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植物の転写活性化因子を転写抑制化 因子に変換するCRES-T法

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【解説】

植物の転写活性化因子を転写抑制化 因子に変換するCRES-T法

その歴史,現状,展望

光田展隆 * 1 ,高木 優 * 1 , 2

一つで多くの遺伝子発現を制御する転写因子は,遺伝子組換 え技術における操作対象として魅力的である.強力で短い転 写抑制ドメインを転写因子のC末端(もしくはN末端)に付 加したドミナントネガティブ体(キメラリプレッサー)を発 現 さ せ る  Chimeric  REpressor  gene-Silencing  Technology 

CRES-T 法は,キメラリプレッサーが本来の転写因子の標 的遺伝子の発現を抑制することによりノックアウト(多重変 異体)同様の表現型を誘導する.CRES-T法はこれまでにモ デル植物において機能が未知であった多くの転写因子の機能 を明らかにしてきただけでなく,実用植物においても優れた 形質を付与できたり,CRES-T法を適用した種子のライブラ リーをスクリーニングすることにより環境ストレス耐性を示 CRES-Tラ イ ン を 同 定 で き た り す る こ と が わ か っ て き た.

CRES-T法 の 作 用 原 理 は い ま だ よ く わ か っ て い な い が,

WD40タ ン パ ク 質 で あ るTOPLESSを 介 し て,ヒ ス ト ン 脱 ア セチル化酵素を呼び寄せるという説が有力な仮説になってい る.CRES-T法の表現型は基本的にノックアウト(の掛け合 わせ)で再現でき,ノックアウトはNBT技術によって任意 の も の を 比 較 的 作 り や す く な っ て き て い る の で,NBT技 術

によってCRES-Tラインを再現し,導入遺伝子を戻し交配な

ど に よ っ て 抜 く こ と に よ り,実 質 的 に 非 組 換 え 体 と し て

CRES-Tラインを再現できる可能性がある.

はじめに

1.  遺伝子組換え技術はなぜ必要なのか

植物の育種は,集団の中から優れた形質を示すものを 選抜することを繰り返す選抜育種が基本であり,古来よ り行われてきた.選抜育種を繰り返すほど近親交配(自 殖可能な種においては自殖)となり,いわゆる純系もし くは近交系となって次世代以降の形質も安定してくる.

純系や近交系が多数整備されるほど高度に育種された植 物では,異なる純系もしくは近交系を交配して得られる 雑種(種内雑種)第一代において,両親の優れた形質を

「いいとこどり」できるだけでなく,未知のメカニズム によって,多くの生育特性において両親のいずれよりも 優れた形質が均一に発現される雑種強勢(ヘテロシス)

という現象が見いだされている.現在世界的に商業/農 業として栽培されている作物(穀類,蔬菜類)の多くは この現象に基づく一代雑種になっている.一方で,育種 History and Future Perspective of CRES-T : A Method to Con-

vert Transcriptional Activators to Repressors in Plants

Nobutaka MITSUDA, Masaru OHME-TAKAGI, *1産業技術総合 研究所生物プロセス研究部門植物機能制御研究グループ,*2埼玉 大学環境科学研究センター

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の歴史が浅かったりライフサイクルの長い植物において は純系化もしくは近交系化が十分ではなく,雑種強勢を 利用した品種改良は容易ではない.また,何らかの事情 により十分な遺伝的多様性をもつ種子集団や個体集団を 十分確保できないような植物種の場合,そもそも交配に よる育種には限界がある.こうした植物種で品種改良を 行っていくには,遺伝子組換え技術が必須であると筆者 らは考えている.高度に育種された植物種においても,

遺伝子組換え技術が交配育種では決して得られない形質 を付与できることは周知の事実である.

2.  大きく2つに分けられる遺伝子組換え技術

遺伝子組換え技術には大きく分けて2つの種類があ る.対象植物種とは異なる生物の遺伝子を導入して新た な形質を付与しようとするものと,対象植物種自身の遺 伝子を操作しようとするものである.自身の遺伝子の過 剰発現やRNAiなどによる発現阻害が後者にあたる.現 在実用化されている遺伝子組換え植物は前者であること が多いが,それは交配育種では決して得られない形質を 付与できることが一つの要因である.一方で,後者は交 配育種に近い発想であり,植物のもつ潜在能力を現代技 術によって短期間で最大限に発揮させようとするもので ある.後者の戦略で作られた組換え植物は,交配育種や 突然変異誘発技術などを駆使することにより,遺伝子組 換え技術に頼らず再現できる可能性があると考えられ る.特に本稿で解説するCRES-T法で作成した植物は,

最後の展望の項で述べるが,確かな戦略に基づき非組換 え体として再現することが可能である.つまり,従来技 術によって目指すべき遺伝子発現状態の目標を与える羅 針盤技術であるとも言える.無論,遺伝子組換え体とし てそのまま実用化できるならそれに越したことはない が,植物種や各国の情勢によってはそれが容易ではない ことは周知の事実である.

