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会計学1
第4・5講 会計のルール
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今日の学習項目
1.なぜルールが必要か 2.会計ルールの選択と機能 3.会計ルールの設定方式 4.GAAP
5.まとめ
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1.なぜルールが必要か
• 会計=ルールにもとづく測定システム
「承認」(acceptance)の対象。
GAAP
Generally Accepted Accounting Principles 一般に認められた会計原則
承認にもとづかない測定
万有引力の法則
mi;物体iの質量
r
;物体間の距離 G;万有引力定数実験・観察で検証可能。 →「学習」の対象。
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2 2 1
r m Gm F
ルールに対する「承認」の必要性
(1)ルールが所与ではない。
複数のルールを想定できる。
(2)測定値が経済的影響を持つ。
cf.経済的影響を持たないルール 右側通行か左側通行か?
メートルかフィートか?
→どちらか1つに決まればよい。
(1)(2)の特徴を持つ場合,ルールは「承認」の対象となります。
反対者がゼロにならない。つねに変化の可能性が存在する。
複数のルールの可能性
資産xの価値
(1)期首に資産xを100で購入した。
(2)期末に資産xを購入すると110かかる。
(3)期末に資産xを売却すると80得られる。
(4)資産xを利用し続けると120の収入(現在 価値)が得られる。
期末の資産xの価値はいくらか?
測定の結果と影響
7 ケース 測定ルール 測定値 利益への影響
(1) 取得原価 100 0
(2) 購入価格 110 10
(3) 売却価格 80 -20
(4) 利用価値 120 20
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会計基準の経済的影響
会計基準の設定・変更
(1)企業の経済的実態が不変であっても,会計 数値(とくに利益数値)が変化する。
(2)富の移転が生じる可能性。
e.g.株価への影響,資金調達コストの変動
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会計基準の経済的影響
Economic Impacts of Accounting Standards
投資者の投資行動の変化→株価の変動
資金調達コストの変化→企業における得失の発生 会計基準はたんなる実態の写像ルールではない。
会計基準の 設定・変更
会計数値の
変化 株価の変動 資源配分の 変化
測定値の意味
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測定ルール 測定値の意味 事 例
取得原価 投下資金。当初の投資計画
を継続した原価回収計算。 固定資産の減価償却
市 場 価 格
購入価格 資産の再取得に必要な金額。
再調達原価。原価節約。 原材料在庫の評価 売却価格 資産の処分価額。正味実現
可能価額。清算換金価値。 遊休資産の売却 購入=売却 購入市場と売却市場が区別
されない場合。 有価証券の売買 利用価値 資産を利用し続けるときの資
産価値。割引現在価値。 減損会計
会計の目的依存性
会計は,目的を達成するための手段。
会計は,[目的-手段-結果]のループのなかで 設計され,その性能が評価されます。
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目 的 手 段 結 果
評価のフィードバック
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会計基準の経済的影響の事例 日本における会計ビッグバン
2000年4月期から有価証券の時価会計を導入
■目的
①企業の経営内容の透明化・有用な投資情報の提供
②取引内容の十分な把握・リスク管理・財務活動の成果把握
③会計基準の国際統合(調和化)
■時価会計における利益計算
純利益=原価基準の利益±時価評価差額
株価のスパイラル・ダウン
市場の収縮期に,多くの企業は,低下した有価 証券時価(保有損失)を計上。
取得原価=50 時価=30
時価評価差額=-20
13 株価の下落 損失の計上 株式の売却
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株式の時価評価とその経済的帰結
株式の時価評価とその経済的帰結
1.景気循環増幅効果
市場の収縮期に不況を増幅 2.株式持合い(系列)の崩壊
財務の透明性は高まりましたが,系列は崩 壊しました。持ち合い比率の激変。
15.7%(1991)→5.2%(2002) 3. 「失われた10年」
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2.会計ルールの選択と機能
• 目的-手段-結果
(1)会計はある目的を達成するための社会的な手段である。
(2)目的によって選択の内容が異なる。
(3)選択の結果(システムの実際の機能)に照らして手段の調整・再選択を 行う。目的の再設定を行う場合もある。
目的の設定 手段の選択 結果の検証
①社会レベルの選択=基準の設定・変更(制度設計)
②企業レベルの選択=会計方針の選択(会計選択) 選 択
(会計選択)
手段の調整・再選択
期待された機能を果たしているか?
