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植物による

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自然界には14,000種類を超える植物病原菌が存在する と推定されている.自発的移動手段をもたない植物は自 然界において多くの植物病原菌と接触の機会を有する が,この接触が感染に至るケースは少ない.これは,植 物が病原菌を認識し独自の免疫反応を誘導することに よって病原菌の侵入を防いでいるからである.植物は,

植物病原菌が侵入してきたとき,pathogen-associated  molecular patterns (PAMPs),  またはmicrobe-associat- ed molecular patterns (MAMPs) と呼ばれる植物病原 菌に広く存在する分子群を認識し,PTI (PAMP-trig- gered immunity) と呼ばれる免疫反応を誘導する(1). 一方,植物病原菌側は分泌システムのひとつタイプIII 分泌装置を介して植物細胞内にエフェクタータンパク質

を分泌し,これによってPTIを抑制することが知られて いる(2).興味深いことに,このエフェクタータンパク質 はその病原菌の宿主植物以外では,ETI (effector-trig- gered immunity) と呼ばれるより強力な免疫反応を誘 導する認識物質として機能することもある.すなわち,

このエフェクターがPTIを抑制した場合,多くの場合 感染が成立するが,エフェクターがPTIを抑制せず,新 たにETIを誘導した場合,感染は成立しない.このよ うなエフェクターの二面性と植物に存在するPTIとETI という2つの免疫システムは,植物と病原細菌が共進化 してきた結果であると考えられている(2)

これまでに,植物のPTIを誘導することが明らかに なっているPAMPとして,細菌の鞭毛タンパク質フラ

植物による

鞭毛タンパク質 フラジェリンの 認識と免疫応答 の分子機構

蔡 晃植,平井洋行

長浜バイオ大学バイオサイエンス研究科

セミナー室

自然免疫の応答と制御

──その共通性と多様性‒7

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ジェリン,翻訳伸長因子EF-Tu, リポ多糖 (LPS), ペプ チドグリカン,キチンなどが報告されている(3).マイク ロアレイなどを用いたトランスクリプトーム解析によっ て,これら異なるPAMPの認識によって共通の遺伝子 が発現誘導されることが明らかになっており,植物は異 なるPAMP認識システムを有するものの,その情報伝 達機構と転写因子を介した遺伝子発現制御機構は共通で あると考えられている(4)

近年,筆者らを含むいくつかの研究グループによっ て,細菌の鞭毛構成タンパク質であるフラジェリンの認 識とその情報伝達機構が明らかになった(5, 6).そこで,

今回は植物におけるフラジェリン分子の認識とその情報 伝達,およびこの情報による免疫関連遺伝子の転写制御 について解説するとともに,イネで明らかになった特異 的なフラジェリンの認識機構についても紹介する.

認識物質としてのフラジェリンの同定とその受容 タバコを宿主とする植物病原細菌である

pv. の菌体を熱処理し,非宿主であ るトマトの培養細胞に処理すると,活性酸素種の発生や PRタンパク質 (pathogenesis-related protein) の蓄積な どを含む植物のPTI誘導が認められた.そこで,この活 性を指標に活性物質の精製を行ない,構造を解析したと ころ,この菌の鞭毛タンパク質を構成するフラジェリン が同定された(5).同様の活性は, や

のフラジェリンにも認められたことから,フ ラジェリンはPAMPとして機能すると考えられた.そ こで,この活性領域について調べるため,各フラジェリ ン間で配列が保存されているN末端領域において認識 配列を探索したところ,N末端領域の22アミノ酸残基 からなるペプチド (flg22) が免疫反応を誘導することが 明らかとなった(5).化学合成したflg22はシロイヌナズ ナやジャガイモ,タバコなどの多くの双子葉植物に対し てPTIを誘導したが,イネに対してはPTI誘導活性をも たなかった.そこで,広い植物種に対してflg22に対す る感受性を調べたところ,感受性植物種と非感受性植物 種が双子葉植物や単子葉植物を含む被子植物,裸子植物 などの分類学的カテゴリーとは関係なしに分布している ことが示され,このflg22に対する認識システムが被子 植物や裸子植物が分かれる以前から存在していることが 明らかになった(7) (表1

flg22に対する認識受容体はシロイヌナズナのflg22非 感受性変異体   (FLAGELLIN-SENSING 2) の解析に よって明らかになった(8, 9).同定されたflg22の受容体

