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子ども用短縮版対人感受性尺度の作成 - 福島大学

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問題と目的

 自尊感情の発達について,萩野(2012)は,小学校 へ入学すると自尊感情は本格的に他者との関わりのな かで育まれるようになり,子ども同士の仲間関係や集 団における役割行動が自尊感情の形成に大きな役割を もつということを示しており,自尊感情には対人関係 が強く影響していると考えられる。また大坊(2006)

は,自分の言動に対して相手がどのように反応するの か,その反応を読み取ることによって,自分の特徴を 社会的なものとして初めて理解することができるとい うことを示しており,対人関係における他者からの評 価や言動は自尊感情の発達に大きな影響を与えると考 えられる。しかし,他者からの評価や言動に対してす べての人が同じ捉え方をするとは限らず,人によって その捉え方は異なるのではないかと考えられる。実 際,奈良(2019)が自尊感情が褒め言葉の受け取り方 に与える影響について検討したところ,褒めというポ ジティブな評価を肯定的に捉える人もいれば否定的に 捉える人もおり,結果の一部として褒めの捉え方が人 によって異なることが示唆された。このような違いは,

他者の言動や状態の感じやすさである対人感受性の強 さが影響しているのではないかと考えられる。

 対人感受性とは「対人関係において他者がおこなう 行動や言動によって意味を読み取り,心が動かされて 敏感に反応する性質」(三好,1999)や「他者の言動 や状態に対する感じやすさ」(江田・日高 2007)と 定義されている。讃岐(1990)は,対人感受性は優し さや人の内面の豊かさに通じ,共感や創造力あふれる

魅力的なパーソナリティにつながる反面,過敏さや傷 つきやすさなどの心の脆弱性にもつながる危険性をは らむ“両刃の剣”であるとしている。他者への感受性 の高さは様々な先行研究において抑うつ傾向や不安障 害,対人ストレスとの関連について検討されており,

精神的健康に影響を及ぼす(長谷川 2013)ことが示 されている。

 日本では他者への感受性に関する尺度を用いた研究 は少ない。他者への感受性を測る尺度として桑原ら

(1999)が作成した日本語版IPSMや,江田・日高(2007)

が作成した対人感受性尺度があるが,項目数が多く,

また大学生以上を対象として作成した尺度であるた め,子どもを対象として用いることは難しいと思われ る。

 そこで,本研究では,子どもの対人感受性を適切に 測ることができるよう,江田・日高(2007)の対人感 受性尺度の表現を子どもに分かりやすい表現に改めた ものを用いて,中学生を対象に質問紙調査を実施し,

因子分析の結果をもとに項目分析を行い,項目数を減 らし,子ども用短縮版対人感受性尺度を作成する。ま た,作成した尺度について内的整合性と因子構造を確 認した後,妥当性を検討する。

 妥当性の検討については,質問紙調査を行う際に,

鈴木・小塩(2002)が作成した対人的傷つきやすさ尺 度と,村上ら(2014)が作成した子ども用認知・感情 共感性尺度も同時に実施し,子ども用短縮版対人感受 性尺度との相関を見ることで基準関連妥当性を検討す る。対人的傷つきやすさ尺度(鈴木・小塩 2002)は,

*a 青森県三八地域県民局地域健康福祉部こども相談総室八戸児童相談所

*b 福島大学人間発達文化学類附属学校臨床支援センター

子ども用短縮版対人感受性尺度の作成

 本研究の目的は,子ども用短縮版対人感受性尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討すること である。江田・日高(2007)の対人感受性尺度を子どもに分かりやすい内容に改めたものを用いて,

中学生460名を対象に因子分析と項目分析を行った結果,江田・日高(2007)の対人感受性尺度と 同様,『否定的感受性』と『肯定的感受性』の2因子から成る11項目が抽出された。信頼性について,