会計の制度設計
社会レベルの会計選択1.目的の設定は社会的合意の対象。マクロ経済政策。
利害調整vs.情報提供
2.普遍的(超歴史的)な会計システムは存在しない。時 代の要請や環境とともに「進化」する。
3.一般に認められた会計原則(Generally Accepted Accounting Principles; GAAP)の形成。
会計方針の選択
企業レベルの会計選択1.意思決定支援
経営者の機会主義的行動の抑止,逆選択の回避を目的とし た投資者への事前情報の提供。その制約下で,経営者は自 己に最も有利な裁量的会計行動をとる。
2.契約支援
投資意思決定(契約締結)の後に発生する可能性のある経 営者のモラルハザードに対処するために行われる投資者へ の事後情報の提供。その制約下で,経営者は自己に最も有 利な裁量的会計行動をとる。
第2~3講参照
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3.会計ルールの設定方式
• 2つの設定方式 1.帰納的アプローチ
実務から公正妥当なルールを帰納/経験の蒸留
2.演繹的アプローチ
規範からあるべきルールを演繹
実 務 ルール
規 範 ルール
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帰納的アプローチの特徴と問題点
歴史的には帰納的アプローチからルール設定が始まりました。1930年代会 計原則設定運動。「GAAP」という表現の出現・定着。
長所
①すでに存在する実務から帰納するので,遵守されやすい。
②迅速なルール設定が可能。
短所
①現状是認的で,実務の改善が困難。
②新しい会計問題に対応できない。
③ルール間の首尾一貫性が保証されない。
1970年代以降,演繹的アプローチが支配的になりました。FASB,
IASC/IASB
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演繹的アプローチの特徴
帰納的アプローチの問題点を克服するために登場し ました。
①理論に基礎づけられたルールの設定。
②ルール間の首尾一貫性の確保。
③会計実務の多様性(選択幅)の縮小。
会計公準
概念フレームワーク 企業会計原則
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会計実務A1,A2,・・・
会計実務B1,B2,・・・
:
帰納的アプローチ
会計基準A 会計基準B
:
会計原則 GAAP 会計基準Aと会計基準Bは首尾一貫 しない可能性がある。
演繹的アプローチ
規 範
会計基準A
会計基準B
:
会計実務A
会計実務A
:
基準間の首尾一貫性が保証されると同時に,
実務の多様性が削減される。
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4.GAAP
■一般に認められた会計原則 1.「一般に」
ある実務が多くの企業で広く利用されていること。
2.「認められた」
ある実務が企業で実際に利用されていること。
3.「会計原則」
会計のルール。基準,実務,会計方法,会計手続等。
Zeff[1995]による整理。
GAAPの歴史的な変遷
本来,帰納的アプローチに依拠して設定された 会計原則(ルール)を意味していましたが,現 在では,演繹的アプローチに依拠して設定さ れた会計ルール,実務,会計方法,会計手続 を意味するようになりました。
24 帰納的アプローチ 演繹的アプローチ
「かくある会計」
記述的ルール
「あるべき会計」
規範的ルール
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GAAPの家
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5.まとめ
1.自然科学の定理や公式と異なり,会計のルールは
「承認」の対象となります。
2.会計のルールは,[目的-手段-結果]のループのもと で設定・評価されます。したがって超歴史的・普遍的 な会計ルールは存在しません。
3.演繹的アプローチでは,会計ルールを設定するさい の前提となる基礎概念が必要となります。
4.GAAPの意味,性質の変化について,歴史的な観 点に立った理解が必要です。