で あ るFLS2は,細 胞 外 に ロ イ シ ン リ ッ チ リ ピ ー ト 

(LRR : leucine-rich repeat) を,細胞内にセリン/スレ オニンキナーゼを有する一回膜貫通型の受容体型キナー ゼ (RLK) であり,LRR XIIファミリーに属している.

細胞外ドメインは28個のLRRによって構成されており,

9番から15番までのLRRがフラジェリンとの結合に関 与することが示された(10).興味深いことに,このFLS2 は脊椎動物の自然免疫の中心分子であり,フラジェリン を認識することが明らかとなっているToll-like receptor 

(TLR) 5と相同性を有する.しかし,受容体どうしの 相同性にもかかわらず,両受容体はフラジェリンの異な る部分を認識しており,植物と動物の自然免疫に認めら れる共通性は植物と動物が同様の生態的地位についたと きに系統にかかわらず獲得する収束進化の結果なのかも しれない.

筆者らは,イネに対して非病原性の植物病原細菌 N1141菌株をイネに接種すると,活性 酸素の発生や免疫関連遺伝子の発現などのPTIが誘導 されることを明らかにした(6).そこで,この菌に存在す る認識物質について解析を行ない,イネがこの菌のフラ ジェリンを認識してPTIを誘導することを独自に明ら かにした(6).興味深いことに,イネに対して病原性の  K1菌株のフラジェリンをイネに処理しても 免疫反応が誘導されない.両フラジェリン間には14ア ミノ酸の相違と糖鎖構造の違いが認められているが,こ れらはN末端のflg22領域内には存在していないことか 表1様々な植物におけるflg22PTI誘導活性

被子植物 被子植物

単子葉植物 双子葉植物

植物種 flg22感受性 植物種 flg22感受性

クスノキ目キンポウゲ目

マツモ目ヤマモガシ目

モクレン目ナデシコ目

コショウ目ビャクダン目

ショウブ目ユキノシタ目

オモダカ目ブドウ目

ショウガ目カタバミ目

ヤマノイモ目マメ目

ユリ目バラ目

タコノキ目ブナ目

イネ目ナス目

ヤシ目セリ目

キク目 モチノキ目 シソ目 リンドウ目

裸子植物

植物種 flg22感受性

マツ目

球果植物目

flg22を処理したとき,PTIの1つであるエチレンの生成誘導が認 められた場合を○,認められなかった場合を●で表記した.

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ら,イネはflg22領域以外の部分を認識している可能性 が高い(11).事実,合成したflg22はイネに対してPTIを ひき起こさないが,flg22を欠失したフラジェリンはや はりPTIを誘導することから,複数のフラジェリン認 識システムが広い植物種において存在している可能性が ある.実際に,イネには 変異体のflg22認識能を相 補することができるFLS2のオルソログであるOsFLS2 が存在しているが,OsFLS2のRNAi抑制株においても 全長のフラジェリンに対する認識能は保持されていた.

興味深いことに,このOsFLS2を過剰発現させた形質転 換イネではflg22を認識しPTIを誘導するようになるだ けでなく,ETIの指標でもある過敏感細胞死も誘導す る(12).このことから,イネにおけるflg22非感受性は OsFLS2の発現量の低さに依存しているのかもしれな い.植物におけるフラジェリンの受容機構を詳細に明ら かにするためには,様々な植物種に存在する複数のフラ ジェリン受容体を同定し,各受容体のフラジェリン認識 とPTI誘導について調べる必要があるだろう.

