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塩を噴く植物ローズグラスの耐塩性機構 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 55, No. 1, 2017

塩を噴く植物ローズグラスの耐塩性機構

塩噴き植物は塩害に強い?

土壌に過剰量の塩分(主としてナトリウム,Na)が 蓄積されると塩害(塩ストレス)が発生し,植物の生産 性が低下する.塩ストレスは世界の農耕地の植物生産を 減じる主要因となっていることから,植物の耐塩性を向 上させる試みが重要である.植物の耐塩性機構には,植 物体内に流入したNaを茎葉部に集積させない塩排除機 構,細胞に流入したNaの細胞外への排出や液胞への隔 離といった組織耐性機構のほか,塩ストレス下で二次的 に発生する活性酸素の消去系が関わっている(1).これら の耐塩性機構には程度の差があるものの,多くの植物種 によって共通して見られる仕組みである.

生物のなかには体内の塩分を排出するためのユニーク な器官を有した種が存在する.そのような器官の一つで ある塩類腺(salt gland)は,体内に取り込んだ過剰な 塩分を体外に排出するための器官であり,動物では海生 の鳥類(カモメやペンギンなど)や爬虫類(ウミガメや イグアナなど)に見られる.ウミガメが産卵時に涙する 風景は人間にとっては感動的であるが,あの涙も塩類腺 から高濃度の塩分が排出されたものである.植物のなか にも塩類腺を有する種がある.その代表例がヒルギダマ シである.汽水域や潮間帯のマングローブを構成する樹 木の1種であるヒルギダマシは海生動物と同様に塩分濃 度が高い環境下で自生しているため,過剰に取り込んだ 塩分を葉表面から排出する器官をもつことは理にかなっ ているように思われる.一方で,陸上に上がった植物の なかにも塩類腺を有する種が存在し,塩類腺はこれら植 物の茎葉部表面に見られる.塩類腺は双子葉類ではハマ アカザ属やイソマツ属などの塩生植物に見られるほか,

単子葉類ではオヒゲシバ属やギョウギシバ属,シバ属な どイネ科ヒゲシバ亜科植物で多く確認されている(2).本 稿では,耐塩性に優れたシバの一種であるローズグラス の塩類腺について紹介する.

南アフリカ原産のイネ科オヒゲシバ属ローズグラス

(  Kunth)はアフリカヒゲシバとも呼ば れるC4植物であり,暖地型牧草として広く利用されて いる.イギリスの政治家セシル・ローズによって牧草と して広められたことから,ローズグラスと呼ばれる.

ローズグラスは作物としては耐塩性や耐乾性に優れ,

150 mM程度のNaClストレスでも生育が阻害されない 品種が存在する(3).またローズグラスがもつ耐塩性や生 育の旺盛さを利用して,塩類集積土壌からの塩類除去の 試みもなされている(4).ローズグラスが優れた耐塩性を 有する理由の一つとして,茎葉部表面に塩類腺をもつこ とが挙げられる.つまり,塩ストレス下でローズグラス 体内に蓄積される過剰量のNaを,塩類腺から体外に排 出することが耐塩性に重要であると推察されている.事 実,塩ストレス下で栽培したローズグラスの葉表面には 白い結晶の析出が確認され,なめてみるとしょっぱい

(図1.ローズグラスの塩類腺は基部細胞(basal cell)

と帽細胞(cap cell)の2つの細胞からなり,葉内の塩 分(主にNaやカリウム(K))は帽細胞から排出される

(図1).しかしながら,ローズグラスの塩類腺の機能が どの程度,耐塩性に寄与しているのかはいまだ不明であ る.筆者らは来歴の異なるさまざまなローズグラス在来 品種の塩ストレス下での比較栽培試験を行っており,以 下にその知見の一部を紹介する.

ローズグラスはその旺盛な生育力から休閑地や荒廃地 に最初に定着する先駆植物としても知られており,世界 中の温帯や亜熱帯,熱帯地域に広く自生している.ゆえ に,世界各地にはその土地の風土気候に適応した在来品 種が多く存在する.そこで約30種類の在来品種と2種類 の栽培品種を用いて塩ストレス下での栽培試験を行った ところ,ローズグラスの耐塩性には大きな品種間差が存 在することがわかった.塩類腺からのNa排出量は耐塩 性が強い品種群では多く,耐塩性が弱い品種群では少な いことがわかった.葉内Na蓄積量および塩類腺を介し て葉外へ排出されたNa量の関係を調べてみると,排出 されたNa量が多い品種では葉内のNa蓄積量も多く,

排出されたNa量が少ない品種では葉内のNa蓄積量も 少ないことがわかった.塩類腺からのNa排出が積極的 なものであれば,葉内のNa蓄積量は少なくなるはずで あるが,そのような品種はこれまでのところ見つかって いない.おそらく葉内に流入したNaは塩類腺から直ち に排出されるのではなく,ある一定量のNaが葉内に蓄 積されてから塩類腺を介して体外へと排出されているの ではないかと考えられる.

