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(1)

化学と生物 Vol. 50, No. 5, 2012

312

今日の話題

甘味 旨味 苦味細胞産生の必須因子 Skn-1a

味細胞種の分化機構の一端が明らかに

味覚は食物中の化学物質を感知することで生じる感覚 である.脊椎動物では,口腔内上皮層に分布する味蕾と 呼ばれる感覚器中の味細胞で受容されて生じる化学感覚 を味覚と呼ぶ.味覚には様々な「味」があり,ヒトの感 覚心理学的解析から,甘味,旨味,苦味,酸味,および 塩味の5つが基本味であると考えられている.生体の維 持に必要な糖質(甘味),タンパク質(旨味),ミネラル

(塩味)は好ましい味として,毒物(苦味)や毒物を産 生する細菌類が繁殖している腐敗物(酸味)は好ましく ない味として認識されるように,食物の選別・識別を行 ない,摂食行動を決定するというのが味覚の生物学的意 義と考えられている.

この十数年における齧歯類を用いた分子遺伝学的研究 から,基本味は互いに異なる味細胞種の活性化により生 じることが明らかとなっている.甘味細胞には甘味受容 体(T1R2*1とT1R3のヘテロ会合体),旨味細胞には旨 味受容体(T1R1とT1R3のヘテロ会合体),苦味細胞に は複数の苦味受容体T2R分子種が発現しており,受容 体の下流ではいずれもPLC-

β

2*2およびTRPM5*3が細胞 内情報伝達に必須の分子として機能している(1).酸味や 塩味の受容体分子は未だ不明だが,酸味細胞はPK- D2L1*4やCar4*5を発現する細胞であり(1, 2),一部の塩 味の受容に関わる味細胞はENaC*6

α

β

γ

 すべてのサブ

ユニットを発現する細胞である(3)

上皮由来の組織である味細胞の寿命は数週間程度であ り,他の上皮組織と同様に味蕾も味細胞のターンオー バーにより維持されている.したがって,種々の味細胞 が一定の割合で味蕾に存在するようターンオーバーが正 常に機能することが,常時様々な味を感じ識別すること に役立っていると考えられる.しかし,味細胞のターン オーバーに関する知見は乏しく,その系譜や分化の詳細 は不明であった.筆者らは味細胞の一部に発現する Skn-1aの機能を解析し,味細胞の系譜や分化機構の一 端を明らかにした(4)

筆者らはこれまでに,有郭乳頭から摘出した味蕾,味 蕾摘出後の有郭乳頭上皮,有郭乳頭周辺の非乳頭上皮そ れぞれに発現する遺伝子を網羅的に解析し,舌上皮層に おいて味蕾特異的に発現する遺伝子の情報を取得してい る(5).これら味蕾特異的遺伝子の中に,POUホメオド メインタンパク質をコードする遺伝子 が含まれて いた. にはN末端の構造が異なるDNA結合型の Skn-1aおよびDNA非結合型のSkn-1iがコードされてい る(6).それぞれの転写産物に特異的な配列を用いた発現 解析の結果,味蕾には  mRNAのみが発現してい ることがわかった.さらに,味細胞マーカーとの発現相 関解析により,  mRNAが甘味,旨味,苦味細胞 特異的に発現していることが明らかとなった.Skn-1a,  Skn-1iは皮膚細胞の再生・分化に関与していることか ら(7),Skn-1aが甘味,旨味,および苦味細胞の分化を 制御していることが示唆された.

今日の話題

*1T1R2 : taste receptor type 1 member 2, *2PLC-β2 : phospho- lipase  C-β2, *3TRPM5 : transient  receptor  potential  M5, 

*4PKD2L1 : polycystic kidney disease 2-like 1, *5Car4 : carbonic  anhydrase 4, *6ENaC : epithelial Na channel

(2)

化学と生物 Vol. 50, No. 5, 2012 313

今日の話題

味蕾におけるSkn-1aの機能を解析するため, 遺 伝子のジーンターゲティングを行ない,機能をもった Skn-1aを発現できない −/−マウスを作製した.水 と味溶液のどちらを多く摂飲するかという二瓶選択試験 を行なったところ,野生型マウスは甘味物質や旨味物質 に嗜好性を示し,苦味物質を忌避したが, −/−マ ウスでは甘味物質や旨味物質に対する嗜好行動や苦味物 質に対する忌避行動が観察されなかった.また,味神経 を含む神経束の味刺激に対する電気応答を調べたとこ ろ, −/−マウスでは,甘味,旨味,苦味物質に対 する応答が消失していた(図1.これらの解析から,

Skn-1aが味蕾において甘味,旨味,苦味を感知するた めに必要な因子であることが明らかとなった.