フラジェリン受容シグナルの細胞内伝達機構 シロイヌナズナのFLS2が受容体型セリン/スレオニ ンキナーゼであることを考えると,フラジェリンの受容 情報はタンパク質リン酸化によって細胞内に伝達される ことが予想される.シロイヌナズナにおいてFLS2は flg22と結合する前の通常状態では,BIK1という細胞内 キナーゼと会合した状態で存在している.一方,この BIK1は植物ホルモンの一種であるブラシノステロイド の受容体であるBRI1と相互作用するLRR型の受容体様 キナーゼとして同定されたBAK1という分子とも細胞

内で結合している.このBAK1/BIK1複合体にはさら に,PUB (Plant U-box) というN末端側にU-boxドメイ ンを,C末端側にARMADILLO (ARM) リピートドメ インを有する分子とも会合し,3つのタンパク質からな る複合体を形成している.flg22がFLS2のLRRドメイ ンと結合すると,FLS2は構造変化を起こし,細胞膜上 に存在するBAK1と数秒以内に結合することで,FLS2/

BAK1/BIK1/PUBからなる大きなタンパク質複合体を 形成する.この複合体形成とほぼ同時にBAK1の自己 リン酸化によってBAK1が活性化し,このBAK1によっ て複合体内のBIK1とPUBがリン酸化されることが確認 されている.このリン酸化に関しては,flg22と結合し た後,まずBIK1が最初に自己リン酸化され,このリン 酸化されたBIK1によってBAK1がリン酸化され活性化 されるとの報告もあり,flg22受容後の受容体複合体内 におけるリン酸化機構についてはいまだ確定的な結論が 得られていない.いずれにしても,リン酸化された BIK1はFLS2およびBAK1をトランスリン酸化し,下 流へシグナルを伝達する(13).また,このようなトラン スリン酸化とほぼ同時に,複合体に存在するPUBに よってFLS2のユビキチン化が起こることも報告されて いる(図1.このFLS2のユビキチン化はエンドサイ トーシスによって複合体の細胞内取り込みを誘発するよ うである(14).実際に,FLS2はflg22を受容すると数分 から数十分以内に細胞内に存在する小胞に移行し,その 後FLS2はプロテアソーム系で分解されることが確認さ れている.

このようなユビキチン化を介したタンパク質分解によ る情報伝達の調節はTLRの例でも認められる.RING  fingerタ ン パ ク 質 で あ るTriad3AはE3ユ ビ キ チ ン リ

図1シロイヌナズナにおけるflg22 の認識とFLS2/BAK1複合体のリ ン酸化様式

flg22がFLS2のLRRドメインと結合 すると,FLS2はBAK1と結合し,FLS2/ 

BAK1/BIK1/PUBからなるタンパク 質複合体を形成する.この複合体形 成と同時にBAK1が自己リン酸化に よって活性化し,複合体内のBIK1と PUBをリン酸化する.

(4)

ガーゼとして作用し,リガンドを受容したTLRsのユビ キチン化とタンパク質分解を誘導する.実際に,Tri- ad3Aの過剰発現は,TRL4とTLR9の分解促進とそれ に伴うシグナル伝達の減少をひき起こすし,RNAiによ る抑制はTLRのシグナル伝達の増加を誘導する.この ことから,Triad3Aによるユビキチン化はTLRシグナ ル伝達の強度と持続時間を制御するシステムであること が示されている(15).これは,植物におけるPUBを介し たFLS2のユビキチン化とタンパク質分解によるシグナ ルの調節と現象的に類似している.しかし,TLRユビ キチン化による活性調節機構については詳細が明らかに なっておらず,FLS2のユビキチン化を介した制御系と の比較は現段階ではできない.興味深いことに,動物細 胞のEGFRなどはリガンド依存的なリン酸化によってユ ビキチン化が制御されているが,FLS2のリン酸化は PUBとの結合には必要とされるがユビキチン化には直 接関係しない.このことから,FLS2のユビキチン化に よる活性制御方式はflg22を認識するFLS2特有のもの なのかも知れない.