第1因子『否定的感受性』はα=.90,第2因子は『肯定的感受性』α=.91となり,作成された尺 度は十分に信頼でき,高い内的整合性があることが確認された。また,『否定的感受性』は対人的 傷つきやすさ尺度(鈴木・小塩 2002)と,『肯定的感受性』は認知・感情共感性尺度(村上ら  2014)とそれぞれ有意な中程度の正の相関が得られ,併存的妥当性を確認することができた。さら に,小学校4年生99名を対象に因子分析とクロンバックのα係数の算出を行った結果,小学校4年 生においても2因子構造であることと,十分に信頼でき,高い内的整合性があることが示唆され,

作成した尺度を『子ども用短縮版対人感受性(小学校4年生~中学校3年生用)』と名付けた。

〔キーワード〕対人感受性   信頼性   妥当性   子ども   短縮版尺度

奈 良 風 希 岸   竜 馬

*a

*b

(2)

他者からネガティブな評価を受けた際に容易に落ち込 み,精神的健康を害しやすい傾向の程度を測定するた めに作成されたもので,対人感受性尺度(江田・日高  2007)のうち,他者に対する不安や気がかり,恐れ などを示す『否定的感受性』と正の相関が予測される。

また,子ども用認知・感情共感性尺度(村上ら  2014)は『他者感情への敏感性』,『視点取得』,『他者 のポジティブな感情の共有』,『他者のポジティブな感 情への好感』,『他者のネガティブな感情の共有』,『他 者のネガティブな感情への同情』から成り,特に『他 者のポジティブな感情の共有』,『他者のポジティブな 感情への好感』は,対人感受性尺度(江田・日高  2007)のうち,相手の態度や言動等を見て,安心を感 じる側面である『肯定的感受性』と正の相関が予測さ れる。

方 法

1.対象者

 A県の公立中学校に通う中学生1~3学年487名

(1学年:153名,2学年:152名,3学年:182名)を 対象に質問紙調査を実施した。回収された回答のう ち,分析に必要な項目における欠損などを処理した結 果, 460名(1学年:140名,2学年:144名,3学年:

176名)を分析対象者とした。

2.調査時期

 2021年10月中旬に実施した。

3.手続きおよび倫理的配慮

 調査は郵送法で,各学級担任に依頼し,学級ごとに 集団状況で実施された。調査は無記名方式で,学年,

学級,年齢,性別をフェイスシートに記入してもらっ た。本調査は,大学での研究の一環であり,答えた内 容は研究目的以外に使用されず,外部に漏れることは 絶対にないこと,学業成績とは無関係であり,回答に よって不利益を被ることはないこと,回答はコン ピュータで処理され,個人が特定されないようになっ ていること,をフェイスシートに明記した。実施時間 は約15分であった。また,質問紙調査終了後に,フォ ローアップとして,自尊感情を高める方法と認知の歪 みと上手に付き合う方法を記載した資料を配布した。

4.質問紙の構成  1)フェイスシート

 学年・クラス・年齢・性別を尋ねた。

 2)対人感受性

 対人感受性尺度(江田・日高 2007)について,指 導教員1名と臨床心理学専攻の大学院生4名と検討 し,内容を損なわないことを確認した上で,子どもに

伝わりやすい表現に改めたものを用いた。対人感受性 尺度を用いるにあたり,日高教授(久留米大学大学院)

に子ども用短縮版対人感受性尺度を作成することと,

作成するにあたり対人感受性尺度を用いることについ て,メールにて許可を得た。この尺度は適度な感受性 に焦点を当て,“他者の言動,状態に関する過度の敏 感さと被影響性”である対人感受性を測る尺度として 作成したものであり,他者に対する不安や気がかり,

恐れなどを示す『否定的感受性因子』27項目と,他者 と接する際に相手の態度や言動等を見て,安心を感じ る側面である『肯定的感受性因子』12項目の合計2因 子,39項目から構成されている。回答方法は“あては まる(4点)”,“どちらかというとあてはまる(3点)”,

