はじめに
人間と同様に植物も様々な病気にかかる.病気にな る植物が農作物など人間にとって有用である場合は被 害として捉えられ「病害」と呼ばれる.人間の病気の 原因は微生物やウイルスといった伝染性病原体から,
物理・化学的,生理的,遺伝的,精神的な要因まで実 に多様である.植物病害の原因も,菌類,細菌・放線 菌,ファイトプラズマなどの微生物,植物ウイルス,
ウイロイド,線虫やダニなどの小動物,陸棲藻類といっ た伝染性病原から,養分欠乏・過多,水分過多,薬害 など非伝染性障害まで様々なものが知られている(岸,
1995).これらの伝染性病原に感染し罹病する植物を 宿主植物と呼ぶ.宿主植物と病原微生物の組み合わせ により病害が特定され,各病害には病名が付けられて いる.後述のように,現在国内では 1 万以上の植物病
(害)が知られており,それらにすべて異なる病名を 付けるのは困難である.そこで,症状や病原にちなん で「○○病」という名(ファーストネーム)を決め,
姓(セカンドネーム)として宿主植物名を冠して正式 な病名とする.例えば,黒穂病菌の 1 種 Tilletia bar- clayana(図 1a)によりイネ穀粒に黒斑が生じる病害 は「イネ墨黒穂病」(図 1b)と呼称される.これまで 名付けられてきた国内の植物病名の基本情報を網羅し たリスト(CD-ROM 版)が「日本植物病名目録(第
2 版)」(日本植物病理学会・農業生物資源研究所,
2012)であり,これを検索機能付きでデータベース化 した「日本植物病名データベース(病名データベース)」
(http://www.gene.affrc.go.jp/databases-micro_pl_
diseases.php)が農業生物資源ジーンバンク(NIAS Genebank)で管理・公開されている.このデータベー スは,NIAS Genebank に多数保存されている植物病 原微生物株を利用するユーザーのために,利便性を向 上させる目的で構築されたものである.すなわち,病 名データベースと NIAS Genebank の微生物株データ ベースとをリンクすることにより,植物病名と病原微 生物株の情報を相互に閲覧可能にしたのである.
ところで,これまで植物病理学の教科書や植物病原 微生物の解説書およびリストは少なからず国内で出版 され(池上ら,1996;景山ら,2010;勝本,2010;岸,
1995,1998;小林ら,1992; Kobayashi, 2007),また,
海 外 で は Host-Fungus Index(Farr & Rossman, 2013)などが公にされてきたが,我が国の植物病害と その病原微生物の統計的解説,および,それらの公的 菌株保存機関における収集・保存状況については,著 者の知る限り公にされていない.本稿では,上記のデー タベースなどを利用して我が国の植物病(害)とその 病原微生物について統計的に解説し,また,その中核 的保存機関である NIAS Genebank や国内の主要微生
我が国の植物病害と病原微生物
(平成 25 年度日本微生物資源学会賞受賞)
佐藤豊三
独立行政法人農業生物資源研究所遺伝資源センター 〒305─8602 茨城県つくば市観音台 2─1─2
Plant diseases and their pathogenic microbes in Japan
Toyozo Sato
Genetic Resources Center, National Institute of Agrobiological Sciences 2-1-2 Kannondai, Tsukuba, Ibaraki 305-8602, Japan
受 賞 総 説
E-mail: [email protected]
本稿は,受賞題目「植物病原菌類の分類学的研究および微生物遺伝資源の利用に向けた基盤構築」の内容の一部を報告する ものである.
我が国の植物病害と病原微生物
物株保存機関がどの程度植物病原微生物を保存してい るか,また,どのように収集してきたかを紹介する.
なお,利用したデータは,2011 年末現在の情報(「日 本植物病名目録(第 2 版)」およびその追録 2012 年 6 月 1 日版)を搭載した病名データベース,および 2013 年 7 月末現在の微生物株データベースから 2013 年 8 月 1 日付で出力したものである.
我が国における植物病名の認定制度
本題に入る前に,国内の植物病(害)に病名が付け られ,「日本植物病名目録・同追録(病名目録)」に採 録されるまでのプロセス,すなわち植物病名の認定に ついて概説しておく.国内で未知の病害が発生したと き,世界で初めてであれば「新病害」,国内で初めて であれば「初発生病害」となる.いずれにせよ,病原 が微生物など伝染性である場合は,公表する前にまず
「コッホの 3 原則」を満たすべく,「1. 病原が病斑など 病変部分に存在し,2. 純粋に分離された病原体の接種 により健全植物に同様の病徴が再現され,3. 再現され た植物から同じ病原体が再分離される」ことを立証す る.人工的に分離・培養できない植物ウイルスや絶対 寄生菌などでは,戻し接種や反復接種により病原を確 認する.続いて接種試験により病原と確認された分離 微生物株を所定の方法に従って同定する.既報のいず れとも一致しない場合は,新分類群を提案することに なるが,未同定種「○○ sp.」としておき,後に改め て分類学的な論文として別途発表しても良い.次にこ れらの調査結果をセットにして口頭発表もしくは論文 発表を行う.ここまでは,新病害・初発生病害等の発 見者や報告者の仕事である.以降は,日本植物病理学 会内に設置されている病名委員会の病名採録に関する 活動になる.それは大まかに分けて,拾い出し(申請 受付),審査,採録,公表の 4 段階で進められる.ま ず拾い出しでは,日本植物病理学会報(講演要旨を含 む),Journal of General Plant Pathology,日本菌学 会会報,Mycoscience,土と微生物,各地域の病害虫 研究会報(北日本,北陸,関東東山,関西,島根,九 州),四国植物防疫研究,植物防疫から担当者が該当 する報告を探し,基本情報を抽出して審査用の追録原 稿案を作成する.同時に,上記の専門誌以外に発表さ れた関係論文に基づき新病名等が病名委員会に申請さ れたとき,あるいは病名データベースの問い合わせ コーナー(http://www.gene.affrc.go.jp/contacts.
