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化学と生物 Vol. 50, No. 7, 2012

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今日の話題

ミツバチの女王蜂分化を誘導する因子ロイヤラクチンの発見

ミツバチのカースト分化誘導機構の解明

ミツバチは女王蜂と働き蜂からなる階級社会(カース ト)を形成しており,同じ遺伝子型をもつ雌の幼虫のな かでも王台という女王蜂を育てるための部屋で成育した 個体は,働き蜂の分泌するローヤルゼリー (RJ) を摂取 して女王蜂へと分化する.一方,通常の巣房で成育した 個体は,ハチミツや花粉などを摂取して働き蜂へと分化 する.このように,ミツバチの発生および分化において は,RJによるエピジェネティックな調節が行われてい る.女王蜂は働き蜂に比べ,体サイズが1.5倍,寿命が 20倍であり,1日に2,000個の卵を産むという特徴を もっている.筆者が研究を始めた当時,この女王蜂への 分化のしくみについてはまったく明らかになっていな かったが,それまでに,RJに含まれるカースト分化に 関与する因子の探索は数多く行われてきた.1970年代 くらいにその研究がさかんとなりカースト分化誘導因子 の探索が広く行われたが同定には至らなかった(1)

.そん

な中,同因子の候補にあがったのはRJに含まれるグル コースとフルクトースであった.一般の生物学的な概念 ではそれら糖質が個体の分化を制御することは考えにく いが,糖質とカースト分化との関係についての報告が数 多くなされた(2)

一方,これまでにミツバチのみならず膜翅目に属する 社会性昆虫のカースト分化の誘導には幼若ホルモンが関 与していることが明らかになっている(3)

.しかし,女王

蜂への分化の際,幼虫の体内において何が幼若ホルモン を増加させ,幼若ホルモンは何に作用しているのかはわ かっていなかった.このように,女王蜂への分化におい

て,RJに含まれる誘導因子や分化誘導機構に関しては どれも断片的なデータのみで,明確な答えが得られない ままの状態であった.そこで,筆者は,ミツバチの女王 蜂への分化誘導機構の解明を試みた.

それまでにRJ中の女王蜂分化誘導因子が見いだせて いなかった一つの要因としては, で完全に働き 蜂に分化させる培地の組成が明らかになっていなかった ことが挙げられる.働き蜂に分化する培地が分かってい れば,その培地にRJ成分を添加することにより個体の 表現型に及ぼす影響をはっきりと見分けることができ る.そこで,まず働き蜂に分化させる培地組成の探索を 行った.筆者は,ミツバチの研究を開始する以前に,新 鮮な(−20℃で保存した)RJは,マウスに対して抗疲 労効果を示すが,40℃で7日間保存したRJはその効果 が消失することを明らかにしていた(4)

.この実験結果と

同様に40℃で7日間保存したRJは働き蜂を飼育するた めの培地として利用できないかと考え,ミツバチのカー スト分化に及ぼす影響を検討した.その結果,40℃で7 日間保存したRJは完全に働き蜂への分化を誘導しな かったが,体サイズ,体重,卵巣管の数などの女王蜂分 化の指標が若干減少する傾向が見られた.そこで,RJ を40℃で7日間,14日間,21日間,30日間保存したRJ を作製し,それぞれのサンプルの女王蜂分化に対する影 響を調べた.その結果,40℃で30日間保存したRJは完 全に働き蜂への分化を誘導することがわかった.次に,

新鮮なRJと40℃で30日間保存したRJとの間で成分組 成の違いを調べ,さらに違いが見いだされた成分を分離

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精製し,女王蜂分化に対する影響を観察した結果,ロイ ヤラクチンと命名した57 kDaタンパク質だけが女王蜂 への分化を誘導した.これらの結果から,ロイヤラクチ ンがRJ中の女王蜂分化誘導因子であることが明らかと なった(5)

次に,ロイヤラクチンの女王蜂分化誘導における作用 メカニズムについての解析を行った.ミツバチには保存 されている変異体がないため,ロイヤラクチンがカース ト分化を誘導する分子メカニズムを個体レベルで詳細に 解析することができない.そこで,発生生物学の研究で よく用いられ,多数の変異体が存在するショウジョウバ エ ( ) を女王蜂分化誘導機構の 解析のためのモデル生物として使えないかと考え,ショ ウジョウバエに対するRJの影響を調べた.その結果,

ショウジョウバエの体サイズを増加させることのできる RJを含有する培地の組成を突き止めることに成功した.