3.  なぜ私たちは転写因子にこだわるのか

植物自身の遺伝子を操作して大きな変化を引き起こし たいときに,転写因子は非常に有望な操作対象である.

なぜなら,転写因子は一つで多数の遺伝子の働きを調節 するからである.また,すべての遺伝子(モデル植物シ ロイヌナズナの場合約27,000個)が発現調節を受けてい るという前提に立つなら,転写因子(シロイヌナズナの 場合全部で約1,900個)は総体としてすべての生命現象 にかかわっていると言え,転写因子は生命現象の縮図で あり,全遺伝子に比べれば圧倒的に限られた数しかない 転写因子を操作することによりすべての生命現象を操作

可能であると言える.哺乳類においてiPS細胞を樹立す るのに当初必要とされた「山中四因子」がすべて転写因 子であったことは記憶に新しい(1).さらに,転写因子は その操作方法が普遍的に確立していることも有利な事情 として挙げられる.すなわち,機能亢進 (Gain of func- tion) を得たければ,ヘルペスウイルス由来の転写活性 化ドメインVP16(2)を転写因子のC末端に付加して発現 させれば良いし,機能抑制 (Loss of function) を得たけ れば,本稿で解説するCRES-T法が有効に機能する.

CRES-T法の歴史と概要

2013年で誕生(最初の論文)から10周年を迎えた CRES-T法であるが,その歴史をひも解くと端緒は約20 年前にまでさかのぼる.エチレン応答にかかわるシスエ レメントを研究していた高木らは1995年に,植物特異 的な転写因子として最大のファミリーを構成するAP2/

ERFファミリーに属する転写因子群を世界で初めて同 定し(3),それらの一部が当時としては新しい概念であっ た転写抑制化因子であることを見いだした(4).その後,

図1転写抑制ドメインのコンセンサス配列シークエンスロ ゴ(36)

大きく分けて4つのタイプがある.上から3つはAP2/ERFファミ リー,4つ目はC2H2ジンクフィンガーファミリー,5つ目はB3 ファミリー,6つ目はホメオドメインファミリーなどの転写因子 によく見られる.いずれにおいても疎水性アミノ酸の存在が目立 つ.後述するSRDXは上から4つ目に該当する.

(3)

転写抑制にかかわる短い機能ドメインを同定し(5),それ に類似したモチーフが植物の転写因子の一部に共通して 存在することを見いだしEARモチーフと命名した(5). その後も機能的に類似した短い転写抑制ドメインが続々 と見つかっており(6〜8),EARモチーフも含めて (F/L/

I/M)DL(D/E/N/Q/R)X1‒3P, (A/R/N/D/C/Q/E/G/H/

K/M/S/T)L(A/R/N/D/C/Q/E/G/H/K/M/S/T)L(A/

R/N/D/C/Q/E/G/H/K/M/S/T)L, (K/R)LFGV,  TLXLF(P/R) というコンセンサス配列で表される(9) 

(図1.特にAP2/ERFファミリーの一部やC2H2ジンク フィンガーファミリーのC末領域,AUX/IAAファミ リーのN末領域に高頻度に保存されており,シロイヌナ ズナの場合,全転写因子約1,900個のうちの約330個に このコンセンサス配列が見られ(9),このうちの相当程度 はもとから転写抑制化因子であると考えられる.このコ ンセンサス配列は高等植物,シダ植物,コケ植物では転 写因子に有意に高頻度に見られるが,藻類ではそのよう な傾向が見られないことから,この配列に依存した転写 抑制メカニズムはコケ植物より高等な植物にのみ存在す ると考えられる.高木らは転写抑制化因子と推定される 遺伝子のうち,C2H2ジンクフィンガーに属する強力な 転写抑制化因子であるSUPERMAN遺伝子のC末端領 域に見つかるモチーフを人為的に改変した12アミノ酸 からなる配列をSuperman Repression Domain modified  ver. X (SRDX ; LDLDLELRLGFA) と命名し,それを 利用して新しい転写因子機能サイレンシング法である CRES-T法を開発した(10).CRES-T法を適用するには転 写因子のC末端(もしくはN末端)にSRDXを付加した 形で遺伝子を発現させる.発現させるためのプロモー ターは任意のものを使用できるが,網羅的に多数の転写 因子にCRES-T法を適用するような実験の場合は植物体 全体での発現を誘導できるカリフラワーモザイクウイル スの35S RNAのプロモーター(35Sプロモーター)を 選択する.こうして発現される融合タンパク質はもとの 転写因子が活性化因子であれば,抑制化因子に変換され ており,キメラリプレッサーと呼ぶ.もとの転写因子が 抑制化因子であった場合は,SRDXを付加しても活性化 因子に変わることはなく,抑制化因子のまま(より抑制 能力が強まることもある)である.キメラリプレッサー は転写因子の標的遺伝子の発現を抑制して機能抑制