php?cat=pl_disease)に寄せられた要望・指摘などが 病名委員会の判断を要する場合は,それらも原稿案に
盛り込まれる.次にその原稿を病名委員が採録にふさ わしいか,また,内容は正確か判断し添削する.この 作業はそれぞれの宿主植物あるいは病原に詳しい複数 の病名委員が担当する.続いて委員長が審査意見・添 削・指摘をまとめて追録原稿を作成する.これを全委 員により最終確認した後,同学会のウェブサイトから 追録として公表する.病名提案と審査には「植物にお ける新病名等命名基準」(http://www.ppsj.org/pdf/
misc-saisoku.pdf)が定められており,また,「『日本植 物病名目録(第 2 版)』の編集経緯と基本方針」(日本 植物病理学会・農業生物資源研究所,2012)にも植物 病名に関する原則等が詳述されている.病名目録第 2 版が出版された 2012 年 3 月以降は,追録 2012 年 6 月 6 月 1 日版(2011 年末までの最新情報)および 2013 年 9 月 1 日版(2012 年末までの最新情報)が公表さ れている.病名データベースは追録が公表されるごと にほぼ同時に更新されている.
病名目録の編集は国内発生の病害を網羅し標準化す ることが主な目的であるが,国内の研究者などが海外 で発見した病害や国内の総説・抄録で紹介した海外の 病害,あるいは国内の植物検疫で発見された海外産輸 入植物・農産物の病害の名前も採録している.ただし,
海外発生病害で日本の研究者によって記録された病害 には†,総説や抄録などによってわが国に紹介された 病害には††,輸入検疫中に確認された病害には††
†が付けられ区別されている.なお,病名提案あるい は病徴記載がないなど記述不十分な病害および症状に は††††が付され,参考として掲載されている.
日本植物病名データベースの開発・公開
この総説の執筆に用いた病名データベースについて も後学のために概説しておきたい.日本植物病理学会 が創設された 1916 年には,すでに約 1,900 病害が国 内で報告されていたが,それらを取りまとめたリスト などはまだなかった.1960 年になり,現在の病名目 録の前身である「日本有用植物病名目録第1巻」が刊 行され,食用作物などに発生する病害がリストアップ された.その後,第 2 巻から第 5 巻とその一部の改訂 版も刊行され,さらに 2000 年 4 月には既刊の各巻と 1998 年 10 月以前の同追録を基に「日本植物病名目録
(初版)」(日本植物病理学会,2000)が編集・発行さ れた.この初版には,それまで採録対象になっていな かったキノコ類や野草についても項目を設け,約 2,200 宿主植物の 10,430 病名(国内研究者の報告した 海外発生病害,付録,病名未提案を含む)が掲載され
ており,その後 10 年以上も日本の植物病理学会・病 害防除業界の「辞書」として利用されてきた.その間,
発表された初発生病害等は追録として取りまとめら れ, 学 会 ウ ェ ブ ペ ー ジ(http://www.ppsj.org/
mokuroku.html)で公開され半年から数年ごとに更新 されてきた.
一方,冒頭で述べたような目的のために農業生物資 源研究所の農業生物資源ジーンバンクでは,病名目録 の情報をデータベース化することを企画し,2006 年 11 月,まず日本植物病理学会から病名目録の転載許 可を得た.次に,同研究所では病名目録初版のデータ をリレーショナルデータベースに再構成し,植物・病 名・病原をキーワードとする検索機能を付して 2009 年 8 月農業生物資源ジーンバンクのウェブページ
(http://www.gene.affrc.go.jp/databases-micro_pl_
diseases.php)で公開した(佐藤ら,2009).その後,
病名目録初版以降 2010 年までに公表された追録情報 が追加され,以後追録の更新に合わせてほぼ半年ごと にアップデートされており,当然のことながら病名目 録第 2 版編集時の改訂も反映されている.さらに,様々 な検索オプションを追加し,また,NIAS Genebank の微生物株データベースなど関連データベースや病害 診断・防除に関する情報サイトとページレベルでリン クを増やしつつあり(Takeya et al., 2011, 2012; 佐藤 ら,2013),植物病(害)に関する総合ポータルサイ トの中核データベースとして進化を続けている.
我が国で報告された植物病(害)とその病原微生物 1)病原別に見た病害
病名データベースによれば,2011 年末までに国内 で報告された植物病(害)は,きのこ類を含む 1,297 宿主植物について 10,298 件あり,国内研究者が報告,
あるいは総説・抄録で紹介した海外発生病害,病名未 提案のものなどを含めると 11,398 件(採録数)とな る(表 1).病原別では,菌類による病害が最も多く 7,797(採録数:8,664)件で 3/4 以上を占め,次いで 線虫病が 766(同:793)件でその 1 割以下,細菌病 が 611(同:750),およびウイルス病が 662(同:
689)で全体の 5 ~ 6% 程度であり,これら 4 病原で 全体の 95.5% 以上に達する.残りは栄養障害や生理障 害などによる非伝染性病害(2.24%)と不明の病原を 含めてファイトプラズマ,藻類,ダニ・昆虫,ウイロ イドによる病害(2.23%)である(図 2).我が国で発 見されたファイトプラズマは天狗巣や叢生など特異な 病徴を引き起こし(岸,1998;図 1c),また,裸の RNA として注目を集めたウイロイド(岸,1995)は,
植物病原としては少数派といえる.