Skn-1aと同様に,味細胞の細胞内情報伝達を担うエ フ ェ ク タ ー 分 子PLC-

β

2や 陽 イ オ ン チ ャ ネ ル 分 子 TRPM5も甘味,旨味,苦味受容に必須であり,これら の機能消失マウスは甘味,旨味,および苦味を感知でき ない(8).Skn-1aは転写因子であることから, −/−

マウスではPLC-

β

2やTRPM5など甘味,旨味,苦味受 容に共通して必要な因子の転写が行なわれないためにこ れらの味を受容できなくなっている可能性が考えられ る.そこで, −/−マウスの味蕾における甘味,旨 味,苦味細胞に発現する遺伝子の発現を調べた.その結 果,PLC-

β

2やTRPM5のほか,甘味,旨味,苦味の一 部の受容にのみ必要な因子,たとえば甘味旨味受容体 T1R3,苦味受容体T2Rs,Gタンパク質Ggustなどの遺

伝 子 発 現 も 完 全 に 消 失 し て い た.こ の こ と か ら,

−/−マウスでは甘味,旨味,苦味細胞が消失して いることが示唆された(図1).一方,酸味細胞に発現 することが知られている遺伝子の発現頻度は一様に増大 しており,しかも互いに共発現していたことから,酸味 細胞数が増大していることが示唆された.したがって,

−/−マウスでは甘味,旨味,苦味細胞が酸味細胞 に置き換わっていると考えられた.これらの結果は,

Skn-1aが甘味,旨味,苦味細胞の産生に必要であると いうこと,甘味,旨味,苦味,酸味細胞が共通の前駆細 胞から産生されることを示しており,これらの味細胞種 と酸味細胞の分化が密接に関連していることも示唆して いる.

以上述べたように,味細胞種の分化機構の一端が明ら かとなった.しかし,甘味,旨味,苦味細胞への最終的 な分化がどういう因子によりどのように制御されている のか,酸味細胞系譜との関係の詳細は不明である.ま た,味蕾中の約半数を占める甘味,旨味,苦味,酸味細 胞以外の細胞(その一部は塩味細胞)の産生・分化につ いての知見も乏しい.抗がん剤による化学療法や放射線 による物理療法などにより生じる味覚障害は,味細胞の ターンオーバーが抑制されるために生じると考えられて いる.ここで紹介した成果が味細胞の分化機構,味覚障 害の発生機構の理解を進め,味覚障害の予防や治療に繋 がることを期待したい.

  1)  J.  Chandrashekar,  M. A.  Hoon,  N. J. P.  Ryba  &  C. S. 

図1味受容機構におけるSkn-1a の役割

野生型マウスは,味蕾に甘味,旨味,

苦味を受容する感覚細胞(コバルト 色)があり,甘味,旨味,苦味を感 じることができる.Skn-1aはこれら の感覚細胞(甘味細胞,旨味細胞,

および苦味細胞)に発現している.

遺伝子が破壊されてSkn-1aタ ンパク質を発現できない −/−マ ウスは,味蕾に甘味,旨味,苦味細 胞がなく,甘味,旨味,苦味を感じ ることができない.

(3)

化学と生物 Vol. 50, No. 5, 2012

314

今日の話題

Zuker : , 444, 288 (2006).

  2)  J.  Chandrashekar,  D.  Yarmolinsky,  L.  v.  Buchholtz,  Y. 

Oka, W. Sly, N. J. P. Ryba & C. S. Zuker : , 326, 443 

(2009).

  3)  J.  Chandrashekar,  C.  Kuhn,  Y.  Oka,  D. A.  Yarmolinsky,  E. Hummler, N. J. P. Ryba & C. S. Zuker : , 464, 297 

(2010).

  4)  I. Matsumoto, M. Ohmoto, M. Narukawa, Y. Yoshihara & 

K. Abe : , 14, 685 (2011).

  5)  M. Ohmoto, I. Matsumoto, T. Misaka & K. Abe :

31, 739 (2006).

