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LysM受容体を介 した植物免疫応答 - J-Stage

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街角の花屋で見かける可憐な花々を見ていると,いか にもひ弱そうに見える植物だが,実際には病原菌を撃退 するための高度な仕組みを備えている.こうした植物の もつ病害抵抗性が農業における生産性の向上,安全性の 高い食糧供給の上からきわめて重要な要素であることは いうまでもない.それでは,この植物の病害抵抗性の仕 組みはどうなっているのだろう.従来から,病原菌に対 する植物の抵抗性機構には,広範な病原菌に共通して存 在する分子群〔PAMP (pathogen-associated molecular  pattern)/MAMP (microbe-associated molecular pat- tern), ここでは以後MAMPを用いる〕を認識すること によって誘導される防御応答〔PTI (PAMP-triggered  immunity)/MTI (MAMP-triggered immunity)〕 と,非

病原性遺伝子と称される特定の遺伝子をもつ病原菌レー スを,これに対応する抵抗性遺伝子をもつ植物が特異的 に認識,排除する機構(遺伝子対遺伝子型抵抗性)があ ることが知られていた.現在では,これら2つの抵抗性 機構には密接な関連があることが知られており,広範な 病原菌に対応することができるPTI/MTIがこれらの病 原菌から植物を守る基礎的病害抵抗性で重要な役割を果 たしている.こうした抵抗性を打破するために病原菌は 様々なエフェクター(病原菌が分泌し,宿主の防御機構 を撹乱・抑制することにより感染を成立させる機能を もったタンパク質群)を進化させてきた.これらのエ フェクターを直接あるいは間接的に検出できるように進 化した植物が特異的な病害抵抗性を獲得できたと考えら

セミナー室

自然免疫の応答と制御

──その共通性と多様性‒3 LysM受容体を介

した植物免疫応答

賀来華江,新屋友規,渋谷直人

明治大学農学部

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れることなどが示されている(1).こうした視点で見る と,病原菌が植物の特異的抵抗性を誘導するための 非 病原性遺伝子 をなぜもっているのかという疑問も,エ フェクターを進化させた病原菌が共進化の次の段階で,

エフェクターを介して植物に見つかるようになってし まった結果ということで容易に理解することが可能であ る(2).このいわゆるジグザグモデルは病原菌と植物の共 進化という視点を導入することによって,植物の病害抵 抗性機構を統一的に理解する上で大きな貢献を果たし た.一方,実際の植物の病害抵抗性はPTI/MTIと抵抗 性遺伝子の系の2つに明確に割り切れるものではなく,

これらの系は連続的に進化してきたと捉えるべきではな いかという見解も提案されている(3).また,植物は病原 菌由来のシグナル分子だけでなく,菌の侵入時に生成す る植物細胞壁の断片のような分子 (DAMP, damage-as- sociated molecular pattern) によっても防御応答を活性 化する機構をもっていることも知られている(4)

一方,このような植物の病害抵抗性機構と動物の免疫 機構,特に先天性免疫機構とは様々な点で共通性が見ら れることも指摘されている(こうした点も踏まえて,植 物の病害抵抗性を植物免疫と呼ぶことも一般化してきて

いる)(5, 6).たとえば,植物が認識するMAMP分子の多

くは動物の先天性免疫機構を活性化することが知られて おり,これらの認識に関わるパターン認識受容体の構造 にも類似性が見られる.MAPキナーゼカスケードがシ グナル伝達過程で重要な役割を果たしている点も共通点 の一つである.MAMP応答だけでなく,抵抗性遺伝子 産物 (R protein) の多くに見られるNBS-LRR (nucleo- tide-binding site leucine-rich repeat) 構造をもつ分子が 動物の先天性免疫系で細胞内受容体として重要な役割を 果たしている点も,動物と植物の免疫系の共通性を示唆 するものとして興味深い(7).今後,これらの系の共通性 と独自性を比較することにより,高等生物の先天性免疫 機構がどのように関連しながら進化してきたかについて の理解が深まるものと期待される.