宿主植物と病原の組み合わせが異なれば原則的に 1 つの病名が与えられる.しかし,複数の病原が関与し ても病徴・標徴(宿主植物上に形成される病原体の一 部または全体)による区別がつかない場合は,同一病 名となる.土壌病害では「苗立枯病」など複数病原に よるものが多い.したがって,病名の数と病原の数は 一致しないが,非伝染性の病因(32 件,全病原の 表
1
植物病害(病名)の数とその割合および病原種数(日本植物病名データベース,
2013.8.1
)と農業生物資源ジーンバンク保有微生物株(
2013.8.1
)区分 国内発生 採録全件a 病原数 NIAS Genebank の微生物株
病害数b 病原数c 登録株d 公開株d 全種e 全株f
合計 10298 11398 5391 1734 1001 11493 9714 3544 28706
菌類病 7797 8664 4662 1400 808 7025 5898 2889 17921
線虫病 766 793 129 30 16 114 78 17 149
ウイルス病 662 689 330 75 78 305 223 78 316
細菌 / 放線菌病 611 750 189 223 91 4033 3499 552 10285
ファイトプラズマ病 80 87 5 0 0 0 0 0 19
藻類病 71 79 2 0 0 0 0 0 0
ダニ・昆虫 24 28 19 0 0 0 0 0 0
ウイロイド病 19 21 22 6 8 16 16 8 16
寄生植物病 1 1 1 0 0 0 0 0 0
非伝染性病害 231 243 32
病原・病因不明 36 43
a 輸入検疫で発見された病害,国内の研究者による報告,国内の総説・抄録に掲載された海外発生病害を含む
b 分離源植物と病原微生物が宿主植物と病原にそれぞれ一致する病害(病名)の数
c 該当する病原(種・種以下の分類群)の数,d 植物病原微生物株の数,e 登録されている種と種以下の分類群の数
f 登録されている微生物株数
我が国の植物病害と病原微生物
図
1
植物病(害)の病徴および植物病原微生物(スケール
a, f, i, j, p:20 mm, e, n:50 mm, g:5 mm, h, l:10 mm, k:2 mm, o:5 mm)
a:イネ墨黒穂病菌(Tilletia barclayana)の黒穂胞子 b:イネ墨黒穂病に罹病した玄米
c:ダイズファイトプラズマ病(於パラグアイ)
d:ハナハッカ葉腐病菌(Rhizoctonia solani)培養コロニー(窪田昌春氏原図)
e:ハナハッカ葉腐病菌(Rhizoctonia solani)の菌糸(DAPI 染色後の蛍光顕微鏡像)(窪田昌春氏原図)
f:カルセオラリア灰色かび病菌(Botrytis cinerea)の分生子柄・分生子 g:培地上に形成されたヤーコン白絹病菌(Sclerotium rolfsii)の菌核 h:S. rolfsii の菌核断面(上から表層,皮層,髄層)
i:S. rolfsii の菌糸隔壁部のかすがい連結
j:リョクトウもやしの腐敗を起こす Fusarium oxysporum の小分生子(I),大分生子(A),厚壁胞子(C)
k:レタス菌核病菌(Sclerotinia sclerotiorum)の菌核(S)から発達した子のう盤(P)(長尾英幸氏原図)
l:カンキツ炭疽病菌(Colletotrichum gloeosporioides)の分生子 m:Cephaleuros virescens によるタイサンボク白藻病
n:セイヨウキンバイさび病菌(Melampsora hypericorum)の夏胞子堆
o:ヤイトバナさび病菌(Coleosporium paederiae)の夏胞子(走査電子顕微鏡像)
p:キダチハマグルマさび病菌(Uromyces wedeliae)の夏胞子(U),冬胞子(T)
0.6%)を除き,植物病原微生物ごとの種(種以下の分 類群を含む)はやはり菌類が最も多く 4,662 種・変種・
分化型(同 86.5%),次いで植物ウイルスの 330 種(同 6.1%),細菌・放線菌の 189 種・亜種・pathovar(同 3.5%),線虫の 129 種(同 2.4%)と続き,この 4 病原 が全体の 98.5% を占める.残りのファイトプラズマ,
藻類,ダニ・昆虫,ウイロイドは合計 1% にも満たな い(図 3).
