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146 化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016

新しい抗生物質ライソシン E

カイコモデルを用いた治療効果を示す化合物の探索

昨年,WHOが多剤耐性菌の蔓延により,利用できる 抗生物質が減ってきていることを警告し,米国では多剤 耐性菌に対抗するための大統領令を発布するなど,多剤 耐性菌に対抗するために必要な新規感染症治療薬の枯渇 が深刻な問題となっている.これまで抗生物質は,抗菌 活性に着目されて探索されてきたが,優れた抗菌活性を 示す新規化合物を見いだすことは可能であっても,治療 効果を示すものはごく僅かである.さらに,新しい採用 機序を示す化合物の発見は極めて困難になっている.そ こで,筆者らは化合物の治療効果を探索の初期段階で評 価することが抗生物質の開発において有用ではないかと 考えた.しかしながら,従来の抗生物質の治療効果の評 価に用いられるマウスモデルを探索の初期の段階で利用 することはコスト的に問題であるだけでなく,倫理的に も問題が生じる.そこで,筆者らは非脊椎動物を用いた 代替動物モデルに着目した.その中でも,カイコは比較 的大きく,産業用昆虫として利用されてきた経緯から,

たくさんの個体を一度に簡単に取り扱うことが可能であ る.当研究室の垣内らの研究によってカイコを用いた細 菌感染モデルが提案され,細菌の病原性因子の同定に利 用されるようになってきた(1, 2).さらに,筆者らの研究 により,このカイコ細菌感染モデルを用いて,抗生物質 の治療効果を定量的に評価可能であることがわかっ た(3).そのカイコの黄色ブドウ球菌感染に対する治療に 必要な薬剤量(ED50値)を,マウスでの値と比較する と,体重あたりでほぼ一致することを見いだした.この 理由として,カイコにおいても抗生物質の薬物動態に関

する因子が,哺乳動物と同様に存在することが挙げられ

(4, 5).実際,筆者らの研究から,カイコにおいても哺乳

類と同様な薬物代謝経路の存在を明らかにしている.さ らに,細胞毒性を示す化合物の毒性(LD50値)も,カイ コモデルと哺乳動物モデルとでほぼ一致しており(5),そ の相関性も高いことから,カイコモデルは動物実験代替 モデルとしての利用も期待されている.したがって,カ イコ細菌感染モデルにおける治療効果を指標とした新規 抗生物質の探索が可能であると考えられる.

そこで実際に,筆者自身の手により日本全国各地から 土壌を採取し,土壌細菌を約1万5千株分離し,その培 養上清が黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を示したサン プルについて,カイコにおける治療効果を評価した(図 1.その結果,23株の培養上清がカイコ黄色ブドウ球

図1カイコ黄色ブドウ球菌感染モデルでの治療効果を指標と した探索

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化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016

菌感染モデルにおいて治療効果を示した.それらの培養 上清について,カイコモデルにおける治療活性を指標と した活性成分の精製を行った結果,沖縄の土壌から分離 した 属の細菌が生産する培養上清から新規 構造を有する抗生物質の発見に至った.その新規抗生物 質を菌の名前にちなんで,ライソシンと命名した(6).本 菌が生産する誘導体のうち,最も生産量が高いライソシ ンEについて,絶対配置を含む構造を浦井誠博士による 解析によって決定した.その結果,ライソシンEは12 個のDおよびL体のアミノ酸と,水酸基をもつ短い脂肪 酸鎖から構成される,分子量1617の新規抗生物質で あった.その抗菌スペクトラムについて求めたところ,

