24章:今回の要点
(1) 単糖の炭素鎖伸長と短縮
伸長:Kiliani-Fischer 合成 短縮:Ruff 分解と Whol 分解 (2) 自然界に存在する二糖と多糖、
およびそれらの生体との関わり (3) 細胞表面上の炭水化物:
糖脂質と糖タンパク質
24章 炭水化物:自然界に存在する多官能性化合物 p1450‒1473
24-9:糖の炭素鎖の伸長と短縮の方法
R R’
O
R’ = H またはアルキル基 NaCN
HCl R R’
CN HO
シアノヒドリン
OH – HCN
ポイント:1炭素の追加または除去には、シアノヒドリンを経由する
・シアノヒドリンの生成は、カルボニル化合物を 1炭素増やすことになる。→ Kiliani-Fischer 合成
・シアノヒドリンのカルボニル化合物への再変換は、
1炭素減らすことになる。→ Whol 分解
(17章-11)
24-9:カルボニル基の反応(炭素鎖の伸長) p1450 重要:アルドースの炭素鎖は Kiliani-Fischer 合成で1炭素増やせる
C H OH HO H
H O
HCN シアノヒドリン の生成(p1045)
C H OH HO H
CN H OH
+
C H OH HO H
CN HO H
アルドース 2つのシアノヒドリン
(ジアステオマー)
新しい不斉中心
C H OH HO H
C H OH
+
C H OH HO H
C HO H
2つのイミン
H2
Pd–BaSO4 ニトリルの還元
H NH H NH
H+, H2O イミンの 加水分解
C H OH HO H
C H OH
+
C H OH HO H
C HO H
2つの伸長された糖
H O H O
・3工程の変換(①〜③)で、C2位のエピマー対が得られる
・活性を落とした Pd-BaSO4 触媒は、イミンのアミンへの還元が起こらない と等価増炭
キリアニ
①
②
③
24-9:カルボニル基の反応(炭素鎖の短縮) p1451 重要:アルドースの炭素鎖は Ruff分解 または Whol 分解で
1炭素減らせる
C H OH HO H
H O
Br2, H2O アルデヒド の酸化
アルドース
C H OH HO H
HO O
カルボン酸
酸化的脱炭酸
C HO H 減炭された糖 Fe3+, H2O2
H2O H O
糖の構造決定に有用な変換法
→「24章-10:アルドースの相対配置とFischerの証明」を読んでおく Ruff 分解
ルフ
①
②
ウォール
②
③
①
C‒C開裂 C‒C開裂
Whol 分解
C H OH HO H
H O
NH2OH, H+ オキシムの生成 (p1040)
アルドース
C H OH HO H
H NOH
オキシム
O O O
CH3CO2Na オキシムの脱水
C H OH HO H シアノヒドリン
N シアノヒドリンの除去
–OH, H2O
C HO H 減炭された糖
H O
発展:24-9 Ruff 分解の反応機構 p1451 アルデヒドの酸化:臭素水溶液による酸化
C H OH HO H
O H
H2O
アルドース
C H OH HO H
Br Br H
O OH2 C
H OH HO H
H O OH2 Br
C H OH HO H
H O OH Br
– H+
H2O C H OH HO H
O OH
カルボン酸
カルボン酸の酸化的脱炭酸:2段階の1電子酸化
C C H OH HO H
O O 1電子酸化
C HO H – e–
HO OH Fe3+ Fe2+
C C H OH HO H
O O
– CO2
C H OH HO H
1電子酸化 – e– Fe3+ Fe2+
C H OH HO H
H2O – H2O
C HO H
O H
アルデヒド
24-9:糖の炭素鎖の伸長と短縮のまとめ
Kiliani-Fischer 合成と Whol 分解は、概念的に逆の変換
C H OH HO H HO H H OH
CH2OH O H
2
Whol 分解
C HO H HO H H OH
CH2OH
Whol 分解
O H C
HO H HO H HO H H OH
CH2OH O H
2
D-ガラクトース D-リキソース D-タロース C2位のエピマー
C HO H
H OH H OH CH2OH O H
D-アラビノース
Kiliani-Fischer 合成
C H OH HO H
H OH H OH CH2OH O H
2
D-グルコース +
C HO H HO H H OH H OH CH2OH O H
