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微生物との共生における宿主植物のセキュリティシステム

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化学と生物 Vol. 54, No. 4, 2016

微生物との共生における宿主植物のセキュリティシステム

微生物に対する防御応答と共生応答を起動する植物受容体

自然界で植物は,巧妙な手段を日々進化させて侵入を 試みる膨大な種類の病原菌の脅威にさらされており,自 己の細胞死も含めた高度で複雑な防御機構により徹底的 にこれらを排除して生き抜いている.その一方で植物が 微生物を組織内,さらには細胞内に積極的に受け入れて 相利共生を営む例が知られている.マメ科の植物は,根 に根粒菌と呼ばれる土壌細菌を感染させることで(図 1A),窒素栄養の乏しい土壌でも生育できる.また糸状 菌であるアーバスキュラー菌根菌(以下AM菌)は植物 の根に感染して(図1B),土壌中から菌糸を使って集め たリン酸などの無機養分を植物に提供する.AM菌共生 と根粒菌共生の様式は全く異なるが,一部の遺伝子群が どちらの共生にも必須である.マメ科植物にほぼ限定さ れている根粒菌共生は,マメ科を含む多くの陸上植物で 成立するAM菌共生のメカニズムを土台にして確立さ れたと考えられている.(1)

根粒菌共生とAM菌共生のどちらにおいても,巧妙 な戦略を駆使して侵入しようとする多様な病原菌を排除 しながら共生菌のみを受け入れなければならない.根粒 菌共生では,根粒菌が分泌するシグナル分子Nodファ クターが身分証明の役割を担っており,植物の共生応答 を起動する鍵になっている(図1C).Nodファクターは

キチンを基本構造としており,非還元末端に脂肪酸が付 加されているが,面白いことにキチン自体は糸状菌の細 胞壁成分として植物に防御応答を誘導する強い活性があ る(図1C).またシロイヌナズナから初めて同定された キチン受容体であるAtCERK1(2)は,すでにマメ科植物 で同定されていたNodファクター受容体であるNFR1(3) と非常に近縁のオルソログである.つまりキチン防御応 答とNodファクターによる根粒菌共生プログラムは,

リガンドと受容体の両方が類似したシステムに起動され て,微生物の排除と受容という全く逆の結果をもたらす

(図1C).

AtCERK1およびNFR1は共に受容体型キナーゼであ り,キナーゼドメインは特に高い相同性を示す.また,

それぞれの細胞内キナーゼの活性がキチン防御応答の起 動や根粒菌共生の開始に必須である.われわれは以前 に,NFR1はNodファクター受容時に一過的な防御応答 を引き起こす一方でAtCERK1の細胞内ドメインには根 粒菌共生を誘導する活性がないことや,マメ科植物の NFR1に保存されている3アミノ酸のYAQ配列を付与 するとAtCERK1のキナーゼに共生能力を付与できるこ とを明らかにしていた(4, 5).キチン防御応答は被子植物 で広く観察されることから,NFR1は祖先のCERK1遺

図1CERK1は防御応答と共生応答の両方を制御する

(A)ミヤコグサの根に形成された根粒(矢印)(B)イネの根に感染したAM菌(小八重善裕博士提供).矢印は菌糸,矢頭は共生器官で ある樹枝状体を示す.(C)根粒菌共生では,Nodファクターを,受容体キナーゼであるNFR1とNFR5が受容する(NFR5のキナーゼは活 性がない).AM菌共生においては,NFR1のオルソログであるCERK1がAM菌からMycファクターを受容して共生応答を起動すると推測 される.一方でCERK1は病原菌の細胞壁成分を認識して防御応答を起動することが知られている.CERK1はキチン認識時には細胞内ドメ インをもたないCEBiPと複合体を形成するが,共生リガンド認識時については明らかではない.

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伝子から進化した可能性が高い.しかし,なぜ正反対の 機能をもつCERK1とNFR1がこれほど近縁な関係にあ るのかは不明であった.最近になってわれわれは,イネ を含む多くの非マメ科CERK1ホモログのキナーゼドメ インにはYAQ配列が存在しており,実際にマメ科植物 で根粒菌共生プログラムを起動する能力があることを発 見した(6).つまりシロイヌナズナのAtCERK1が共生能 力をもたない例外であった.さらにイネのOsCERK1を 欠失した 変異体は,AM菌の感染が根の表層で 停止していた(6).この 変異体はキチン防御応答 も完全に停止してしまう(7).したがって,OsCERK1は 防御応答とAM菌の受容の両方を担っていることが明 らかとなった.ほかの非マメ科CERK1ホモログも同様 に防御と共生の2つの機能をそれぞれの植物で担ってい ると思われるが(図1C),シロイヌナズナに関しては AM菌共生を破棄したアブラナ科に属しており,CERK1 が防御応答のみを起動するような特殊な分子に進化した と推測される.

