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782 化学と生物 Vol. 52, No. 12, 2014

力学刺激でタンパク質間相互作用を操作する

遺伝子操作も化学物質も使わない新しい生命操作技術の開発

私たちは日常,1気圧程度の環境下で暮らしている.

僅か指先程度の面積(〜1 cm2)に1 kgもの負荷がか かっているのだが,日常生活で実感することはない.多 くの人にとって,気圧や圧力と言われてまっさきに思い 浮かべるのは,天気予報で耳にする気圧配置であり,健 康診断で一喜一憂する血圧といったところであろう.い ずれにしても,圧力は熱力学的に重要なパラメーターで あるものの,温度と比べてなじみが少ないのが実情であ る.ところが,意外に思われるかもしれないが,私たち の身近には圧力を利用した食料品が満ちあふれてい

(1, 2)

.たとえば,圧力は,ジャムやジュースなどの食

材加工や,加熱に代わる殺菌手法として利用されてい る.また,加圧により肉類のうまみを増す試みもある.

高圧力は生体試料にいったいどのような影響を与えるの であろうか?

生体内に含まれる物質の中でも,タンパク質は圧力の 影響を受けやすい物質の代表例である(2, 3)

.多くの生物

は大気圧環境(1気圧=0.1 MPa)で生息しており,その タンパク質は分子間相互作用により複合体を形成し,酵 素活性をはじめとする機能発現を行っている.これが 100 MPa程度の圧力環境下になると,主にタンパク質表 面の水和状態が変化し,タンパク質分子間の結合に寄与 する静電相互作用,疎水性相互作用,水素結合などが弱 められ,オリゴマーの解離がはじまる.さらに500 MPa 以上の圧力になると,タンパク質内部のキャビティーに まで水分子が侵入してしまうため,立体構造は崩壊し,

機能活性も当然ながら失われることになる.筆者らは,

100 MPa程度の圧力領域では,タンパク質は変性しない までも構造や機能が変化することに着目し,これらの変 化を光学顕微鏡下で実時間観察できる新しい分析手法を 開発してきた(4, 5)

1

に倒立型顕微鏡に設置した高圧力チャンバーの写 真を示す.筆者らが開発した装置は,高圧力チャンバー に実験サンプルを封入し圧力をかけながら,チャンバー 内部を顕微鏡で観察する簡単な仕様となっている.高圧 ハンドポンプを文字どおり「手動」で動かせば,チャン バー内の圧力は,地球上で最も深い場所である太平洋の マリアナ海溝チャレンジャー海淵最深部(10,924 m,  海 上保安庁観測船による測定値)の静水圧〜110 MPa以上 に増加させることができる.また,高圧力下であって も,常圧力と変わらぬ解像度で観察できる性能がある.

図1高圧力顕微鏡の写真

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化学と生物 Vol. 52, No. 12, 2014

これまでの高圧力研究で利用されてきたNMRや蛍光ス ペクトルといった分光法とは異なり,光学顕微鏡はサブ マイクロメートル以上の大きさをもつ構造体の観察に適 している.つまり,1分子よりも上の階層,すなわち,

分子集合体や細胞,組織といった,より複雑な生体試料 が高圧力下でどのように変化するのか直接観察でき る(6)

では本当に,高圧力下でタンパク質間の相互作用が弱 まる様子を観察できるのであろうか? 筆者らは,代表 的な細胞骨格である微小管を用いて実験を行った.微小 管は,チューブリン分子が数珠つながりに結合したプロ トフィラメント13本が土管のように束ねられ,1本の繊 維状構造をとっている.代表的な有糸分裂阻害剤存在下

(10 

μ

M Paclitaxel)では,チューブリンの脱重合反応が 抑制されるため,フィラメント構造は長期間にわたって 維持されるはずである.しかしながら,150 MPaの圧力 下で方向性をラベル化した微小管を観察したところ(6)