FLS2/BAK1/BIK1/PUB複合体からの細胞内情報伝 達に関してもこれまでいくつか知見が得られている.シ ロイヌナズナにおいてはflg22が結合することによって 生じた複合体のリン酸化情報は,MAPKKKの一つであ るMEKK1に伝達される.活性化したMEKK1はこの下 流に存在するMKK4とMKK5を活性化し,これらは順

次MPK3とMPK6を活性化する(16).一方,flg22の受容 シ グ ナ ル に よ っ て 活 性 化 さ れ たMEKK1はMKK1/

MKK2を活性化し,さらに免疫反応を負に制御する MPK4を活性化するとの報告もある(17).このことは,

flg22受容情報はMAPKカスケードを介して免疫反応を 正に制御するだけでなく,負のフィードバック制御も行 なっていることを示す(17) (図2.これ以外にも,活性 酸素によって制御されているMAPKカスケードの関与 も示唆されており,flg22認識情報はいくつかのMAPK カスケードによって伝達されている可能性が考えられ る.

フラジェリン受容情報による転写制御

植物にシクロヘキシミドを処理するとフラジェリン認 識によってもPTIが誘導されないことから,PTI誘導に は遺伝子の転写やタンパク質の生合成が必須である.こ のことから,MAPKカスケードによって伝達されたフ ラジェリン認識情報は,核内での遺伝子発現の制御に関 与するはずである.そこで,フラジェリン受容情報に よってどのような遺伝子の転写が制御されているかにつ いて主にマイクロアレイを用いた解析が行なわれた.シ ロイヌナズナにflg22を処理すると,30分後には約1,000 遺伝子の発現が誘導され,200遺伝子の発現が抑制され る(4).興味深いことに,これら遺伝子の発現パターンは 他のMAMPであるキチンやelf18などを処理した場合と 類似しており,異なる受容体で認識された情報は,遺伝 子転写レベルでは収束されている可能性がある.フラ ジェリンによって発現誘導される遺伝子群には,様々な 転写因子やタンパク質キナーゼ,ホスファターゼなどを コードする遺伝子が比較的多い.これらの遺伝子の中に は, を含む様々なRLKをコードする遺伝子も含ま れており,初期の遺伝子発現の一つの役割として,フラ ジェリン認識能力を増加するためのポジティブフィード バック機構が存在しているのかもしれない.フラジェリ ン の 認 識 に よ っ て 誘 導 さ れ る 転 写 因 子 と し てAt- WRKY22とAtWRKY29などに代表されるWRKYが同 定されている.WRKY転写因子は免疫関連遺伝子のプ ロモータ領域で多く認められるW-boxに結合し,その 遺伝子の転写を制御することが知られており,フラジェ リンの認識情報は転写因子の発現を誘導することで,他 の免疫関連遺伝子の発現を転写レベルで制御していると 思われる(4)

筆者らは,イネと  N1141菌株のフラジェリ ンを用いて,フラジェリン認識後6時間で162遺伝子が 図2PTI誘導におけるflg22の認識シグナルの情報伝達カス

ケード

FLS2により認識されたflg22シグナルは,細胞内のMAPKカス ケードを介して伝達され,様々な転写因子を活性化する.

