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大腸菌の新規 l -アラニン排出輸送体の同定と機能解析

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細胞膜は小さな疎水性分子を除き,ほぼすべての物質 に対し透過障壁として作用するため,基質の膜を介する 選択的な輸送は細胞の生理機能と恒常性を保つ上で重要 である.この輸送は,細胞内への物質(栄養物)の取り 込み輸送と,代謝産物(老廃物など)の排出輸送の二方 向性があり,その重要性と研究の容易さから,各種基質 の取り込み輸送に関する膨大な研究がこれまでなされ,

アミノ酸や糖などの栄養物質の取り込み輸送体が数多く 同定されてきた(1).一方,排出輸送体に関しては,1980 年代以降抗生物質や重金属などの細胞毒性物質を細胞外 へ排出する輸送体の実体(タンパク質・遺伝子)が捉え られるようになり(2, 3),1990年代以降はアミノ酸や糖,

さらにはヌクレオシドなどの一次代謝産物を排出する輸 送体が遺伝子レベルで同定されてきた(4〜6).これらの輸 送体に関する研究は,基礎生物学の研究対象として重要 であるばかりではなく,微生物を利用した物質生産を行 なっている産業分野においても非常に重要な研究領域で ある.

我が国では古来より,清酒,味噌,醤油などの微生物 を利用した物質生産が盛んに行なわれてきており,1957

年に土壌細菌である がグ

ルタミン酸を分泌生産することを木下・鵜高らが発見し て以来(7),多くのアミノ酸が微生物による発酵法で製造 されるようになり,今ではアミノ酸発酵は世界に冠たる バイオ産業として発展している.アミノ酸発酵は,炭素

源をはじめとする基質を生産菌が細胞内に取り込んで代 謝変換した後,生成したアミノ酸を細胞外へ分泌するこ とにより成立する.当初より,代謝経路の改変などによ り著しい生産効率の向上が達成されてきたが,アミノ酸 発酵の成立上必須過程である細胞外への輸送ルートは近 年に至るまで不明であった.ところが,1996年にl-リ ジン排出輸送体であるLysE(8)が におい て同定されて以降,これまでに10種を超えるアミノ酸 の排出輸送体遺伝子が や大腸菌で見いだ され,2007年にはl-グルタミン酸の分泌に関わる輸送 体(本シリーズの最終回に和知らにより詳述)が発見さ れるに至った(9).これまでに見いだされた輸送体はスレ オニン,芳香族アミノ酸,分岐鎖アミノ酸,システイン など,l-体アミノ酸を排出することが知られているが,

イオンの電気化学的勾配に蓄積されたエネルギーを利用 する二次輸送体としてのl-アラニン (l-Ala) 排出輸送体 はこれまでまったく知られていなかった.これらの同定 されたアミノ酸排出輸送体は,その一次配列の相同性か らいくつかのファミリーに分類されることが明らかとな り,近年,ゲノム情報を利用したホモロジー解析により 新たなアミノ酸排出輸送体の探索もなされるようになっ た(10)

しかし,データベース中の推定アミノ酸配列から膜タ ンパク質と予測される機能未知遺伝子に関して,これま で同定されたアミノ酸排出輸送体と相同性が認められな

セミナー室

産業微生物の細胞膜を介した物質輸送研究の最前線――物質生産の効率化に向けた新たな挑戦-1

遺伝学的手法を用いた

大腸菌の新規 l -アラニン排出輸送体の同定と機能解析

米山 裕 *

1

,堀 初弘 *

2

*1東北大学大学院農学研究科,*2古谷乳業(株)

(2)

い場合,その遺伝子産物の機能を予測し同定することは きわめて困難である.今回紹介するl-Ala排出輸送体 は,遺伝学的手法を用いて初めて同定することができた そのような新規アミノ酸排出輸送体の例であり,その発 見の経緯とアミノ酸発酵への応用の可能性,および生理 的役割についても議論する.

