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二次細胞壁パターンの制御機構 - J-Stage

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【解説】

二次細胞壁パターンの制御機構

小田祥久 * 1 , 2 ,福田裕穂 * 1

セルロース微繊維を主成分とした細胞壁の沈着パターンは植 物細胞の形態と機能を決める要因の一つである.木部細胞は 強固な二次細胞壁を沈着することにより,植物体を力学的に 支えると同時に通導組織として機能している.木部組織は木 部繊維,原生木部道管,後生木部道管,仮道管などからなる が,それぞれの細胞が特有の二次細胞壁パターンを形成する ことにより,高度な機能分化を実現している.このような二 次細胞壁の沈着パターンは,一次細胞壁と同様にセルロース 合成酵素複合体の軌道を制御する表層微小管の配向に大きく 依存している.われわれは転写因子を用いた   木部 道管分化誘導系を確立することにより,木部細胞分化におけ る特異的な遺伝子発現解析および機能解析,また,ライブイ メージングによるタンパク質の動態,相互作用の解析を実現 し た.こ れ ら の 解 析 手 法 を 用 い て,微 小 管 付 随 タ ン パ ク 質 MIDD1  ROP  GTPase が二次細胞壁のパターン形成におい て重要な役割を果たしていることを明らかにした.本稿では これらの研究成果を中心に,木部細胞における二次細胞壁パ ターンの制御機構に関する最近の知見を解説する.

はじめに

陸上の植物は重力に逆らいながら成長し,地中より得 た水分を体中に輸送する必要がある.木部組織の細胞は リグニン化した二次細胞壁を沈着することにより疎水的 で強固な構造となり,これらが連続的につながることで 植物体を支えかつ水を運ぶ通路としての役割を果たして いる.木部は主に木部繊維,原生木部道管,後生木部道 管,木部柔細胞などから構成され,これらの細胞では一 次細胞壁と細胞膜との間に二次細胞壁が沈着する.原生 木部道管は主に環状やらせん状に,後生木部道管では主 に網目状や孔紋状に二次細胞壁が沈着する(図1A).二 次細胞壁が沈着しなかった細胞側面の領域は壁孔と呼ば れ,道管側面での水の通り道となる.二次細胞壁を形成 すると,木部道管はプログラム細胞死を起こすことに よって細胞内容物を消化し,水を通す中空の筒状構造と なる.木部繊維では細胞表面の大部分に二次細胞壁が沈 着し,壁孔は小さく,細胞伸長によって細長く引き伸ば されてしまう場合もあり,水を通すには適していない.

細胞膜直下に並ぶ表層微小管はセルロース合成酵素複 合体の軌道を制御することにより,セルロース微繊維の Regulation of Secondary Cell Wall Patterns in Xylem Cells

Yoshihisa ODA, Hiroo FUKUDA, *1東京大学大学院理学系研究科,

*2科学技術振興機構さきがけ

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沈着パターンを決定している.表層微小管は重合,脱重 合を繰り返すダイナミックな挙動を示すこと,表層微小 管同士の接触により束化や脱重合が引き起こされるこ と,表層微小管の側面から表層微小管が重合されること が明らかとなり,このようなダイナミクスと相互作用を 通じて表層微小管の配向が自発的に形成されると考えら れるようになった(1).しかしながら,表層微小管が二次 細胞壁の沈着パターンをつくり出す仕組みはこれまでほ とんど明らかにされてこなかった.

表層微小管のダイナミクスや相互作用にはさまざまな 微小管付随タンパク質がかかわっており,木部細胞にお いても特異的に働く微小管付随タンパク質が存在すると 考えられてきた(2).実際,シロイヌナズナの花茎の力学 的強度が低下した変異体のスクリーニングにより,木部 繊維におけるセルロース微繊維の配向制御にかかわる微 小管制御因子が同定された.また,ヒャクニチソウ単離 葉肉細胞およびシロイヌナズナ培養細胞を用いた分化誘 導系における遺伝子発現解析から,新規の微小管付随タ ンパク質に加え,ROP GTPase  が二次細胞壁の沈着パ ターンに決定的な役割を果たしていることが明らかと

なった.本稿ではまず,木部繊維,原生木部道管,後生 木部道管それぞれにおいて,二次細胞壁パターンの制御 にかかわる微小管付随タンパク質と ROP GTPase に関 する知見を解説する.