2)多犯性の植物病原微生物
種あるいは種以下の各分類群の植物病原微生物が病 害を起こすことのできる植物の種類や品種を宿主範囲 という.この宿主範囲は病原微生物の種などにより 様々である.多くの植物を侵すことができる,すなわ ち宿主範囲の広い微生物を多犯性の病原と呼んでい る.我が国では各病原微生物群に代表的な多犯性病原 が知られているが,それらがそれぞれいくつの植物に 病害を起こしているか調べた.その結果,ウイルスで は Cucumber mosaic virus の宿主が 166 と圧倒的に多 く, 細 菌 で は Pectobacterium carotovorum が 77,
Agrobacterium spp. が 73,Ralstonia solanacearum が 50 という順で多犯性が高い(表 2).菌類では菌群 により種の定義にバラツキはあるが,Rhizoctonia solani(全ての菌糸融合群・亜群を含む,図 1d, e),
Botrytis cinerea(図 1f)および Sclerotium rolfsii(図 1g-i) の 3 種 が そ れ ぞ れ 200 以 上 の 植 物 を 侵 し,
Rosellinia necatrix,Fusarium oxysporum(全ての分 化型を含む,図 1j),Sclerotinia sclerotiorum(図 1k),Helicobasidium mompa および Colletotrichum gloeosporioides(種複合体,図 1l)といった殺生性
(necrotrophic)の菌が 100 種以上の植物を宿主とし ている.藻類では Cephaleuros virescens が 66 種の植 物に白藻病を起こしており(図 1m),藻類による病 害 の 83.5% を 占 め て い る. さ ら に, 線 虫 で は
Meloidogyne incognita の宿主が 228 と最も多く,次 いで Meloidogyne hapla の 128,Meloidogyne arenar- ia の 104 と続き,Meloidogyne javanica,Pratylenchus coffeae,Pratylenchus penetrans および Heterodera radicicola はそれぞれ 90 以上の植物を侵す.実際,
現場の病害防除関係者は頻繁にこれらの多犯性病原と それらによる病害に遭遇している.表 2 に掲げた多犯 性病原微生物 30 種の延べ宿主数,すなわち病害の合 計は 2,774 にのぼり,複数病原による同一病害の重複 を除いても国内の病害数の約 2 割に相当する.この数 字から多犯性病原微生物の経済的重要性をうかがい知 ることができる.
3)大規模属に所属する病原微生物の宿主特異性 他方,宿主範囲の狭い種や種以下の分類群は宿主特 異性の高い病原といわれる.進化的に繁栄した属では 所属する種が多いが,概して 1 種当たりの宿主の数が 少なく宿主特異性の高い傾向が見られる.我が国で 20 種以上知られている植物病原菌類の属について 1 種(種以下の分類群を含む)当たりの宿主の多い順に 並 べ た 結 果, さ び 病 菌 の Melampsora( 図 1n),
Coleosporium(図 1o)および Uromyces(図 1p)や うどんこ病菌の Uncinula(図 4a),Microsphaera といっ た宿主上でしか増殖できない絶対寄生菌,また,
Exobasidium(もち病菌,図 4b, c),Taphrina(天狗 巣病菌,縮葉病菌,図 4d, e), Meliola/Asterina(す す病菌,図 4f)など,いわゆる生体栄養性(biotrophic)
の属が高い宿主特異性を持っていることが統計的にも 示された(表 3).なお,表 3 では便宜的に特異性を「病 原菌の学名数 / 宿主植物数×100」で示したが,複数 の菌が同一宿主を発病させる場合が多いと 100 を超え る.これに対して,Phoma(図 4g),Colletotrichum(図 4h),Phytophthora(図 4i),Pythium(図 4j)は種数 よりも宿主植物の方が 3 倍以上多く,宿主特異性のや 図
2
国内で発生した植物病害(病名)の病原種類別割合図
3
国内で確認された植物病原の種類別割合我が国の植物病害と病原微生物
や低い種を含む属といえる.ちなみに,植物病原細菌 のうち,種内の特異的病原系統である pathovar が多 く知られている 2 種,Pseudomonas syringae および Xanthomonas campestris についても同様に検索した 結果,pathovar 当たりの宿主数が前者は約 2.5 種,後 者は 5.9 種であり,種内に多くの病原分化型を擁する 菌類の代表である Fusarium oxysporum に比べて宿主 特異性が低い傾向が見られた.
植物病原微生物の中核的保存機関 1)国内の植物病原微生物の収集保存状況
植物病原微生物を広く研究してきたのは農林水産省 傘下の独立行政法人研究機関であり,その 1 つ(独)
農業生物資源研究所の遺伝資源事業プロジェクトであ る農業生物資源ジーンバンク(NIAS Genebank)微
生物部門がそれらの微生物を中心に受け入れ,保存・
分譲(配布)してきた.同部門は 1986 年から活動を 開始したが,初期のころはサブバンクと呼ばれる省内 試験研究機関(佐藤,2004)の微生物株の受け皿的な 性格が強かった.しかし,時を経るにつれて公共性が 高まり,2001 年の独立行政法人化以降は,次第に都 道府県や大学および民間研究機関からも植物病原微生 物などの寄託を多く受けるようになっている.また,
サブバンクでは収集の手薄になっている植物病原微生 物群を対象として,外部の専門家に探索・収集を委託 しそれらを積極的に集めている.