(Loss of function,ノックアウト)の表現型を引き起こ す(図2.つまりキメラリプレッサーは一種のドミナ ントネガティブ分子として働くと言える.CRES-T法の 優れた点はその簡便さと遺伝子の機能重複を乗り越えら れる点にある.すなわち,植物体内に機能重複した転写

因子が複数存在するような状況においても,キメラリプ レッサーは優性的に標的遺伝子の発現を抑制して,機能 抑制の表現型を誘導する(10).これはシスエレメントを 奪い合うような単純な競争阻害ではないことを示唆して おり,実際トランジエントアッセイ系においては,リプ レッサーは10倍多く存在するアクティベーターとの競 合にも打ち勝って標的遺伝子の発現を抑制する(4)

CRES-T法による機能未知転写因子の機能解明

筆者らはCRES-T法を利用してこれまで機能がわかっ ていなかった多くの転写因子の機能を解明してきたが,

本稿ではその一例として,木質形成を制御するNAC ファミリーの転写因子群について紹介したい.植物特異 的な転写因子ファミリーであるNACファミリーは100 個以上の遺伝子からなる大きなファミリーを形成してい る.筆者らはシロイヌナズナにおいてこれらすべてに 35SプロモーターによるCRES-T法を適用して植物にお ける表現型を網羅的に観察する中で,T1植物の約30%

の個体において葯の自然開裂が起きなくなって雄性不稔 の表現型を誘導する遺伝子を発見した(11) (図3.その 後の詳細解析により,この原因は葯内被細胞層における 二次細胞壁(=木質)形成が起きなくなっているからで あることがわかり,この遺伝子を 

 ( ) と命名した(11) 

(図3).発現パターンの解析結果から, と が葯で重複して発現し, と がそれ以外の木 質形成部位で重複して発現しているであろうことが予測 された.そこで, 二重変異体を作成したとこ

転写因子Aキメラ リプレッサー

RD

図2CRES-T法の概念図

転写抑制ドメイン (RD) を付加したキメラリプレッサーは内在性 の機能重複した転写活性化因子が複数存在するような状況下でも 優性的に働いて標的遺伝子の発現を抑制し,機能抑制の表現型を 誘導する.

(4)

ろ, プロモーター: 発現植物と同様 に葯の内被細胞における木質形成が抑制され,葯の自然 開裂が起きなくなることがわかった(11) (図3).これは つまりCRES-T法が遺伝子の機能重複を乗り超えて作用 していたことを示している.次に 二重変異体 を作成したところ,葯の自然開裂は正常であったが,花 茎や果実莢などにおける木質形成が起こらなくなり,植 物は直立できず,果実莢の自然開裂も起こらなくなっ た(12) (図3).しかし, : 発現植物では これらの表現型は明確には見られていなかった.そこ で,プロモーターをNST1あるいはNST3のものに変え

て ないし を発現させたとこ

ろ,T1植物の30 〜70%の個体において花茎や果実莢で の木質形成が抑制され, 二重変異体と同様な 表現型が得られた(12) (図3).このことは場合によって は,つまり,35Sプロモーターが効きにくい組織や状況 においてCRES-T法を用いるときには自身のプロモー ターを使ったほうが良い可能性があることを示してい る.しかし35Sプロモーターを用いることで意図しない 現象を引き起こす可能性があるとまでは考えなくて良い というのが筆者らの見解である.なぜなら,CRES-T法 は標的遺伝子の発現を抑制する技術であり,標的遺伝子 が発現していない組織やタイミングでキメラリプレッ サーが発現していたとしても何ら悪影響を及ぼさないと 考えられるからである.つまり,35Sプロモーターを用 いたCRES-T法により何らかの表現型が見られたなら ば,それは適用した転写因子と結合配列が同じである転 写因子のいずれか(もしくは複数)のノックアウトでそ

のような表現型が見られるはずだと考えるのが妥当であ る.どこまでの範囲の転写因子が同じDNA配列に結合 するのかは難しい問題であるが,分子系統樹などからあ る程度は推察できるものである.