今回は,上記のような植物のパターン認識に関わる受 容体について概観した後,筆者らのグループが研究して いるLysM型受容体分子を通じて見えてきた植物と病原 菌の共進化,防御応答と共生応答との関係を中心に紹介 したい.

植物MAMPs受容体

植物の防御応答を誘導するMAMPは,広範な病原菌 に共通して存在する分子群であり,その多くは植物自体

にはない分子である.これまで単離されたMAMPに は,細菌鞭毛タンパク質であるフラジェリンのペプチド 

(flg22),翻訳伸長因子 (EF-Tu) 由来のペプチドである elf18,リポ多糖 (LPS),  pv. 

から単離された分泌型硫酸化ペプチドAx21,ペプ チドグリカン,キチン,

β

-グルカン,エリシチンなど

があり(8, 9),上述のように動物の先天性免疫の活性化物

質と共通する分子も多い(表1.また,MAMPの多く は微生物の生存維持に重要で不可欠な分子であるため,

微生物にとって容易に欠損あるいは変異させることがで きない.そのため,広範囲の植物がこのMAMP分子を 非自己の識別シグナルとして利用している.一方,

MAMP分子のどの部位を認識しているかという点に関 しては,動物と植物,あるいは植物種間でも異なる場合 があることが

β

-グルカン,LPS,フラジェリンなどで 示唆されている(10〜12)

これまでに,これらのMAMPを認識する受容体の探 索が精力的に進められ,そのいくつかについては一次構 造が明らかになっている(図1.その中で,多くのロ イシンリッチリピート (LRR) モチーフを細胞外領域に もつ受容体キナーゼ型分子が同定されており,これら は,動物の自然免疫に関わるToll様受容体(TLR : Toll- like receptor,本シリーズの第1回を参照)と細胞外ド メインが類似した構造をもっている.flg22に対する受 容体FLS2(flagellin sensitive 2,本シリーズの第7回を 参照),EFR(EF-Tu receptor, elf18を認識)のほか,

XA21(Ax21を認識)もこのグループに属する受容体 である.また,トマトのエンド型

β

-1,4-キシラナーゼ結 合タンパク質 (LeEix1/2) は,細胞外領域にロイシン ジッパー構造とLRR構造をもち,細胞内のC末端領域 には動物のエンドサイトーシスシグナルと類似する配列 をもつ膜貫通型受容体である.ダイズから単離されたヘ 表1植物および動物の防御応答を誘導するPAMPs/MAMPs

PAMPs/MAMPs 植物 動物

タンパク質分子

 フラジェリン ○ ○

 翻訳伸長因子 ○

 キシラナーゼ ○

 Ax21 ○

 エリシチン(INF1, カプサイシン) ○ 糖質性分子

 キチン ○ ○

 グルカン ○ ○

 マンナン ○ ○

 ペプチドグリカン ○ ○

その他

 リポ多糖(LPS) ○ ○

(3)

プタ

β

-グルコシド結合タンパク質 (GBP) は,

β

-グル カンエリシター結合領域とエンド型

β

-1,3グルカナーゼ 活性をもつマルチ機能型のタンパク質である.しかし,

その推定構造には,明確な膜貫通領域や細胞内シグナル 伝達に関与する領域がないことから,他の因子が関与す る可能性が推測されている.最近,疫病菌である

属菌が分泌する低分子量のタンパク質エリシ ターであるエリシチンを認識する2種類の新規膜貫通型 受容体キナーゼ (NbLRK, NgRLK1) が報告されてい る(8)

キチンは真菌の代表的MAMPであり,その断片であ るキチンオリゴ糖はエリシターとして,イネやトマト培 養細胞においてナノモルレベルで防御応答反応を誘導す ることが知られている.その受容体であるCEBiPおよ びCERK1/OsCERK1は,筆者らが世界に先駆けて同定 した lysin motif (LysM) ドメインを細胞外領域にもつ 新規なグループのMAMP受容体である.