“どちらかというとあてはまらない(2点)”,“あては まらない(1点)”の4件法とした。

 3)対人的傷つきやすさ

 鈴木・小塩(2002)による対人的傷つきやすさ尺度 を用いた。他者からネガティブな評価を受けた際に容 易に落ち込み,精神的健康を害しやすい傾向を対人的 傷つきやすさと定義し,その程度を測定するために作 成されたもので,1因子,10項目から構成されている。

回答方法は“あてはまる(4点)”,“どちらかという とあてはまる(3点)”,“どちらかというとあてはま らない(2点)”,“あてはまらない(1点)”の4件法 とした。

 4)認知・感情共感性

 村上・西村・櫻井(2014)による子ども用認知・感 情共感性尺度を用いた。他者のネガティブな感情への 共感性とポジティブな感情への共感性の双方に着目し て作成されたもので,共感性の認知的側面である『他 者感情への敏感性』4項目と『視点取得』4項目の2 因子と,共感性の感情的側面である『他者のポジティ ブな感情の共有』4項目,『他者のポジティブな感情 への好感』4項目,『他者のネガティブな感情の共有』

4項目,『他者のネガティブな感情への同情』4項目 の4因子の計6因子,24項目で構成されている。回答 方法は“あてはまる(4点)”,“どちらかというとあ てはまる(3点)”,“どちらかというとあてはまらな い(2点)”,“あてはまらない(1点)”の4件法とし た。

Ⅰ.結 果

 本研究の分析には,IBM SPSS Statistics(Ver.26)

を使用した。

1.項目分析と因子妥当性の検討

 質問項目39項目に対して因子構造を検討するため に,探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)を

(3)

行った。初期解における固有値の減衰状況は,第1因 子から順に,13.47,7.54,1.54,1.16…となったため,

3因子構造であることを仮定し,3因子解で再度因子 分析(最尤法・プロマックス回転)を行った。因子分 析の結果,因子負荷量が.40以下の項目(「人がどんな 人と仲良くしているのか気になる」(.39)「他の性別 の人に近づくときパニックになってしまう」(.33)「友 達とケンカした後は仲直りするまで落ち着かない」

(.39))を削除し,3因子36項目が抽出された。抽出 された36項目について,指導教員1名と臨床心理学専 攻の大学院生4名とともに項目分析を行い,内容が重 複しているとみなされる項目を削除し,3因子21項目 を抽出した。抽出した21項目について,再度因子分析

(最尤法・プロマックス回転)を行ったところ,すべ ての項目において,因子負荷量が.40以上あることが 確認された。

 その後,3因子21項目について,内的整合性を検討 するために下位尺度のα係数を算出した。その結果,

第1因子:α=.92,第2因子:α=.89,第3因子:

α=.73となった。今回はより高い内的整合性がある 尺度を作成するため,α係数が.75に満たない第3因 子2項目(「他の人の話し方が優しくないと落ち着か ない」「知り合いがほめてくれないと幸せな気分にな れない」)と,項目を削除した場合にα係数が高まる 第2因子1項目(「他の人の表情がさみしそうだと気 になる」)を削除したところ, 2因子18項目が残った。

 残った18項目について2因子解で因子分析(最尤 法・プロマックス回転)を行った。因子分析の結果,

因子負荷量が.70未満の7項目(「他の人は私を理解し ていないと感じる」(.69),「相手が信頼できる人かど

うかと不安になる」(.66),「他の人が本当の私を知っ たら,私のことを好きにならないだろう」(.65),「断 られるのをおそれて,自分の考えを言わないようにす る」(.62),「他の人にショックを与えられると簡単に 忘れることができない」(.54),「他の人を傷つけてし まうのではないかとおそれて,おこらないようにする」