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発現誘導されることをトランスクリプトーム解析で明ら かにした.この遺伝子の中には,CPK (calcium depen- dent protein kinase) などのプロテインキナーゼや Os- NAC4, WRKY, bZIP, myb  などの転写調節因子をコー ドする遺伝子が比較的多く含まれていた(18).興味深い ことに,イネが   N1141菌株のフラジェリンを 認識して発現誘導する遺伝子群は,シロイヌナズナが flg22を認識して発現誘導する遺伝子群とは一部異なっ ており,フラジェリン認識によって誘導される遺伝子群 からもイネとシロイヌナズナではフラジェリン認識とそ の情報伝達が異なることが示唆された.さらに,イネが フラジェリンを認識して発現誘導する遺伝子には,分子 内にCa2+結合ドメインであるEF-handモチーフを有す るタンパク質をコードしている遺伝子が比較的多く存在 しており,イネのフラジェリン認識によって誘導される 免疫反応にはCa2+が関与する可能性が考えられた.事 実,フラジェリン認識によって誘導されるPTI反応の多 くはCa2+の細胞内流入を阻害することでほとんどが抑 制される.このことから,これらフラジェリンによって 誘導されるイネのPTIには細胞内Ca2+濃度の上昇が必 須であると考えられる.

イネにおけるフラジェリンの特異的認識

筆 者 ら は,こ れ ま で に イ ネ が 非 病 原 性    N1141  菌株のフラジェリンを認識しPTIを誘導するの に対し,病原性   K1菌株のフラジェリンは認 識することができず,PTIを誘導しないことを示し た(6).イネにおけるフラジェリン依存性PTIはFLS2と は異なる受容体がflg22領域ではない部位を認識するこ とで誘導されている.N1141菌株とK1菌株のフラジェ リンでは,14個所のアミノ酸で置換が認められる.し かし,大腸菌を用いて作製した両発現フラジェリンをイ ネ培養細胞に処理すると,N1141フラジェリンだけでな

くK1フラジェリンもPTIを誘導することから,両フラ ジェリン間に存在するPTI誘導特異性はアミノ酸の一 次配列によってもたらされているのではないことが示さ れた.

興味深いことに,N1141フラジェリンとK1フラジェ リンにはそれぞれ分子量の異なる糖鎖が存在している.

そこで,糖鎖を欠損させたフラジェリンのPTI誘導活 性を調べたところ,N1141フラジェリンだけでなくK1 フラジェリンもPTIを誘導することが示され,K1フラ ジェリンでは糖鎖によって認識が妨げられていることが 明らかとなった.K1フラジェリンでは 178Ser, 183Ser, 

212Ser と 351Thrに構造が同一の糖鎖が付加されており,

178Serと183Serに付加する糖鎖がイネによる認識妨害に 関与することが明らかになった.興味深いことに,

N1141フラジェリンの糖鎖は178Thr, 183Thr, 351Thrに付 加していることから,イネにおける のフラ ジェリンの認識特異性は,それぞれのフラジェリンに存 在する糖鎖構造によって制御されている(11) (図3.実 際,質量分析計とNMRを用いたフラジェリン糖鎖の構 造解析の結果,N1141フラジェリンとK1フラジェリン の糖鎖の構造は異なっていた.そこで,両菌株のフラ ジェリン交換株を作製したところ,K1型の糖鎖構造を 有するN1141フラジェリンはイネのPTIを誘導しない が,N1141型の糖鎖を有するK1フラジェリンはPTIを 強く誘導した.これらのことから,K1菌株がフラジェ リンに付加する糖鎖構造がイネの認識を回避するために 重要であることが明らかとなった(11).筆者らは,この ようなイネにおけるフラジェリンの特異的認識に関与す る受容体として FliRK (flagellin-induced receptor kin- ase) を同定している.イネにおけるフラジェリン認識 の分子機構を明らかにするためには,FliRKとフラジェ リンの結合にこの糖鎖構造がどのように関与するかにつ いて解析する必要があるだろう.

K1フ ラ ジ ェ リ ン に は178Ser, 183Ser, 

212Serと351Thrに糖鎖が付加されてお り,N1141フラジェリンでは178Thr, 

183Thr, 351Thrに糖鎖が付加している.