L-アラニン排出能欠損変異株を取得するための戦略

アミノ酸排出輸送体として初めて同定されたLysEを 欠損した変異株の生育がl-リジン (l-Lys) を含むジペプ チド (Lys-Ala) 存在下で抑制される現象が見いだされ たことから, のl-スレオニン (l-Thr) と

l-イソロイシン (l-Ile) 排出能欠損変異株が,当該アミ ノ酸を含有するペプチド(Thr-Thr-ThrあるいはIle- Ile)に対する高感受性株として分離された(11, 12).この ペプチドフィーディング法の原理は,細胞内に取り込ま れ加水分解されて生成するペプチド由来の構成アミノ酸 が異化代謝を受けなければ,アミノ酸排出能欠損変異株 の細胞内にそのアミノ酸が著量蓄積し生育が阻害される というものである. はl-Ileを炭素源とし て利用できないためにペプチド由来のl-Ileを細胞内に 高濃度蓄積し生育抑制を来すことが知られていたことか

ら,l-Ile排出輸送体の研究では野生株が用いられた.一 方,l-Thr排出輸送体の研究ではl-Thrを分解する  

(スレオニンデヒドラターゼ)遺伝子破壊株がペプチド フィーディング法に用いられた.

l-Ala排出能を欠損した大腸菌変異株を分離する際,

このペプチドフィーディング法を野生株に適用すると,

l-Ala関連代謝経路,すなわちピルビン酸からl-Alaへの アミノ化反応と,l-Ala/d-Ala間のラセミ化反応の2つの 経路のため,添加したAla-Alaに由来するl-Alaが細胞 内に蓄積しない可能性がある.この問題を回避するため に,筆者らが最近同定したl-Ala合成に関与する3種の アミノトランスフェラーゼ遺伝子 ( ,  ,  )(13)

と2つのアラニンラセマーゼ遺伝子 ( ,  ) を破壊 し た,l-Alaとd-Alaを と も に 要 求 す る 変 異 株 (MLA  301) を構築した(図1.この変異株を3 mm Ala-Alaと 50 μg/ml d-Alaを添加した最少培地で培養すると,野生 株MG1655の場合はAla-Alaに由来するl-Alaがいった ん培地中に排出された後,再吸収され消失するのに対 し,MLA301では添加したAla-Ala (3 mm) の約2倍量 のl-Ala (6 mm)が排出され,培養を続けても培地中の

l-Alaは 減 少 し な か っ た(図1-C).こ の こ と は,

MLA301がl-Alaを異化代謝できないことを意味してお り,この株から誘導したl-Ala排出能欠損変異株はAla- 連載開始にあたって:産業微生物の細胞膜を介した物質輸送研究の最前線

1950年代,木下・鵜高らによって土壌微生物であるコ リネ型細菌が著量のグルタミン酸を分泌生産することが発 見されて以来,アミノ酸や有機酸,抗生物質の発酵生産技 術が確立され,日本のお家芸ともいえる発酵産業が誕生し た.菌体内の代謝機能の改変に基づく既存の育種法のみに 頼る生産性向上の試みは限界に近づきつつあり,加えて,

新興国の参入と原料価格の上昇により,海外メーカーとの 価格競争は激しさを増している.このような状況で,さら なる生産効率の向上に向けた新たなアプローチとして,基 質の取り込み,代謝産物の排出を制御する新しい生産技術 体系の追求が始まっている.物質の膜輸送を制御する技術 は,従来の代謝改変技術との併用により,有用物質生産の さらなる効率化を実現する技術として期待される.本セミ ナー室では,産業用細菌において進展している物質生産に 重要な輸送体の同定・機能解析について最新の研究成果を 紹介し,産業応用についても展望する.

シリーズ第1回は,米山(東北大院・農)と堀初弘先生

(古屋乳業)が大腸菌のl-アラニン排出輸送体に関する最

近の成果を解説し,第2回は福井啓太先生(味の素),七

谷(東北大院・工),阿部(東北大院・農)が,産業微生

物のAAExファミリーに属する膜輸送体の機能について,

コハク酸排出輸送体 (SucE1) を中心に紹介する.第3回 は,田中裕也先生,乾将行先生,湯川英明先生 (RITE) 

にコリネ型細菌のグルコースなどの糖類の主要な取り込み 経路であるPTS経路について解説していただく.第4回で は,池田正人先生(信州大学・農)に同じくコリネ型細菌 のPTS以外のグルコース輸送系について執筆していただ く.第5回は,大津厳生先生(奈良先端大・バイオ)に脂 質の過酸化防御機構とジスルフィド結合導入におけるシス テイン輸送系の役割を解説していただく.最終回では,川

崎寿先生(東京電気大学),和地正明先生(東京工業大学)

に,コリネ型細菌のグルタミン酸排出チャネルに関して分 子生物学的,電気生理学的な研究を紹介していただきシ リーズを完結する.

本シリーズを通して,産業微生物の物質輸送研究に興味 を抱き,次世代の発酵生産技術の開発に挑戦する若い研究 者が一人でも生まれれば望外の喜びである.