  6)  B. Andersen, M. D. Schonemann, S. E. Flynn, R. B. P. II,  H. Singh & M. G. Rosenfeld : , 260, 78 (1993).

  7)  B. Andersen  : , 11, 1873 (1997).

  8)  Y.  Zhang,  M. A.  Hoon,  J.  Chandrashekar,  K. L.  Mueller,  B.  Cook,  D.  Wu,  C. S.  Zuker  &  N. J. P.  Ryba : , 112,  293 (2003).

(松本一朗,應本 真,モネル化学感覚研究所)

植物細胞の意外なコミュニケーション術

マイクロ RNA を介した組織形成シグナリング

マイクロRNA (miRNA) は,ゲノムからの転写とプ ロセシングを経て生成される約21塩基の1本鎖RNAで あ り,相 補 的 な 配 列 を も つ メ ッ セ ン ジ ャ ー RNA 

(mRNA) の特異的分解や翻訳阻害に働く.この経路に よりmRNAの一部,あるいは大部分がタンパク質へ翻 訳されずに不活性化される.miRNAに制御される遺伝 子の数は,ゲノム全体から見ると決して多くはない.し かし,miRNAで制御される遺伝子の中に重要な調節因 子をコードするものが多数含まれていることや,進化的 な保存性を考えても,この経路を単なる転写調節の補完 物と見るのではなく,細胞質に局在する小さなRNAが 遺伝子産物の量を決める,ということに積極的な意味を 見いだす必要があるだろう.ここでは,細胞間を動く miRNAが,植物の根の組織形成に重要な役割を果たし ている例を紹介する.

維管束植物の根では,同心円状の特徴的な組織パター ンが形成される.これらの組織は,外側から順に表皮,

皮層,内皮,内鞘,維管束と呼ばれ,内鞘と維管束は合 わせて中心柱と呼ばれる(図1-A).さらに維管束の中 には,導管や師管といった通導組織が対称的に配置され る(図1-B上段).このような同心円状の組織パターン は,表皮から吸収された水や栄養分を,内部の細胞層で 代謝変換しながら中央の維管束組織に運び込むのに都合 の良い構造と言える.

根の組織パターン形成のメカニズムは,主にシロイヌ ナズナを用いて研究されている.1990年代にレーザー 照射による細胞破壊実験や細胞系譜を可視化するセク ター解析により,細胞間で交換される何らかの「位置情 報」が根の細胞分化を決めていることが示された.真核

生物の細胞間情報伝達には,動物のサイトカインにみら れるように分泌性の因子と特異的な受容体を使うのが一 般的であり,植物でも気孔細胞の分化などに例が見られ る.しかし,2001年に根の内皮細胞の形成で示された 位置情報の伝達機構は,既知のものとはまったく異なっ て お り,中 心 柱 で 特 異 的 に 転 写・翻 訳 さ れ たSHR 

(SHORT-ROOT) という転写因子が,外側の細胞層の 核に移行し,内皮の分化を転写レベルで直接制御すると いうものであった(1).この機構は,「中心柱に接した1 細胞層だけが内皮に分化する」という維管束植物に共通 した発生原理を矛盾なく説明することができる(2)

最近になって,SHRが内皮の分化のみならず,より 広範な組織の分化に重要な機能を果たしていることが明 ら か に な っ た(3, 4).SHRは 内 皮 に お い てmiR165と miR166という2種類のmiRNAの生産を活性化する.こ の2つのmiRNAは,21塩基中の1塩基だけが異なって おり,標的遺伝子も共通であるためmiR165/6と総称さ れる.miR165/6の標的は,HD-ZIP IIIと呼ばれる転写 因子群で,シロイヌナズナのゲノムには5つの遺伝子が あ る.こ れ ら5つ のHD-ZIP IIIの う ち, (

)という遺伝子が根の組織形成に大きく寄与 し て い る.シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の 根 に お い て, の mRNAは維管束中央の少数の細胞列に局在化している

(図1-C右).これに対して, 遺伝子の転写自体は 根の広範な組織で起こっていることがわかっている(図 1-C左). 遺伝子内のmiR165/6標的配列が塩基置換 された変異体 ( ) では, のmRNAは根全体で 検出される.このことから のmRNAを維管束の 中央に限定化しているのは,miR165/6による転写後制

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