木部繊維

木部繊維では,二次細胞壁の力学的な強度にかかわる 因子としてカタニンKTN1およびキネシンモータータ ンパク質FRA1がこれまでに報告されているが,両者と も木部繊維に限らず植物体で広く機能しているタンパク 質である.

はシロイヌナズナの花茎の物理的な強度が低下 した変異体の原因遺伝子として単離された(3).   変 異体では二次細胞壁の厚みや成分,また表層微小管の配 向には顕著な異常が見られないが,木部繊維を含む多く の細胞でセルロース微繊維の配向がランダム化してお り,これが花茎の力学的な強度の低下をもたらしている と考えられている.一方,  の過剰発現体では,二 次細胞壁の層の厚みが薄くなる一方で,層の数が増加し ていた.二次細胞壁の層の数はセルロース微繊維の沈着 方向が回転することによって形成されると考えられるた め,この結果はFRA1がセルロース微繊維の沈着方向を 制御していることを示唆している(4).最近,  で の一分子イメージングにより,FRA1が二量体となって 微小管プラス端に向かって動くキネシンモータータンパ ク質であることが示された.また,このキネシンが毎秒 400 nmという速い速度で微小管上を移動したことから,

FRA1が微小管に沿って何らかの荷を運ぶことによって セルロース微繊維の沈着を制御しているのではないかと 考えられる.荷の候補としてはセルロース合成酵素複合 体や多糖類,細胞壁成分を含む小胞ではないかと考えら れている(5)

微小管切断タンパク質であるカタニンKTN1もまた 花茎の力学的強度が低下したシロイヌナズナの変異体の 原因因子として単離された.   変異体ではセルロー スおよびヘミセルロースの量が低下するとともに,木部 繊維を含む細胞の伸長が抑制され,木部繊維の力学的強 度が低下していた.   変異体では表層微小管の並び がランダム化しており,その影響でセルロース微繊維の 配列が制御できなくなっていると考えられている(6, 7). 表層微小管は表層微小管の側面から並行あるいは40度 程度の角度をもって分岐するようにして重合を開始する が,KTN1は分岐した表層微小管の基部を切断すること で,並行な表層微小管の並びを促進することが報告され 図1シロイヌナズナの根の原生木部道管と後生木部道管

野生型株 (A) と   のRNA干渉導入株 (B) の根の原生 木部道管 (*) と後生木部道管 (**).野生型株では後生木部道管 に多数の壁孔が認められるが,  の発現抑制により壁孔 の大部分が失われている.スケール:10 μm

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ている(8〜10).最近になって,ROP GTPase の一つであ るROP6が,微 小 管 付 随 タ ン パ ク 質RIC1を 介 し て KTN1を活性化していることが報告された(11).同様の メカニズムが働いているかどうかは不明だが,木部繊維 においてもKTN1が分岐した表層微小管を切断するこ とによって,表層微小管の配列を制御しているのかもし れない.

原生木部道管

原生木部道管では主にらせん状の二次細胞壁が形成さ れる.原生木部道管は伸長成長する前に形成されるが,

このパターンの二次細胞壁は細胞の伸長成長に伴って伸 びることが可能である.このらせん状の二次細胞壁は,

表層微小管が高度に束化され,二次細胞壁が細くバンド 状に肥厚することによって形成される.その制御因子の 候補として,MAP65およびMAP70が報告されている.

MAP65タンパク質は65 kDaの微小管架橋タンパク質 である(12).シロイヌナズナには10個の   遺伝子 が存在しており,これまでにAtMAP65-3がフラグモプ ラスト微小管のアンチパラレルな結合に(13, 14),At- MAP65-4が紡錘体形成における微小管の束化と伸長促 進に(15)  かかわっていることが明らかとなっている.

ヒャクニチソウ葉肉細胞の管状要素分化誘導系において は が顕著に発現しており,この遺伝子は ヒャクニチソウの木部組織においても顕著に発現してい た.GFP-ZeMAP65-1をシロイヌナズナの培養細胞に発 現させると,表層微小管が高度に束化され,ネットワー ク状の配向になった(16).シロイヌナズナ培養細胞の木 部道管分化誘導系においても   の発現が上昇 していたことから(17),MAP65が木部道管における微小 管の束化にかかわっている可能性が高いと考えられる.