一方,保存・分譲業務を独立行政法人製品評価技術 基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター生物 資源課(NBRC)に移管する以前の財団法人発酵研究 所でも植物病原微生物が収集されていたが,現在 表
2
多犯性の植物病原微生物病原種類 病原微生物種 宿主数 一般的病名
ウイルス Cucumber mosaic virus 166 モザイク病 Tobacco mosaic virus 27 モザイク病
細菌
Pectobacterium carotovorum 77 軟腐病
Agrobacterium spp. 73 根頭がんしゅ病 Ralstonia solanacearum 50 青枯病
Pseudomonas syringae pv. syringae 32 斑点細菌病等
菌類
Rhizoctonia solania 299 苗立枯病等 Botrytis cinerea 222 灰色かび病 Sclerotium rolfsii 207 白絹病 Rosellinia necatrix 156 白紋羽病 Fusarium oxysporumb 140 萎凋病等 Sclerotinia sclerotiorum 121 菌核病 Helicobasidium mompa 107 紫紋羽病 Colletotrichum gloeosporioidesc 106 炭疽病 Phytophthora nicotianae 72 疫病 Verticillium dahliae 60 半身萎凋病 Armillaria mellea 51 ならたけ病 Colletotrichum acutatumc 47 炭疽病 Fusarium solanib 47 根腐病等 Thanatephorus cucumeris 35 葉腐病等 Pythium aphanidermatum 31 苗立枯病等
Pythium ultimum 27 苗立枯病等
藻類 Cephaleuros virescens 66 白藻病
線虫
Meloidogyne incognita 228 根こぶ線虫病 Meloidogyne hapla 128 根こぶ線虫病 Meloidogyne arenaria 104 根こぶ線虫病 Meloidogyne javanica 95 根こぶ線虫病 Pratylenchus coffeae 95 根腐線虫病 Pratylenchus penetrans 94 根腐線虫病 Heterodera radicicola 90 根こぶ線虫病
合計 2774
a全ての菌糸融合群・亜群を含む,b全ての分化型を含む,c種複合体
NBRC では植物病原微生物を専門に研究する研究者 が不在であり,積極的には集められていない.また,
独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター微 生物材料開発室(JCM)でも比較的少数の植物病原 微生物を保存しているが,タイプ(由来)株やリファ レンス株など主に分類同定の基準となる株に限られる ようである.2001 年 4 月から農林水産ジーンバンク 事業の一部を引き継いだ独立行政法人森林総合研究所 は,樹木類の病原菌類を収集・保存しており,現在独 自の菌株カタログを公開し分譲も行っている(窪野,
2011).ただし,同研究所は農林水産ジーンバンク事
業期間(1986 ~ 2001 年)と独立行政法人化後の 7 年 間 の 収 集 菌 株 の 保 存・ 分 譲( 配 布 ) を NIAS Genebank に委託している.その他,植物病理学研究 分野のある大学などで研究対象の菌群が収集・保存さ れているが,公開分譲は行われていない.例えば,菌 類 に つ い て は 神 戸 大 学 の イ ネ 科 い も ち 病 菌 Pyricularia 属菌,岐阜大学の Phytophthora および Pythium 属菌,三重大学の Cercospora 間連属菌の各 コレクションが知られており,他方,静岡大学では植 物病原細菌全般の収集・保存が進められている.なお,
国内では汁液伝搬性の植物病原ウイルスの収集・保存 と分譲(配布)は,NIAS Genebank でのみ行われて いる.
2)農業生物資源ジーンバンクにおける収集保存状況 2013 年 7 月末現在,NIAS Genebank に保存されて いる植物病原微生物株を検索した結果,菌類は808種・
変種・分化型の 7,025 株,細菌・放線菌は 91 種・亜種・
pathovar の 4,033 株,植物ウイルス 78 種の 305 株,
線虫は 16 種の 114 株,ウイロイドは 8 種の 16 株がヒッ トした(表 1,図 5,6).これらを合計した種などの 数は植物病名データベースに搭載されている病原数の 18%(収集率)に当たる.病原の中では細菌の収集率 が最も高く 50% 近いが,全病原種数の多い菌類では,
最も保存種数が多いにもかかわらず収集率は 18% に 満たない(図 7).
次に,植物病原微生物の NIAS Genebank 内におけ る保存割合を調べた結果,全微生物種類の種以下の分 類群数では 27.3% で,株数ではちょうど 40.0% であっ た.病原種類別では,当然のことながらウイロイドの 割合が種以下の分類群数および株数ともに 100%,植 物ウイルスが分類群数 100% および株数 96.5% と高く,
次いで線虫の同 94.1% および株数 76.5% であった.細 菌と菌類の株数はどちらも 39.2% であったが,分類群 数では細菌の 16.5% に比べて菌類の 28.0% の方がはる かに高かった(表 1,図 8).これは,登録されている 農業・食品関連細菌では家畜病原菌や発酵細菌,根粒 菌などの種類や保存株数が植物病原細菌よりも多いた めと考えられる.
