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人工甘味料―甘味受容体間における相互作用メカニズムの解明

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化学と生物 Vol. 50, No. 12, 2012 859

今日の話題

人工甘味料―甘味受容体間における相互作用メカニズムの解明

低分子甘味料の受容様式は非常に多様である

食品の味は嗜好性を決定する大きな要因である.われ われは舌の上に存在する味蕾(みらい)という組織を介 して,食品に含まれる呈味物質を識別している.味蕾に 含まれる味細胞が味物質を認識できるのは,それぞれの 細胞に味物質を受け取るための受容体が備わっているか らである.味にかかわる研究においてはかなり古くから そのような受容体の存在が仮定されてはいたものの,味 覚受容体の実体が最初に明らかにされたのはたった10 年ほど前のことである(1).現在では,五基本味(甘味・

酸味・塩味・苦味・旨味)を受容するそれぞれの味覚受 容体が明らかにされている(2).この発見により,各々の 味覚受容体がどのような物質に対して応答するか,また どのように活性が調節されているかといった研究を実施 することが可能となってきたため,味覚に関連する研究 分野はこの数年間で,大いに進展した.

基本味のうちわれわれが嗜好する味である甘味は,産 業的にも非常に重要な味である.天然由来の甘味物質の みならず,複数の人工甘味料が開発されてきており,清 涼飲料水などの食品にも汎用されている.甘味物質の代 表例は砂糖をはじめとする糖類であるが,それ以外にも グリシンやd-トリプトファンなどのアミノ酸,アスパル テームやサッカリンなどの人工甘味料,モネリンなどの 甘味タンパク質など,さまざまな物質が甘味を示す.こ れらの物質には甘いという共通点はあるものの,個々の

物質の分子構造に着目すると分子量や化学的性質は大き く異なっており,構造的な共通点は一見すると認められ ない(図1.さらに,現在でもよく使用されているア セスルファムK・アスパルテーム・サッカリンといった 人工甘味料は,甘味料を創出する目的ではなく,ほかの 研究の副産物として生まれてきた甘味物質であり,いわ ば偶然の産物とも言える.したがって,ある化学物質が

「甘味」を示すにはどのような構造を有することが必要 であるかという疑問に対して,なかなか理解が進まない のが味覚研究の現状と言えよう.

味覚受容体が同定される以前の研究においては,甘味 を有する化合物およびその類縁体の甘味強度を基にして 構造活性相関が調べられ,どのような構造の化合物であ れば甘味を呈するのかという点について追究がなされ た.その結果,AH-B則という甘味物質に関する有名な 仮説が提唱された(3).この法則によると,甘味を示す物 質の分子内にはプロトン供与基 (AH) とプロトン受容 基 (B) が2.5 〜 4.0Åの距離で存在することが必須であ り,当時はまだ発見されていなかった甘味受容体の受容 部位に存在する同様のAH-Bユニットと対をなすように 水素結合を形成することで,甘味刺激が引き起こされる と考えられた(3).このような仮説により構造の異なる物 質の甘味発現機構が説明できるとされているものの,こ の法則を満たすにもかかわらず甘くない物質も存在して

図1甘味を示す低分子化合物群

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おり,甘味を示す物質の一般則に関する理解は十分とは 言い難い.

一方で,前述した味覚受容体の同定により明らかに なったこととして,甘味物質を受容するヒト甘味受容体 は1種類しか存在しないという事実がある(4).さらにこ の1種類のヒト甘味受容体が,多様な構造を有する多種 類の甘味物質により活性化されることも示されてき た(5).ほかの味,たとえば苦味の受容においては,25 種類の受容体がヒトには存在しており,受容体が多種類 存在するがゆえに,多様な構造をもつ苦味物質群を受容 することができると結論づけられた(6).それに対して,

たった1種類しかないヒト甘味受容体が,なぜ多様な構 造をもつ甘味物質群を認識できるのかという点につい て,謎が多く残されていた.

このような問題を解決するための研究手段として,甘 味受容体が同定された後の研究においては,点変異を導 入した甘味受容体を用いた機能解析という手法が用いら れるようになった.たとえば,アスパルテームという人 工甘味料は,ヒトでは甘いと感じられるものの,マウス においては甘味を誘起しない.これが甘味受容体のアミ

ノ酸配列の違いによって生ずるという仮説によりアスパ ルテームの受容部位の探索が行われ,受容体の細胞外領 域にその受容部位が存在し,その受容に重要な役割を果 たすアミノ酸残基の同定が行われたという報告もあ る(7).さらに2000年に,甘味受容体と類縁の構造をも つ代謝型グルタミン酸受容体の細胞外領域についてX 線結晶構造解析が成功した(8)  ことにより,甘味受容体 においても比較的精度の高い分子モデリングを行うこと が可能となった.つまり,コンピューターシミュレー ションを駆使した結合モデル構築と,点変異体を導入し た甘味受容体を用いた機能解析とを組み合わせることに よって,実験結果に基づいた,より精度の高い甘味受容 体‒甘味物質の結合様式の解明が可能となってきたので ある.