両糖鎖の構造は異なっており,この 糖鎖構造がイネによる認識特異性に 関与する.

図3イネに対して非病原性の のN1141菌株と病原性のK1菌株がもつフラジェリンの糖鎖構造

(6)

PTI抑制による病原菌の感染戦略

イネに のイネ非病原性菌株であるN1141の フラジェリンを発現させると,このイネはいもち病に対 して抵抗性を獲得する(19).さらに,PAMPの1つであ るelf18の受容体であるEFRをタバコやトマトに発現さ せると,病原性である pv.  B728aに 対して抵抗性を示し,感染は成立しない(20).このよう に,PTIは感染の成立を左右する重要なステップとなる ため,多くの場合,病原菌の変異が起こりにくい分子,

または分子内部位がPAMPとなっている.

フラジェリンはN末端とC末端にD0ドメインが存在 しており,その内側にD1, D2ドメインが位置し,フラ ジェリン分子の中央部分にD3ドメインが存在してい る.一般に,D0, D1ドメインのアミノ酸配列は様々な 細菌のフラジェリン間でよく保存されており,鞭毛フィ ラメントを構成するのに必須であるとともに,鞭毛の運 動能にも関与している.一方,D2, D3ドメインのアミ ノ酸配列は種間で大きく異なっており,鞭毛フィラメン トを構築したときにその表面に位置する部分となる(21). シロイヌナズナのFLS2によって認識されるflg22は種 間で保存性の高いフラジェリンのD0領域に存在してい る.一方,動物病原細菌である

のフラジェリンは,D1ドメイン内の13アミノ酸残 基がTLR5による認識に重要である(22).植物と動物で はフラジェリンの異なる領域を認識し免疫反応を誘導す るが,その領域は鞭毛を形成するのに重要な部位であ り,変異の許容範囲が狭い.実際,TLR5の認識に関与 する13アミノ酸残基をAlaに置換するとTLR5によって 認識されなくなるが,高い確率で運動能が著しく減少す ることが示されている.興味深いことに,

,  や

などのフラジェリンはTLR5に認識されないが,鞭毛 の運動能は保持している.

そこで, のフラジェリン配列解析を行なっ たところ,89‒96番目と411番目アミノ酸に変異が存在 することが示され,この変異によってTLR5が認識でき なくなっていることが明らかとなった.さらに,

のフラジェリンでは58, 59番目のアミノ酸にも変異 が存在するが,この変異によって鞭毛の運動能が回復す ることも示された.このように, はフラジェ リンのアミノ酸配列を巧妙に変異させることでTLR5に よる認識を回避する能力を獲得している(23).このよう なフラジェリン変異による認識回避は植物病原細菌でも 認められる.植物病原細菌  pv. 

 B186のフラジェリンはシロイヌナズナの PTIを誘導することができない.このフラジェリンにお いては,flg22領域の43番目のAspがValに置換されて おり,この変異によってFLS2はこのフラジェリンを認 識できない.このアミノ酸変異は鞭毛の運動能には影響 がないため,これら病原細菌は運動能を損なうことな く,FLS2からの認識を回避している(24).イネに存在す るflg22以外のフラジェリン部位を認識する受容体の存 在は,flg22の変異によりFLS2による認識が妨げられて も他の部位を認識することでPTIを誘導しようという 植物と病原細菌の共進化の結果なのかも知れない.

植物病原細菌では,フラジェリン変異による受容体認 識回避ではなく細菌のもつタイプIII分泌装置から植物 細胞内に分泌されるエフェクタータンパク質を用いて PTIを抑制している例も存在する.シロイヌナズナに対 し て 病 原 性 で あ る pv.  

