遊や枝上から新生器官に付着した放 射性Csなどがある.土壌・空間が汚染された条件では,
新生器官で検出された放射性Csが前述のいずれに起因 するのか,あるいはそれらの寄与率がどの程度であるか を解析するのは難しい.現在,汚染環境下で栽培した樹 体を非汚染環境下で栽培するなどの方法で検証中であ る.これらの試験結果を今後速やかに発信していきた い.
文献
1) 三井進午,天正 清:土肥誌,29, 25 (1958).
2) IAEA :“Technical reports series no. 472. Handbook of Parameter Values for the Prediction of Radionuclide Transfer in Terrestrial and Freshwater Environments,”
2010.
3) J. W. Ralls, H. J. Magdenberg, T. R. Guckeen & W. A.
Mercer : , 36, 653 (1971).
4) H. J. Zehnder, P. Kopp, J. Eikenberg, U. Feller & J. J.
Oertli : , 46, 61 (1995).
5) 塩沢 昌,田野井慶太郎,根本圭介,吉田修一郎,西田 和弘,橋本 健,桜井健太,中西友子,二瓶直登,小野
勇治: , 60, 323 (2011).
6) T. Eichert, H. E. Goldbach & J. Burkhardt : , 111, 461 (1998).
7) 高田大輔,安永円理子,田野井慶太朗,中西友子,佐々
木治人,大下誠一: , 61,517 (2012).
8) 高田大輔,安永円理子,田野井慶太朗,小林奈通子,中
西友子,佐々木治人,大下誠一: , 61,
in press (2012).
9) K. Tagami, S. Uchida, N. Ishii & S. Kagiya : , 111, 65 (2012).
10) 高田大輔,安永円理子,田野井慶太朗,中西友子,佐々 木治人,大下誠一:園芸学研究別冊1,11, 279 (2012).
11) 高田大輔:第二回放射能の農畜水産物等への影響につい て の 研 究 報 告 会:http://www.a.u-tokyo.ac.jp/rpjt/
event/20120218.html
12) K. Tanoi, D. Takata, A. Hirose, N. Kobayashi, K. Abe, M.
Sato & T. Nakanishi :“International science symposium on combating radionuclide contamination in Agro-soil environment,” 2012, p. 209.
13) S. Ehlken & G. Kirchner : , 58, 97
(2002).
14) 高田大輔,安永円理子,田野井慶太朗,中西友子,佐々
木治人,大下誠一: , 61, 321 (2012).
15) 高田大輔,佐藤 守,阿部和博,安永円理子,田野井慶 太朗,小林奈通子,中西友子,佐々木治人,大下誠一:
園芸学研究別冊2,11, 353 (2012).
16) P. J. White & M. R. Broadley : , 147, 241
(2000).
17) 津村昭人,駒村美佐子,小林宏信:農業技術研究所報告,
B36, 57 (1984).
18) 高田大輔,安永円理子,田野井慶太朗,中西友子,佐々 木治人,大下誠一: , 61, in press (2012).
19) 高田大輔,安永円理子,田野井慶太朗,小林奈通子,中 西友子,大下誠一,佐々木治人,佐藤 守,阿部和博:
第49回 ア イ ソ ト ー プ・放 射 線 研 究 発 表 会,49 : IP-01, 2012.
20) 高田大輔,福田文夫,久保田尚浩:園芸学研究,7, 367
(2008).
プロフィル
高田 大輔(Daisuke TAKATA)
<略歴>2000年岡山大学総合農業科学部 卒業/岡山大学にて博士(農学)を取得 後,2007年より東京大学大学院農学生命 科学研究科附属農場助教,2010年より同 附属生態調和農学機構助教<研究テーマと 抱負>モモの生理障害(果肉障害)につい て,果樹の放射性セシウムの移行と分配
<趣味>園芸と演芸