病害当たりの病原微生物の平均登録株数,すなわち 1 病害につき平均何株の病原を保存しているか計算す ると 6.6 株弱となるが,実際に保存されている株数は 該当する病害により大きなばらつきがある.100 株以 上登録されているのは 9 病害で,10 株以上が 202 病害,
5 ~ 9 株が 251 病害,2 ~ 4 株が 680 病害,そして 1 表
3
植物病原菌類の宿主植物に対する特異性属(種) 学名数c 宿主数 特異性d
Melampsora 30 19 158
Exobasidium 44 39 113
Coleosporium 27 26 104
Uncinula 49 49 100
Asterina 34 35 97
Meliola 76 83 92
Microsphaera 65 73 89
Taphrina 22 27 81
Uromyces 50 62 81
Pseudocercospora 94 118 80
Puccinia 168 217 77
Phyllosticta 171 225 76
Septoria 96 133 72
Fusarium oxysporuma 48 67 72
Leptosphaeria 31 44 70
Mycosphaerella 96 139 69
Ustilago 20 32 63
Guignardia 26 47 55
Sphaceloma 23 46 50
Peronospora 34 68 50
Ascochyta 47 96 49
Phomopsis 33 75 44
Diaporthe 27 65 42
Pestalotiopsis 36 88 41
Valsa 21 53 40
Erysiphe 43 115 37
Sphaerotheca 25 67 37
Alternaria 50 140 36
Phoma 56 201 28
Pythium 47 199 24
Colletotrichum 64 288 22
Phytophthora 42 224 19
合 計 1695 3160
Pseudomonas syringaeb 42 106 40 Xanthomonas campestrisc 14 82 17
a分化型,b細菌(pathovar),c病原学名(種以下の 分類群も含む),d宿主特異性(学名数/宿主数×100)
我が国の植物病害と病原微生物
図
4
植物病(害)の病徴および植物病原微生物(スケール a:50 mm, c:5 mm, g, j-m:20 mm, h, i:10 mm)a:エノキうどんこ病菌(Uncinula kusanoi)の閉子のう殻 b:Exobasidium sp. によるツツジもち病罹病葉
c:カンツバキもち病菌(Exobasidium gracile)の担子胞子(走査電子顕微鏡像)(埋橋志穂美氏原図)
d:Taphrina wiesneri によるサクラてんぐ(天狗)巣病罹病枝 e:Taphrina deformans によるモモ縮葉病罹病葉
f:Meliola livistonae var. boninensis によるオガサワラビロウすす病罹病葉 g:ダイズ子実褐変病(仮)菌(Phoma medicaginis)の分生子殻(O:口孔)
h:クダモノトケイソウつる枯病(仮)菌(Colletotrichum sp.)の分生子,剛毛(G)
i:クダモノトケイソウ疫病菌(Phytophthora nicotianae)の造卵器,造精器(E)
j:キュウリ綿腐病菌(Pythium aphanidermatum)の造卵器,造精器(E)
k:イネ科いもち病菌(Magnaporthe grisea)の子のう殻とその頸部(N)(大久保博人氏原図)
l:M. grisea の子のう(位相差顕微鏡像)(大久保博人氏原図)
m:トマト葉かび病菌(Passalora fulva)の分生子
株しか登録されていないのは最も多く 748 病害であっ た.病害を登録株数の多い順に並べると,イネいもち 病菌(図 4k, l)が 1,000 株弱で最も多く,次いでイネ 白葉枯病菌が 800 株余りでこの 2 病害が群を抜いてい る(表 4).これらイネの 2 病原と同様に,多くのレー
スが報告されているトマト葉かび病菌(図 4m)が 3 番目に多く 318 株,ナス科作物の青枯病菌も宿主によ り 2 ~ 3 桁の株数がヒットした.イネいもち病菌とト マト葉かび病菌に次いで多くの菌株が登録されている 菌類は,複数の病原が関わるコムギ類赤かび病菌の
図
5
農業生物資源ジーンバンクが保有する 植物病原微生物種の種類別割合
図
6
農業生物資源ジーンバンクが保有する 植物病原微生物株の種類別割合
図
7
農業生物資源ジーンバンクの植物病原微生物と当該病害の 病原種類別収集率
図
8
農業生物資源ジーンバンクの全登録微生物種・株に対する 植物病原の割合
我が国の植物病害と病原微生物
142 株であった.その後には細菌のレタス腐敗病菌,
トマト青枯病菌およびダイズ葉焼病菌がともに 110 株 台で続いており,ウイルス病が初めて登場するのは複 数の病原が関わるトマトモザイク病の 75 株であった.
40 株以上の病原が登録されている上位 31 病害の内訳
は,細菌病が 22 病害と圧倒的に多く,次いで菌類病 の 8 病害,ウイルス病はわずか 1 病害であった(表 4).
一方,これらの宿主は,イネ,コムギ,ジャガイモ,
ダイズ,トマト,レタス,キャベツ,キュウリ,リン ゴ,モモ,カンキツ,ブドウ,チャなど主要作物ばか
表
4
農業生物資源ジーンバンクに保存されている植物病原微生物と株数(40
株以上の上位31
病害)順位 宿主 病名 病原種類 病原学名 株数a NBRCb JCMc
1 イネ いもち病 菌類 Pyricularia grisea (P. oryzae) 979 12 0
2 イネ 白葉枯病 細菌 Xanthomonas oryzae pv. oryzae 809 14 1
3 トマト 葉かび病 菌類 Passalora fulva (Fulvia fulva) 318 4 1
4 ジャガイモ 青枯病 細菌 Ralstonia solanacearum 259 0 1
5 イネ もみ枯細菌病 細菌 Burkholderia gladioli, Burkholderia glumae 160 1 2 6 コムギ 赤かび病 菌類 Gibberella zeae, Fusarium avenaceum,
Fusarium culmorum, Fusarium crookwellense Monographella nivalis
142 20 2
7 レタス 腐敗病 細菌 Pseudomonas cichorii, Pseudomonas marginalis
pv. marginalis, Pseudomonas viridiflava 117 0 0
8 トマト 青枯病 細菌 Ralstonia solanacearum 116 0 1
9 ダイズ 葉焼病 細菌 Xanthomonas axonopodis pv. glycinea
Xanthomonas campestris pv. glycinea 114 0 0 10 キャベツ 黒腐病 細菌 Xanthomonas campestris pv. campestris 85 0 0
11 ナス 青枯病 細菌 Ralstonia solanacearum 83 0 1
