総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成25年度)
テーマ
5
小課題番号5.2-3
超高層建築の防災計画・業務継続計画 建物の即時使用性判定と初動対応対策について
キーワード:超高層建築物、初動対応 宮村正光*久保 智弘*村上正浩*久田嘉章*湯澤伸伍**
即時使用性、被災度判定システム
1.はじめに
本研究は、高層建築 物を対 象に、建物内に設置さ れた地震計から得られる種 々の地震動情報や簡便な 罫書き装置の軌跡、目視に よるチェックシートなど を活用して、建物の構造健 全性、使用性を評価、推 定し、初動時の対応対策に 役立てようとするもので ある。特に建物の構造健全 性の判断は、建物内に滞 在して業務を継続するか否 かの判断の前提となるも ので、非常に重要であるが 、現在まで確立された手 法は見当たらない。その具 体的な評価は専門家でも 難しいとされているが、こ こでは専門的な知識をも たない建物管理者でも、即 時に簡便に推定できる方 法の構築を目指して、計器 観測と目視を組み合わせ た種々の方法を継続的に検討している。
今年度は、緊急地震速報と 強震モニタ等を 組み合 わせたシステム、AIDMA の 活用方法と種々のモニタ リングを組み合わせた建物 の即時使用性の判定フロ ーにいついて検討した結果について報告する。
2.平常時における地震動情報の利活用について AIDMA は Attention( 注 意 ), Interest( 興 味 ), Desire(欲求), Memory(記憶), Action(行動)であり、
各々について図 1 に示すように、さまざまな地震動 情報を発信・提供すること で、最終的な Action(危 険回避行動)に繋げることを目的としている。
システムは緊急地震速報に 加え、防災科学技術研 究所の強震モニタを併用し て、平常時から地震への 関心を深め、地震直後の対 応に活かせる仕組みを構 築し、より実践的な展開を 試みている 。東日本大震 災以降、東北地方から関東 地方において、余震 など 活発な地震活動により、小 規模から中規模の地震が 数多く発生している。この 実際の揺れを体感する 機 会を利用して、利用者の地 震に対する意識啓発を行 うと同時に、現地の地震計 を利用した オンサイト情 報)を導入し、即時に退避行 動などが行えるように対 策を講じて利活用を進めている。
AIDMA の高層建築物での適 用事例として、工学院 大学校舎に設置し、継続的 に観測を続けて、システ ムから発信される情報に基 づいた初動対応訓練など の検討を実施している。
3.高層建築物における即時使用性判定のフロー 平常時には AIDMA を活用して、在館者に地震動情 報を提供、周知することに より 、地震動情報に対す る関心を高めた後、地震発 生時には、建物の揺れを 実際に感じた際に、発信さ れる情報に対してとるべ き行動の支援に供することを目的としている。
次に建物への滞在の可否の判断の前提となる、建 物健全性の評価が必要にな る。超高層建物のような 重要な建物に対しては、地 震計からの情報を活用し て自動的に判定される即時 被災度判定システムの導 入が望まれるが、費用が高 額となるため、すべての 既存の高層建物に導入する のは難しい現状である。
一方建物管理者にとっては 、目視による判断も難し いので、何らかの客観的な 判断基準が必要であると の意見も多い。そこで、安 価で簡易に建物の被災度 を判定するができる装置として、「けがき」による 装 置を構築し、振動実験と建 物内への設置による地震 観測による検証を行ってい る。このけがき装置 は、
原則、高層建物の特に層間 変形角の 大きくなる階に
* :工学院大学建築学部まちづくり学科,**:工学院大学工学部建築学科 * :工学院大学建築学部まちづくり学科,**:工学院大学工学部建築学科
Attention Interest Desire Memory(Motive) Action
緊急地震速報 地震に気づく
強震モニタ 地震動に興味 を持つ
オンサイト地震計 自身の揺れを知 りたいと思う
EEWをきっか けに揺れを知 ろうとする
危険回避行動・
初動対応をとる。
図
1 AIDMA
による様々な 地震動情報を使った啓発活動の概要図
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小課題番号5.2-3
設置し、目視による簡易チ ェックシートと合わせて 用いることで、早期に建物 の被災度を把握すること を目的としている。同時に 、安価な情報端末装置、