LysM型キチン系受容体およびその複合体

筆者らはこれまでに,イネのキチンエリシター受容体 として,CEBiP (chitin elicitor binding protein) と Os- CERK1 (  chitin elicitor receptor kinase 1)

の2分子を同定した(13, 14).CEBiPは原形質膜のキチン オリゴ糖結合タンパク質として単離された分子であり,

細胞外領域にLysMドメインをもつが,シグナル伝達に 必須な細胞内領域が欠如していた.しかし,RNAi法に よって 遺伝子の発現を抑制したイネ細胞では,

非形質転換細胞に比較してキチンエリシター誘導特異的 な活性酸素の応答が約86%抑制され,またマイクロア レイ解析の結果では,約7割のキチンエリシター応答遺

伝子の発現が抑制されていた(13).これらの結果は,

CEBiPがイネ細胞表層の主要なキチンエリシター受容 体であり,防御応答の誘導においてもきわめて重要な役 割を果たしていることを示している(13).しかし,細胞 内領域が存在しないCEBiPは単独ではシグナル伝達を 行なうことは困難であるため,以下に述べるOsCERK1 の協力を得て細胞内へシグナルを伝達すると推測され る.

OsCERK1は細胞外領域にLysMドメインをもつ受容 体キナーゼ型分子であり,その発現抑制イネ変異体細胞 においては,CEBiPの場合と同様にキチンエリシター 誘導性の活性酸素生成および防御応答遺伝子の発現の阻 害が認められた(14).これらの結果は,イネのキチン防 御応答の開始には,異なる構造をもつ2種の受容体 CEBiPとOsCERK1が重要な役割を果たすことを示唆し ていた.酵母ツーハイブリッド法,Blue native電気泳 動および架橋剤による架橋実験により,CEBiPおよび OsCERK1はホモおよびヘテロ二量体を形成する潜在的 な能力をもつこと,エリシター非存在下ではCEBiPは 単量体あるいはホモ二量体として,またOsCERK1は主 として単量体で存在することが示唆された.興味深いこ とに,特異抗体を用いた免疫沈降実験の結果,キチンエ リシター共存下においてのみ,両分子が受容体複合体を 形成することが明らかになった(14).今後,OsCERK1と CEBiPがどのように受容体複合体を形成しキチンエリ シターシグナルの受容・伝達を行なうのかの解明が待た れる.

一方,シロイヌナズナの遺伝子欠損変異体を利用して 同 定 さ れ たCERK1は,細 胞 外 領 域 に3つ のLysMモ チーフをもつセリン/スレオリン型受容体キナーゼであ り,生化学的解析からも原形質膜に局在する活性型の受 図1植物のMAMPsを認識する受容体

(4)

容体キナーゼであることが示された(15). 変異体を 用いた解析およびその野生型 遺伝子による相補 実験から,CERK1はシロイヌナズナのキチンエリシ ターシグナル伝達に不可欠の因子であることが明らかと なった(15).また 変異体が真菌だけでなく細菌に対 しても抵抗性を低下させることが報告されている(16, 17)

CEBiPおよびOsCERK1/CERK1の細胞外領域に共通 して存在するLysMドメインを含む分子は,古細菌 (ar- chaea) を除くすべての生物に存在しており,キチンや ペプチドグリカンの結合にLysMドメインが関わるとさ れている.CEBiPにおいても,LysMドメインがキチン オリゴ糖の結合に関与すると推定される.また,最近 CERK1がキチンに結合する活性をもつことが複数報告 されているが,キチンオリゴ糖への直接的な結合性はま だ確認されていない(18, 19).一方,キチンがMAMPとし

て動物の免疫系を活性化することが報告され,TLR-2受 容体の関与が示唆されている(20, 21)

植物の防御機構と病原菌の感染戦略との共進化 植物のMAMP認識系は,植物側にとっては重要であ るが,感染する微生物側からしてみれば,やっかいな代 物である.しかし,微生物も進化の過程で植物免疫系に 対抗するための様々な物質・形質を得ている.その中で も複数のエフェクターがMAMPシグナル系をターゲッ トとすることが報告されており,キチン認識系も例外で はない.