12 トマト モザイク病 ウイルス Colombian datura virus, Cucumber mosaic virus, Potato virus X, Potato virus Y,
Tobacco mosaic virus, Tomato aspermy virus, Chrysanthemum mild mottle virus#,
Tomato mosaic virus, Tobacco mosaic virus-T#
75 0 0
13 イネ 褐条病 細菌 Acidovorax avenae subsp. avenae 69 0 1
14 モモ せん孔細菌病 細菌 Brenneria nigrifluens, Erwinia nigrifluens,
Pseudomonas syringae pv. syringae 68 1 0
15 イネ 苗立枯細菌病 細菌 Burkholderia plantarii 65 6 2
16 チャ 輪斑病 菌類 Pestalotiopsis longiseta, Pestalotiopsis theae 65 0 0
17 ショウガ 青枯病 細菌 Ralstonia solanacearum 63 0 1
18 ダイズ 急性枯死症 菌類 Fusarium tucumaniae, Fusarium virguliforme 61 0 0
19 キュウリ 褐斑病 菌類 Corynespora cassiicola 54 26 0
20 リンゴ 紫紋羽病 菌類 Helicobasidium mompa 50 4 0
21 ナシ 白紋羽病 菌類 Rosellinia necatrix 50 5 0
22 ジャガイモ 黒あし病 細菌 Pectobacterium atrosepticum,
Pectobacterium carotovorum, Dickeya sp. 49 6 3 23 キウイフルーツ かいよう病 細菌 Pseudomonas syringae pv. actinidiae 46 0 0 24 トマト かいよう病 細菌 Clavibacter michiganensis subsp. michiganensis 45 4 11 25 カンキツ かいよう病 細菌 Xanthomonas citri subsp. citri 43 0 0 26 ブドウ 根頭がんしゅ病 細菌 Agrobacterium vitis, Rhizobium radiobacter 43 33 17 27 ダイズ 斑点細菌病 細菌 Pseudomonas savastanoi pv. glycinea 41 0 0
28 ジャガイモ 軟腐病 細菌 Pectobacterium carotovorum 40 6 3
29 レタス 斑点細菌病 細菌 Xanthomonas axonopodis pv. vitians 40 0 0 30 キュウリ 斑点細菌病 細菌 Pseudomonas syringae pv. lachrymans 40 0 0 31 ブロッコリー 黒腐病 細菌 Xanthomonas campestris pv. campestris 40 0 0
合計 4229 142 47
a複数病原の場合は合計数
(独)製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター生物資源課が分譲している菌株数(分離源は必ずしも一致しない)b
(独)理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室が分譲している菌株数(分離源は必ずしも一致しない)c
りであり,これらの病害に関して多くの研究が実施さ れ,供試された微生物株が集積されてきたことがうか がえる.これに対して 1 株しか登録されていない植物 病(害)は,大半が樹木や野生植物に起きるものであっ た.
3)農業生物資源ジーンバンクと他機関との保存状況 の比較
すでに触れたとおり,植物病原微生物は NIAS Genebank 以外に NITE バイオテクノロジーセンター NBRC や理化学研究所 JCM など国内のカルチャーコ レクションでも分譲されている.JSCC のオンライン カタログ(http://www.jscc-home.jp/jscc_strain_
database.html)を利用して NBRC および JCM の保 存している植物病原微生物を検索し保有状況を NIAS Genebank と比較した.その結果,NIAS Genebank の登録株数上位 31 病害の病原では,NBRC の合計は 14 病害の 142 株であり,JCM の合計は NBRC の保有 種とは一部異なる 14 病害の 47 株であった(表 4).
これらに対し,NIAS Genebank の同 31 病害の病原 株の合計は 4,229 株であり,各病害について桁違いに 多様な菌株が保存されていることが分かる.上記の 3 機関で保存されている全植物病原微生物種の多様性に ついては比較していないが,上記のとおり主要作物の 重要病害について調べただけでも NBRC と JCM は半 分もカバーしていないところから,我が国では NIAS Genebank が植物病原微生物の中核的保存機関である ことは論を俟たない.
おわりに
上記のとおり,日本植物病名目録追録は 2013 年 9 月 1 日付で 2012 年分の情報が追加され,それに準じ て病名データベースも更新された.その結果,同デー タベースは 44 病名増え,現在 11,442 病害の情報を収 録している.このように,作目の多様化や野生植物な どの病原調査が進むに伴い,国内の植物病名(害)は 年々増加している.日本植物病名目録(初版)(日本 植物病理学会,2000)と同第 2 版(日本植物病理学会・
農業生物資源研究所,2012)の収録病名数の差から,
この 12 年間で平均約 80 病名が毎年報告されてきたこ とになる.新病名に関わる学術報告は,新病害・初発 生病害のみならず,病原追加,病原再同定,病原性立 証など多岐にわたり,実際には年間 100 件以上行われ ている.これらの報告,特に国内の学術雑誌に投稿さ れた原著論文などで供試された病原微生物株の多くが
NIAS Genebank に逐次寄託され,他の試験研究・教 育用に公開分譲(配布)されている.微生物株ユーザー の利用目的は,主に他の病害の病原同定や分子系統解 析,生物間相互作用などの基礎研究や,検定法・農薬 開発,抵抗性育種といった応用研究である.もちろん,
これらの研究には,新病害等の報告で供試された微生 物株とともに,その病原微生物種(種内分類群を含む)
に典型的な特性を持つ株の利用が望ましく,一方では 病原分化型・pathovar・レース等多様な病原性や生理 特性を持った菌株セットも必要になる.現在,NIAS Genebank で は, 前 者 の ニ ー ズ に 応 え る べ く Fusarium および Colletotrichum 両属菌の「推奨菌株」
を選定・公開している(http://www.gene.affrc.go.jp/
databases-micro_approved.php).また,すでに述べ たように,NIAS Genebank には重要病害について多 様な病原株が揃っており,例えばイネいもち病菌では
「標準レースセット」(林,2005)を指定し,後者のニー ズに応える工夫をしている.今後も我が国の植物病害 は増え続けると予想されるが,それに伴い NIAS Genebank に集積される病原微生物種と株数も増え,
多様化することが予想される.