DC3000のエフェクターであるAvrPtoBは分子内にE3 リガーゼドメインをもつ.このAvrPtoBはシロイヌナ ズナ細胞内でFLS2と結合してこの分子をユビキチン化 することで,FLS2をプロテアソーム系で分解する.こ れによってこの細胞はフラジェリンを認識できなくな り,PTIは誘導されない(25).また,HopAI1というエ フェクターは,FLS2によるflg22受容後の細胞内伝達経 路に存在するMPK3とMPK6のリン酸化を直接阻害す ることで,PTIを抑制する(26) (図2).植物病原菌には 数百のエフェクターが存在することが知られており,こ の多くのエフェクターがそれぞれ異なるPAMPシグナ ルをターゲットとしてPTIの抑制に関与している可能 性が存在する.植物においても,FLS2と同様な受容体 型キナーゼはシロイヌナズナに600以上,イネには 1,000以上存在すると推定されている(27).このように,

多くの受容体とPTI抑制をターゲットとしたエフェク ターの存在は,植物と植物病原細菌が免疫と感染という 攻防の過程を繰り返してきた痕跡だと思われる.多くの PAMPやその受容体,PTIシグナルをターゲットとし たエフェクターの構造とその機構が詳細に明らかになる ことで,植物と病原細菌間における感染と免疫という攻 防の過程が分子レベルで理解できるものと考える.

おわりに

植物にはPAMPを認識して誘導するPTIとエフェク ターなどを認識して誘導するETIという2つの免疫シス テムが存在し,階層的な関係にあるといういわゆるジグ ザグモデルが提唱されてから5年が経過した.この間,

(7)

いくつかの新たなPTI,ETIシステムが同定され,その 詳細な機構解析が行なわれることで,植物免疫システム の統合的理解が進んだ.一方,実際の植物免疫機構は PTIとETIという2つの系に明確に分離できるものでは なく,その融合的な免疫システムや,植物が自己の分子 を用いて免疫システムを増幅するシステムが存在するこ とも報告されている.植物と病原菌間に存在する免疫と 感染という攻防を分子レベルで理解するためには,既知 の免疫システム以外の存在も念頭に置き,より幅広い植 物‒病原菌相互関係を対象として研究を行なう必要があ るだろう.このような新しい研究の推進においても,こ れまでの研究で明らかになったフラジェリンの認識と PTI誘導に関する知見は大きく貢献するだろう.

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  20)  C. Zipfel, G. Kunze, D. Chinchilla, A. Caniard, J. D. Jones,  T. Boller & G. Felix : , 125, 749 (2006).

  21)  K.  Namba,  I.  Yamashita  &  F.  Vonderviszt : , 342,  648 (1989).

  22)  K. D.  Smith,  E.  Andersen-Nissen,  F.  Hayashi,  K. L. 

Strobe, M. A. Bergman, S. L. Barrett, B. T. Cookson & A. 

Aderem : ., 4, 1247 (2003).

  23)  E. Andersen-Nissen, K. D. Smith, K. L. Strobe, S. L. Bar- rett,  B. T.  Cookson,  S. M.  Logan  &  A.  Aderem :

102, 9247 (2005).

  24)  W. Rong, F. Feng, J. Zhou & C. He : .,  11, 783 (2010).

  25)  V. Göhre, T. Spallek, H. Häweker, S. Mersmann, T. Men- tzel,  T.  Boller,  M.  de  Torres,  J. W.  Mansfield  &  S. 

Robatzek : ., 18, 1824 (2008).

  26)  J. Zhang  : , 1, 175 (2007).

  27)  S. H.  Shiu,  W. M.  Karlowski,  R.  Pan,  Y. H.  Tzeng,  K. F. 

Mayer & W. H. Li : , 16, 1220 (2004).