そのヒントとなる,筆者ら以外によるCRES-T法を活 用した研究事例を一つ紹介したい.上述したNST転写 因子群と同じサブファミリーに属するVND転写因子群

(図4)は35Sプロモーターでそのキメラリプレッサーを 発現させると,道管形成が阻害されて成長が著しく阻害 される(13).VND転写因子群は高度に機能重複している ことがわかってきており(13),CRES-T法がVND転写因 子群の機能解明に大きく貢献したと言える.VND転写 因子群とNST転写因子群はほぼ同じ標的(下流)遺伝 子を共有しているとされるが(14〜16),NST転写因子群の キメラリプレッサーを35Sプロモーターで発現させても 決してこのような表現型は見られない.このことは,

CRES-T法においては,同じ機能をもつ転写因子群の多 重機能抑制を誘導できるが,生体内での機能が異なって いれば影響を及ぼさないことを示唆している.

CRES-T法による応用展開

筆者らはシロイヌナズナにおいて収集しうるすべての 転写因子に関してcDNAクローンを収集し(イントロ ンを含んだゲノム配列でも良いのではないかという指摘 があるが筆者らは試したことはない),SRDXを付加し たコンストラクトを作成して,シロイヌナズナに導入し た組換えT1種子を網羅的に作成してきた(〜 1,600種 類).本来であればこれを1種類ずつ播種してT1植物に おける表現型を観察すべきであるが,それはたいへんな 労力と時間を要する.筆者らはできるだけ早期にT2種 子のライブラリーを得てさまざまなスクリーニングを実 施したかったので,T1種子を40種類ずつ混合したプー ルを42プール作成し,各プールにつき200個体以上の 図3NST転写因子群のCRES-T表現型とノックアウト表現型

(上段) : 導入植物は 二重変異体と同様

に 葯(矢 印) の 自 然 開 裂 が 起 き ず 雄 性 不 稔 と な る.(下 段)

: 導入植物は 二重変異体と同様に

繊維細胞での木質形成が起きず直立できない.写真はいずれも花 茎の横断切片であり,細胞状の蛍光は木質中のリグニンの自家蛍 光を,それ以外の蛍光は皮層細胞の葉緑体の自家蛍光を示す.

NST1NST3

NST2 NST・SMB サブグループ

VNDサブ グループ

SMBBRN1 BRN2 VND7VND6 VND3VND2 VND4VND1 VND5

VNSサブ ファミリー

図4NST転写因子群近傍の分子系統樹

100以上の遺伝子を含むNACファミリーの分子系統樹から,NST 転写因子群近傍の遺伝子だけを抜き出して示している.

NST1NST3

NST2 NST・SMB サブグループ

VNDサブ グループ

SMBBRN1 BRN2 VND7VND6 VND3VND2 VND4VND1 VND5

VNSサブ ファミリー

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T1植物を育てて,表現型の観察を行いつつT2種子を収 集することにした(図5.このストラテジーならば42 回のT1播種を行うことでT2種子ライブラリーを得ら れる.

こうして得たT2種子ライブラリーを各種環境ストレ ス下で発芽,育成させることにより耐性株を拾うことが できる.ここでは一例を挙げたい.高塩や高浸透圧条件 下では植物の発芽や生長が著しく阻害される.高塩条件 下(175 mM NaCl)において,CRES-T種子ライブラ リーをスクリーニングしたところ,最終的に6種類の CRES-Tラインを耐性ラインとして同定できた(17) (図6 これらのラインでは既知のABA系ストレス応答遺伝子 が塩処理に応じて野生株よりも高発現しており,それが 耐性獲得の要因になっていると思われた(17).ほかにも オゾン耐性株やリン酸欠乏耐性株なども同定できてい る.リン酸欠乏耐性株の詳しいメカニズムはまだ解析中 であるが,このラインではリン酸の取り込みやリサイク ル能力が高いだけでなく,リンをできるだけ使わなくて よいように物質生合成,代謝のメカニズムを変化させて いることが示唆されている.日本を含む酸性土壌地では リン酸が可溶化しにくく植物がリン欠状態に陥ることが 知られており,通常は施肥や石灰散布による土壌改良に

よってこの問題を回避しているが,このラインのように 低リン酸条件下でも生育できるように作物を改良できれ ば,肥料生産などに必要なコストとエネルギーを大きく 削減できることが期待される.