2
D-マンノース C2位のエピマー
練習問題
D-
アルトロースを次の反応剤で処理して得られる生成物を示せ。
a. (CH3)2CHOH, HCl
b. 1) NH2OH, HCl, 2) (CH3CO)2O, CH3CO2Na, 3) –OH, H2O c. NaBH4, CH3OH
d. 1) NaCN, HCl, 2) H2, Pd-BaSO4, 3) H+, H2O e. Br2, H2O
f. HNO3, H2O
CHO HO H
H OH H OH H OH CH2OH D-アルトロース
24-11:二糖 p1460
二糖:互いにグリコシド結合でつながった 2つの糖
最も豊富に存在する二糖は、マルトース、ラクトース、スクロース
O O
O OH グリコシド結合
アセタール
特徴:1) 2つの単糖には5員環と6員環のものがあるが、6員環が圧倒的に多い 2) グリコシドは一方の単糖のアノマー炭素ともう一方の炭素のいずれかの
OH 基から生成→二糖は必ず1つのアセタールをもち、さらに ヘミアセタールかもう一つのアセタールをもつ
3) ピラノース環(6員環)の場合、それぞれの環の炭素原子はアノマー炭素 から順に番号づけされる→アノマー炭素がC1
4) 一方の環のアノマー炭素C1ともう一方の環のC4がつながった二糖が多い
O O
O OH H H
H 4
2 4
3 1
3 2 1
β-1,4-グリコシド結合
(1→4-β-グリコシド結合)
24-11 自然界に存在する二糖:マルトース p1460
注意:糖をいす形立体配座で書いた場合、
α位はアキシアル位、β位はエカトリアル位
マルトース(麦芽糖) 酵素によるデンプンの分解により生成
・ヘミアセタールをもつので、還元糖
・変旋光を起こし、オサゾンを生成
・2つのグルコースで構成
・a-1,4-グリコシド結合している O
HO H HO
CH2OH
HO
β-マルトース
1
4 O
O OH HO
CH2OH
HO H アセタール
ヘミアセタール α
β α-1,4-グリコシド結合
C C N
CH2OH H N
HN Ph
NHPh
(第8回講義)オサゾン
24-11:ラクトース p1461 ラクトース(乳糖) ヒトおよび動物の乳汁中に含まれる
・ガラクトースとグルコースから構成
・b-1,4-グリコシド結合している O
HO
CH2OH
HO
α-ラクトース
1
4 O
O H HO
CH2OH
HO OH アセタール
ヘミアセタール β
α β-1,4-グリコシド結合
HO
H
・ヘミアセタールをもつので、還元糖
・変旋光を起こし、オサゾンを生成
24-11:スクロース p1458
スクロース(
ショ
糖)テンサイやサトウキビから得られる砂糖
・グルコースと
フルクトースから構成
・a-1,2-グリコシド結合
注意:ヘミアセタールをもたないので、非還元糖 変旋光を起こさず、オサゾンを生成しない
HO O HO
CH2OH
HO O
CH2OH
HO H H HO
O
CH2OH H α-1,2-グリコシド結合
アセタール
1
α 2
β-グリコシド結合 β
HO O HO
CH2OH
HO
1
α
O O
OH HOH2C
OH
CH2OH
2β
O H HOHO
CH2OH
HO OH α-グルコピラノース
+ 18%
O OH HOHO
CH2OH
HO H β-グルコピラノース
32%
+
O
OH HOH2C
OH
CH2OH OH
β-フルクトフラノース 16%
+
O OH HO
OH HO
CH2OH β-フルクトピラノース
34%
D-グルコース 1 : 1 D-フルクトース
比旋光度:
+66.5
比旋光度:
‒22.0
H+, H2O または 酵素(インベルターゼ)
加水分解 比旋光度の符号(+,)の逆転=転化
24-12 自然界に存在する多糖:セルロース p1464
セルロース 植物の主な構成成分(葉・根・綿など)、分子量数千以上
・グルコースのみで構成
・b-1,4-グリコシド結合 特徴:・直線状構造をとり、糖鎖間で水素結合する
・ポリマー鎖が束状の強い集合体を形成するため強固な構造物となる
・大きな集合体形成のためセルロースは水に不溶
多糖:10 個以上の単糖が互いにグリコシド結合で結合した化合物
・末端1つを除いてヘミアセタールをもたないので非還元糖
・直線と分枝(分岐、枝分かれ)の多様な構造をとる
C1 C4
アセタール
β