(米山 裕*1,七谷 圭*2,阿部敬悦*1, 3,*1東北大学大 学院農学研究科,*2同大学大学院工学研究科,*3同大学未 来科学技術共同研究センター)

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Ala存在下で細胞内に高濃度のl-Alaを蓄積し生育抑制 を来すことが期待される.

L-アラニン排出能欠損変異株の分離

上記のペプチドフィーディング法に基づき,MLA301 を化学変異誘起剤であるニトロソグアニジン (NTG) で 処理後,50 μg/mlのl-Alaおよびd-Alaを含む最少培地 で生育,3 mm Ala-Alaおよび50 μg/ml d-Ala添加培地 で非生育のクローンを選択した結果,l-Ala排出能欠損 候補クローンが得られた(図2.これらの候補クロー ンが示す表現型の要因は,l-Ala排出能の欠損以外に,

①Ala-Ala取り込み能低下によるl-Ala供給不足,②ジ ペプチドの分解も含めたl-Ala利用能低下の可能性があ る.そこで,これらの可能性を検討するために,筆者ら は候補クローンおよび親株のAla-Ala存在下での細胞内 外l-Alaレベルを経時的に測定した.

その結果, 親株MLA301の細胞内l-Alaレベルは6 mm  Ala-Ala添加後急激に上昇した後低下し,その後基底レ ベル(約40 mm)となった.このいったん上昇した細胞 内l-Alaレベルの低下は意外な結果であり,大腸菌は誘 導型のl-Ala排出輸送体をもつと考えられる.これに対 し,候補クローンの細胞内l-Alaレベルは親株同様上昇 したが,その後低下することはなくプラトー (150 〜 図1ペプチドフィーディング法の原理とジペプチド Ala-

Ala 添加後の細胞外L-Alaレベル

(A) 3つのアミノトランスフェラーゼ (YfdZ, YfbQ, AvtA) と2つ のアラニンラセマーゼ (Alr, DadX) 遺伝子を破壊したl-Ala/

d-Ala要求変異株はAla-Ala存在下で取り込んだAla-Alaに由来す l-Alaを細胞外へ排出する.(B) l-Ala/d-Ala要求変異株より誘 導したl-Ala排出能欠損変異株は,Ala-Ala由来のl-Alaが細胞内 に著量蓄積するため生育抑制が生じることが期待される.(C) 大 腸菌野生株 (MG1655) とl-Ala/d-Ala要求変異株 (MLA301) を 3 mm Ala-Alaおよび50 μg/ml d-Ala (MLA301のみ)を含む最少 培地で培養し,経時的に細胞外へ排出されるl-Alaを定量した.

(文献14より許可を得て転載)

図2ジペプチド Ala-Ala 感受性変異株の分離とその細胞内 外L-Alaレベル

(A) Ala-Ala感受性変異株のl-Ala/d-Ala(各50 μg/ml)含有最少 培地(左),あるいはAla-Ala (3 mm) とd-Ala (50 μg/ml) 含有最 少 培 地(右 ) で の 生 育.1 : MG1655(野 生 株 ),2 : MLA301 (l- Ala/d-Ala要 求 変 異 株 ),3 : LAX12(Ala-Ala感 受 性 変 異 株 ) 4 : LAX16(Ala-Ala感受性変異株)(B) Ala-Ala感受性変異株の 細胞内l-Alaレベル,(C) Ala-Ala感受性変異株の細胞外l-Alaレ ベル.黒丸:MLA301,三角:LAX12,四角:LAX16.(文献14 より許可を得て転載)

(4)

190 mm) に達し,親株の基底レベルよりはるかに高い ことが明らかとなった(14) (図2-B).一方,細胞外l-Ala レベルはこれとは逆に変異株のほうが親株のそれより低 かった(図2-C).細胞外l-Alaレベルの経時変化より算 出した変異株のl-Ala排出速度は親株の速度に比べ約 25%低下していたことから,変異株のl-Ala排出輸送体 に機能障害が生じていることが示唆された(14)

この結果は,変異株がAla-Alaに対して高感受性を示 すことと一致している(図2-A).しかし,変異株は

l-Alaを依然として排出しており,その要因として,① 変異株において機能障害を起こしたと思われるl-Ala排 出輸送体以外に別のl-Ala排出輸送体が存在すること,

また②l-Alaは細胞膜を拡散することが知られているこ とから(15),拡散による細胞内からのl-Alaの漏出が推測 された.これらの可能性の最終的な結論はl-Ala排出輸 送体の同定を待たなければならない.