これらのスクリーニングにおいて,特筆すべき点は,

標的遺伝子の発現を抑制するCRES-Tを適用した種子ラ イブラリーからでも耐性株が同定できるということであ る.耐性を発揮するために,シャペロンや酵素などのタ ンパク質発現が必要であるとの前提に立てば,CRES-T ラインではこれらの発現を抑制している転写抑制化因子 の発現が抑制されていると考えるべきであり,非常に興 味深い.また,一連のスクリーニングで同定されてくる 転写因子の多くはこれまで変異体スクリーニングなどで 同定されていない新規の因子が多く,機能重複を克服で きるCRES-Tならではの成果だと言える.

CRES-T法の応用として挙げられるもう一つの成果は 花き植物におけるCRES-T法を利用した花形改変であ る.筆者らは多くの共同研究者と協力して,CRES-T法 をモデル植物以外の植物にも適用する努力を行ってき た.これまでにCRES-T法の有効性が確認された植物種 は,タバコ,イネ,キク,トレニア,アサガオ,シクラ メン,バラ,カーネーション,リンドウなど非常に多岐 図5CRES-T種子ライブラリーの 作成

CRES-T T2種子ライブラリーの作成 過程を示している.

T2種子を回収したCRES-T種子ライブラリー

(6)

にわたる.ここではおしべとめしべの形成を制御するホ メオティック遺伝子(転写因子)AGAMOUS(AG) (の 相同遺伝子)にCRES-T法を適用したシクラメンの例を 紹介したい.シロイヌナズナや多くの双子葉植物におい てAG遺伝子が欠損すると,おしべとめしべの代わりに がくと花弁からなる繰返し構造が形成され,いわゆる

「八重咲き」形質を示す.シクラメンにおいてはAG転 写因子はCpAG1とCpAG2とに機能分化しており,それ ぞれ主におしべとめしべの形成を制御していると考えら れるが,この両方にCRES-T法を適用することにより

( : : ),あるいは

変異体に : を適用することに より,高頻度かつ安定した超八重咲きシクラメン(花弁 の枚数が40枚以上)の生産が実現した(18) (図7.この ほかにもさまざまな花き植物においてCRES-T法は印象 的な表現型を誘導しており,それらのデータはシロイヌ ナズナのデータも含めてFioreDB(19) (http://www.cres- t.org/fiore/public̲db/) にて公開中である.

これら非モデル植物にCRES-T法を適用するにあたっ て,検討すべきは遺伝子とプロモーターである.遺伝子 についてはシロイヌナズナの遺伝子を用いてもシロイヌ

ナズナで見られた表現型と類似した表現型が観察される こともあるが(20〜22),それぞれの種からオルソログをク ローニングして用いるほうがより望ましいと考えてい る.プロモーターの選択も重要で,種によっては35Sプ ロモーターが有効でない場合もある.そこで,プロモー ターと遺伝子を自由に組み合わせてCRES-T法を適用で きるよう,既存の植物用マルチサイトゲートウェイベク ター(23) を改変したベクターを開発して配布している(24) 

(表1.しかし,このベクターを開発する際にわかった のは,遺伝子とSRDXの間にatt配列が挿入されると CRES-T法において表現型を誘導できる程度が低下する という事実である(24).筆者らはこの低下を補うために 高効率ターミネーター(25)を採用するなどして,ゲート ウェイを使わない,NOSターミネーターの従来ベク ターと同等の効率で表現型を誘導できるベクターを配布 している.

CRES-T法の原理

CRES-T法の作用メカニズムには誕生から10年を経 た今になってもいまだよくわかっていない.単純な競争 阻害ではないことははっきりしており,クロマチン構造 などに劇的な変化を与えているであろうことが推測され ている.これまでにCRES-T法の作用メカニズムに関し て広く知られているのは,WD-40タンパク質である TOPLESS (TPL) およびその類似タンパク質TPRsが EARモチーフと強く相互作用することである(26, 27).ま た,一部の転写抑制化因子に関して,その抑制機能が TPL,TPRsに依存しており,TPLを介して転写の抑制 にかかわるヒストン脱アセチル化酵素 (HDA) とも複合 体を形成していることがわかってきている(28) (図8 TPL, TPRsの機能が抑制されると,文字どおり地上部 図6塩耐性を示すCRES-Tラインのスクリーニング結果

CRES-T T2種子ライブラリーをスクリーニングした結果,6種類 の転写因子を同定した.本図は文献16の Fig. 6 の一部を抜き出し たものである.