(.53),「他の人と仲良しだと安心する」(.67))を削除 し, 2因子11項目が抽出された。抽出された2因子,

11項目について再度因子分析(2因子解・最尤法・プ ロマックス回転)を行ったところ,すべての項目にお いて,因子負荷量が.70以上と高い値となり,共通性 についても第1因子に含まれる項目が.51 ~ .62,第2 因子に含まれる項目が.60 ~ .79であった(Table1)。

 抽出された2因子,11項目について,第1因子は江 田・日高(2007)の対人感受性尺度における『否定的 感受性因子』に含まれる7項目で構成されており,第 2因子は『肯定的感受性因子』に含まれる4項目で構 成されていたため,江田・日高(2007)の対人感受性 尺度における因子名に則り,第1因子を『否定的感受 性』,第2因子を『肯定的感受性』とした。

 抽出された2因子,11項目について,下位尺度のク ロンバックのα係数を算出した結果,第1因子:α

=.90,第2因子:α=.91であり,高い内的整合性が 確認された。それぞれの項目の平均値,標準偏差を Table2に示した。

2.妥当性の検討

 基準関連妥当性を検討するために,採用された2因 子について,対人的傷つきやすさ尺度と子ども用認知・

感情共感性尺度,その下位尺度との相関係数を算出し

質 問 項 目

因 子 否定的感受性 共通性

(α=.90) 肯定的感受性

(α=.91)

他の人は私に興味がないのではないかと心配する  .79  .00 .57 人が私とちょうどよい距離感で接しているかいつも気になる  .78 -.02 .62 人が私と真面目に話をしていないのではないかと不安になる  .76  .02 .51 他の人の表情を見て,私をきらっているのではないかとおそれる  .76 -.02 .61 私が他の人に与えるえいきょうについて心配する  .73  .04 .59 人が周りの人たちとどのように関わるか気にする  .73  .00 .53 他の人をいやな気持ちにさせるのではと心配している  .71 -.02 .55

他の人の返事の仕方が優しいと安心する  .02  .89 .77

人が私と仲良くしてくれると安心する  .01  .88 .79

他の人の声の感じが明るいと安心する -.04  .86 .73

他の人が話しやすいと安心する  .00  .77 .60

因子相関行列 否定的感受性 肯定的感受性

否定的感受性 1.00  .09

肯定的感受性  .09 1.00

Table 1 子ども用短縮版対人感受性尺度の因子分析結果(2因子解・最尤法・プロマックス回転)

(4)

た(Table3)。その結果,『否定的感受性』において,

対人的傷つきやすさ尺度と有意な中程度の正の相関

(r=.46,p<.01)が得られた。

 『肯定的感受性』においては,認知・感情共感性尺 度と,認知・感情共感性尺度の下位尺度である『ポジ 共有』,『ポジ好感』,『ネガ同情』と有意な中程度の正

の相関(順にr=.50,r=.52,r=.43,r=.40,いずれ もp<.01)が,認知・感情共感性尺度の下位尺度であ る『ネガ共有』『他者感情への敏感性』『視点取得』と 有意な弱い正の相関(順にr=.30,r=.30,r=0.38,

いずれもp<.01)が得られた。

 以上の結果から,信頼性と妥当性が確認され,2因

対人的傷つ

きやすさ 認知・感情 共感性

認知・感情共感性 下位尺度

ポジ共有 ポジ好感 ネガ共有 ネガ同情 他者感情へ

の敏感性 視点取得 否定的感受性 .46** .07 -.07 .01 .16** .05 .16** .08 肯定的感受性 .14** .50** .52** .43** .30** .40** .30** .38**

Table 3 対人的傷つきやすさ尺度と子ども用認知・感情共感性尺度の下位尺度との相関係数(スピアマン)

**p<.01

質 問 項 目

因 子 否定的感受性 共通性

(α=.88) 肯定的感受性

(α=.89)