関 水  和 久(Kazuhisa Sekimizu) <略 歴>1979年東京大学大学院薬学系研究科 博士後期課程修了/ 1980年東京大学薬学 部助手/ 1984年米国スタンフォード大学 医学部博士研究員/ 1987年東京大学薬学 部助教授/ 1992年九州大学薬学部教授/

1999年東京大学大学院薬学系研究科教授,

現在にいたる.2003年から(株)ゲノム創 薬研究所取締役<研究テーマと抱負>カイ コの医薬品評価モデル動物としての利用に 関する研究<趣味>音楽(ピアノ),囲碁,

昆虫採集,熱帯魚飼育

高 木  博 史(Hiroshi Takagi)略 歴1980年静岡大学農学部農芸化学科卒業/

1982年名古屋大学大学院農学研究科生化 学制御専攻博士前期課程修了,同年味の素

(株)中央研究所研究員/ 1994年同社食品 総合研究所主任研究員/ 1995年福井県立 大学生物資源学部助教授/ 2001年同教 授/ 2006年奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科教授,現在に至 る.この間,1986年米国ニューヨーク州 立大学ストーニーブルック校客員研究員.

1988年農博(東京大学)<研究テーマと 抱負>微生物機能の発見,解析とその応用 に広く取り組んでいるが,特に「環境(酸 化)ストレスに対する細胞の応答・適応・

耐性機構」「細胞内のアミノ酸とタンパク 質の生理機能,代謝・活性制御機構」を キーワードに,基礎と応用のバランスを意 識して研究を進めている<趣味>アメリカ 野球,ゴルフ

知花 博治(Hiroji Chibana) <略歴琉球大学卒業後,名古屋大学大学院医学研 究科修了・博士(医学)取得後,米国ミネ ソタ大学ポスドクとして6年間勤務/2001 年より千葉大学真菌医学研究センター,現 在に至る<研究テーマと抱負>

フェノーム解析

中島 敬二(Keiji Nakajima) <略歴>

平成3年京都大学農学部農芸化学科卒業,

以後同大学大学院,奈良先端科学技術大学 院大学バイオサイエンス研究科助手,米国 ニューヨーク大学ポスドク,奈良先端科学 技術大学院大学助手,助教授を経て,現在 準教授<研究テーマと抱負>植物発生生物

プロフィル

Referensi

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自らが生産する二次代謝産物に対する自己耐性機構 植物は自らが生産する二次代謝産物の高い生理活性に対し, 独自の耐性機構を有している.耐性に関わる分子を同定するこ とを目的に,出芽酵母を用いた機能スクリーニングを試みた. マメ科植物クララの cDNA ライブラリーを出芽酵母に導入し, クララの主要プレニル化フラボノイドであるソフォラフラバノ ン

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gloeosporioides の宿主特異的種とされた 4 種(ウリ科 植物炭疽病菌 Colletotrichum orbiculare,インゲンマ メ炭疽病菌 Colletotrichum lindemuthianum,マメ科 牧草炭疽病菌 Colletotrichum trifolii,タチアオイ炭 疽病菌 Colletotrichum malvarum)は

2 1.はじめに 自然界における微生物(菌類,細菌など)は抗菌物 質を生産するなどして,他の微生物と競争・拮抗して 生息している.微生物が生産する抗菌物質は,我々の 生活の中で抗生物質として農薬や医薬品等で利用され ている.また,抗菌物質の病害防除への利用について, これまでに多くの研究報告があるが,その殆どは非揮

りであり,これらの病害に関して多くの研究が実施さ れ,供試された微生物株が集積されてきたことがうか がえる.これに対して 1 株しか登録されていない植物 病(害)は,大半が樹木や野生植物に起きるものであっ た. 3)農業生物資源ジーンバンクと他機関との保存状況 の比較 すでに触れたとおり,植物病原微生物は NIAS Genebank 以外に NITE

1.はじめに 農作物を始めとする植物の重要な病害の 1 つにモン パ病というものがある.このモンパ病の病原は土壌生 息性の糸状菌であり,モンパ病菌と呼ばれている.こ のモンパ病(菌)には,紫モンパ病(菌)と白モンパ 病(菌)の 2 種類が含まれるが,罹病植物における症 状や発生生態に類似する点があることなどから一般に