細菌のエフェクター AvrPtoBは細菌の細胞内で合成 され,タイプIII分泌機構を介して植物の細胞内に注入 された後,CERK1に直接的に結合する(17).AvrPtoBは

図2LysM分子を介した植物と病原菌とのジグザグ共進化モデル

植物と微生物の間では,それぞれに進化を繰り返すことで,感染・防御に関わる攻防が起きている.キチン認識系をジグザグモデルにあて はめると,植物がまず,微生物認識に有効なLysM受容体を介したキチン認識系を獲得した (PTI/MTI).一方,真菌はAvr4型とEcp6型 の少なくとも2種のエフェクターを獲得し,植物のキチン認識系から逃れる (ETS).さらに植物がこれらエフェクターに対抗する進化と して,Avr4に対しては抵抗性遺伝子産物Cf-4を,Ecp6に関しても受容体分子を獲得していると考えられ,エフェクター認識を介した抵抗 性を示す (ETI).PTI/MTIあるいはETIが効果的である場合に植物は抵抗性を示すが,MTIとETIの応答の強さを比較すると,ETIのほ うが過敏感反応死を伴う強い応答を示す場合が多い.微生物側がエフェクターを獲得し,植物免疫系を無効化した場合 (ETS),植物は十 分な抵抗性を示せず罹病性を示す.

(5)

分子内にE3リガーゼ活性を有するドメインをもってお り,CERK1をユビキチン化し分解することで植物の認 識機構を無効化していると考えられる.この結果,

CERK1を介したバクテリアへの抵抗性を低下させるが,

細菌はキチンをもたないため,細菌がなぜCERK1を ターゲットとする分子を有しているのか,そもそも植物 がなぜ,CERK1を介して細菌に抵抗性を示せるのかが 疑問であった.最近,キチンと類似した構造である細菌 の 細 胞 表 層 に 存 在 す る ペ プ チ ド グ リ カ ン の 認 識 に CERK1が関与していることが明らかになり,この疑問 は解かれた(22)

真菌類では,これまでにキチン認識系を撹乱する分泌 性エフェクターの報告がある.植物-微生物相互作用に おいて,植物が細胞間隙に分泌したキチナーゼは抗菌作 用を示したり,エリシター活性を有するキチンオリゴ糖 を産生するが,トマト葉カビ病菌

は,分泌性キチン結合タンパク質Avr4により対抗す る.分泌されたAvr4は菌自体の細胞壁のキチンに結合 することで,キチナーゼによる細胞壁の分解を防御す る(23)

同じく の分泌タンパク質から見いだされた Ecp6は,植物のキチン受容体と同様に分子内に3個の LysMモチーフを有していた.Ecp6はキチンオリゴ糖 に対して高い親和性を有しており,興味深いことにトマ トやイネのキチンオリゴ糖処理による防御応答の誘導を 阻害した.この阻害機構を解析したところ,Ecp6は CEBiPと競合してキチンオリゴ糖に結合し,キチンオ

リゴ糖-CEBiPの相互作用を妨げることが明らかになっ た(24).この型のLysMエフェクターは真菌類に広くホ モログが存在していることが明らかになっている.特性

解析のなされた 由来のLys M

エフェクターであるMg3LysMは,キチンオリゴ糖に よって誘導される防御応答を阻害するだけでなく,キチ ナーゼによる細胞壁の分解を防ぐ.すなわち,Ecp6と Avr4の両方の機能を有する分子であった(25)

微生物は分泌性エフェクターを含めた様々なエフェク ターを産生し,植物の免疫系の撹乱を試みているが,植 物側も手をこまねいているわけではない.植物がこの攻 防に打ち勝つには,さらなる進化が必要であるが,

Avr4に対しては抵抗性遺伝子産物Cf-4を介したETI

(エフェクター誘導性免疫応答)の機構を獲得している.