近年,AtMAP65-1およびAtMAP65-4が微小管の束化 とともに伸長を促進することが    で示されてお

(15, 18),原生木部道管においてMAP65が表層微小管の

束化と伸長を促進することにより,らせん状の二次細胞 壁パターンの形成に貢献している可能性が高いと考えら れる.

も う 一 つ の 候 補 因 子 で あ るMAP70タ ン パ ク 質 は 70 kDaの植物に特異的な微小管付随タンパク質である.

シロイヌナズナのゲノムには5つの   が存在し,

生化学的解析から微小管を安定化する可能性が示唆され ている(19, 20).Pesquetら(21) はシロイヌナズナ培養細胞 を用い,  が木部細胞分化過程において顕著 に発現することを見いだした.AtMAP70-5はAtMAP70-1

とも結合したことから,AtMAP70-1も木部細胞分化に おける表層微小管の制御にかかわっていると考えられ た(21).AtMAP70-1およびAtMAP70-5は肥厚した二次 細胞壁の両端,すなわち一次細胞壁と二次細胞壁の境界 付近に並ぶ表層微小管に顕著に局在していた.さらに,

 あるいは   の過剰発現によっ て,原生木部道管に見られるようならせん状様の二次細 胞壁パターンがより高い頻度で形成された.一方,

RNA干渉によって   あるいは    の発現を抑制した場合には,壁孔を有する後生木部道管 様の二次細胞壁が形成された.また二次細胞壁が細胞表 層から剥離し,細胞内部に形成される様子も観察され た.これらの結果からMAP70タンパク質が二次細胞壁 と一次細胞壁の境界を制御することで,らせん状および 網目状の細胞壁パターンの形成を促進する因子であると 考えられている(21).MAP70がどのようにして二次細胞 壁の境界に局在し,二次細胞壁の形成を制御している か,詳細は明らかになっていない.

これまでのところ両候補タンパク質とも植物個体の原 生木部において機能しているという証拠は示されていな い.二次細胞壁のパターン形成における両者の役割を明 らかにするには,今後さらなる解析が必要であろう.

後生木部道管

後生木部道管は伸長成長を終えた組織において,原生 木部道管よりも遅れて形成される.後生木部道管におい ては主に網目状や孔紋状の二次細胞壁が形成され,原生 木部道管よりも二次細胞壁が広い範囲にわたって沈着す るため,より高い強度を備える.われわれはシロイヌナ ズナ培養細胞において後生木部道管分化のマスター転写 因子であるVND6の発現を人為的に誘導し,80%の高頻 度で同調的に後生木部道管を分化させる実験系を確立し た.高い分化誘導効率に加え,この実験系ではアグロバ クテリウムによる高効率な遺伝子導入,ライブイメージ ングによるタンパク質の動態・相互作用解析,RNA干 渉による遺伝子機能解析,マイクロアレイによる網羅的 遺伝子発現解析などの多彩な分子生物学実験を迅速に進 めることが可能である.この実験系を用いて表層微小管 の動態を追跡したところ,分化誘導後24時間程度で局 所的に表層微小管が消失していき,その場所が壁孔にな る様子が観察された.表層微小管の動態を詳細に解析し てみると,壁孔が形成される領域では表層微小管がより 高い頻度で脱重合を起こしていることがわかった.マイ クロアレイによる遺伝子発現解析と可視化スクリーニン

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グによって,新規の微小管付随タンパク質MIDD1およ び ROP GTPase とその制御因子がこの現象において重 要な働きを担っていることが明らかとなった(22)

MIDD1は2つのコイルドコイルドメインからなるタ ンパク質であり,壁孔の細胞膜にアンカーされることに より,壁孔内の表層微小管に特異的に結合していた.

MIDD1は表層微小管のプラス端に顕著に局在したこと から,MIDD1が表層微小管のダイナミクスを制御して いる可能性が示唆された.  のRNA干渉により,

表層微小管の局所的な脱重合および壁孔の形成が阻害さ れ,一方,  を過剰発現すると表層微小管の密度 が低下したことから,MIDD1が壁孔形成における表層 微小管の脱重合を促進していると考えられた(22)