L-アラニン排出輸送体の同定

l-Ala排出輸送体の遺伝子を取得するために,筆者ら はl-Ala排出能欠損変異株LAX12の表現型(Ala-Ala感 受性)のAla-Ala非感受性への復帰を指標としたショッ トガンクローニングを行なった.得られたAla-Ala非感 受性株の中から独立した11株の相補クローンをランダ ムに選び,プラスミドを抽出して再度LAX12に形質転 換したところ,いずれもAla-Ala含有最少培地で生育し たことから,この相補能は組換えプラスミドに依存する ことが明らかとなった.次に,プラスミドに挿入された DNA断片の制限酵素解析,サブクローニング,および ベクターと挿入断片の境界領域をシーケンスした結果,

4種の遺伝子 ,  ,  および が相補能を担 う遺伝子であることが明らかとなった(表1.これら のうち, および は既知遺伝子であり,各々ロ イシンおよび芳香族アミノ酸の排出輸送体をコードして いることが報告されていた(16, 17).一方, と は 機能未知遺伝子であり,内膜タンパク質をコードするこ とがデータベースで予想されているのみであった.も し,これら機能未知のYtfFとYgaWがl-Alaの排出に関

与するなら,内膜に局在することが考えられる.

実際に,これらの遺伝子産物を複数の膜トポロジー解 析 ソ フ ト (TMHMM, HMMTOP, TopPred, Phobius,  MEMSAT 3, SCAMPI) で解析すると,いずれのプログ ラムでもYtfFは10個,YgaWは4個の膜貫通領域を有 していることが予測された.YtfFはRhtAファミリー

(予想される膜貫通領域10個,構成アミノ酸残基は約 300残基)に分類されることが知られており(18),この ファミリーに属するRhtA, YdeDおよびYddGはアミノ 酸排出輸送能をもつ内膜タンパク質であることが実験的 に証明されている(18〜20).したがって,YtfFは膜局在タ ンパク質であることが強く示唆される.

一方,YgaWに関しては,そのホモログも含め機能解 析は一切なされていない.そこで,N末端にヒスチジン 

(His) タグをもつ組換え型 遺伝子 (His- ) を 構築し大腸菌BL21 (DE3) 株で発現させると,Ni-NTA レジンを用いて精製したHis-YgaWタンパク質と同じ SDS-PAGE上での移動度を示すタンパク質が可溶性画 分には検出されず膜画分に検出されたことから,YgaW は膜に局在するタンパク質であることが明らかとなっ た(21)

L-アラニン排出能の評価

同定した4種の遺伝子をもつ組換えプラスミドをAla- Ala高感受性変異株LAX12に導入した形質転換体はい ずれもAla-Ala非感受性となったことから,これらの産 物はl-Ala排出能があると考えられた.そこで,各形質 転換体を6 mm Ala-Ala存在下でインキュベーションし,

経時的に細胞内外のl-Ala量をHPLCにて測定した.そ の結果,いずれの場合も細胞内l-Alaレベルはコント ロールベクターをもつLAX12より低下しており,逆に 細胞外l-Alaレベルは高かった(図3-A, B).その中でも 遺伝子を導入した形質転換体LAX12 (pYgaW)

の細胞内外l-Alaレベルの変化が最も大きく,興味ある ことに,LAX12 (pYgaW) は親株であるMLA301より 細胞内l-Alaレベルが低く細胞外l-Alaレベルが上昇し ていた(図3-A, B).このことから, 遺伝子が大

表1L-アラニン排出能欠損変異を相補する遺伝子

遺伝子 アミノ酸残基 膜貫通領域* ファミリー 基質 文献

149   4 未知 未知 21

321 10 未知 21

293 10 芳香族アミノ酸 17

212   6 Leu 16

*TMHMMプログラムにより予測される膜貫通領域の数

(5)

腸菌の主要なl-Ala排出輸送体をコードする遺伝子であ ると推測できた.もし,そうであるなら,次の2つのこ とが予想される.①l-Ala, d-Ala要求株であるMLA301 の 遺 伝 子 破 壊 株 はl-Alaを 排 出 で き な い た め,

Ala-Alaに対し高感受性を示す.②NTG処理で選択した Ala-Ala高感受性変異株の 遺伝子は機能を失う

(あるいは低下する)変異が生じている.