ICT を使い、建物の揺れを 計測して健全性を確認す る方法についても同様に、 実証実験を行っている。
地震発生直後の建物使用性 の概略の流れは以下のよ うになる。
地震の前に、建物の在館者に対して日常的に建物 の揺れ方に関する関心を高 めると同時に 、地震発生 後にはまず火災の発生、傾 斜など建物全体に係る判 定を行う。その後、各種の モニタリングシステム や 装置を活用して、構造健全 性の判定を行い、 退避行 動の判断を行う。構造部材 の健全性が確認された場 合は、目視によるチェック シートを活用して、 各階 ごとの判定を行い、立ち入 り、一時使用性の判定を 行う手順となっている。以 上の流れを図 2に、判定 方法の一例を表1に示す。
4:罫書き装置の実験及び地震観測による検証 罫書き装置は建物の層間変形を計測するため、通 常3m程度の階高の間に吊 り材と支柱が必要となる。
そのため写真1に示すよう な実験装置を製作し、観 測波形を入力して、罫書き 装置の応答特性を検証し た。さらに工学院大学の2 4階と25階の間 に装置 を設置して、地震計、iPad から得られる観測波形と の比較を行い、その精度検 証を継続的に行っている。
振動実験では強震時で増幅 が見られる反面、実際の 地震観測では、層間変形角 小さいこともあり、最大 振幅が若干異なっている。 今後も引き続き より大き な地震での観測が必要である。
写真1:罫書き装置の振動試験と観測記録
5.まとめ
本研究では、高層建物における効果的な初動対応 対策を行うため、特に建物 の即時使用性判定につい て検討を進めている。本年 度は、特に現状のモニタ リングシステムや簡易な罫 書き装置、目視によるチ ェックシートなどを組み合 わせた 最適な方法につい て検討した。その結果、各 装置の利点や課題が明ら かになり、今後は精度検証 や判定結果の評価法など の検討を進める予定である。
謝 辞
強 震 モ ニ タ に つ い て 、防 災 科 学 技 術 研 究 所 の ホ ー ム ペ ー ジ を 利 用 し て い ま す . リ ア ル タ イ ム 地 震 観 測 シ ス テ ム の 開 発 に つ い て は 、 応 用 地 震 計 測 (株 )、計 測 地 震 防 災 シ ス テ ム は 、白 山 工 業 (株 )に ご 協 力 い た だ き ま し た 。本 研 究 は 大 林 組 諏 訪 仁 様 、工 学 院 大 学 総 務 課 、施 設 課 、 情 報 シ ス テ ム 部 、 警 備 室 ・ 防 災 セ ン タ ー の 皆 様 に ご 協 力 頂 き ま し た 。 こ こ に 感 謝 い た し ま す 。
参 考 文 献
1) 東 京 都 : 東 京 都 帰 宅 困 難 者 対 策 条 例 、 http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/tmg/kitakujore i.html、 平 成 24 年 3 月
2) Tomohiro KUBO, et al.,: Application of an Earthquake Early Warning System and a Real-time Strong Motion Monitoring System in Emergency Response in a High-rise Building, Soil Dynamics and Earthquake Engineering, Volume 31, Issue 2, p231-239 2011
3) 宮 村 正 光 、 久 田 嘉 章 他 : 超 高 層 ビ ル 街 に お け る 地 震 後 の 傷 病 者 対 応 、 建 物 の 被 害 確 認 と 即 時 使 用 性 判 定 に 関 す る 研 究 そ の 4: 建 物 管 理 者 に よ る 即 時 使 用 性 判 定 、 日 本 建 築 学 会 大 会 (北 海 道 )、 21600、 P1199-1200、 2013
表1 使用性判定方法の例
(2)地 震 計 と iPad
(3)観 測 さ れ た け が き の軌 跡
と 計 算 波 形と の 比較(1)
振 動 試 験 の 外 観図1 使用性判定方法の概略フロー
建物 モニタリング、
ケガキ カテゴリーⅠカテゴリーⅡ
~Ⅲ
×
×
× △1 調査階は応急的立入不可
×または△
○
×または△
○ △3 調査階は応急的立入可
× ○1
×または△
○
×または△
○ ○3 調査階は応急的使用可
○
△
○
建物の 即時使用性の判定 判定結果
△
○
△
調査階は危険場所以外で 応急的立入可
△2
○2
○
× 建物全階は使用不可
調査階は危険場所以外で 応急的使用可