MIDD1は   において微小管に直接結合したが,

微小管の脱重合を促進する活性は見られなかった(22). ではどのようにしてMIDD1は表層微小管の脱重合を促 進しているのだろうか.最近になってMIDD1がKine- sin-13Aと相互作用することが報告された(23).AtKine- sin-13AはKinesin-13ファミリーに属しており,動物に おいてこのファミリーのメンバーはATP依存的に微小 管の脱重合を誘導することが知られている.これまでに AtKinesin-13Aはトライコームの形態形成にかかわって いることが報告されているが(24),AtKinesin-13Aは微 小管の脱重合に必要なneck領域を欠いており,またタ バコの葉の表皮細胞ではゴルジ体様の構造に局在したこ とから,微小管を脱重合する活性は低いと考えられてい る.しかしながら木部細胞ではMIDD1と結合すること により,壁孔内の微小管に作用し,微小管の脱重合を誘 導しているかもしれない.タバコの葉においてMIDD1 とAtKinesin-13Aの共発現により微小管が脱重合したこ とは(25) この可能性を支持する.

MIDD1はRIP/ICRファミリー(26, 27)  に属し,C末に 活性型 ROP GTPase に結合するモチーフを有すること から,ROP GTPase  を介して細胞膜にアンカーされて

いると考えられた(22).そこで,木部細胞で発現してい る ROP GTPase の局在を調べたところ,ROP11が,細 胞膜に局在しつつ壁孔内ではMIDD1とも共局在し,

MIDD1と同様のダイナミクスを示すことがわかった.

BiFC法 お よ びFRET法 に よ り,MIDD1が 活 性 型 の ROP11に結合すること,壁孔ではROP11が活性型とし て存在し,MIDD1を細胞膜にアンカーしていることが わかった.ROP11の恒常的活性型を導入すると壁孔の 形成が阻害されたことから,局所的なROP11の活性化 が壁孔形成に必須であることがわかった.

ROP GTPase  はGTPと結合することにより分子ス イッチとして働くタンパク質であり,ROP guanine nu- cleotide exchange factor (ROPGEF)  に よ り 活 性 型

(GTP結 合 型) に,ROP GTPase activating protein 

(ROPGAP) により不活性型(GDP結合型)に変換され る.木部道管で発現するROPGEFおよびROPGAPの局 在を調べた結果,ROPGEF4とROPGAP3が壁孔の細胞 膜近傍に局在した.ROPGEF4は壁孔の中央部分にパッ チ状に局在していた.このROPGEF4のパッチ状の局在 は二次細胞壁の形成に先立って観察された.  

のT-DNA挿入変異体およびRNA干渉導入株の根では 後生木部管の壁孔の密度が低下していた(図1B).これ らの結果から,ROPGEF4は壁孔の形成に必要な因子で あり,おそらく局所的な ROP GTPase の活性化を介し て壁孔形成を制御していると考えられる(25)

自己組織化による二次細胞壁パターンの構築 われわれは未分化の培養細胞においてROPGEF4およ びROPGAP3,ROP11を 同 時 に 発 現 さ せ る と,ROP- GEF4が細胞膜上にパッチ状に形成され,局所的な ROP11の活性化が引き起こされることを見いだした.

このとき,MIDD1を同時に発現させると,局所的な表 層微小管の脱重合が引き起こされ,木部道管で見られる 図2ROP GTPaseMIDD1によ る壁孔形成の制御

パ ッ チ 状 に 局 在 し たROPGEF4に よって局所的にROP11が活性化し,

細胞膜ドメインが形成される.活性 型ROP11がMIDD1を 細 胞 膜 ド メ イ ンにトラップすることにより,細胞 膜ドメインの表層微小管を脱重合す る.表層微小管が失われた領域では 二次細胞壁の沈着が抑制され,壁孔 が形成される.

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ような表層微小管の配向になった.このことから,この 現象は木部道管分化における細胞膜ドメインの形成を再 現していると考えられる.次に,この再構築実験系を用 いて細胞膜ドメインが形成される条件を詳細に解析し た.その結果,細胞膜ドメインの形成には ROPGEF4,  ROPGAP3  およびROP11のすべてが必要であり,どれ かを欠く,あるいはROP11を恒常的に活性型か不活性 型に変異させると,このROPGEF4のパッチ状の局在は 全く形成されなかった.このことから,ROP11の活性 型・不活性型のサイクリングがこの現象を引き起こして いると考えられた(25)

それでは,どのようにして活性型ROP11の細胞膜ド メインが形成されるのであろうか.出芽酵母では Rho  GTPase であるCdc42pがBem1pスキャホールドタンパ ク質を介してGEFと複合体を形成することにより,正 のフィードバックを生じ出芽初期の細胞膜ドメインが形 成される(28).植物においてはROPGEFが受容体様キ ナーゼと結合することが報告されている(29).花粉管に おいては,受容体キナーゼPRK2がROPGEF1および 