①の可能性を検討する目的で,MLA301の 遺伝 子を破壊した変異株MLA301Δ を作製し,その Ala-Alaに対する感受性を調べた結果,ランダム変異に より取得したLAX12と同じ39 μg/mlの最少発育阻止濃 度 (MIC) を示し,MLA301のMIC (>10 mg/ml) より 低下していた.また,MLA301Δ の細胞内外l-Ala レベルの経時変化を調べた結果,LAX12と同様に親株 MLA301に比べ高い細胞内l-Alaレベル,および低い細 胞外l-Alaレベルを示した(図3-C, D).さらに,この 遺伝子の欠損に起因する細胞内外のl-Alaレベル は野生型の 遺伝子を導入することによって相補さ れ,そのパターンはLAX12に野生型 遺伝子を導 入した結果と同じであった(図3-C, D)(21)

次に,②の可能性を検証するために,Ala-Ala高感受

性変異株LAX12およびLAX16の染色体上の 遺伝 子の塩基配列を調べた結果,LAX12は開始コドンより 374番目のグアニンがアデニンに変異しており,125番 目のグリシンがグルタミン酸へ置換される点変異であっ た.また,LAX16においては,開始コドンより101番 目のシトシンがチミンに変異しており,34番目のセリ ンがフェニルアラニンに置換していた.興味深いこと に,変異したアミノ酸残基はいずれも膜貫通領域と予想 される部位に存在していた.一般的に,対をなさない荷 電アミノ酸が膜貫通領域に存在すると,膜タンパク質が 不安定化し機能障害を起こすことが知られており,

LAX12の変異はこのケースに当てはまると考えられる.

また,LAX16の場合は水酸基をもつ比較的小さなセリ ンからバルキーな疎水性のフェニルアラニンへの点変異 であり,立体構造変化が生じ機能障害が起こったものと 考えられた.以上より,YgaWが大腸菌の主要なl-Ala 排出輸送体であることが初めて明らかとなった.

アミノ酸発酵生産へのYgaW応用の可能性

産業としてのアミノ酸発酵の正否の鍵は,いかに優良

(A, B) ランダム変異により誘導し たAla-Ala感 受 性 変 異 株LAX12に クローン化した遺伝子 (

) をもつ各プラスミドを 導入し,6 mm Ala-Alaを含む最少 培地でインキュベーション後,経時 的に細胞内外のl-Alaを測定した.

コバルト色三角:pYeaS,コバルト 色四角:pYddG,コバルト色菱形:

pYtfF,コ バ ル ト 色 丸:pYgaW,

白丸:l-Ala/d-Ala要求変異株MLA  301,白 三 角:Ala-Ala感 受 性 変 異 株LAX12.(C, D) MLA301の 遺伝子を破壊した欠損変異株MLA  301Δ を6 mm Ala-Alaを 含 む 最少培地でインキュベーション後,

経時的に細胞内外のl-Alaを測定し た.白丸:MLA301,白三角:MLA  301Δ ,コバルト色丸:pYgaW  を保有するMLA301Δ (文献 21より許可を得て転載)

図3細胞内 A, C および細胞外 B, D L-Alaの経時変化

(6)

なアミノ酸生産菌株を作出するかにかかっている.土壌 細菌である がグルタミン酸を培地中に分 泌生産することが発見されて以来,変異育種および分子 育種法が用いられ著しいアミノ酸生産効率の向上が図ら れてきた.これらの育種法は,代謝制御の解除,分解経 路の除去,生合成遺伝子の増幅など,いずれも当該アミ ノ酸への合成代謝フローの強化がその技術基盤となって いる.しかし,さらなる生産効率の向上を達成するため には,新しい視点からの研究開発が必要であり,新たな 育種の概念として排出機能の強化が近年注目されるよう になってきた.このような例として,l-スレオニンやl- システインなどの排出輸送体遺伝子をこれらアミノ酸の 生産菌に導入し排出機能の強化によって生産効率が向上 することが報告されている(22, 23).一方,Alaに関して は,自然界より分離される広範な細菌種がAlaを分泌す ることが知られていたが,イオンの電気化学的勾配をエ ネルギー源とする二次輸送体としてのAla排出輸送体は これまで見いだされておらず,排出能強化によるAlaの 生産効率の向上を目指す研究は不可能であった.