図7CRES-T法により作成した超八重咲き(バラ咲き)シク ラメン

(7)

が形成されなくなることが知られており(29),転写抑制 化因子の多さと重要さを鑑みれば,納得できる表現型だ とも言える.しかし,最近では一部の転写抑制化因子に 関してTPLやTPRsを介さずに直接ヒストン脱アセチ

ル 化 酵 素 と 相 互 作 用 す る と い う 報 告 も 出 て き て お

(30, 31),転写抑制のメカニズムはいまだ五里霧中と

いったところである.TPLやヒストン脱アセチル化酵 素が一部の転写抑制化因子の転写抑制機構に関係してい るであろうことに関してはもはや疑いの余地はなくなり つつあるが,それがすべての転写抑制化因子に関して一 般化できるかについては筆者らは少なからず疑問をもっ ている.

今後の展望

CRES-T法を最初に報告した2003年の論文(10) は2013 年現在で Google Scholar Citations  によればすでに300 件以上引用されている.これはCRES-T法がすでに非常 に多くの転写因子の機能解明や応用利用に活用され普及 していることを示している.しかしいまだCRES-T法が 実用化まで漕ぎ着けた例はなく,それこそが次の10年 の主要な課題の一つである.CRES-T法を実用化するに あたってあらためてCRES-T法の長所と短所をまとめて おきたい.まず長所は,「遺伝子の機能重複を乗り超え

RD 転写抑制因子

図8転写抑制の推定メカニズム

一部の転写抑制化因子に関しては,転写抑制ドメインがTPL/

TPRsと相互作用し,さらにHDAsとも複合体を作って標的遺伝 子の発現を抑制していると考えられている.

表1CRES-T法用ベクター一覧

番号 名前 目的 クローニング法

1 p35SSRDXHSPG 35Sプロモーターによる

CRES-T ブラントライゲーション

2 pBCKH 植物への導入 ゲートウェイLR反応

3 pBCKK 植物への導入 ゲートウェイLR反応

4 pDEST̲35S̲SRDX̲HSP̲GWB5 35Sプロモーターによる

CRES-T ゲートウェイLR反応

5 pDEST̲35S̲SRDX̲HSP̲GWB4 35Sプロモーターによる

CRES-T ゲートウェイLR反応

6 R4pGWB5̲SRDX̲HSP 任意のプロモーターによる

CRES-T ゲートウェイマルチサイトLR反応 7 R4pGWB4̲SRDX̲HSP 任意のプロモーターによる

CRES-T ゲートウェイマルチサイトLR反応 8 pDEST̲SRDX̲HSP̲GWB5 任意のプロモーター(固定)に

よるCRES-T ゲートウェイLR反応 9 pDEST̲SRDX̲HSP̲GWB4 任意のプロモーター(固定)に

よるCRES-T ゲートウェイLR反応 番号 抗生物質耐性(細菌) 抗生物質耐性(植物) 文献 備考

1 Amp ̶ 24 ゲートウェイLR反応により中身をpBCKH/

pBCKKに移す必要あり

2 Km Hyg 35 pBI系T-DNAベクター

3 Km Km 35 pBI系T-DNAベクター

4 Spc Hyg

5 Spc Km

6 Spc Hyg 24 プロモーターをpDONR̲P4P1Rに入れておく必要 がある

7 Spc Km 24 プロモーターをpDONR̲P4P1Rに入れておく必要 がある

8 Spc Hyg プロモーターは制限酵素で入れる必要がある

9 Spc Km   プロモーターは制限酵素で入れる必要がある

(8)

られること」,「適用が簡便であること」,などが挙げら れるが,「最終的に非組換え体として再現できるかもし れないこと」,も見逃せない利点である.CRES-T法は 転写因子の標的遺伝子の発現を抑制してノックアウト

(の掛け合わせ)と同じ表現型を誘導するものである.

つまりCRES-T法で作成した植物は基本的にノックアウ トの掛け合わせによって再現できると考えられる.近年 TALEN(32)  やCRISPER-Cas9(33)  な ど の New plant  Breeding Techniques (NBT) 技術が急速に発展しつつ あり,任意のノックアウト植物が比較的容易に作れるよ うになってきており,しかもNBT技術で作成したノッ クアウト植物は戻し交配などによりノックアウト作成の ために導入した遺伝子を抜けば実質的には非組換え体と 同等にすることができる.したがって,CRES-T法で作 成した植物は,最終的に実質的には非組換え体として再 現できるのである.これはCRES-T法の将来を語るうえ で非常に重要なキーポイントになると考えている.