病名データベースに収録されている全ての病害とそ の病原微生物に比べてまだ収集率は低いが,上述のと おり,NIAS Genebank には主要作物の重要病原微生 物株については高い割合で登録・保存されており,最 近は国内のみならず海外からの分譲依頼も増えている
(日本微生物資源学会理事会,2013).今後も未登録の 植物病原微生物株を収集するとともに,既登録株の諸 特性や画像など付随情報の公開を進めていくことが,
より充実した研究基盤の整備と関連研究分野へのさら なる貢献につながると考えられる.
謝 辞
これまでご指導・ご鞭撻頂いた日本微生物資源学会 前会長の鈴木健一朗博士をはじめとする同学会の皆 様,および農業生物資源研究所の関係各位に衷心より 謝意を表する.特に,日本植物病名データベースの開 発を発案された同研究所の青木孝之博士,同データ ベースの構築に全面的なご支援とご協力を頂いた竹 谷 勝博士,山崎福容氏,大園麻友氏,熊谷みどり氏 および埋橋志穂美博士(現 JCM)に厚く御礼申し上 げる.また,農業生物資源ジーンバンクの微生物株デー タベースを長年管理・改善してこられた川田真佐枝氏,
服部幸子氏,齊藤初雄博士および小林みゆき氏,近畿 中国四国農業研究センターの富岡啓介博士,さらに元
我が国の植物病害と病原微生物
同研究所の喜多孝一博士,坪倉倫代氏,江塚昭典博士 ならびに金子令子博士に深く感謝の意を表する.本総 説を執筆するにあたり,各データベースからデータを 出力頂いた山崎福容氏と原図をお借りした方々に重ね て深謝する.
文 献
Farr, D.F. & Rossman, A.Y. 2013. Fungal Databases, Systematic Mycology and Microbiology Laboratory, ARS, USDA. Retrieved Augst 25, 2013, from http://nt.ars-grin.gov/fungaldatabases
林 長生 2005.イネいもち病菌.微生物遺伝資源利 用マニュアル 18:1─34.
池上八郎,原田幸雄,勝本 謙,百町満朗 1996.新 編植物病原菌類解説,養賢堂,東京.
景山幸二,須賀晴久,外側正之,森川千春,本橋慶一
(編)2010.現場で使える植物病原菌類解説─分類・
同定から取り扱いまで─,植物病原菌類談話会,岐 阜.
勝本 謙 2010.日本産菌類集覧,日本菌学会関東支部,
千葉.
岸 國平(編)1995.植物病理学事典,養賢堂,東京.
岸 國平(編)1998.日本植物病害大事典,全国農村 教育協会 , 東京.
Kobayashi, T. 2007. Index of Fungi Inhabiting Woody Plants in Japan. Host, Distribution and Literature, Zenkoku-Noson-Kyoiku Kyokai Publishing, Tokyo.
小林享夫,勝本 謙,我孫子和雄,阿部恭久,柿 嶌 眞(編)1992.植物病原菌類図説,全国農村教 育協会,東京.
窪野高徳 2011.微生物保存機関巡り(20)森林総合 研究所微生物遺伝資源管理委員会(FFPRI).日本 微生物資源学会誌 27:49─50.
日本微生物資源学会理事会 2013.平成 24 年度事業報 告(分譲件数および分譲株数).日本微生物資源学 会誌 29:70.
日本植物病理学会(編)2000.日本植物病名目録,日 本植物防疫協会,東京.
日本植物病理学会,農業生物資源研究所(編)2012.
日本植物病名目録,第 2 版,日本植物病理学会,東京.
佐 藤 豊 三 2004.MAFF ジ ー ン バ ン ク の シ ス テ ム
(MAFF Genebank system).微生物遺伝資源利用 マニュアル 17:1─4.
佐藤豊三,山崎福容,竹谷 勝 2009.日本植物病名 データベース.植物防疫 63:587─591.
佐藤豊三,山崎福容,竹谷 勝 2013.進化を続ける 日本植物病名データベース.植物防疫 67:39─43.
Takeya, M., Yamasaki, F., Uzuhashi, S., Aoki, T., Sawada, H., Nagai, T., Tomioka, K., Tomooka, N., Sato, T. & Kawase, M. 2011. NIASGBdb: NIAS Genebank databases for genetic resources and plant disease information. Nucleic Acids Res.
39
(suppl 1): D1108-D1113.Takeya, M., Yamasaki, F., Uzuhashi, S., Kumagai, M., Sawada, H., Nagai, T., Tomioka, K., Sato, T., Aoki, T. & Kawase, M. 2012. Development of a database of plant diseases in Japan and a system for mak- ing microorganism genetic resources and their DNA sequence data available to the research com- munity. JARQ 46: 193-198.