以上のような背景のもと,筆者らの研究グループはサ ントリー生物有機科学研究所・新潟薬科大学との共同研 究により,ヒト甘味受容体が人工甘味料を代表とする低 分子甘味物質群をどうやって識別しているのかについて 明らかにすることを試みた(9).まず,ヒト甘味受容体の 構造を,代謝型グルタミン酸受容体の活性化型構造を基

図2甘味受容体における低分子甘 味物質のリガンド認識に関与する残 基

A:ヒト甘味受容体のhT1R2サブユ ニットの細胞外領域をリボンモデル で示した.スティックモデルで示し た低分子甘味物質の認識に強く関与 する10残基は,受容体中の近接した 位置に集中して存在している.B‒D:

各リガンドの認識に強く関与する残 基をアミノ酸番号とともに表示した.

リガンドの種類によって関与する残 基が異なることが判明した.

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にシミュレーションし,甘味受容体の立体構造を予測し た.次いで,図1に示したそれぞれの低分子甘味物質と の結合構造を分子動力学計算により算出し,リガンド認 識に深くかかわる受容体側のアミノ酸残基を10カ所予 測した.これら10残基は受容体サブユニット中の近接 した位置に集中しており,その一つの領域中で多種類の 甘味物質を識別していることが予想された.

さらに予測した10残基について,それぞれの残基の 役割を詳細に解析するために,各残基について点変異を 導入した受容体を安定的に発現する細胞株を構築して甘 味物質への応答性を検証した.変異導入により,試行し た甘味物質に対する応答性が低下したことから,これら 10残基が低分子甘味物質の認識に関与することが強く 示唆された.しかしある変異体に対して,多種類の甘味 物質に対する応答性を測定したときに,大きく応答低下 する甘味物質と,それほど応答低下しない甘味物質が存 在するという実験結果も同時に得られた.大きく応答低 下する場合にはその甘味物質の認識に強く関与し,それ ほど低下しない場合には認識に必須ではない,という視 点から変異体実験の結果を解釈すると,低分子甘味物質 の化学的性質によって,その認識に必要な甘味受容体側 のアミノ酸残基が異なるという結論を得ることができた

(図2.さらに,活性型甘味受容体と甘味物質との精密 な結合モデルを構築してみると,甘味受容体がリガンド 受容ポケットに位置するアミノ酸残基を巧妙に使い分け ることにより,多種類の低分子甘味物質を受容する様子 までをも示すことができた(9)

以上の結果から,たった一つのヒト甘味受容体が化学 的性質の異なる多種類の低分子甘味物質をなぜ受容でき るのか,という謎の一端が解明できたと言えよう.今回

の知見は,低分子物質が甘さを示すにはどのような構造 を有することが必要であるかという疑問を解くカギにも なりうる.前述の甘味物質におけるAH-B則(3)  は,甘 味受容体側の受容部位における受容様式の多様性を仮定 したものではないが,今回得られた分子シミュレーショ ンは実験結果に基づいたものであり,その精度は極めて 高いと推察される.そのようなリガンド結合構造モデル の結果は,新規人工甘味料の開発を行う際にも極めて有 効である.また,甘味受容体は口腔内以外にも,消化 管・膵臓など消化やエネルギー恒常性にかかわる器官に も発現し(10),膵臓のインスリン分泌にも影響を与えう ることが最近報告されている(11).低分子甘味物質がど のようにして甘味受容体に認識されるかを明らかにした 今回の研究成果は,糖尿病治療薬のデザインといった方 面にも有効に活用されることが期待され,「味覚と健康」

という新しい研究領域が拓かれつつあると言えよう.

  1)  E. Adler  : , 100, 693 (2000).

  2)  D. A. Yarmolinsky, C. S. Zuker & N. J. P. Ryba : , 139,  234 (2009).

  3)  R.  S.  Shallenberger  &  T.  E.  Acree : , 216,  480 

(1967).

  4)  G. Nelson  : , 106, 381 (2001).

  5)  X. Li  : , 99, 4692 (2002).

  6)  W. Meyerhof  : , 35, 157 (2010).

  7)  H.  Xu  : , 101,  14258 

(2004).

  8)  N. Kunishima  : , 407, 971 (2000).

  9)  K. Masuda  : , 7, e35380 (2012).

  10)  M.  Behrens  &  W.  Meyerhof : , 105,  4 

(2011).

  11)  G.  A.  Kyriazis,  M.  M.  Soundarapandian  &  B. 

Tyrberg : , 109, E524 (2012).

(三坂 巧,東京大学大学院農学生命科学研究科)

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