人がわたしと真面目に話をしていないのではないかと不安になる  .867  .036 .65 他の人の表情を見て,わたしをきらっているのではないかとおそれる  .734 -.213 .64 わたしが他の人に与えるえいきょうについて心配する  .729  .009 .55 人がわたしとちょうどよいきょり感で接しているかいつも気になる  .710  .120 .48 他の人はわたしに興味がないのではないかと心配する  .686 -.079 .50 人が周りの人たちとどのように関わるか気にする  .670  .010 .50 他の人をいやな気持ちにさせるのではと心配している  .650  .104 .44

他の人が話しやすいと安心する  .033  .870 .67

他の人の声の感じが明るいと安心する  .060  .859 .64 他の人の返事の仕方がやさしいと安心する  .026  .791 .62 人がわたしと仲よくしてくれると安心する -.065  .787 .61

因子相関行列 否定的感受性 肯定的感受性

否定的感受性 1.00 -.23

肯定的感受性 -.23 1.00

Table 4 小学校4年生における子ども用短縮版対人感受性尺度の因子分析結果(最尤法・プロマックス回転)

平均値 標準偏差 他の人の表情を見て,私をきらっているのではないかとおそれる 2.24 1.09

他の人は私に興味がないのではないかと心配する 1.85 1.00

他の人をいやな気持ちにさせるのではと心配している 2.52 1.08 人が私とちょうどよい距離感で接しているかいつも気になる 1.94 1.02 人が私と真面目に話をしていないのではないかと不安になる 1.64 .86

人が周りの人たちとどのように関わるか気にする 1.90 1.01

私が他の人に与えるえいきょうについて心配する 2.02 1.06

人が私と仲良くしてくれると安心する 3.54 .79

他の人の返事の仕方が優しいと安心する 3.40 .88

他の人の声の感じが明るいと安心する 3.46 .84

他の人が話しやすいと安心する 3.58 .74

Table 2 子ども用短縮版対人感受性尺度の各項目における記述統計

(5)

子,11項目から成る子ども用短縮版対人感受性尺度の 有用性が示唆された。

3.子ども用短縮版対人感受性尺度の対象について  子ども用短縮版対人感受性尺度が小学校高学年に対 しても使用可能か検討するため,後述の第1回質問紙 調査で対象となった公立小学校に通う小学校4年生 107名(男子:60名,女子:43名,その他:1名,不明:

3名)を対象とし,2021年12月上旬に実施した。回収 された回答のうち,分析に必要な項目における欠損な どを処理した結果, 99名(男子:55名,女子:41名,

その他:1名,不明:2名)を分析対象者とし,子ど も用短縮版対人感受性尺度のデータについて因子分析

(最尤法・プロマックス回転)を行った(Table4)。

その結果,子ども用短縮版対人感受性尺度は,小学校 4年生においても中学生と同様の2因子であることが 確認された。

 また,各因子について,クロンバックのα係数を算 出したところ,第1因子『否定的感受性』がα=.88,

第2因子『肯定的感受性』がα=.89であった。

考 察

 本研究の目的は,子ども用短縮版対人感受性尺度を 作成し,その信頼性と妥当性を検討することであった。

対人感受性尺度(江田・日高 2007)39項目を子ども に分かりやすい内容に改めたものを用いて,中学生 487名を対象に質問紙調査を行った。回収された回答 のうち,不備のない460名の回答について分析を行っ た。

1.子ども用短縮版対人感受性尺度の因子構造の検討  39項目について,探索的因子分析(最尤法・プロマッ クス回転)と項目分析を行った結果,2因子,11項目 が抽出された。子ども用短縮版対人感受性尺度を作成 するにあたって用いた江田・日高(2007)の対人感受 性尺度は,『否定的感受性』と『肯定的感受性』の2 因子構造となっており,本研究でも同様に2因子構造 が得られた。この結果から,子どもの対人感受性にお いても,大学生以降における対人感受性同様,他者の 態度や言動に対して敏感になり,不安や恐れを感じる