ROP GTPase  と 相 互 作 用 す る こ と が 報 告 さ れ て い る(30).ROPGEF4も何らかの受容体キナーゼを介して  ROP GTPase  と複合体を形成することにより,正の フィードバックを生じ,パッチ状のROPGEFの局在お よび局所的な ROP GTPase の活性化を引き起こしてい るのかもしれない.また,活性型ROP11の細胞膜ドメ インの大きさや密度は,ROPGEFやROP11,および ROPGAPの発現量あるいは活性のバランスにより制御 されている可能性が考えられる.

表層微小管と細胞膜ドメインの相互作用

では,多様な二次細胞壁のパターンはどのようにして 制御されているのであろうか.われわれは,活性型 ROP11の細胞膜ドメインの形態が微小管の脱重合阻害 剤taxolの影響を受けて変化したことから,表層微小管 が活性型ROP11の局在に作用すると考えた.そこで,

上述した方法を用いて,活性型ROP11の細胞膜ドメイ ンを再構築し,そこにMIDD1を発現させた.その結 果,表層微小管が活性型ROP11の細胞膜ドメインの境 界となって多角形状になることを見いだした.このと き,表 層 微 小 管 を 薬 剤 処 理 に よ っ て 破 壊 す る と,

ROP11の活性化ドメインが円形になった.この実験に より,表層微小管が活性型ROP11の境界を維持してい ることが示唆された.さらに,MIDD1と表層微小管と ROP11との関係をより詳細に調べた結果,表層微小管 がMIDD1を介してROP11を特定の細胞膜ドメインから 排除していることがわかった.表層微小管は未知の因子 によって細胞膜にアンカーされているため,おそらく MIDD1とROP11の複合体は,細胞膜と表層微小管との 間の狭い空間に入って移動することが困難になるのでは ないかと考えられる.詳細なメカニズムを明らかにする にはさらなる解析が必要だが,これらの結果から,

MIDD1は微小管のプラス端に作用することで表層微小 管の消失を促す一方で,表層微小管の側面においては ROP11を排除する働きをしており,その結果,MIDD1 を介して表層微小管と活性型ROP11の細胞膜ドメイン が相互に排他的な制御を行っていることが示唆され た(25).この相互に排他的な相互作用により,表層微小 管がより長く安定であるほど活性型ROP11の細胞膜ド メインに強く作用し,より楕円形の壁孔が形成されると 考えられる(図4

図3ROP GTPase と表層微小管による自発的な細胞膜ドメ インの形成

ROPGEF4とROPGAP3によってROP11が活性型と不活性型をサ イクルすることにより,ROPGEF4のパッチ状構造が自律的に形 成され,ROP11が局所的に活性化される (GTP-ROP11). 活性化し たROP11はMIDD1を細胞膜にリクルートし,表層微小管のプラ ス端に作用して脱重合を誘導する.一方,表層微小管はROP11- MIDD1複合体を細胞膜上から排除することによって,細胞膜ドメ インの拡大を抑制している.ROPGAP3によって不活性型に変換 された ROP11 (GDP-ROP11) はMIDD1から離れ,表層微小管の 影響を受けずに拡散していると考えられる.

(6)

組織特異的な二次細胞壁パターン形成の理解に向けて 後生木部道管,原生木部道管,および木部繊維は,ど のようにして異なったパターンの二次細胞壁を形成する のであろうか. のT-DNA挿入変異体および 恒常的活性型ROP11の導入により,根の後生木部道管 における壁孔形成が抑制されたが,原生木部道管のらせ ん状の二次細胞壁はほとんど影響を受けなかった.この ことから原生木部道管と後生木部道管は異なった仕組み で二次細胞壁の沈着パターンを制御している可能性が示 唆される. の発現領域を観察したところ,

は後生木部道管で顕著に発現していた(25). おそらく ROP GTPase の局所的な活性化を介した壁孔 形成は後生木部道管で主に機能しており,原生木部道管 の二次細胞壁パターンは ROP GTPase の局所的な活性

化よりもむしろMAP65やMAP70, あるいは未知のタン パク質によって制御されているのかもしれない.また,

の発現は,後生木部道管分化のマスター制 御因子VND6の過剰発現よって誘導されていたが,木 部繊維分化のマスター転写因子SND1による顕著な発現 誘導は見られなかった(31).この結果から考えると,木 部繊維でみられる微小な壁孔はROP GTPaseの活性の 低さによるものかもしれない.