多剤耐性黄色ブドウ球菌を含むグラム陽性細菌の一部に 抗菌活性を示し,抗菌作用は殺菌的であった.黄色ブド ウ球菌の場合,添加直後に生菌数が0.01%以下に低下す るなど,既存のどの抗生物質よりも短時間で強力な活性 を示した.また,ライソシンEの抗菌活性の作用機序を 解析したところ,細胞膜に作用し,膜破壊活性を有して いることが明らかになった.これらの結果から,ライソ シンEの作用標的は,既存の抗生物質とは異なると考え られた.その標的を解析するため,ライソシンEの耐性 菌を取得し,その責任遺伝子を同定したところ,メナキ ノン合成系にかかわる遺伝子に変異が生じていた.ま た,ライソシンEの抗菌活性は,培地へのメナキノンの 添加によって阻害され,試験管内においてライソシンE とメナキノンの物理的な相互作用が観察された.これら に加え,東京大学大学院薬学系研究科の井上教授らの研

究により,ライソシンEの全合成経路が確立し,その天 然型は抗菌活性を示すことが明らかにされた(7).さら に,合成されたライソシンEのエナンチオマーは抗菌活 性を示した.これは,ライソシンEの標的であるメナキ ノンは光学活性をもたないということから,理論的に予 想されることである.したがって,ライソシンEの標的 はメナキノンであることが示された.また,ライソシン Eはメナキノンを含有するリポソームを特異的に破壊す る.以上の結果から,ライソシンEのような小分子が,

細菌の生体膜中に存在するメナキノンという小分子を認 識し,無生物学的に膜を破壊するという,これまでにな いメカニズムであると考えられる.今後は,ライソシン Eとメナキノンとの相互作用が,なぜ膜破壊を引き起こ すのかを明らかにしていく必要がある.

ライソシンEはカイコモデルでの治療効果を指標に探 索されたことから,哺乳動物モデルでの治療効果が期待 される.そこで,マウスを用いた黄色ブドウ球菌の全身 感染モデルでの治療効果を検討したところ,バンコマイ シンよりも低い用量で治療効果を示した.また,ED50

値の500倍以上という量を投与してもマウスは殺傷され ず,臓器毒性も認められなかった.したがって,ライソ シンEは臨床応用が可能な性質をもっていると考えられ る.今後の研究により,ライソシンEは,多剤耐性黄色 ブドウ球菌に有効な新規抗生物質としての開発が期待さ れる.

  1)  C. Kaito, N. Akimitsu, H. Watanabe & K. Sekimizu: 

32, 183 (2002).

  2)  C.  Kaito,  K.  Kurokawa,  Y.  Matsumoto,  Y.  Terao,  S. 

Kawa bata,  S.  Hamada  &  K.  Sekimizu:  ,  56, 934 (2005).

  3)  H.  Hamamoto,  K.  Kurokawa,  C.  Kaito,  K.  Kamura,  I. 

Manitra Razanajatovo, H. Kusuhara, T. Santa & K. Seki-

mizu:  , 48, 774 (2004).

  4)  H. Hamamoto, K. Kamura, I. M. Razanajatovo, K. Mura-

kami, T. Santa & K. Sekimizu:  , 

26, 38 (2005).

  5)  H. Hamamoto, A. Tonoike, K. Narushima, R. Horie & K. 

Sekimizu: 

149, 334 (2009).

  6)  H. Hamamoto, M. Urai, K. Ishii, J. Yasukawa, A. Paudel,  M. Murai, T. Kaji, T. Kuranaga, K. Hamase, T. Katsu 

:  , 11, 127 (2015).

  7)  M. Murai, T. Kaji, T. Kuranaga, H. Hamamoto, K. Seki-

mizu & M. Inoue:  , 54, 1556 

(2015).

(浜本 洋,東京大学大学院薬学系研究科)

図2ライソシンEの推定される作用メカニズム

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148 化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016 プロフィール

浜 本  洋(Hiroshi HAMAMOTO)

<略歴>2002年東京大学大学院薬学系研 究科中退/2003年同大学大学院薬学系研 究科で寄付講座教員/2005年株式会社ゲ ノム創薬研究所で主任研究員/2008年東 京大学大学院薬学系研究科助教<研究テー マと抱負>病原性発揮機構の解明と抗菌薬 の開発<趣味>旅行

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.146

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