主要なl-Ala排出輸送体であることが判明したYgaW を実際の発酵生産に応用する場合,Ala代謝に関して野 生型あるいは生合成系を強化したAla生産株を使用する ことが想定される.そこで,大腸菌野生株に

のアラニン脱水素酵素を導入してl-Ala合成 能を強化したモデル生産系を構築し,このAla生産株に 遺伝子を導入して,そのAla分泌生産への影響を 検討した(図4-A, B).その結果,コントロールベク

ターをもつ大腸菌野生株MG1655,アラニン脱水素酵素 遺伝子のみを導入したMG1655,およびアラニン脱水素 酵素遺伝子と 遺伝子をともに導入したMG1655の グルコース消費と生育は3菌株ともほぼ同様の推移を示 したが,培地中のAla生産量はこれらの3菌株で大きく 異なっていた(図4-A, B).MG1655ではAlaが生産され なかったのに対して,アラニン脱水素酵素遺伝子を導入 した株ではAlaが分泌され,10時間後の対糖収率は 22.5%であった.一方,この生産システムに 遺伝 子を導入するとAla生産はさらに向上し(対糖収率 32.7%),l-Ala排出輸送体の機能強化をしなかった場合 に比べ約1.5倍の生産性の改善が見られた.以上より,

同定した 遺伝子の増幅によるl-Ala排出能を強化 するアプローチは,l-Ala生産株の生産効率の向上に有 効であることが明らかとなった.

L-アラニン排出輸送体の生理的意義

一次代謝産物であるアミノ酸をエネルギーを消費して まで排出する意義は一体どこにあるのであろうか.アミ ノ酸排出輸送体が実体として捉えられて以降,その意義 として次のことが挙げられている.①クオラムセンシン グに関与するホモセリンなどのシグナル分子の分泌(24)

②細胞内アミノ酸レベルの最適化(19),③ペプチド存在 環境下でのアミノ酸の細胞内過剰蓄積による生育阻害の 回避(8),などである.しかし,これまでのところ明確な 結論に至るだけの証拠は得られていない.

(A) 各種プラスミドをもつ野生株 MG1655を0.5%グ ル コ ー ス,1%塩 化 ア ン モ ニ ウ ム お よ び100 mm  MOPS (3-( -morpholino)propane- sulfonic acid) (pH 7.2) を含むL-培 地で嫌気培養し,経時的に培養上清 中に分泌されるAlaをHPLCにて定 量した.コバルト色丸: 遺伝 子とアラニン脱水素酵素遺伝子をも つプラスミド保有株,白三角:アラ ニン脱水素酵素遺伝子をもつプラス ミド保有株,白丸:コントロールベ クター保有株.(B) 生産培養時の生 育(実線)と培地中の残存グルコー ス量(点線).菌株を示すシンボル は (A)  と 同 じ.(C) MG1655の 遺 伝 子 を 破 壊 し た 変 異 株 MG1655Δ お よ び 野 生 株 MG1655を希釈し,1 mm Ala-Alaを 含む最少寒天培地(右)に接種後,

37ºCで24時 間 培 養 し た.(文 献21 より許可を得て転載)

図4L-Ala排出輸送体のAla生産に及ぼす影響と 遺伝子欠損の生育に及ぼす影響

(7)

このアミノ酸排出輸送体の生理的意義を考える上で YgaWホモログの細菌界における分布域は非常に示唆に 富んでいる.YgaWの一次配列に対する微生物ゲノムの 比較解析 (MBGD, http://mbgd.genome.ad.jp/) を行な うと,YgaWのホモログはプロテオバクテリア門に属す るクラスの中でもα-プロテオバクテリア(1菌種)およ び γ-プロテオバクテリア (15菌種)(2011年10月21日 現在)に見いだされるのみであった.このことは,進化 の過程でプロテオバクテリアが他の門に属するグループ から分かれた後に 遺伝子の祖先となる遺伝子が誕 生したことを示唆している(21).また,YgaWのホモロ グは既存のどのタンパク質のファミリーにも属さないこ とから,新規の排出輸送体ファミリーを構成することが 示された.

興味あることに,YgaWのホモログの多くは哺乳類の 腸 に 棲 息 す る  (正 式 名 は,

 serovar Typhimu rium)(アミノ酸 の一致度 87.2%)などの腸内細菌や,哺乳類の腸内で増 殖する (アミノ酸の一致度 62.8%)など の病原細菌に存在していた.哺乳類の腸内は食物中のタ ンパク質に由来する小さなペプチドが豊富に存在する環 境であり,ヒトの場合,タンパク質を多く含む食事を摂 取するとペプチド形態のl-Alaが10 mmを超えることが 報告されている(25).したがって,動物腸内に棲息する 細菌の細胞内にはこのペプチドに由来するl-Alaが過剰 蓄積することが考えられ,過剰蓄積したl-Alaが排出輸 送体など何らかのシステムにより排出されなければ,菌 の増殖に悪影響を及ぼすことが予想される.実際,大腸 菌野生株であるMG1655の 遺伝子を破壊した変異 株 (MG1655Δ ) を作製し,その生育に及ぼすAla- Alaの影響を調べたところ,MG1655Δ 株は1 mm  Ala-Ala存在下で生育が抑制されることが観察された

(図4-C).