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では,塩ストレスに弱い品種は,もともと有する塩類 腺の数が少ないのであろうか? あるいは個々の塩類腺 の塩排出能が低いのであろうか? この問いに答えるべ く,ローズグラスの耐塩性が強い品種と弱い品種を用い て,葉面の塩類腺密度の計測を行った.その結果,非ス トレス下,塩ストレス下ともに,葉面の塩類腺密度には 大きな品種間差がないことがわかった.塩類腺1個当た りのNa排出量を算出してみたところ,耐塩性が強い品 種は弱い品種と比較して最大9倍も高いNa排出能を有 していることがわかった.以上のことから,ローズグラ スの優れた耐塩性には,単に塩類腺を有するだけではな く,Na排出能が高い塩類腺を有することが重要である ことが示唆された(5)

さて,塩類腺は排出する塩類の選択性を有しているの だろうか.植物の塩類腺からはさまざまな塩類(Na, K,  Ca, Mg, Fe, Mn, Zn, Cd, Cr, Cu, Hg, Ni, Pbなど)が排 出されることがわかっている(6).ローズグラスの耐塩性 には,塩類腺が高いNa排出能を有することが重要であ ると先に述べたが,排出される塩類はNaのみなのであ ろうか? 筆者らはこれまでにNa以外にも,KやMg,  Ca, Mn, Cl, SO4, PO4などもローズグラスの塩類腺から 排出されることを確認している.これらのなかでもNa やKはほかの塩類と比較してより多く排出されること から,排出される塩類にはある程度の選択性があると考 えられる.また,塩ストレス処理に用いる塩の種類に

よって,排出される塩類の量が変化することも見いだし ている.たとえば,塩ストレス研究において一般的に用 いられる塩化ナトリウム(NaCl)と比較した場合,リン 酸ナトリウム(Na2PO4)や酢酸ナトリウム(CH3COONa)

処理下では排出されるNa量は減少する.同様の現象は,

カリウム塩を用いたときにも観察されることから,塩ス トレス処理時におけるカウンターアニオンの影響も大き いと考えられる.残念ながら,塩類腺細胞内から細胞外 への塩類排出を担う輸送体はいまだ同定されていない.

比較的排出量が高い塩類(NaやK)に対する基質特異 性が高い輸送体が存在するのか,それともさまざまな塩 類を輸送するが基質特異性が低い輸送体が存在するのか,

またその輸送形式は能動輸送であるのか受動輸送である のか,は今後の研究の進展により明らかになるであろう.

植物の耐塩性を向上させるためには,塩類腺からの塩 分排出のようなユニークな仕組みを理解することも重要 である.塩類腺をもつだけではなく,高いNa排出能を 有していることがローズグラスの耐塩性の鍵となってい るため,塩類腺において塩類の排出を担っている輸送体 の同定は,植物の耐塩性分子育種に貢献すると期待され る.また,塩類腺は葉茎の表皮細胞の一種であるが,そ の形成機構についてはほとんど理解されていない.塩類 腺形成機構の理解や形成に関わるマスター遺伝子の同定 を行うことができれば,耐塩性が弱い作物種にも塩類腺 を形成させることが夢ではなくなるのかもしれない.

図1ローズグラスの塩類腺

塩類腺は基部細胞と帽細胞の2つの細胞から 構成され,塩分は帽細胞より排出される.

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  1)  R. Munns & M. Tester:  , 59, 651  (2008).

  2)  H. Kobayashi:  , 2, 1 (2008).

  3)  宗廣理子,上田晃弘,実岡寛文:2015年度第111回日本 土壌肥料学会関西支部講演会要旨集,p. 9, 2015.

  4)  大井崇生,笹川正樹,谷口光隆,三宅 博:

82, 378 (2013).

  5)  A. Ueda, R. Munehiro & H. Saneoka: submitted (2016).

  6)  W.  W.  Thomson:  “Plants  in  Saline  Environments,” 

Springer-Verlag, 1975.

(上田晃弘,広島大学大学院生物圏科学研究科)

プロフィール

上田 晃弘(Akihiro UEDA)

<略 歴>1997年 神 戸 大 学 農 学 部 卒 業/

1999年同大学大学院自然科学研究科修士 課程修了/2002年名古屋大学大学院生命 農学研究科博士課程修了,国際イネ研究所 訪問研究員,日本学術振興会特別研究員

(名古屋大学),日本学術振興会海外特別研 究員(Texas A&M University),広島大 学大学院生物圏科学研究科講師を経て,

2015年同大学大学院生物圏科学研究科准 教授,現在に至る<研究テーマと抱負>植 物のナトリウム輸送系,有用元素としての ナトリウム機能,細菌バイオフィルム<趣 味>ギター演奏,旅行

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.5

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