また,LysMエフェクターに対しても,Ecp6を認識す る受容体の存在の可能性をThommaらは述べている(3). このように,微生物と宿主は感染と防御応答に関わる 様々な攻防において共進化を繰り返し,現在のシステム の形成に至ったと考えられるが,キチン認識を介した攻 防に着目した場合にも,その共進化の一端を垣間見るこ とができる(図2

共生に関わる植物LysM型受容体

植物中のLysMドメインをもつ分子で機能が明らかに なっているものは,上述のCEBiP型/CERK1型受容体 分子以外に,シダ植物リュウキュウイノモトソウ (

図3植物細胞から同定されたLysMドメイ ンをもつ分子

(6)

) から同定されたキチナーゼ(26)および有 用微生物との共生に関わる受容体分子がある(図3 マメ科植物と共生する根粒菌はキチンオリゴ糖が様々な 形で修飾された分子であるNodファクターを分泌し,

これを植物側の受容体が認識することにより,それぞれ の根粒菌に特異的な宿主の根粒形成が誘導される.この Nodファクター受容体は,ミヤコグサ ( ,  NFR1/5),タ ル ウ マ ゴ ヤ シ( ,  LYK3/NFP)およびエンドウ (SYM37/10) などのマメ 科植物から同定され,CERK1/OsCERK1と類似する LysM型受容体キナーゼ型分子である(27〜29).このよう に,植物のLysM型受容体キナーゼ型分子が構造的に類 似したリガンドを認識した結果として,根粒菌との共生 のように微生物を受け入れる応答を誘導する場合と,病 原菌の排除という相反する細胞応答の制御に関わってい ることは,大変興味深いことである.最近,これに関連 して中川らは,Nodファクター受容体を介する共生の初 期応答が,MAMP に起因する防御応答と共通している こと,またNFR1(細胞外領域)とCERK1(細胞内領 域)とのキメラ受容体を用いた解析から,CERK1キ ナーゼの特定部位に3アミノ酸残基 (YAQ) を導入する ことにより共生応答が誘導されることを明らかにし,

NFR1が防御応答に関わるキチン受容体から進化した可 能性を示唆した(30)

一方,植物の8割と相利共生を行なう真核生物である 菌根菌はリン酸を植物に供給しているが,最近,菌根菌 が分泌するMycファクター(植物との共生を成立させ るために菌根菌が分泌する物質)の構造が明らかになっ た(31).驚くべきことに,その構造は側鎖に脂肪酸およ び硫酸基が付加したキチンオリゴ糖であり,原核生物で ある根粒菌のNodファクターと類似していた.また,

Op den Campらはニレ科パラスポニアにおいて,根粒 菌共生に必要なNFR5型受容体分子が菌根菌共生におい ても必須であることを報告している(32).このように,

異なるタイプの菌および感染様式にもかかわらず,類似 したリガンドとLysM受容体を利用した共生系応答を行 なうことは興味深い.今後,これらのLysM受容体群の リガンド受容および下流のシグナル伝達系のメカニズム の解明が進むことにより,病原菌に対する防御系と根粒 菌・菌根菌における共生系の双方の理解が深まり,

LysM分子によって語られる植物と病原菌/有用共生菌 との相互作用・対話の起源に関する進化をたどることが 可能になると考えられる.

8,000種類を超える植物病原菌が存在する中で,植物 に深刻な病害を与える病原菌はほんの一握りである.植 物は病原菌を含む多くの微生物を非自己として感知し,

排除する自己防衛機構,すなわち「植物免疫力」を備え ている.ここでは,植物免疫に関わるMAMPとしての キチンとそのLysM受容体を中心に解説し,LysM分子 を介する病原菌と植物の防御戦略の共進化について述べ てきた.最近,このLysM受容体の基礎的な知見を利用 した新たな応用への展開が試みられている.すなわち,

CEBiP分子に別種のMAMP受容体であるXA21の細胞 内領域を付加したキメラ受容体を過剰発現したイネ形質 転換体が,キチンオリゴ糖存在下において,本来キチン 防御系が誘導しない,より強い防御応答である過敏感細 胞死応答を誘導することが報告されている(33).この結 果は,免疫機能を強化した新たなMAMP受容体の開発 の可能性を示唆するものであり,病害抵抗性作物開発に 向けての発展が期待される.2050年に世界人口は百億 人に達すると考えられ,食糧問題の対策は急務である.