β-1,4-グリコシド結合 O O
HO
CH2OH H
HO H
O O HO
CH2OH H
HO H
O O O
HO
CH2OH H
HO
H セルロースの
電子顕微鏡写真
24-12:デンプン p1464
デンプン 穀類(小麦粉、米、トウモロコシ、ジャガイモなど)の構成成分
・グルコースのみで構成
・2つの部分(アミロースと アミロペクチン)に分けられる
・a-1,4- または a-1,6-グリコシド結合
O O H
HO
CH2OH H
HO O
H OHO
CH2OH H
HO α
C1 C4 α-1,4-グリコシド結合
O O H
HO
CH2OH H
HOO アセタール
O O H
HO
CH2OH H
HO O
H OHO
CH2 H
HO α
α-1,4-グリコシド結合
O H OHO
CH2OH H
HOO O
O H HO
CH2OH H
HO O
H OHO
CH2OH H
HO α
O C1
C6
α-1,6-グリコシド結合 α
分枝点(分岐点)
特徴:・アミロペクチンは分枝構造(枝分かれ構造)をとる
・立体構造の違いにより、アミロースはらせん形ポリマー構造を形成
・両方とも熱水には溶けるが、アミロペクチンは冷水に不溶 アミロース(〜20%)
アミロペクチン(〜80%)
24-12:グリコーゲン p1464
グリコーゲン 動物性デンプン、動物の体内でエネルギーを貯蔵する役割
・グルコースのみで構成
・a-1,4- または
a-1,6-グリコシド結合
・分子量巨大(1億程度)
特徴:・分枝構造をとる(アミロペクチンよりも分枝割合大)
・食物として摂取された炭水化物のうち、直ちに消費されないものが、
体内で長期保存用のグリコーゲンに変換される
グリコーゲンの構造(六角形はグルコース単位) α-1,4-グリコシド結合
α-1,6-グリコシド結合
24-12:細胞表面上の炭水化物 p1467
・細胞表面上に存在する糖鎖は細胞間の認識機構にシグナル分子として 重要な役割を果たす
・細胞膜内の脂質に結合した糖鎖を糖脂質とよび、
細胞膜内のタンパク質に結合した糖鎖を糖タンパク質とよぶ
糖脂質(スフィンゴ糖脂質) 極性基に糖を含む極性脂質で両親媒性分子 集合体を形成して脂質二重膜を形成する
グルコセレブロシド
脂質二重層の模式図
O HO
CH2OH
HO HO
H O
NH
OH O
OH 脂肪酸
スフィンゴシン グルコース
セラミド
親水性 疎水性
24-12:細胞表面上の炭水化物 p1467
糖タンパク質 糖のアノマー炭素がタンパク質側鎖とグリコシド結合を形成 N 結合型:窒素原子を介した N-グリコシド結合
O 結合型:酸素原子を介した O-グリコシド結合
糖タンパク質の糖成分は、タンパク質選別、免疫・受容体認識、
がん転移などの細胞内プロセスにおいて、重要な生物学的機能を果たす N 結合型
O 結合型
β O O
HO
CH2OH
HN H HN
O Me
O
NH O β-N-グリコシド結合
タンパク質
アスパラギン残基 N-アセチル-D-
グルコサミン
O HO
CH2OH O
HNO H
O Me N-アセチル-D- ガラクトサミン
NH O
セリン(X = H) または トレオニン(X = Me)
残基 X
タンパク質 α-O-グリコシド結合
α
発展:24-12 ABO式血液型と糖鎖 p1468
ABO式血液型は赤血球表面に存在する糖の種類により決定される
A型
O HO
CH2OH
HN O H
Me O O
CH2OH HO
H タンパク質
(Gal) O
O OHH
HOOH Me
O O
HO CH2OH HO
HOO
B型
O型
O HO
CH2OH
HN O H
O Me O
HO CH2OH HO
H タンパク質
O
O OHH
HOOH Me
O
GlcNAc Fuc
Gal タンパク質
GlcNAc Fuc
Gal タンパク質
Gal
GlcNAc Fuc
Gal タンパク質
GalNAc
AB型の血液は、A型とB型の両方の構造をもつ
N-アセチルグルコサミン(GlcNAc) O
HO CH2OH
HN O H
O Me O
CH2OH HO
H タンパク質
O N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)
O OHH
HOOH Me
O
フコース(Fuc) O
HO CH2OH HO
HNO
ガラクトース(Gal)
O Me