一方でCRES-T法の短所としては,転写因子の標的遺 伝子がわかっていない限り,「どれくらい効いているか を測定できない」ところにある.RNAiの場合ターゲッ トにした遺伝子の発現レベルを調べればどれくらいの効 果があるのかを知ることができるが,CRES-T法の場 合,標的遺伝子の発現がどれくらい抑制されているのか を測定しなければ効果を測ることができない.一般に標 的遺伝子がわかっている転写因子は少ないので,CRES- T法がどのくらい効果を発揮しているかを知るには表現 型から間接的に推測するしかないのである.そこで,筆 者らは新しいCRES-T法の活用戦略として,「末端遺伝 子からはじめるCRES-T法の活用」を提案したい.すな わち,まずさまざまな生命現象にかかわる酵素などの遺 伝子に着目し,そのプロモーター領域に結合する転写因 子を同定してCRES-T法を適用するのだ.筆者らはその 戦略を機能させるために転写因子だけからなる酵母ワン ハイブリッドライブラリーを整備して,任意のプロモー ター領域に結合する転写因子をハイスループットに同定 する実験系を整えた(34).また,植物のプロトプラスト を用いて上流転写因子を同定する技術の整備も進めてい る.

NBT技術の活用にせよ,上流転写因子を同定する技 術の活用にせよ,今後のCRES-T法の展開は,偶然に頼 らず,あらかじめ「デザインして」適用し,実用化につ なげていく方向に発展していくものと筆者らは考えてい る.本稿がCRES-T法に興味をもつすべての読者諸氏に とって新たな羅針盤を与えるものになれば幸いである.

謝辞:これまでCRES-T法の発展に貢献したすべての同僚,共同研究者,

資金提供組織に感謝いたします.特にCRES-T法の創生にかかわった太 田 賢博士,平津圭一郎博士,小山知嗣博士,松井恭子博士の貢献に敬 意を表します.また,CRES-Tライブラリーを用いた塩耐性のスクリー ニングは東京工科大学多田雄一教授によって,超八重咲きシクラメンの 開発は北興化学工業株式会社の寺川輝彦博士によって主導されたことを 申し添え,深く感謝いたします.

文献

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  6) K. Matsui, Y. Umemura & M. Ohme-Takagi : , 55,  435 (2008).

  7) M. Ikeda & M. Ohme-Takagi : , 50, 970 

(2009).

  8) M. Ikeda, N. Mitsuda & M. Ohme-Takagi : , 21,  3493 (2009).

  9) N. Mitsuda & M. Ohme-Takagi : , 50,  1232 (2009).

10) K. Hiratsu, K. Matsui, T. Koyama & M. Ohme-Takagi :   , 34, 733 (2003).

11) N. Mitsuda, M. Seki, K. Shinozaki & M. Ohme-Takagi :   , 17, 2993 (2005).

12) N. Mitsuda, A. Iwase, H. Yamamoto, M. Yoshida, M. Seki,  K.  Shinozaki  &  M.  Ohme-Takagi : , 19,  270 

(2007).

13) M.  Kubo,  M.  Udagawa,  N.  Nishikubo,  G.  Horiguchi,  M. 

Yamaguchi, J. Ito, T. Mimura, H. Fukuda & T. Demura :   , 19, 1855 (2005).

14) M. Yamaguchi, N. Mitsuda, M. Ohtani, M. Ohme-Takagi,  K. Kato & T. Demura : , 66, 579 (2011).

15) K. Ohashi-Ito, Y. Oda & H. Fukuda : , 22, 3461

(2010).

16) R. Zhong, C. Lee & Z. H. Ye : , 3, 1087 (2010).

17) D. Kazama, M. Itakura, T. Kurusu, N. Mitsuda, M. Ohme- Takagi & Y. Tada : , 2, 769 (2013).

18) Y.  Tanaka,  Y.  Oshima,  T.  Yamamura,  M.  Sugiyama,  N. 

Mitsuda, N. Ohtsubo, M. Ohme-Takagi & T. Terakawa :   , 3, 2641 (2013).

19) N.  Mitsuda,  Y.  Takiguchi,  M.  Shikata,  K.  Sage-Ono,  M. 

Ono, K. Sasaki, M. Yamaguchi, T. Narumi, Y. Tanaka, M. 

Sugiyama  : , 28, 123 (2011).

20) Y.  Tanaka,  T.  Yamamura,  Y.  Oshima,  N.  Mitsuda,  T. 

Koyama,  M.  Ohme-Takagi  &  T.  Terakawa : , 28, 141 (2011).

21) K. Gion, R. Suzuri, M. Shikata, N. Mitsuda, Y. Oshima, T. 

Koyama,  M.  Ohme-Takagi,  N.  Ohtsubo  &  Y.  Tanaka :   , 28, 149 (2011).