『否定的感受性』と,他者の態度や言動に対して過度 に敏感に反応するが,それによって安心感を得る『肯 定的感受性』に分類できることが示唆された。

 しかしながら,本研究において,対象者に回答を求 めた元の39項目について探索的因子分析を行ったとこ ろ,2因子構造ではなく,3因子に分かれた。第3因 子はα係数を算出した結果,α=.73であり,より高 い内的整合性をもつ尺度を作成するため,本研究では 削除したが,「他の人の話し方が優しくないと落ち着 かない」や「知り合いがほめてくれないと幸せな気分

になれない」といった,他者からのポジティブな言動 や評価がなければ安心できない傾向を示すような項目 で構成されていた。このことから,子どもの対人感受 性においては,『否定的感受性』と『肯定的感受性』

のほかに,他者のポジティブな言動や評価がないと,

安心感を得ることができないという側面もあるのでは ないかと推察される。

 作成された尺度における各因子の独自性について は,第1因子『否定的感受性』を構成する7項目の因 子負荷量は.71 ~ .79,第2因子『肯定的感受性』を構 成する4項目の因子負荷量は.77 ~ .89と,いずれも.70 以上の高い因子負荷量が示された。よって第1因子お よび第2因子を構成する項目は,各因子と強い関連が あると考えられる。また,第1因子に含まれる項目の 共通性は.51 ~ .62で,第2因子に含まれる項目の共通 性は.60 ~ .79であることから,第1因子および第2因 子に含まれる項目は,各因子によって説明することが できるといえる。

2.子ども用短縮版対人感受性尺度の信頼性の検討  得られた2因子について,クロンバックのα係数を 算出したところ,第1因子『否定的感受性』がα=.90,

第2因子『肯定的感受性』がα=.91であった。第1 因子,第2因子ともにα係数が高いことから,子ども 用短縮版対人感受性尺度は,十分に信頼でき,高い内 的整合性があるといえることが示唆された。

3.子ども用短縮版対人感受性尺度の妥当性の検討  子ども用短縮版対人感受性尺度の併存的妥当性を検 討するため,対人的傷つきやすさ尺度(鈴木・小塩  2002)10項目および子ども用認知・感情共感性尺度(村 上ら 2014)24項目と,子ども用短縮版対人感受性尺 度について,スピアマンの相関係数を求めた。

 その結果,他者に対する不安や気がかり,恐れなど を示す『否定的感受性』においては,対人的傷つきや すさ尺度と有意な中程度の正の相関(r=.46,p<.01)

が得られた。鈴木・小塩(2002)によると,対人的傷 つきやすさは,他者からのネガティブな評価を受けた 際に容易に落ち込み,精神的健康を害しやすい傾向で あるといい,対人的傷つきやすさ尺度には「人から言 われることに傷つくことが多い」や「自分についてど んなことを言われても気にしない(※逆転項目)」,「自 分の意見が他の人に受け入れられないと,すぐに落ち 込んでしまう」など,自分自身への他者のネガティブ な評価に対する不安や気がかりの程度を尋ねる項目が 多く含まれている。そのため,『否定的感受性』と対 人的傷つきやすさ尺度は関係があると考えられる。し かし,『否定的感受性』は他者の言動全般に対する過 敏さと,それによって不安を感じたり,恐れを感じる という被影響性を測るものであるのに対して,対人的

(6)

傷つきやすさ尺度は他者からのネガティブな評価を受 けた際の精神的な被影響性を測るものであり,測定内 容に相違があるため,相関の強さが中程度であったと 考えられる。

 また,他者と接する際に相手の態度や言動等を見て,

安心を感じる側面である『肯定的感受性』においては,

認知・感情共感性尺度と,認知・感情共感性尺度の下 位尺度である『他者のポジティブな感情の共有』,『他 者のポジティブな感情への好感』と有意な中程度の正 の相関(順にr=.50,r=.52,r=.43,いずれもp<.01)