両端から同じ速度で短縮し始める様子が捉えられた(図

2

.その短縮速度は約500倍に加速され,1  μ

m min−1 に達していた.高圧力下では,チューブリン分子間の結 合部分に水分子が侵入しやすくなり,解離反応が進行す ると考えられる.この水分子による微小管脱重合メカニ ズムは,連なったチューブリン分子のMD計算を併用す ることで明らかにできるであろう.と言うのも,計算機

実験の場合,チューブリンと水分子を入れる箱を小さく するだけで高圧力環境をつくりだせるため,筆者らの実 験結果と比較できるからである.また,筆者らの手法を 応用すれば,常圧力下よりも速い速度で解離反応を促進 できるので,新薬のスクリーニングなどに応用できるで あろう.

次に,生きた細胞内で働くタンパク質の操作について 紹介する.細胞の中にある物質のうち約7割は水分子で あり,タンパク質の周りをぐるりと取り囲んでいる.細 胞の外から圧力をかけると,その力学刺激は細胞膜の変 形を介して内部に伝わり,タンパク質の水和状態を変え ることになる.筆者らは,大腸菌の回転器官であるべん 毛モーターが,高圧力下で逆向きに回転することを発見 した(5)

.おそらく,細胞内の水がモーターを構成するタ

ンパク質に作用することで,モーター全体の構造を大き く変えてしまったと考えられる.遺伝子操作はもとよ り,化学物質を一切用いることなく,高度に発達した細 胞の運動器官を細胞外から操作できたことになる.

近年,タンパク質の発現量や個体発生時の形態が,細 胞外から与える力学刺激に応じて,大きく変化すること が明らかにされている(7)

.これまでは,細胞を基盤に固

定し培養液を一定方向に流し,発生する流れずり応力を 細胞への力学刺激として用いられてきた.しかしなが ら,実際に細胞に加わる刺激は,細胞の形状などに依存 して変わってしまうため,定量的には扱いにくい.それ に対して,筆者らが開発した高圧力顕微鏡法を用いる と,細胞や組織の形状に依存せずどの方向からも一様な 負荷を与えながら,その応答を詳細に実時間観察するこ とができる.個体発生や分化誘導などへの応用を見据え て,今後もメカノバイオロジーの新潮流として発展させ ていきたい.

  1)  山本和貴:日本調理科学会誌,42, 417 (2009).

  2)  毛利信男(編): 新しい高圧力の科学 ,講談社サイエン ティフィック,2003, p. 244.

  3)  阿部文快:化学と生物,42, 573 (2004).

  4)  西山雅祥,木村佳文:LTMセンター誌,22, 18 (2013).

  5)  西山雅祥,曽和義幸:化学,68, 33 (2013).

  6)  M. Nishiyama  :  , 96, 1142 (2009).

  7)  小椋利彦(監修):細胞工学,33, 9月号,2014.

(西山雅祥,京都大学白眉センター)

図2高圧力下で観察された微小管の脱重合反応

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784 化学と生物 Vol. 52, No. 12, 2014 プロフィル

西山 雅祥(Masayoshi NISHIYAMA)

<略歴>1996年大阪市立大学理学部物理 学科卒業/2001年大阪大学大学院基礎工 学研究科博士後期課程修了(大阪大学博士

(理学)取得)/同年科学技術振興機構国際 共同研究1分子過程プロジェクト博士研究 員/2002年京都大学大学院理学研究科助 手/2007年科学技術振興機構さきがけ兼 任研究員/2012年京都大学白眉センター 特定准教授,現在に至る<研究テーマと抱 負>新しい光学顕微鏡を開発し,生体分子 が動くしくみを明らかにすること<趣味>

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はじめに 花は儚い(はかない)ものの象徴にもなっているが, 仕方なくしおれているのではなく,自ら進んでしおれて いく.そもそも花は種子を作るための器官である.ヒト が見て美しいと思う花の多くは,昆虫を引き寄せて受粉 を成功させるために,多種多様に進化したものである. 受粉が成功した後,あるいは受粉しなくても咲いてから