22) M. Ono, S. Hiyama, Y. Higuchi, H. Kamada, E. Nitasaka,  T.  Koyama,  N.  Mitsuda,  M.  Ohme-Takagi  &  K.  Sage-

Ono : , 29, 457 (2012).

23) T. Nakagawa, S. Nakamura, K. Tanaka, M. Kawamukai,  T.  Suzuki,  K.  Nakamura,  T.  Kimura  &  S.  Ishiguro :  

72, 624 (2008).

24) Y.  Oshima,  N.  Mitsuda,  M.  Nakata,  T.  Nakagawa,  S. 

Nagaya, K. Kato & M. Ohme-Takagi : , 

(9)

28, 201 (2011).

25) S. Nagaya, K. Kawamura, A. Shinmyo & K. Kato : , 51, 328 (2010).

26) H.  Szemenyei,  M.  Hannon  &  J.  A.  Long : , 319,  1384 (2008).

27) B.  Causier,  M.  Ashworth,  W.  Guo  &  B.  Davies : , 158, 423 (2012).

28) L. Wang, J. Kim & D. E. Somers : , 110, 761 (2013).

29) J. A. Long, C. Ohno, Z. R. Smith & E. M. Meyerowitz :   , 312, 1520 (2006).

30) Y. Zhou, B. Tan, M. Luo, Y. Li, C. Liu, C. Chen, C. W. Yu,  S.  Yang,  S.  Dong,  J.  Ruan  : , 25,  134 

(2013).

31) M. Luo, C. W. Yu, F. F. Chen, L. Zhao, G. Tian, X. Liu, Y. 

Cui,  J.  Y.  Yang  &  K.  Wu : , 8,  e1003114 

(2012).

32) A.  J.  Bogdanove  &  D.  F.  Voytas : , 333,  1843 

(2011).

33) M. Jinek, K. Chylinski, I. Fonfara, M. Hauer, J. A. Doudna 

& E. Charpentier : , 337, 816 (2012).

34) N. Mitsuda, M. Ikeda, S. Takada, Y. Takiguchi, Y. Kon- dou, T. Yoshizumi, M. Fujita, K. Shinozaki, M. Matsui & 

M. Ohme-Takagi : , 51, 2145 (2010).

35) N. Mitsuda, K. Hiratsu, D. Todaka, K. Nakashima, K. Ya- maguchi-Shinozaki  &  M.  Ohme-Takagi :

4, 325 (2006).

36) T.  D.  Schneider  &  R.  M.  Stephens : ,  18, 6097 (1990).

プロフィル

光田 展隆(Nobutaka MITSUDA)  

<略歴>1998年京都大学総合人間学部自 然環境学科卒業/2003年同大学大学院人 間・環境学研究科単位取得退学/同年博 士(人間・環境学)取得/同年科学技術振 興機構研究員/2006年産業技術総合研究 所研究員/2011年同主任研究員/2013年 埼玉大学理工学研究科連携准教授(兼任)

<研究テーマと抱負>転写制御因子を利用 して真に有用な植物を開発する<趣味>

キャンプ,登山,スキー,パソコン組立 て,プログラミング

高 木  優(Masaru OHME-TAKAGI)  

<略歴>1979年大阪教育大学教育学部卒 業/1986年名古屋大学大学院理学研究科 修了,理学博士取得/1987年通商産業省 工業技術院微生物工業技術研究所研究員/

1990 〜 1992年米国ミシガン州立大学研究 所研究員/2002年産業技術総合研究所グ ループ長/2012年埼玉大学環境科学研究 センターセンター長・教授/2014年同理 工学研究科戦略部門領域長・教授<研究 テーマと抱負>植物転写因子機能解析,有 用形質誘導因子の探索・ジーンディスカバ リー,機能性植物の作出<趣味>読書

Referensi

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川のこなたなれば、舟などもわづらはで、御馬にてなりけり。入りもてゆくままに霧ふたがりて、道も見えぬしげ木の中を分けたまふに、いと荒ましき風の競ひに、ほろほろと落ち乱るる木の葉の露の散りかかるもいと冷ややかに、人やりならずいたく濡れたまひぬ。かかる歩きなども、をさをさならひたまはぬ心地に、心細くをかしく思されけり。

定的に重要なことであった︒それをとおして︑フランク王国のすべての部分においてヘルシャフト原則がより高い 範囲に関して完全な勝利に到達した︒より低い生活範囲においては︑これとは反対に︑ローマ的となった地方にお いてのみ︑諸ゲノッセンシャフトの破壊が徹底的なものであった︒