さらに,RJ成分がショウジョウバエの表現型に及ぼす 影響を検討した結果,ロイヤラクチンがショウジョウバ エに対して女王蜂と同じような体サイズ,産卵数,寿命 の増加を誘導することを明らかにした.このようなロイ ヤラクチンによる表現型の変化は,Gal4/UASシステム でロイヤラクチンをショウジョウバエの体内で過剰発現 させた場合でも見られた.これらの結果は,ロイヤラク チンがミツバチの女王蜂分化誘導因子であることを支持 する結果であった.また,これらの結果は,ロイヤラク

チンがミツバチだけなく種を超えてハエにまで作用する 因子であり,同じ遺伝子型をもつ個体をまったく異なる 表現型をもつ個体へと誘導するエピジェネティックな因 子であることを示しており,ミツバチのように生育環境 が形質を変化させるという現象が生物に普遍に存在する ことを強く示唆していた.

さらに,RJ含有培地で種々のショウジョウバエ変異 体を飼育し,ロイヤラクチンによるショウジョウバエの 女王蜂様表現型への変化に関与するシグナルについて調 べた.その結果,ロイヤラクチンは,これまでに生物個 体の体サイズ,寿命などの制御の中心的役割を担ってい ることが知られていたインスリン受容体(6)ではなく,脂 肪 体(哺 乳 類 の 肝 臓 に 相 当 ) のEGF受 容 体(EGF :   epidermal growth factor, 上皮成長因子)に作用し,そ の下流シグナルを活性化させることで,ショウジョウバ エの体サイズ,産卵数,寿命を増加させることがわかっ た(図

1

.また,ロイヤラクチンによるショウジョウ

バエの体サイズの増加には,S6キナーゼ (S6K) がEGF 受容体の下流で関与して細胞のサイズを増加させること で個体の体サイズを増加させていることも明らかとなっ た(図1)

.通常の生物個体は大きいものほど発生期間

が長くかかるが,女王蜂は体サイズが大きいにもかかわ らず早く羽化することが特徴である.この表現型はロイ ヤラクチンを摂取又は過剰発現したショウジョウバエで も見られ,ロイヤラクチンが脂肪体のEGF受容体を介

図1ロイヤラクチンによる女王蜂 への分化誘導の分子機構

PI3K, phophatidylinositol 3-kinase ;   TOR,  target  of  rapamycin ; PDK1,  phosphatidylinositol-dependent  ki- nase 1 ; Akt, RAC-alpha serine/thre- onine-protein kinase ; S6K, p70 ribo- somal S6 kinase ; Ras, Rat sarcoma G  proteins ; MAPK, mitogen-activated  protein kinase.

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してMAPキナーゼ (MAPK) を活性化し,さらに脱皮 ホルモン(エクジソン)の分泌を増加させることに起因 していることが明らかとなった(図1)

.さらに,ロイ

ヤラクチンはミツバチあるいはショウジョウバエのどち らに対してもEGF受容体を介して幼若ホルモンの分泌 を誘導し,この幼若ホルモンの分泌誘導が幼若ホルモン 受容体 (Methoprene tolerant : Met) を介して卵黄タン パク質の発現を増加させ,産卵数の増加に関与している ことも明らかになった(図1)

.一方,ロイヤラクチン

による寿命の延長もEGF受容体を介していた.EGF受 容体の寿命への関与は今回初めて見いだされた知見であ る(5)

このように,ショウジョウバエを用いた解析から明ら かとなったロイヤラクチンによる活性化シグナルが,実 際にミツバチの女王蜂分化に関与しているかどうかを確 認するため,ミツバチのRNAi試験を中心に詳細な解析 を実施した結果,ショウジョウバエを対象とした解析結 果と一致した結果が得られ,ミツバチにおいてもロイヤ ラクチンがEGF受容体シグナルを刺激して女王蜂分化 を誘導していることが明らかとなった(5)