おわりに

二次細胞壁のパターンを制御する分子メカニズムは,

この数年で急速に理解が進んだ.この背景には維管束細 胞の分化を制御する転写ネットワークの解明,シロイヌ ナズナを用いた木部細胞分化誘導系の確立,イメージン グ技術の発達など,多面的な研究と技術の進歩がある.

しかしながら原生木部道管に見られる環状やらせん状の 二次細胞壁を形成する仕組みや,木部繊維の壁孔に関す る知見はいまだに少なく,二次細胞壁のパターン形成を 理解するにはさらなる研究が必要である.特に,各木部 細胞での遺伝子発現解析に加え,相互作用するタンパク 質の探索や翻訳後修飾などを解析することで,さらに多 数の鍵因子を同定することが重要である.さらに,これ らの因子の木部細胞における挙動を一分子イメージング や超解像顕微鏡法などのイメージング技術を駆使して明 らかにすることで,二次細胞壁パターンの動的な制御機 構が明らかになると期待される.

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図4後生木部道管における二次細胞壁パターンの制御モデル 後生木部ではROPGEF4によってROPGTPaseが局所的に活性化 し,MIDD1による表層微小管の脱重合をもたらすことによって壁 孔が形成される.また,微小管とROP GTPaseとの相互に排他的 な作用により,表層微小管の安定性の影響を受けて壁孔の形態が 変化する.表層微小管の安定性が高いほど壁孔が細長く変形する と考えられる.

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  27)  S. Li, Y. Gu, A. Yan, E. Lord & Z. B. Yang : , 1,  1021 (2008).

  28)  L. Kozubowski, K. Saito, J. M. Johnson, A. S. Howell, T. 

R. Zyla & D. J. Lew : , 18, 1719 (2008).

  29)  Y. Zhang & S. McCormick : , 

104, 18830 (2007).

  30)  F. Chang, Y. Gu, H. Ma & Z. Yang : , 6, 1187 

(2012).

  31)  K. Ohashi-Ito, Y. Oda & H. Fukuda : , 22, 3461 

(2010).

プロフィル

小田 祥久(Yoshihisa ODA)    

<略歴>2002年東京大学理学部生物学科 卒業/2007年同大学大学院新領域創成科 学研究科博士課程修了(生命科学博士)/

同年同大学大学院理学系研究科研究員/

2011年同助教,科学技術振興機構さきが け研究者兼任<研究テーマと抱負抱負>二 次細胞壁パターンの制御機構に関してさら に研究を進めており,MIDD1が表層微小 管を脱重合する仕組み,表層微小管の安定 性にかかわる因子の実体,自発的な細胞膜 ドメインの形成過程について新知見を得つ つある.今後も細胞骨格や細胞膜タンパク 質の動態と機能に着目することにより,植 物細胞の分化,成長,さらには植物の発生 を支える未知のメカニズムを明らかにした いと考えている<趣味>音楽鑑賞 福田 裕穂(Hiroo FUKUDA)    

<略歴>1977年東京大学理学部生物学科 卒業/1982年同大学大学院理学系研究科 植物学専門課程を修了.大阪大学理学部助 手,東北大学理学部助教授・教授を経て,

1995年より東京大学理学部・理学系研究 科教授/2013年より東京大学副学長<研 究テーマと抱負>維管束組織をモデルとし て,細胞分化,細胞間相互作用,プログラ ム細胞死などに基づく植物特有の組織構築 の理解を目指して研究を行っている.独自 の細胞分化系やシロイヌナズナを用い,分 子生物学,細胞生物学,遺伝学,生化学な ど幅広い手法を駆使して研究を展開してい る.また,基礎的研究と平行して植物の利 活用に向けたバイオマス改変の研究を行っ ている<趣味>釣り,ソフトボール,カラ オケ,読書,美術鑑賞

Referensi

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話の主眼を確認すること それでは、 ターゲットとなる現象、 すなわち、 修復開始に用いられた、 その同じ表現をただ繰 り返すだけという修復操作は、 どのような修復 なのだろうか、 あるいは何を行なっているのだ ろうか。 まず一つのことを確認しておこう。 断 片からまでを比べてみたとき、 気づくこと は、 修復開始において繰り返されている表現は、