が見られた。村上ら(2014)によると,『他者のポジティ ブな感情の共有』は他者のポジティブな感情状態と同 一の感情が生じる傾向であり,『他者のポジティブな 感情への好感』は他者のポジティブな感情状態に対応 する他者志向的な感情反応が生じる傾向であるとされ ている。『肯定的感受性』は「人が私と仲良くしてく れると安心する」や「他の人の返事の仕方が優しいと 安心する」,「他の人の声の感じが明るいと安心する」

など,他者のポジティブな言動や雰囲気に対して安心 感を抱く項目からなる。『他者のポジティブな感情の 共有』および『他者のポジティブな感情への好感』と

『肯定的感受性』は,いずれも他者のポジティブな表 現に対して,ポジティブな感情を抱くものであるため,

ある程度の関係があったと考えられる。しかし,ポジ ティブな感情を抱く対象が,『他者のポジティブな感 情の共有』や『他者のポジティブな感情への好感』で は,「よろこんでいる人を見ると…」や「うれしそう にしている人を見ると…」など,他者の一方的な感情 表出に対してだが,『肯定的感受性』は「人が私と仲 よくしてくれると…」や「他の人の返事の仕方が優し いと…」など,他者の自分自身に向けた言動に対して であるという点で基本的な相違があったために,相関 の強さが中程度であったと考えられる。

 さらに,『肯定的感受性』は認知・感情共感性尺度 の他の下位尺度においても,『他者のネガティブな感 情への同情』との間には有意な中程度の正の相関(r

=.40, p<.01)が,『他者のネガティブな感情の共有』

『他者感情への敏感性』『視点取得』との間には有意な 弱い正の相関(順にr=.30,r=.30,r=.38,いずれ もp<.01)が見られた。『他者のネガティブな感情の 共有』や『他者のネガティブな感情への同情』は他者 のネガティブな感情状態に対して,ネガティブな感情 や同情が生じる傾向であるため,安心感というポジ ティブな感情を抱く『肯定的感受性』と相違があるも のの,他者の言動,状態を敏感に受け取り,感情的側 面において影響を受けるという点で関係があると考え られる。また,『視点取得』は他者の視点に立って物 事を考える傾向で,『他者感情への敏感性』は他者の 感情に関心を持ち,敏感に察知する傾向であるとされ ており,被影響性が含まれていない点で『肯定的感受

性』と異なるが,他者の状態や言動に注意を向ける過 敏さが含まれている点で『肯定的感受性』と関係があ ると考えられる。

 以上のことから,子ども用短縮版対人感受性の『否 定的感受性』と『肯定的感受性』の2つの下位尺度に おいて,それぞれ類似の尺度と中程度の相関が見られ たため,子ども用短縮版対人感受性の併存的妥当性が 検証されたと言える。

4.子ども用短縮版対人感受性尺度の対象について  作成された子ども用短縮版対人感受性尺度が小学校 高学年に対しても使用可能か検討するため,小学校4 年生における子ども用短縮版対人感受性尺度のデータ について因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行っ た。その結果,子ども用短縮版対人感受性尺度は小学 校4年生においても中学生のデータと同様の2因子で あることが確認された。また,各因子について,クロ ンバックのα係数を算出したところ,第1因子『否定 的感受性』がα=.88,第2因子『肯定的感受性』が α=.89となり,子ども用短縮版対人感受性尺度は小 学校4年生においても十分に信頼でき,高い内的整合 性があるといえることが示唆された。

 以上のことから,作成された子ども用短縮版対人感 受性尺度は小学校4年生にも使用できることが示唆さ れた。そこで,作成した尺度を『子ども用短縮版対人 感受性(小学校4年生~中学校3年生用)』と名付け た。

引用・参考文献

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日本語版の作成-信頼性と妥当性の検討-」 季刊精神科 診断学,10(3),333-341

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-発達的観点からみた自尊心の育ち-」児童心理,44,

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Referensi

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