以上のように,筆者はミツバチの女王蜂分化誘導因子 としてロイヤラクチンを見いだし,その作用メカニズム も明らかにした.ロイヤラクチンはEGF受容体の下流

において TOR (target of rapamycin) も活性化してい る.糖質はTORを活性して細胞の成長に関与すること も報告されていることから(7)

,糖質によりカースト分化

が誘導されたというこれまでの知見は,ロイヤラクチン の下流のTORを擬似的に活性化したことによりもたら されたものと推察された.ロイヤラクチンがEGF受容 体の下流で幼若ホルモンの分泌誘導も促進することか ら,今回明らかにした結果は,過去のミツバチのカース ト分化について報告された知見をすべて集約するもので あった.カースト分化はミツバチの生態の根幹をなすこ とから,今回のロイヤラクチンの発見は,ミツバチを安 定に供給するための新たな女王蜂飼育法の開発やミツバ チが突然失踪する現象(蜂群崩壊症候群)の解明につな がるものと期待できる.

  1)  H. Rembold, B. Lackner & I. Geistbeck : , 20, 307 (1974).

  2)  J. Beetsma : , 60, 24 (1979).

  3)  G.  Bloch,  D. E.  Wheeler  &  G. E.  Robinson :“Hormones,  Brain and Behavior 3”, Academic Press, 2002, p. 195.

  4)  M.  Kamakura  : , 47,  394 

(2001).

  5)  M. Kamakura : , 473, 478 (2011).

  6)  J. Colombani  : , 310, 667 (2005).

  7)  V. Aguilar  : , 5, 476 (2007).

(鎌倉昌樹,富山県立大学工学部)

朝 隈  貞 樹(Sadaki Asakuma) <略 歴>1999年北里大学獣医畜産学部畜産学 科卒業/ 2004年同大学大学院獣医畜産学 研究科・家畜栄養学専攻博士課程修了/同 年帯広畜産大学大学院・畜産衛生専攻 COE研究員/ 2007年(独)農研機構北海道 農業研究センター集約放牧研究チーム任期 付研究員/ 2011年同酪農研究領域任期付 研究員/ 2012年同研究員<研究テーマと 抱負>放牧飼養を中心とした飼料(エサ)

が牛乳・乳製品に及ぼす品質・食味・機能 性に関する研究.エサ‒ウシ‒乳‒乳製品ま でを網羅的に研究し,乳製品の品質を科学 的に評価・解析するとともに,日本に定着 する乳製品とは何かを追求したい.モッ トーは 美味しいものは世界を救う <趣

味>食い倒れ,スポーツ観戦,音楽鑑賞,

読書

阿  部   洋(Hiroshi Abe) <略 歴> 1996年北海道大学薬学部創薬化学科卒 業/2001年北海道大学大学院薬学研究科 創薬化学専攻博士課程後期課程修了/同年 マサチューセッツ工科大学博士研究員/

2002年スタンフォード大学博士研究員/

2005年理化学研究所研究員/ 2008年同専 任研究員/ 2011年科学技術振興機構さき がけ研究員を兼任,現在にいたる<研究 テーマと抱負>有機化学を基礎とした生命 科学研究,特にバイオイメージングと創薬 研究に興味を持っている.<趣味>格闘 ゲーム,コンピューター計算

伊 藤  嘉 浩(Yoshihiro Ito) <略 歴> 1981年京都大学工学部高分子化学科卒 業/1986年同大学大学院工学研究科高分 子化学専攻博士課程研究指導認定退学/同 年工学博士/1987年日本学術振興会特別 研究員/1988年京都大学助手/1996年同 大学助教授/1997年奈良先端科学技術大 学院大学助教授/1999年徳島大学教授/

2002年神奈川科学技術アカデミープロ ジェクトリーダー/2004年理化学研究所 主任研究員,現在に至る<研究テーマと抱 負>化学とバイオテクノロジーを融合した

「バイオものづくり」

プロフィル

Referensi

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