こうした中で,MAMPを介する植物免疫機構の解明が,

植物の本来もっている 「免疫力」 を最大限に増強させ,

食糧問題の解決と環境や地球に優しい農業の発展に貢献 することを期待している.

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堀  川   学(Manabu Horikawa) <略 歴>1988年北海道大学理学部化学科卒 業/ 1990年同大学大学院理学研究科修士

(博士前期)課程修了/1993年同博士後期 課程修了(理博)/1994年日本学術振興会 特別研究員(PD)/同年(財)サントリー生 物有機科学研究所(現 (公財)サントリー 生命科学財団生物有機科学研究所)研究 員,現在にいたる.この間,1998 〜 2000 年米国ハーバード大学博士研究員<研究 テーマと抱負>有機合成化学を基盤とした 生理活性物質の機能研究,分子モデリング を用いたタンパク質の機能解析<趣味>将 棋,スキー

増 田  誠 司(Seiji Masuda) <略 歴> 1988年京都大学農学部食品工学科卒業/

1993年同大学大学院農学研究科博士後期 課程修了(農博)後,日本学術振興会特別 研究員を経て,京都大学農学部助手/

1999年同大学大学院生命科学研究科助教 授/ 2007年同准教授,現在にいたる.こ の間,2001 〜 2003年米国ハーバード大学 医学系研究院留学<研究テーマと抱負>細 胞核のなかでmRNAが成熟するメカニズ ムと核内のRNA品質管理のメカニズムを 明らかにしたい.またそれらの知見を用い た動物細胞工学を進行中<趣味>日本の淡

水魚や虫の飼育,学生・院生が成長する様 子を観察すること

松  田   譲(Yuzuru Matsuda) <略 歴>1971年新潟大学農学部卒業/ 1974年 東京大学大学院農学系研究科修士課程修 了/1977年同博士課程修了(農博)/同年 協和発酵工業(株)/ 1985年同社東京研究 所主任研究員/ 1996年同研究所研究推進 室長(兼 安全環境管理室長)/ 1999年同 社富士工場医薬総合研究所,探索研究所 長/2000年同社執行役員(〜現在),医薬 総合研究所長/ 2002年同社常務取締役,

総合企画室長/ 2003年同社代表取締役社 長(〜現在)/2008年協和発酵キリン(株)

代表取締役社長(キリンファーマ(株)との 合 併 に 伴 い ),現 在 に い た る.こ の 間,

1985年米国国立立衛生研究所派遣(〜 86 年)<研究テーマと抱負>日本農芸化学会 の発展に寄与したい<趣味>愛妻,愛猫,

そして飲酒談笑

山口 紀子(Noriko Yamaguchi) Vol. 49,  No. 12, p. 874参照

山崎 智弘(Tomohiro Yamazaki) <略 歴>2002年京都大学農学部生物機能科学 科卒業/ 2010年同大学大学院生命科学研

究科博士後期課程修了(生命科学博)/

2011年米国ハーバード大学医学系研究院 ポスドク,現在にいたる<研究テーマと抱 負>mRNAの転写・プロセシング・核外 輸送の共役機構の解明および共役因子の一 つであるRNA結合タンパク質FUSの異常 によるALS(筋萎縮性側索硬化症)発症 の メ カ ニ ズ ム の 解 明 を 目 指 し て い る.

ALSの治療に道を開きたい<趣味>ス キー,ランニング,山登り

米  山   裕(Hiroshi Yoneyama) <略 歴>1983年東北大学大学院農学研究科博 士課程前期2年修了/同年協和発酵工業

(株)医薬研究所/ 1989年東海大学医学部 細胞情報科学教室助手/ 1996年同大学医 学部分子生命科学部門講師/ 2000年東北 大学大学院農学研究科助教授,現在にいた る.この間,1985 〜 86年東海大学医学部 総合医学研究所派遣研究員,1999年米国 オールドドミニオン大学在外研究員.1992 年医博(東海大学)<研究テーマと抱負>

細菌のアミノ酸排出輸送体の構造と機能,

細菌感染症の制御を目指した新規標的の探 索とその阻害剤の開発<趣味>囲碁,キャ ンプ,卓球

プロフィル

Referensi

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