以上より,YgaWおよびそのホモログの生理機能の一 つは,菌体内のl-Alaレベルを適正に調節することであ り,腸内細菌においてはペプチド由来のl-Alaを排出処 理することによって,ペプチドが豊富な腸内環境で増殖 するための安全バルブとしての役割があるものと考えら れる(21)

おわりに

DNA二重らせん構造が解明されて以降,新しい学問 分野である分子生物学が誕生し,生命現象を「分子」の レベルで理解することが可能となってきた.加えて,近

年のシーケンス技術の発展により夥しい数の細菌ゲノム が解読され,この配列情報に基づく研究により生物学が 加速度的に進展している.しかし,モデル生物でもあり 一つの細胞として最も理解が進んでいる大腸菌でさえ,

その解読されたゲノムの約4割の遺伝子産物の機能は不 明である.今回紹介したl-Ala排出輸送体YgaWの遺伝 子は,機能未知の -geneとして膜タンパク質をコード すると予想されていた遺伝子であり,加えてYgaWの ホモログもまったく機能が不明であった.このYgaW のようにその機能解析がまったくなされていない新規 ファミリーに属するタンパク質を,網羅的な機能解析手 法で同定することはきわめて困難である.今回紹介した

l-Ala排出輸送体は,表現型(l-Ala排出能)に基づく伝 統的な遺伝学的手法を用いて初めて同定することができ た好例である.

栄養素などの取り込み輸送体の研究に比べ排出輸送体 の同定・解析が近年に至るまで進展が見られなかった理 由の一つは,その生化学的解析技術の困難さがあった.

一次代謝産物の排出システムが実体として捉えられるよ うになり,微生物を利用した物質生産のさらなる効率の 向上を目指した研究は,代謝機能(生合成,代謝制御,

分解)の改変から,産物の膜を介する輸送現象へと関心 が向けられるようになった.そのような研究を進めるた めには,伝統的な生化学的,遺伝学的手法はもちろん,

新しい技術と連携したアプローチが必須である.次回以 降は,このような観点から最新の膜輸送体研究を紹介す る.

文献

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  6)  S. V.  Gronskiy,  N. P.  Zakataeva,  M. V.  Vitushkina,  L. R. 

Ptitsyn,  I. B.  Altman,  A. E.  Novikova  &  M. V. 

Livshits : , 250, 39 (2005).

  7)  S. Kinoshita, S. Udaka & M. Shimono : , 3, 193 (1957).

  8)  M.  Vrljic,  H.  Sahm  &  L.  Eggeling : , 22,  815 (1996).

  9)  J. Nakamura, S. Hirano, H. Ito & M. Wachi : , 73, 4491 (2007).

  10)  V. V.  Aleshin,  N. P.  Zakataeva  &  V. A.  Livshits : , 24, 133 (1999).

  11)  P. Simic, H. Sahm & L. Eggeling : , 183, 5317 

(2001).

  12)  N.  Kennerknecht,  H.  Sahm,  M. R.  Yen,  M.  Patek,  M. H. 

(8)

Saier Jr. & L. Eggeling : , 184, 3947 (2002).

  13)  H. Yoneyama, H. Hori, S. J. Lim, T. Murata, T. Ando, E. 

Isogai & R. Katsumata : , 75,  930 (2011).

  14)  H.  Hori,  T.  Ando,  E.  Isogai,  H.  Yoneyama  &  R.  Katsu- mata : , 316, 83 (2011).

  15)  R. Krämer : , 162, 1 (1994).

  16)  E. A. Kutukova, V. A. Livshits, I. P. Altman, L. R. Ptitsyn,  M. H.  Zyiatdibov,  I. L.  Tolkmakova  &  N. P.  Zakataeva :  

579, 4629 (2005).

  17)  V. Doroshenko, L. Airich, M. Vitushkina, A. Kolokolova,  V.  Livshits  &  S.  Mashko : , 275,  312 (2007).

  18)  V. A.  Livshits,  N. P.  Zakataeva,  V. V.  Aleshin  &  M. V. 

Vitushkina : , 154, 123 (2003).

  19)  T.  Daßler,  T.  Maier,  C.  Winterhalter  &  A.  Böck : , 36, 1101 (2000).

  20)  M. Rapp, D. Drew, D. Daley, J. Nilsson, T. Carvalho, K. 

Melen, J. De Gier & G. Von Heijne : , 13, 937 

(2004).

  21)  H. Hori, H. Yoneyama, R. Tobe, T. Ando, E. Isogai & R. 