AM菌共生は最初の陸上植物であるコケ植物で成立し たとされる.コケ植物を含む多くの非マメ科植物で CERK1は,単一または非常に少数のコピー数で維持さ れており,上述のYAQモチーフを保持している.また コケ植物でもキチン防御応答が観察されることから,

CERK1は防御と共生という正反対の二重機能を,最初 のAM菌共生成立時から維持しているのかもしれない.

陸上植物は4億年以上の長い進化の過程で,多くの遺伝 子を重複・機能分化させながら多様な能力(種子・花・

維管束形成など)を獲得してきた.この期間に,CERK1 もそれぞれ防御特異的,共生特異的分子に分化する充分 な機会があったであろう.したがってわれわれの発見 は,不便に思えるCERK1の正反対の二重機能性を維持 させる強力な選択圧の存在を想像させる.

植物組織に侵入する方法を常に模索している病原菌に とって,植物が積極的に受け入れてくれる共生メカニズ ムはいかにも魅力的であろう.共生プログラムの悪用を 試みて,Nodファクターや菌根菌の共生シグナル分子

(Mycファクター)のような「鍵」を偽造しようとする のは必然であるように思われる.この場合に間違った鍵

を使ってもペナルティがなければ,侵入者は延々と正解 を求めて試行錯誤することが可能である.しかし正解の

「鍵」が防御応答の起動因子を僅かに改変したものであ り,さらに「錠」が不正なアクセスに対して警報を発す ることができれば,正解にたどり着く難易度が著しく上 昇する.これがAM菌共生において「共生専用」の CERK1受容体の分化を選択しなかった理由だと筆者は 推測しているが,いかがであろうか? 今後の実験によ り検証していきたい.

  1)  M. Parniske  :  , 6, 763 (2008).

  2)  A. Miya, P. Albert, T. Shinya, Y. Desaki, K. Ichimura, K. 

Shirasu,  Y.  Narusaka,  N.  Kawakami,  H.  Kaku  &  N. 

Shibuya:  , 104, 19613 (2007).

  3)  S. Radutoiu, L. H. Madsen, E. B. Madsen, H. H. Felle, Y. 

Umehara, M. Grønlund, S. Sato, Y. Nakamura, S. Tabata,  N. Sandal  :  , 425, 585 (2003).

  4)  T.  Nakagawa,  H.  Kaku,  Y.  Shimoda,  A.  Sugiyama,  M. 

Shimamura,  K.  Takanashi,  K.  Yazaki,  T.  Aoki,  N. 

Shibuya & H. Kouchi:  , 65, 169 (2011).

  5)  中川知己:化学と生物,49, 660 (2011).

  6)  K.  Miyata,  T.  Kozaki,  Y.  Kouzai,  K.  Ozawa,  K.  Ishii,  E. 

Asamizu, Y. Okabe, Y. Umehara, A. Miyamoto, Y. Kobae 

:  , 55, 1864 (2014).

  7)  Y.  Kouzai,  S.  Mochizuki,  K.  Nakajima,  Y.  Desaki,  M. 

Hayafune,  H.  Miyazaki,  N.  Yokotani,  K.  Ozawa,  E. 

Minami, H. Kaku  :  , 27

975 (2014).

(中川知己,名古屋大学大学院理学研究科)

プロフィール

中川 知己(Tomomi NAKAGAWA)

<略歴>1998年兵庫県立姫路工業大学理学 部卒業/2003年京都大学農学部博士課程修 了/同年東京大学研究員/2005年日本学術 振興会特別研究員/2006年農業生物資源研 究所任期付職員/2011年明治大学研究員/

2015年名古屋大学特任助教,現在に至る

<研究テーマと抱負>植物と微生物の共生 と防御の進化の歴史,宿主植物が数億年以 上の間,巧妙な戦略を進化させ続ける病 原菌を防ぎながら共生菌を受け入れるメカ ニズムを解明したい<趣味>高校生の研 究 指 導,読 書<ホ ー ム ペ ー ジ>http://

www.nibb.ac.jp/miyakohp/NAKAGAWA/

nakagawa.html

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.233

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