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報告2 韓国の原子力規制機関の独立性と透明性
Independence and Transparency of Korea's Nuclear Regulatory Agencies
○崔鐘敏*・羅星仁**
1.はじめに
本研究は、東アジア地域における原子力規制機関の国際比較の一環として、韓国の規制 機関である「原子力安全委員会」(以下、原案委)を独立性と透明性の観点から考察し評価 を行うことを目的とする。
韓国は、1970年代末から原子力発電の運転を開始し、2022年現在24基を稼働している
「原発大国」である。日本の福島原発事故から分かるように、原発での重大事故を防ぎ、
原発の安全性を高めるためには、適切な安全規制を行うことが重要である。しかし、「適切 な」規制はどのようなものか、規制機関はどのような運営方針を基に規制を行うべきか、
などに関して明確な基準を設けている国や地域は少ない。国際原子力機関(IAEA)は、「IAEA
Safety Standards」(IAEA、2016)において原子力規制機関は、「独立性」と「透明性」を確保
することが重要であると述べ、これに関する様々な基準を提示している。本研究では、IAEA の基準を採用し、韓国の原子力規制の重心的な機関であり、最高意思決定機関である原案 委に対して、規制機関としての独立性と透明性を評価することを図る。
2.分析方法
本研究では、IAEAのDS463:GSR Part1である「政府、法律及び規制の安全に対する枠組
み」(IAEA、2016)で示されている規制機関の独立性、透明性に関する項目を評価基準とし
て採用した。本研究ではこのような基準を用いて、韓国の原案委に関する法的・制度的措 置や、実際の運用状況などについて評価を行った。特に、運用状況に関しては、原案委の 年次報告書や活動内容、会議録等の資料を参照した。また、原子力規制関係者へのインタ ビューを行い、その内容も評価に活用した。
3.分析結果
原案委の独立性については、「原子力安全委員会の設置及び運営に関する法律」第 2 条 で、「原子力安全委員会は独立性と公正性を維持」すべきであると定められている。これが 規制機関としての原案委の基本的な運営原則である。しかし、原案委が2011年当初は大統 領直属機関であったが、2013年には国務総理室傘下に格下げされたことによって、規制機 関としての独立性欠如の問題が指摘されている(윤순진、2015;崔鐘敏他、2020)。このよ うな状況を考慮し、原案委も 2022 年の核心推進課題の一つとして大統領直属機関に変更 を推進するとの方針を示し、機関の独立性を強化することを目標としていることが確認で きた(원자력안전위원회、2021)。原案委の透明性については、まず、「原子力安全委員会 の設置及び運営に関する法律」第13条、第13条の2、第13条の3において基本的な原則 が定められている。すなわち、原案委の会議は公開し、会議録も公表することによって、
国民に対して規制機関としての透明性を保障することを図っている。また、委員長の許可 が得られれば、一般市民の会議の傍聴も可能である。なお、原案委は2021年に「第3次原
* ソウル大学環境計画研究所 Environmental Planning Institute, Seoul National University
〒08826 203ho, 82dong, Gwanak-ro 1, Gwanak-gu, Seoul, Korea. E-mail: [email protected]
** 広島修道大学大学人間環境学部.E-mail: [email protected]
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子力安全総合計画」を国民参与団の参加の下で樹立し、国民とのコミュニケーションも取 ろうとしている。しかし、規制関係者のインタビューを通じて、原子力事業者の資料公開 等に関する透明性は十分でないことが分かった。
以上のような原案委の独立性と透明性について、IAEA の基準に沿って評価した主な結 果が表1である。
表1 韓国の原子安全委員会の独立性と透明性に関する評価の主要結果
出所:IAEA(2016)に基づいて著者作成
4.結論
本研究の分析によって、原案委は、規制機関としての独立性と透明性に関する原則が法 的に定められていて、実際の運用においても、全般的に守られていることが分かった。ま た、原案委自らも独立性と透明性を向上させるために、色々な政策的努力を試みているこ とは、高く評価できる。
しかし、機関の位置を格上げて、独立性の確保が必要であることは重要な課題として残 っている。また、国民に対する透明性確保だけでなく、原子力事業者の活動を正しく規制 するための措置も必要である。安全を守るための正しい規制は、国民に直接見えないとこ ろにおいても独立性と透明性を保つ上で成立されることを強調したい。
参考文献
崔鐘敏・尹順眞・李秀澈・河津早央里・周瑋生(2020) 「韓国の原子力政策と原子力安全規制 制度―福島原発事故が規制制度に及した影響と評価を中心に―」,『名城論叢』,20(4):133- 157.
원자력안전위원회의 설치 및 운영에 관한 법률(韓国 原子力安全委員会 の 設置及 び 運営に関する法律)
원자력안전위원회(2021),「국민과 함께 새롭게 도약하는 원자력 안전 –2022년 업무계획–」
윤순진(2015),「우리나라 원전 거버넌스의 과제와 방향(我が国原発ガバナンスの課題 と方向)」,『환경법과 정책』,14:1-48.
International Atomic Energy Agency (2016), Organization and staffing of the regulatory body for nuclear facilities. Safety Guide, IAEA Safety Standards Series No. GSR Part 1 (Rev. 1)
独立性関連項目 評価
安全関連決定を行う際、 利害関係者や団体か らの機能的分離を持つことが保証されている。
• 法的根拠:「原子力安全委員会の設置及び運営に関 する法律」第10条(利害関係者)
政治的状況や経済状況と関連する政府やその 他の組織から自由である。
• 法的根拠:「原子力安全委員会の設置及び運営に関 する法律」第2条(独立性)、第9条(政治活動を含む 兼職禁止)
• 改善の必要な点:機国務総理室所属という格の問題
透明性関連項目 評価
規制機関は、開放していて、透明なマネジメント システムを構築し、施行すべきである。
• 法的根拠:「原子力安全委員会の設置及び運営に関 する法律」第13条、第13条の2、第13条の3→会議 の公開と会議録の作成、会議の傍聴(許可制)
規制機関の要求や判断、決定に関する情報を大 衆に提示し、コミュニケーションを取る。
• 「第 3 次原子力安全総合計画」を国民参与団の参加 の下で樹立
• 事業者―規制機関間のコミュニケーションは不足