Katsumata : , 77, 4027 (2011).

  22)  D. Kruse, R. Kramer, L. Eggeling, M. Rieping, W. Pfeffer- le, J. H. Tchieu, Y. J. Chung & M. H. Saier Jr. :

59, 205 (2002).

  23)  S.  Yamada,  N.  Awano,  K.  Inubushi,  E.  Maeda,  S.  Naka- mori, K. Nishino, A. Yamaguchi & H. Takagi :

72, 4735 (2006).

  24)  N. P. Zakataeva, E. A. Kutukova, S. V. Gronskii, P. V. Tro- shin,  V. A.  Livshits  &  V. V.  Ales hin :   , 75,  509 (2006).

  25)  S. A.  Adibi  &  D. W.  Mercer : , 52,  1586 

(1973).

坂 口  健 二(Kenji Sakaguchi) Vol. 48, 

No. 12, p. 854参照

渋谷 直人(Naoto Shibuya) Vol. 48, No.  

2, p. 113参照

新 屋  友 規(Tomonori Shinya) Vol. 48,   No. 2, p. 113参照

鈴 木  勉(Tsutomu Suzuki) <略歴>

1993年 日 本 学 術 振 興 会 特 別 研 究 員 

(DC1)/ 1996年東京工業大学大学院生命 理工学研究科バイオサイエンス専攻博士後 期課程修了(理博)/同年三菱化学(株)横 浜総合研究所研究員/ 1997年東京大学大 学院工学系研究科化学生命工学専攻助手/

1999年同大学大学院新領域創成科学研究 科先端生命科学専攻講師/ 2004年同大学 大学院工学系研究科化学生命工学専攻助教 授/ 2008年同教授,現在にいたる<研究 テーマと抱負>RNA修飾の多彩な機能と 生 合 成,miRNAの 生 合 成 と 代 謝,リ ボ ソームの機能とタンパク質合成の分子メカ ニズム,RNA機能異常に起因する疾患の

発症メカニズム<趣味>スキー

高 橋 伸 一 郎(Shin-ichiro Takahashi)  

<略歴>現在,東京大学大学院農学生命科 学研究科(応用動物科学専攻・応用生命化 学専攻動物細胞制御学研究室)准教授 玉 置  雅 彦(Masahiko Tamaki)  歴>平成2年名古屋大学大学院農学研究科 博士課程(後期課程)修了/同年山口大学 農学部教務員/ 3年同助手/ 9年広島県立 大学生物資源学部助教授/ 16年同教授/

17年県立広島大学生命環境学部教授/ 18 年明治大学農学部教授,現在にいたる.こ の間,平成5年文部省在外研究員(米国オ レゴン州立大学)/ 6年同大学ポスドク

(〜 7年)<研究テーマと抱負>環境に優 しい作物生産技術の開発

土居 雅夫(Masao Doi) <略歴>1998 年東京大学理学部生物化学科卒業/ 2003 年同大学大学院理学系研究科生物化学専攻 博士課程修了(理博)/2006年神戸大学大 学院医学研究科助教/ 2007年京都大学大

学院薬学研究科講師/ 2011年同准教授,

現在にいたる.この間,2002 〜 2006年日 本学術振興会海外特別研究員(フランス国 立科学センター)<研究テーマと抱負>脳 内中枢時計ニューロンネットワークと時間 医薬研究への展開

中 山  亨(Toru Nakayama) <略歴>

1981年筑波大学第二学群農林学類卒業/

1986年京都大学大学院農学研究科農芸化 学専攻博士後期課程修了(農博)/同年サ ントリー(株)応用微生物研究所研究員/

1994年神戸学院大学栄養学部助手/ 1998 年東北大学大学院工学研究科助教授/

2005年同教授,現在にいたる<研究テー マと抱負>新規な生化学反応の探索と応用

<趣味>ガーデニング,芝生管理 堀  初 弘(Hatsuhiro Hori) <略歴>

2011年東北大学大学院農学研究科博士課 程後期3年修了(農博)/同年古谷乳業

(株),現在にいたる<研究テーマと抱負>

乳製品の製造・開発<趣味>球技,ドライ

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Ⅱ ■出題のねらい コイルを回転させた交流の発生や変圧器,および発電所や変電所での送電を題材とし,これ らに関する電磁気学の基本事項について問いました。これらは教科書にも載っている内容なの で,しっかり理解しておいてください。 ■採点講評 この問題は,教科書の中では電磁気学の後半に出てくる内容なので,受験者にとっては少し 難しかったのかもしれません。この大問